地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネス ─奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に─
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(2) 論文. 充実、イベントのプログラムを作成して人員や物品の割り当て等を決定して 準備を進めた。イベント開催日時は平成30年3月25日午前9時から午後5時 までで、会場は吉野町中央公民館で、参加者想定人数は200名である。 本イベントの目的は、吉野町は“春の桜” ・ “秋の紅葉”でその時期に観光 客は非常に多いのだが、夏と冬は非常に少なく、『冬にイベントを開催して、 イベント参加のついでに少しでも吉野観光をしてもらおう』という地域振興 にある。 本イベントのプログラムは、基調講演(講演者は立命館大学映像学部教授 の中村彰憲先生) 、声優トークショー(声優は福原香織氏、司会は筆者)、ラ イブペインティング(講師は緒方てい氏、司会は長谷川奈々氏)、コスプレ 写真撮影講座(講師はプロカメラマンの松本和久氏、モデルはコスプレイ ヤーの茉夏氏)、痛車展示コーナー、パネル展示コーナー、大学生自主企画 イベント「吉野っぽい缶バッジ作成」「福原香織さん応援メッセージと応援 イラスト」等である。もちろん、グッズ販売も行い、参加者はいなかったが ミニチュア撮影講座や聖地巡礼コンテストも企画していた。 下記の図1に本イベントの開催告知ポスターを示し、雰囲気を伝える。. 図1 開催告知ポスター (©緒方てい/アトリエアクア 画像を小さくすることで掲載許可が出た) 2.
(3) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. 1-2.本イベントにおける3者の関係性 本イベント名に“聖地巡礼”とあるが、これは、第一義的には「宗教的な 意味を持たず、アニメ・コミック等の舞台地を“聖地”と称し、ファンがそ の“聖地”を探訪し巡礼するようになること」と本論ではまず定義する。 しかし、この第一義的な定義では本イベントが狙う「地域共創と地域振興 で取り組む地域に根差したコンテンツビジネス」に当てはまらない。当ては めるには、①舞台地(奈良県吉野町)に住む人々や地元企業等との連携をす ること(地域連携) 、②ファンが本イベントのようなサブカルチャーイベン トを通してその地域で消費行動(いわゆる“カネが落ちる” )を行いつつ楽 しむこと、③本イベントを実質的に準備・開催する3人(以下、運営側とい う)が地元の人々や企業と連携しつつ、ファンからの信頼と参加を得て、継 続的にイベントを行うこと、これらの3点が大きく求められる。 では、この3点をどう組み込ませていくか。 まず、「運営側と地域連携」についてである。運営側が地域の人々や企業 と連携できること・できないことを明確にした後で連携し、協力や信頼等の 各種関係を構築して、サブカルチャーイベントを企画することが重要となる。 それは、地域の歴史や文化を鑑み、サブカルチャーをどこまで受け入れてど こまでイベント内容に組み込んでよいかを考えることが最初の第一歩になる。 本イベントの場合、世界文化遺産の吉水神社や金峯山寺、特に修験道の総 本山たる金峯山寺・吉野山という代々の地域ブランドやイメージがあるため、 少し離れた吉野町中央公民館の会場内と会場周辺で行うことを決めた。また、 参拝はコスプレしたままでするのではなく、常識ある普段の服装ですること を打ち合わせた。さらに、遠方から参加するファンが多く宿泊する温泉旅館、 その周辺の飲食店や土産物店には吉野ビジターズビューローが本イベントの 告知を兼ねた挨拶を行った。 これらをイベント告知前に行うことで、地域の人々から「ファンの人はマ ナーもよく、挨拶もしてくれ、すごくいい人達だ」「ウチでご飯を食べてくれ、 土産物店で土産物を買っている。吉野を元気にしてくれている感じがする」 「ファンの人がイベント前日・当日やイベント以外の日にも観光に来て、ウ 地域創造学研究. 3.
(4) 論文. チで食べてくれる」 「例年通りのイベントを開催する時期になったね」「イベ ント開催日に若いお客さんが来たら、 『イベントやっていますよ』と声をか けている」等のコメントを得られ、地域に受け入れられていることと信頼を 得ていることが分かった。特に、ファンが吉野で消費をしていることは、吉 野町と吉野の地元企業にとってはいわゆる“外貨獲得” (地域外からお金が 入ることで、売上がその分伸び、税収も上がる)になり、交流人口の増加に も繋がる。また、運営側にとっては地域の人々や企業と一緒にイベントを開 催して地域振興をしようと考えても消費行動が起きなければコストばかりか かってしまって水泡に帰すことになるが、ファンは消費行動をしており、地 域・運営側のメリットになっている。 次に、「運営側とファン」である。運営側が本イベントを準備・開催して も、ファンが来なければイベントとして成功しない。ファンは『咲』で吉野 を知り、本イベントに初参加かそれ以上の回数を参加したファンが大半であ ると運営側は考え、実写版の『咲』が吉野で撮影されたことから、 『咲』の パネル展示やグッズ販売等を準備した。その準備ぶりを twitter やホームペー ジで情報発信することでファンはそれを受信し、イベントに参加したい気持 ちを高めた。また、参加するファン同士が年1回顔を合わせることから同窓 会の雰囲気・ノリとなり、 『咲』で登場キャラクターの自宅となっている温 泉旅館に宿泊してイベント前日入りをすることとなった。 運営側は、吉野ビジターズビューローを通してイベント開催日を通知し、 運営側スタッフ数人と宿泊する旨を伝えていた。これらがあって、運営側は 宿泊するファンと交流ができ、 「イベントにずっと参加したいし、吉野が元 気になればいいと思うし、自分達も楽しみたい」 「吉野で同窓会みたいな宴 会と宿泊、 近くの飲食店でランチ、 イベントでグッズ購入や声優トークショー の入場券を買うことで、楽しさを感じつつお金を使う。そうすれば、地域に 少しでもお金が入り、イベントも長く続くと思う」「吉野の観光地や『咲』 の舞台地を観光し、店で地域の人と交流できることが楽しいし、うれしい」 「自分達を受け入れてくれている、歓迎してくれている感じがすごくする。 単なる『お金を使ってくれるありがたいお客』ではなく、 『親戚のおっちゃ 4.
