原 著 〔東女医大誌 第57巻 臨時増刊頁 562∼567 昭和62年7,月〕
Mycoplasma pneumoniaeによる家族内感染症例の臨床的検討
東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福山幸夫教授) エ バ ト ケイ コ ヨコ タ カズ コ江波戸景子・横田和子
東京女子医科大学 微生物学教室(主任:吉岡守正教授) アラアケミ ナ コ ヤヨシ マスミ ウチヤマ タケピコ荒明美奈子・彌吉 真澄・内山 竹彦
(受付 昭和62年3月18日)Clinical St腿dies on Mycoplasma Pne㎜oniae Infection in Families
Keiko EBATO and Kazuko YOKOTA
Department of Pediatricus(Director:Prof. Yukio FUKUYAMA),
Minako ARAAKE, Masumi YAYOSHI and Takeh敬。 UCHIYAMA
Department of Microbiology(Director:Prof. Morimasa YOSHIOKA>, Tokyo Woman’s Medical Co11age
Clinical manifestations of infection with Mycoplasma pneumoniae in families were studied in 19 patients in 7 familles treated at our hospital during two epidemic periods.
The primary patients in the families, with one exception were between 4 and ll years old age. Secondary patients were infants or adults, again with one exception. The clinical conditions were rnore severe in the primary cases than in the secondary cases. Five of 7 primary patients had pneumonia and 2 had bronchitis. One of 12 secondary patients had pneumonia,6had bronchitis。 Serum CF−antibody titer or PHA−antibody tit6r was higher in the primary cases than in the secondary cases. Throat cultures of M. pneumoniae ware positive in 120f 13 cases−40f 4primary cases and 80f g secondary cases. The positive rate was 92.3%. In one case, it was positive before onset, and in two other cases, it was positive without symptoms. The tirne intervals between cases within a family were O to 40 days, and the average time was 14 days. M. pneulnoniae infection in families was important for the transmission of infection in infants. So we are studying the cell immunity of M. pneumoniae,
緒 言
Mycoplasma pneumoniae感染症(以下Mp感
染症と略す)は自然治癒もあり,予後も比較的良
好であると言われる一方で,種々の臓器への合併
症や重症例なども報告されている.又,約4年の
周期で流行することが報告されている.一般に
Mp感染症は学童に多く,乳幼児には少ないと言
われるが,流行期には多数の乳幼児例が見られ,重症化もまれではない.この伝播経路としての家
族内感染は重要である.Mp感染症は家族内全員
に感染するわけではなく,菌の存在する者全員に
発症するわけでもない.その発症機序については
未だ不明な点も多い.今回我々は少数ではあるが
家族内感染を確認した症例について臨床的に検討
し報告する. 対象および方法1.対象
過去2回の流行において,東京女子医大小児科
外来を受診し,Mp感染症と診断された症例のう
ち,次の方法で家族内感染を認めた7家族!9名に
ついて検討した.このうち昭和54∼55年の流行期
に3家族6名,昭和58∼59年には4家族13名で
あった.各家族の構成人数は4名が6家族,5名
