■アブストラクト
東日本大震災において,生命保険会社は各種の機関が公表した死亡者リス トなどをもとにして,自ら積極的に被保険者の死亡を調査確認し,保険金請 求等の勧奨を行ったが,これは大規模災害時における特別な対応であった。
アメリカ各州では,被保険者が死亡したにもかかわらず,一定期間保険金 請求のない場合,未請求資産法(Unclaimed Property Law)によって,そ の保険金を州政府の管理下へと移管(州庫帰属,Escheat)する義務が生命 保険会社に課されている。その義務との関係で,生命保険会社には社会保障 庁の死亡マスターファイル(Death Master File)と被保険者とを照合する 義務が課されているかが議論され,和解,裁判あるいは立法により,定期的 な死亡ファイルとの照合義務が肯定される方向にある。
日本とは法的な背景等が異なるが,アメリカでの議論は興味深い論点を含 んでいる。日本においても,一定の条件を満たす場合には,生命保険会社に 被保険者の生存等について積極的な調査義務が発生すると考え,マイナンバ ーが利用可能となった際には,生命保険会社は定期的にデータと照合をし,
保険金受取人に対して請求勧奨等を行う必要があると考えられる。
■キーワード
未請求資産法(米国),死亡マスターファイル,マイナンバー制度
生命保険会社の積極的な被保険者生存等 の調査義務
アメリカにおける死亡ファイルとの照合義務を中心に
福 田 弥 夫
/ 平成27年 月31日原稿受領。
.はじめに
死亡保険契約の保険契約者兼被保険者が死亡したが,受取人と指定されて いた相続人がそのような契約の存在を知らない場合,受取人から保険金請求 の可能性はあるのだろうか。特に保険料支払いが大分前に完了した払済終身 保険の場合には,保険契約者の銀行口座の記録などからも契約の存在自体を 推測することは困難ではないだろうか1)。
被保険者の死亡を保険事故とする死亡保険契約では,被保険者の死亡によ って保険金請求権が保険金受取人固有の権利として発生する。一般的に被保 険者死亡の事実について生命保険会社は知る術を持たず,保険金受取人から の保険金請求によって,初めて知るのが通例であろう。もっとも,著名人の 死亡や大規模災害等によって多数の人々が死亡した場合には,報道等を通じ て生命保険会社が被保険者死亡の事実を把握することはある。
平成23年 月に発生した,死者行方不明者合わせて約 万 千人の大災害 となった東日本大震災の際には,生命保険協会が中心となって顧客の安否確 認活動を行うと共に,警察が公表した情報,生命保険協会会員会社が把握し た被保険者死亡情報,さらには災害地域生保契約照会センターが把握した情 報をもとに業界共通のデータベース化を図り,地震や津波などで死亡した被 保険者の情報の把握に努めるとともに,自社契約の特定ができた契約につい て保険金受取人に対して保険金請求の案内を行った2)。さらに確実に保険金 等を支払うために,保険会社から戸籍謄本・住民票の開示請求を行い,請求 権者の特定と請求案内を行った。しかし,このような取扱いはあくまでも災
1) 筆者は本年 月に母を亡くしたが,生前に生命保険契約やその証券等の存在 について知らされており,保険金請求についは問題が生じなかった。仮に母か ら生命保険契約などの存在を一切知らされていなかった場合,保険金請求が可 能であったかは疑問である。
2) 被保険者の死亡確認に関する具体的な対応については, 東日本大震災にお ける生命保険業界の対応と次の一歩 生命保険協会パワーポイント・スライド 17〜19参照(平成25年 月31日)。
害等の例外的状況の場合に限られるのであり,生命保険会社は積極的な被保 険者生存等の確認(保険事故発生の有無等の調査)を通常は行わず,保険事 故発生後の保険金受取人からの保険金請求を待つことになる3)。そのため,
保険事故は発生したが,保険金受取人等が保険契約の存在自体を知らないた め,保険金請求権を行使することなく,そのままとなってしまう未請求保険 契約の存在が想起される。新聞報道によれば,明治安田生命が90歳以上の契 約者約 万 千人のほぼ全員を調べたところ,約 千人がすでに亡くなって いたが,保険金は支払われていなかったとのことであった4)。
本稿では,このような未請求保険契約の問題点について,アメリカ各州な どで立法作業が現在進んでいる,社会保障庁死亡マスターファイル(以下 死亡ファイル )と被保険者リストなどを生命保険会社が定期的に照合する 義務の導入を中心とする,未請求生命保険給付法を参考としながら検討を加 えることとする。アメリカにおけるこの議論は,未請求となった各種資産の 州庫への帰属と生命保険金の問題から始まったものであり,全米規模の生命
3) 最近の実務では,高齢化社会を意識した顧客対応が行われている。内容は各 社で異なるようではあるが,一年に一度は保険会社の営業職員が保険契約者・
被保険者と面談をするようになってきており,生命保険協会による 高齢者向 けの生命保険サービスに関するガイドライン (平成26年10月24日) 頁は,
訪問やアウトバンドコールによる請求勧奨,生存確認の実施を挙げている。
4) 朝日新聞 宙に浮く生命保険金・90歳以上 割 死後請求なく未払い
(2014年 月 日朝刊)。朝日新聞の記事によれば,第一生命も類似の調査を行 い,日本生命と住友生命は,2014年度中に同様な調査を行うとされていたが,
その結果は公表されていない。同様の調査を実施した会社は他にもあるが,業 界全体での取り組みとはなっていない。なお,前掲注3) 高齢者向けの生命保 険サービスに関するガイドライン によれば,一定年齢以上の保険契約者・被 保険者の生存確認は定期的に行われることになる。明治安田生命の調査では,
被保険者の死亡から 年以上経過し,さらに配偶者も死亡していたため,相続 人の割り出しに苦労した事例があり,問題となった契約の大半が終身保険であ ったという。しかし,払込済終身保険に限らず,被保険者が死亡し,保険料の 支払いが滞ったものの,解約返戻金からの貸付が始まり,最後に失効に至った 契約にも同様の可能性がある。これは保険金不払いとは別の問題である。
保険会社不払問題として注目を集めるに至った5)。そのため,未請求資産に 関する類似の制度を有しない日本とは法的な背景が大きく異なることは確か である。しかし,生命保険会社の積極的な被保険者生存等の調査については,
すでに複数の大手生命保険会社が一定の条件下で実施しているものでもあり,
このような調査義務を生命保険会社に課すべきかの検討は必要であると考え られる。さらに,当面は,民間機関による利用は予定されていないマイナン バー制度であるが,死亡ファイルとの照合に関するアメリカの問題点は,将 来の民間機関利用に向けての参考となると思われる。
.未請求資産法と生命保険契約をめぐる問題点
アメリカ法制における未請求資産法6)によれば,銀行預金や商品券,さら には小切手などの資産で,所有者が不明となっていたりあるいは権利者がそ の存在を失念していたりするものについては,金融機関などから州政府へい ったん管理を移管し,後日権利者が現れた場合には州が払い戻しを行うが,
対象となる資産の中には生命保険金の請求権も含まれている7)。
5) アメリカの生命保険会社によれば,全保険契約うち %弱のものが,保険事 故発生にもかかわらず,保険金請求が行われないと推測されている。Devin Hartley,
, 19 CONN. INS. L. J. 366 note 12 (2013).
