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観光地の国際化とサスティナビリティ

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Academic year: 2021

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(1)

1  .    はじめに

 平成28年に2,400万人を超えた訪日外国人旅行者(以下,外国人旅行者)数は,

平成30年入っても引き続き増加傾向にある。外国人旅行者の増加は日本経済の 成長要因になると期待され,平成32年の東京オリンピック開催を控え,ますま す注目が高まっている。こうした背景の中,外国人旅行者は,東京や大阪,京 都などに留まらず,日本各地の観光地を訪れており,地方における観光地の国 際化が急速に進んでいる。産業の衰退が進む地方において,観光産業は経済活 性化の重点分野であり,経済効果を見込んだ外国人旅行者の誘致競争が繰り広 げられている。しかしその一方で,外国人旅行者の急激な増加に伴い,観光地 の受け入れ態勢整備の遅れ,ゴミの処理,環境破壊,人出不足,地域住民との コンフリクトなど様々な問題が発生している。こうした問題を放置すれば観光 地としてのブランド低下につながるだけでなく,地域社会に重大な負の影響を もたらすことになる。これらの負の影響を課題として認識し,対処法を考える ことが,地方の観光政策とって重要であり,観光地の持続可能性に繋がると考 えられる。

 観光に関する正の影響に関しては,これまでも経済的側面や地域活性化の側 面から研究が行われてきた。しかしながら,観光に関する負の影響に関してク ローズアップした研究は極めて少ないのが現状である。

後 藤 英 之

〔111〕

(2)

 本稿では,外国人旅行者が急増している北海道ニセコ観光圏

1)

における,住 民満足度アンケート調査を分析し,観光地の国際化の現状を明らかにしたい。

2  .    観光地の持続可能性(先行研究)

観光地の持続可能性で,注目すべき理論はバトラー(Butler.R.W)による「観 光地のライフサイクル論(以下,TALC論)」である。TALC論に関しては,

これまでも観光地における分析ツールとして紹介(中崎1998),様々な観光地 研究で用いられている。また,国内外の多くの研究者により,条件が異なる環 境下における観光地への適応性や修正理論など,TALC論の発展的な研究が行 われている(大橋2009)。一方,TALC論は観光地の経済分析を中心に扱われ,

観光地における諸課題を十分に加味することが出来なかった(太田2011)。観 光産業における外部要因(国際化)への対応は非常に重要である。いかに魅力 的な観光資源を開発しそれをプロモーションできたしても,外部環境変化に対 応する有効な戦略がないと,地域は疲弊し,地域活性化への効果は薄い。観光 地の急速な国際化は,観光地の持続可能性に大きな影響を及ぼす問題であるが,

これまでは,観光地の国際化におけるプラス面や観光地としてのライフサイク ルに重点をおかれた研究が多く行われ,観光地の国際化が地域にもたらす課題,

観光地の持続可能性への影響を取り上げた研究はあまり行われてこなかった。

本研究では,この点に着目し,観光地の国際化が地域にどのような影響をもた らしているのか,その実態解明に取り組む。

3  .    アンケート調査の概要

本アンケート調査は,観光における住民意識調査を目的とし,ニセコ観光圏

1) 平成26年に倶知安町,ニセコ町,蘭越町によるニセコ観光圏整備実施計画が国土

交通大臣から認定された。

(3)

3 町(蘭越町,倶知安町,ニセコ町)全世帯を対象とし,アンケートを各世帯 に郵送配布,郵送回収する方式で実施した。調査時期は,平成30年 1 月 1 日~

26日で1,469の回答を得た。分析方法は,単純集計と各町村別のクロス集計に より行っている。

4  .    調査対象の属性

⑴ 居住地域

回答者の居住地は,蘭越町23.2%(332),倶知安町58.6%(839),ニセコ町 18.2%(260),であった。各町別では,蘭越町内62.3%(207),蘭越町外37.7%

(125),倶知安町内81.3%(682),倶知安町外18.7%(157),ニセコ町内63.1%

(164),ニセコ町外36.9%(96),となっている。

図 1  回答者の居住地域

62.3%

19.3%

18.4%

0.0%

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0%

1.蘭越町 2.昆布町、字湯里、字日出、字黄金、字立川 3.上記以外の地域 0

蘭越町(n=332)

81.3%

13.7%

5.0%

0.0%

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 90.0%

1.市街地区(北・西 条東・西 丁目)

2.郊外(字名)

