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家庭内暴力の病理 と治療 - 施設入所 を中心 とした多面的 アプローチ

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(1)

弘 前 医 学 4 2:4 2 4 ‑4 31 ,1 9 91

家庭内暴 力の病理 と治療

‑ 施設入所 を中心 とした多面的 アプローチ 1 1 宏 均 2 1 1 夫 人 裕

道 理

谷 林 島

開 票 福 1

1

子 俊

美 由 英

藤 山

斎 庭

抄阜

家庭 内暴力を主な問題 として弘前児童相談所を訪れ,養護施設入所の うえ経過を観察 した 3 事例の治療経 過を報告 し,家庭 内暴力の家族病理,処遇 と治療 に関 した臨床上の間男 について検討 した. 3 例 はいずれ も特異 な家族歴,生育歴を有 していたが,そ こには父性の喪失,親子関係の変容,家族の解体 といった極めて現代的 な テーマが底流 していた.そ して, これは家庭崩壊の きざしを告げ る警鐘 として今後 さらに敷延すべ き間葛の よ う に思われた. さらに,家庭内暴力のよ うな問題を扱 う際 には医療撫関 とその他の関連施設 との密接 な連携が求め られ ることを指摘 し,具体的かつ有効な援助体制を形成す るための精神科医の役割 と,児童青年精神医療 におけ る地域 との連携の在 り方について考察 した.

弘前医学 4 2:4 2 4 ‑4 3 1 ,1 9 91 Keywords:f a m i l yvi ol ence

l i ai sonps ychi at r y f ami l ypat hol ogy

chi l dcons ul t at i oncent er r es i dent i alt r eat ment

PSYCHOPATHOLOGY AND THERAPY OF FAMI LY VI OLENCE

‑ Mul t i pl eApt ) Y 1 0 a C hCe nおy l e dRe s i de nt h l lTy l e a t me nt ‑

HI ROSHISAI TOH,M I CHI O SEKI YA,YuMI KOSAI TOH , HI TOSHII NOMATA,MASATO KuRI BAYASHI ,HI DETOSHINI WAYAMA

andYUTAKA FUKUSHI MA

Abs t r ac t I nt hi spap er ,Wer e por tt hepr oc e

s

sofps yc hot h e r apyi n t h r e ec a s e swhos emai npr obl e msar e f a mi l yvi o l e nc e . Ⅰ nt h e s ec a s e s , e a c hpat i e nt ' spa r e nt( mot he r )vi s i t e dHi r os akiChi l dCons ul t at i onCe nt e r f orc hi l d' svi ol e nc e,a ndt he nt het hr e ec hi l dr e nwe r ei ns t i t ut i onal i z e dt ot her e s i de nt i alt r e at me ntc e nt e r . Fa mi l ypat hol og ya ndc l i ni c a lpr obl e msoff a mi l yvi ol e nc ei nt e m soft r e at me nta ndp s yc ho t he r a pywe r e di s c us s e d.The r ewe r es pe c i f icf am i l yhi s t o r ya ndgr owi nghi s t or yl ne ac hoft het hr e ec as es , a ndt h e yhave s har e de xt r e me l ymode m t he me ss uc ha sl os soff at he r hood, t r a ns f o ma t i o nofpa r e nt s ‑ C hi l dr e l at i o ns hi pa nd di s s ol ut i onoff a mi l y. I ti s ,t he r e f or e ,l i ke l yt hatt he s et he me sa r ea na l a r m a sa ni ndi c at i onofc ol l aps e off a mi l y. Thust he s epr obl e msne e df ur t he rc l i ni c a ls t udi e s ,anda ls ot het r e at me ntoff a mi l yvi ol e nc e r e qui r e st hec l os ec oope r at i o nwi t hme di c alf a c i l i t i e sa ndot he rs uppo r t i ngf ac i l i t i e s . Fur t he m o r e ,we c o ns i de r e dt h ewayofc oop er at i ona mongs uppor t i ngf ac i l i t i e si nc hi l d‑ a do l e s c e ntps yc hi at r ya ndt her ol e ofps y c hi a t r i s t st oe s t a bl i s hac onc r e t ea nde f fe c t i ves uppo r t i n gat t i t ude.

