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海洋鉄散布による植物プランクトンの増殖と炭素固定量の評価

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Academic year: 2021

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主要な研究成果

背 景

当研究所はこれまで、外洋高栄養塩海域において、鉄の不足が植物プランクトンによる CO2固定の制御要因 の一つであることを明らかにしてきた。現在、外洋高栄養塩海域を鉄など微量栄養素で肥沃化し、大気中 CO2 の海洋への吸収を増加させることが、温暖化緩和策の一つとして注目されている。しかしながら、鉄散布に対 する海洋生態系の応答については未解明な部分が多く残されており、科学的な知見の収集が求められている。

目 的

南極海および北太平洋亜寒帯域において鉄散布実験を行い、鉄散布に対する植物プランクトンの応答と炭素 固定量を明らかにする。

主な成果

1.南極海および太平洋亜寒帯域における鉄散布実験の結果 2001 年∼ 2004 年にかけて、南極海および北太平洋亜寒帯域で約 100km2の鉄散布実験を 4 回行った(図 1) 実験の結果から、いずれの海域においても鉄の供給が植物プランクトンの増殖を促進し、鉄散布海域は大気 中二酸化炭素の吸収域となることが明らかとなった。実験結果を海域毎に比較すると、植物プランクトン応 答の速さ、増殖量、種類に大きな違いが見られ、北太平洋は他海域に比べ、鉄散布に対する植物プランクト ン増殖のポテンシャルが高かった(図 2)。また、植物プランクトンの増殖に伴う栄養塩の減少量、海水中 の二酸化炭素分圧の減少量にも大きな差が見られたことから(図 3)、実験毎に植物プランクトンに吸収さ れた炭素の量に差のあることが明らかとなった。 2.鉄散布に対する植物プランクトンの応答を制御する要因 各実験で生じた応答の違いを整理し、その要因を考察した。その結果、鉄散布に対する植物プランクトン の応答は、出現する植物プランクトンの種組成などの生物的要因や、混合層の深さなどの物理的要因、散布 した鉄の保持時間を支配する化学的な要因等、それぞれの海域に特有な要因に支配されることが明らかと なった。 3.炭素固定量の評価 各実験の結果より、鉄散布により植物プランクトンの増殖が促進された場合の炭素固定量を定量的に見積 もった(表 1)。下層に沈降し、炭素固定量として評価される粒子状有機炭素量は、植物プランクトンの光 合成によって表層混合層内で増加した炭素量の約 16 %と見積もられた。

今後の展開

植物プランクトン増殖と炭素固定効率に影響する要因を抽出し、各海域の鉄散布による炭素固定量をより正 確に評価する必要がある。また、長期間にわたって繰り返し鉄散布を行った場合の炭素固定量およびそれに伴 う環境影響について、海洋の循環を考慮して評価を行う必要がある。 主担当者 環境科学研究所 物理環境領域 主任研究員 芳村 毅 環境科学研究所 物理環境領域 主任研究員 津旨 大輔 環境科学研究所 旧・陸・水環境領域 主任研究員 西岡 純(現職:北海道大学) 関連報告書 「海域毎の鉄散布に対する植物プランクトン増殖の応答性の違いとその要因の検討」電力中 央研究所報告: V04033(2005 年 6 月) 「北太平洋における海洋鉄散布による生物的炭素固定量の評価」電力中央研究所報告: V04020(2005 年 6 月) 34

海洋鉄散布による植物プランクトンの増殖と炭素固定量の評価

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C.エネルギーと環境の調和

35 表1 各実験における観測日数、鉄散布量、有機炭素固定量の比較 *クロロフィルa値からの推定値、**全沈降粒子量からの推定値 西部北太平洋亜寒帯 実験1 東部北太平洋亜寒帯 実験 西部北太平洋亜寒帯 実験2 観測日数(days) 13 鉄散布量(kg Fe km-2) 4.4 26 6.1 26 6.3 炭素収支(g C m-2 = 10 kg C ha-1) 最大有機炭素蓄積量 粒子状有機炭素(%) 溶存態有機炭素(%) 13.0(13日目) 11.4(88%) 1.6(12%) 6.8(17日目) 5.5(81%)* 1.3(19%) 2.8(8日目) 2.5(91%)* 0.2(9%) 終了時混合層内蓄積量 13.0 粒子状有機炭素沈降量 0.5(4%) 1.0 1.1(16%) 0.1 0.4(16%)** 0 5 10 15 20 25 0 5 10 15 20 25 30 実験日数 植物プランクトン色素 Chl. a conc. (μg/L) 西部北太平洋亜寒帯域実験1 西部北太平洋亜寒帯域実験2 東部北太平洋亜寒帯域実験 南極海実験 図3 各海域における鉄散布に対する植物プランクトンの応答にともなう栄養塩(Nitrate)濃度と    二酸化炭素分圧(pCO2)の変化 SO expt. 200 250 300 350 400 Initial Min fCO2 μatm WSP expt.1 200 250 300 350 400 Initial Min fCO2 μatm ESP expt. 200 250 300 350 400 Initial Min fCO2 μatm WSP expt. 2 200 250 300 350 400 Initial Min fCO2 μatm 栄養塩(Nitrate)濃度(初期値と最低値) 二酸化炭素分圧(初期値と最低値) ESP expt. 0 5 10 15 20 25 ESP expt. 0 5 10 15 20 25 SO expt. 0 5 10 15 20 25 Initial Min Nitrate μM WSP expt.1 0 5 10 15 20 25 Initial Min Nitrate μM ESP expt. 0 5 10 15 20 25 Initial Min Nitrate μM WSP expt. 2 0 5 10 15 20 25 Initial Min Nitrate μM 各海域によって鉄の供給に対する植物プランクトンの応答の大きさが異なるため、栄養塩の消費量、二酸化 炭素分圧の減少量にも大きな差が見られた。 図2 各海域における鉄散布実験期間中の表面混合層の    植物プランクトン色素濃度の変化 西部北太平洋亜寒帯海域は植物プランクトンの増殖す るポテンシャルの高い海域であることが明らかとなった。 図1 鉄散布実験を行った海域 南極海で1回、北太平洋亜寒帯域西部 で2回、東部で1回の実験を行った。

参照

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