6) 各州において未請求資産法が制定されているが,その内容は統一州法委員会 全 国 会 議(National Conference of Commissioners on Uniform State Law,以 下 NCCUSL )による未請求資産法(Uniform Unclaimed Property Act)に依拠 している例が多い。なお,この統一未請求資産法の最新版は1995年のものであ る。http: www. uniformlaws. org shared docs unclaimed%20property uupa95.
pdf. 先行研究として,岩本太志 米国における未請求資産管理と保険金不払 い問題 生命保険経営第81巻第 号があり,その52頁以下(2013)に未請求資 産に関する詳細な検討がされている。
7) 日本法制の下に類似の制度は存在しないといえる。もっとも,議員立法での 法案提出が検討されている 休眠預金活用法案 は,10年以上口座の出し入れ がなく,かつ預金者の所在が確認できないいわゆる 休眠預金 を,預金保険
2008年にカリフォルニア州を含む複数の州財務局(未請求資産担当の部 局)は,死亡ファイルとの照合によって被保険者の死亡が確認でき,州政府 へ移管すべき未請求の生命保険契約が存在するのではないかとの観点から,
民間の金融関係調査機関8)に対して生命保険会社の監査を依頼した。その結 果,保険会社による年金契約と生命保険契約で全く異なった全米規模データ ベースの利用方法が明らかになった。それは,年金受給者の死亡情報を得る 目的に限定して,死亡ファイルとの照合を行っているというものであった。
事態を重く見た全米保険監督官協会(以下 NAIC )は,2011年にタス クフォースを編成し,生命保険会社による保険金の請求処理実務と死亡ファ イル情報の利用について調査を行った。その結果,複数の生命保険会社が,
個人年金の受給者が死亡したか,あるいは受給資格を失ったかを判断するた めに死亡ファイルを利用してはいるが,生命保険契約の被保険者が死亡し,
保険金受取人が死亡保険金請求権を取得したかの判断のためには,死亡ファ イルを利用していないことが明らかとなった9)。
このような死亡ファイルの利用は,生命保険会社が法を順守しない存在で あるなどという批判を浴びる理由ともなった。たとえばカリフォルニア州の チャング会計監査官は, 何十年もの間,数多くの生命保険会社が保険契約
機構に移管させ,預金保険機構が国の指定を受けた民間の福祉関係機関に助成 金あるいは貸付金として交付する内容となっている。権利者が現れた場合には 払い戻しをする内容ともなっており,スキームとしては未請求資産法に類似し ている。しかし,対象が 休眠預金 に限定されている点で異なる。この法案 の法律案及び骨子案については,休眠預金活用推進議員連盟 休眠預金等に係 る移管及び管理並びに活用に関する法律案(仮称)骨子(案) 参照。
http: www.kyuminyokin.net images/koshian.pdf
なおこの法案はあくまでも 休眠預金 に限定するものであって,アメリカ のような幅広い資産を対象とするものではない。もっとも,岩本・前掲注6)53 頁は,今後この範囲が生命保険等も対象とされる可能性を示している。
8) Verus Financial は,成功報酬ベースで複数の州財務局と契約を結んだ。
9) NAIC, Regulators Review of Life Insurance Payment Practices, May 17, 2011.
http: www.naic.org Releases 2011̲docs regulators̲review̲life̲payment̲prac tices.htm
者を欺いてきた。しかし,カリフォルニア州の未請求資産法の順守強制によ って,1959年の記録まで遡り,生命保険業界が完全に支払責任を果たすよう に圧力をかけることで,我々は消費者を守っている と述べている10)。
生命保険契約の被保険者が死亡したが,保険金受取人から死亡保険金の請 求が一定期間行われなかった場合,その保険金請求権は権利が放棄されたも のとして未請求資産となり,生命保険会社は州政府へ報告するとともに,保 険金を州政府へ移管しなければならない11)。移管された州政府は請求権者か らの請求を待つが,最終的に請求のないものは州庫に帰属することになる。
統一州未請求資産法の最新版(1995)のセクション ⒜ ⑻によれば12), 保険金請求権が権利放棄されたと判断されるのは,保険契約の満期の到来ま たは終了による保険金支払義務の発生から 年経過するか,被保険者死亡の 証明によって支払われる場合には,支払可能となる日から 年経過するか,
被保険者が一定の年齢に到達するか,あるいは生存していたとしても責任準 備金が基礎とする生命表の限界年齢に到達してから 年経過するかである。
未請求資産法と生命保険契約の関係は,保険金受取人からの被保険者死亡 の証明と保険金請求という保険金支払いに関する保険契約法の段階から離れ,
生命保険会社の死亡ファイルとの照合義務という新しい問題へと発展し,① 複 数 の 州 に お け る 保 険 会 社 の 監 査,② 市 場 行 為 検 査(Market Conduct Examination),③州当局との和解,④訴訟そして⑤新たな立法という,同時
10) この声明は,AIG 生命保険会社との和解に際して出されたものである。
CAL. DEPT. OF INS., Controller Chiang, Insurance Commissioner Jones Settlement With AIG Insurance (Oct. 22, 2012), htttp: www. Insurance. ca.