Hi r o s akiMe d.∫ .4 2:4 2 4 ‑4 3 1 ,1 9 9 1 1 )弘前 大学 医学 部 神 経精 神 医学 教 室 ( 主 任 福 島

裕教授)

2)

弘前児童相談所

平成

2 年 1 1

1 6 日受付

1 )De par t me ntofNe ur o ps yc hi at r y ,Hi r os akiUni ‑ ve r s i t ySc hoolofMe di c i ne( Di r e c t or:Pr of .Y.

FUKUS HI MA) ,Hi r os aki ,J apa n

2)

Hi r os akiChi l dCons ul t at i o nCe nt e r

Re c e i ve df o rpu bl i c a t i o n,Nov e mbe r1 6 ,1 9 9 0

(2)

平或

3

2月 弘前医学 42

4

Ⅰ. は じ め に

子 どもが家庭 で親 その他 の家族構成員 に振 る う暴力, とい う意味での家庭 内暴力が本邦 で報告 されだ したのほ昭和40 1 ) 年代半 ば頃であ った. これ まで, こ うした家庭 内暴力 の疾病 学的位置づ け,家族病理,社会的背景 につい 2 )

ては多 くの報告 がな されてい る.

しか し, これ に対 して,治療者 がその経過 を直接観察で きる治療過程 あ るいは社会‑ の 適応 とい う側面 か ら家庭 内暴力を論 じた報告 は数少 ない.家庭 内暴力 は一つの現象 にす ぎ ず,精神分裂病や人格障害 を背景 とす るもの か ら,神経症や思春期危機 の‑症候 として理 解で きるものまで多岐 にわた り,その病態 の 違 いによって精神病理学的 な意味合 いが異 な るとい う事情が治療 を論ず るのを困難 に して い るもの と考 え られ る. さらに,家庭 内暴力 とい う行動 に よって子 どもが何 を訴 えよ うと して い るの か, お よび本 人 自身 の 問題 と家 族 ・地域社会 の特性 な どを,全体的 な構造 の なかで適確 に把握す ることが治療上肝要 であ る. こ うした ことか ら,家庭 内暴力 とい う問 題 にアプ ローチす る際 には,多面的 な視点が 必要 とされ, それだ けに, 医療枚関 とその他 の関連施設 との密接 な連携 が求め られ ること にな る.相談 の窓 口としては,医療機 関,児 童相談所,福祉事務所,教 育セ ンター, な ど 多種多様 であ り,それぞれが治療,処遇 にあ た ってい るが,相互理解や協力体制 は充分 と は言 えず,必要 な関わ りを持つだけの経験 の 蓄積 に乏 しい とい う現 状 を認 め ざ るを得 な い .

そ こで,家庭 内暴力 を主 な問題 として弘前 児童相談所 を訪れた事例 を提示 し,その病理 を検討す る とともに,児童青年精神医療 にお け る連携 の在 り方 につ いて若干 の考察 を加 え

た い .

Ⅰ Ⅰ . 対 象 と 方 法

児童相談所 は,児童福祉行政 の第‑線枚関

家庭 内暴力の病理 と治療 4 25 として児童福祉法 に基づ き各都道府県 ごとに 設置 され ,1 8 歳未満 の児童 の福祉 に関す る各 種 の相談 ・指導 な らびに医学的,心理学的, 教育学的,社会学的観点か らみた精神保健上 の判定を行 ってい る.

弘前児童相談所 には,昭和 2 3 年 の設置以来, 弘前大学医学部神経精神医学教室 か ら常時一 名 の児童精神科医が嘱託 医 として派遣 され, 児童青年精神医療 向上 のため,様 々な形で活 動 を共 に して きた.

