体験型ワークショップ用��ト��アの開発
原田康徳 [email protected] NTT コミュニケーション科学基礎研究所 概要 もともとアートや研修などの現場で行われてきた体験型ワークショップ(体験型学習,表現活動)も,近年コンピュー タを用いたものが見られるようになってきた.特に子どもを対象としたワークショップはブームになりつつある. 本発表は著者が開発したビジュアル言語 Viscuit を用いた様々な子供向けワークショップの経験を紹介するとと もに,スムーズにワークショップを進行する上で,システムをどのように開発するべきであるかを考察する. 1.はじめに IT を用いた体験型ワークショップがブームで ある.もともと,問題解決,トレーニングの手法, アーティストによる表現活動であった体験型ワー クショップであるが,最近では子ども向け創造 性教育の視点で注目を集めるようになってき た.たとえば,日本において,子ども向け参加 型創造・表現活動を推進する NPO CANVAS が主催するイベント,ワークショップコレクション 1)は,2004 年からスタートしたが,出展された ワークショップ数と来場者は図1のようにうなぎ のぼりである.また,2008 年の 70 件あるワーク ショップの内訳は,アナログアートが主流では あるが,コンピュータや電子工作など IT が関 係しているワークショップも23件にのぼり,子 どもの表現活動に IT の力は不可欠になって きている. 著者は Viscuit2)の普及活動の一環として 2005 年から 3 年間,同ワークショップコレクショ ンに出展している.また,それ以外にも年間数 回のワークショップを開催し,成功を収めて来 ている.たとえば,2008 年夏休みに行われた ICC キッズプログラムにおいては,1 ヶ月半の 会期で合計 1 万作品が子どもたちによって作 られた.Viscuit を目当てに何度も来場してくれ た子どももいた. この ICC での成功で重要な点は,説明員 (ナビゲータ)は非常に少ないトレーニングしか 積んでいないにもかかわらず,大きなトラブル もなく進行できたことである.通常,創造性をも たらすソフトウェアは,ペイントソフトのようによ く知られた操作法のものでない限り,説明員の 仕事は非常に負荷が大きく,長い訓練を必要 とするものである.Viscuit はその敷居が非常 に低かったと考えることができるであろう. Viscuit がそのようなシステムに変化したのは, 数多くのワークショップの経験と改良によるも のである.ワークショップの本番中にシステム のアップデートをしたことも少なくない. 本稿は,これまでの著者の経験と考察を整 理するものである.ただし,科学的な裏づけは していないので,体験談として読んでもらいた い.また,体験型ワークショップというエキサイ ティングな領域に,より多くの IT 系研究者が 興味を持ってもらうことも願って書く. 2.IT を用いた体験型ワークショップの実例 体験型ワークショップとはどういうものであろう か.きちんとした形式が決まっているものでは ないが, 標準的なスタイルは次のようなものである. 図 1:ワークショップコレクションの来場者数と ワークショップ数 2004 2005 2006 2007 2008 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 0 10 20 30 40 50 60 70 80 ワークショップ 数 来場数1)準備 参加者の緊張を取り除く.参加者やスタッフ の名前を覚えるなど. 2)説明 これからやることの説明.直接説明する場合 もあるし,物語風に間接的に説明する場合も ある.たとえば,「あなたは探検隊の隊長です. いま無人島に居ます」のようなスタイル. 3)技術的な説明,注意事項 もうひとつメタな説明.ソフトの操作法とか, ルールとか,休憩時間,進行とか. 4)制作開始 個人で作る,グループで作るなど.ディスカッ ションの時間がとられる場合もある. 5)制作終了 6)発表会 それぞれの作品について発表しあう. 7)振り返り ワークショップの形態や時間などでいくつかは 省略される場合もあるが,IT を使ったワーク ショップの場合,特徴的なのは3)と4)である. アナログの素材を使ったワークショップでは, 基本的な道具の注意事項(たとえばカッター はこう使うと危ない)程度でよいのであるが,ソ フトウェアは説明が非常に難しい.口頭で 1 回 説明した程度ではほとんど理解されないので, 技術的説明と制作を何度も細かいステップに 分けなければならないこともある. ワークショップでは進行役の他に,参加者の 細かなケアのためのスタッフがいる.これらの スタッフをファシリテータと呼ぶが,ファシリテー タの質と人数の充実度がワークショップの成功 に大きく関わってくる.