目 次 はじめに 第一章 第 1 節 第 二 節 第二章 第一節
シューマッハ-経済学とエネルギー主権
尾
開
エネルギー主権とは何か。 エネルギー安全保障とエネルギー主権 ピーク・オイルと代替エネルギー ^ H O ( 世 界 貿 易 機 関 ) と エ ネ ル ギ ー 主 権 エネルギーサービスの自由化 1第 二 節 第三章 第一節 第 二 節 第四章 第一節 第二節 おわりに 電力の自由化 エネルギー主権の危機 原子力発電と核拡散 ウラン需要とエネルギー自給率 エネルギー主権の復活に向けて 分散型エネルギー源のメリッー 地域主義とエネルギー主権
はじめに
日本の食料自給率は三九%、穀物自給率は二八%となり、昨今の穀物価格の暴騰の中で食料主権を維持出来ないと いわれているが'日本のエネルギー自給率は四%であり、国際経済の中でエネルギー主権という概念を放棄している 状態である.エネルギー自給率に原子力発電を含める場合は1九%とされるが'原子力発電の使用済核燃料を再処理 して猛烈な毒性と爆発性のあるブルーニウムを取り出し、これを再び原子力発電に使用してエネルギー自給を図る核 燃料サイクルの実現を前提にしている。しかし、この論理すなわち核燃料サイクルの経済学は、成り立つのだろうか。 ア リ ス -テ レ ス ( B C 3 8 4 B C 3 2 2 ) は ' 人 間 の あ ら ゆ る 売 買 活 動 を 二 種 類 に 分 類 し た 。 家 計 を 家を維持するための売買と、単純に利殖のためにだけ行う売買とである。アリス-テレスは前者を、家(oikos)の秩序 (nomos) の意味であるオイコノミア (oik書Omia︰家政管理法) と名づけ、後者をクレマティスティケ ( 1 ) ( c h r e m a t i s t i k m ⋮ 利 殖 術 ) と 名 づ け た . オ イ コ ス e c o t 家 ' 共 同 体 、 環 境 ) を 管 理 す る の が オ イ コ ノ ミ ア ( 経 済 学 ) で あ る . シ ュ ー マ ッ ハ -( 1 9 i r i 9 7 7 ) は ' 現 代 の 経 済 学 を 物 質 主 義 の 宗 教 と し て 批 判 す る 1 万 で ' 本 来 の 経 済 学 は ( 2 ) 人間を環境ぐるみで取り扱う学問であるとした。現代の経済学がクレマティスティケ (利殖術) になっていることを 批判しt ec呂omicsを人間と環境を含めたオイコノミアと理解していたためと考えられる。 核燃料サイクルの経済学は'オイコスを脅かすプル-ニウムの増殖を図るクレマティスティケであるといえないだ ろうか。ブルーニウムの核分裂能力に期待する余り、そのサイクルがもたらす長期的で魔大な放射能汚染や核兵器の 拡散が過少評価されている。イギリスのウィンズケールやフランスのラア-グのブルーニウムを取り出す使用済核燃 料再処理工場が、周辺海域と大気の大量放射能汚染を続けていることや'インドが使用済核燃料からのプルトニウム で核爆弾を作ったことは否定し難く、オイコスを管理する経済学の概念として核燃料サイクルを受け入れることは難 しい。核燃料サイクルの経済学はべネフィッ-に対してリスクとコズーが大き過ぎるのである。 エネルギー価格の暴騰や地球の温暖化の中で'経済学は厳格にオイコノミアの原義に立ち返る必要があるのではな かろうかOそれは、第1次石油危機(1九七三年) のころ、シューマッハIが主張したことであ渇.エネルギーのク レマティスティケに目を奪われて、オイコノミアを忘れてはならないということである。国際経済の中でエネルギー の安全保障を確保するためには'どのようなエネルギー主権が確立されなければならないかを'シューマッハ-経済 学の立場から検討することを課題としたい。 3
第一章 エネルギー主権とは何か。
第一新 エネルギー安全保障とエネルギー主権 エネルギー安全保障とは、将来に渡って国家や地域にエネルギーの安定供給を確保することを意味するが'政治不 安'技術問題や自然災害などに起因する価格変動や供給停滞に対し国家や地域の対応が難しく'エネルギー安全保障 の達成を難しくすることがある。世界の石油生産がピークを迎えたというピーク・オイル論や、原子力発電の拡大は 放射性廃棄物の累積だけでなく核拡散を招くという懸念によってエネルギーの安定供給が危ぶまれる今日、国家や地 域のエネルギー安全保障は、エネルギーの最終需要の規模と質を見直し'再生可能な自然エネルギーを含めた分散型 エネルギー源で自給を図るのが本茄であるというエイモリ-・ロピンズ (1947") のソフー・エネルギー・パスの主 張が見直されている。ソ7-・エネルギー・パスの概念は'需要の規模と供給の規模のミスマッチを指摘し'化石燃 料を自然資本として保存し再生可能な自然エネルギーを利用することを説いたシューマッハ-経済学に触発されてい る。 産業革命以前は、国家や地域には自然エネルギーによる自給自足によってエネルギー主権が自然と存在していたの であり'エネルギー主権は国家や地域の自然権と考えられるのである。エイモリ-・ロピンズは、産業革命後'石炭' 石油、天然ガス'原子力へと進み'集中化、大型化して来たエネルギー源の拡大をハード・エネルギー・パスと呼ん でいるが、自然なエネルギー主権は次第に失われることになったoロビンスの小うソフト・エネルギI・パスは、再 生可能な分散型の小規模なエネルギー源を使いこなすものであるから、自然権としてのエネルギー自給を回復することになる。 現代のエネルギー主権とは'第八回気候変動枠組条約締約国会議(二〇〇二年、ニューデリ⊥ において'国際ネ ッーワークであるオイル・ウオッチ(熱帯雨林保護など石油・ガスの採掘・輸送に反対する一二〇の環境団体) によ って提起された概念である。オイル・ウォッチは'地球温暖化とピーク・オイルに対処するためには'主権国家が' ( 4 ) エネルギーの資源、価格、配給を支配する必要を主張し'エネルギー主権を復活する次のような項目を挙げている。 ① 石油採掘免除地域の宣言。︰これはコスタリカの先住民族、地域住民による先例がある。オイル・ウォッチ は'油田開発が環境破壊をもたらすという立場であり'石油採掘を管理することをエネルギー主権と考えて いる。シューマッハ-経済学は'化石燃料を有限な自然資本として保存管理することを求めている。 ② 国家や国際機閲による石油産業の補助停止。︰これはIMFや世界銀行の融資を指している。オイル・ウォ ッチは'石油の増産ではな-補助金を廃止して生産を抑制する立場であり、シューマッハ-経済学の自然資 本の保護と一致している。 ③エネルギー過剰消費根絶と、最小限消費の保証。︰これは簡素な生活への移行を意味する。シューマッハ-経済学の簡素な生活様式への転換による省エネルギーや適正規模の消費という立場と一致している。 ④ 外貨収入源としての石油依存の停止。︰産油国の対外債務は、しばしば石油産業そのものから発生している。 オイル・ウオッチは'メキシコなどに典型的に見られた債務危機の原因を、安易な石油依存としている。 ⑤ 石油採掘を止めることは'地球温暖化の停止に貢献。︰オイル・ウオッチは、石油採掘の抑制による地球温 暖化防止を主張している。化石燃料の新たな大発見は'返って大規模な熟汚染に繋がるとしたシューマッハ -経済学と一致している。