昭和63 年 に,家庭 内暴力を主 な問題 として 弘前児童相談所 を訪れ,児童養護施設 に入所 せ ざるを得 なか った ケースは 3例 であ る. こ れ らの事例 はそれだけ暴力が激 し く,長期間 持続 し, かつ家庭 での児童 の保護 ・育成 ・社 会化 とい う機能 に限界があ った ことを示 して い る. また, いずれの症例 も,精神分裂病や 人格障害 は否定 され,家族 の病理 が先鋭 に反 映 されてお り, その背後 には比較的均質 な問 題 が見て とれた.対象を限定 し,家庭 内暴力 とい う用語 を, よ り明確 な意味で神経症辺縁 領域 の問題 として用い ることに よって,問題 の背景 にあ るものを鮮 明に浮 かび上が らせ る ことが可能 にな る と考 え られたため,本稿 で 紘, これ ら 3事例 を詳細 に報告 し,その処遇 や治療 の問題 な どを検討 した.

Ⅰ Ⅰ Ⅰ . 事 例 報 告 [ 事例 1] K 男 1 4 歳

家族歴及 び生育歴 : 3 人 同胞 の第 1 子.母, 弟,妹 との 4人家族.父 には結婚前 か ら問題 飲酒 を認め,精神科‑の入院歴 もあ る .K 男 が物心ついた頃 も,朝 か ら飲酒す る状態で, しば しば母 に暴力を振 るっていた .K 男が 5 歳 の時,母 は父 の暴力 に耐 えきれず,子 ども

を残 した まま実家 に逃 げ帰 った. しか し,間 もな く父 も子 どもを置 きざ りに して失掠.以 級,母が K 男 らを引 き取 り,養育 にあた って

きた.

現病歴 :小学校 5 年生迄 は, お とな し く,

友達 もあま りいない子だ った.成績 は中位.

(3)

4 2 6 斎 藤,他

小学校 6 年生 になってか ら母 に対 して些細 な ことで暴力を振 る うよ うにな り,中学入学後 激化. さらに母だけでな く弟妹 に も手をあげ るよ うになったが,外では素直で問題 のない 子だ ったため,学校 には相談で きなか った と 母は語 る.昭和63 年 4 月 ( 中学 2 年生)か ら は登校 もせず昼夜逆転の生活.母や弟妹を顎 でっかい,気 にい らない ことがあると殴 る, 蹴 るの暴力を振 るい,一方では 自分の部屋で は寝たが らず,母の布団にもぐり込む とい う 状態であ った. こ うしたなか, 4月下旬,母 が単身,弘前児童相談所 を訪れた.

その後の経過 :K 男が来所 したが らないた め,弘前児童相談所か ら児童福祉司が 自宅 を 訪問,あるいは母のみが来所 とい う形で関係 作 りをはか ったが,暴力はお さま らず,事態 はいっこ うに改善 されなか った.次第に母の 側の悲観的で投げや りな態度が募 り, また, K 男の暴力のため,母や弟妹が家に居 られず 逃げ まわ る とい う状況 となったため,母が希 望 し, また, K 男の了東 も得 られたため,昭 和63 年 9 月,養護施設 K 圃入所 とな った.施 設内では適応 に大 きな問題 はな く,間 もな く K 男は施設区域 の中学校 に学籍を移 し,登校 す るよ うにな った. しか し,それ までの経過 か ら,最終的に 自宅へ戻すための母子関係の 修復を中心 とした精神療法的 アプ ローチを求 め られ,昭和63 年 1 0 月,著者 らの もとを受診 した.治療開始当初, K 男はなかなか 自己の 内面を語 ろ うとせず,表面的 な対応 に終始 し, 防衛的な態度が 目立 った. しか し,母 を同席

させ ると途端 に感情を顕わ に し,い ら立 ちを 隠そ うとせず,母 に対 して攻撃的言辞を浴 び せた. これに対 して,母 は戸惑い,押 し黙 っ て しま うのが常であ った. また,施設での生 活は楽 しい と語 るものの,次第 に園内で年下 の児を苛め る等の問題 も顕在化 してい った.

