自作CVD装置による炭素繊維表面へのアルミニウムの蒸着
柴 田 政勝*
池 田 憲 文***
西 彰 矩**
小林邦夫***
(平成3年8月30日受付)
Deposition of Aluminium on the Carbon Fiber with the Manufactured CVD Apparatus
Masakatsu SHIBATA , Akinori NISHI* *, Norifumi IKEDA and Kunio KOBAYASHI
(Received August 30,!991)
Abstraet
In order to fabricate well wetting and little high temperature brittleness alu皿inium−carbon fiber complex, we have made the CVD apparatus which does the work of covering PAN base carbon fiber with tri−ethyl−aluminium.
Thickness of the deposited film increse with increace of both temperature and time, and is 1.5pm at 673 K for four hours. By means of our皿anufactured CVD apparatus, observed deposition rate O.35μ皿/hr at 673K.
1.緒 言
アルミニウムは軽量であるため,航空機や自動車等移動 体材料としては適しているが強度が低い難点がある。この 低強度を改善するため,異種材料とアルミニウムを複合さ せると軽くて強い材料が得られる。現在ではアルミニウム に炭化ケイ素(Sic)を複合させたアルミニウムー炭化 ケイ素複合材料が実用化されている。しかしながら、炭化 ケイ素よりも炭素繊維の方が強度も大きくかつ高弾性であ る上,はるかに安価である1) 2)。にもかかわらずアルミ ニウムー炭素繊維複合材料が実用化されないのはアルミニ ウムとのぬれ性が悪く,また使用中に高温にさらされた場 合アルミニウムー炭素繊維界面で生じたAe,Cによる劣 化の問題があるためである1) 2)。これらの欠点を改善す るため炭素繊維表面にアルミニウムと親和度の大きい金属 被膜を作るいわゆるNa法3)やTi−B法4)が研究され ているが,いずれの方法も複雑な工程を要する上,高温で の劣化は克服されない。
そこで著者らは原子的尺度で考えた場合,多くの空気中 の酸素が炭素繊維表面の炭素原子と結合しており,ここに アルミニウム原子を送ってやるとアルミナ(A e203)を生
成させることができ,しかもこのアルミナは生成しやすく かつ高温で安定でその結果Ae,Cの生成を妨げることか
ら,ぬれ性と高温劣化を同時に改善することが可能ではな いかと推測した。このため,著者らは有機アルミニウム化 合物としてトリエチルアルミニウム(以下TEALと略す)
を用い,CVD法(化学的蒸着法)によって炭素繊維表面に アルミニウム被覆を行い,良好なアルミニウムー炭素繊維 複合材の中間素材を作ることを試みた。
*機械工学科
**情報工学科
***本校学生
2.実験方法
2.1 実験装置
Fig. 1に自作した実験装置を示す。反応容器は長さ 0.3m,内径0.06mの石英管で,5×IO−4Torrまで真空に ひいた後,高純度アルゴンガス(純度99.999%以上)を充満 させる。この操作を2〜3回繰り返して系内をほぼ完全な アルゴンガス雰囲気とした後,排気コックを開いてアルゴ ンガスフローの状態とする。すなわち,アルゴンガスをキャ リアガスととして用いた。次に空気中での自然発火を防ぐ ため,一15℃に冷却したTEALの入った三つロフラスコ を素早くマントルヒータ内に移し,所定の温度に加熱して 気化させる。気化温度までに要する時間は15〜20分であっ た。マントルヒータの加熱と同時に赤外線加熱ヒータを作 動させ,反応容器を所定の反応温度にまで加熱する。この 時の反応温度までに要する時間は10〜20分であった。した がって,気化したTEALが炭素繊維と反応し始める時に
、 ,1
⑪
ヘ。 o
⑤
ロロロロ︒④ gos out
④
B
① llOllII
F →
Fig. 1 Schematic diagram of the CVD apparatus.
