気球搭載遠赤外線干渉計 FITE 実験結果
芝井 広、佐々木彩奈、伊藤哲司、大山照平、大塚愛里梨、谷 貴人、佐伯守人、坪井隆浩、
住 貴宏、松尾太郎(阪大理)、成田正直、土居明広、吉田哲也、斎藤芳隆(ISAS/JAXA)
河野裕介(国立天文台)、Stephen Reinhart(NASA/GSFC)
0. 概要
気球搭載遠赤外線干渉計(Far-Infrared Inter- ferometric Telescope Experiment: FITE)は、基
線長6m(ゴール20m)のFizeau型2ビーム干
渉計であり、焦点面におかれた遠赤外線アレイセ ンサーによって取得された干渉パターンから、新 像再生法を用いて波長150ミクロンで4秒角(ゴ ール:1 秒角)の空間分解能の達成が可能である。
各ビームの集光鏡は口径40cmである。科学観測 用大気球によって宇宙遠赤外線がほぼ透過して くる30km以上の高度に打ち上げられ、地上局か らのリモート制御で高精度の指向を行う。打ち上 げ準備段階において、各ビームの結像精度と干渉 計としての光路差調整(佐々木他の講演参照)、新 三軸姿勢制御システムの精度、モニター用カメラ
(3台)の画像処理・伝送動作、遠赤外線センサ ーの感度・高ダイナミックレンジと低ノイズ性能、
リチウムイオン電池を用いた電源装置、地上への データ送信と多くのモニター表示装置、その他科 学観測用大気球搭載装置としての機能と性能が 備わっていることを確認した。
2018年4、5月にオーストラリア・アリススプ リングス気球基地において、システム性能の立証 も兼ねて、明るい惑星と晩期型星(IRC+10216な ど)を観測対象とし、この波長帯で初の干渉計観 測(フリンジ検出)を成功させべく、初フライト をめざした。しかしながら器材を発送する直前及
図1.現地吊下げ試験の様子
び器材運送中の二度にわたってセンサー冷却用 クライオスタットが損傷を受けてそれらの修理 に日数を要したことなどのために、当初計画より 打ち上げ準備完了が遅れた。このためにJAXA宇 宙研の気球観測キャンペーン期間内に打ち上げ 可能な気象条件に遭遇することができず、宇宙遠 赤外線干渉計をフライト実証するに至らなかっ た。FITE全般については[1]を、干渉光学系につ いては[2]を参照されたい。図1に打ち上げ前の吊 下げ試験時の様子を示す。
1. フライト計画
豪アリススプリングス気球基地の気象条件か ら、朝(日出前)打ち上げにせざるを得ないため、
FITEは打ち上げ後、ほぼ12時間、上空で夜が来 るまで待たなければならばい。その間に回収予定 地域の中間にまで到達し、観測時には 遠方の Long Reach基地局との直接リンクになると予想 される。従って、Alice Springs基地まで、高速の データ伝送(800kbps)回線が使い、コマンド送 信とデータ受信を行う。
観測天体については、最初のフライトでもある ので、確実に姿勢制御がかかり、センサーで捕捉 できるもの、しかも科学的に価値があるものとし て、代表的な晩期型星であるIRC+10216を観測す る。これは全天で2番目に明るい太陽系外赤外線 天体(中間赤外線で)であり、代表的なAGB星で ある。主系列星段階の安定期を終えて巨星化し、
周囲に大量の質量放出を繰り返しつつあり、いず
図2.観測予定天体の仰角変化
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れは惑星状星雲を形成すると考えられる。周囲に 星間塵が分布していることが確実である。遠赤外 線強度分布の高解像観測によって、暖かい星間塵
(30K-100K)の分布が得られれば、質量放出活 動に関する制限が得られると期待される。FITE はFizeau干渉計であり、鮮鋭度の値から「星の直 径」を知ることができる。IRC+10216の星間塵が 星のすぐ周辺だけに分布している場合は、天王星 より高い鮮鋭度がえられるであろうし、広く分布 している場合はより低い鮮鋭度が得られるであ ろう。このように、光源の輝度分布パターンを仮
定することで、基線一点の観測からその広がり方 についての情報が得られると期待される。
観測可能時間帯は24時までである。その後は、
銀河系の中心方向のM17、NGC6357等の代表的 星形成領域が十分に高い仰角になるために、観測 対象にはことかかない。また25時以降には土星、
火星も観測可能である。ただし、これらの惑星は いずれもFITEの分解能より大きいサイズである ので、干渉計の参照「点源」としては使用できな い。唯一海王星が明け方に観測可能である。図2 にこれら候補天体の仰角変化の予想図を示す。
表1:FITEの主要諸元 Structure
Dimension 6.5m x 4.4m x 3m (H) Dry Weight 1760 kg (without Ballast) Structure CFRP Pipes
Telescope/
Interferometer
Type Two-Beam Interferometer Mirrors Four Plane Mirrors (SiC)