そ こで,施設 の指導員,児童相談所 の福祉司, 精神科主治医の間で K 男の治療方針 について 話 し合いの場 が もたれた.その結果,施設で は一人の男性指導員を K 男の受 け持ち として

Fe br ua 叩 ,1 9 9 1 Hi r os akiMe d.∫.4 2( 4) 良 き管理者 になって もら うこと,母 には弘前 児童相談所主催の親の集団指導会 に参加 して もらうこと,主治医は K 男の問題行動を取 り あげて治療場面で言語化す る作業を続 けるこ とが確認 された.その後,治療場面で K 男は 横柄 な態度を取 りがちであったが, これを K 男な りの強が りとして受け とめ,見守 る うち に治療関係は安定 し,母 と同席 して もかつて の とげ とげ しさは影をひそめ,母 も余裕 を取 り戻 し,立て直 しが可能 となった. こ うした 経過を‑て,平成元年 8 月, K 男は 自宅へ初 めて外泊 した.外泊中,大 きな問題 はな く, その直後の面接で,母 は 「 3 6 年間生 きて きて こんなに幸福 な気持ちにな ったのは始めてで す」と語 り,その横で K 男は さかんに照れた.

また, 同 じ頃,施設対抗野球試合で,最終回 押 し出 しの フォアボールを与 え,負け投手 と なった K 男が,試合終了後 チームメイ ト一人 一人に泣 きなが ら自分の責任を詫 びたエ ピソ ー ドな どが施設の指導員か ら語 られた.

その後,何回か退園の話が持ち出 されたが, K 男は 「 来年の対抗野球で雪辱 を果たす まで は園で頑張 る」 と笑いなが ら応 え, これを受 けつけよ うとしなか った. また,施設内では いつの間にか リーダー的存在 とな り,他児の 相談役 まで こなす程 の変化 を遂げた.平成 2 午, K 園で 2 回 目の夏を迎 えた K 男は再 び施 設対抗野球 に ピッチ ャーとして臨んだが,結 果 は惜敗であった. しか し,その後,ふ っき れた よ うに K 男は 自ら退園を希望す るよ うに な り,定期的に繰 り返 された外泊の結果 も良 好だ ったため母 もこれを受け入れ,今年中の 退園が正式 に決定 した平成 2 年 1 1月,治療 を 終了 した.

[ 事例 2] N 男 1 4 歳

家族歴及 び生育歴 : 2 人同胞 の第 1 子.母, 妹 との 3 人家族.北海道で生れ育 った.実父

と母の間には 4 人の子 どもがあ ったが, N 男

が 5 歳 の時に離婚.その後,上 2 人は父方に,

N 男 と妹は母 に引 き取 られ養育 された.母に

よると,実父は 「 酒ばか り飲み仕事 もせず に

(4)

平成

3

2月

弘前 医学

4 2

4 号

見 えすいた嘘をつ き,す ぐに暴力を振 る う人」

であ り,それが離婚 の原 田だ った とい う .N 男は,元来神経質で物事を気 に しやすい性格 だ ったが,小学校入学後 「食べ物 に毒が入 っ たのではないか」 と気に し,何で も臭 いを一 度喚いでか らでない と食べ られず, また,母 の食器 の洗 い方が足 りないのではないか と強 迫的に訴 えるよ うになった.小学校一年生時, 母が再婚. しか し, この継父は 2 年後,病死

した.継父死亡直後,母は再 々婚.N男が小 学校 6 年生の時に異父弟が誕生 したが,継祖 父,継父 ともに, この弟ばか り可愛が った と い う. この頃か ら,継父の財布か ら金銭を持 ち出 した り,物ねだ りが しつ こく,それが通 らない と暴れた り,物を壊 した りといった問 題 が出現.結局,N男の こ うした問題 が もと で再び離婚せ ざるを得 なか った と母 は語 る.

現病歴 :離婚後,中学 1 年生の 3 学期,母 の出身地であ る弘前‑転居.その後 も執扮 な 金銭要求, また,それが聞 き入れ られない と 家財 を破壊 した り,母 に乱暴す るとい う傾 向 が持続 した.さらに,中学 2 年生の 2 学期 ( 昭 和 6 3 年 9 月)か らは不登校状態. こ うした N 男に対 して母は拒否的感情が強 く,初めか ら 施設入所 を希望 し,昭和 63 年 1 2 月弘前児童相 談所を訪れた.