が1家族であった.有症状者または無症状者でも
同意の得られたものについて,血清学的および細
菌学的検査を行った.2.方法
Mp感染の決定は,血清学的には補体結合価
(CF)64倍以上,間接赤血球凝集抗体価(PHA)
320倍以上,又は両者ともペア血清で4倍以上の上
昇を認めたものとした.細菌学的には咽頭よりの
Mp培養陽性例とした.培地はPPLO液体培地又
は寒天培地に義訓意馬血清20%,25%新鮮イース
ト抽出液10%,ペニシリンGカリウム100単位/
ml,酢酸タリウム500μg/mlを加えた.液体培地にはさらにブドウ糖を1%,フェノールレッドを最
終0.002%になるように加えた.分離方法は矢島の 方法1)によった.咽頭を綿棒で強く擦過後,直ちに液体培地にて充分洗い出した後,液体培地又は寒
天培地に接種した.2週間37℃培養後,寒天培地
は集落の出現,液体培地は培地の黄変をMp陽性
とした.結 果
1.Mp家族内感染者の年齢分布
Mp感染と診断し得た7家族19名のうちでは6
歳以下が11名で最も多く,次いで学童(7∼13歳),成人の各4名であった.これを家族内の初発者と
続発者に分けると,初発者7名中0歳1名,4∼6
歳,7∼13歳各3名であった.続発者では12名中
1∼3歳が7名,学童1名,成人4名で,両者に
分布の違いを認めた(表1).2.Mp家族内感染者の重症度
表2に症例の年齢,症状,CF, PHA,培養結果
等の一覧表を示した.臨床症状より,無症状
表1 Mp家族内感染の年齢分布 表2 Mp家族内感染例の一覧表(初発者,続発者) 初 発 者 続 発 者 家族 mo,年齢 性 症状 最高
bF
oHA
最高 培養 No, 年齢 性 症状 最高bF
oHA
最高 培養初発者より フ発症間隔 @(日) (1)
2y
F Br 256× 640× 十 10 1 9yM
Pn 1024× 20480× 十 (2) 10y F Br 512× 20480× 十 17 (3) 39y FUp
/ / 十 16 2 F Pn 32× 40× 十 (1)1y
FUp
32× 640× 一 0 9y (2) 33y F Br / / 十 16 3 F Br 256× 2560× 十 (1) 2y FUp
32× 160× 十 17 5y (2) 31y F none / / 十 / 4 F Pn 1024× 10240× 十 (1)3y
F Br 4x> 40×〉 十 14 6y (2) 34y F none / / 十 / 5 7moM
Pn 1024X 640× / (1)2y
F Br 32× 5120× / 20 6 11y F Pn 64× 10240× / (1)1y
F Pn 32× 2560x / 10 7 5yM
Br 32× 2560X / (1)2y
M
Br 4× 40× / 40 Pn:肺炎 Br:気管支炎 Up:上気道炎 none:無症状 一563一(none),上気道炎(Up),気管支炎(Br),肺炎(Pn),
の4型に分類した.上気道炎は鼻咽頭炎症状のみ
のものとし,気管支炎と肺炎は胸部レ線写真の所
見により鑑別した.年齢別に検討すると,学童4
名中3名が肺炎で,他の1名が気管支炎であった.
一方成人4名中2名は無症状で,2名は上気道炎
であった.6歳以下では肺炎3名,気管支炎7名,
上気道炎2名であった.これを表2に示すように
初発者と続発者に分けて比較すると,初発者7門
中5名が肺炎で,2名が気管支炎であった.続発
者12名中肺炎は1名,気管支炎6名,上気道炎3
名,無症状2名であった.このように初発者には
比較的重症例が多く,続発者には軽症例が多い傾
向が認められた.有熱期間は初発者で平均7日,
続発者3.5日,咳の持続期間も平均20日と10日で
あった.3.Mp家族内感染における血清反応
CFおよびPHA検査では初発者7名中6名,
続発者8里中5名で陽性であった.年齢,重症度
と抗体価には関連は認められなかった(表2).CF
およびPHAは初発者に高値を示す例が多かった
(図1,図2).4.Mp家族内感染におけるMp培養
表2におけるNo.1∼No.4の家族13名につい
て行ったMpの咽頭培養では12名が陽性で,陽性
率は923%であった.初発者は4名全例,続発者
は9名帳8名で陽性であった.検査は初発者では
5∼10病日に行ったが,症状消失後の25∼30病日
4096× 2048× 1024×512×
256×
128×
(CF) 64×32x
16×8×
4×
4×〉
4 レー6:表2における家族Nα (D②〃 〃続発者Nα 一初発者 一一一続発者1一(2)
!ノ 6 !ノ
1 3誕誘_,
,!ノ.く\6
ノ ノ 3 !〆’ 1〆/ 1ヨ1)
2一(1) 2‘ 4一(1)●一一一一一一一一● 10 20 30 初発者病日(日) 図1 Mp家族内感染における血清反応(CF) 40(日) 40960×<20480×
10240×
5120× 2560× (PHA)1280×640×
320×
160×
80× 40× 40×〉 1 6 ・1一(2) ・5一(1) 3 6一(1)●ρ’”4
