資本価値貸借対照表の計算 目的
松 本 康一郎
序
いわ ゆ る経済 的利益 (
6konomischerGewinn)1)の算定 に とって は, それ の基礎 に置 かれ る収益価 値
(Ertragswert)2)を決 定す る ときの割 引利子 率 の 選 択 が,解 決 され るべ き重要 な問題 の
1つ で あ る
。D.Schneider
の主 張 を噂矢 とす る
3)論 者 た ち は, この点 につ いて, いわ ゆ る資本価値 法 を採 用 して い る。す なわ ち,資本市場 にお け る一 般利子 率
(1an‑destiblicherZinsfuB)
を割 引利 子 率 と して適 用 し, そ こで算 定 され る利 益 に,企業維持 を果 た した うえで の分配可 能利益 と しての意 味 を与 えて い る0
しか し, この ときの割 引利子 率 は, いわば外 生 的利子 率 で あ り,企 業 にお け
1
) この利益概念 は 「 経済学的利益」 と呼ばれることもある ( 例えば,中野勲
(1971 )
p.227以 降) 。 た しか に, この利 益 概 念 を 会 計 にお い て取 り上 げ る際 に は,
∫.R.Hicksや Ⅰ.Fisher
といった経済学者たちの見解を,その主張の出発点 として いる。 しか し,彼 らの示す利益 ( 所得)概念が経済学における一般的所得概念である のか否か といったことを考慮すれば,田中弘
(1991 )の見解 に見 られ るように
,「 学」を 付するのは検討を要する問題であり,む しろ 「 現在価値利益
」 (Barwertgewinn)と呼ぶのが適切か もしれない。
2
) ここでの収益価値は,
1時点 ( 例えば期末)において保有する財が もた らすであろ う将来のキャッシュ ・フローについての割引現在価値 として計算 され,企業価値ない し資本価値 と呼ばれる。ただ し,この割引現在価値か ら, 個 々の投資プロジェク ト ( 餐 金調達プロジェク ト)における当初支出 ( 収入)を控除 した額を,資本価値 と呼ぶ こ
ともある。
3)経済的利益算定論に関す る彼の最初の文献 としては,Schneider(1963)が挙 げ
られる。
〔297〕
298
商 学 討 究 第
43巻 第
3 ・4号
る個 々の投資プロジェク トおよび資金調達 プロジェク トを有機的に捉 えた うえ での企業価値を明 らかに しうるのかにつ いて疑問が残 る。すでに拙稿 (199
1 )
において取 り上 げたよ うに,この疑問を解決す るための提案が,M.Schmieder (1984)によ って示 され た内生 的利子率 (endogenerZinsfuB)の適用であ る。もっとも, この内生的利子率 に基づ いてSchmiederが示す (資本価値)質 借対照表計算が,Schneiderたちによる貸借対照表計算 にただ ちに替 わ りう
るのかにつ いて は,検討 の余地が残 されてい る。 とい うの も,Schmiederの 示す資本価値貸借対照表 は,投資計算 における目標設定である,財産最終価値 (Verm6gensendwert)最大化 を計算 目的 と していたか らであ る。つま り, Schneiderのよ うに,分配可能利益 ない し引出金 の最大化 を計算 目的 と して
いないのである。
本稿で は, この視点か ら,Schmiederによる資本価値貸借対照表が検討 さ れ る。すなわち,利益最大化が財産最終価値最大化の ときと同 じ結果‑ と導 く のか どうか,言 い換えれば,利益最大化を図 る際には,財産最終価値 を も最大 に しうるのか ど うかが検討 され る。 この疑問が肯定 され るな らば,当該利益を 算定す る決算貸借対照表が,企業の投資 ・財務活動を統制す るのに有用な用具 であると言 え るであろ う4)0
なお, ここで基本的に対象 とす る利益概念 は, もちろん,経済的利益すなわ ち現在価値利益であるが,それのための予備的考察 と して,全体利益 および名 目的な期間利益を も取 り上げることにす る。
全体利益最大化 と財産最終価値最大化
一般 に,全体利益 (Totalgewinn)とは,企業 の創立 か ら解散 に至 るまで
4)Schmiederは,この点について, 「目標設定財産最終価値最大化は貸借対照表利 益の最大化との取替が可能なのか?」というテーマの下で論 じている (Schmieder
(1984)第Ⅳ章)。本稿は,そこでの彼の考察の妥当性に焦点を当てるものである。