⑥ 石油産業の環境的社会的インバクーの補償。︰オイル・ウオッチは'石油生産がもたらす環境的社会的イン バク-が補償されていないと主張している。シューマッハ-経済学は'自然の許容度を自然資本の一つとし て保護することを求めた。 ⑦ クリーンで分散的'再生可能、環境負荷の低いエネルギーの開発と利用。︰オイル・ウォッチは、石油に代 わるエネルギーとして原子力ではなく'風力や太陽熱'太陽光'バイオマスなどの分散型エネルギー源を考 えている。これは、シューマッハIやエイモリ-・ロビンスが提唱したところである。 これらの項目は、オイル・ウォッチの環境保護目的から主張されていることであるが'石油資源の半分が消費され てしまい'石油生産コス-が上昇を始めるピーク・オイルや石油消費の結果である地球温暖化の現実を視野に入れる ならば、急進的ではあるが十分に理解できる主張である。シューマッハIもピーク・オイルの仮説を受け入れており' 地球規模の熱汚染として地球温暖化に気づいていた.オイル・ウォッチのエネルギー主権は、シューマッハ-経済学 から出てくるものであるといってよいし、ロピンズのソフ-・エネルギー・パスを前提にしていると考えられる。 考えて見れば、産業革命以来、安い石炭や石油の輸入が、国家や地域のエネルギー自給を低下させる時代が長く続 いたが'化石燃料全体が世界的な生産ピークに達すると予想される時代となり、産業革命以前の国家や地域のエネル ギー自給が見直されているのである.食料自給と同様にエネルギー自給がなければ'国家の独立や地域の自立はない と考えられ、食料主権と同様にエネルギー主権も人間の自然権と考えられるのである。 しかし'インドやイラン、北朝鮮のように原子力発電によってエネルギー主権を確保しようとする国家が現れると、 核兵器の開発疑惑に始まり、オイル・ウオッチのエネルギー主権の概念とは異なった概念にぶつかる。確かに石炭や
石油、天然ガスの生産国の場合と同様に'自国の領域でウランを産出する場合は'原子力発電によるエネルギー自給 という選択肢が存在しているのであり'既に、核兵器の拡散防止条約に加盟していないインドは、核兵器保有と原子 力発電を進めているのである。しかし'このような形でエネルギー主権を行使することは、自然権といえるのだろう か。ウランを生産する国が'原子力発電と核兵器保有という特権を行使することは、ジョン・ロックの想定した自然 権とは正反対のものではないかと考えられる。 シューマッハ-経済学は、早くから原子力の平和利用という概念に疑問を提出している。これは主に使用済核燃料 の累積とブルーニウムを取り出すための再処理工場が結果として排出する高レベル放射性廃棄物の堆積という事実に よる。原子力の平和利用に依存するエネルギー主権は、オイコノミア (経済学) の概念として受け入れることは難し い核燃料サイクルを前提にしている。これは、自然権に基づくエネルギー主権とは正反対のものであり'国家や地域 すなわち共同体や環境に深刻な被害を与えるだけでなく、財政的な負担も大きいのである。 第二節 ピーク・オイルと代替エネルギー 一 シューマッハ-経済学から出てくるオイル・ウォッチのエネルギー主権も'原子力に依存する最近のエネルギー主 ( 5 ) 権 も ' 石 油 生 産 の ピ ー ク を 予 測 す る 地 質 学 者 キ ン グ ・ ハ バ ー ー ( 1 9 0 3 A 1 9 8 9 ) の ピ ー ク ・ オ イ ル の 仮 説 を 事 実 上 受 け 入れており'脱石油を目指している。一九五六年にキング・ハバーーは、世界中の油田を調査し、原油に関する知識 と経験をもとに、アメリカの原油生産のピークは一九七〇年頃に到来するという予測を示した。シューマッハIは' ( 蝣 蝣 -) この予測を受け入れ'世界の石油生産のピークも近いと考えていた。地下資源の採掘は'比較的採掘の容易なものか ら採掘が進み、生産コス-も低く抑えられているが'究極可採埋蔵量の半分くらいまで採掘が進むと次第に採掘の困 7
難なものが多くなり、生産コス-が上昇し'生産量は低下してくるのである。このため生産カーブは'ある時点をピ ークとして左右対称のベル・シェイプ (釣鐘状) を示すというのである。実際にキング・ハバーーの予測どおり一九 七1年に'アメリカの原油生産はピークを迎え'それ以降'アメリカの原油生産量は減少を続け'アラスカの油田を 加えることで一時的に下げ止まったものの'すぐにふたたび減少に転じてしまった。ハバーIの予測曲線は、有効だ っ た の で あ る 。 一九七〇年代の第一次'第二次石油ショックの頃、キング・ハバートの理論によるハバーー曲線を使い'世界の石 油生産のピークすなわちピーク・オイルが論じられた。アメリカの石油探査コンサルタンーだったC・B・リードは、 一九七五年に石油の究極可採埋蔵量 (=累積生産量+確認可採埋蔵量+発見期待可採埋蔵量) を二兆一〇〇〇億バー ( 7 ) レルと想定Lt ハバー-曲線を用いて世界の石油ピークを二〇一〇年と予測した。また、リードは、世界の石炭ピー クを二1五〇年へ世界の天然ガスピークは二〇二五年と予測し、再生可能エネルギーである風力や太陽熱、太陽光の 利用が進むまでは石油代替エネルギーとして石炭を考えた。これは'イギリスの石炭公社の顧問だったシューマッハ Iの主張とも一致していた。両者が石炭重視を次善の策としたのは、高速増殖炉の開発による核燃料サイクルのコス -とリスクが大き過ぎると判断したためである。ロビンスのソフ-・エネルギー・パスにおいても'移行期の化石燃 (且 料システムとして適性規模の高度の石炭利用技術を重要としている。 しかし、欧米や日本は、一九五〇年代から石炭から石油への転換を進め国内の炭鉱を閉鎖する一方'原子力発電を 開始して核燃料サイクルによるエネルギー自給を目指すことになった。第一次石油ショックの複は石油火力を石炭火 力や天然ガス火力に転換するだけでなく原子力発電に力を入れることになった。すなわち、ロビンスのいうハード・ エネルギーIパスを推し進めたのである。しかし'欧米でも日本でも高速増殖炉を用いた核燃料サイクルの実現は難
しく'ブルーニウムを軽水炉に用いるプルサーマルが推進されてきたが、コス-とリスクが大きく頓挫している。九 〇年代の電力自由化の中で、独立発電事業者による中規模のコンバインドサイクル天然ガス発電が、大規模な発電設 備に置き換わるようになっている。効率がよくコスーが格段に安いからで、規模の経済が運転してきている。 最近、再びピーク・オイルが論じられるようになったのは、一九九八年にブリティシュ・ペ-ロリウムの地質学者 o コ-リン・キャンベル (193「) が'ペ-ロコンサルタンツ社のデータ"<-スを基に石油の究極可採埋蔵量をl兆八 〇〇〇億バーレルと見積もり、ハバーー曲線を使い世界の石油生産がピークを越える時期を二〇〇五年と予測して発 ( S ) 表したためであるO日本でピーク・オイルを論じてきた石井吾徳 (1933-は'アメリカのW--<! エネルギー情報 ( n ) 局) の統計では'世界の原油生産量は二〇〇五年がピークと見ることが出来るとしており、これが適切ならば、コ1 3 順 E リン・キャンベルの予測は的中したのである。キング・ハバ1-は'世界の石油生産のピークを二〇〇六年と予言 したこともあり'コ-リン・キャンベルの一九九八年の予測とほぼ一致していた。これらの予測や予言は幅のあるも のだが、最近の石油価格の暴騰を見ると'単なる投機ではなく、ハバー-理論が再び的申したことが知られるように なったためと考えられる。ハバー-曲線は'究極可採埋蔵量の想定だけでなく、需要の伸び率によってもピークが変 わるので'予測は安定したものではないがへ地質学による発見期待可採埋蔵量の推計とベル・シェイプ (釣鐘状) の 生産曲線は'化石燃料の収穫逓減の法則となっている。 ( 2 ) 世界のピーク・オイルは、国際経済に大きな影響をあたえるので'「地球最後のオイルショック」とも呼ばれてい る。第一次第二次石油ショックの時と違って、石油火力は-W< (国際エネルギー機関) によって禁止されており、 石炭火力'天然ガス火力、原子力発電によって代替されてきた。しかし'これらの電力では、鉄道貨物からーラック や航空機中心となった貨物輸送部門のディーゼル燃料やジエッ-燃料の代替エネルギーになることは出来ず、石炭液 9
