- 333 - 大気中から採取される繊毛虫に関する研究 教科・領域教育専攻 自然系(理科)コース 白 井 良 平 1.はじめに 繊毛虫などの微小な生物は,河川│や湖沼など の水域に広く生息している。これは,単細胞生 物ゆえに我々ヒトのような保護細胞層を持たな い彼らにとって,その生存にたとえわずかでも 水の存在が必要不可欠だからである。しかし, 稲わらや木に付く生葉,土壌中や落葉中などの, 彼らの生存に適さない乾燥した環境から繊毛虫 が発見された報告がある。このような場所から 発見される微小生物は,休眠シストを形成する ことによって乾燥から身を守っている。また, 形成された休眠シストは乾燥によって,温度や 紫外線などの様々な環境への耐性を獲得する。 しかし,休眠シストを形成するだけでは,様々 な環境から繊毛虫が採取されることの説明は出 来ない。稲わらや水域付近の土壌など,71<の流 入がある環境ではその流れによって移動してき たと考えられるが,生葉の様な移動の隔絶され た環境から採取されるためには,彼らの移動を 媒介する存在が必要となる。 本研究では,数十 μmと小さい彼らは,休眠 シストの形態で、大気の流れに乗って移動し,生 存に好適な環境下で脱シストすることで分布域 を拡大すると考えたが,大気中から繊毛虫が採 取された報告は少なく,大気中での存在が彼ら の分布域拡大につながるという知見は乏しい。 今回いくつかの採集方法を試行し,スライド ガラスによって,大気中から微小生物を採集す 指導教員 佐 藤 勝 幸 ることに成功した。この方法によって得られた 知見から,大気中を移動することによる分布域 の拡大について検討した。検討材料として,繊 毛虫が採集される高さ,季節においても調査を 千子った。 2.材料と方法 付近の環境から繊毛虫が採取されており,落 下物の付着などの影響を受けにくい環境として, 鳴門教育大学自然棟の 1,3, 5, 7階ベラン ダにスライドガラスを設置いその表面に繊毛 虫などの微小生物の休眠シストを付着させるこ とで、採集を行った。採集は 1回の採集を 10日間 として夏季 1 回 (2012 年 8 月 20 日 ~29 日),秋 季 2 回 (9 月 27 日 ~10 月 6 日, 10 月 18 日 ~27 日),冬季 1 回(1 2 月 3 日 ~12 日)の計 4 回行っ た。各階には 1回の採集で 20枚のスライドガラ スを設置することで, 320のサンプルを得た。 得られたサンプルは 1枚ずつ小麦浸出液の培 地に入れ, 250Cで培養を行い,培地から出現す る繊毛虫などの微小生物の種数と培地から出現 する割合を調べた。 3.結果と考察 3 -1.大気中の微小生物の存在について 採集により, 2種の繊毛虫と 1種の微小生物 が採取されたことにより,繊毛虫などの微小生 物が浮遊していることが確認された。また,培
- 334 - 地から,これらの微小生物の栄養体とともに多 くの休眠シストが発見された。これらの休眠シ ストを含む培地を乾燥させた後,培養液を注ぎ 250Cの培養条件に置くと,再び上記 3種の栄養 体が確認された。これは,微小生物が乾燥に耐 える休眠シストを形成し大気中に浮遊し,生存 に好適な条件で脱シストすることを支持する。 3 -2. スライドガラスへの付着について 本研究では平滑なスライドガラスの表面に微 小生物を付着させることによって,採取に成功 した。採集終了時にはスライドガラス表面には 大気中の汚れや挨が付着しており,その汚れに 繊毛虫の休眠シストがトラップされたものと思 われる。生葉もクチクラ層に覆われた滑らかな 表面であり,同様にして表面に繊毛虫の休眠シ ストが付着すると考えられる。また,このこと は表面の形状を問わず,繊毛虫の休眠シストが 物体に付着することを示唆している。 3 - 3. 微小生物が採取された高さについて 採集を行った各階から,ほぼ偏りなく 2種の 繊毛虫を含む, 3種の微小生物が採取された。 最低でも建物の 7階の高さの大気まで繊毛虫の 休眠シストは存在しているといえ,各階より採 取される種数や割合にほぼ偏りが無かったこと から,更に高くまで、大気の流れに乗って舞い上 がることと,本研究で、採集を行った高さの大気 には一様にこれらの微小生物が存在することが 考えられる。