資本価値貸借 対照表 の計算 目的 299 の存続期間全体の利益を意味す る。 この利益を最 も単純 に捉えれば,全収入合 計 と全支出合計 との差額 として計算 され る。ただ し,存続期間中に行われる出 資 (Einlagen)や引出 (Entnahmen)を,収入および支 出か ら切 り離 して 捉えるとすれば,全体利益 は次のように算定 される5)0
I王
Gewn‑t∑‑0(Ezt‑A t+Et)
この全体利益算定過程 は,次のように捉えることもで きる。
〈引出 ・増資が行われない場合〉 く
引
出 ・増資が行われ る場合〉最終貨幣在高 (‑最終財産) 引出金 (最終貨幣在高の引出を含む) 一開始貨幣在高(‑元入出資) 一出 資(元入出資を含む)
全体利益 全体利益
以上の ことか ら,全体利益最大化 は,財産最終価値最大化に合致す ることが 認め られ る。ただ し, この明確な関係 は,企業の創立か ら解散 に至 るまでの実 際の活動期間 と,一企業 における投資 ・資金調達計画の設定区間 とが一致 してい るとい う前提を必要 とす る。 しか も,出資および引出が,いずれの場合 (実際 の活動期間および計画区間)に も,同 じ額でかつ同 じ時点 に行われることが, 前提 となるであろ う。
もっとも, こうした前提の必要性を別 に して も,全体利益の意義は,純粋 に 理論的な性格の もの と言わざるをえない。今 日の一般的企業形態である継続企 業 においては,全体利益計算で はな く,期間利益計算が行われねばな らない。
なぜな ら,それによって初めて,継続企業を有効 に統制す ることがで きるか ら である。
5) この等式における各項 は,次の ことを意味す る。
Gewn ・.区間 (
t
o〜 t
n)における全体利益 (または損失) Elt :時点t
における収入At :時点
t
における支 出Ef :時点tにおける出資 (< 0)および引出 (>0)
300
商 学 討 究 第
43巻 第
3 ・4号期間利益最大化 と財産最終価値最大化
今 日の決算貸借対照表 は, (名 目的)期間利益を算定す るための会計用具で あ る。 この各期 間利益 の総計 は,E.Schmalenbachの指摘す るよ うに 6), 全体利益 に合致 しなければな らない。前節で見たよ うに,全体利益最大化 と財 産最終価値最大化 とは基本的に一致す るのであるか ら,それ らの総計が全体利 益を示す期間利益の最大化 も,財産最終価値最大化へ と導 くものでなければな
らない。
こうした期間利益 は,周知のよ うに,収益 と費用の差額 と して算定 され ると ともに,期首 と期末の純財産の差額 と して算定 され る。 この ことは,一般式 に おいて次のよ うに示 され る 7)。
GewE‑NVt‑NV卜1+El
この ときの期間利益総計 は,次のよ うに示 され る。
T[
∑ Gewt‑ (NVl‑NVo+El)+ (NV2‑NV.+E2) i‑I
+‑+
(NVn‑NVnll+En)n
‑ (NVn‑NVo)+ ∑ Ett‑I
したが って,期間利益総計 は,以下のよ うに全体利益 に一致す るはずである。
6) これが, いわ ゆ る 「一致 の原則」 (Grundsatzder Kongruenz)で あ る (Schmalenbach(1926)p.96)0
7)この等式における各項は,次のことを意味する。
Gew ,:期 間 t(時点 t‑1(前期末 ‑当期首)か ら時点 t(当期末) まで) における利益 (損失)
NV, :時点
t
における純財産Et :全体利益算定のとき (本稿の注5を参照)と同様。
資本価値貸借対照表の計算 目的 引出金 (最終貨幣在高の引出を含む)
一出 資 (元入出資つま り開始貨幣在高を含む) 全体利益
301
ところが,Schm iederは,(名 目的)期 間利益の最大化が財産最終価値最大 化 とつねに一致す るとは限 らない ことを,以下の設例を もって指摘 している8)。
【設
例
1】 :企業 は,下記の2つの投資プロジェク トか らの選択を行 い,実現 で きるのは,それの うちの 1つだけである。投資プロジェク ト1:①耐用年数5年の設備 1台を購入す る (調達支出額10 百万DM)。
②当該設備を もって生産 され る毎年 1百万個の製品に ついて,単価 5DMでの販売契約を交わす。
③製品は毎年12
月
31日に提供 されただちに代金が支払 われる。(彰材料 ・労務費支 出は,毎年 2百万
DM
が毎年12月
31 日に支払われ るが,初年度 の材料費支 出は0.2百万 DMだけ高い。DM)0
(診5年後 に10百万 DMで償還 され る.
