◎論説WTO加盟後の中国経済と日本
W T O 加 盟 後 の 中 国 対 外 経 済 政 策
馬成三・・⁝
はじめに
中国およびWTOの加盟国にとって︑中国のWTO加盟
が持つ最大の意味は︑改革・開放の促進にほかならない︒
中でも貿易や外国直接投資受入れなど対外開放への影響は
大きなものがある︒中国はWTO加盟(一九九五年以前は
﹁ガット復帰﹂)交渉において︑市場開放や対内直接投資の
規制緩和を中心に︑多くの約束を行ったが︑これらの約束
を履行することが中国の対外経済政策の中心課題となって
いる︒
中国がWTO加盟を求める理由の一つに︑WTOの貿易
紛争処理機能を活用し︑貿易環境の改善を図ることがある︒ とりわけ︑WTOの規定に合う︑反ダンピング(不当廉売)︑
反補助金︑セーフガード(暫定緊急輸入制限)などの﹁保
障手段﹂の整備が求められている︒第一〇次五か年計画(二
001‑0五年)は︑これを計画期間中の課題として強調
している︒
WTO加盟を受けて︑中国は﹁多国間貿易システムと国
際地域経済協力への積極的参加﹂(第一〇次五か年計画)を
より重視するようになったことも注目される︒特にASE
ANとのFTA(自由貿易協定)締結交渉のスタートは︑
日本を含む東アジアにおける地域経済協力枠組みの形成に
大きなインパクトを与えている︒
本稿では市場開放の推進︑外国企業投資に対する規制緩
和︑知的財産権保護の強化などを中心に︑中国のWTO加
WTO加 盟後の中国対外経 済政 策
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盟以来の約束履行状況を点検した上︑反ダンピング︑反補
助金︑セーフガードなどの﹁保障手段﹂の整備や地域経済
協力への積極的参加など︑中国の対外経済関係における新
しい動向について考察してみたい︒
進む市場開放
中国のWTO加盟交渉は一五年間もかかったが︑焦点の
一つは関税引き下げや非関税措置の撤廃など市場開放で
あった︒交渉の結果︑中国は二〇〇五年までに全品目の算
数平均関税率を一〇・一%︑そのうち工業製品のそれを九・
三%︑農産物を一五・五%にそれぞれ引き下げることを約束
した(表1)︒
WTO加盟を受けて︑中国は二〇〇二年一月から約五千
品目の関税率の引き下げを実行した︒これにより︑中国の
算術平均関税率は二〇〇一年の一五・三%から一二・○%へ︑
加重平均関税率は同九・五%から五・六%へとそれぞれ引き
下げられた︒引き下げ幅では︑算術平均関税率は一=・六
ユ %︑加重平均関税率は四一・五%に達している︒
これまでの中国の関税制度には幼稚産業保護の名目で自
動車など品目に対して非常に高い関税率を適用するという
問題もあった︒WTO加盟交渉において︑中国は乗用車の
関税率を八〇%から二〇〇六年七月までに二五%へ引き下 げることを約束した︒二〇〇二年一月の関税引き下げで︑
乗用車の関税率も大幅に低下した︒そのうち︑排気量が三
〇〇〇㏄以上の関税率は八〇%から六〇・七%へ︑同三〇〇
〇㏄以下は七〇%から四三・六%へ引き上げられた︒
中国は化学品のハーモニゼーション(関税の上限の統一)
への参加やIT製品のゼロ関税の実行を約束したが︑この
目標も着実に達成されている︒例えば︑二〇〇二年一月の
関税引き下げで化学品の平均関税率は七・九%へと低下し
た︒中国税関は二〇〇二年内には一二二品目のIT製品を
ゼロ関税にする計画を明らかにしている︒
国家経済貿易委員会によると︑二〇〇二年には中国の全
輸入品目の約六割にあたる四>>11五品目の関税水準はすで
に繰り上げて約束の引き下げ目標をクリアしている︒一九
九八年七月︑中国はWTOに対して二〇〇五年までに加重
ヨ 平均関税率を六・六%に引き下げることを約束したが︑二〇
〇二年一月現在の加重平均関税率は上記の約束より一ポイ
ントも低い五・六%となったのである︒
中国の市場開放における今ひとつの課題は︑非関税措置
の撤廃である︒中国はWTO加盟後五年以内にWTOのルー
ルに違反する数量割当や他の数量制限を廃止し︑新たな制
限措置を導入しないことを約束した︒この約束を履行する
ため︑対外貿易経済協力省は二〇〇二年一月に食糧や綿花︑
ポリエステルなど一四品目を輸入許可証管理対象から外し︑
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中 国 の関税 引 き下 げの 目標 表1
品 目
2000年 の 水 準
引 き下 げ 目標2002年1月 現 在
全品 目平均
15.6 2005年 ま で に10.1% 12.0%
工業製品平均
14.7 2005年 ま で に9.3% 11.3
農産物平均
21.3% 2004年 ま で に17%、2005年 ま で に15。5%
15.8%(水 産 物 を 除 く)、
水 産 物 は14.3%
情報技術品目
13.3 2005年 ま で に0%
乗用車 :1!'.