Two Off-Axis Parabolas (Zerodur) Aperture 40 cm (dia)
Sensors
Far-Infrared 155 pixel array (newly developed) Beam Monitors MIR 320x240 array + 4 CCDs Cryostat Super-fluid He (30 ltrs)
Control System
Onboard System 9 CPUs + Functions Moving Part 25 actuators
Battery 250 AH @ 24 volts (Li-Ion, rechargeable) Data Rate 6 kbps + 800 kbps
Ground System 8 QL Monitors + Video Camera Monitor
図3. 姿勢制御試験結果の例(ステップ応答、日周運動追尾)
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2. FITEシステム
FITEの主要諸元を表1に示す。
3-1. 干渉計
望遠鏡はFizeau型の2ビーム干渉計である。
各ビーム径は約 40cm、基線長は 6.5mとする。
これを平面鏡で干渉計部に導入し、焦点を共有す る二つの軸外によって焦点面で干渉させる。干渉 計の新しい原理[3]、光学調整精度要求[2]につい ては別の文献を参照されたい。
3-2. 遠赤外線アレイセンサー
干渉計の焦点部に生じる干渉縞の強度分布を 測定するために、横15ピクセル、縦5ピクセル の二次元アレイセンサーを新規開発した([4])。
全体が超流動ヘリウムで2Kに冷却される。クラ イオスタットの外観を図4に示す。内部の光学系 については[5]を参照されたい。
検出素子はGe:Gaであり、加圧機構(インコネ ル製)によって感度波長帯の延伸と高感度化を達 成した。また低レベルの信号を直近で低インピー ダンス化するために、市販のオペアンプ(LF444)
を用いた初段TIAアンプを、100K以下で動作さ せている。センサーと前置光学系全体が、専用の クライオスタットで極低温冷却される。ただし残 念ながら 3-5段目の初段アンプ回路系が動作し なくなっており、15素子×2段のアレイとして使 用することとした。
高安定高精度の直流信号処理回路をあらたに 開発した。地上観測はもとより、気球高度からの
図4.クライオスタット
観測においても、望遠鏡をはじめとする観測装置 の熱放射は、観測天体よりも、最大5桁程度強い。
今回は完全な直流測定を行ことによって干渉縞 の検出をより精度よくできると考えている。この ために、市販の24ビットA/D変換ICを80個並 列にした回路を製作した。
現 地 で 実 測 し た ノ イ ズ 性 能 (15 秒 積 分 で 12Vrms/pixel ) か ら 、 観 測 候 補 で あ る IRC+10216(2.1V/pixel) に対する合計強度の 予想S/Nは積分時間20分(実効値)として約4~5 であった。干渉フリンジの振幅は無干渉の場合の 強度の2倍であることなどから、点源のフリンジ 測定のS/Nはさらに√2倍程度が期待できる。
3-3. 姿勢制御
FITEの姿勢制御システムは新開発の重心懸下 型3軸姿勢制御方式である。アクチュエイターに はリアクションホイールを、アンローディングの ためには、気球本体を足場とする「より戻し」機 構(ヨー軸)と重力を利用する錘移動ステージ(ロ ール軸、ピッチ軸)を搭載する。また姿勢センサ ーとして、制御のフィードバック用にはリングレ ーザージャイロ、絶対指向方向決定用に、3台の モニターカメラを用いる。
主アクチュエイターである3軸のリアクショ ンホイール、及び方位角周りのアンローディング 機構の出力をそれぞれ2倍以上に増強した。結果 として、瞬時最大トルクが約3倍、最大蓄積角運 動量が約1.5倍になり、姿勢制御の安定性の向上 が期待できる。またモーターをPWM方式に変更 したが、ドライバー回路をモーターの至近に設置 して電磁干渉を抑制した。
図3に、国内、及び現地で行った姿勢制御試験 結果の例を示す。姿勢モニター用カメラのオンボ ードデータ処理については[6]を参照されたい。
4. 実験経過
実験前年の国内における準備中に発生した以 下の問題については既報である。
・一次平面鏡(SiC 製)の片方が破損。急遽、
アルミ合金製のミラーを調達した。
・機構部重要部品 2 点について SUS304製を 新規製作して交換した。
・アーム構造について10g荷重に耐える機構を 新規製作して交換した。
これらはいずれも対処できた。
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しかしながら以下に記述するように、発送直前 になってクライオスタットが故障した。交渉箇所 は超流動ヘリウムタンクであり、タンクを形成す るための溶接部が破断していた。原因は判明して いないが、約12年にわたって多数回使用(常圧 と真空の繰り返しが数100回)したことによる中 期故障かもしれない。従って急遽、遠赤外線セン サーや光学系をすべて取り外し、メーカーで分解 修理と再組立てを行った。その後、センサーと光 学系を再度組み付けて、航空便で豪州に発送した。