化などの輸送用の石油代替エネルギーはコス-高で実用化されていないため'昨今の石油価格の暴騰は、国内国外で の輸送コス-の上昇として国際経済を直撃している。ピーク・オイルに備えがなければ、国際経済に打撃となるオイ ルショックから進んで経済恐慌に発展する恐れもある。 地球温暖化防止の対策として二酸化炭素による温室効果が回避できるとして原子力発電が推進される一方、石炭を ガス化して完全燃焼させるクリーン石炭技術が開発されている。しかし'二〇〇七年にドイツのエネルギー.ウォッ ( 3 ) チ・グループなどが、世界の石炭ピークは二〇二五年というレポ1-を発表し、石炭もピークを迎えつつあること が予測されるようになったので、石油代替エネルギーとして石炭に頼ることが次第に出来なくなってきたことも重要 ( 3 ) ( S ) である。天然ガスも石油に続いて二〇二〇年頃にピークを迎えつつあるため、化石燃料ピークといわれようになって いるが'エネルギーの安全保障を確保するためには'EUや日本は、ロシアからの天然ガスに依存せざるを得ず、ま すますエネルギー主権を失っていく結果となっている。しかし'後述するように'効率的でコス-が安く低炭素な中 規模コンバインドサイクル天然ガス火力発電と競合しているのが'分散型エネルギー資源なのである。天然ガスは' ソフ-・エネルギー・パスの移行期のエネルギーと位置づけることが出来るのではなかろうか。 運輸燃料としては、植物をエタノールやメタノールに転換するバイオ燃料に期待が集まっているが、エタノールへ の転換効率のよい砂糖や-ウモロコシからのバイオ燃料を増産しているブラジルやアメリカの行き方は'食料問題を 犠牲にしたハード・エネルギー・パスといってよく'分散型エネルギー源としては、有機廃棄物をメタノールに転換 するバイオ燃料が考えられている。生ごみを廃プラスチックと一緒に焼却している東京都などの大都市の自治体が、 ピーク・オイルに備え'メタノールに転換する施策がなければならないが、当面する最後のオイルショックには間に 合わないと考えられる。
第二章 ^HO (世界貿易機関) とエネルギー主権
第一節 エネルギーサービスの自由化 ( 5 ) WTOは、自由貿易の原則に基づき農産物の自由化を進め、食料主権を掘り崩してきたことを先に論じた。同時 にWTOは「サービス貿易に関する一般協定 (O<lhォ)」によって'広範囲なサービス分野の自由化を進め'国内 法の規制緩和に影響を与えている。中でもアメリカが、二〇〇〇年にO<HO)にエネルギーサービスを含めることを 提案したことは大きい。その内容は'エネルギーの卸売、輸送(送電及び配電'パイプラインによる輸送並びに熟の ( 3 ) 移送) 及び小売に関連するサービスの垂直統合の分割であった。アメリカの主張は、エネルギーサービスの市場ア クセス、装置や部品の輸入障壁の撤廃などの自由化が挙げられていた。これに対するEUの提案は'エネルギーサー ビスの自由化として、エネルギー関連施設の建設'送配電のネッーワーク関連サービス'貯蔵サービス、エネルギー 供給サービス (卸売'小売)などを対象としていたので'基本的にはアメリカの垂直統合分割の提案を受け入れるも のとなっている。日本の提案は、「エネルギーの卸売、輸送 (送電及び配電、パイプラインによる輸送並びに熟の移 ( S ) 送) 及び小売に関連する﹃コア﹄エネルギーサービスを中心とすべきである」とし、卸売から最終消費に至るまでの 一連のエネルギーサービスのうち卸売'輸送へ小売を基本とする一方、エネルギー源別の個別交渉の余地を残し、エ ネルギーサービスが安全保障とも関連することの配慮を求め'対象とするエネルギー源は問わないものの'原子力に 関連したエネルギーサービスについては'原子力の平和利用や保障措置に係るため憤重な検討が必要とした。 アメリカのエネルギーサービスの自由化を機に成長した新興の独立電力事業者であったエンロン社は'日本の卸電 ll力市場にも参入して、青森県に二〇〇万肝のLNG火力発電所、山口県にl四〇万肝の石炭火力発電所を計画してい た。アメリカの提案の裏には、このような動きがあったが、二〇〇一年に粉飾決算でエンロン社は破綻したため計画 はご破算となったo アメリカの独立電力事業者は、数十万肝のコンバインドサイクル天然ガス火力発電に向かってい る時期で、この計画は、日本でなければ採算の取れないものだった。エネルギーサービスの自由化について'総論は 賛成だが、原子力は例外とする日本の立場は'ハード・エネルギー・パスを追及する姿勢を反映している。しかし、 原子力発電を含めずにエネルギーサービスを自由化することは、垂直分割とはいえないのである。総論賛成というの は、エネルギーの開発では先進的な技術を有する欧米や日本が'発展途上国に対してエネルギーサービスの規制緩 和・自由化を要請し、エネルギー関連の多国籍企業の活動をより円滑化することにつながるからである。しかしなが ら、自国の資源管理を重視する発展途上国が、エネルギーサービスの自由化を約束するケースは多いとは言えないの が現状であり、発展途上国もまたエネルギー主権を意識せざるを得なくなっているのである。 エネルギーサービスの自由化には、もともと賛否両論があった。米国は、完全自由化に積極的であったが、フラン スは電力、ガスの自由化には消極的で、石油については積極的であった。イギリスは、一連の規制緩和を経て自由化 に積極的な姿勢であった。日本では、エネルギー関連業界は自由化には消極的であった。しかし、日本の電力会社は' 公益事業として地域独占を許されてきたのであり、競争のないところで補助金を受けてハード・エネルギー・パスを 推進してきたことを見逃してはならない。エネルギーサービスの自由化は'公益事業として保護されてきたエネルギ ーの生産・流通・消費に市場原理を適用するものである。しかし'市場価格は、再生不能な財と再生可能な財を区別 しないLt 環境コズーも充分反映していないので、注意しなければならない。 シューマッハ-経済学は、経済財を第一次財と第二次財に区別し、第一次財を再生不能財と再生可能財に区別し、
( S ) 第二次財を工業製品とサービスに基本的に区別している。これで見るならば、化石燃料や核燃料は再生不能な第一 次財 (集中型エネルギー源の大部分) であり、風力や水力、太陽熱、太陽光'バイオマスは土地や空間と結びついた 再生可能な第一次財 (分散型エネルギー源の大部分) である。化石燃料や核燃料は、地球上に偏在しており'市場取 引の対象であるが、風力'水力'太陽熱'太陽光は地域と結びついて存在しており'市場取引の対象となることは通 常ない。エネルギー密度の高い再生不能な第7次財の利用に政府の補助金が与えられることが多いが'エネルギー密 ( 2 1 ) 度の薄い再生可能な第一次財の利用にこそ、ドイツの再生可能エネルギー優先権供与法のような政策的誘導が必要 である。またへ 発電設備や熟利用設備は、鉄鋼やセメン-、プラスチック'金属などを使っており'再生不能な第二 次財の工業製品である。設備の輸送・設置や廃棄物の輸送・処分も含めて考えれば、石油なしには成り立たない。設 備の生産コズーは'分散型エネルギー源である小規模な風力発電へ水力発電'太陽光発電の方が'集中型エネルギー 源である大規模な火力発電へ原子力発電、水力発電より量産効果が期待できると'エイモリ-・ロピンズによって強 調されているが、日本では家庭部門の小売市場が自由化していないので、量産効果が出ていない。 集中型エネルギー源によって生産された電力は、基本的に再生不能な第二次財であり'分散型エネルギー源によっ て生産された電力は、基本的に再生可能な第二次財であるといってよい。これら二つの第二次財の電力は、一つの送 電網や配電網で運ばれるが'欧米では'各家庭が発電方式を選んで電力を購入できるところまで'電力の自由化が進 んでいる。この電力の卸売・輸送・小売のサービスは商業でありやはり第二次財である。分散型エネルギー源のサー ビスは'地域や家庭が中心だが、集中型エネルギー源のサービスは、高圧送電網を使った遠隔地であることが多い。 再 生 不 能 財 で あ る 化 石 燃 料 や 核 燃 料 の 採 掘 ( 露 天 掘 り ' 海 底 ) ・ 輸 送 ( パ イ プ ラ イ ン 、 タ ン カ ー ) そ の も の が ' 森 林破壊'海洋汚染など大きな環境破壊を生んでおり、環境修復のコス-は、エネルギー価格に反映されているとはい 13