3.スキー場エリア(山田・樺山 0

倶知安町(n=839)

63.1%

16.2%

20.8%

0, 0.0%

1.市街地区(本通・富士見・中央・有島)

2.北部地区(東山・滝台・曽我・北栄・藤山・尾の上・ニセコ・西山)

3.上記以外の地域 0

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0%

ニセコ町(n=260)

(4)

⑵ 男女別構成

 回答者は,男性49.9%(733),女性39.3%(577)の結果であり,男性の意見 が若干大きく反映されているものとなっている。

⑶ 年齢別構成

回答者の年齢は,60-69歳が25.2%(370)と最も多く,次いで,70歳以上が 20.8%(305),50-59歳 が17.7%(260),40-49歳 が17.1%(251),30-39歳 が

13.6%(200),20-29歳が3.7%(55),10歳代が0.5%( 7 )の順であった。60歳 以上の回答が全体の約 5 割を占めている。

49.9%

39.3%

10.8%

1.男性

2.女性

未選択

0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0%

性別(n=1469)

図 2  回答者の性別

0.5%

3.7%

13.6%

17.1%

17.7%

25.2%

20.8%

1.4%

1.10歳代 2.20~29歳 3.30~39歳 4.40~49歳 5.50~59歳 6.60~69歳 7.70歳以上 未選択

0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0%

年齢(n=1469)

図 3  回答者の年齢

(5)

5  .    アンケート調査の分析

⑴ 住民と観光客との交流度

ニセコ観光圏の各町において,住民と観光客との交流度に差があることがわ かった。倶知安町とニセコ町においては 6 割を超える住民が観光客と接点を 持っていると回答している一方,蘭越町においてはその割合は 6 割に留まり,

4 割の住民が観光客との接点がないと回答している。これにより町別において,

日常業務での観光客との接点で違いがあることがわかる。このことは,ニセコ 観光圏における,各町のおかれた環境の違いと考えられる。倶知安町は,中心 市街地とスキー場が離れており,建設土木や農業など観光以外の産業も盛んな 町である。一方で,ニセコ町はスキー場と中心市街地が近接しており,観光産 業に従事する住民も多い町である。最後に,蘭越町は,中心市街地とスキー場 が離れているほか,農業が産業の中心の地域である。このように,住民と観光 客との交流度は,観光地との距離や観光産業の位置づけによって差があること がわかった。

⑵ 住民における観光客への印象

ニセコ観光圏の各町において,住民における観光客への印象で肯定的な回答 は 6 割に満たず,また,各町で差があることがわかった。特に,蘭越町におい

10.8%

28.0%

22.9%

38.1%

39.5%

39.0%

40.8%

26.1%

31.2%

5.4%

4.2%

4.0%

4.8%

2.3%

2.9%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

蘭越町(n:333) ニセコ町(n:261) 倶知安町(n:840)

1.日常業務の一環で接している

2.日常生活におけるコミュニケーション(道案内・あいさつ・観光スポット・商店で接する程度)

3.観光客・来訪客と接する機会はない 4.その他

未選択

図 4  観光客との交流度

(6)

て肯定的な回答は半数に満たず,ニセコ町と 9 ポイントの差が生じている。ど ちらともいえないとの回答が各町とも 3 - 4 割となっていることから,本件に 関しては観光客との交流度が印象に影響を与えていると考えられる。

⑶ 観光地化による生活環境の変化について

ニセコ観光圏の各町において,インフラの整備,地域のにぎわい,移住者の 増加など観光化による経済波及効果などプラスの影響があることがわかる。一 方で,自然環境や生活環境(物価の上昇,治安の悪化など)においてマイナス

10.8%

11.9%

12.3%

34.6%

42.5%

36.8%

38.9%

34.9%

34.2%

9.0%

6.5%

10.8%

1.5%

0.4%

2.9%

5.1%

3.8%

3.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

蘭越町(n:332) ニセコ町(n:261) 倶知安町(n:840)

1.良い 2.まあ良い 3.どちらともいえない 4.あまり良くない 5.良くない 未選択

図 5  観光客への印象

35.8%

8.1%

57.2%

55.1%

19.0%

36.5%

10.0%

56.9%

68.8%

22.7%

41.6%

2.0%

67.5%

61.4%

19.1%

観光地化により町のインフラが整備される 観光地化により文化資源や自然資源が保存・継承される 観光地化により地域のにぎわいが向上する 交流人口の増加により地域が活性化し、移住者が増加する ボランティア等、住民が活躍する場が増加する

