「
民
事
訴
訟
法
及
び
民
事
執行法の
改正に関する要綱中間試案﹂
に
対
する意見
はじめに
法 務省民事局参事官室は、平成十五年九月十九日、﹁民事訴訟法及び民事執行法の改正に関する要綱中間試案﹂お 今回この意見募集に対して、本学の関連科目担当者が共同で検討を行い、意見をまとめることとした。以下に、小新
原井
将
照剛
第1 民事訴訟法関係
民 事 訴 訟 手 続 等 の申立て等のオンライン化︵新設︶ (1︶インターネットを利用した申立て等の許容 民 事 訴 訟 に 関する手続における申立てその他の申述 (以 下 「申立て等﹂という。︶の将来的なオンライン化に 199北陸法學第ll巻第1 2号(2003) 備えるため,法令の規定により書面によりすることとされている申立て等のうち,最高裁判所規則︵以下﹁規則﹂ という。︶で定めるものであって,最高裁判所が定める特定の裁判所に対してするものについては,規則の定め るところにより,インターネットを利用した申立て等を認めるものとする︵行政手続等における情報通信の技術 の 利用に関する法律第3条第1項参照︶。 200 【 意見︼賛成する 【 理由︼訴訟手続のオンライン化は、 思われる。 手 続 利用者にとって利用しやすい司法を目指す、という目的に合致するものと ( 注1︶規則の定めるところによる事項としては, 照︶等が考えられる。 申立て等の方式に関する事項︵民事訴訟法第397条第2項参 【意見︼賛成する 【 理由︼技術の進歩やシステムの変更が頻繁に行われている現在の状況に鑑みると、 柔軟に対応することが望ましいものと考える。 方式に関する事項は規則により ( 注2︶非訟事件手続法においても本文と同様の定めを設けることで,民事訴訟法又は非訟事件手続法を適用し, 準用し,又はそれらの例によることとされる他の法律に定める民事訴訟手続等に関する将来的なオンライン 化 に備えるための通則的な規定とするものとする。 ( 注3︶最高裁判所が定める特定の裁判所に対してする申立て等には,当該裁判所に所属する裁判長,受命裁判官, 受 託裁判官又は裁判所書記官に対してするものを含むものとする。
【意見︼賛成する 【 理由︼特に反対する理由がない。 (2︶インターネットを利用した申立て等の到達時期 (1︶の方法によりされた申立て等については,当該申立て等に係る電子データが裁判所が使用するコンピュー タ中のファイルに記録がされた時に当該裁判所に対して到達したものとみなすものとする︵行政手続等における情 報通信の技術の利用に関する法律第3条第3項参照︶。 【意見︼賛成する 【 理由︼現在の書面提出に代替するものと考えるなら、 のが一般的であろう。 裁判所が使用するコンピュータ内に記録された時点と考える (3︶インターネットを利用した申立て等における署名押印等に代わる措置 (1︶の方法による申立て等をする場合において,法令の規定により,署名,記名,押印その他氏名又は名称を 書面に記載すること︵以下﹁署名押印等﹂という。︶とされているものについては,当該法令の規定にかかわらず, 当該申立て等をする者は,氏名又は名称を明らかにする措置をもって当該署名押印等に代えなければならないもの とする︵行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第3条第4項参照︶。 【意 見︼賛成する 【理由︼従来よりインターネットでの匿名性は指摘されていることから、 要 がある。 何らかの方法により氏名を明らかにする必 201
北陸法學第11巻第1 2号(2003} (注︶氏名又は名称を明らかにする措置に関する具体的な定めは,規則に委任するものとする。 【 意見︼賛成する 【 理由︼どのようにして氏名を明らかにさせるのかについては、技術的問題を含めて慎重に検討する必要があり、 た、暗号化技術の進歩の問題もあるので規則とするのが望ましいと考える。 ま 2 督促手続のオンライン化︵民事訴訟法第397条関係︶ 1︵1︶の方法によりされた支払督促の申立てに係る督促事件については,1によるものとするほか,以下のとお りとするものとする。 ︵1︶インターネットを利用して取り扱う督促手続の地理的範囲の拡大 インターネットを利用した督促手続を取り扱う簡易裁判所の裁判所書記官に対しては,次に掲げる督促事件の 申立てをすることができるものとする。 ア 当該簡易裁判所の管轄区域内に普通裁判籍等を有する債務者に係る督促事件︵民事訴訟法第383条参照︶ イ ア以外の簡易裁判所であって規則で定めるもの︵民事訴訟規則第238条第1項参照︶の管轄区域内に普通 裁判籍等を有する債務者に係る督促事件 【意見︼ア、イともに賛成する 【理 由︼督促手続をオンライン化した場合、かなりの広範囲での申立てに対応できることと思われる。 の利便性を促進するためには地理的範囲を拡大することが望ましい。 オンライン化 202
(2︶支払督促の作成及び記録の電子化 支払督促その他裁判所書記官がする処分であって規則で定めるものは,電子データにより作成するものとし, これを原本として取り扱うものとする。 (注︶裁判所書記官がする処分を電子データにより作成する場合の具体的な方法の定めは,規則に委任するものと する。 (3︶督促事件記録の閲覧・謄写等に代わる措置 督促事件記録が電子データで調製された場合における当該事件記録に係る閲覧及び謄写については,規則で定 めるところにより,これに代わる相当と認める措置を講ずるものとする。 (注︶相当と認める措置の内容として,例えば,閲覧の請求については,請求の対象となる電子データの内容をプ リントアウトした書面を閲覧する方法,謄写の請求については,民事訴訟法第91条第4項の複製に代えて, 請求の対象となる電子データの内容をプリントアウトした書面を交付する方法によることが考えられる。 【 意見︼賛成する 【 理由︼オンライン化に伴う当然の取扱いと思われる。 (4︶インターネットを利用してする債権者に対する処分の告知 裁判所書記官の債権者に対する処分であって規則で定めるもの︵支払督促の申立てに対する補正を命ずる処分 等︶の告知は,インターネットを利用してすることができるものとする。 【 意見︼賛成する 【 理由︼手続がオンライン化されたことによりインターネットを利用した債権者に対する処分の告知は、 その利便性 ㎜
北陸法學第ll巻第1 2号(2003) の 観 点 からも望ましいものと思われる。特に、インターネットを利用して申立てを行う者は、インターネッ 04 2 トに相当程度精通しているものと思われ、それゆえに処分の告知についてインターネットを利用して行った としても不都合は生じないものと思われる。 ( 注1︶本文の方法による債権者に対する処分の告知の方法及びその効力の発生時期についてどのような手当てを するかについては,なお検討する。 【意見︼ 告 知方法については、技術的問題も含めて様々なものが考えられ、また、どのような方法を採用するのかに よって効力の発生時期も異なることが予想される。それゆえ、慎重な検討が必要であると思われる。 ( 注2︶債務者に対する処分︵支払督促の更正の処分等︶の告知は,従来どおりとするものとする。 【 意見︼賛成する 【 理由︼申し立てた債権者の事情によりインターネットを利用したわけであり、債務者側がその方式に応じなければ ならない義務はない。債務者に対する手続保障の観点からも従来通りが望ましいと考える。 3 文書提出命令︵民事訴訟法第220条第4号ホ関係︶ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書 ︵以下﹁刑事事件関係書類等﹂という。︶を対象とする文書提出命令の制度の見直しの要否については,次のような 点を踏まえ,なお検討する。 (1︶民事訴訟法の一部を改正する法律︵平成13年法律第96号︶施行後における刑事事件関係書類等の民事訴
