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Academic year: 2021

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波及効果の測定 について

藤 井 栄 一

経済活動が一極集 中化す る傾向のなかで,多極分散化の経済政策が求め られ ている。 しか し,各地域が,どのような産業を推進す ることが適切であるかに ついての考え方 は混迷 してお り,それが各地方 自治体それぞれのなかでの コン セ ンサスの欠如 にあ らわれている。衰退 と過疎化 に直面 している地域では,企 業誘致や リゾー ト開発など, さまざまな施策が講 じられている。

しか し, どの施策が どのよ うな効果を生み出すかについては不確定な要素が 余 りに も多 く,明確な予測 はで きない。それに も拘わ らず,なにかのプロジェ

ク トを発足 させ るにあた っては 「 波及効果」を推定す ることが必要である。

単純な場合 には,た とえば工場誘致 によって,直接 どれだけの雇用機会が新 に創 出され ることになるのかを見 るだけである。や ゝ複雑な場合 には,それに 加えて,誘致工場 に原材料を供給す る地場産業‑の影響,誘致工業の製品の輸 送などか らの影響 も考えなければな らないか もしれない。

また,新 しく創造 された雇用機会 に応 じて労働者が受 けとる所得が消費支 出 され ることによ って生 み出され る需要増加 も加算す る必要が あ るか もしれな い。それ以外の波及効果 もあ り,そのなかには,数値的に計算 Lやすい もの も あれば,推計が難 しい もの もある

各地のいろいろなプロジェク トについて, これ迄, このよ うな波及効果の推 計が行われているが,どこまでの効果を推計 しようとしているのかは全 く多様 である。 したが って,その効果を 「 乗数」のよ うな形で表示 して,プロジェク

ト Aの乗数が 1 .4 で, プロジェク ト Bの乗数が2.0 だかか らと言 って も, A と

〔3 〕

(2)

4 商 学 討 究 第 42巻 第 2・3号

Bとが,かな り類似の ものでなければ,数値の比較 は意味がない。原材料供給 面だけでの波及効果なのか,所得か ら消費を通 じる効果を含むかどうか,長期 なのか短期なのかで,数値の意味が異な り,大小の比較が難 しい

現実の地域開発 ・過疎化対策の選択 は,単 に数値の比較 にもとづいて行われ るのではな く,む しろ政治的なフィージビリティや多分にアニマル ・ス ピリッ ト的な要因によって決定 され るものであろう

しか し,波及効果の大 きさに言 及 され ることも珍 しくない以上, どのよ うなフ レームワークで波及効果を考 え,測定す るかを展望 してお くことが必要であろう

もっとも普通に推定 されているのは,産業連関表を使 うか否かは別 として, 産業連関的な波及効果である。ただ し,その場合で も,一時的な ものと恒常的 な ものを区別す ることができる。

たとえば,青函 トンネル建設の波及効果. この トンネルの建設のためには, 鋼材,セメン トなどの資材が必要であ り,それ らの資材が,少な くとも一部, ローカルに生産 されれば,それ らの産業に波及す る。 これは トンネル建設 にか かわる一時的な効果で,完成すれば波及効果 も消滅す る。あとは,維持 と補修 にかかわる波及効果が残 るにす ぎない。

他方,スキー場やゴルフ場の建設 は,建設のために一時的に資材供給産業に 波及効果を及ぼす とともに, 完成後 も利用に伴 って, 恒常的な波及効果を持つ。

なお, トンネルの場合で もスキー場の場合で も,それ らに直接に資材を供給 す る産業が拡大すれば, これ らの産業に資材供給す る産業 も拡大 し,間接的な 波及効果が及ぶ。 これが更に間接的な効果を持つ

産業連関面か ら見た乗数効 果である

地域の産業連関表が作 られている場合には,プロジェク トか ら生ず る直接需 要 さえ推定で きれば, 逆行列を使用す ることで, 波及効果が求め られ るために, 推定が簡単であ り, この計算が もっとも普通に使用される。産業連関表が作 ら れてな くとも,ア ンケー ト調査を集計す ることによって近似的な推計が可能で