その後 の経過 :母 の N 男に対す る拒否的感 情 は根深 く, こ うした感情が N 男の行動 と悪 循環をな していたため,それを断ち切 るため, 平成元年 1月,N男は養護施設 K園に入所 し た.小児期か ら強迫症状が存在す ることな ど か ら,精神医学的診断及 び治療 のため著者 ら の もとを紹介 され,平成元年 2 月,精神科を 受診 した.初診時の N 男は,緊張 してオ ドオ ドとした態度が 目立 ったが,表情や思考内容 に奇異 な点はな く,明 らかな妄想 ・幻覚 も認 め られなか った.母 に対す る不満を遠慮がち に述べ る一方で母の身体的不調を過度に気遣 う姿勢が印象的だ った.施設内では強迫症状 は影をひそめているものの,周囲に とけ こめ ず困惑 してい る様子だ ったので,施設の指導

家庭 内暴力の病理 と治療 4 2 7 負に極力保護的,受容的に接す るよ う依頼 し た.暴力を振 るわ ざるを得 なか った気持ちを 汲む うちに次第 に N 男は母,継父 らに対す る 否定的感情を吐露 し,打ち解 けて話せ るよ う になっていった. また,中国史に関心がある ことを 自ら語 ったため,そ うした話題 を共有 し,N男の内的世界が拡がるのを援助す る方 向で面接 をすすめた.入所当初,学校や施設 内で不安 ・緊張が高 まると容易 に不眠,心気 症状を呈 し,少量の向精神薬を投与 した時期 もあったが,治療が展開す るにつれて こ うし た傾 向は消失 してい った.中学卒業をひかえ, 卒業後の進路について話 しあ ううちに ,N男 は 自宅へ帰 るよ りも,む しろ東京で働 きなが ら定時制高校へ通 いたい と希望す るよ うにな った.母,施設指導員,主治医を交 えて何回 とな く話 しあ ったが, N 男の意志は固 く,最 終的には周囲 も N 男を支持す る形で意見が一 致 したため,平成 2 年 3 月,中学卒業 と同時 に治療 を終了 した.治療終了後的半年 を経過 しているが,K園の指導員によると,N男は 現在東京のガラス製造工場 で働 きなが ら,元 気に定時制高校へ通 っているとい う.

[ 事例 3] M 男 1 4 歳

家族歴及 び生育歴 : 2 人同胞 の第 2 子. 母, 姉 との 3 人家族 .M 男は,母が父の友人に暴 行 されかか るとい う事件の後 に生 まれ,父に

「自分の子 どもでない」 と言われ姉 と差別 さ れて育 った.父は M 男を一度 も抱 こ うとせず, 些細 なことでひ どく罵倒 した とい う.嘘が多 い,聞 きわけのない,落ち着 きのない子だ っ たが,臆病で小心 な面 もあ り,い じめ られや す い子 で もあ った.父 は酒 を飲 んで は家族 ( 特 に母 と M 男)に暴力を振 るっていた.小学 校 6 年生時 ,M 男が母 に 「なぜ 自分だけが差 別 され るのか」 と詰問 し,母が出生 にまつわ る出来事を話 した後,母 に対 しての暴力が出 現す るよ うになった.

現病歴 :中学校 2 年生時,母が父の暴力に

耐 え られず,姉だけを連れて実家に逃げ帰 り,

その後,中学校 3 年生時に M 男は父か ら逃れ

(5)

4 2 8 斎 藤,也

て母 の もと‑や って きた.それか らは登校 を 拒否 し,家か らほ とん ど出ず に生活 も乱れは じめた.母 に対す る暴力は激化 し,母は殴 る・

蹴 る ・首を締め られ る ・物 をぶつけ られ ると いった暴力 に耐 えかねて,昭和6 3 年 7 月M男 の施設入所 を希望 し弘前児童相談所 に来所 し た.