(診利払 は,毎年12
月
31日に行われ る。上記2つの投資プロジェク トに関す る収支流列,資本価値および貸借対照表 計算 は,以下のよ うになる 9)。
8)Schmieder(1984)pp.11411116.
9)資本価値決定のための内性的利子率は,いずれのプロジェク トについて も,10%と されている (Schmieder(1984) p.115)。なお,貸借対照表計算は,いわゆる運動 貸借対照表 (Bewegungsbilanz)形式で示す ことにす る。
302 商
学討
究第
43巻 第
3・4号く投資プロジェク ト
1の収支流列 ( 百万
DM) )
tl t2 t3 t4
1.1 12.31 12.31 12.31 12.31 12.31
‑10 +5 +5 +5 +5 +5
く設備)
‑2.2 ‑2 ‑2 ‑2 ‑2
く材料 ・労務費)
‑10 +2.8 +3 +3 +3 +3
く投資プ ロジェク ト
1の資本価値
(DM))2.8
百万
3百万
3百万
3百万
3百万
1.1 1.12 1.13 1.14 1.15く投資プロジェク ト
1の貸借対照表計算 ( 百万
DM))‑10
百万 ‑
1,190,5401.1
設備
1012.31
預金 ( 製品売上代金)
51.1
預金 ( 設備取得支出)
10 12.31預金 ( 材料 ・労務費支出)
2.2 12.31 備 品減価償却 2期間利益 ( 期間 1)
0.8 15.0く 投資プロジェク ト2 の収支流列 ( 百万
DM))to tl t2 t3 t4
1.1 12.31 12.31 12.31 12.31 12.31
‑10 +0.9 +0.9 +0.9 +0.9 +10.9
く有価証券)
く投資プロジェク ト
2の資本価値
(DM)) 生旦 亘
互 +1.1
0.9
百万
.0.9百万
.0.9百万
. 10.9百万
1.12 1.13 1.14 1.15 10
百万
‑‑379,081資本価値貸借対照表の計算 目的 く投資プロジェク ト
2
の貸借対照表計算 (百万DM) )
303
Schmiederが示す この設例 について,期間利益最大化の下では, プロジェ ク ト2が選択 され,財産最終価値最大化の下では,プロジェク ト1が選択 され ねばな らない。 これ ら2つの 目標設定間において帝離が生 じた原因は,上記設 例では,減価償却 (費)の計上 に求め られ る。 すなわち, (名 目的)期間利益 は,収入 ・支出を通 じて算定 されるのではな く,収益 ・費用 という固有の計算 要素を通 じて算定 され ることに起因す るのである。 したが って,投資 ・財務意 思決定が,本来的に,財産最終価値 (資本価値)に基づいて行われ, しか も, 貸借対照表計算が,そ うした投資 ・財務意思決定の統制に役立っべ きである限 り,上記のよ うな (名 目的)期間利益を算定 目的 とす る今 日の決算貸借対照表 は,その機能を完全 には果た しえないと言え る。
現在価値利益最大化 と財産最終価値最大化
(名 目的)期間利益を算定 目的 とす る貸借対照表計算が,投資 ・財務意思決 定の統制を果た しえないとすれば,それに替わる利益算定が必要 となる。 この 新 たな利益概念 として提示 され るのが,経済的利益っ ま り現在価値利益であ る。 しか し, この ことが妥当す るには,現在価値利益最大化が財産最終価値最 大化 に合致す ることが証明されねばな らない。 とくに,Schmiederの主張す る現在価値利益およびそれを算定 目的 とす る貸借対照表の妥 当性を問 うには, 内生的利子率に基づいた現在価値利益が取 り上げ られねばな らない。 しか も, より現実的な状況を考慮す るな らば,多期間プロジェク トすなわち複数期間に わたる投資 プロジェク トおよび資金調達 プロジェク トが想定 されねばな らな
304
商 学 討 究 第43巻 第 3・4号い。
多期間プロジェク トにおける各期間の内生的利子率の算出は,最適な投資 ・ 資金調達プログラムが計画設定当初において求め られるときに初めて可能 とな
り, この ときの最適化は,線形のプログラムが シンプ レックス法を通 じて図 ら れ る10)。 その際,各期 間の内生的利子率の決定 に とって重要 なのは,最終の