訟 に おける利用状況等について,刑事事件関係書類等の大部分は請求があれば開示され民事訴訟において利用 されているものの,なお,民事訴訟において必要な刑事事件関係書類等が開示されない場合があるとの意見が あるが,どのように考えるか。 【意見︼ かなり開示されている状況からするなら、その利用状況は評価できるものと考える。一部開示されない場合 があったとしても、刑事事件関係書類等が関係者のプライバシー等に深く関わる可能性が高いことから、や むを得ないものと考える。 (2︶刑事事件関係書類等の中には,開示されると,関係者の名誉・プライバシー等に重大な侵害を及ぼしたり, 捜査,公判及び少年審判の適正の確保が困難となるおそれがあるものがあることや,刑事事件関係書類等が刑 事 手続等以外の別途の目的で用いるために公にされ得ることとなると,国民からの捜査,公判等に対する協力 が困難になるおそれがあることについては,どのように考えるか。 【意見︼ 関係者等のプライバシー保護には十分な配慮がなされるべきであり、それらを著しく害するおそれがある場 合 には非開示とすべきである。その際には、審理状況や証拠としての価値に関係なく判断されるべきではな い かと考える。 (3︶刑事訴訟法等における各開示制度と文書提出命令制度との関係については,どのように考えるか。 例えば,次のような考え方があるが,どうか。 ア 刑 事 事 件関係書類等の開示については,刑事訴訟法等における各開示制度︵注1︶に委ねている現行規定を 維持するものとする考え方 205
北陸法學第11巻第1・2号(2003) ( 注1︶刑事事件関係書類等については,捜査中,公判中及び裁判確定後の各段階ごとに応じて,民事訴訟等にお ける利用の必要性をも踏まえて,その開示の要件及び手続が定められている︵刑事訴訟法第47条,犯罪被 害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第3条,刑事確定訴訟記録法第4条,少年 法 第5条の2,少年審判規則第7条第−項等︶。 【意見︼賛成する 【 理由︼刑事事件関係書類等の開示については、関係者等のプライバシー保護を最優先すべきであり、開示等の判断 は、訴訟の審理状況や証拠としての価値に関係なくなされるのが望ましいこと、非開示と判断された場合に 当該刑事事件関係書類等の内容を心証形成から完全に除外しなければならないことを考えると、受訴裁判所 以外の裁判所等が行うべきであると考える。 206 ( 注2︶この考え方については,刑事事件関係書類等のみを他の公文書と異なる扱いをする合理性が乏しいとの意 見があるが,どのように考えるか。 【意見︼ 他の公文書においても私人のプライバシーに関わる情報が含まれているものと思われるが、刑事事件関係書 類等ではその内容が公にされることにより関係者等が著しく不利益をうけるものが多いものと予測される。 したがって、区別する理由があると考える。 イ 民事訴訟の受訴裁判所が,一定の要件の下に,刑事事件関係書類等の提出を命ずることができるものとする考 え方 ( 注1︶この考え方においては,民事訴訟の受訴裁判所が,
a 刑事事件関係書類等の保管者︵捜査機関等︶とは別個独立に,開示の相当性を判断して刑事事件関係書類等 の提出を命ずることができるものとする考え方, b 刑事事件関係書類等の保管者︵捜査機関等︶の開示の相当性に関する第一次的判断を尊重するが,当該判断 が保管者の裁量権を逸脱していると認められる場合に限り,刑事事件関係書類等の提出を命ずることができる
︵民事訴訟法第220条第4号ロ、第223条第4項第2号参照︶ものとする考え方がある。
(注 2︶この考え方については,以下の点について,どのように考えるか。 a 刑事事件関係書類等の保管者が当該書類等を民事訴訟において利用する必要性及び閲覧・謄写をさせた場合 に おける弊害のおそれを総合考慮して開示の可否を判断することとしている刑事訴訟法等における法体系との 整合性がとれるかどうか, b 刑事事件関係書類等の保管者と比較して限定的な資料に基づいて判断することを前提に,民事訴訟の受訴裁 判所の判断の合理性を確保することができるかどうか, c 刑事手続等の裁判所が開示不相当と判断した刑事事件関係書類等︵例えば,刑事確定訴訟記録の開示を不相 当とした保管検察官の処分に対する準抗告が棄却されて確定したもの等︶について,民事訴訟の受訴裁判所が その提出を命ずることが適当であるといえるかどうか。 【意見︼反対する 【 理由︼受訴裁判所が一定の要件のもとに提出を命じる場合、提出を命じるにせよ命じないにせよ、提出の対象とな る刑事事件関係書類等の内容を調査しなければならない。しかし、限られた内容から保管者等とは別個の判 断をし、それが果たして関係者等のプライバシーの保護について正しい判断であるかどうか疑問が残る。また、内容を調査するに際して、訴訟の状況や証拠としての価値などが判断要素として入るため、プライバシ ㎜