えない。その消費は炭酸ガスや放射性物質という大量の廃棄物として跳ね返る。事故の場合はさらに大きな被害が出 る。廃棄物の量は'既に自然の許容限度を越えており、炭酸ガスを削減し放射性廃棄物を処分するためのコスーは膨 大なものであるが'エネルギー価格に反映されて来なかった。これらの外部コス-を負担することなく、市場を牛耳 る少数の多国籍企業 (超国家的企業) が'再生不能財によって安い市場価格で大規模にエネルギーを供給しているの が 現 状 で あ る 。 エネルギーサービスの自由化が'排出権取引のop: クリーン開発メカニズム) などと結びついた場合、石炭を ガス化してから発電するクリーン石炭技術が、OP< 政府開発援助) として技術移転され、火力発電による安い市 場価格の電力がサービスされることになる。既存の石炭火力発電を置き換えるだけのこともあるが'返って地域の再 生可能財でエネルギーの供給をすることを望む住民の意志が無視されることも多い。そこでアグリビジネスに対する 食料主権と同様、オイル・ウオッチのようにエネルギーの多国籍企業とりわけ石油メジャーなどに対するエネルギー 主権が主張されることになる。また'発展途上国の住民の技術能力を超えた原子力発電がCDMと結びついてODA として輸出されることになると、先進国への技術依存を強めることになる。遺伝子組み換え農産物のモノカルチャー の場合と同じことが起こるのである。 オイル・ウォッチによるエネルギー主権の主張は'新自由主義を後押しする石油メジャーが熱帯雨林破壊の元凶で あるという認識から出ているが'化石燃料と核燃料による熱汚染を問題とし'再生可能なエネルギーへの急連な移行 を提案し'簡素な生活を説いたシューマッハ-経済学との関連が深いと先に述べた。オイル・ウォッチは'通常の環 境コス-という概念から一歩進んで'石油メジャーなどが負っている環境債務という概念を提起している。これは 化石燃料や核燃料の採掘・輸送・生産・消費・廃棄物処分から発生する損害が支払われていないことをいっている。
海洋の島峡諸国は、炭酸ガスと熟汚染による地球温暖化の停止を求めており'オースーラリアやカナダの先住民が' ウランの採掘による放射能汚染を訴え'イギリスやフランスの使用済核燃料再処理工場周辺の海洋放射能汚染が報道 される中で'これ以上'市場価格に反映しない環境債務の累積は許されないのである。 第二節 電力の自由化 エネルギーサービスの自由化の中心となっているのは、電力の自由化であるが'二〇〇〇年のアメリカの提案とは 別に、EUは独自に1九九七年に電力自由化の基準として、二〇〇三年までに加盟各国は電力市場の三三%を自由競 争市場に移すことと定めた。これを契機に加盟各国は電力自由化を促進し'二〇〇四年にはほぼEU全域で家庭部門 を除き自由化され'発電と送電のアンバンドリング(発電部門と送電部門を法人格上分離する方式)も義務づけられ、 発電・送電・配電各社の民営化や再編などが行われた。二〇〇七年には家庭部門を含めた完全自由化となった。 アメリカのエネルギーサービスの自由化提案に先立ち日本では、l九九五年に電気事業法が改正され卸電力市場が 自由化され'発電部門に新規参入を認めることになった。二〇〇〇年には小売電力市場が部分自由化されたのも、ア メリカの要請やEUの動きに対応するものだった。始めは最大電力使用量二〇〇〇肝以上の需要家に電力をどこから 買うかという選択権が与えられたが、二〇〇四年には五〇〇肝以上に下がり'二〇〇五年からは五〇肝以上、つまり コンビニ程度のクラスまで自由化され、全体の七割程度が対象になった。しかし、二〇〇七年に予定されていた家庭 部門の自由化は見送られてしまった。資金とエネルギー技術をもっている鉄鋼会社・ガス会社・石油会社などが新規 参入し、特定電気事業者として現在九社が動いている。諏訪エネルギーサービスは、諏訪ガス他八社が出資して設立 された国内第三号の特定電気事業者で、三〇〇〇肝のガスタービン・コジェネレーション・システムを諏訪赤十字病 15
院と老人保健施設に近接して建設し'その需要に自らの発電送電配電設備で応じている。これは'分散型エネルギー 源といってよい小規模発電設備であるが'アメリカだけでなく日本でも数十万肝の中規模のコンバインドサイクル天 然ガス発電が増加している。 一九九八年から電力完全自由化を開始していたアメリカでは'競争激化のため送電システムの管理・計画的更新が おろそかになり'二〇〇〇年にカリフォルニアで大停電が発生し、産業や都市交通など人々の生活に多大な影響を与 えるなど安定的な電力供給について大きな課題が浮き彫りになった。これを教訓として、家庭や地域では風力発電や 太陽光発電'バイオマス発電による分散型エネルギー源で自給し、余った電力を電力会社に売電するようになった。 また'電力会社を選択して買電するようにもなった。これらは'ソフ-・エネルギー・パスの追い風となったのであ る。 採算性を追求する電力自由化が引き寄せる原子力発電の重大事故の危険性を指摘する意見もあるが、市場競争でコ ズー高の原子力発電が止められるとする意見もあるo ロピンズも「米国にある九八〇〇万肝の原子力発電設備のうち 三分の1以上については'このようにして経済的な視点から廃棄への道が整うようになる。競争の圧力が高まりへ安 ( 2 3 ) 全性の審査が進めば'その動きは加速されるだろう」といっている。しかし、ハード・エネルギー・パスも負けては おらず、東芝 」K (ウェスチング・ハウス) グループt GE (アメリカ)・日立製作所グループ'三菱重工・アレ バ (フランス) グループの三グループに集約された原子力発電関連の多国籍企業は、原子力発電で化石燃料を置き換 えることを目標とし、エネルギーサービスの自由化を背景に排出権取引のOQ^ (クリーン開発メカニズム)をo° Aによって進め、発展途上国での原子力発電建設を計画している。しかし'冷却水として海水を用いる原子炉周辺の 海域の温度の上昇は顕著で、生態系の変化が数多く報告されている 'W<5 (国際エネルギー機関) などは'原子力