理想的には,経験豊か なファシリテータが参加者 4 名程度に一人の 割合で担当する.しかし,必ずしもすべてのワー クショップでファシリテータが充実しているわけ ではない.人件費に関わるので,潤沢な予算 がない場合,ファシリテータをボランティアで募 る場合も少なくない.し,人数が極端に少ない 場合もある. このように,IT を使ったワークショップの場合, とくにファシリテータに高いスキルが求められ ているにもかかわらず,そうも行かないのが現 状である.そこで,ワークショップに適したソフト ウェアと,進行スタイルの改良が求められてい るのである. 3.ワークショップ用ソフトウェア ワークショップのためのソフトウェアは一般的 なソフトウェアにはない性質や実行条件がある. 一般的なソフトウェアが使用されるのは,家 庭や職場などユーザが単独の場合が多く,マ ニュアル,操作ヘルプなどが充実している必 要がある.それに対して,ワークショップではファ シリテータがついていることで,操作法,使い やすさに関して,一般的なソフトウェアよりも基 準がゆるくできる. ところが,対象が大人用,子ども用で比べる と,ダブルクリックや右ボタンメニューなど子ど もが操作しにくい(教えにくい)アクションや, 文字による解説など,子ども用のインタフェー スのデザインで制約を受ける. 少し,話がそれるが,ソフトウェアのレベルを やさしい順で示すと, 1) デモレベル:製作者のみが操作できる.バ グが残っていたりして,特定の操作列を無意 識に回避したりする. 2) 大人用ソフトウェア:解説者が横について いることで,操作できる. 3) 大人用製品:解説者がいない状態で操作 できる. 4) 子ども用ソフトウェア:解説者が横につい ていることで,子どもが操作できる. 5) 子ども用製品:解説者がいない状態で, 子どもが操作できる. ここで,2)以上だと大人用のワークショップで 使えるソフトウェア,4)以上だと,子ども用のワー クショップで使えるソフトウェア,ということにな る.子ども用の製品を作るのは非常に難しい けれど,ワークショップを対象として間にはさむ ことで,製品化一歩手前の状態でシステムを 鍛えることができる. 一方,ワークショップの実情を踏まえて,その 進行を直接支援する機能を入れることも重要 である.例をいくつか列挙しよう.
1) ファシリテータ支援 基本的に優秀なファシリテータが充実してい れば,どんなソフトウェアであってもワークショッ プは実施できる.これは逆に見ると,優秀なファ シリテータが少ない状況でも問題が顕在化し ないように,システムができることはできるだけ やらせるということでもある.これが最後には製 品レベルのデザインへとつながる. 2) 準備・後片付けの支援 ソフトウェアを PC にインストールする手間が ある.PC は数十台におよぶ場合もあるので, インストールの手順が一つ少ないだけでも大 きな改善になる.開発途中のシステムの場合, 本番直前まで変更が行われ,インストールはさ らにその後となる.また,PC を借りている場合 など,終了後にインストールしたソフトウェアを 削除することを求められる場合もある. Web ベースでアプリケーションを配布すれば, 手間が非常に楽になる.アプリケーションの起 動パラメータは URL のパラメータとして指定し, 様々な状況でアプリケーションの振る舞いを替 えたいい場合でも,Web ページのリンクのクリッ クを替えればよいだけである. 外部のネットワークが安定していれば,サー バを外部に置くこともできる.ワークショップの 進行中から作品ができるたびにインターネット に作品が公開され,インターネットのダイナミッ ク感を直接子どもたちに体験させることになる. 3) 発表会向け支援 発表会は,大きなスクリーンにつないだ PC 上で行うことが多い.みんなに見せるという行 為が,非常に重要であり,その演出に大きなス クリーンは適している(各自の制作している PC の周りを回って歩くということでも,発表会は可 能であるが,効果は格段に違う).参加者が制 作した作品がローカルなマシン上に保存され るのであれば,それを一つの PC に集める必 要がある.その作業はそれなりに時間がかか る(参加者自らできない場合が多い)ので,ワー クショップの進行上の工夫が必要となる. サーバ上に作品が保存されるようなシステム 構成であれば,発表会はサーバ上に保存され た作品を見せることで,簡単に実現できる.発 表会ではなくても,進行途中で誰かの作品を 取り上げて,それに対したコメントを参加者全 員に伝えたい場合も,サーバ上のその際も問 題なく実行できる. 発表会にはその他の形式がある.随時参加 型のワークショップや,参加者が作品を作る速 度が一定でない場合などは,作品ができる度 にみんなに見せることができればよい. 