(5) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. ん』が自分の営む店に来て飲食して飯代を渡して、会話までして帰って行っ た。そんな感じで、家族として歓迎してくれているみたい」等のコメントが 得られ、いわゆる“ありがたいファン” (イベントに参加し、そのイベント でお金を使ってくれる・消費してくれるファンのこと)といえる。これらか ら、参加するファンが『咲』の舞台地である吉野を愛し、イベントの事情を 理解した上で協力的な行動をとっていることが分かった。特に、地域と運営 側が期待する吉野での消費行動をファンが自ら行い、イベントを開催する実 情を理解して『消費行動で協力し、吉野に貢献しよう』という思いが伝わる。 そして、「運営側と運営側」という切り口から「運営側はどう運営すべき で、地域の人々や企業、ファンにどう受け入れてもらえるか」についてであ る。運営側は「イベントの準備・開催を整え、その運営を完遂させる」とい うスタンツで、山本氏・古田氏・筆者の3人を中心に、各自の仕事や研究内 容がマッチし、 『咲』を通して吉野を愛し、 『イベントを通して地域活性化を したい』という同じ志から取り組み始めた。 しかし、その志だけではコストがかかるイベントは開催できない。では、 本イベントを開催するのに必要なことを「経営の5資源」で考える。すなわ ち、「経営の5資源」でいう「ヒト」「モノ」 「カネ」 「情報」 「ナレッジ」は 本イベントではどうだったのか。 「ヒト」は3人を中心にして各自の得意分野でイベントの内容を詰めてい き、イベントの内容の強化や実施には外部人材(本イベントでは、立命館大 学映像学部教授の中村彰憲先生、漫画家の緒方てい氏等)やイベントスタッ フをしたい大学生を呼び集めてイベントの内容を強化できた。 「モノ」は必要最小限のものは購入するが、知恵を出し合って既に所有し ているものをできるだけ使えばよいようにした。 「カネ」は奈良県の「新たな文化活動チャレンジ事業補助金」で上限50万 円を補助可能とされ、イベントでの収入で黒字化できる算段がついた。 「情報」はイベント当日に別のイベントの開催情報や『咲』の登場キャラ クターを演じた声優のスケジュール情報、ファンの立場からどんな情報をい つまでに発信するか、問い合わせやリツイートのコメント等を考えつつ、情 地域創造学研究. 5.
(6) 論文. 報の送受信を行った。 「ナレッジ」は3人のこれまでの経験から、イベントに必要不可欠な内容 (本イベントでは声優トークショーとグッズ販売)を決め、「どうイベント 会場で行えば効率的に進行できるか」「ファンに喜んでもらえる内容をどう 効果的に行えるか」等のノウハウを議論して“形式知”としてマニュアルや 進行台本に落とし込んだ。 このように、地域(地域の人々や企業との地域連携)・ファン(ありがた いファンの獲得と維持)・運営側(地域もファンも喜ぶイベントの企画・準 備・開催の取り組み)の3者がそれぞれ理解・協力してイベントを楽しむ・ 成功させることを自然とできるようになった。. 1-3.本イベントにおける3者の関係性からコンテンツビジネスへ 前述したように、地域・ファン・運営側の3者がお互いを慮りながら、そ の場所や作品を大切にし、お互いの活動を尊重している。これらは3者がそ れぞれ自分自身でできることから始めて、継続的に取り組んで拡大・発展で きる原動力となり、地域振興に少しでも貢献できている。それは、地域共創 にも繋がり、現在に至っている。 そもそも、3者は『咲』を中心・コアにして繋がる縁があり、地域は“舞 台地が住んでいる場所” 、ファンは“そもそも『咲』が好きで、舞台地の吉 野に行って観光・イベントを楽しみたい” 、運営側は“吉野をイベントで盛 り上げ、地域振興をしたい”で集結している。すなわち、 『咲』という“コ ンテンツ”があり、 それから派生した先に3者の考えがあり、集結できている。 よって、“コンテンツ”が3者を引き寄せ、3者の理解・協力が互恵関係 を生ませ、消費行動が起こる地域振興になり、吉野でのビジネスになった。 さらに、地域共創を始める第一歩を踏み出す場にもなり、本イベントはコン テンツと3者があることで開催できた。 この状況を鑑みれば、岡本(2015)での「 「コンテンツ」を動機とした観 光・旅行行動や「コンテンツ」を活用した観光・地域振興」1に当てはまり、 それは「コンテンツツーリズム」であると定義している。さらに、国土交通 6.
