波及効果の測定 について
藤 井 栄 一
経済活動が一極集 中化す る傾向のなかで,多極分散化の経済政策が求め られ ている。 しか し,各地域が,どのような産業を推進す ることが適切であるかに ついての考え方 は混迷 してお り,それが各地方 自治体それぞれのなかでの コン セ ンサスの欠如 にあ らわれている。衰退 と過疎化 に直面 している地域では,企 業誘致や リゾー ト開発など, さまざまな施策が講 じられている。
しか し, どの施策が どのよ うな効果を生み出すかについては不確定な要素が 余 りに も多 く,明確な予測 はで きない。それに も拘わ らず,なにかのプロジェ
ク トを発足 させ るにあた っては 「 波及効果」を推定す ることが必要である。
単純な場合 には,た とえば工場誘致 によって,直接 どれだけの雇用機会が新 に創 出され ることになるのかを見 るだけである。や ゝ複雑な場合 には,それに 加えて,誘致工場 に原材料を供給す る地場産業‑の影響,誘致工業の製品の輸 送などか らの影響 も考えなければな らないか もしれない。
また,新 しく創造 された雇用機会 に応 じて労働者が受 けとる所得が消費支 出 され ることによ って生 み出され る需要増加 も加算す る必要が あ るか もしれな い。それ以外の波及効果 もあ り,そのなかには,数値的に計算 Lやすい もの も あれば,推計が難 しい もの もある
。各地のいろいろなプロジェク トについて, これ迄, このよ うな波及効果の推 計が行われているが,どこまでの効果を推計 しようとしているのかは全 く多様 である。 したが って,その効果を 「 乗数」のよ うな形で表示 して,プロジェク
ト Aの乗数が 1 .4 で, プロジェク ト Bの乗数が2.0 だかか らと言 って も, A と
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4 商 学 討 究 第 42巻 第 2・3号
Bとが,かな り類似の ものでなければ,数値の比較 は意味がない。原材料供給 面だけでの波及効果なのか,所得か ら消費を通 じる効果を含むかどうか,長期 なのか短期なのかで,数値の意味が異な り,大小の比較が難 しい
。現実の地域開発 ・過疎化対策の選択 は,単 に数値の比較 にもとづいて行われ るのではな く,む しろ政治的なフィージビリティや多分にアニマル ・ス ピリッ ト的な要因によって決定 され るものであろう
。しか し,波及効果の大 きさに言 及 され ることも珍 しくない以上, どのよ うなフ レームワークで波及効果を考 え,測定す るかを展望 してお くことが必要であろう
。もっとも普通に推定 されているのは,産業連関表を使 うか否かは別 として, 産業連関的な波及効果である。ただ し,その場合で も,一時的な ものと恒常的 な ものを区別す ることができる。
たとえば,青函 トンネル建設の波及効果. この トンネルの建設のためには, 鋼材,セメン トなどの資材が必要であ り,それ らの資材が,少な くとも一部, ローカルに生産 されれば,それ らの産業に波及す る。 これは トンネル建設 にか かわる一時的な効果で,完成すれば波及効果 も消滅す る。あとは,維持 と補修 にかかわる波及効果が残 るにす ぎない。
他方,スキー場やゴルフ場の建設 は,建設のために一時的に資材供給産業に 波及効果を及ぼす とともに, 完成後 も利用に伴 って, 恒常的な波及効果を持つ。
なお, トンネルの場合で もスキー場の場合で も,それ らに直接に資材を供給 す る産業が拡大すれば, これ らの産業に資材供給す る産業 も拡大 し,間接的な 波及効果が及ぶ。 これが更に間接的な効果を持つ
。産業連関面か ら見た乗数効 果である
。地域の産業連関表が作 られている場合には,プロジェク トか ら生ず る直接需 要 さえ推定で きれば, 逆行列を使用す ることで, 波及効果が求め られ るために, 推定が簡単であ り, この計算が もっとも普通に使用される。産業連関表が作 ら れてな くとも,ア ンケー ト調査を集計す ることによって近似的な推計が可能で
ある。
波及効果の測定について 5
しか し,上記の方法では,い くつかの重要な波及効果が見逃 され ることに注 意 しなければな らない。
第 1 は,所得を通 じる需要増加 の波及効果が完全 に無視 されて い る点で あ る。 トンネルの建設で もスキー場の建設で も,労働が雇用 され る結果,所得が 発生す る。更 に,上記の産業連関を通 じる効果で も,生産拡張に伴 って,各産 業で労働の雇用が拡大 し,家計所得が増す。家計所得が増加すれば消費が増加 す る。 これ もまた消費財生産部門の拡張を引きお こし,波及効果を生む。
一部の推計で は, この部分 も計算 に含めているが,無視 されている場合 も少 な くない。 しか し,マクロの乗数値が 1 .4 ‑ 2 程度であることを考慮す ると,
これを無視す ると効果が大幅に過小推計 され ることになる。 1 ) 第 2 は,資本係数か らの効果である
。プロジェク トの直接の結果か ら生ず る需要 も,間接 に生ず る波及効用か らの 需要増加 も,そのサイズが大 き くなると,資本設備の稼働率を高めた り残業す るだけでは間に合わな くな り,設備拡張が必要 になる。その結果,資本材 に対 す る需要が増加す る。 一般 に,限界資本係数 は 1よ り大 きい と考え られ るか ら,
ここか ら生ず る波及効果 は極めて大 きい筈だが, この効果まで含めた推計 は殆 ど見当 らない。ただ し推計 は複雑 にな らざるを得 ない。労働の雇用増加か ら生 ず る消費需要の増加 は, どの産業での雇用増加であ って も,
はゞ同 じで,各消 費財産業の生産物 に対す る限界消費性 向のベ ク トルで示 され る。 ところが,各 種の資本設備 に対す る需要のパ ター ンは産業 ごとに異な ってお り,産業連関表 の意味での資本係数行列が必要 にな る
。所得増加が消費増加を引き起 こす場合 に も厳密 にはタイム ・ラグあるいは恒 常所得仮説で使用 され るよ うな工夫が必要 とされ るが,製品需要増加 と設備拡 大の関係 ‑ 投資関数 ‑ はず っと不安定であ る。企業者 の予想形成や資 本市場の動 きを定式化す る必要がある。
1 )プロジェクト相互の比較だけならば,これを無視しても,相対的な優劣の順位は,
通常変化 しない。
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