2006年7月 ま で に25%
自動車部品
23.4 2006年 ま で に10%
化学製品
2005年 ま で に カ テ ゴ リ ー ご
と に0%、5.5%、6.5% 7.9
出 所:『 人 民 日報 』 な ど に よ る。
同対象品目数を二〇〇一年末の二六品目から一二品目へと
減少した︒
WTO加盟交渉において︑中国は市場開放を中心に多く
の約束を行ったのに対して︑一部の加盟国からは︑中国の
約束履行に疑念を示す声も聞こえた︒しかし︑中国がWT
O加盟を果たしてから一年近く経った時点では︑WTO理
事会など国際社会は中国の約束履行状況︑中でも市場開放
について高い評価を与えているのが実情である︒
例えば︑WTOのスパチャイ事務局長は︑二〇〇二年九
月の記者会見で中国が約束した市場開放策の履行情況につ
いて︑﹁中国政府の取り組み姿勢はこれまでのところかなり
ら 満足できる﹂と指摘している︒全米商工会議所も︑中国の
市場開放策の実施に関する分析報告書の中で﹁全体として
みれば︑中国は約束の実施に積極的に取り組んでいる﹂と
の見方を明らかにしている︒
中国の市場開放がかなり順調に進められたのは︑いくつ
かの理由によるとみられる︒中国が一九九〇年代(特に同
後半)以来︑市場経済化推進の一環として︑関税引き下げ
などの市場開放措置を採り続け︑大きな成果をあげたこと︑
中国の産業競争力の増強に伴い︑市場開放の衝撃に対する
当局の懸念が当初より弱まっていること︑中国が過去多く
の関税減免措置を取っていたため︑実質の関税率が低く︑
ムフ 名目関税率引き下げの余地が大きいことなどがそれである︒
WTO加 盟後 の中国対外経済政策
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中国税関によると︑中国の算術平均関税率は一九九五年
の三五・九%から︑二〇〇〇年の一五・六%へと︑五年間で
半分以下となり︑年平均の引き下げ幅は四ポイントを超え
ている︒中国は二〇〇五年までにこれを一〇二%に引き下
げることを約束しているが︑この目標を達成させるには二
〇〇三‑二〇〇五年の三年間で合計一・九ポイント︑毎年
○・六ポイント引き下げれぼ良いことになる︒このことから
判断すれば︑中国が約束した目標は繰上げ達成する可能性
が非常に高いとみられる︒
外国企業投資に対する規制の緩和と法制度の透明化
一九七〇年代末以降︑中国は改革開放の一環として外国
企業からの直接投資を奨励する一方︑いくつかの制限措置
も取っていた︒サービス分野への投資と国内市場での製品
販売に対する制限がそれである︒一九九五年六月に公布さ
れた﹁外国企業投資方向指導に関する暫定規定﹂と﹁外国
企業投資産業指導目録﹂は︑金融︑情報通信︑流通などの
多くのサービス分野を﹁制限類﹂または﹁禁止類﹂に指定
し︑進出地域や業務範囲︑出資比率などの面において多く
の制限を設けていた︒
外国銀行の対中投資を例にとってみると︑地域的には上 海︑深訓︑珠海︑汕頭︑度門など経済特区および広州︑天
津︑大連︑寧波︑青島など沿海都市に限定すると同時に︑
顧客範囲と業務範囲について﹁外国企業を顧客とする外貨
業務﹂しか認めないという条件が付けられていた︒電気通
信に関しては︑通信機械・設備の製造に関する投資が認め
られるが︑通信サービスの提供が禁止対象となっていた︒
WTO加盟交渉において︑中国はサービスの貿易に関す
る一般協定(GATS)を履行し︑銀行︑保険︑流通︑通
信といったサービス分野における外国企業の新規参入を認
め︑従来の諸規制を段階的に廃止することを約束した︒中
国のWTO加盟が承認されたことを受けて︑中央関係官庁
は相次いで関係サービス分野の市場開放のスケジュールを
公表した︒
そのうち︑中国人民銀行(中央銀行)は︑加盟時点から
外資銀行の外貨業務に関する地域制限と顧客対象制限を廃
止し︑外資銀行が中国企業と中国住民を対象とする外貨業
務を行うことを認め︑人民元業務の顧客対象制限も徐々に