(7) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. 省・経済産業省・文化庁(2005)はコンテンツツーリズムを「地域に関わ るコンテンツ(映画、テレビドラマ、小説、マンガ、ゲームなど)を活用し て、観光と関連産業の振興を図ることを意図したツーリズム」2 と定義して いる。そして、増本・鑓水・西堀(2017)はコンテンツツーリズムを「映 画やテレビドラマ等のコンテンツを視聴した人が観光・旅行行動を起こして、 舞台地である地域(アニメ聖地)を訪問・探訪し、その地域でお金を使うこ と(消費行動)で地域振興を目指すこと」3 と定義し、 「ファンの人々が舞台 地を訪問・探訪し、地域の人々との交流(対話する、飲食する、宿泊する等 の人と人とのコミュニケーション)が大前提かつ必須条件となり、コンテン ツツーリズムはこれを基盤にして考察・研究する必要がある」4 と述べている。 本イベントは前述したように、吉野の公的機関や寺社仏閣、地元企業等と 連携して持続的に開催しているイベントのひとつである。確かに、持続的に “祭り”なイベントを準備・開催して地域を盛り上げることは必要であるが、 それがどんな環境下にあってどれぐらい地域に貢献できているのか、さらに イベントに参加するファンの満足を高めつつ開催できているのか、これらを 考察することは今後のイベント準備に必要不可欠な情報になる。また、その 情報はマーケティングの観点・概念に照らし合わせて立ち位置を確認し、い わゆる“じわじわ効力を発揮して成される”地域振興に繋がると考えられる。 これらのことから、マーケティングの観点・概念から本イベントを捉える ことはコンテンツを使った地域共創と地域振興になり、まさにコンテンツビ ジネスとして成立する。 では、本イベントを「コンテンツビジネス」とするにはどうすればいいか。 それは、地域・ファン・運営側の3者が「自分自身でできることは何か」 「自分以外の2者のために何ができるか」 「3者が理解・協力して継続的に取 り組んでいくことでどこに到達するのか」を明らかにすることである。 まず、「自分自身でできること」は「各自が持つお金やサービスをどれぐ らい使うことができるか」 「自分自身が潰れない程度の協力でどんな内容を 出せるか」を考えることである。 次に「自分以外の2者のために何ができるか」は「自分にできる範囲で2 地域創造学研究. 7.
(8) 論文. 者にそれぞれ何をすれば喜ぶのか」 「2者がさらに拡大・発展するきっかけ を提供し、自分がサポートに徹すればよいことは何か」を考えることである。 そして、「3者が理解・協力して継続的に取り組んでいくことでどこに到 達するのか」は「目的・到達点(ゴール)・通過点を明確にし、現時点での 進捗を把握して前進すること」 「前進するスピードは3者同士のコミュニケー ションの活発さが生み出すので、3者の士気・気持ちの現状を把握すること」 をすることである。 このように、“地域の人々や企業との地域連携” ・ “ありがたいファンの獲 得と維持” ・ “運営側、運営側のイベントの準備・開催への取り組み”の3つ がそれぞれ自律的に発展してそれぞれシステム的に自立できるようになり、 ひとつのイベントを成功させるために3つが錦を織りなすかのように交わっ てでき上げていくことが必要になる。そこには、地域の歴史や文化を大切に しつつファンを歓迎し、ファンがありがたいファンとして地域と交流し、イ ベントを楽しむことがある。それを運営側が「経営の5資源」等の活用でイ ベントを準備・開催していくのである。. 1-4.小括 この章を小括すれば、前述してきたものの到達点は「コンテンツによる地 域共創」である。なぜならば、 『咲』というコミックやサブカルチャーイベ ント等のいわゆる“コンテンツ”がファンを吉野に集め、ファンが観光かつ 地域での消費と交流を行い、地域の人々や企業がそのファンを歓迎・受け入 れている現状があり、吉野という地域を共に新たに作り出す意味の「地域共 創」がここに誕生している。 さらに、“ありがたいファン”は地域活性化を意識して、地域の企業の飲 食物や土産物を購入し、温泉旅館に宿泊までする消費行動を行っていること から、地域振興に繋がり、3者に互恵関係が生まれることから「ビジネス」 が生じていくのである。. 8.
(9) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. 2.マーケティング理論からの本イベントの分析 本イベントをコンテンツビジネスとして捉える場合、まずもって、代表的 なマーケティング理論で、マーケティングの成否に影響を与える「環境」 「競争地位戦略」「3つの基本戦略」を考えるべきであろう。 高橋(2011)は、観光マーケティングの環境分析を行い、風を読み成功の 鍵を見つける手段として、「マクロ環境」「ミクロ環境」の分析、SWOT分 析等を採り上げている5。 大薮(2010)は、フィリップ・コトラー(Philip Kotler)の競争地位戦略 を用いて観光マーケティング戦略を述べている6。 よって、本論でも、マーケティングで代表的な理論である「環境」「競争 地位」「経営戦略」の3つの切り口から本イベントを分析する。. 2-1.PEST分析 環境は「マクロ環境」と「市場環境」に大別され、前者は主としてPEST 分析、後者は主としてSWOT分析を行う。 PEST分析は下記の図2のように表される。. 図2 PEST分析 図2の概要を述べる。 まず、P(Politics:政治環境)は企業経営の規制や成否に影響を及ぼす法 律や条例の施行があり、政治が主導権を発揮して規制の緩和や撤廃をするこ ともあり、これらの政治や法律・条例の動きを短・中・長期の時間軸で考え 地域創造学研究. 9.
(10) 論文. る。その考えた結果をP行の枠内に入れて分類する。 次に、E(Economy:経済環境)は消費者の賃金や可処分所得の上昇、経 済成長率や国民1人当たりのGDPの増減等があり、これらの経済や景気の 動きを短・中・長期の時間軸で考える。その考えた結果をE行の枠内に入れ て分類する。 さらに、S(Society:社会環境)は少子高齢化社会の到来、家族の形態や 関係の変化等があり、これらの社会や文化の動きを短・中・長期の時間軸で 考える。その考えた結果をS行の枠内に入れて分類する。 そして、T(Technology:技術環境)はwebやスマートフォン等の普及が あり、これらの技術やインフラの動きを短・中・長期の時間軸で考える。そ の考えた結果をT行の枠内に入れて分類する。 このような観点から、本イベントをPEST分析した場合、サブカルチャー イベントは日本全国で開催され、その目的は地域の町おこしや活性化とされ ている。さらに、吉野でイベントを開催し続け、人々や企業が協力的になっ てきてくれたことも、大きな社会変化である。一方で、奈良県が補助金事業 として本イベントを金銭的に補助することを決定したのも、行政として支援 してもよいという社会的な同意が得られる環境下にある証左といえる。そし て、ファンは自分達の可処分所得からイベント参加を考え、地域での消費行 動をしている。 これらのことから、本イベントはPEST分析の全体的な観点から照らし合 わせば問題ないといえる。. 2-2.SWOT分析 一方のSWOT分析は右記の図3のように 表される。 図3の概要を述べる。 SWOT分析は自社の製品・サービスを 脅かす存在となる代替品の出現等があり、 図3 SWOT分析 10.