その後の経過 :母が M 男の暴力に悩み,「こ のままでは一緒に生活で きな

い 」

と M 男に話 す と, M 男は 「 親だか ら養 うのは当然

と開 き直 り, また,母 は,父方伯父が精神病で長 期入院 していることか ら, M 男 も精神病では ないか検査 しては しい とも語 った. ケース ワ ーカーが訪問 し,暴力が止め られず母 と姉 に 身の危険がある場合 には警察 に も協力を求め ることとし,一時保護す る態勢を整 えた .M 男の暴力はエスカ レー トし, これ まで手を出 さなか った姉 に も暴力 を振 る うよ うにな っ た.母はいかにも切羽詰 まった様子で, これ 以上 M 男 と生活を共 にす る気持ちはまった く ない と語 り,施設入所 を強 く希望.検討 した 結果,母 の元では問題解決が困難であ り,施 設入所が適当であ ると認め られ,昭和6 3 年 9 月養護施設 A 園入所 となった.その後,母 の 病気入院な どがあ ったが,M男はA園では落 ち着 いてお り,問題 な くす ごす時期が続 いた.

集団内の生活の中で,世話 した り, された り 自分の創意を活か された りとい った体験 を通 して, M 男の現実行動 は柔軟性を増 していっ た.平成 2 年 7 月,母が来所 し, M 男の引 き 取 りについて相談があ った 了M 男は入所前 と は全 く変化 しているので,今す ぐにで も引 き 取 りた

い 」

と語 り, これ に対 しては外泊の経 過をみた上で考 えるよ う助言がなされた.平 成 2年 8月,一週間の帰省を 2度試みたが経 過 は良好で,母 は,引 き取 りを希望 した .M

男は 「 母 と一緒にや ってゆ く自信がある. ち う自分は昔 とは違 う」 と語 り,園内で も明る く素直にな って きた と評 されている.母子関 係は良好 にな りつつあ り,現在,M男はA園 にて 自宅‑の外泊を繰 り返 しなが ら,経過観

Fe br ua r y ,1 9 91 Hi r os akiMe d. ∫ . 4 2( 4 ) 察中であ る.

Ⅰ Ⅴ. 考 察

家庭 内で発生す る暴力には,夫婦間の暴力, 親 か ら子‑ の暴力,子 が親 に振 る う暴 力 と 様 々な形態があ るが,近年家庭内暴力 とい う 青葉 は,思春期 の子 どもが家庭 内で他の親族 に対 して暴力を振 る うことを指す よ うになっ 3 ) て きた.

われわれのいわゆ る家庭 内暴力が出現す る 背景 には 日本型社会の病理が深 く関与 してい ると考 えられて きたが,米国において も本邦 の 家庭 内 暴 力 に驚 くほ ど類 似 した 病 態 を 4 ) ba t t e r e dpa r e nt s と呼び,新 しい症候群 とし て とらえることが提唱 されている.古典的な 家族制度の崩壊 とそれに伴 う父性の喪失,礼 会的価値観 の急激 な変化 な どは先進工業国共 通の問題であ り,子か ら親‑の暴力 も決 して

日本固有の現象ではない.

ところで, これ までの家庭 内暴力 に関す る 論文 ・報告を振 り返 ってみ ると,その概念や 対象は必ず しも同等ではな く,それぞれが異 なる対象を中核 にして論 じられている.す な わち,精神病や身体疾患を除外 して検討す る 立場 と,それ らを一括 して考察の対象 とす る 立場である.児童青年精神医学の領域 におい ては,不登校児の行動化,分裂病の初期症状 としての暴力, また,人格障害,てんかん, 脳器質障害お よび精神発達遅滞を伴 う例の家 族 に対す る暴力は,それ らとは異質 な現象 と

しての家庭 内暴力が問題 とされ る以前か ら, 各 々考察の対象 とされて きた. これ ら,成因 が異なる現象を,その背景を無視 して,家庭 内暴力 とい う症候だけに注 目して一概 に論 じ るのは不適切 と思われ る.家庭 内暴力が時に は家族構成員の命 を も脅か しかねないほ ど執 扮 なものであ り,家族 に とって危機状況であ ることを考 えると,臨床場面では これにいか に対処す るかが緊急な課題であ り,その病態