gov 0400-news 0100-press-releases 2012 release148‑12. cfm な お,カ リ フ ォ ルニア州の例として,ジョンハンコック生命保険会社が1963年 月に締結した 契約では,被保険者が1999年 月に死亡したが,保険会社はその事実を把握せ ずに解約返戻金からの保険料貸し付けを行い,2009年 月に解約返戻金が枯渇 して保険契約を失効させた例が判明した。http: www.sco.ca.gov PDF-Var eo̲
pressrel̲9934.pdf
11) 具体的な未請求資産の内容については,岩本・前掲注6)55頁。
12) NCCUSL, note 6 at 8.
に つの異なった方向への展開となった。
次に問題となった死亡ファイルについて検討することにしよう13)。
.アメリカ社会保障庁の死亡ファイルとその問題点
死亡ファイルは,アメリカ社会保障庁が1980年にスタートした,コンピュ ータデータベースファイルである。このデータベースに記録されているのは,
社会保障庁に報告された社会保障番号保持者で1936年以降の死亡者の記録で あり14),8500万件を超える記録が保持され,毎週更新されている15)。このフ ァイルが記録しているのは,名字,名前,ミドルネームのイニシャル,生年 月日,死亡した年と月(2000年以降は死亡した年月日),社会保障番号であ る16)。この死亡ファイルには,フルファイルとパブリックファイルがあり,
フルファイルは州政府からの死亡に関するデータが含まれるが,パブリック
13) 本稿では,方向性の③,④そして⑤について検討する。なお,この未請求生 命保険契約をめぐる州政府と保険会社との紛争は,州政府の財政状態の悪化に 伴って,一種の政治問題化している側面もある。州政府の執拗なまでの未請求 資産法に基づく生命保険会社への保険金移管の要求を,あたかも西部開拓時代 の1889年に入植が解禁されたオクラホマ州へ無償で分け与えられる土地を求め て殺到した ランドラッシュ(Land Rush) に例え,この現象を分析したも のに,Maeve OʼConnor, Andrew C. Adams, and James B, Amler,
, U. S.
Chamber Institute for Legal Reform (2012).
14) 死亡についての情報は公的機関からのものに限られない。遺族や葬儀社,金 融機関や州あるいは連邦の機関から死亡データを受け取っているという。
http: www.socialsecurity.gov dataexchange request̲dmf.html
15) National Technical Information Service のホームページによる。http: www.
ntis.gov products ssa-dmf #
16) アメリカの社会保障カードは,表面に個人の名前と社会保障番号が記載され ているが,導入が決定している日本のマイナンバーによる個人番号カードは,
表面に氏名,生年月日,住所,性別と顔写真が記載され,裏面に個人番号が記 載される。もっとも,社会保障番号取得に際しては,生年月日や父母の名前や 住所なども必要であるが,死亡ファイルのデータとしては,名前に関連する情 報,生年月日,死亡年月日,社会保障番号に限定されている。
ファイルにはそのデータは含まれていない17)。
この死亡ファイルデータは全米技術情報局を通じて一般に提供されており,
その利用は有料である18)。現在このファイルへのアクセスが認められている 者のリストの中には,メットライフやジョンハンコック,プルデンシャルな どの生命保険会社が名前を連ねている19)。
この死亡ファイルは,死亡した者に対して社会保障の給付金が小切手によ って送付されることを防ぐための制度として創設され20),アメリカにおいて 死亡記録を統括する唯一の公的なデータベースであるが,そのデータの正確 性については疑問が提示されており21),それは死亡の確認作業と関連する。
社会保障庁が死亡通知を受領すると,死亡者が社会保障の給付金受給者で あるか否かで対応が分かれ,受給者でない者には一切の確認作業が行われず,
州政府からの電子データによる死亡通知や葬儀社あるいは家族からなどの,
きわめて正確性の高いものに関しても確認作業は行われない。正確性が低い と考えられるものに関しては確認作業が行われるが22),記録する情報が限ら れているにも関わらず,不正確な社会保障番号,名前の綴りの誤り,あるい は生年月日のようなデータ誤りの存在はよく知られていると指摘されてい る23)。制限されたデータの管理,断続的なヒューマンエラー,さらには死亡
17) http: www.socialsecurity.gov dataexchange request̲dmf.html
18) DVD または CD によるデータベース利用の場合,週又は月ごとの更新が利 用可能なものは基本契約が7,245ドルであり,週毎の更新はウェブ経由の場合 7,500 ド ル,月 毎 の 場 合 は 2, 730 ド ル と な っ て い る。http: www. ntis. gov assets pdf dmf-subscribeagrmt.pdf
19) List of Persons Certified to Receive the Limited Access Death Master File, http: www.ntis.gov products ssa-dmf #
20) U.S.GAO,
, GAO-14‑46 (November 2013) at 3.