ORotary pump (DPirani vacuum gage @Argon gas @mercury manometer @mantol heater @ Triethyl aluminium solution @,(D control−
ler @carbon fiber (1Dreaction chamber
@infrarred heater @themocouples @program controller
は反応容器内はほぼ所定の反応温度になっているとみなし た。所定時間反応させた後もアルゴンガスを流し続け,十 分冷却した後に試料を取り出した。実験に供した炭素繊維
はTORAYCA M40−6000−50BのPAN等長繊維で
すでにラケット等一般の非金属複合材用強化繊維として使 用されているものであり,.その性状をTable 1に示す5)。
Table 1 Properties of the non−treated PAN base carbon fiber,
2.2 実験条件
キャリアガスであるアルゴンガスの流量は気化器容積
(1000mのと反応容器容積(600 m4)を考慮してIOOO−SObm4/
minとした。気化温度はFig,3に示すTEAL一トルエン の蒸気圧曲線6)から決定した。380K以上では溶媒である トルエンが沸とう状態となり,過剰のトルエン蒸気が反応 管に運ばれるため好ましくない。一方,350Kより低温側 ではTEALの気化量が極めて少なく十分な被膜を得るの は困難である。したがって,本実験における気化温度は 350〜380Kとした。反応温度はTEALの熱分解温度がお
よそ1気圧下で473Kである7)ことから473〜673Kとし
た。
6.5rm O.6%
2.74GPa 392GPa
1 . 81g/ cm3
710.6J/(kgK)
83 . 7W/ (rnK)
一1.2×10−6K 1
♂
記\ 1 ♂ 20 ﹂り
¶■響 ﹂■一 −
o﹂コ︒のΦ﹂α﹂Φα6>
o/1
両輪
フリー
diameter strain tensile strength tensile rnodulus density specific heat heat conductivity
coefficient of liner expansion
Fig. 3
/輪1@
t
TEALは非常に活性で空気中では自然発火するので15%
トルエン溶液として市販されているものを用いた。炭素繊 維は非常に細く取扱いに細心の注意を必要とするので,
Fig.2に示すような装置を作成し,長さ0.15mのものを5
−6本クリップにはさんで反応容器内に吊した。
350 400 450 500 550 Temperature IK
The vaper pressure of Toluene and Triethyl aluminium.
ここで,TEALの熱分解反応は重要であるが,実験後,
反応管内壁に白い粉末が付着することおよび比重,沸点な ど性状の極めて類似したトリイソブチルアルミニウムは本 実験条件においては分解してアルミニウムになることか
ら,TEALでも本実験条件下で分解してアルミニウムが 炭素繊維に被覆されるとした。反応時間は他の有機アルミ ニウム(トリイソブチルアルミニウム)を用いた鈴木ら8>
の報告を参考にして2一一4時間とした。このようにして決 定した実験条件をTable 2に示す。
Table 2 The condition of this experiment,
carbon f i ber
Fig. 2 The holder of carbon fibers.
The amount of flew Carrier gas Vaporized temperature Reaction temperature Reaction tirne
800m1/min 363K 473,573,673K
2, 3, 4 hr
3.実験結果および考察 3.1 被覆形態
(a) non coaLed
蟷 至
響
(b) 473K
を同数ずつ測定し,それらの平均とした。いずれの反応温 度においても反応時間が長くなるほど被膜厚さは増加しか つ反応温度が高いほど厚くなる。
rhK 2 3 4
網
=
〜一一 一
一 …ぴ 一 一 一 一 一 − 一
一 一 ご
脚
一 一 罵
曲Fig. 5 Outline of the deposited zone on carbon fibers,
Table 3 Deposited zone length (gm).
.1!90u1]lpra 1−12.90.1!f!LiPm,
(e) 5 7 3 K (d) 6 7 3 K Fig. 4 Scanning election micrographs of Al coated fibers,
Fig.4は反応時間を4時間で一定とし,種々の温度で炭 素繊維に蒸着処理を行ったものと未処理のものを走査型電 子顕徴鏡で観察した写真である。未処理の炭素繊維の表面 はひだ状にはなっているものの比較的なめらかである。
473Kで蒸着させたものは被覆が形成されるが,繊維の外 周全面にではなく一部分のみである。573Kでは被膜は全 面に見られるが,かなり薄く,所々に剥げかかったような 部分が見られ,好ましい状態ではない。673Kになるとさ
らに被膜の量は増えかつ均一でかなりの厚さに蒸着されて いる。673Kでも所々に剥げ落ちたような部分が認められ るがこれは亀裂で反応の不均一ではなく,冷却中かあるい は取り出し中の操作によるものと推測される。
以上の結果より,反応温度が高くなるほど被膜厚さは厚 くなるが,実際にアルミニウムとの複合材を作製した場合 は必らずしも謹厚が厚いほど良いとは限らないが,外観上 から判断すると,本実験条件の範囲では673Kが最も好ま
しい。
3.2 被膜厚さ
Fig.5は蒸着処理を施こした炭素織維の表面を電子顕微 鏡で観察したものをトレースした図で,これに基づいて実 測した被膜の厚さをTable 3, Fig. 6に示す。厚さはFig.