(11) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. 企業が属する市場環境の具体例的なものだと考えられ、自社の経営資源や 環境の優位性を確認し、その枠組みを戦略立案に役立てる分析方法である。 SWOT分析は、内部要因と外部要因、プラス面とマイナス面の2軸でS・ W・O・Tを考察する。基本的に、S(Strength:強み)は他社に勝る経営 資源、W(Weakness:弱み)は他社に劣る経営資源、O(Opportunity:機 会)は自社にとって将来の利益や成長を生み出す要因、T(Threat:脅威) は自社にとって将来の損害や障壁を生み出す要因である。 本イベントをSWOT分析した場合、経営資源は「イベントを継続的に開 催して内容も充実しているイベントを企画・準備・実施できるヒトやノウハ ウそのもの」である。 では、SとWは何か。 S は「吉野で継続的にイベントを行い、地域連携ができている」「吉野で イベントを開催する時にはほぼ参加してくれる固定ファンがいる」等であり、 他社が吉野で本イベントのようなものを開催できない程の実績と信頼を得て いる。それゆえに、これらは他社に勝る経営資源といえる。 W は「他の大きなイベントが同日に開催される」 「固定ファン以外の参加 者が集まるであろう声優トークショーが開催できない」等があり、特に「固 定ファンや参加者に期待される程のイベント内容でない」ことになればイベ ントとして失敗する。現時点で吉野でのイベント開催を希望する他社はいな いものの、イベント内容のより一層の充実と高度化に取り組み続けて実績と 信頼を得ていかない限り、S が W に陥ってしまう。 一方、環境は社会環境が当てはまり、 「イベント開催を後押しするいわゆ る公的な“競争的資金”に応募できること」 「吉野でイベントを開催するこ とに賛同・承認を得られること」があり、イベント開催に必要な援助資金と 地元の理解・信頼があってできる。現時点で、 奈良県の「新たな文化活動チャ レンジ事業補助金」 、吉野町長の本イベント開催の挨拶での「交流人口を増 やして吉野を活性化する」という社会環境の理解があって信頼関係を構築で きており、一定水準の環境は整っている。 では、OとTは何か。 地域創造学研究. 11.
(12) 論文. O は奈良県の補助金事業が継続して予算付けされており、「奈良県の活性 化のために必要な補助である」と考えられていることがある。さらに、イベ ントは吉野で観光客が少なくなる冬に開催し、観光のオフシーズンであれば 地元企業からの協力が比較的得易くなる。 Tは補助金がなくなり 7、吉野との信頼関係がなくなることである。また、 継続して開催してきたイベントが不開催になればファンが徐々に離れ始め、 参加者の見込み数やファンの消費行動が減少する恐れがある。さらに、不開 催期間が長ければ長い程、再びイベント開催をするためのパワーは多く必要 となる。それは、一度止まった球を再び動かすための消費パワーは、ゆっく りだが動いている球を速く動かすための消費パワーよりも多くかかってしま うことに似ている。. 2-3.競争地位戦略 SWOT 分析を行った後、どんな経営戦略を立案すべきか。コトラーは、 他社との競合・競争的な地位を見定める「競争地位戦略」を提唱し、マーケッ トのシェアから同一業界で鎬を削る企業(多くの場合は複数の企業)につい て、質の高低と量の多少という2軸を用いて経営資源をマトリクスで表した。 すなわち、マーケットでの“リーダー” ・ “ニッチャー” ・ “チャレンジャー” ・ “フォロワー”の4つであり、業界内の各パワーによって決まる地位に応じ て企業が取るべき経営戦略の目標を提示した。 これらを下記の図4に表す。. 図4 競争地位戦略 12.
(13) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. 図4の概要を述べる。 これは、経営資源を“質的に高いか低いか” ・ “量的に多いか少ないか”で 大別することでポジションを明らかにするものである。量的かつ質的に経営 資源が豊富な状態であれば「リーダー」 、量的経営資源は多いけれども質的 経営資源が低ければ「チャレンジャー」 、量的経営資源は少ないけれども質 的経営資源が高ければ「ニッチャー」 、量的にも質的にも経営資源が少ない 状態が「フォロワー」となる。ポジションが明確になれば、即、各基本戦略 は全方位(フルライン)戦略、差別化戦略、ニッチ・専門化戦略、模倣・低 価格戦略と分かる。 各ポジションに適した戦略は、その企業のシェアや業界地位に関わり、そ れぞれが採るべき経営戦略は違ってくる。 「リーダー」はシェアにおいてナンバー1を誇る企業で、全方位的に活動 するパワーがあり、大規模かつ幅広い活動を行えばよい。 「チャレンジャー」はリーダーに次ぐシェアを保持し、リーダーに競争を 挑める企業ではあるが、そのシェアの差があまりにも大きいと挑むどころで はなく、次席を確保し続けることに全力を尽くすことになる。 「ニッチャー」は、シェアも企業の規模もミニサイズだが、特定の分野に おいては専門化した強さを持ち、その強さで独自の地位を築くことになる。 それには、常に強さに磨きをかけ、他社を追随させられない程の独創的かつ 高レベルなものに昇華する必要がある。 「フォロワー」は、リーダーやチャレンジャーの戦略を模倣し、「今の経 営体力で可能なことは何で、それが低価格で実現できるか」を考え、シェア を獲得・維持していく必要がある。 本イベントを経営資源での経営戦略の採り方で分析した場合、運営側は吉 野でのイベントを開催する際の特定のエリアとその市場(特定市場)に強く、 その領域で一定の支持・名声を得たことから、ニッチャーとして存在できて いる。これまで5回開催してきたイベントは、吉野町役場や吉野ビジターズ ビューロー、世界遺産の吉水神社や金峯山寺、吉野の飲食店や宿泊施設と連 携して継続的に開催している。現在では、吉野にマッチする衣装を着た独自 地域創造学研究. 13.