21) もっとも,社会保障庁の長官代理によれば,死亡ファイルは99.5%正確であ るという。Devin Hartley, note 5 at 378 note 83.
22) U.S. GAO, note 20 at 10.
23 ) James M. Carson & Robert E. Hoyt,
情報を提供する書類の制限などが誤データの理由であるとされる24)。 社会保障庁は死亡ファイルの正確性を保証しておらず,このデータの利用 者が給付を中止するというような何らかの行動を起こす場合には,そのよう な行動の前に死亡の確認をすべきであると述べている25)。米国会計検査院の 調査によれば,130件の記録は死亡日が生年月日より前であり,1,941件の記 録は,死亡時の年齢の記録が115歳から195歳であり,さらに1826件の記録は 死亡年が1936年以前であったが,社会保障番号は1936年以降に発行され,死 亡したとされる者は社会保障番号を保有していた26)。
生命保険会社が保有している保険契約に関するデータの実態にも問題はあ ると指摘されている。1980年代初頭以前における生命保険会社のデータ処理 においては,重要なデータだけが入力され,その他の情報は省略されるのが 一般的であったという27)。社会保障番号の情報を取り入れるようになったの は1980年代中盤以降であり,名前すらしばしば簡略化され,完全な生年月日 の情報は基本的には入力されず,保険会社は保険証券発行時点の年齢しか記 録していなかった。1970年代以前では,多くの保険会社は紙ベースの記録に よって処理しており,中小規模の生命保険会社ではこのような状況が顕著で あったとされる28)。
次に未請求資産をめぐる州政府と保険会社の紛争解決の方向性を検討する こととする。初めに和解である。
, NAIC Unclaimed Life Insurance Benefits ( A ) Working Group Meeting Agenda Material for March 28, 2015 at 12. http: www.naic.org meetings1503/commit tees̲a̲unclaimed̲life̲benefits̲wg̲2015̲Spring̲nm̲materials.pdf
24) Mary Jo Hudson & Jill Murphy, ,
, 13 ( American Council of Life Insurers 2014).
25) U. S. GAO, note 20 at 14.
26) . at 16‑17.
27) James M. Carson & Robert E. Hoyt, note 23 at 9.
28) .
.生命保険会社と各州政府との和解
2008年に未請求生命保険給付金と死亡ファイルとの照合が問題視され,
2011年 月にジョンハンコック生命保険会社とフロリダ州政府やカリフォル ニア州政府が和解の合意をしてから29),これまでに20社を超える生命保険会 社が和解によってこの問題を解決している30)。これらの生命保険会社はアメ リカの生命保険市場で60%を超える資産を保有する生命保険会社であり,主 要なアメリカの生命保険会社は和解によって解決する道を選択している。こ こでは,2015年 月 日に最終の合意が整ったパシフィック生命保険会社と フロリダ州政府との和解の内容を検討する31)。課徴金等については検討を省 略するが,民間の調査機関による保険会社の監査等に要した費用は保険会社 の負担とされ,さらに未請求となった生命保険給付金の移管額も含めて極め て高額なものとなっている32)。
和解の具体的内容として,①保険会社は保険法やそのほかの法律に違反す る行為は行っていないが,今後の当事者間の紛争解決が長期にわたる訴訟や 行政的手続きが必要となる可能性を考慮し,保険会社と保険庁は保険法に関 する解釈の違いとその適用及び保険庁が保険会社の保険金請求に関して主張 する解釈等の違いを処理するために和解をすることが示され,次に,②2012 年 月 日から,被保険者の情報を死亡ファイルと照合することを任意的に 開始し,それには被保険者及び保険金受取人を探し出す真摯な努力を含むと している。さらに,③保険会社は保険庁が要求するそのほかの方針及び手順
29) ニューヨーク州の対応及び2012年12月までの和解の動向等については,岩 本・前掲注6)65頁以下参照。
30) James M. Carson & Robert E. Hoyt, note 23 at 3.
31) http: www.floir.com siteDocuments Pacific̲Life̲Insurance̲Companys̲Mul ti̲State̲Agreement.pdf
32) たとえば,メットライフは調査費用を含めて4000万ドルを支払っているし,
ニューヨークライフは1500万ドルとなっている。James M. Carson & Robert E.
Hoyt, note 23 at 3.