シンプ レックス表 における流動性制約条件の シャ ドープライスである。 この流 動性制約条件 は,時点
t
直後の貨幣在高 (G t)は (支払困難を回避す るため に)ゼ ロ以上でなければな らない というものであ り,以下の算式を もって示 さ れ る11)。∫
Gt‑1+ ∑ ZE♪‑1 PXp+ ft・E‑Gt≧ 0
一般 に, シャ ドープライス とは限界価値を意味す るのであ るか ら12),上記 制約式 におけるシャ ドープライス (St)とは,各期首ない し期末時点 におけ る貨幣在高 (財務資金)が 1単位増 え る(減 る) ときの財産最終価値の増分 (減 分)を示す。そ こで,Schm iederは,以下 の考察 を通 じて内生的利子率の導 出過程を明 らかに している13)0
まず,時点
t
lにおいて 1貨幣単位額 の支 出を もって始 め られ,時点t
i十1において (1+et)の額での収入を もって終了す るよ うな 1つの収支流列の 存在を想定 し, しか も, この ときの利子率eが限界利子率っまり内生的利子率 であるとす る。 この収支流列が,最適プログラムの最終 シンプ レックス表に迫
10)このことについての具体例は,拙稿 (1991)pp.129‑132を参照。
ll)この制約条件式における各項は,次のことを意味する。
Gt :時点
t
(直後の)貨幣在高Ztp :時点
t
における (投資ないし資金調達)プロジェクトの収支ft・E :時点 tにおける,引出 (ft< 0)ないし内部留保 (fL> 0)
E :引出 (内部留保)水準 (E>0)
ただし,これ以後の考察においては,引出ないし内部留保を考察外に置いている。
このことについての詳細は,拙稿 (1991)pp.125‑126を参照。
12)森 口繁‑ (1978) p.620
13)Schmieder(1984)pp.122‑1230
資本価値貸借対照表の計算 目的 加 され ると考 え る
14)0305
0・So+・.・+ 0・Sz・̲I‑ Sz・+(i+ ei)S,I.i+ 0・Sz.2+・・・+ 0・Sn‑ 0 1+ ez‑SI
S‥1
Sf
ei‑ ‑ 1 ‑
S ‥ 1
St‑Sh l
S ‥ 1
上式か らも明 らかなよ うに,内生 的利子率 とは,当該期末時点 と期首時点 に おける貨幣在高 についての限界価値の差を,期間的に捉えた もの と言えよ う。
さ らに,上式か らは次の ことが明 らか とな る。すなわち,計画設定当初 にお いて,あ る収支流列を伴 うプ ロジェク トが最適 プログラムつ まり財産最終価値 を何 ら増減 させ ない場合 には,次のよ うに表わす ことがで きる。
Zo・S o+Z
l
・S l+・・・+Zn̲1・Snー1+Zn‑ 0Schmiederは,投資意思決定 にお ける資本価値法 に対 して,上記 の内生的
利子率を適用 し,当該 プロジェク トが限界 プロジェク トであるときの資本価値 算定式 を以下 のよ うに示 している1
5)00 1
Z o+
Zl t
n (1+e t )
‑1+ Z 2I
l ( 1+e t )
‑1+・・・=O
i
‑0n‑
2
n‑I+ Z n̲1
1 f
‑I 0
( 1+e
,)‑1+
z ni I ‑
l0(1+e i )
1‑0
14)ここでの右辺ゼロは,限界利子率が割引利子率に適用されるがゆえに,当初の最適
プログラムを何 ら変更させるものでないことを意味する。また,左辺において,当初 の最適プログラムに追加される
2つの項以外について,すべてゼロが付されているの は,当該挿入プロジェクトが時点
tHlとtz以外のシャドープライスを利用 しないこ とを意味する。なお,左辺最終項において
Sn‑ 1となる。このことについては,拙 稿
(1991
)p.13mこおけるシンプレックス表を参照。
15)Schmieder(1984)pp.123‑124
。なお,ここでの口は,多重積であることを意
味する。
306
商 学 討 究 第43巻 第 3 ・4号 n‑Iこの等式に ‡n‑0(1+et)を乗 じると,次のように表わされる。
n‑1 n‑1
Zoni‑0(1+ ei)+Zlin (i+ e,‑I )+・・・+Zn̲1(1+ en̲1)+Zn‑ 0