プラスの影響

倶知安町 ニセコ町 蘭越町

(7)

の影響があることがわかった。また,蘭越町においては,他町に比べマイナス の影響が低い傾向にある。蘭越町においては,交通の不便性について,マイナ スでないとの回答も多い。生活環境への影響度に関しても,各町のおかれた環 境の違いが影響していると考えられる。

⑷ 外国人旅行者の来訪について

町別にみると,各町とも,どちらかといえば来てほしい,来てほしい, 2 つ の回答で 6 割を占め,肯定的な回答が多くなっている。なお,ニセコ町におい ては,どちらともいえない34.2%(89)が他町に比べ多くなっている。

図 6  観光地化による生活環境の変化(プラスとマイナスの影響)

-16.6%

22.0%

-48.8%

-38.9%

-35.8%

-43.1%

-24.6%

-2.7%

-61.9%

-54.2%

-40.0%

-61.2%

-27.0%

-18.7%

-54.9%

-51.4%

-42.8%

-61.7%

騒音や雰囲気の破壊等により、生活環境が悪化する バスやタクシーの混雑等により、交通が不便になる ゴミの投棄などにより自然・景観が壊される 開発による自然環境が減少する

不特定多数の来訪者の増加により、治安が悪化する 観光地化により物価が上昇する

マイナスの影響

倶知安町 ニセコ町 蘭越町

(8)

⑸ 観光分野の北海道外・海外資本の参入について

各町とも,地域の活性化にはなるが一定の条件(立地,施設規模,地域参入 など)のもとで推進すべきとの回答が多くなっている。一方で,倶知安町にお いては,どちらかといえば推進しない方がいい,との回答が他町に比べ多くなっ ており,町により差があることがわかる。

⑹ ニセコエリアに特に必要な観光施策について

 町別にみると,各町とも,自然環境・景観の保全,観光地としてのインフラ 整備,地域内交通の充実,利便性の向上など,の回答が多くなっている。

28.0%

26.2%

31.7%

32.2%

29.6%

31.1%

27.4%

34.2%

24.3%

5.7%

5.8%

7.4%

3.0%

1.5%

3.2%

3.6%

2.7%

2.4%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

蘭越町(n:332) ニセコ町(n:260) 倶知安町(n:840)

1.来てほしい 2.どちらかと言えば来てほしい 3.どちらともいえない 4.どちらかと言えば来てほしくない 5.来てほしくない 未選択

図 7  外国人旅行者の来訪について

蘭越町 蘭越町

(n:332) ニセコ町 ニセコ町

(n:260) 倶知安町 倶知安町(n:839)ALL

1.地域の活 38 11.4% 23 8.8% 134 16.0% 195 #DIV/0!

2.地域の活 216 65.1% 177 68.1% 381 45.4% 774 #DIV/0!

3.どちらかと 17 5.1% 20 7.7% 229 27.3% 266 #DIV/0!

4.推進しな 21 6.3% 19 7.3% 53 6.3% 93 #DIV/0!

5.わからな 28 8.4% 16 6.2% 24 2.9% 68 #DIV/0!

未選択 12 3.6% 5 1.9% 18 2.1% 35 #DIV/0!

合計 332 100.0% 260 100.0% 839 100.0% 1431 #DIV/0!

11.4%

8.8%

16.0%

65.1%

68.1%

45.4%

5.1%

7.7%

27.3%

6.3%

7.3%

6.3%

8.4%

6.2%

2.9%

3.6%

1.9%

2.1%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

蘭越町(n:332) ニセコ町(n:260) 倶知安町(n:839)

1.地域の活性化や生活の向上に繋がるので推進すべき

2.地域の活性化にはなるが、一定の条件(立地、施設規模、地域参入など)のもとで、推進すべき 3.どちらかと言えば推進しないほうがいい

4.推進しないほうがいい 5.わからない 未選択

図 8  観光分野の北海道外・海外資本の参入についての意見

(9)

6  .    まとめと今後の課題

本稿では,観光地における国際化の影響とその持続可能性について,先行研 究を踏まえて実地調査を行い,考察を行った。今回の調査で明らかになった課 題を以下にまとめて示す。