発電の発電効率を火力発電の三三%と同じと想定しているが'冷却しなければならない廃熱は、どう考えても原子力 発電の方がはるかに大きく、発電効率は地熱発電の想定であるl〇%と考えても高過ぎるのではなかろうか.また' 日本の場合、発電電力量の三〇%が原子力発電で火力発電が六〇%なので'原子力発電で置換するには、現在の五五 基の原子炉を三倍増しなければならない。世界的にハード・エネルギー・パスを追及すれば'二〇〇七年現在三八ヶ 国に存在する四四二基の原子炉を何倍にも増やす結果になる。この結果'ハード・エネルギー・パスは、海洋や河川 の熟汚染による温噴化と異常気象を引き起こすことになるのである。 地球温暖化は、炭酸ガスによる温室効果と説明されているが、野菜のハウス栽培では温室の中で石油ス--プを焚 き温度を上昇させるのが普通である。ハード・エネルギー・パスは'石油ズー-ブを原子力の電気ズー-ブに取り替 えるだけで熱汚染は進むのである。国際経済は、二〇〇一年の再生可能エネルギーに関するEU指令のようにへ電力 の完全自由化によって、熱汚染がなく炭酸ガスや放射性廃棄物のない再生可能エネルギーの比重を高める必要に迫ら れている。また'分散型エネルギー源の普及によって、これまで石油メジャーによって牛耳られてきた発展途上国の エネルギー主権を回復する必要にも迫られているのである。
第三章 エネルギー主権の危機
第r節 原子力発電と嶺拡散 エネルギー主権は、分散型エネルギー源によってエネルギー自給率を高めることであるといってよいことが次第に 明らかとなって来たが'ウラン産出国が原子力発電を開発してエネルギー自給率を高め、エネルギー主権を確保しよ 17うとする立場は成り立つのだろうか。シューマッハIは、核兵器の拡散を恐れるアメリカやソ連やイギリスが、原子 ( 2 4 ) 力産業を広めて核兵器を製造できる政策をとったのは不可解であるとした。また、エイモリ-・ロビンスはへ 「原子 力発電は核拡散の潜在規模を同時に何十倍にも拡大し'そして魅力的な核拡散の方法のバラエティを'とてつもなく ( 2 5 ) ふやす核燃料サイクルの発展を必要としている」と述べている。原子力発電と核兵器の開発とは、そのプロセスが相 互に交換可能で、核兵器の開発を行わないという保証は'その国家の利益だけなのである。 アメリカはイランが核兵器開発を目指していると疑っているが、現状ではイランが行っているのは通常の軽水炉用 の核燃料を作るためのウラン鉱石精製とウラン濃縮に過ぎないようだ。発電用の核燃料を作るには核分裂性のウラン を三∼五%まで濃縮させれば済むが'核兵器の開発には九〇%以上の高濃度まで濃縮するか、核分裂後の使用済核燃 料を再処理してプル-ニウムを抽出する必要がある。ウラン濃縮にしても'プルトニウム抽出にしても、平和利用と 宣 言 し > < ; w < ( 国 際 原 子 力 機 関 ) に 報 告 し て 進 め る こ と は 2 ; f l h H 核 兵 器 不 拡 散 条 約 ) に 違 これらの技術の開発をHH<W<への報告なしに進めたため'核兵器開発の意図があると疑われたのである。イランは 態度を改め、 <H<の査察を受け入れることになり、<<H<は今のところ'イランの計画を核兵器用とは断言し ていない。イランは、なぜ疑惑を招いても核開発を進めるのだろうか。イランは自国の石油資源を温存するため、自 国のウランを使った原子力発電を行いたいことと、軍備競争の中で核兵器の開発がもっとも費用対効果が大きいこと を知っているからだと考えられる。 一九七四年に'カナダとアメリカの援助による原子力発電からの使用済核燃料を再処理して抽出したプルトニウム で核実験したインドは、NPTに加盟していない。一九九八年にも核実験しているが、これも使用済核燃料から抽出 されたブルーニウムによると考えられる。アメリカは、ウランや原子力技術・機器の輸出規制を行ってきたが'二〇
〇五年にインドとの間で完全な民生用原子力協力で合意した。アメリカは、ウランの提供と引き替えに'大量破壊兵 器拡散防止面でのインドの協力を得ると同時に'アメリカの原子力産業の市場を確保するためと見られている。日本 は核兵器を保有するインドに対し'民生用原子力利用への協力として'日本企業が原子力発電所建設などに参入する ことを容認する方針である。日米の原子力産業は一体だからである。核拡散の問題を置き去りにして'ビジネスの論 理が優先している >-<ォ:w<t:によると'インドにおける原子力発電量は二〇〇六年から二〇三〇年までに八倍に増加 し、同国の電力綱の二六%に達すると予測されている。インドには二〇〇六年現在一五基の原子炉があり、二〇一〇 年までに八基が建設中であるが'二〇一〇年から二〇二〇年までに二三基が計画されている。このような大規模な拡 大に対してウランの自給は難しく輸入を拡大せざるを得ず'ウラン資源や原子力技術では外国依存を深め、エネルギ ー主権を後退させている。 インドのナルマダ川流域の巨大ダムによる水力発電事業は、住民の反対で工事が進まず'完成後の電力価格はかな り高くなると見られている。シューマッハ-・カレッジのサティシュ・クマールは 「政府の技術者や企画者たちは' 大きな機械や巨大ダムなどの大掛かりな計画を好む。なぜならそれらは巨額な金を動かすからだ。しかし'インド西 部のナルマダのダム群のような大規模ダムのプロジエクーのすべてにおいて明らかなように、多くの地元住民たちが 強制移住させられ、何千という木々が水没させられ'部族文化は破壊され、景観そのものが変形させられる。これに ( 2 6 ) 対し'ここサリスカにあるような小規模ダム群は低コスIで、景観を良くして人々を都市から地方に呼び戻す」と 述べ'水力の利用におけるハード・エネルギー・パスとソフ-・エネルギー・パスの違いを浮き彫りにしている。原 子力発電所は広大な敷地と、海域や河川の占有を必要とするだけでなく、大きな費用を掛けて広いインドに巨大な高 圧送電網を引かなければならないので'再生不能な資源である景観を破壊する巨大ダムによる大規模水力発電と同じ 19
く'住民の負担は大きくなるのである。 北朝鮮の核開発問題に関する六ヶ国協議において、アメリカと日本は二〇〇五年に、北朝鮮政府の核廃棄を前提に 韓国政府が北朝鮮に二〇〇万肝の電力を送電するという共同提案をした。しかし、北朝鮮は「対北送電はありがたい ( 2 7 ) が、軽水炉を断念することはできない」 と答えた。韓国からの送電は'北朝鮮のエネルギー主権を韓国に渡すもの だというのである。原子力発電 (軽水炉) は'外国から提供される火力発電用の重油や、韓国が与える電力と違い、 国産の核燃料 (濃縮ウラン) によって北朝鮮が自主的に稼働を管理できる。 owoQによれば'世界のウランの確認埋蔵量(回収コス-一三〇米ドル/廃り以下) は'二〇〇五年現在四七四 育-ンで、オーストラリアが一一四万トン'二位がカザフスタンで八一万トン'三位がカナダの四四万トン'四位が 米国の三四万トンである。これには含まれていないと考えられる北朝鮮のウランの可採埋蔵量は、韓国統一院と日本 ( 2 8 ) 原子力産業会議によって四〇〇万-ンと推計されている。この推計の中身は明らかでないが、北朝鮮が大きなウラン 資源国であることは間違いない。北朝鮮の発電は水力と火力発電が半々で原子力発電は小規模だがブルーニウム回収 の容易な黒鉛減速炉が三基存在する。ウランは自給可能で大量の備蓄があり、燃料棒は一〇〇%自国生産しているの で'経済制裁によって北朝鮮の原子力発電と核武装の計画を阻止するのは困難である。 北朝鮮はこれまで'主にブルーニウムを利用した核兵器開発を推進してきたが'一九九四年の米朝枠組み合意によ り黒鉛減水炉を止め、韓国と日本の援助で軽水炉が提供されることになった。しかし、北朝鮮は高濃縮ウランを利用 した核兵器開発を進めたため二〇〇三年に軽水炉建設が中止されると'二〇〇五年にはZfcH (核拡散防止条約) から脱退し、二〇〇六年一〇月には予告していた核実験を強行した。朝鮮戦争は終わっておらず、休戦という冷戦が 続いているのである。核実験の費用対効果は大きく'二〇〇七年三月の米朝合意では、北朝鮮は米軍による核施設空