,,ノ” ノ月 ・3一(1) ノ’” ,’” ・/@ 5 2 4一(1)←一一一一一一一◎ ,,/ノP一(1) 1∼6:表2における家族No、 ㈲,(2パ 〃 続発者甑 一初発者 一一一続発者 10 20 30 初発者病日(日) 図2 Mp家族内感染における血清反応(PHA) 40(日)1 トー一一㊥一一一一一一一一一→ e (1)一一一一一一一一一一一㊥一一→・ (2)一一一一一㊥一一レ (3)一一一一一一一一㊥・→
2 ト_①→
ω一一一一e (1)←一e (2)一一一一㊥・← 3 }一一一一㊥一一一一一一一→ e (1)ト㊥一一一一一一一レ (2)㊥ 4 トー一一㊥一一一一一一や (1)㊥ (2)㊥ ←一一一一一一一・レ 1∼4:表2家族No. lD∼(3) 〃続発者症例Nα → 初発者有症状期間 ←一・レ 続発者 〃 ㊥ 培養陽性 ㊦ 〃陰性 0 10 20 30 40 初発者病日(日) 図3 Mp家族内感染におけるMp咽頭培養結果にも行ったNo.1およびNo.3では陰性となって
いた.続発者では,有症状者では2∼15病日に検
査を行い陽性3名,No.4一(1)では発病10日前に
陽性であった.またNo.3一(2),No.4一(2)では,経過急雨症状であったが陽性であった.年齢およ
び重症度と培養陽性率には関連は認められなかっ
た(図3).5.家族内でのMp感染発症間隔
表2に示すように初発者発症から続発者発症ま
での間隔は2例を除き,7∼20日間で平均15日で
あった.No.2一(1)は1歳で初発者は学童である
ことから同時感染の可能性は少ない.6.症例
家族内感染の一家族例を提示する.初発者は学
童で肺炎にて当科入院となった.約1週間間隔で
2名の同胞および母親が発症した.初発者は抗生
剤内服にかかわらず肺炎となり,入院後抗生剤の
静脈内投与にて改善が認められた.同胞2名は抗
生剤経口投与又は無治療にて改善し,胸部レ線写
真の所見も軽度であった.考 察
Mp感染症の家族内発症については,1960年の
Johonsonらの報告2)を始めとして,多くの報告が
あり3)∼8),日本でも最近では1983年に岡田らが地域内発症の一部として家族内感染を報告してい
る9).いずれも診断は血清学的診断が主であり,培 養検査が行なわれたものはその一部にすぎない.それにもかかわらず家族内発生率は高く,特に小
児では50∼80%10)にのぼるといわれている。また,不顕性感染も多く,発症1例に対し30例の不顕性
感染を認めたとの報告11)もあることから,無症状 例も含め,血清学的又は細菌学的検索を行なえば,多くの家族内感染を検出し得たであろうが,今回
はretrospectiveに検出した症例についてのみ検
討した.発症年齢は他の報告と同様,初発者は集
団生活の機会のある学童,幼稚園保育園児に集中
している.Mp感染は約4年毎の流行があり,秋か
ら冬にかけて多く1回の流行は1年半近く持続す
ると言われている.この場合,学校,幼稚園,保
育園,乳児院などで他の感染と同様に伝播する.岡田らは同一教室内での伝播様式からその飛沫感
染の重要性を指摘している9).重症度では初発者が続発者に比し重症例が多
かったが,これは大学病院という当科の性質上,比較的症状の強い者が来院する傾向があることも
考慮しなけれぽな:らない.しかし,他にも同様の 報告が認められており2)8),年齢との関連も考えられた.一般にMp感染は,乳幼児では軽症例や無
症状例も多く,学童では重症の傾向があるという
報告が多い.これにはMp感染は細胞性免疫を獲
得した者が再感染を受けた時に肺炎を発症するの
であろうというFernaldの説がある.そのため,
初発者に多い学童に重症が認められやすいのでは
ないかと考えられる.また治療に関しては我々の
例では続発老で早期治療が行なわれたとは限ら
ず,家族内感染において早期治療による二次感染
者の軽症化は認められなかった.血清反応は乳幼児では上昇しにくいと言われて
いるが,我々の例では年齢による差は明らかでな
く,初発者で高い上昇を認めた.培養検査の陽性
率は良好で,血清反応陰性例や発症前の症例でも
陽性例があった.Mpは人では発症1週間前頃よ
り分離され始め,発症時には分離率は最高となり,6週間後頃には分離されなくなるといわれてい
る2).また保菌者として健康人が持ち続けることはないと言われるが,培養陽性なら必ず発症する
というわけではない.発症のメカニズムについて,有症状者のみでなく無症状で菌陽性であった者も
含めた細胞性免疫の検討は今後の興味深い課題で
ある.培養検査は判定に2週間を要し,技術的に
限られた施設でしか行なわれにくいことで,早期
診断には用いられないが,陽性期間が長く,血清
反応より採取の時期による変動が少ないと考えら
れ,また被検者にも行ない易いこともあり,確定
診断には有用である.家族内感染の発症間隔が直ちに潜伏期を示すと
は言えないが,他の報告でも二次感染発症間隔は
2∼3週が多い.高い家族内感染率を考えると,