北陸法學第11巻第1 2号(2003) ー保護が優先され得ない事態が生じる可能性を含むことになる。さらには、内容を調査した上で、提出を命 08 2 じなかった場合に、その刑事事件関係書類等の内容を、当該訴訟の判断において完全に心証形成から排除で きるのか疑問である。それゆえ、少なくとも受訴裁判所以外の機関が判断すべきである。 (後注︶専ら文書の所持者の利用に供するための文書︵いわゆる自己利用文書。 に つ い て 何らかの見直しをするかどうかについては,なお検討する。 民
事訴訟法第220条第4号二︶
【意見︼ 自己使用文書の範囲については、金融機関の貸出稟議書が問題になったことから見ても、その範囲をめぐっ て今後も新しい対象が現れることが予測される。作成者の自由な活動は十分に保障されるべきことも含めて 考えると、当面は今後の運用状況にゆだねるべきであると考える。4
その他 (1︶管轄の合意︵民事訴訟法第11条関係︶ 管轄の合意は,書面のほかに,その合意の内容を記録した電子データによってもすることができるものとする (仲裁法第13条第2項及び第4項参照︶。 (2︶債権者に対する仮執行宣言付支払督促の告知方法︵民事訴訟法第391条第2項関係︶ 債 権 者 に 対 する仮執行宣言付支払督促の告知については,当該債権者の同意を要件として,その正本を送付す る方法によることができるものとする。 【意見︼いずれにも賛成する 【 理由︼近年の電子商取引の発展や手続のオンライン化を考えると必要な措置であると考える。第2 民事執行法関係
1 少額債権のための債権執行制度︵新設︶ (1︶少額債権のための債権執行制度の創設 簡易裁判所において,少額債権について債権執行をすることができるものとする制度︵以下﹁少額債権のため の債権執行制度﹂という。︶を創設するものとする。 【意見︼賛成する 【 理由︼少額訴訟が国民に認知され、その利用状況が活発なことを考えると、 見合った形で解決する制度の整備が必要であると考える。 少額の紛争事件の処理をその係争額に (注︶この制度を利用できる場合であっても, る。 なお地方裁判所における通常の債権執行手続も利用できるものとす 【意見︼賛成する 【理由︼どちらの制度を選択するのかについては、 当事者の判断にゆだねてよいものと思われる。 (2︶少額債権のための債権執行制度を利用できる債務名義 少 額 債 権 のための債権執行制度を利用できる債務名義は, 名義とするものとする。 少 額 訴 訟 に おける確定判決等の少額訴訟に係る債務 【意見︼賛成する 209北陸法學第11巻第1 2号(2003) 【 理由︼ あくまでも少額の紛争に特化した形での手続の方が、 向上するものと考える。 制 度 設 計 上 単 純 化しやすく、その分利用者の利便性が ー0 2 (注︶少額訴訟は,少額の紛争について,一般市民が紛争額に見合った経済的負担で,迅速かつ効果的な解決を求 めることができるようにするために創設されたものであり,そのために手続をできる限り簡易迅速なものとし て いる。そのような少額訴訟の趣旨からすれば,少額訴訟の利便性をより向上させ,迅速かつ効果的な権利実
現を図るため,簡易裁判所において簡易迅速な手続による強制執行制度を設ける必要性,合理性があると考え
られるが,少額訴訟に係る債務名義以外に,簡易裁判所において簡易迅速な手続による強制執行制度を設ける 必 要性,合理性がある債務名義の有無については,なお検討する。 【 意見︼ 現 時 点 では少額訴訟だけに限定して制度設計をするのが望ましいと考えるので、 がよいと考える。 他 の 債務名義を含めないの (3︶少額債権のための債権執行制度における執行裁判所 少額債権のための債権執行制度における執行裁判所は, 少 額 訴 訟 の 受 訴 裁判所とするものとする。 【 意見︼条件付で賛成する 【 理由︼少額訴訟の利便性と少額債権執行の制度趣旨から考えるなら、受訴裁判所で行うことが望ましいと考える。 但し、手続の利用に関して被告側にも配慮すべきことから、被告に対して少額訴訟に係る債務名義にもとつ く債権執行が、当該少額訴訟の受訴裁判所で行われることについて教示すべきであり、それがない場合には、 そのような債権執行を認めるべきではないと考える。