豪州国内では到着地のブリスベーンから長距離 をトラック輸送(エアサス無し)したが、おそら くその間の機械的衝撃で、クライオスタットの断 熱支持柱が損傷(接着部の分離)した。現地で、
再度クライオスタットからセンサーと光学系を 取り外し・分解して、損傷部を再接着した。その 後、組立ててセンサーと光学系を取付け、修理作 業が完了した。
この時点で当初予定より 50日遅れとなり、約 一か月かけてフライトレディーの状態にしたも のの、5月 13日にはキャンペーン期限までに気 象条件が整わないことが判明し、フライトを断念 した。装置一式を日本に返送し、保管中である。
2008 年のブラジルキャンペーン時にも輸送に よる損傷が主原因でフライトを断念したが、今回 は別モードの故障が国内で発生したことが発端 であり、残念ながら予期と対処ができなかった。
また主要器材を船便+エアサス車トラック便 で輸送したが、今回も予想以上の機械的衝撃を受 けた様であり、一部構造物が損傷を受け、現地で の修復を必要とした。
(経緯抜粋)
2017年
12/14(全器材発送5日前)
クライオスタットのヘリウムタンク溶接部損傷 -> 急遽メーカーに送付して修理
12/19 主要器材、海上便で発送
2018年
2/ 7 修理完了。光学系、検出器類を再取り付け。
3/ 5 航空便で発送。オーストラリア国内2500km
をトラック輸送(エアサス無し)。
3/23クライオスタット現地到着
4/ 6クライオスタット内部の断熱支持柱損傷判明 ->メーカーと連絡を取り現地で分解修理。
4/11 クライオスタット修理完了。
4/12-19 クライオスタット・センサー試験
4/20-25 光学系調整・試験 4/26-30 姿勢制御試験
5/1-7 恒星を用いた光学試験、姿勢追尾試験
5/8-9 気球工学との総合試験。
5/10 フライト準備完了。
5/13 フライト断念(5/15が期限)
5. 総括
世界初の気球搭載干渉計開発に成功したが、観 測・成果創出に至らなかった。技術的成果は多数 得られ、NASAが独自プロジェクトを始めるきっ かけを作った。
この間に受領した研究費は、特別推進研究、基
盤研究A、S、B各1件であり、研究成果発表は
査読有論文数5編、査読無し論文+国際学会発表 7編、国内学会発表42件、博士論文1編、修士 論文28編、卒業研究15件であった。
参考文献
[1] 気球搭載遠赤外線干渉計FITE、芝井 他、大気 球シンポジウム、isas17-sbs-022、2017年、
相模原
"Far-infrared Interferometric Telescope Experiment : FITE," Sasaki, A., et al., Pathways towards habitable planets II, July13-17, 2015 Bern, Switzerland [2] 気球搭載型遠赤外線干渉計FITE: オーストラ
リアでの光学系調整結果、佐々木 他、大気球 シンポジウム、isas18-sbs-018、2018年、相模 原
"Far-Infrared Interferometric Telescope Experiment: Optical Adjustment System,"
Sasaki, et al., IEEE Trans. Terahertz Science and Technology, 4, 179, 2014.
"FITE optical adjustment tolerance," Itoh, S., et al., Pathways towards habitable planets II, July13-17, 2015 Bern,Switzerland [3] "Novel Spectral Imaging Method for Fizeau
Interferometers," Matsuo, et al., Publ.
Astron. Soc. Jp., 60 (2), 303, 2008.
[4] FITE用信号読み出し回路の改良と遠赤外線セ ンサーの感度測定、大山 他、日本天文学会 2016年秋季年会
[5] "Far-Infrared Interferometric Telescope Experiment (FITE): II. Sensor Optics,"
Kohyama, et al., Trans. JSASS Space Tech.
Japan, 7, Tm_55, 2009.
[6] FITE:スターカメラ用星像中心検出プログラ
ムの高速化, 伊藤哲司、他、日本天文学会秋季
年会、V229b、甲南大学(兵庫)、2015
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