流行期の疑わしい症例については.血清学的,細菌学的検索を行なうよう心掛け,特に乳幼児につい
ては発症の可能性を考えておくべきである.我々
の症例では同日発症のものもあるが,学童と乳児
であり,同時感染とは考えにくい.図4にも示す
ように家族内でのMpの伝播は発症前の早い時
58 Na 1 (1) (2} (3) 暦 日 10/29 11/6 11/16 ロ/26 病 日 5 10 15 20 25 30 fever cough therapy EMxll↓1↓↓↓具1㎜↓慨AB−PC 入院 WBC/mm2 8800 5900 ESR/hr 38 98 75 3200 CRP 4十 1十 一 CF 32× 64× 512× 1024x 512× PHA 512× 1D240× 20480× 20480×以上 10240× 培養 ㊥ θ脇
聰
焔
feverα
一
cough therapy CCL EM WBC/mm3 dSR/hピ 7000 CRP CF 2十 』 PHA 8× 640× 培養 ㊥ chet x・P晶
餓
fever 自色
cough一
therapyWBC
dSR bRP bF oHA │養 4600 P9 P十 5300 @22 @−T12× Q0480×飢
飢
cough 培養 ㊥ 図4 Mp家族内感染症の一家族例期にもみられることから,感染から発症までにぱ
何らかの個体差が考えられる.我々の例では年齢
および重症度による差は認められなかった.乳幼
児では自然治癒,軽症例も多いとは言え,重症例14) や死亡例15)の報告もあり,早期診断法の開発が望 まれるところである.1)初発者7名は重症例(肺炎5例,気管支炎2
例)が多く,続発者は比較的軽症例(肺炎!例,
気管支炎6例,上気道炎3例,無症状2例)が多
かった.これは初発者に年長児が多いことと関連
していると思われた.2)血清反応はCF, PHAともに初発者に高い
傾向があった.3)培養検査は施行した13例中12例で陽性で
あった.陽性率は92.3%であった.又無症状者, 発症前症例でも陽性例があった.陽性期間の長さ,陽性率の高さから,確定診断には有用であると思
われた.4)初発者より続発者への発症間隔は同時発症
から40日に及んでいたが,平均15日であった.
5)Mp家族内感染は乳幼児への伝播が多く,無
症状でも培養陽性例もあり,発症機序の手掛りと
して細胞免疫の検討も興味深い課題である. 文 献 1)矢島章子:内科および産婦人科疾患者材料からの マイコプラズマの分離と同定.東女医大誌 41: 64−74, 19712)Johnson RT l Mycoplasma pneumoniae infec−
tion in families. New Engl J Med 262:817−826,
1960
3)Foy HM, Grayston JT:Epidemiology of mycoplasma pneumoniae infection in families, JAMA 197:856−867,1966
4)Foy HM, Kenny GE: Long−term
epidemiology of infection with mycoplasma pneumoniae. J Infect Dis 139:681−699,1979
5)Balassanian N, Rol}bins FC:Mycoplasma pneumoniae infection in families. New Engl J Med 277:719−728,1967 6)水田隆三,三好鏡子,西村 豊ほか:マイコプラ ズマ肺炎の家族内感染と一剖検例,日児誌 80: 908−915, 1970 7)中村昭司,海老沢功,川戸英彦:マイコプラズマ ニュウモニエによる家族内感染の研究。日胸 29:286−291, 1970 8)菊地尚子,豊ロ昭夫,渡辺信彦ほか:団地に発生 せるmycoplasma pneumoniae感染症の流行.1) 臨床的観察.2)病原検索,特に血清抗体価につい ての検討.日児誌 73:429−437,1969 9)岡田長保,岡田照子:mycoplasma pneumoniae 気道感染症の淡路島北部地域における流行感染伝 播についての一考察,小児科診療46:1287 −1294, 1983 10)新津泰孝,堀川雅浩,州崎 健ほか:肺炎マイコ プラズマ感染症,本邦の疫学と臨床.日臨 39: 149−168, 1981 11)新津泰孝,堀川雅浩,小松茂夫ほか:肺炎マイコ プラズマ感染症.小児科Mook 27:169−196, 1983
12)Fernald GW:Role of host response in myco−
plasma pneumoniae disease. J Infect Dis 127: 55−66, 1973 13)梅津征夫:マイコプラズマ感染症mycoplasma pneumoniaeによる気道感染疾患の発生機序につ いて.小児科診療 39:12−17,1977 14)横田和子,兼松幸子,山村ユリほか:昭和54年か