ある。

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波及効果の測定について 5

しか し,上記の方法では,い くつかの重要な波及効果が見逃 され ることに注 意 しなければな らない。

第 1 は,所得を通 じる需要増加 の波及効果が完全 に無視 されて い る点で あ る。 トンネルの建設で もスキー場の建設で も,労働が雇用 され る結果,所得が 発生す る。更 に,上記の産業連関を通 じる効果で も,生産拡張に伴 って,各産 業で労働の雇用が拡大 し,家計所得が増す。家計所得が増加すれば消費が増加 す る。 これ もまた消費財生産部門の拡張を引きお こし,波及効果を生む。

一部の推計で は, この部分 も計算 に含めているが,無視 されている場合 も少 な くない。 しか し,マクロの乗数値が 1 .4 ‑ 2 程度であることを考慮す ると,

これを無視す ると効果が大幅に過小推計 され ることになる。 1 ) 第 2 は,資本係数か らの効果である

プロジェク トの直接の結果か ら生ず る需要 も,間接 に生ず る波及効用か らの 需要増加 も,そのサイズが大 き くなると,資本設備の稼働率を高めた り残業す るだけでは間に合わな くな り,設備拡張が必要 になる。その結果,資本材 に対 す る需要が増加す る。 一般 に,限界資本係数 は 1よ り大 きい と考え られ るか ら,

ここか ら生ず る波及効果 は極めて大 きい筈だが, この効果まで含めた推計 は殆 ど見当 らない。ただ し推計 は複雑 にな らざるを得 ない。労働の雇用増加か ら生 ず る消費需要の増加 は, どの産業での雇用増加であ って も,

ゞ同 じで,各消 費財産業の生産物 に対す る限界消費性 向のベ ク トルで示 され る。 ところが,各 種の資本設備 に対す る需要のパ ター ンは産業 ごとに異な ってお り,産業連関表 の意味での資本係数行列が必要 にな る

所得増加が消費増加を引き起 こす場合 に も厳密 にはタイム ・ラグあるいは恒 常所得仮説で使用 され るよ うな工夫が必要 とされ るが,製品需要増加 と設備拡 大の関係 ‑ 投資関数 ‑ はず っと不安定であ る。企業者 の予想形成や資 本市場の動 きを定式化す る必要がある。

1 )プロジェクト相互の比較だけならば,これを無視しても,相対的な優劣の順位は,

通常変化 しない。

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商 学 討 究 第 42巻 第2・3 号

したが って,資本係数か らの効果 は, もしそれが十分に作用す るな らば,檀 めて大 きい筈の ものだが,波及効果の計算には含めないことにす るの も不思議 ではない。

以上のはか,プロジェク トの実施 と定着 によって生 じる,定量的には予測 し きれない変化を挙げることもできよう

このように投入係数表,資本係数表,あるいは綿密なア ンケー ト調査などに よって,波及効果が一定の条件の もとで数量的に推計できたとして も,それが 信頼で きるためには,条件の吟味が必要である。 これまで実際に行われた調査 の多 くは,一般 にこの面での検討が不足 している。

企業誘致によるにせよ,第三セクター設立によるにせよ, プロジェク トの発 足によって地域の総需要が増加す ると,一部 は有効需要の増加 になるにせよ, 一部 は価格の上昇に吸収 され る。

この価格上昇分 は全国的なイ ンフレ率 とは別な ものである。たとえば,北海 道内の特定地域 に工業基地な り, リゾー ト施設な りを建設 しようとす る場合, 一般に当該地域での建設労務者の賃金単価の上昇が見 られる

これは,当該地 域での労働の供給が完全 に弾力的でない限 り当然の ことである。同 じような こ

とは,労賃に限 らず,他のイ ンプ ッ トの価格について も ( 規模の経済が作用 し ないかぎり)当てはまる。

他方,プロジェク トによって資源の雇用が増加す るとして も,その資源が ど こか ら流入す るのかについて も考えなければな らない。 もしも遊休資源が新規 に雇用 され ることになるな ら, 恐 らく価格 も殆 ど上昇せず, 生産物 ( およびサー ビス)の供給が純増す る。 しか し,プロジェク トが他の産業 と競合す る場合 に は,競合産業の産 出物 ( および,そ こで発生す る所得)を減少 させ ることにな る

この競合産業が 「 一極集中」のなかの ものであれば,当該 プロジェク トは多

極分散化のための有効である。 しか し,同一地域内での競合だ と, このマイナ

(5)