爆破壊も核施設自主解体も免れて核施設を温存し、重油一〇〇万-ンを援助として手に入れた。日本と韓国の安全保 障に非常に重要であった北朝鮮核施設の解体とミサイルの解体は実現しなかった。北朝鮮は核武装によって冷戦を維 持し'原子力発電を継続することでエネルギー主権も維持したのである。しかし、財政的には大きな負担であり'国 内経済は停滞している。 イランへ インド、北朝鮮の例から、ウラン産出国が原子力発電を進め'ブルーニウムを利用した核兵器を開発する ことは'費用対効果が大きいと期待できるので'交渉や経済制裁で阻止することは出来ないことが分かる。一万㌧ ウ ラン輸入国の核兵器開発は'ウラン輸出国との原子力協定が核拡散防止を詣っているので必ず輸出規制を受け原子力 発電を維持することが出来なくなってしまう。使用済核燃料を再処理しウランやブルーニウムを回収して再利用する ( 8 ) プルサーマルのMOX燃料の値段は'天然ウランからの核燃料の約二二・五倍であり、こんなに高い燃料を使用する ことは大変な負担で、再処理によるウラン輸入代替は困難である。使用済核燃料の再処理は採算のとれないリサイク ルの典型で、ブルーニウムを使った核兵器の開発の場合しか費用対効果は期待できないのである。 第二節 ウラン・ピークとエネルギー自給率 ウランの国際価格が高騰し続けている。天然ウランの場合スポッ-価格で'今までになく低かった二〇〇〇年末の 一ポンド (四五四g) 七ドルから上昇を始め'一〇ドル前後で取り引きされていたが'二〇〇四年三月頃から価格が 急上昇。二〇〇七年六月には二二六ドルを記録した。二〇〇七年末九〇ドルまで値が下がったものの、その後も七〇 -八〇ドル前後の高値で推移している。ウラン価格は二〇〇〇年末から一〇倍値上がりしたのである。二〇〇五年の 石油ピークに対して原子力発電が代替エネルギーとして有力硯されウランへの投機資金が価格をつり上げた面もある 21
が、有限なウラン資源の供給には収穫逓減の法則が働き、ハバーー曲線を適用すればウラン・ピークが存在すること も背景にある。 ( S ) ドイツのウラン・ピークは1九九〇年で、現在の国産ウラン価格は国際価格の三倍である。スウエ」デンは1九 六九年、イギリスは一九八一年、フランスは一九八八年'アメリカは一九八〇年がウラン・ピークで、これらの国で は新たな国内鉱山の開発は見込めず既に国産ウランはゼロないし減産となっている。現在はドイツを含め、これらの 国はウラン輸入国であり原子力発電はエネルギー自給には役立っていない。カナダは最大のウラン輸出国であるが、 二〇〇一年にウラン.ピークを迎え、新たな開発には一〇年以上掛かると見られている。価格高騰の背景には、二〇 〇一年一〇月のオース-ラリアのオリンピックダム鉱山の精錬工場の火災に始まる減産'二〇〇三年四月のカナダの マッカーサーリバー鉱山の坑内出水事故による減産、ナミビアのロッシング鉱山の減産などが相次いだことも大きく、 二〇〇三年の世界のウラン生産は約1割も減少したのである。また'1九九五年から開始されていた解体核兵器派生 ウラン購入に関する米ロ間協定が二〇三一年に終了し'欧米の過剰在庫もほぼ同時期にはなくなると予想される一方、 中国やインド、ロシアなどの需要増加が見込まれていることなどがある。 ( 3 2 ) ドイツのエネルギー・ウォッチ・グループは、世界のウラン・ピークを二〇三五年と予測している。これが最後 のウラン・ショックとなるとすれば、第一次石油ショック 二九七三年一〇月) からスリーマイル原発事故 二九七 九年三月)までのウラン価格高騰(約一〇倍)が第一次ウラン・ショック、今回(二〇〇〇年末から二〇〇七年六月) が第二次ウラン・ショックということになろう。 オース-ラリア'カザフスタン'カナダなどの大輸出国に限らないがウラン輸出国はこれまで'輸入国がNPT (核兵器拡散防止条約) に加盟していることとt HH<W< (国際原子力機関) の保障措置を受け入れることを条件に
ウラン鉱石を輸出してきた。インドはNPTに加盟していないため、インドへのウラン輸出の是非をめぐって論争が あったが、二〇〇五年アメリカとイン下が民生用原子力協力に合意したことで、米印原子力協定が成立すればインド へのウラン輸出を可とする方向となった。 また同様に、軍事利用への懸念から中国へのウラン輸出も難しかったが'二〇〇七年一月、オースーラリアは「軍 事転用防止」という条件を盛り込んだ対中ウラン輸出協定を批准した。これにより中国は'オースーラリアから天然 ウランを輸入できるようになった。中国は、十一基約八七二万肝の原子力発電所を保有しているが'二〇二〇年まで に三〇基三六〇〇万肝程度拡大する計画である。中国は、カナダ、カザフスタンにもウラン輸出を求めている。既に 核兵器保有国である中国とインドは、国産ウランがあるので軍事用には困っておらず'ウランを輸入して原子力発電 を拡大するのが目的であり、エネルギー自給にこだわっていない。 二〇〇七年九月にはオースーラリアとロシアとの間に原子力平和利用協定が調印され、ロシアへのウラン輸出が可 能となった。ロシアはオーストラリアからのウランのほとんどを加工し低濃縮ウランとして日本に輸出する計画であ る。最大のウラン資源国であるオース-ラリアでは'自由党・国民党政権がウラン輸出に積極的であった一方で、労 働党が政権をとっている州の政府は'新規のウラン鉱山開発を認めない政策をとってきた。ウラン鉱山開発は、それ 自体大量の放射能汚染を斎すものだからである。ところが二〇〇七年二月に連邦政府の政権についた労働党はウラ ン輸出に積極的で、新規ウラン鉱山開発を禁止する労働党の綱領も撤廃してしまった。オースーラリア以外のウラン 産出国も、NPT加盟にこだわらず核拡散に繋がる輸出を拡大する方向となってきた。 この状況に対し、二〇〇四年一〇月 蝣<w<のエルバラダイ事務局長が「核燃料国際管理構想」を提唱し'二〇〇 六年一月には、ロシアのプーチン大統領が「ロシアに核燃料国際センター構想」を提唱した。同年二月アメリカのブ 23
ッ シ ュ 大 統 領 が 「 O S W O h ( 国 際 原 子 カ バ ー -ナ ー シ ッ プ ) 構 想 」 を 発 表 し た 。 ア メ リ カ の 構 想 ( o z ー ー ナ -シ ッ プ 国 ( 米 ' 目 、 仏 、 英 、 ロ ' 中 な ど を 想 定 ) が 新 し い 濃 縮 ・ 再 処 理 技 術 及 び 高 速 増 殖 炉 を 開 ナ-シップ国以外の国は濃縮・再処理技術を放棄Lt パー-ナ-シップ国から核燃料をリースして発電のみ行い'発 電後に生じる使用済核燃料をパー-ナ-シップ国に返還する。パー-ナ-シップ国は、発展途上国のニーズに応じた 原子炉の研究開発へ導入協力も行うことになっている。ロシアの構想も同じ枠組みで、使用済核燃料の再処理と最終 処分をロシアが引き受けることになっているので具体的である。いずれも核拡散を防止しながら核燃料サイクルを国 際協力で実現しようというものである。しかし、パー-ナ-シップ国以外は核燃料サイクルによるエネルギー主権を 放棄しなければならないのである。 これらの構想が実現すれば'ウラン輸出国は核拡散の心配なくウランの開発と輸出を行うことができるが'問題は 多い。「ウラニウムを採掘するとラドンガスが発生する。ラドンガスは非常に毒性があり危険だ。空気より七倍重い ために、大気圏外に出てい-ことはないOラドンガスは三・八日の半減期の間に大気中を1000血以上移動する可 ( 3 3 ) 能性がある」のである。核燃料サイクルの起点はウラン鉱山の開発であり、終点は使用済核燃料の再処理によって発 生する高レベル放射性廃棄物の最終処分で透る.初めから終わりまで放射能汚染が避けられない。繰り返されてきた 核実験によって大気中の放射能レベルはかなり高-なっているが'原子力の平和的利用が日常的に放射能レベルを上 げているのである。この環境債務をウラン鉱山や電力会社が支払っていないことは、炭酸ガスの環境債務を石炭へ石 油、天然ガスの会社や電力会社が払っていないのと同様である。すべては消費者に責任が押し付けられている。しか し、消費者には選択の自由が与えられて来なかったのである。エネルギーの自由化や電力自由化が行われるようにな ったのは最近のことで'日本では家庭部門の電力自由化は見送られてしまった。