4) ダイナミック性 ワークショップ自身がもつ現場のダイナミック な性質を生かしたシステムが重要である.ワー クショップは最初に計画した通りに進まなくて も,参加者の様子や突発的な出来事に対して, それを生かした柔軟な対応が非常に重要であ る.前準備に時間がかかるシステムでは,そう いった対応は難しい. 5) 広い応用 ワークショップの一つのプログラムは学習上 の学びを持った場合もあるし,単体のソフトウェ アが様々な学びにつなげられるのが理想であ る.たとえば,円の面積の理解を支援するソフ トウェアのような特定の目的の教材とはそこが 異なる.応用が広いことは4)のダイナミック性 にもつながる. 4.ワークショップ対応ビスケット ここではビスケットのワークショップに対応し た拡張について述べる. 4.1.Wiki 的なインタフェース ボタン,アイコン,GUI コントロールなどがテ キスト編集によって簡単に生成できる.たとえ ば,背景の色を指定するには #background C1 C2 というテキストを画面に置く.C1 C2 はある整 数のテキスト表現である.するとそのテキストは 「はいけいのいろ」という名前のボタンに変化し, 置き換わる.そのボタンをクリックするとことで, 背景の色を選択する GUI コントロールが表示 され,それを操作して背景色を決定すると,画 面の背景色が変化するととともに,内部のテキ スト表現においてその色の整数値 C1,C2 が 置き換わる(2つの色を指定するのは2色でグ ラデーションの表現をするためである). このインタフェースには次のような特徴がある.
● 色の選択などパラメータの指定が特殊 な場合,専用の GUI コントロールが使 用できる. ● しかし,そのデータ表現はテキストとい う汎用のものであり,テキストレベルの 編集も(Shift+クリックによって)いつで も可能である. ● ボタンの配置を自由に変更できる. ● ワークショップの進行上不要なボタンを 表示させなくてすむ. ● ボタンの表示名を変更できる(参加者 の対象によっては平仮名や英語などを 使い分ける必要がある) ● システムの拡張が容易(Web アプリで あるから,将来的には外部のサイトで 拡張させることも視野に入れる) ドキュメント自身の属性としてもこのテキスト 表記は使われている.#background 0 0 は背景 が 0(黒)であることを示す属性でもある.この テキストが置かれているドキュメントは,背景が 黒く表示される.同様に,内部状態+特殊 GUI のものに,グリッド,アニメーションの動作 速度,作品のタイトル,作者名などがある. その他の GUI コントロールには,単純に命 令を送るだけのもの(対象の図形のサイズを変 更する,編集モードにするなど),アイコンとし て Viscuit のルールの中に入れて特殊な働き のするもの(キーが押されたかどうかの条件, 音を鳴らすというアクションなど)がある. 4.2.Web アプリ 最初のバージョンの Viscuit はダウンロード 型のアプリケーションであった.しかし,作品の 保存などワークショップの進行上の問題などの ため,今のバージョンは Web アプリとして実装 してある.最近の RIA 技術の進歩により, Viscuit 程度の処理はまったく問題なく動作で きている. Web アプリの一つの特徴として,動作の様々 な引数は URL の中に埋め込むことができると いうことがある. 4.3.展示用の工夫 ワークショップの形態に応じて,発表会や展 示など様々に作品を表示する方法がある. ICC の展示では,プロジェクター 2 台をつな げたスクリーンを巨大なキャンバスとして,参加 者が作ったアニメーションをそこに放すという 仕組みを使った.キャンバスは沢山のコチャコ チャと動くアニメーションでいっぱいになり,そ の中から自分が作った作品を探して喜ぶ(図 2). この形式のワークショップは,参加者全体で一 つの世界観を共有し(宇宙,海,森など)その 世界観にあった,動くものを,参加者全員で作 成するというものである.この表示法の特徴は, 連続的に使用できるという点である.表示用の PC も Web のクライアントとして実装されるが, 定期的にサーバをチェックし,新しく作品が作 られると,画面にその作品のアニメーションを 追加する.PC の能力に依存するが,スクリー ンに最大に表示できるアニメーション数を決め ておき,それを越えると古い作品から順に消え て行く.10人程度の参加者で1時間のワーク ショップを行うと,最初の頃に保存した作品は 消えてしまうので,最後の発表会では,もう一 度,スクリーンを最初に戻して,作品を鑑賞す るなど行われる. 一方,Viscuit の作品は参加者各自が1つの ページに閉じているのが多い.これを連続的 に,順に表示するようにしたのが,図3である. 連続的であればどのような配置でもよいのであ るが,ここではヒルベルト曲線を用いて,時間 軸に沿った1次元の作品列を,2次元上に配 図 2:巨大キャンバスによる展示