この多項式 は,Horner図式では,次のように記す ことができる16)0 l[〔Zo(1+ eo) +Z
l
〕(1+ el)+Z2] (1+ e2)+‑+Zn̲1)(1+en̲1)+Zn‑ 0
・1+ez・)に‑いて 莞 を代入すれば,以下の式 となる。
([〔(zo玉 )+zl〕告 +Z2]告 +‑+zn‑I)
告
し十Zn‑ 0このHorner図式をすべて解 くと,以下の等式 となる。
Z
o
・So+Zl
・Sl+・・・+Zn̲1・Sn‑1+Zn‑ 0この等式 は,財産最終価値最大化の トータルモデルを適用 したときの,プロ ジェク トの受入に関す る規準である。つまり,内生的利子率を適用 したときの 資本価値規準を,この規準‑ と移 し替えることがで きたのである。したが って, 割引計算に内生的利子率を適用 したときに,資本価値規準 は, (あるプロジェ
ク トを最適プログラムに収容す るに際 しての)財産最終価値最大化の トータル モデルのときと同 じ意思決定を もた らす ものである。
このように して,内生的利子率を割引利子率に適用す る限 り,現在価値 (刺 益)最大化 と財産最終価値最大化 との同質性が述べ られた。その際, この内生 的利子率は,あるプロジェク トの受入に関する意思決定を行 うための批判的利 子率,つまり財産最終価値を変動 させない利子率を意味す ることになる。
以上の ことか ら,財産最終価値最大化 とい う目標設定 にとって,あるプロ 16)Horner図式 につ いては,矢野健太郎 (1985)pp.878‑879を参照。
資本価値貸借対照表の計算 目的 307 ジェク トを最適な投資 ・資金調達プログラムに収容するか否かについては,以 下の意思決定規則が適用可能 となる。
a)資本が,当該期間の内生的利子率 よりも低い利子 しか生み出さない投 資プロジェク トは,マイナスの資本価値を有 してお り,財産最終価値を 減少 させる。
b)資本が,当該期間の内生的利子率による利子を生み出すプロジェク ト は,資本価値がゼロであり,財産最終価値を変化 させない。
C)資本が,当該期間の内生的利子率よりも高い利子を生み出す投資プロ ジェク トは,プラスの資本価値を有 し,最適な投資 ・資金調達プログラ ムの財産最終価値を増加 させ る。
パ
ー シャルモ デル にお ける内生 的利子率前節での考察か らは,次のことが妥当す る。すなわち,あるプロジェク トを 最適プログラムに収容するか否かを問 う場合には,内生的利子率に基づいた資 本価値規準が適用可能 となる。 もっとも, このことは,最適プログラムが計画 設定当初において求め られ るときに初めて可能 となる。すなわち,いわゆる トータルモデルの存在が前提 となる。 しか し,実践 は,それ とは逆に,当初の 計画設定以後 において新たに発見 されるプロジェク トについて,最適プログラ ムに収容す るか否かの決定 に迫 られるのが一般的である。 つま り,当初の計画 設定においては,パーシャルモデル しか存在 しないのである。
実践的な このパーシャルモデルの下では,当初の計画設定における内生的利 子率による資本価値規準を通 じて選択 されたプログラムが,最大の財産最終価 値へ と導 くとは限 らないか もしれない。 この点 について,Schmiederが,1 つの興味深い設例を示 している17)0
17)Schmieder(1984)pp.126‑1290
308 商 学 討 究 第
4 3
巻 第3・4
号【設 例2
】 :当初の計 画設定 において,以下の投資プロジェク トが選択対象 と され る。プロジェク.ト
t
oでの支出t
lでの収入 内部利子率 累積 的資本需要1
‑300+345
15%2 ‑300 +336 12%
3 ‑100 +106 6%
①資金調達のために,700の 自己資本が用意 され る。
② この資金 は,代替的には, 5%で資本市場 に投資す ることがで きる。
③ さ らに,王0%の利子 で借入を行 うことがで きる。
④最初 2つの投資 プロジェク トは,‑度 しか遂行で きない。
⑤投資 プロジェク ト3は,任意 に何度 で も実現す ることがで きる。
⑥ 3′つの投資 プロジェク トは, いずれ も一度 は実現す る。