(注︶受訴裁判所が債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所ではない場合に,債務者の利益を保護する ため,債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に移送することができるものとすることについては, なお検討する。 【 意見︼移送制度を設けることに賛成する 【 理由︼債権者にとって利便性が高いことが、被告である債務者に著しい不利益を及ぼしてよい理由とはならない。 移 送 制 度を設けることが、原告側に多大な負担を強いるものでない以上、被告の保護のために設けるべきで あると考える。 (4︶少額債権のための債権執行制度における執行裁判所の権限 ア 少 額 債権のための債権執行制度における執行裁判所の権限は,以下のとおりとするものとする。 (ア︶金銭債権に対する差押命令を発すること (イ︶弁済金の交付をすること (注︶執行裁判所の権限を差押命令の発令及び弁済金の交付に限る結果,例えば,転付命令の発令を望む債権者は, 地 方裁判所に対して,通常の債権執行手続を申し立てることになる。 イ 差押えが競合し,又は配当要求があったため,配当を実施しなければならない場合には,地方裁判所に移送 するものとする。 (注︶配当を実施しなければならない場合に,どの地方裁判所に移送するものとするかについては,なお検討する。 【意見︼ア、イいずれにも賛成する 【理由︼少額債権執行を少額訴訟に見合った債権執行とするためには、 ある程度手続のスリム化が必要であり、その 川
北陸法學第11巻第1 2号(2003) 意味で換価手続を除く形は望ましいと考える。転付命令のように手続を重厚にするものを除くべき、また、 12 2 基 本的には、債権者対債務者が一対一であるという構図で終始する範囲で手続の簡易迅速化を行うべきと考 えることから、差押えの競合や配当要求なども地方裁判所に移送するのが望ましいと考える。 (5︶その他 少 額 債 権 のための債権執行制度の手続の簡易迅速化を図るための手当てとして, 度 の 手 続を裁判所書記官が行うものとすることについては,なお検討する。 少 額 債 権 のための債権執行制 【意見︼ 将 来的には裁判所書記官が手続を行うことに賛成するが、なお慎重な検討が必要であると考える。現在の民 事 訴 訟制度においても手続の多くの部分が書記官にゆだねられていることから、簡易迅速な手続を目指す場 合、書記官権限を拡大させることが望ましいと思われる。ただし、その際に、債権者の利益に十分配慮した 制度設計であることも要求されるため、慎重な議論が必要であると考える。
2
不動産競売手続 (1︶最低売却価額制度︵民事執行法第60条等関係︶A案
最 低売却価額制度については,現行制度のとおりとする。B案
ア 最 低売却価額で売却されれば配当又は弁済金若しくは剰余金の交付が受けられるすべての者の同意があると きは,最低売却価額に達しない買受けの申出も認めるものとする。イ 売却が実施された結果,最低売却価額に達しない価額で落札されたときは,落札価額と最低売却価額の差額 分の債権は消滅するものとする。 ( 注1︶最低売却価額で売却されれば配当又は弁済金若しくは剰余金の交付が受けられるすべての者の同意を得る 手続をどのようなものにするかについては,不動産競売手続全体を遅延させることがないようにする観点か ら,なお検討する。 ( 注2︶イは,所有者の利益を保護するため,最低売却価額に達しない価額で落札されたときは,配当等によって は消滅しない落札価額と最低売却価額の差額分の債権を消滅させるものである。
C案