(14) 論文. キャラクターを誕生させ、吉野の名勝地を背景にしてポーズをとるポスター やグッズを制作・販売し、ファンでの知名度を上げてきているように感じる。 さらに、吉野を代表するフードメーカーとのコラボ商品やミニコラボイベン トを交えた宿泊プラン等を実現できたことから、特定エリアでの強い連携と 実績を上げたといえる。採るべき経営戦略は、特定市場に経営資源を集中し て、参加するファンの満足度を高めて連携先の公的機関や企業等の満足度も 高めて、これらを高い状態で維持することである。それには、特定市場をす べて覆い被せて完全に競合他社を立ち入らせず、排除できるようにすべきで ある。これには、地域とはさらなる連携を強化し、ファンとはより一層のお もてなしやコミュニケーションをし続けることで参入障壁を高め、圧倒的な 優位の確保を行うことが重要になる。 一方で、コトラー以外にも、マイケル・ポーター(Michael Porter)の 「3つの基本戦略」があり、それでどう捉えるかを述べる。. 2-4.3つの基本戦略 企業が長期にわたってその業界で平均以上の業績を達成するためには「コ スト・リーダーシップ」 「差別化」 「集中」の切り口から捉え、その「集中」は「コ スト集中」と「差別化集中」に分かれる。 これらを下記の図5に表す。. 図5 3つの基本戦略. 14.
(15) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. 図5の概要を述べる。 「コスト・リーダーシップ」は、業界内で他社よりも低いコストを実現す ることである。完全に同品質なものは出来難いが、消費者が求める一定水準 以上の品質があれば低価格な方を選ぶのが合理的な選択である。 「差別化」は、顧客にとって価値のある、競合相手にはない特異性を実現 することである。差別化ができれば、高価格の設定もできて高い収益性を得 られる可能性がある。それには、差別化した製品・サービスを競合他社に よって模倣されないように、常にイノベーションを行って差別化を持続させ ることが困難であってもやっていかなければならない。 「集中」は、特定の製品分野や顧客セグメントに経営資源を集中し、その 分野での優位性を獲得することである。この内、「コスト集中」は特定の分 野でのコスト・リーダーシップを実現するものであり、「差別化集中」は特 定の分野での差別化を実現するものである。シェアの小さい企業では、競争 優位性を獲得し、さらに高い優位性を獲得するために集中戦略を用いること が適切である場合が多い。 本イベントを3つの基本戦略で分析した場合、「声優トークショー」と 「グッズ販売」が分析の対象になる。 「声優トークショー」に「コスト・リーダーシップ」は関係なく、決めら れた予算での交渉となり、低いコストを追究しても意味がない。また、競合 他社も今のところいないので、同じ規模のイベントを他の場所で開催してい る別の運営側が決定した入場料を参考にし、かつ、入場料を支払うファン の気持ちになって入場料を決定すればよい。ファンが『その声優のトーク ショーに参加したい』と思い、入場料をチェックして、適当・高い・安いと 判断して支払えばそれですべてである。これを逆に考えれば、割引はもち ろんなく、「その入場料を支払えるか」「それに見合うだけの声優か」等で 判断することは、運営側の言い値のような入場料が決定されて、ファンが支 払えばそれは受け入れたことになる。運営側としては、同じ規模のイベント で同じ料金設定にしておくことが今後の開催にとってプラスに働くことが多 いので、“だいたいの同じぐらいの入場料金”を設定する。なぜならば、同 地域創造学研究. 15.
(16) 論文. じようなイベントで横並びの方が「あの運営側は入場料を不当に高くした」 や「こっちの運営側は良心的な入場料なのに、あっちの運営側は搾取してい る」という無用の噂を流されたくないからである。また、無用な噂の火消し にかかる労力と比較して、同程度の入場料で入場者数を増やすための工夫を 考えて実施する労力の方が少なくなる。 「差別化」は『咲』に登場するキャラクターの声優を順次、出演交渉して、 上述した入場料の設定で「舞台地の吉野で、『咲』に関係する声優のトーク ショーを聞ける」という唯一無二の価値でファンの心を掴む。それが、顧客 (この場合はファン)が求める価値で、競合相手のいない吉野での差別化と なる。運営側では「せっかく吉野に来て頂くので、吉野のことはもちろんの こと、奈良県全体のことにもトークの幅を広げてはどうか」との意見が出て、 「クイズに、吉野の特徴である桜や吉野杉、葛を使った料理、世界遺産の吉 水神社や金峯山寺を入れる。声優が答えるまでの思考プロセスをキャラク ターの声で話してもらうことで、ファンは喜ぶだろう。また、ご当地ネタの フリートークができ、他のイベントではなかなか聞けないのではないか」と いう意見を基盤にしてクイズを作成した。また、「吉野の温泉旅館に一泊さ れるので、その旅館で食べた吉野のご当地グルメについて話してもらい、そ れを聞いたファンが食べたいと思っておみやげとして買ってもらえればい い」「声優自身の奈良への訪問があれば、それを聞き、声優になる前のご自 身の昔話を話してもらう」等の意見も出て、声優トークショーの台本を作り 上げた。これらが他のイベントにはないアイデアと地域を融合させた結果の “差別化”となった。 「集中」は「差別化集中」となり、声優トークショーに興味のあるファン にPRし、声優自身が持つtwitterやFacebookでトークショーの告知をしても らえば、既存のマス媒体に巨額な予算で広告をする必要はイベント規模から ないだろう。そのため、トークショーという特定のサービスが特定の顧客に 伝わって、入場料を支払って参加してもらえればよい。 では、 「グッズ販売」はどうか。 「グッズ販売」は、「自分達でグッズを作って販売する」と「他のグッズ 16.