波及 効果 の測 定 につ いて 7

スの効果 も考慮 に入れなけれ はな らない。

一般 には,プロジェク トへの要素供給の一部 は当該地区内か ら,他の一部 は

「 一極集 中」地域 ( または,そのプロジェク トがなか った場合 に一極集 中地域 に流出 した筈の もの)か ら行われ る

これまでプロジェク ト・アセスメ ン トでは, このマイナスの効果が考慮 され た ことがないよ うである。

なお,一極集 中の是正 と衰退地域の地域振興 とは同義で はない。 1 つの,あ るいは少数の地域の活性化であれば,その地域への 「 一極」か らの生産要素の 移動 は要素の供給価格 に殆 ど影響 しない。 しか し,その場合 には 「 一極」集中

は是正 されない。

もし一極集合を是正す るとい うことであれば,かな り多数の地域でのかな り 大規模な活性化が必要であ り,その場合 には,各地域 における要素価格の上昇

は無視で きない ことにな る。 地域間の要素需給が均等す る条件の もとで は、 「 一 極」における,その要素の限界生産物の価値が各地域 におけるその要素の供給 価格 に等 しくな らなけれ ほな らないが , 「 一極」 での限界生産力逓減のために,

「 一極」での要素雇用の減少 によ り限界生産力の逓増が生 じることになるか ら である。

このよ うに して,純粋に 「 民活」によるに して も第三セ クターあるいはその 他の方式 によるに して も,一定の資金投入が どれだけ価格を押 し上げ,従 って また, どれだけ有効需要を増加 させ るかは,関係がある全ての地域で各資源が どの程度完全雇用に近 いに状態にあるのかによって違 って くる。単 に投入係数 行列,資本係数行列および ( 限界)消費性向ベ ク トルを用 いて波及効果が推定 で きるわけで はな

また,波及効果をどのよ うな地域範囲 と時間のなかで計測す るのかについて も留意す る必要がある。

「 地域振興」の面か ら言えば,期待 した効果が見 られない, とい うケースが

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♂ 商 学 討 究 第 42 巻 第2・3 号

非常 に多い。

「 環瀬戸内海振興計画研究会」の調査では,北海道か ら沖縄までの 1 8 カ所の リゾー ト開発 について,地元での雇用増加,地元産品の購入や利用, リゾー ト 客の消費による所得増,地元土木建築業の受注増などの面で,一般的に地方振 興にほとんど波及効果を もた らさない, とまとめ られている。

反面, リゾー ト誘致 に伴い,道路 ・上水道, ごみ処理施設などの基盤整備の 財政負担,地価上昇による公共施設整備への支障,環境 ・景観の破壊など,地 元にとってマイナスの面が 目立っ ことが指摘 されている。地方 自治体の税収面 で も,固定資産税 は確実に増すが,地方交付税が減額 される。

北海道の例 としてアルファリゾー ト・トマムをかかえる占冠村を とると,地 元ではホテルの レス トランで使 う食材を供給す ることができず,大半 は札幌か ら運んでいる。また,サホロがある新得町で も,食材や 日用品 も地元商店 はあ まり納入 してお らず, 「 地元産業の振興をは じめとす る実質的な地域振興の直 接効果」は,現在のところ期待できない状態である

。2)

同 じような ことが,いす ゞ自動車及 び トヨタ自動車の進出を迎えた苫小牧の 地場産業について も指摘 されている。

いす ゞ自動車が北海道 に進 出 して 1 0 年 を経 た 1991 年 7 月の段階で, これま でに部品,機械を納入 した地場産業 は 8 社 に過 ぎず, しか もその半数 は,よう や く昨年か ら取 り引きを始めた状態だ

3)

といわれる。

トヨタについて も,地場産業の浮上 に役立てることは期待で きないとされて いる。 トヨタ工場本格稼働の波及効果についての北海道通産局の推定では, 1 千億 円の投資 に対 して,直接効果 として は,年 間生産額 2 4 9 億 円,就業者数 700 人であるのに,間接効果 は,生産誘発額が 100 億 円,就業誘発者数 860 人, さ らに,二次効果が生産誘発額 83 億円,就業誘発者数 930 人である

。 4)