5 )

の区別は二次的な問題 となるとい う意見は当

然である. しか し病態をなるべ く早期 に見極

(6)

平 成

3

2 月

弘前 医学

42

4

め,それに応 じた対処を講 じるのは児童精神 科医の責務のひ とつであるし,研究の対象 と しては,限局 した状態像を取 り上げ るのが適 切であろ う. こ うした今 日的な現象を,家族 関係の変容 とい う視点か ら検討す ることで現 代社会 と家族の相互作用を照 らし出す ことが 可能 と考 えられ るか らである.

さて, ここで事例 に立 ち返 り, これ まで述 べて きた ことを踏 まえて,子 どもの側の問題, 被害者 としての親,処遇 ・治療 をめ ぐる問題 な どを順次検討 してい きたい.

1 . 子 どもの側の問題

一般 に家庭 内暴力を呈す る子 どもの家庭 で 6 ) は心理的父性欠損が指摘 されているが,われ われの事例では 3 例 とも現実 に父親が不在で あ った. しか も,かつて存在 した父親 は,問 題飲酒,暴力等の否定的な因子を共通 してか かえ,父性が本来示すべ き規範,刀,権威, ルール といった特性を殆 ど提供 し得 なか った と考 え られ る. また, こ うした父に対す る母 の否定的な感情 もぬ ぐいがた く,程度の差 こ そあれ,様 々な形でそ うした思いが患児に投 影 されて いた ( 事例 1で は患児 と同席 した 際,母は父に対す る恨みを語 り,母 との面接 では父 と患児 との共通点が語 られた し,事例

2 , 3 では母 は, 明 らかに父 と患児を同一視 していた時期があ った. ちなみに,患児 らは いずれ も長男である).こ うした両親像を子 ど もが 自己の内に取 り込 んだ場合,悪 い 自己像 を形成 し,否定的 自己像‑ と発展す るが,そ の根底 には幼少期か ら蓄積 された劣等感や無 力感,絶望感が存在 してお り, 自他 に対す る 欲求不満 や攻 撃的 エネル ギ ー として貯 蓄 さ 3 ) れ,沈澱 して くる.思春期 をむかえ,本来で あれば対決 し,乗 りこえるべ き父が存在せず, や り場のない怒 りが家庭内暴力 として表現 さ れた と理解で きるだろ う. また,そ こには, 自分を独立 した存在 と見な して くれない母 に 対す る抗議 とい う意味 もこめ られていたのか もしれない. さらに,彼 らが母 に対 して執勘 に暴力を振 るいなが ら,一方では,母 に対 し

家庭 内暴力の病理 と治療 4 2 9 て過度 に依存的であ ったの も特徴的であ る.

思春期特有の依存 と独立の葛藤が展開 されて いるのは明 らかだが,良い父親像が内在化 さ れていない彼 らに とって,それは重す ぎる課 題であ り,第 3 着の介入を無意識的に希求 し ていた とい うこともで きるだろ う.治療的に は家族 に対す る暴力 とい う行動の背後 に見 え 隠れす るや るせな さを汲み取 り,治療者 自身 がそれを受 け とめ, よ り柔軟で適応的な形で 患児に返す とい う作業 によって,問題解決‑

の道が開かれた と思われ る.

2. 被害者 としての親

犯罪学の分野では,犯罪の被害者 について, その生物学的,心理学的,社会学的特性を研 7 ) 究す る被害者学が確立 されている.家庭 内暴 力において,暴力を振 る う子 どもを加害者, 振 るわれ る親 を被害者 とす る と,被害者学的 見地 か らは,親 の特性 に 目を向ける必要がで て くる.われわれの事例では, 3例 とも母親 は結婚後,夫の暴力にさらされ,子 どもが長 じてか らはその暴力の被害者 となっている.