こうした前提下 における最適 プ ログラム決定 は,以下の座標を もって示す こ とがで きる。
100 300 600700 累積的 (投下/調達)資本
したが って, これ ら3つの投資プ ロジェク トの資金調達 は,すべて 自己資本 で賄われ る。 この ことか ら,以下の収 支流列が生 まれ る。
資本価値貸借対照表の計算目的 309 プロジェク ト toでの支出 tlでの収入 収入余剰
1 ‑300 +345 +45
2 ‑300 +336 +36
3
‑100+
106 + 6 収入余剰全体額 +87この設例にお ける内生的利子率 は,資本需要関数 と資本供給関数 との交点 と して,6% とな る18) 。 この内生的利子率 を適用 した とき,各 プロジェク トは 以下の資本価値 となる。
プロジェク ト
t
oでの支出t
‑1での収入 資本価値‑300 +345(1.06) 1 +25
‑300 +336(1.06)ー1 +17
‑100 +106(1.06) l o 資本価値全体額‑現在価値利益 +42
ところが,以上 において決定 されたプログラムが トータルモデルでな く, こ の当初の決定以後 における特別な努力を通 じて,以下のような有利な投資プロ
ジェク トが発見 された とす る (一度 しか実現で きない)。
プロジェク ト
t
oでの支出t
lでの収入 内部利子率0 ‑200 +240 20%
このプロジェク トによって,その他の投資プロジェク トの収支 フローが変化 す ることはないと仮定すれば,当該追加 プロジェク トは,6%の内生的利子率 によって+26の資本価値 とな り19), この追加 プ ロジェク トは実現 され るべ き 18)J.Deanは,内性的利子率 としての この交点を "cut‑off‑point''と呼んでいる
(Dean (1952)p.63)
0
19) 240
1.06r1200‑26
310
商 学 討 究 第
43巻 第
3・4号
であると結論づけ られる。
この追加 プロジェク トを含めたとき,以下のような 1期間モデル士 なる。
累積的 ( 投下/調達)資本
500 700 800したが って,以下の収支 フローを伴 った各プロジェク トが実現 され る。 投資プロジェク ト
t oでの支出
tlでの収入
収入余剰0 1 2
資金調達プロジェク ト 1
‑200 +240 +40
‑300 +345 +45
‑300 +336 +36
+100 ‑110 ‑10 収入余剰全体額 +111
上図か ら明 らか となる "cut‑off‑point''としての内生的利子率 は10%と な り,その結果,以下の資本価値 となる。
資本価値貸借対照表の計算目的 投資プロジェク ト toでの支出
0
1 2
資金調達プロジェク ト
1 +100
tlでの収入 +240(1.1) 1
+345(1.1) 1
+336(1.1) l
‑110(1.1)Ll ‑ 資本価値全体額
資本価値 +18 +14 + 5
311
以上 2つのプログラムを比べてみると,両者 に含まれ る各プロジェク トの資 本価値合計 は,追加 プロジェク トを伴 うときに,よ り高い内生的利子率 (10%) を通 じて,42DMか ら37DM‑ と減少す る。 したが って,資本価値合計 の比較 によって意思決定を行 うとすれば,当該追加 プロジェク トは拒否 されねばな ら ないであろう。 しか し, この結論 は,財産最終価値モデルを適用 した ときの最 適 プログラムに矛盾す るであろ う。
この矛盾 した結論に至 った原因は,上記 2つの資本価値合計を比較 した こと にある。ここで は,これ ら資本価値合計を相互比較 してはな らない。なぜな ら, 資本価値合計の比較 は,それ らが同 じ計算利子率に関わ っている場合 にのみ有 意味だか らである。たとえ,同一期間においてであって も,異なった計算利子 率 に基づいた資本価値の比較 は,異な った比較基準を もって収支余剰が相互比 較 され ることを意味す る。 この ことは,当然,誤 った結論‑ と導 くであろう。
同様の ことが,現在価値利益を意思決定規準 として用いたときに も妥 当す る。