(17) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. の委託販売をする」に大別される。前者は、著作権を自分達が持つように契 約で著作権をすべて買い取ることでオリジナルキャラクターを誕生させ、イ ベント毎にキャラクターのポーズと背景を変える。この絵はアクリルキーホ ルダーにして販売し、かつ、次の章で述べるアンケート回収時にご協力への お礼として進呈するポストカードにもした。また、地元の企業である平宗の 柿の葉寿司の包装紙をキャラクターは同じだが、背景が平宗吉野本店の店構 えとした。アクリルキーホルダーと柿の葉寿司は、本イベント限定なのでレ ア感がファンの中で高まり、両方とも完売となった。 下記の図6に、それらの写真を示す。. 図6 キャラクター特別包装の柿の葉寿司 (左) とアクリルキーホルダー (右) (©緒方てい/アトリエアクア 画像を小さくすることで掲載許可が出た) 値段であるが、柿の葉寿司は通常の値段で販売し、アクリルキーホルダー は製造コストに利益を少し入れた金額で販売した。他のイベントのグッズ販 売と比較して、オリジナルキャラクターを使った商品の値段は同じような価 格になることはなく、値段が同じになったとしても「たまたま同じ」という 結果論にしかならない。 確かに、 「コスト・リーダーシップ」では、規模効果(大量仕入れによる 仕入れコストの低減)や経験効果(累積生産量が増えれば増える程、コスト が低下すること)によって低コストが実現できるといえるが、アクリルキー ホルダーは準備できた数が数十個であり、規模効果には程遠い。 「差別化」はこのキャラクターが本イベントのオリジナルキャラクターで 地域創造学研究. 17.
(18) 論文. あり、競合他社の著作物でもなければ、競合他社にライセンス生産を認める こともない。そのため、オリジナルキャラクターがあることとその販売方法 で差別化が自然とできている。 「集中」は「差別化集中」であり、このオリジナルキャラクターで特定の 分野で差別化がなされている。 一方の「コスト集中」であるが、委託販売であるため、委託元からの価格 設定で販売する。よって、コスト等を考える必要はない。本イベントでは 通常では委託元からしか買えないものが本イベントで初めて委託先で買える ことが本イベントのグッズ販売の web サイトを閲覧したファンを歓喜させ、 委託グッズがほとんど売れた。. 2-5.小括 前述したように、PEST 分析や SWOT 分析等を使って本イベントを分析 した結果、吉野でイベントを開催し、地域の人々や企業、ファンを運営側が きちんと繋いでいることが分かった。さらに、観光オフシーズン時に毎年の ように継続してイベントを開催することから、 “春の桜” ・ “秋の紅葉”に続 く“冬のイベント”ということで本イベントを開催できている。また、オリ ジナルキャラクターを誕生させ、差別化できていることが強みを発揮し、吉 野でのイベントにしかないグッズが特定分野の商品になった。そして、『咲』 のキャラクターの声優をゲストに招いての声優トークショーも差別化できる ものであり、多くのファンの期待に応えるトークショーになっている。 よって、コンテンツビジネスとしては「声優トークショー」と「グッズ販 売」を2大コンテンツとして位置づけ、吉野で開催する意味を持たせられる トークショーの内容とグッズ販売にすべきである。それが、地域の人々や企 業に「運営側は吉野のためにイベントを開催してくれている」と言ってもら えることになり、 ファンに 「吉野にしかない、 吉野ならではのイベント」と言っ てもらえることになる。地域・ファン・運営側の3者が理解し合い、イベン トを盛り上げ合い、 『ぜひ、ご一緒に』の精神で今後もイベントを開催でき れば地域共創と地域振興で取り組むコンテンツビジネスとして成功できる。 18.
(19) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. 3.アンケート結果から見る本イベントの成果と今後のイベント像 本イベントの参加者数は延べ300人超であり、69人がアンケートに回答し、 その69人にポストカードをお礼として進呈した。マーケティング・リサーチ のプロセスのひとつでもある「データ分析」を行うべく、回答を確認したと ころ、未回答の部分があるアンケート用紙が7枚あり、すべての項目に回答 したのは62人分であった。 アンケートで確認したいことは、 「本イベントに参加する目的は何か」と「本 イベントにいくらぐらい消費したか」である。この2点が分かれば、次回以 降のイベントの内容をどうすればいいかがおおよそ分かり、満足度を高める べく取り組む内容が決まる。 なお、本アンケートは筆者の研究として行ったものであるが、現在、運営 側で『吉野アニメ聖地巡礼フェスタ事業報告書』を共に作成中であり、その 報告書にグラフや表を掲載する予定である。そのため、同じようなグラフや 表があるのは「運営側全体として、何か、少し違和感がある」との意見があ り、本イベントの開催費用や事業報告書の印刷・製本費を負担するのは運営 側であるので、本論は文字のみとなった。. 3-1.アンケートの概要結果 まず、アンケート回答者の内訳は、男性60人・女性3人・性別記入なし6 人である。年齢層別にみると、10代男性2人、20代男性17人、30代男性24人、 40代男性15人、50代以上男性2人、20代女性1人、30代女性1人、40代女性 1人、20代性別不明1人、30代性別不明4人、50代性別不明1人となった。 次に、本イベントは通算で第5回目のイベントだが、参加回数は、初参加 が27人、2回目が32人、3回目が6人、4回目が1人、5回目が2人、記入 なしが1人となった。 また、「何人で参加したか」(その内訳は複数人ならば友人同士か家族 か)を質問し、1人で参加37人、2人で参加11人(その内訳は、友人同士で 5人、親子で1人)、3人で参加6人(その内訳は、友人同士1人、家族1 人) 、5人で参加2人(その内訳は、友人同士で2人)、6人以上で参加13人 地域創造学研究. 19.