5に示すようにばらつきがあるが,厚さの厚い所と薄い所
Temp(k)
Time(hr)
2 3 4
473 T73 U73
0.06 O.39 O.65
0.48 O.63 P.00
1.13 O.79 P.53
⑳隻\
5 1
522 O t
Φ⊆ON
0 5
02一の︒ΩΦO
o
口673K
O 573K
A473K
どf訟
口
/忽
折
+.評
1 2 3 4 5
Time /hr
Fig. 6 Change of the deposited zone length on carbon fi−
bers,
次にこれらの値より被覆速度を計算すると,反応温度 473,573,673Kにおいてそれぞれ0.16,0.20,0.35μm
/hrとなった。しかし,これらの値はみかけの値であっ て実際の値は以下に記すように,かなり大きい値となる。
その理由はまず用いたTEALが15%トルエン溶液で低濃 度であること,次に2.2で述べたようにトルエンの沸と
うをさけるために気化温度をかなり低く設定する必要が あったことが考えられる。このためトルエンも含めた総気 化量に対するTEALガスの割合はかなり低いもので被覆 反応に対して十分なTEALが供給されなかったためと考 えられる。そこで(i)TEALとトルエンの蒸気圧の比(19
/11),(ii)TEAL溶液の温度の逆数(100/15),(iii)見 かけの被覆速度(上記)を考え,(i)×(ii)×(iii)を実際の 被覆速度として求めたところ,473,573,673Kでそれぞ れ1.85,2.30,4。03μm/hrとなった。.これらの値は類 似の有機アルミニウム化合物であるトリイソブチルアルミ
ニウムの100%液を用いてPAN系炭素繊維にCVD蒸着
したときのアルミニウムの被覆速度8)とよく一致した。
次にEPMAにより被覆された炭素繊維表面の定量分析 を行った。被膜をアルミナとみなし,アルミ㌔ニウム濃度が 被覆厚さに比例すると考えてアルミニウムの分析を行なっ
た。それらの結果をTable 4, Fig 7に示す。被覆厚さが 薄いため,分析値そのものは被膜をアルミナと考えるとは るかに低い値であるが,Fig.6に比較すると一部に異なる 点はみられるものの傾向はほとんど一致しており,電子顕 微鏡から求めた被覆厚さ.とEPMAによって求めたそれが
ほぼ一致することが分かる。
最後に被膜のX線回折を行い,物質の同定を試みた。
Fig.8はそのチャートである。これは蒸着を施こさなかっ
90 SO 70 60 50 40 30 Angte /degree
Table 4 Al concentration in the deposited zone (wt%).
Time(hr)
semp(k)
2 3 4
473 T73 U73
0.78 P.10 P.94
1.69 P.26 R.45
2.40 P.64 R.60
Fig. 8 The X−ray diffraction pattern of the deposited zone on carbon fibers.
δε 4 ヴミ
3
く 2
1
o
口673K
O573 K
.A473K
!ロ /
,・ロー 口 t
/1
/
i,!//
/ / 1/. ;.CO
塗1
,Aク
妊
1 2 3 4 5
T i m e /hr
Fig. 7 Change of Al concentration in the deposited zone with time.
た炭素繊維により得られたものと全く同一で,六方晶でダ イアモンド結晶構造をもつ炭素であった9)。すなわち被 膜そのものによる回折X線は得られなかったが,これは被 膜厚さが1〜1.5μmと極めて薄かったためであろう。今回 の実験では被膜が,目標としたアルミナであるかどうか、
あるいは他のAe4Cなどであるかは判定できなかったが,
極薄表面領域の分析機器であるオージュなどを用いて今後 さらに検討する予定である。
4..結 言
アルミニウムー炭素繊維複合材料を作製するための基礎 的実験として自作したCVD装置を用い,トリエチルアル ミニウムをPAN系炭素繊維表面に蒸着させ,ぬれ性の良 い炭素繊維材料を実現することを試みた。得られた結果を 次に示す。
(ユ〉トリエチルアルミニウムを用いてCVD法により炭 素繊維表面にアルミニウムを蒸着させることは可能で ある。
(2)炭素繊維表面に生成した被膜厚さは反応温度が高い ほどかつ反応時間が長いほど増加する。
(3)反応温度473〜673K,反応時間2−4hrで生じた 被膜の厚さは0.1〜1.5μmであった。
(4)見かけの被覆速度は673Kで0.35μm/hrである が,用いたトリエチルアルミニウムが希薄溶液である
ことなどを考慮して補正すると実際の被覆速度は4.03 μm/hrであった。
最:後に貴重なサンプルをご提供下さった東レ㈱トレカ事 業部岡田俊彦氏ならびに有益な助言を賜わった同高分子研 究所京野哲幸氏に深くお礼申し上げます。
参 考 文 献
1)久保輝一郎,小石真純,角田光雄:複合材料と界面,
(1986),251,総合技術出版.
2)落合庄治郎,長村光造:軽金属,38−10(1988−10),685.
3 ) R.T.Pepper and R.A.Penty : J,Comp.Mat,, 6 (1972) , 338.
4) M.F.Amateau : J.Comp, Mat,,10(1976), 279.
5)技術資料,TORAYCA TI−YN5,1988,東
レ㈱.
6)日本化学編:化学便覧基礎編ll,(1975),709,丸善.
7)同 :同 基礎編1,(1975),240,丸善.
8)鈴木孝和,梅原博行:日本金属学会誌,5ユー6,(1987一一6),
577.
9)Ron Jenkins 他:Powder Diffraction File, Set 25−26,
1988, 899, JCPDS.