この ことの根本的原因は,当初の計画設定が文字通 りの最適 プログラムでな か った ことに因 る。すなわち, もし,最適な投資 ・資金調達プログラムの意思 決定時点 において,当該計画区間のすべての代替案が既知で はないとすれば, それ以後 において発見 される投資代替案や資金調達代替案 は,個 々の期間にお ける内生的利子率の変更を引き起 こしうるのである。 この場合 には,現在価値 利益に基づ いた意思決定 は,財産最終価値を最大に しないプログラム‑ と導 く
312 商 学 討 究 第43巻 第 3 ・4号
可能性がある。以上のことか ら,次の ことが妥当する。すなわち,内生的利子 率を変動 させ るような追加 プロジェク トを収容す ることについて意思決定が行 われる場合 には,現在価値利益最大化が,財産最終価値最大化の ときと同一の 最適プログラムへ とつねに導 くと古さ限 らないのである。
この問題 に対 して,最適 プログラムを伴わずに (パー シャルモデルにおい て),各期間の内生的利子率を正確に決定する計算方法 は, 目下の ところ存在 しない。 したが って,現実において,内生的利子率の正確な見積 は不可能であ る。 しか し,逆に,内生的利子率を正確 に見積 ることができないのであれば, 当該追加プロジェク トの採用によって引き起 こされる内生的利子率の変更 も, 同様 にして査定で きないと言えよう。
このジレンマか ら逃れるには,内生的利子率の変更は資本価値 (ない し現在 価値利益)に作用 しない, と想定するしかないであろう。 つまり,そ うした変 更を査定す る必要性がないと考えるのである。 この仮定は,あながち非現実的 とも言えない。なぜな ら,企業は,投資家 と同 じく,資本市場での投資 ・資金 調達機会を有 してお り,それの利用を通 じて,内生的利子率の変更可能性を回 避す ることができるか らである。
結 語
本稿では,全体利益, (名 目的)期間利益および現在価値利益の3つの利益 概念 と財産最終価値 との同質性が検討 された。その結果,収支流列の現在価値 (資本価値)が,内生的利子率に基づいて算定 されるのであれば,資本価値規 準に従 った意思決定 は,基本的に,財産最終価値最大化のときと同 じ意思決定
‑ と導 くことが明 らかにされた。 しか も,現在価値利益最大化 は,財産最終価 値最大化よりもはるかに実践可能である。なぜな ら, トータルモデルの存在を 必要 とは しないか らである。 したが って,内生的利子率に基づ く資本価値貸借 対照表の作成は,企業における経営計画の意思決定に際 しての目標設定である
「財産最終価値最大化」を達成 しかつ統制す るのに,有用な 1つの手段である
資本価値貸借対照表 の計算 目的 313 と言えよ う。
しか も,それは,同時に,現在価値利益 (経済的利益)算定を通 じて,投資 家にとって も有用な 1つの情報源 となる。なぜな ら, ここで算定 され る経済的 利益 は, いわゆる資本価値法の ときのよ うに外生的利子率によってではな く, 当該企業 における各投資プロジェク トと資金調達 プロジェク トとを有機的に捉 えた うえでの企業維持に基づいた利益情報だか らである。
もっとも,実践 における内生的利子率の決定 は,パーシャルモデルの存在を 前提 とせ ざるをえない。それゆえ,そ こでの内生的利子率は,絶対的に適正な もの とは言えない。 しか し,現在考え られ る割引計算要素 としては, これ以上 の ものは選択 しえないのではないだろ うか。 もし,そ うであるとすれば, この 資本価値貸借対照表の展開において,次なる課題の解決が求め られることにな る。 それは,パーシャルモデルの存在を前提 とす る限 り必要 とされる,いわゆ る累進的計画設定への対応である。 すなわち,毎期の計画改訂 に伴 って生 じる であろ う差異 (Abweichung)が,資本価値貸借対照表 ない し経済的利益算 定 においていかに取 り扱われ るべ きか という問題である。 この ことが解決 され て初めて,内生的利子率 に基づ く資本価値貸借対照表の有用性を主張す ること がで きよ う。
(1992年11
月
16日 脱稿)
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