を含む任意の手続き等に合意するとしている。その中で注目すべきは,保険 会社が被保険者の死亡を知った場合に,保険金受取人を探し出すために必要 とされる手順の内容である。それは,保険会社内の記録に始まり,各種デー タベースを利用した検索,さらにはその保険契約に関連した代理人または募 集人の記録など,具体的に保険会社が検索すべき対象が明示されている。
保険金受取人の住所等が記録から判明した場合の連絡方法についても詳細 に規定している。少なくとも二度の郵送による連絡を行うべきだが,一度目 の郵送が配達不能で返却されてきた場合には,その住所に再度郵便を送付す ることは要求されないこと,少なくとも二度の電話による保険金受取人への 連絡と電子メールによる受取人への連絡を試みること,保険金受取人の最新 の住所を探し出すためにデータベースサービスを利用することなどである33)。 保険金受取人の名前が一般的な名前であるために,複数の住所を得ることが できた場合には,その中で最もそれらしい住所,電話番号そして電子メール アドレスにコンタクトをすることが要求されるのみである。そして,これら 一連のステップをすべて文書にて保存することが要求されている34)。
なお,この和解条項では生命保険会社による死亡ファイルとの照合が次の ように要求されている。それは,①保険会社は継続して,記録されたすべて の被保険者を完全な死亡ファイルと照合しなければならないこととし,②保 険会社は保険会社に記録されているすべての被保険者を,少なくとも毎月の 追録版の死亡ファイルと照合しなければならないとされる。なお,保険会社 が被保険者死亡を知った時から120日以内に保険金受取人から連絡を受けな 33) この他にも最終の手紙をデータベースによって見つけた保険金受取人の住所 にファーストクラスの郵便で送付しなければならないと規定しているが,保険 会社は同じ郵送の住所,電話番号あるいは電子メールアドレスで,すでに現在 のものではないことが確認されたところに連絡を再度とることを要求されるも のではないとしている。
34) 保険契約等の価値が極めて少額(100ドル以下)の場合には,会社の記録に 残されている保険金受取人等の住所へ郵送による一回の連絡で果たされ,住所 記録が保険会社にない場合は,未請求資産法に従って州に報告及び送金を行わ なければならないとされている。
かった場合は,綿密に保険金受取人を探さなければならず,死亡を知った時 から 年以内に完了しなければならないとされている。
ところで,この和解条項には死亡ファイルとの照合に関してあいまいな一 致(Fuzzy Matching)についての別表がある35)。それによると,社会保障 番号や姓名が完全に一致しない場合でも,あいまいな一致による照合を試み ることが要求されている36)。
.未請求生命保険金請求権と訴訟の動向
生命保険会社の死亡ファイルとの照合義務をめぐる訴訟の具体的な争点は,
①どの時点で生命保険金は未請求資産となるのか,②生命保険会社は,被保 険者の死亡に関する情報を得るために,死亡ファイルを利用する法的な義務 を負っているか,そして③生命保険会社の未請求資産に関する監査を州の会 計検査官が行う場合,生命保険会社に要求することのできる情報の範囲に制 限はあるのか,以上の 点である37)。
①と②に関しては,フロリダ州とウエストバージニアニア州で類似の訴訟 が提起された。フロリダ州のケースは,スライベント・フィナンシャル・フ
35) この和解の Schedule A に死亡照合の一致に関するルールが規定されている。
http: www. floir. com siteDocuments Pacific̲Life̲Insurance̲Companys̲Multi
̲State̲Agreement.pdf at 19-22.
36) たとえば,社会保障番号については, ケタの番号のうち, つまでの違い は一致の可能性があるとして詳細な調査が要求され,姓名のうち名前について はニックネームやスペルの若干の異なりを含めて(たとえば James であれば Jim),イニシャルの場合はフルネームを含めて(たとえば J Fox の場合は James Fox ),名 字 の 場 合 は 若 干 の つ づ り の 違 い な ど を 含 め て( た と え ば MacDonald と McDonald など),名字と名前が入れ替わっている可能性なども 含めてあいまいな照合をした上で,一致の可能性がある場合には詳細な調査を することが要求されている。このような照合の要求は,社会保障番号や名前の 入力ないしは記入の間違いやニックネームなどの慣用などから,詳細な調査が 必要となる場合が多く,保険会社にかなりの負担となることが予想される。
37) ここでは③については検討を加えない。
ォー・ルーテランズ対フロリダ州金融監督局事件38)である。 生命保険金は 被保険者の死亡によって支払時期が到来し,そこから 年間の 休眠期間
(Dormancy Period) の計算が開始される。したがって,金融監督局の見解 としては,生命保険金は,保険金の請求がなされたか否か,保険会社が被保 険者の死亡に気が付いているかに関わりなく,被保険者の死亡から 年経過 後に州政府へ移管される。さらに,生命保険会社に対して,被保険者が死亡 したか否かの判断をするために,社会保障庁の死亡ファイルのようなデータ ベースと照合する積極的な義務を課している とのフロリダ州金融監督局の 見解に対し,保険契約は保険会社が死亡証明書を受領して初めて保険金支払 時期を迎え,かつ保険金支払が可能となることの確認を州控訴裁判所に求め た事案である39)。
フロリダ州第一地区控訴裁判所は,フロリダ州法によれば生命保険金は生 命保険会社の記録によって確定されると規定されており,生命保険金は生命 保険会社が死亡証明書を受け取るかあるいは解約の通知を受け取らない限り 支払時期を迎えない。 年間の休眠期間は死亡証明書ないしは解約の通知を 受領しない限り進行しないとした。死亡ファイルのようなデータベースとの 照合義務についても,制定法上そのような義務は見いだせないとした。
ウエストバージニア州のパーデュー対ネーションワイド生命保険会社事 件40)では,ウエストバージニア州の財務長官が,生命保険会社は未請求資産
38) Thrivent Financial for Lutherans v. State of Florida, Dept. of Fin. Services (Fla. Crt. App., 1stDist.), 2014 Fla. App. Lexis 11923, August 5, 2014.
39) 金融監督局からのステートメントに対する不服申し立てのために,第 審の 裁判所ではなく,上訴裁判所に対する申し立ての形がとられた。
40) Perdue v. Nationwide, 2015 WL 3823175 (W.Va.) 合計で69社に及ぶ生命 保険会社がこの訴訟に関与している。この判決及び関連する書証等は,
http: www. wvscblog. com/case/john-d-perdue-treasurer-v-nationwide-life-insu rance-et-al に掲載されている。この巡回裁判所の判決を検討・紹介するもの と し て,Jen Borden,
, Unclaimed Property Recovery & Reporting January 2014, http: www.