撤廃し︑加盟後二年以内に中国企業向けの業務を︑加盟後
五年以内に中国人個人向けの業務を認めることを明らかに
した︒
情報通信サービスについては︑中国は付加価値電信と基
礎電信という二つの面で市場開放を進めることを約束して
いる︒うち︑付加価値通信サービスは︑加盟後一年以内に
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表2サ ー ビス 市 場 開 放 の 主 な ス ケ ジ ュー ル
業 種 内 容
銀 行
・加 盟 の 時点 か ら外 貨業 務 に関 す る地 域 制 限 を廃 止 。人民元業務 にっ いては加 盟 の 時 点 か ら逐 次 開放 地 域 を拡大 し、5年 以 内 に すべ て の 地域 制 限 を廃 止 。
・加 盟後2年 以 内 に中 国企 業相 手 に、同5年 以内に中国人個人相手 に人民元業務 を行 う こ とを認 め る。
保 険
・2002年 よ り外資 出 資比 率50%以 下 の生 命 保 険会 社 、同51%以 下の損害保険会社 の 設 立 を認 め る。
・2003年12月11日 まで に100%外 資 の損 害 保 険会 社 の 設 立 を認 め る。
・加盟3年 以 内 に外 国生 命 保 険会 社 に対 す る地 域 制 限 を廃 止 し、中国 人 への 医療 保 険 、団体 保 険 、養老 保 険 の 提供 を認 め る。
証 券 ・2004年12月11日 まで に 外 資 出資 比 率 は3分 の1以 下 の 外 国証 券 会 社 の投 資 を 認 め る。
電気通信
・付 加 価 値 電 信 、 基 礎 電 信 の 呼 び 出 しサ ー ビ ス:加 盟 時 よ り外 資 出 資 比 率 が30%
以 下 の 投 資 を 認 め る 。2002年12月11日 ま で は 同49%以 下 、2007年12月11日 ま で は100%外 資 の 投 資 を 認 め る 。
・移 動 電 話:加 盟 時 よ り外 資 出 資 比 率 が25%以 下 の 投 資 を 認 め る
。2002年12月 11日 ま で は 同35%以 下 、2004年12月11日 ま で は 同49%以 下 、2006年12月11日 ま で は100%外 資 の 投 資 を 認 め る 。
・基 礎 電 信 の 国 内 業 務 、国 際 業 務:2004年12月11日 よ り外 資 出 資 比 率 が25%以 下 の 投 資 を 、2006年12月11日 ま で は 同35%以 下 、2007年12月11日 ま で は 同49%以 下 の 投 資 を 認 め る 。
流 通
・加 盟2年 後 以 内 に外資 出 資比 率 が50%以 上 の合 弁 小売 企 業 を認 め、業務展開地 域 を す べ ての 省 都 お よ び重 慶 、寧波 に拡 大 す る。
・加 盟3年 後 、卸 売 りへ の投 資 の制 限 を廃 止 。
出 所:「外 国 企 業 投資 産 業 指 導 目録 」(2002年3月II日 公 布 、同 年4月1日 施 行)な どに よ る。
投資地域を主要都市へと拡大し︑
加盟後二年以内に外国側出資比率
が四九%までという条件で地域制
限を廃止することとなっている︒
流通業については︑WTO加盟後
三‑五年以内に外資系小売企業の
投資地域と数量に対する制限を廃
止すると同時に︑卸売業への投資
規制も大幅に緩和することが約束
されている︒
WTO加盟を受けて︑国家発展
計画委員会︑国家経済貿易委員会
と対外貿易経済協力省は二〇〇二
年三月に新たに﹁外国投資方向指
導に関する規定﹂と﹁外国企業投
資産業指導目録﹂を公布し︑これ
まで﹁制限類﹂または﹁禁止類﹂
に指定された多くのサービス業種
を﹁奨励類﹂へと変更したと同時
に︑各サービス分野の市場開放の
スケジュールをも明らかにしてい
る(表2)︒
これまでの中国の外国投資への
7g‑‑WTO加 盟後の中国対外経 済政 策