(20) 論文. (その内訳は、友人同士で12人)となった。複数人で参加して友人同士・家 族で人数が違ってきたのはアンケートに回答する人と回答しない人が出て、 どんな関係かも記載がなく、はっきりとしていなかった。しかし、参加者の 関係性がある程度は垣間見えるものであり、「イベントを友人同士という大 人数で楽しむ」という運営側としては喜ばしい結果が出た。 そして、本イベント全体の満足度は、非常に満足が28人、やや満足が25 人、どちらともいえないが10人、やや不満が4人となった。この「どちらと もいえない」では「グッズ購入のみの参加なので、来たばかりになってしま い、判断できない」という但し書きをしたアンケート用紙があった。「やや 不満」では「ミニチュア模型の撮影教室が楽しみだったのに、参加者が少な いために事実上の中止になったことが残念」という但し書きをしたアンケー ト用紙があった。 「非常に満足」と答えた人は何が目的で参加したのかについて、複数回答 可能で回答してもらい、声優トークショーに参加するため15人、吉野町で聖 地巡礼をするついでに8人、グッズを購入するため8人、基調講演を聞くた め6人、聖地巡礼・舞台探訪研究事例コンテストに参加するため6人、友人 に会うため6人、コスプレ・ミニチュア撮影教室に参加するため4人、痛車 展示を見るため6人であった。 「やや満足」と答えた人は何が目的で参加したのかについて、複数回答可 能で回答してもらい、声優トークショーに参加するため17人、グッズを購入 するため13人、吉野町で聖地巡礼をするついでに11人、友人に会うため8人、 基調講演を聞くため7人、聖地巡礼・舞台探訪研究事例コンテストに参加す るため7人、コスプレ・ミニチュア撮影教室に参加するため2人、痛車展示 を見るため1人であった。 「どちらでもない」と答えた人は何が目的で参加したのかについて、複数 回答可能で回答してもらい、基調講演を聞くため5人、吉野町で聖地巡礼を するついでに5人、痛車展示を見るため5人、コスプレ・ミニチュア撮影教 室に参加するため4人、友人に会うため3人、聖地巡礼・舞台探訪研究事 例コンテストに参加するため3人、声優トークショーに参加するため2人、 20.
(21) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. グッズを購入するため2人であった。 「やや不満」と答えた人は何が目的で参加したのかについて、複数回答可 能で回答してもらい、聖地巡礼・舞台探訪研究事例コンテストに参加するた め3人、吉野町で聖地巡礼をするついでに2人、友人に会うため2人、基調 講演を聞くため2人、声優トークショーに参加するため1人、痛車展示を見 るため1人であった。 これらの結果から、満足度の高い「非常に満足」「やや満足」では、第1 位が声優トークショー32人、第2位がグッズを購入するため21人、第3位が 吉野町で聖地巡礼をするついでに19人となり、第1章と第2章の各小括で述 べたことと合致する。. 3-2.本イベントに参加する目的は何か この質問項目は複数回答を可としている。声優トークショーに参加するた め35人、吉野町で聖地巡礼をするついでに26人、グッズを購入するため23人、 基調講演を聞くため20人、聖地巡礼・舞台探訪研究事例コンテストに参加す るため19人、友人に会うため19人、コスプレ・ミニチュア撮影教室に参加す るため10人、痛車展示を見るため7人であった。 これらの目的の結果から、本イベントの強みである「声優トークショー」 と「グッズ販売」に多くの回答が集まったことは、強みとニーズが合致して いると判断でき、次回もこの2つをすべきであるといえる。また、本イベン トの目的である“冬のイベント”で少しでも吉野に観光客を増やしたいこと にマッチする「吉野町で聖地巡礼するついでに」にも多くの回答が集まり、 目的を達成できた証左といえる。. 3-3.本イベントでいくらぐらい消費したか この質問項目は、まず、「往復の交通費(現住所・お住まいから本イベン ト会場まで)」を質問し、5千円未満が35人、5千円以上1万円未満が12人、 1万円以上1万5千円未満が3人、1万5千円以上が6人、近所なので徒歩 or自転車or自家用車で来たが10人、友人達と自動車に乗り合って来たが3人 地域創造学研究. 21.
(22) 論文. となった。5千円未満が大半なのは、奈良県から参加が18人、大阪府から参 加が14人であり、合計32人は近鉄電車に乗って来たと想定すれば5千円未満 となる。1万5千円以上は東京から参加が7人であり、東海道新幹線やLCC、 夜行高速バス、大阪・京都からの近鉄電車の往復料金に相当する。これらの 未満・以上の金額を計算する際、運営側では「5000円未満は5000円そのもの と計算し、5千円以上1万円未満は5千円と9990円(紙のきっぷは10円単位 のため)でそれぞれ掛け算し、おおよその金額を出す」と決定しているので、 それに則って計算すれば36万1千円から43万5850円までを往復の交通費に 使ったとなる。 次に、「現地で販売したグッズ等の購入」は複数回答可とし、コラボ商品 (本イベントキャラクターを使った特別包装の柿の葉寿司)を16個、アクリ ルキーホルダーを7個、過去4回のイベントで販売したものと本イベントの 委託販売品のグッズ131個、名産品(吉野の地酒、コラボ商品以外の柿の葉 寿司、葛を使った商品)を9個、それぞれ購入したとアンケートに記載して いる。金額では、コラボ商品1個780円、アクリルキーホルダー600円、グッ ズ平均800円、名産品平均1000円と計算すれば、合計13万480円となる。 また、飲食費は数百円代が18人、1千円以上2千円未満が29人、2千円以 上3千円未満が6人、3千円以上が6人となり、前述した「往復の交通費」 の計算方法(ただし、飲食の消費税の関係で10円単位を1円単位にする)に 則れば7万6982円から11万1947円までを飲食費に使ったとなる。なお、この 飲食費には旅館やホテルで宿泊して付いてくる朝食や夕食は除いて計算する ようにアンケート用に記載して呼びかけたので、例えば吉野の飲食店での食 事や自動販売機の飲料等の購入代金として計算したと考えられる。 そして、宿泊費は数千円代が5人、1万円以上1万5千円未満が14人、 1万5千円以上2万円未満が2人、2万円以上が1人となり、前述した「飲 食費」の計算方法に則れば23万9995円から31万9979円までを宿泊費に使った となる。. 22.