uprrinc. com 2014 01 jen-borden-reports-life-insurers-score-major-victory-in-we
法を故意に,詐欺的にあるいは過失によって順守しなかったとして,罰金,
罰則,利息及び弁護士費用の支払いを求めた。さらに,生命保険会社が死亡 ファイルまたはそれに類似したデータベースとの照合を行う方針と手続を採 用するように命令による救済41)を求めた。
第一審のウエストバージニア巡回裁判所は,生命保険契約の被保険者が死 亡したかを判断するために,生命保険会社は社会保障庁の死亡ファイルある いは第三者のデータベースとの照合を行う法的な義務はないと判断した42)。 そして,ウエストバージニア保険法が,保険会社による死亡証明の受領を条 件とする旨の約款規定を要求しているところから43),保険金受取人が被保険 者の死亡証明を提出して有効な保険金請求をなさなければ支払可能とはなら ず,未請求資産法のもとで 年経過後に州政府に対する報告及び移管が必要 となる資産とはならないと判断した。さらに,生命保険会社に対して死亡マ スターファイルとの照合をする制定法上の誠実義務を課しているかについて も,ウエストバージニア州未請求資産法が課している誠実義務44)は,そこに 限定された場合にのみ適用されるものであるとし,死亡マスターファイルと の照合を行うという誠実義務を課してはいないと判断した。財務長官がウエ ストバージニア州最高裁へ上告した45)。
最高裁は,バージニア州法の権利放棄の推定規定46)と連邦最高裁のコネチ
st-virginia-lawsuit/, Bibeka Shrestha,
, Law 360, Jnauary 6, 2014, Bibeka Shrestha, , Law 360, January 9, 2014.
41) Injunctive relief
42) State of West Virginia ex rel. John D. Perdue v. Nationwide Life Insurance Company (In the Circuit Court of Putman County, West Virginia, Dec. 30, 2013) http: www. courtswv. gov supreme-court calendar 2015 briefs april15 14-0100 order.pdf
43) W.Va. Code §33‑13‑2(2015) and §33‑13‑14(2015) 44) W.Va. Code §36‑8‑10(a)(2015)
45) ウエストバージニア州は二審制である。
46) W.Va. Code §36‑8‑2(2015)
カット生命保険会社対ムーア事件47)を引用し,生命保険における休眠期間は,
保険金受取人から適切な保険金請求がなされた日ではなく,被保険者の死亡 によって決定されると述べた。権利放棄の推定規定については,この条項の 目的から,支払可能又は配分可能資産は,支払請求または支払を受けるため に必要とされる証明書もしくは書類の提出と関係しないと述べた。さらに,
未請求資産法の立法者意思は,財務省の口座へ保険金移管をするための保険 会社の責任と,保険約款によって要求されている保険金請求とを明確に区別 しており,保険会社が負う保険金の州庫移管義務は被保険者の死亡と結びつ き,連邦最高裁のコネチカット生命保険会社対ムーア事件での判断を条文化 したものであり,死亡から 年間で移管の時期を迎えると述べた48)。
さらに,1995年の統一未請求資産法の公式コメントが,財産権を失いある いはそのような財産権を有していることを失念した権利者が,所有権を表す 証拠の提示を怠ったか,あるいは支払請求を怠ったかに関係なく,その資産 は未請求資産として州政府へ報告すべきものとなると述べたうえで,コネチ カット生命保険会社対ムーア事件を引用している点49)を指摘している。なお 死亡ファイルとの照合義務については,ウエストバージニア州未請求資産法 はそのような義務を生命保険会社には課していないと判断した。
裁判官の全員一致で生命保険会社は未請求の生命保険金につき,被保険者 の死亡の時から 年経過後には報告・移管する義務を負うとして,前審の判 決を破棄し,巡回裁判所へ差し戻した50)。
47) Connecticut Life Insurance Co. v. Moore, 333 U. S. 541 (1948)
48) ニューヨーク州法は保険会社に対して被保険者の死亡から 年を経過しても いかなる保険金請求行われなかった場合には,保険金について州政府に対して 報告し,移管することを要求しているとの判断のことである。
49) NCCUSL, Uniform Unclaimed Property Act(1995) note 6 at 12.
50) この判決は各州で進んでいる未請求資産法関連の訴訟ともあいまって,大き な注目を集めた。たとえば,Jeff Sistrunk,
, Law 360, June 16, 2015, Cyril Tuohy,
, insurance newsnet, July 10, 2015, http: insurancenewsnet. com innarticle 2015 07 10/w-v-court-
.未請求生命保険給付法の概要
それでは,次に各州で立法が進んでいる未請求生命保険給付法の検討を行 うことにしよう51)。全州の中で最初に未請求生命保険給付法案が議会に提出 されたのはケンタッキー州であったが52),この法案は,2011年11月に公表さ れた全米保険立法者協議会(National Conference of Insurance Legislators,
以下 NCOIL )のモデル法53)を基礎にしたものであった。
NCOIL のモデル法は,死亡ファイルを保険契約者又は契約保持者の死亡 判断のために利用している生命保険会社に対して,①生命保険契約及び保険 金信託管理勘定の被保険者を少なくとも年 回の頻度で死亡ファイルとの照 合を行うこと,②照合には,合理的にデザインされた条件を利用して被保険 者との一致の可能性を判断することとし,③照合の結果一致の可能性がある と判断された場合には,45日以内に書証をもって誠実に被保険者の死亡確認 を完了すること,④死亡確認の日または他の情報源からの死亡の通知の日,
あるいは保険契約に従って給付金支払の時期を迎えてから15日以内に保険金
says-insurers-cant-cite-lack-of-claim-in-delaying-death-benefit. html, Alston &
Bird,
, Unclaimed Property Advisory, June 18, 2015, http: www.alston.com advisories wvirgina-dormacy-period
51) James M. Carson & Robert E. Hoyt, note 23 at 5 によれば,2014年の州 議会までで,15州が何らかの形の立法を行っており,さらに2015年の議会では オクラホマ州など 州で法案が提出されているという。立法動向については,
, KEANE, http: unclai med-property.keaneco.com/2015-insurance-beneficiary-location-legislation 52) 2011年12月16日に提案され,2012年 月13日に議会を通過し,2014年 月15
日から施行されている。
53) このモデル法は2011年段階のものである。http: www.ncoil.org Docs 2011 AnnualMeeting/UnclaimedPropertyModel.pdf 最新のバージョンは2014年11 月23日現在のものである。このモデル法にルイジアナ州保険庁がコメントを加 えたものが公表されている。http: www.naic.org documents committees̲a̲
unclaimed̲benefits̲sg̲150612̲louisiana̲proposedraft.pdf