置している.表示用プログラムはヒルベルト曲 線に沿ってスクロールするので,画面を見てて 飽きない.また,作品が連続して投稿されても, 2次元上を無限に使うことができる.単純には 横か縦のどちらかの幅を固定して,順に作品 を並べるのであろうが,それだと,スクロールが 単調な動きしかせず,つまらない. 4.4.表現力向上のための工夫 一般に,ワークショップでは,短時間の制作で 表現力が豊かな作品が求められている.その ため,数多くの表には見えない工夫がなされ ている.たとえば,色紙をつかうワークショップ では,準備されている紙の色は,どのような組 み合わせでもきれいな配色になるような色の 紙だけを用意することがある.これによって, 綺麗な配色のノウハウがなくても,ほどほどに いい作品が生まれる.一方で,それをやりすぎ ると,大人の息がかかりすぎたものとなってしま い,子どもの創造性を引き出すチャンスを奪っ てしまう.このバランスは非常に難しい. Viscuit ではお絵かきの部分でいくつかの工 夫をしている.図4は Viscuit のペイント部分で ある. 多くの参加者は,ペイントを開いたときに,描き たいペンの色を選択することなく,描き始める. 初期状態の色が常に同じであれば,その色の アニメーションが非常に多くなってしまう.そこ で,初期状態として選択されている色はランダ ムに(ただし,明度と彩度は明るく鮮やかな範 囲で)設定するようにした. 左下にあるカラフルというスライドバーは作っ た絵に色上の揺らぎを追加するものである.揺 らがせる色相の範囲をこのスライドバーで指定 する.ここでは赤い傘の絵を描いたが,カラフ ルを180度最大にすることで,すべての色相 の傘が作られる.この絵をステージ上に配置 する際に,揺らぎのための乱数が決定され,そ れにしたがって,様々な色の傘が表示されるこ とになる. 以上の,工夫はどれもほどほどな介入である 点に注意して欲しい.細かなところまで自分で 作りこみたい人には関係ないが,あまり気にせ ずに作品を作っても,ひどい結果にはならな いような工夫である. 4.5.描画領域 ペイントの描画領域が円である点も注意して 欲しい.学校や幼稚園で習う絵は四角い画用 紙に描く.四角いキャンバスのペイントのときに, 好きな絵を描くように指示すると,何人かは, 四角いキャンバスを紙として絵を描いてしまう. 地平線があって山があって,空があって,太陽 があって,というタイプの絵である.このような 絵は Viscuit のアニメーションにはまったく適さ ないので,なんとかそういった絵を描かせない 工夫が必要であった.そこで描画領域を円と している. しかし,円を画用紙のようにして絵を描く子ど もはいなくなったが,円を塗りつぶして,丸い 絵にする子どもは増えた.たとえば,ドラえもん やアンパンマンのようなキャラクターの顔など である. 5.作品紹介 子どもたちがワークショップ等で作った作品を 紹介しよう. 図 3:ヒルベルト曲線に沿ったページ単位の 作品の展示 図 4:Viscuitのペイント
図5はサッカーをするアニメーションである. 目の前にボールが来るとそれを蹴って飛ばし ている.ボールを切り上げた後,きちんと足を 戻す動作も作られているので,連続してボー ルを蹴り続ける. 図6は列車のアニメーションである.線路の 上を動くようにアニメーションが作られているが. 動き自体は単純なものであるが,この作品で 注目すべきは,背景を絵で作っている点であ る.Viscuit には背景を直接描画する機能はな い.そのかわり,背景の山,手前の家を Viscuit のキャラクターで作られた絵を沢山配 置することで作っている. 白黒の図ではわかりにくいが,家のや山の部 分の色が異なっているのは,それぞれの絵が 「カラフル」属性を持っているからである. 図7は色が変化する作品.図8は雪が静かに 降る作品.図9は蝶を虫取り網で捕まえるゲー ムである. いずれも Web サイトにてアニメーションの現 物を見て欲しい 3). 謝辞 ワークショップの進行にあたって,子ども文化 コミュニティと SPINAL DESIGN 社のご協力を 頂いた. 参考文献 1) ワークショップコレクション: http://www.wsc.or.jp/ 2) Viscuit: http://www.viscuit.com/ 3) Viscuit の作品: http://develop.viscuit.com/3.0/prosym.html 図 5:サッカーをするアニメーション 図 8:クリスマス 図 7:キラキラ 図 9:ちょう 図 6:列車