第四章 エネルギー主権の復活に向けて
第一節 分散型エネルギー源のメリット ハード・エネルギー・パスは'膨大な資金を投じても全く不確実でリスクの大きいものであることが次第に明らか になってきた。二〇〇三年電気事業連合会は'一年間で八〇〇-ンの使用済核燃料を処理することになっている日本 の青森県六ヶ所村の再処理工場の総費用は、一九九三年の着工から今後四〇年間l OO%稼動という想定で約十一兆 円と公表している。この中には、再処理後に発生する高レベル放射性廃棄物の超長期に百一る管理費用は含まれていな いと考えられるo これは100年、l OOO年に及ぶため非常に大きくなると考えられるのである。また'日本では 一年間に一〇〇〇-ンの使用済核燃料が発生し、既に堆積しているものもあるので'すぐに次の工場の建設に取り掛 からなければならないC これらのコスIは、電気代に上乗せされるか税金で賄われてきたのであり'今後もそうであ る。すなわち、核燃料サイクルは、消費者に大きな負担を残すのである。これは核燃料サイクルを国際化しても変わ らないのであり'返って核燃料や使用済核燃料をあちこち輸送するコス-とリスクが増大するだけである。 シューマッハIは、現代の工業は資源の利用効率が極めて低いと指摘すると同時に、資源の中でもエネルギーの重 要性に着目Lt化石燃料を自然資本として保存Lt 所得としての燃料 (再生可能なエネルギー) である水力'風力' ( 3 ) 太陽エネルギーなどの比重を高めることを求めた。エイモリ-・ロビンスはこれに触発されて'アメリカのエネル ギー最終需要を熟力学的に分析し'エネルギー利用効率を引き上げることと再生可能なエネルギーの利用で最終需要 の規模と質に見合った供給を賄うことができることを見出した。ソフ-・エネルギー・パスである。そして'その移 25 \ \ \ \vco-J 行期間を一九七五年から二〇二五年の五〇年と想定するシナリオをl九七七年に描いた.実際にアメリカのエネル ¥co) ギー消費量は'このシナリオの軌跡とほぼ一致しており'エネルギー利用の効率化が進んできた。第一次石油ショ ック以来'原油や鉄鉱石の値上がりが自動車産業を直撃してきたが、複合材料による軽量化によって自動車のエネル (S) ギ-利用効率が上昇してきたのが良い例である。エイモリ-・ロビンスの提唱するハイパー・カー(炭素繊維強化 複合材料による超軽量化)もこの流れの中にある.ロピンズはエルンズー・ワイツゼッカー(1939)とともに「フ COOl! ァクター4︰豊かさを二倍に、資源消費を半分に」という概念によって、エネルギーと資源の利用効率を四倍上げ る資源生産性の向上を提唱し、ハイパー・カーだけでなくパッシブ・ソーラー・ハウス'グリーンビルディング、省 エネ家電'滴下濯慨など沢山の事例を挙げている。既に普及しているものも多く'資源生産性が極めて低いというシ ューマッハIの指摘は'エネルギー生産性の四倍化'物質生産性の四倍化'輸送生産性の四倍化の事例の普及によっ て克服されつつある。シューマッハ-経済学は着実に前進しているのである。 シューマッハ-経済学の核心の一つに規模の問題があり、エネルギーの需要の規模と供給の規模のミスマッチを指 摘している。アメリカでは電力自由化に伴い'集中型の大規模設備から分散型の小規模設備へという電力事業の劇的 変化が現れているのは、この間題である。エイモリ-・ロピンズのロッキー・マウンテン研究所は大著「スモール・ (3 9) イズ・プロフィタブル︰分散型エネルギーが生む新しい利益」において、大規模な集中型エネルギー源から小規模 な分散型エネルギー源へ転換するメリッ-を二〇七件も挙げている.集中型の大規模設備とは、lOO万肝クラスの 火力発電や原子力発電、大規模な水力発電や地熱発電、大規模な揚水ダムや熱電併給システムを指している。ハ ド・エネルギー源と呼ばれるものであるO中規模設備とは'数十万肝クラスのコンバインドサイクル天然ガス発電、 ヨーロッパ型熟電併給システム、大型水力発電のタービンと発電機を改良したものを指している。大量生産されてい
るジエッ-飛行機のエンジンを転用したコンバインドサイクル天然ガス発電は、発注、建設、運用開始に二年しかか らないので'集中型の大規模設備を駆逐して一九九六年から二〇〇五年のアメリカの新設電力の半分を占めた。 このコンバインドサイクル天然ガス発電と競合して成長しているのが分散型エネルギー源と呼ばれる小規模設備な のである.分散型エネルギー源とは、数肝-十数万肝の燃焼タービン、数千肝のバイオマス熱電併給システムでパル プ'製紙'家具へ製材などと併設'五〇〇〇肝までのディーゼル'二〇〇〇l二〇〇〇肝の小規模水力発電、波力発 電'HOOO肝程度の太陽熱発電'太陽光発電、---O肝程度の風力発電'天然ガスを使う燃料電池、100肝の 小型エンジン発電機などで、ソフ-・エネルギー源とも呼ばれるものである。家庭用電力がl・五肝、商用電力が1 二肝を超えない場合が多いときに、TO〇万肝や数十万肝の発電能力は必要なく'末端の消費にマッチした数千即の 小規模設備で、燃料コス-の掛からない所得としての燃料(再生可能エネルギ⊥を組み込むことが'環境の面から も最も安くつくことが次第に明らかになってきたのである。モジュール化されたユニッーでは'一日で設置できる。 分散型エネルギー源のメリッ-として、「l般的にいって建設期間が短いため、現実が予測からずれてい-時間が少 ( 3 ) なく、したがってへ過小建設や過剰建設の確率へ つまりはその財務リスクが小さくなる」 (メリットこ ことが第一 に挙げられているほどである。エイモリ-・ロビンスが一九七六年にソフ-・エネルギー・パスとして具体的に提起 したことが、三〇年後の電力自由化の中で現実となってきたのである。プッシュ大統領のエネルギー政策はハード・ エネルギー・パスだが'市場の論理はソフ-・エネルギー・パスに向かっているのがアメリカの現実で、アメリカの エネルギー主権は地域で復活する方向に向かっているのである。 27
第二節 地域主義とエネルギー主権 分散型エネルギー源は'地域の自立や小国の主権を重んじる地域主義と結びついて発展している。ヨーロッパの小 国では早-から分散型エネルギー源に進んでおり、分散型発電設備(分散型ディーゼルとガスタービン'系統指令に 無関係なコージェネレーション'再生可能エネルギーなど) で見てみると'一九九七年の時点で、デンマーク'オラ ンダは全電力設備容量の二八・〇%、ポーランド'ベルギーは一五・〇%、三二二%、オーズーリアは二一三%' ( 3 ) イギリス'スペインは八・七%'八・〇%'ドイツは七・五%が分散型発電設備であった。その後の一〇年間に、ヨ ーロッパの小国とドイツの再生可能エネルギーの飛躍的増大があった。二〇〇五年の一次エネルギー中の再生可能エ ネルギーの比率は'ラービア三六二二%、スウェーデン二八・五%、フィンランド二三二一%、オース-リア二〇・ 五%であった。ドイツは四・六%であったが、ハード・エネルギー・パスを自ら放棄したドイツでは、電力自由化と 再生可能エネルギー法もあって分散型エネルギー源の普及が進んだのである。中でも目覚しく拡大して世界一となっ 3 弼 E た風力発電は10年間でl O倍以上、日本を抜いて世界lとなった太陽光発電は二〇倍増加した.いずれの場合も、 地域住民が中心となり'地方自治体も参加するものが大半であった。これは'石油や原子力に依存してきたドイツが' 自然権としてのエネルギー主権を地域から復活することに役立っていることは間違いない。 インドや中国の石油'ウラン輸入の拡大が見込まれており、その動向は世界のエネルギー需給に大きな影響を与え るのは先に述べた通りであり、多数の原子力発電や'ナルマダ・ダム、三峡ダムのような集中型大規模設備によるハ ード・エネルギー・パスが国家的エネルギー政策となっているが'分散型小規模設備も普及をはじめている。広い国 土の地域では'直接に分散型小規模設備によって需要を満たす方が'投資の規模も小さく雇用も生まれるのである。 「小さな発電プランーは地域への影響が少ないために'住民の反発によってプラン-の設置がさらにむずかしくなる