受取人の所在を突き止めるための誠実な行動をすること,その行動を書面に よって残すこと,⑤保険金受取人に対して保険金請求のための書類を提供し,
又は保険金請求のための指示をすることなどを要求するものであった。
これをもとにしたケンタッキー州法チャプター304.15−420条54)は,その
⑶ ⒜において,死亡ファイルとの照合を少なくとも年 回の頻度で行うこ とを要求し,すべての死亡ファイルとの照合を少なくとも年 回行い,その 後は追録ファイルとの照合でよいとしている。また,死亡ファイルとの照合 によって死亡の可能性が見いだされた被保険者については,90日以内に死亡 の確認を完了すると同時に,保険給付金が支払われるべき状況になっている かを決定し,受取人を見つけ出すこと,受取人に対して給付金請求のための 適切な書式を提供し,又はその指示を行うことを要求している。
ケンタッキー州に続き,アラバマ州やメリーランド州などが同様の立法を 行い,2015年の段階では20を超える州が死亡ファイルと被保険者の定期的な 照合を要求する立法を完了するか,あるいは現在議会でそのような内容の法 案を審議中である55)。
未請求生命保険給付に関しては,NAIC56),NCOIL,そして NCCUSL57)が ワーキンググループを設置するなどしてモデル法の制定を検討し,草案を作 成公表している。それぞれの内容は細部において異なるが,統一未請求資産 54) Ky. Rev. Stat. Chapter 304.15‑420(2015),http: www.lrc.ky.gov statutes stat
ute.aspx?id =43256
55) Keane, , http:
unclaimed-property. keaneco. com/states-proposing-ncoil-unclaimed-life-insura nce-benefits-act
56) 現在のモデル法は,NAIC, Unclaimed Life Insurance Benefit Act(Draft), For lead state discussion purpose only. April 15, 2015 http: www. naic.
org documents committees̲a̲unclaimed̲benefits̲sg̲150515̲unclaimed̲life̲
insurance̲benefits̲act.pdf 参照。
57) 現在1995年版の未請求資産法のモデル法の改訂作業中である。http: www.
uniformlaws. org shared docs Unclaimed%20Property 2015AM̲RevUnclaimPr op̲Draft.pdf 参照 http: www.uniformlaws.org/shared/docs/Unclaimed%20Pr operty/Memo%20RUUPA%20Life%20Insurance.pdf 参照。
モデル法案の改正を検討している NCCUSL のワーキンググループにより提 示されている論点58)で最も重要なのは,どの範囲で死亡ファイルとの照合が 失効又は解約された契約に遡及適用されるのかであると思われる。
裁判所の判決の中には死亡ファイルとの照合義務を否定するものも存在す るが,すでに大手の生命保険会社の和解の方針によって,死亡ファイルとの 定期的な照合は始まっており,これを法によって要求することの障害は存在 しない。今後は,各州がどのような形で照合義務に関する規定を導入するか であるが,フロリダ州やカリフォルニア州などから構成される先導的州の保 険庁長官で構成されるグループは,先導的州と生命保険会社との間で結ばれ た和解(Regulatory Settlement Agreement:RSA)の内容59)をもとにした モデル法案を提案し60),NCOIL のモデル法の問題点として,保険金受取人 を探し出す手順に関する明確な RSA の基準を含んでいないことを指摘して いる61)。これは,どこまで詳細な規定を設けるかの問題であり,各州の立法 において判断されるべきものであろう。
各州の立法に際しては,遡及適用の問題が大きな課題として残されている。
NCOIL のモデル法は遡及適用に関する条項を有していないが,遡及適用す
58) 未請求生命保険給付金の論点については,作業部会のメモ,http://www.
uniformlaws. org/shared/docs/Unclaimed%20Property/Memo%20RUUPA%20 Life%20Insurance.pdf 参照。この他にも,休眠期間の開始時点,照合義務は未 請求資産法と保険法のどちらに規定すべきか,保険会社が被保険者の死亡に気 づかなかった場合や被保険者が限界の年齢に到達した場合の休眠期間の進行,
休眠期間の短縮,一定の場合の死亡証明書の提出要求の削除,州への移管と遅 延利息の免除,指定された給付金受取人の最後の住所が不明の場合の処理,死 亡ファイル要求と法適用の管轄の問題などが挙げられている。
59 ) Multi State Regulatory Settlement Agreement, http: www. naic. org docu ments committees̲a̲unclaimed̲benefits̲sg̲150515̲regulatory̲settlement̲
agreement.pdf 60) 注56)参照。
61) Lead State Memorandum to Unclaimed Life Insurance Benefits (A) Working Group, April 15, 2015, http: www. naic. org documents committees̲a̲un claimed̲benefits̲sg̲150515̲lead̲states̲memo.pdf
るとの意図であると解釈されている62)。この点についての先導的州の覚書は,
一部の業界代表は,法の施行日より前に発効された保険契約については,
生命保険会社を死亡ファイルとの照合から解放するべきであると強く主張し ている。NCOIL はその名誉のためにそのような提案を2014年11月の会議に おいて退けた。NAIC のいかなるモデル法も,法の目的を無効とし,RSA を通じて何百万人もの全国の消費者のために達成した数十億ドルの利益を意 味なきものとする,そのようなカーブアウト(切り分けないしは分割)を含 んでいないことは重要である と述べている63)。
死亡ファイルとの照合義務を法定化し,それを既存の保険契約に遡及適用 することに対しては,特に中小規模の生命保険会社に対する過大な経済的な 負担を課す結果となり,アメリカの生命保険市場の正常な競争を阻害すると の指摘もあり64),今後の動向に十分な注意が必要である。
.日本法へ示唆するもの むすびにかえて
アメリカにおける未請求保険契約の問題は,未請求資産法との関係で財政 状態の悪化に悩む各州政府の注目を集めるところとなり,大規模な保険金不 払い問題へと発展したが,そのゲームは終わりに近づいていると思われる。
法解釈的には,明文規定のない生命保険会社による死亡ファイルと被保険者 リスト等の照合義務は否定され,ウエストバージニア州最高裁もその点は是 認している。しかし,保険法と未請求資産法とを切り離して解釈するという 手法を導入してまで,州政府への保険金移管の問題を考えた理由は,生命保
62) http: naic. org documents committees̲a̲unclaimed̲benefits̲sg̲150710̲co mparison̲chart.pdf
11ページのコメントによれば,NCOIL のモデル法は遡及適用の意図である が,法の制定に際してオクラホマ州など複数の州は遡及適用をしない旨を規定 し,ルイジアナ州は当該生命保険会社が死亡マスターファイルの非対称な利用 をしていなかった場合には,遡及適用をしないと定めている。
63) Lead State Memorandum, note 61 at 2.