ア 執行裁判所は,最低売却価額ではなく,参考価額を定めるものとする。 イ 第一順位の抵当権者の申出により,参考価額に達しない買受けの申出を認めないものとすることができるも のとする。 ウ 債務者,抵当権者等は,一定期間内に,落札価額を超える価額での買受けの申出をすることができ,そのう ちで最も高い価額を申し出た者を買受人とするものとする。 ( 注1︶参考価額は,最低売却価額と異なり,これに達しない買受けの申出をも認めるものであり,買受希望者に 適 正 価 格 に関する情報を提供する機能及び剰余を生ずる見込みの判断等の基準となる機能のみを有するもの である。 ( 注2︶債務者,抵当権者等が買受けの申出をすることができる期間の始期及び終期については,なお検討する。 (後 注︶最低売却価額が適正な市場価格を反映していない場合があるので評価制度の在り方を見直すべきであると の 指摘に対する方策については,なお検討する。 213北陸法學第11巻第1 2号(2003) 【意見︼ 【 理由︼
A
案 に賛成する 14 2 B案については、まずアに関して、関係者の同意が得られるのか疑問があるし、次にイに関しても、落札価 額と最低売却価額の差額分の債権が消滅するという制度の採用は実体法上の根拠に欠けるため賛成できない。 C案については、まずイに関して、第一順位の抵当権者に限定する必然性がないし、次にウに関しても、当 初の買受人の地位を不安定にさせるから賛成できない。B案やC案ウはアメリカの制度に影響を受けたもの であろうが、執行妨害のないアメリカの制度を執行妨害の横行する日本に持ってくることは困難であると考 える。したがって、A案に賛成する。ただし、後注にもあるように、一部地域で最低売却価額が適正な市場 価 格を反映していないため売却率が低いという問題もあるから、評価制度の在り方を収益還元法を原則とし たものに修正するよう指示する等の対策が必要であると考える。 (2︶剰余を生ずる見込みのない場合の措置︵民事執行法第63条関係︶ 執行裁判所が,最低売却価額では執行費用のうち共益費用であるもの︵以下﹁手続費用﹂という。︶及び差押 債権者の債権に優先する債権︵以下﹁優先債権﹂という。︶を弁済して剰余を生ずる見込みがないと認めるとき であっても,最低売却価額が手続費用の見込額を上回り,かつ,優先債権の債権者︵以下﹁優先債権者﹂という。︶ の同意があるときは,売却の手続を実施することができるものとする。 ( 注1︶同意を要する優先債権者は,最低売却価額で優先債権の全額の弁済を受けられる債権者以外のすべての債 権 者とするものとする。 ( 注2︶最低売却価額が手続費用及び優先債権額の見込額と同額である場合には,優先債権者の同意を得ることな く,売却の手続を実施することができるものとする。【意見︼反対する 【 理由︼このような制度を作ったとしても、優先債権者の同意が現実に得られるのか、 って、実効性ある法制度設計とはいえないと考えるため反対する。 きわめて疑問である。したが (3︶内覧制度︵担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律︵以下﹁改正法﹂という。︶ による改正後の民事執行法︵以下﹁新民事執行法﹂という。︶第64条の2第1項関係︶ 競 売不動産の占有者の有する占有権原が差押債権者等に対抗することができない場合だけではなく,対抗す ることができる場合であっても,その占有者の同意なく内覧を実施することができるようにすべきであるとの 意 見 があるが,どのように考えるか。 (注︶改正法では,差押債権者等に対抗することができる占有権原を有する者は,競売手続による影響を受けない の が原則であり,内覧を受忍すべき義務を課するのは困難であると考えられたことから,その同意がある場合 に限り内覧を実施することができるものとされた︵新民事執行法第64条の2第−項ただし書︶。 【意見︼賛成する 【 理由︼内覧制度を広く認めることが競売制度の普及・促進に資する。そのため対抗できる占有者に対しても、その 同意がなくとも内覧を認めるべきである。対抗できることと、内覧を拒否できることとの間には論理的な必 然 性 がないと思われる。ただし、対抗できる占有者のプライバシー等への配慮も必要である。そこで、事前 に内覧日を告知する、内覧日は一日に限定する、執行官が秩序維持に努める等の手続的配慮が特に必要であ ると考える。 215