⑴ 外国人旅行者との関係

外国人旅行者の受け入れに関しては,ルールやマナーの悪さ,治安の悪化,

法的整備の要望が多く寄せられた。外国人旅行者が住民の生活圏に活動範囲を 広げた結果,住民としても生活環境への影響に敏感になっていると考えられる。

また,外国人でも富裕層はルールやマナーが良い,一部の外国人や若者が飲酒 に絡む問題行動がある,等の指摘(自由記述より)も見受けられた。外国人旅 行者とのコンフリクトに関しては,国際的な観光地にする上で避けては通れな いものであり,観光圏全体として住民との対話や交流機会の拡大を進め,ター ゲットに応じた対策をとる必要がある。

⑵ 自然環境保護と保全

国内・海外資本による開発には,一定の制限を設けコントロールすべきとの 回答が多い。また,行き過ぎた開発に対し,自然環境破壊への懸念,環境保護 対策への課題が明らかになった。自然環境は,ニセコ観光圏のブランド価値の

18.7%

22.4%

19.0%

9.1%

9.9%

11.3%

8.5%

7.9%

6.7%

2.3%

2.3%

1.9%

8.5%

7.8%

6.6%

9.2%

9.0%

6.9%

2.6%

3.0%

3.9%

4.3%

3.1%

3.5%

2.7%

1.3%

2.1%

2.7%

1.7%

2.6%

7.0%

10.5%

10.6%

2.3%

3.2%

4.4%

2.2%

0.8%

1.4%

3.1%

0.7%

3.0%

3.9%

3.2%

4.0%

1.2%

1.6%

1.6%

7.8%

6.5%

7.5%

1.7%

2.4%

1.2%

0.3%

1.3%

1.1%

1.8%

1.2%

1.0%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

蘭越町(n:925) ニセコ町(n:744) 倶知安町(n:2406)

1.自然環境・景観の保全 2.観光地としてのインフラ整備 3.特産品、お土産品の開発

4.歴史・文化資源の活用 5.食の魅力づくり 6.一次産業との連携

7.地域全体のおもてなしの心の向上 8.観光施設のサービス向上 9.宿泊産業の活性化

10.観光ルート・モデルコースの設定 11.地域内交通の充実、利便性の向上 12.イベント、祭りなどの充実

13.キャンペーン等PRの強化 14.外国人観光客の受け入れ 15.地域住民との交流、ふれあい機会の充実

16.会議や研修などの受け入れ強化 17.観光に関わる人材育成 18.情報発信媒体(ホームページ・パンフレット等)の充実

19.その他 未選択

図 9  ニセコエリアに特に必要な観光施策について

(10)

ベースとなっている重要な資源であり,観光圏全体として喫緊の課題と捉え,

早急に対策検討を行うべきである。

⑶ 観光地としてのインフラ整備

ニセコ観光圏内の交通環境改善,大都市との交通アクセス改善の課題が明ら かになった。交通環境整備については,観光圏全体におけるブランドクオリティ の底上げを図るものであり,観光圏として早急な対策が必要である。特に,観 光圏エリアにおける循環バスの利便性向上は取り組むべき最重要の課題と考え る。

⑷ 各町で異なる観光住民意識と連携

各町において観光に対する住民意識の違いが明らかになった。共通の課題も 多いが,国内・海外からの資本投資が活発なヒラフ地区を有する倶知安町,景 観条例など街並みとの調和を図るニセコ町,比較的開発が進んでおらず観光客 との接点が少ない蘭越町など,町の置かれた環境によって住民の意識は大きく 異なる。住民との対話を進めるとともに,各町の特性を踏まえた施策の検討,

交通環境改善など観光圏としての一体化した施策のバランスの良い展開が望ま れる。

本研究の成果は主にニセコ観光圏での調査に基づくものであり,自ずと限界

がある。今回得られた多くの示唆をふまえながら,今後,調査や事例研究を進

めることで,観光地における国際化の持続可能性について研究を更に深めて行

きたい。

(11)

参考文献

[ 1 ] 大橋昭一(2009,「観光地ライフサイクル論の進展過程―観光経営理論のさらな る展開のために―」,和歌山大学『観光学』設置記念,23-37

[ 2 ] 中崎 茂(1998),「観光地域の発展と衰退―バトラーのライフ・サイクルモデ ルの紹介―,『流通経済大学社会学部論叢』8 ⑵,97-111

[ 3 ] 中崎 茂(2010),「観光の展開パターンと効果・影響の関連性の考察:TALC の適用事例(中国,張家界森林公園)を中心に」,『桜美林論考.ビジネスマネジ メントレビュー=ThejournalofJ.F.OberlinUniversity.Businessmanagement

review』1,47-62

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