64) Mary Jo Hudson & Jill Murphy, note 24 at 8.
険業界によるバランスを失った死亡ファイルの利用実態にあると思われる。
それを端的に示すのが,ウエストバージニア州最高裁の判決に際してのケッ チャム判事の補足意見であろう65)。
今後の方向性としては,各州で死亡ファイルとの照合義務の法制化が進む 中で,遡及適用の是非をめぐる議論が過熱する可能性があるように思われる。
もっとも,その間に中小規模の生命保険会社がどれだけ和解の方向へ動きだ すかが,議論の行方を左右するかもしれない66)。
最後に日本の現状を考えてみよう。明治安田生命の調査でも明らかになっ たように,日本でも未請求保険契約の問題は現実に存在し,これをどのよう に解決するかが今後の課題のひとつであるように思われる。もっとも,未請 求資産法のような法制度も,死亡ファイルのようなデータベースも存在しな い状態で,日本の生命保険会社がとりうる手段にも限りがある。しかし,す でに大手の生命保険会社が高齢者を中心に未請求となった可能性のある保険 契約の調査を開始しており,同様の調査を各生命保険会社が行うことは可能 である。払済終身保険契約に限定せず,失効契約も含めて可能な限り遡った 調査を急ぐべきであろう67)。
65) 被保険者の死亡と保険金受取人の調査のために死亡ファイルとの照合を行わ ない保険会社によって,10億ドルもの保険金が支払われていないと推定されて おり,保険会社は年金受給者への支払停止という,自らの利益のために定期的 に死亡ファイルを利用するが,保険金の支払をもたらす被保険者の死亡の判断 のためには,ほとんどの保険会社が死亡ファイルを無視している。保険会社は 公的に利用可能な情報を利用することを要求されるべきであり,死亡ファイル を無視することは,保険契約者,保険金受取人に損害を与え,生命保険会社が 未請求資産を不当に保持することを許し,業界を不当に富ませることになると して,結論には賛成するが,保険会社の死亡ファイルとの照合義務を肯定すべ きである,との補足意見を述べている。
66) 和解によって遡及して死亡ファイルと照合すべき保険契約の範囲が確定すれ ばこの問題は決着がつく。和解に至らない中小規模の保険会社が,今後は各州 政府のターゲットとなる可能性がある。
67) アメリカのような,被保険者の死亡から10年以上も保険会社が把握しないケ ースは日本でも存在しうる。注(10)参照。
ところで,死亡ファイルのような公的データベースの存在しない日本にお いても,被保険者についての何らかの異変等を保険会社が覚知する事象はい くつか考えられる(顧客との定期的なコンタクトを前提とした突然のコンタ クト喪失や長期の不在など)。また,地方などでは著名人でなくても死亡が 新聞などを通じて告知されるケースもあり,保険金受取人からの請求を待た ずに,保険募集人や代理店が保険契約者や被保険者の死亡を知る可能性があ る。そのような場合には,保険会社の側からの被保険者死亡の確認義務が発 生し,保険事故の発生が確認できた場合には,次に保険金受取人に対する積 極的な請求勧奨を行う義務が発生すると解するべきではないかと考えるが,
そのことが逆に保険会社による消極的な行動につながる可能性もある。その ため,どのような条件の下で保険会社の被保険者生存等に関する調査義務が 発生するかについては,今後さらに慎重な検討が必要だが,積極的な保険会 社の対応が強く要請されるべきと考える。
マイナンバー制度68)が間もなくスタートするが,アメリカにおける照合義 務の遡及適用類似の問題を生じさせずに,将来予想される保険会社による利 用をスムースに開始するためには,現に存在している未請求保険契約の問題 をあらかじめ解決しておくことが重要である。さらに,どのレベルで規定す るかは検討の余地があるが,マイナンバーのデータベースと保険会社の被保 険者リスト等との定期的な照合についてもルール化することが必要であるこ とは言うまでもない。
アメリカにおける未請求保険契約の問題は,保険金請求についてのパラダ イムシフトとなったが,日本でも同様の方向への変化が必要であろう。
(筆者は日本大学教授)
68) 生命保険協会 番号制度を通じた生命保険事業における ICT の利活用につ いて (2011)参照。生命保険協会はマイナンバー制度の積極的な活用を推進 しているが,失効契約も含めて未請求保険契約の問題をあらかじめ解決してお くことが必要である。なおマイナンバー(番号)制度と生命保険に関する論考 として,武藤伸行 番号制度について 生命保険論集180号119頁(2012)。