2) 『日本経済新聞 』1 9 89 年1 0 月1 8 日 3) 『日本経済新聞 』1 991 年 7 月25 日

4 )同上

(7)

波及 効果 の測定 につ いて 9

これ らに見 られ ることは,最初 に掲 げた産業連関的な効果が当該地域 に生 じ に くい ことを示す もので,雇用か ら発生す る消費を通 じる乗数効果 は作用 して いる。それは,経営の中枢職種が本社か らの出向組で占め られていて も,中央 資本が建設工事を独 占 していて も,かな りの程度 まで作用す る。 もちろん工業 の衰退や人 口の過疎化が問題 になる地域 にとって, この効果だけで地域の浮揚 を期待で きるわけではない。

トマムやサホロの例か ら見 られ るよ うに,産業連関効果 は地元産業の振興 に は殆 ど役 に立 っていない として も,札幌 ( および北海道 内の他地域)か らイ ン プ ッ トを運んでいる, とい う意味で,地域 の広が りを大 き くとれば,産業連関 効果 もそんなに小 さ くはない。 更 に,リゾー ト客の移動 を考えれば,エア ・ター ミナル,バス,鉄道,および道内の他地域での観光関連産業‑の波及効果 も大 きい。

これに反 し,いす ゞと トヨタの場合,北海道全体 として部品,機械 を納入で きる企業が殆 どなければ,産業連関的な波及効果 は期待で きない。 これを強化 す るためには, 「 地域産業の レベルア ップ」あるいは道外関連企業の北海道進

出を期待 しなければな らない。

つ ぎに,波及効果を どのよ うな時間の範囲で計測す るか も大 きな問題 であ る。いす ゞの場合のように,進 出 して 1 0 年 た って も,発注を受 ける企業が数社 に過 ぎないとい うことは, 地場産業の「 実力不足」と言われて もやむを得 ない。

しか し,積極的に 「 活性化」政策を求 める地域 は,概 して,時代の変遷のなか で不利 な条件の下 にあるために衰退 と過疎化に直面 しているのだか ら,かんた んな調整で問題が解決す るわけで はない。

新 しいプロジェク トが企画 されて も,波及効果の実現を妨げるいろいろなボ

トルネ ックが存在す る。 これ らを解消す るためには相当な時間が必要であ り,

これに伴 って,波及効果 は拡大す る。 リゾー トを例 にとると,開発当初 におい

ては リゾー ト施設で要求 され る種類の食材の生産が採算割れになるとして も,

整備が進んで,た とえば農道空港が使用 され るようになれば,都市部 に も供給

(8)

10 42 第2・3

が可能 にな って,大量生産によるコス ト低下を実現できる可能性が生まれ る

このような状況 も含めて考えなければな らない。当該プロジェク トの波及効果

( ない し 「 社会的収益性」)5 )を適切 に評価 したことにはな らない。

本来的には,地域の活性化,あるいは多極分散化を企画するに当たっては, 短期的に 「リゾー ト」,「 工場誘致」あるいは 「 観光」 といったワン ・ショッ

トの開発にだけ着 目するのではな く,誘発効果を順次考慮 した 「 政策のタイム

・プロファイル」で考えることが必要であろう

もちろん,当初予想で きない 外生的な変化に対応できる柔軟性 も持たせておかなければな らない。

時間経路を考慮 した一連のプロジェク トでは 「 早 い段階で将来の状況を認 識」す ることが特 に重要である

「いったん 1つの選択がスター トして しまう

と,他の選択肢はより優れたものであって も発展 してい くチャンスがない0」

どのプロジェク トが今 日の制約の もとで有用であるかについてだけでな く,将 来的にどの選択肢がベス トであるかを,検討することが非常に有益である

。6)

これに伴 って,個 々のプロジェク トの波及効果の測定の方式 も,かな り,倭 正 しなければな らないことになろう。

5) 藤井栄一 「開発 プ ロジェク トの基準 と評価

『は くとう

( 東北北海道 開発公庫) 1 9 8 8 年秋季号

6)Di xi t , Av i nas handBar ryNal e bur f( 菅野 隆 ・嶋津祐一 訳) 『 戦 略的思考 と

は何 か

( ティービーエス ・ブリタニカ ,1 9 9 1 ) ,pp. 21 2‑21 6

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参照

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