北陸法學第Il巻第1 2号(2003) (4︶入札期間中の取下げの制限︵民事執行法第76条関係﹀ 競 売不動産についての調査検討を経た上で保証を提供して買受けの申出をした者の利益を保護するため,入札 期間の開始の日から最高価買受申出人が定められるまでの間,不動産競売手続の申立ての取下げを認めないもの とすることについては,なお検討する。 (注︶入札期間の開始の日から最高価買受申出人が定められるまでの間に民事執行法第39条第1項第4号又は第 5号に掲げる文書を提出することについては,本文と同様に取り扱うものとする︵同法第76条第2項参照︶。 【意見︼反対する 【 理由︼入札期間開始の日以降、不動産の任意売却や債務者による一部弁済によって、競売申立てが取り下げられる 場 合 がある。この場合、関係者が国家による強制的な不動産売却を不要と判断した以上、その判断を尊重す べきである。この考えに対しては、買受希望者の手間が無駄になったり、競売制度に対する信頼性が害され る等の批判もあろう。しかし、実際に買受人となるのは入札者のうちの一人だけであり、他の者は徒労に終 わるということを前提とするのが競売制度である。また、民間で行われる中古住宅等の買受けの場合にも、 競争者が幾人かいる場合には、一人だけが買受人であり、他の者は徒労に終わることがある。したがって、 買受希望者の手間が無駄になるということは競売制度のみに存する問題ではなく、競売制度に対する信頼性 が害されるということにはならないと考えるため、反対する。 216 (5︶差引納付の申出の期限︵民事執行法第78条第4項関係︶ 買受人が売却代金から配当等を受けるべき債権者であるときは,売却許可決定が確定するまでの間,執行裁判 所 に 対し,配当等を受けるべき額を差し引いて代金を配当期日等に納付することを申し出ることができるものと
する。 【意見︼賛成する 【 理由︼差引納付の申出の期限を売却許可決定が確定するまでの間に伸長したとしても、 えるものではなく、手続を遅延させるという問題もないからである。 関係者に何らの不利益も与 3 執行官による援助請求︵民事執行法第18条関係︶ 執行官は、執行裁判所と同様に,民事執行のため必要がある場合には, ができるものとする。 官庁又は公署に対し,援助を求めること 【意見︼賛成する 【 理由︼現場で奮闘する執行官が、 と考えるからである。 必 要な種々の援助を自ら迅速に求められるように執行制度を整備する必要がある
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裁 判 所内部の職務分担︵新設︶ (1︶民事執行手続の職務分担の見直し民 事 執 行 手 続 の 更なる迅速化を図るため,現在執行裁判所の権限とされている事項のうち一定の事項を裁判所 書 記 官 の 権 限とする方向で,裁判官と裁判所書記官の職務分担を見直すものとする。 【意見︼賛成する 【 理由︼裁判所書記官の権限を拡大する方向性に異論はない。 217
北陸法學第ll巻第1 2号(2003) (2︶民事執行手続の職務分担の在り方
民 事 執行手続における裁判官と裁判所書記官との具体的な職務の分担について,以下のような性質を有する事 項 に つ い ては,裁判官が行わなければならないものとする。 ア 手 続を開始・終了させる等の性質を有する事項
競売手続取消決定︵民事執行法第14条第2項等︶,競売開始決定︵同法第45条第1項︶,続行決定︵同法 第47条第4項︶,売却の見込みがない場合の手続停止処分︵同法第68条の3︶等 イ 実体的要件の存否について判断し,権利の得喪・変更を生じさせる性質を有する事項