( c o ) という悪循環のリスクを避けることができる」 (メリッ-二三)Lt 「分散型エネルギー源は、その設置場所にほとん ど'あるいは、まったく被害を及ぼさないのがふつうだ。したがって'再配置・再利用・解体などの際に、サイ-修 ( 3 ) 復コズーを最小限、あるいは不要にする」 (メリッー四八) のである。国家威信をかけた大規模ダムが強制移住や景 観破壊を生んでいるインドや中国は'市場原理からかけ離れたエネルギー政策をとっており'エネルギー主権のため に大きな財政負担をしていることになる。輸入ウランによる原子力発電の拡大は、インドや中国のエネルギー自給率 を下げることになるし'財政的負担も大きい。インドや中国でもエネルギーサービスや電力の自由化が進んでいるの で、分散型エネルギー源を中心にしたソフ-・エネルギー・パスによるエネルギー主権回復の道も閉ざされたわけで は な い 。 風力発電能力の世界シェアは二〇〇七年末で、ドイツ二二二一%、アメリカ一六・八%、スペイン一五二%で世 界三強であるが、インド八・〇%、中国六・〇%はそれに続く第四位、第五位の地位を占め'風力発電の老舗のデン マーク三・一%第六位をはるかに抜いている。太陽光発電についても、中国が急成長し、二〇〇七年末には太陽電池 の生産能力は、ドイツ、日本を抜いて世界一となった。中国でもオースーラリアで成功した太陽光発電による都市グ リーン・エナジー・シティのプロジエクーが企画されている。インドの太陽光発電の伸びも著しく'太陽電池の生産 に盛んな投資が行われており'頭角を現してくることは間違いない。国連環境計画によりインド南部カルナ-タカ州 で行われている太陽光発電のパイロッ-プロジエクーが、貧困農村地帯に暮らす一〇万人の生活を一変させているし、 さらに進んで山00%再生可能エネルギーで自給する村も現れているO 「さまざまな自然エネルギーを組み合わせる ( S ) と、さまざまな天候条件のもとで互いに補完し合うことになり'全体としての信頼性が高まる」 (メリッー六七)Lt 「分散型エネルギー源は、電線と-ランスを経由して電流を持ち込むのではなく、直接近傍の負荷に対応するため' 29
( ァ ) 系統の誘導的要素を通る電流の量を減らすことができる」 (メリットこ このであるへ また 「分散型発電機は、系 統から切り離されても正常に稼動するように設計することができる。これによって'地域の配電システムと顧客は大 ( S ) 規模で広範な停電を乗り切る能力をもてる」 (メリッ-一三四) ので'広大な国土に送電線を張り巡らす無駄を廃し、 地域のエネルギー自給に役立つのである。「分散型エネルギー源は地域で製造できることが多く、それによって、新 技能、工業能力'他で市場を開発する可能性が新しくその場所に集積することになる」 (メリット一七八)のであり、 地域の自立がエネルギー主権の基礎になることはいうまでもない。なにより「分散型エネルギー源は、コズーとメリ ットが同じ人へ同時にいくために'集中型電源に比べると'公正さが大きく、また'公正さが大きいと一般にみられ ( 5 ) ている」 (メリッ-一八四)ので、大規模ダムの不公正さに悩まされてきたインドや中国の住民の支持を受けること になるのではなかろうか。 おわりに シューマッハ-経済学は、アルフレッド・マーシャル (18421924) によってクレマティスティケ (利殖術) に近 . ( 5 % ) い意味に使われたEconom-csを'オイコノミアの原義に立ち返らせるものであった <:hOの進めてきた農産物な どの自由化を目指すドーハエフウンドは、食料危機と食料主権の問題とぶつかってまとまらなかった。「大量の農産 物の安値輸出を可能にする補助金を温存する一方で、途上国には一層の市場開放を迫る、こんなことを途上国が受け 入れるはずがない。そんなことになれば'途上国は食料自給力をますます削がれ、食料品価格の世界的高騰による現 S) 在の食料危機も深まるだけだ」と予想されていたが、その通りとなった。補助金を温存しながら自由化を主張してい
るのは、欧米であることはいうまでもない。オイコノミアからすれば、食料主権こそ重要であり、農産物の自由化は クレマティスティケでしかない。 欧米と日本の原子力発電関連の輸出をCDMと結びつけてODAとして行うことが'原子力ルネッサンスの目論見 K) の一つとなっている。発展途上国にとっては'エネルギー自給力をますます削がれることになり'エネルギー危機と エネルギー主権の問題とぶつかってしまう。オイコノミアからすれば、エネルギー主権こそ重要であり'エネルギー サービスの自由化はクレマティスティケでしかない。しかし、エネルギーサービスの自由化による市場の開放と電力 自由化は'オイルピークによる石油価格の暴騰と相まって'デンマークやアメリカ'最近ではドイツや日本から発展 途上国にも急速に広がっている風力発電や太陽光発電'バイオマスなどによる分散型エネルギー源の成長を促してい る。自然権としてのエネルギー自給率を高め'環境債務の累積に歯止めをかけるソフ-・エネルギー・パスが日に見 えるようになってきたのである。 以上 ( -< ) M i c h i o E n d o 「 経 済 学 ( e c o n o m i c s ) と 生 態 学 ( e c o l o g y ) 」 ∧ h t t p ︰ \ \ w e b . s f c . k e i o . a c . i p / e n d o / o i k o n o m i a . h t m > ( n ) E . F . シ ュ ー マ ッ ハ -「 ス モ ー ル イ ズ ビ ュ ー テ ィ フ ル 」 1 九 七 1 1 1 年 ' 小 島 慶 酒 井 想 訳 ' 講 談 社 学 術 文 庫 、 l 九 八 六 年 ' 六 一 頁 。 ( 3 ) 云 イ モ リ -・ ロ ビ ン ス 「 ソ フ -・ エ ネ ル ギ ー ・ パ ス 」 l 九 七 七 年 ' 室 田 泰 弘 ・ 槌 屋 治 紀 訳 、 1 九 七 九 年 ' 時 事 通 信 社 O 日本におけるソフ-・エネルギー・パスを検討したものとして'尾関修「リニューアブル・エネルギーの可能性」一 九八〇年、三菱総合研究所がある。 ( V ) O I L W A T C H P O S I T I O N P A P E R O N E N E R G Y S O V E R E I G N T Y N e w D e l h i -O c t o b e r 2 0 0 2 ∧ h t t p ︰ \ \ w w w . w r m . o r g . u y \ a c t o r s \ C C C \ e n e r g y . h t m l > 31