(23) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に―. 3-4.小括 前述したように、本アンケートから分かるファンの往復の交通費等で使っ た消費行動の金額の合計は80万8457円から99万8256円となった。本アンケー ト以外の消費行動では、声優トークショーの入場料1人1800円、痛車展示の 登録料(四輪車1台2000円、二輪車1台500円) 、コスプレ・ミニチュア撮影 教室1人2000円があり、どれにどれだけの人数が集まったかは本アンケート の範疇外であったために把握できていない。 本イベントは奈良県の文化活動補助金を得ているので収支清算書を出す必 要があり、それによると、支出総額は108万6645円で、奈良県補助金は補助 対象経費から入場料等の収入を引いた額の半額(上限50万円)の48万3385円 が出た。よって、差し引き60万3250円を自己負担ではなくてペイできれば 赤字にならないが、声優トークショー等の収入や委託品販売手数料等が入 り、「ほんの少しだけ黒字になった」程度である。ただし、運営側のスタッ フ全員がボランティアで、ギャラは0円である。これは『吉野のためになり、 ファンが喜んでくれるから、それでよい』との合意から0円としている。 よって、本イベントは赤字にならず、アンケート結果によるファンの消費 行動が金額で80万8457円から99万8256円になったことは、地域振興に繋がる 結果を出せたといえる。 今後のイベント像を考えれば、地域・ファン・運営側の3者がお互いを慮 りながら、『咲』というコンテンツの聖地や作品観を大切にしつつ、お互い の活動を尊重することである。それには、地域の振興と活性化、地域共創を 3者が継続的に取り組んで行くことが求められる。地域には「聖地になる意 味を理解し、ファンを歓迎して一緒に楽しむ」ことが、ファンには「作品を 愛し、マナー良く、消費行動し、一緒に楽しむ」ことが、運営側には「地域 とファンを繋ぎ、イベントで何でも積極的に取り組んで実現させ、一緒に楽 しむ」ことが、それぞれに求められる。 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネスとして は、地域・運営側は「イベントを作り、売る物やサービスを決めてファンに 売る」、ファンは「地域・運営側が売るものを買い、自分以外のファンにも 地域創造学研究. 23.
(24) 論文. 買うように伝えて、今後のイベントに資する消費行動をする」ことがやるべ きこととなり、『次も、ぜひご一緒に』と3者が思えるような互恵関係にあ ることが求められる。そうなれば、地域から「運営側は吉野のためにイベン トを開催してくれている」と認識され、ファンから「運営側は吉野にしかな い、吉野ならではのイベントを開催してくれている」と認識され、地域共創 と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネスとして成功できる。. おわりに これまで、本イベントを事例に、地域共創と地域振興で取り組む地域に根 差したコンテンツビジネスについて述べてきた。地域に根差したコンテンツ ビジネスはマーケティングでいう差別化ができることが重要で、本イベント のような地域色をイベント内容に活かし、地域・ファン・運営側の3者が互 恵関係にあることでなされる。3者の互恵関係を維持・発展できるキーワー ドは『次も、ぜひご一緒に』であり、これが地域共創と地域振興で取り組む 地域に根差したコンテンツビジネスとして成功できる基盤になる。. 註 1 2 3 4 5 6 7. 岡本(2015)p.10 国土交通省・経済産業省・文化庁(2005)p.49 増本・鑓水・西堀(2017)p.24 Ibid. , p.25 高橋(2011)pp.56-69 大薮(2010)pp.50-52 補助金は、平成29年度で「新たな文化活動チャレンジ事業補助金」は廃止され、 「未来へつなぐ文化活動ステップアップ補助金」に変更され、平成 30 年度の 奈良県大芸術祭・奈良県障害者大芸術祭の開催期間(平成30年9月1日から11月 30日まで)に主要なイベントを行うという条件がある。. 参考文献 1 大薮多可志(2010)『観光と地域再生』、海文堂 2 岡本健編著(2015)『コンテンツツーリズム研究-情報社会の観光行動と地域 振興-』、福村出版. 24.
(25) 地域共創と地域振興で取り組む地域に根差したコンテンツビジネ―奈良県吉野町でのサブカルチャーイベントを事例に― 3 国土交通省・経済産業省・文化庁(2005)「映像等コンテンツの製作・活用に よる地域振興のあり方に関する調査報告書」 4 高橋一夫(2011)『観光のマーケティング・マネジメント~ケースで学ぶ観光 マーケティングの理論~』、JHRS 5 増本・鑓水・西堀(2017)「「コンテンツツーリズム」の研究とは-諸学・ フィールドワークからのアプローチを手掛かりにして-」、地域創造学研究35、 奈良県立大学研究季報第28巻第1号. 地域創造学研究. 25.
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