保 全 処 分 (同法第55条第1項等︶,引渡命令︵同法第83条第1項︶,売却許可・不許可の決定︵同法第6 9条等︶等 ウ 不服申立てに関する事項 執行抗告についての裁判︵同法第10条︶,執行異議についての裁判︵同法第11条︶等 【意見︼すべて賛成する 【 理由︼執行手続において重要な判断を行わなければならないものについては、 裁判官が行うべきである。 (注︶本文に掲げた事項以外に,どのような性質を有する事項について裁判官が行わなければならないものとする か に つ い ては,なお検討する。 【 意見︼過料・罰金等が関係する事項に関しては、裁判官の権限とするのが望ましい。 (3︶裁判所書記官の権限とする事項 218
裁判官が行わなければならないものとする事項以外の事項のうち, の権限とするものとする。 ア 配当要求終期の決定︵民事執行法第49条第1項等︶ イ 物件明細書の作成︵同法第62条第1項︶ ウ 売却実施命令︵同法第64条第1項,第3項︶ 工 代 金納付期限の指定︵同法第78条第1項︶ オ 配当表の作成︵同法第85条︶ 次 に 掲 げる事項については,裁判所書記官 【意 見︼すべて賛成する 【 理由︼これまでの執行実務をふまえたものであり、 反 対する理由がない。 ( 注1︶本文に掲げた事項以外に, 検討する。 具 体的に裁判所書記官の権限とすることが相当な事項の有無については,なお 【意 見︼4︵2︶の裁判官の職務に抵触しない限り、書記官権限を拡大することが望ましいと考える。 ( 注2︶裁判所書記官の権限とする事項についての不服申立ての在り方については,なお検討する。 【意見︼ 少なくとも裁判所が判断する必要はあるが、執行異議または執行抗告の場合、手続が重厚になる感じをうけ る。これらとは異なる特別の異議申立てを認める方向がよいと考える。あるいは、民事訴訟法上の裁判所書 記官の処分に対する異議で足りるものと思われる。 219
北陸法學第ll巻第1 2号(2003)
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金銭債務についての間接強制︵新設︶ (1︶間接強制の方法によることができる金銭債務 扶養義務等︵新民事執行法第151条の2第1項各号に掲げる義務︶に基づく金銭債務についての強制執行は, 直接強制の方法だけではなく,間接強制の方法によっても行うことができるものとする。 【 意見︼賛成する 【 理由︼扶養義務等に基づく金銭債権については、 間接強制によることにより、実効性が確保できると考える。 ( 注1︶扶養義務等に基づく金銭債務以外に,間接強制の方法によることが効果的であって,かつ,間接強制の方 法 によることを認めても濫用等の弊害が生じないと考えられる類型の債務の有無については,なお検討する。 【 意見︼ 現時点でどのような類型が該当するのか、類型化自体難しいと思われるが、扶養義務等に基づく金銭債権と 同様、濫用等の弊害がないのであれば認めてもよいと考える。例えば、公害訴訟等の慰謝料であればよいの ではなかろうか。 ( 注2︶扶養義務等に基づく金銭債務が定期給付債務である場合に,将来分の定期金について, る前に間接強制を申し立てることができるものとすることについては,なお検討する。 確定期限が到来す 【 意見︼ 債 権 者 の 疎 明 により、将来分の履行が行われないと推測されるに十分な事情が存在する場合には、 間に限定して、期限到来前の申立てを認めるのが、債権の性質を考えても望ましいものと考える。 一 定 の期 (2︶間接強制の決定の取消し 220執行裁判所は、債務者の資力がないと認めるときは, が できるものとする。 債務者の申立てにより,間接強制の決定を取り消すこと 【 意見︼賛成する 【 理由︼金銭債務についての間接強制が可能となると、資力がない債務者に過大な負担をかけるおそれがある。それ ゆえ、資力がない場合には間接強制の決定を取り消す必要があるが、どのような状態を﹁資力がない﹂とす るのかについては慎重に検討すべきである。 (注︶債務者に資力がないことが明らかである場合は, 否 に つ い ては,なお検討する。 間接強制の決定をすることができないものとする規定の要 【 意見︼ 債 務者の資力要件を含めるべきではないと考える。なぜなら、その要件の判定の資料を誰に収集させるのか が問題であり、また、金銭債務についての間接強制の制度趣旨が没却してしまう可能性があり、さらには、 5︵2︶の手続により、債務者の保護は十分であると考えるからである。 221