彼女達が ど うしてその よ うな配偶者 を選 んだ か とい う点については ここでは触れないが, 被害者学の用語を借 りれば母親 が無意識的に 加害者を魅了 し, 自ら被害者の役割を演 じて 8 ) しま う潜在的被害者であ った可能性は否定で きない.つ ま り,母親 は無意識的に子 どもの 暴力を誘発 し,受難者の役割を とることで 自 虐的な満足を得, 自分の側 の憎悪や攻撃性の 問題, また,罪の意識 な どを回避 していた と も考 えられ る.子 どもと母親 は, こうした反 復行動の民にはま りこんだ状態 にあ り,治療 的 には,子 ども‑の接近 とともに母の在 り方 も問われ ることになる.具体的には,事例 1 の よ うに,親 の集団指導会への参加がその援 助 とな り得た と考 えられ るが,今後 さらに検 討を加 えるべ き問題 と思われ る.

3. 処遇 ・治療をめ ぐる問題

家庭内暴力は, ご くまれには生命 にかかわ

る不幸 な事態‑ と発展 しかねない.そ こで,

いつ,誰が, どこに, どの よ うな形で介入す

(7)

4 3 0 斎 藤,他

るか とい う判断が臨床の場では重みを持つ こ とになる.そのためには,児童精神科医が病 院外来で受身的 に待つだけでな く,拠点 とな る第 1線の機関に出かけ,専門家 として協働

9 )

す ることが必要であ る.精神科医は,診断の みな らず, ケースの家族的,社会的背景な ど を総合的に検討 しなが ら,多視的観点か ら処 遇 ・治療 にあた ることになる.

今回提示 した 3 事例 は, いずれ も児童相談 所が窓 口とな り,援助体制 を整 え,養護施設 が受 け皿 とな り,その後,精神科医が直接 ( 辛 例 1 ,事例 2 ),間接 ( 事例 3) 的に治療的関 わ りを持つ よ うになった. まず,児童相談所 が事例性を考慮 しなが ら,慎重 に処遇 に関す る検討を重ね,精神科医に よる診断的評価 を ふ まえて,施設入所 を決定 した.診断的 には, 事例 1 ,事例 3 は神経症水準,事例 2 は入所 時,精神分裂病,人格障害 な ども否定で きな か ったが, いずれ も,緊急 に医療横関収容を 考慮すべ きものではなか った.( その後の経過 か ら,事例 2 も神経症水準であ った と考 えら れ る) また, 3 例 とも家族の支持機能 に限度 があ り,地域社会 との関係 も稀薄だ ったため, 在宅での援助が困難であ った. これ らの事情 を総合的に考慮 して,施設入所が決め られた. 1 0 )

養護施設 は強 い枠組 みを提供 す る と とも に, 日常生活での体験や同年代 の子 ども達 と の交流 の場 として有効 に機能 し,指導員や保 母が患児 に とって これ までにない新 しい対象 として常 に中心的 な役割を果た して くれた と 言 える.そんななかで,精神科医は個別的な 精神療法を受 け もつだけでな く,施設 との リ エ ゾン精神医学的関わ りを求め られた.それ は定期的に施設職員 と処遇方針 について話 し あい, また, こち らか らも施設を訪問 しなが ら,事例 に即 した理解 と治療技法 を共有す る ことであ り,具体的 に 日常用語を用 いて助言 l l ) す ることであ った.本間 らが指摘す るよ うに, 精神科医 と施設職員 との役割分担をめ ぐる問 頑 が大 きな課題 とな り,時に,抵抗を招 くこ ともあ った.施設職員間,施設職員 と精神科

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医 との間に,患児の理解の仕方 に微妙 な鮎齢 が生 じ,互いに対応が異 なるために,患児の 混乱 を招 くとい った こ ともしば しばで あ っ た. これは,病院内の リエ ゾン精神医学以上 に大 きな壁であった よ うに思われ る.子 ども らの問題 をめ ぐって,周囲の大人の意見 に不 一致が生ず ると,それを統合す るためには, 大人 自身が 自分の問題 に直面せ ざるを得ない ことがあるが,そ うした作業を乗 り越 えて初 めて施設 との間に円滑な協力関係が可能 とな った. これは,医師,非医師を問わず,それ ぞれに とって重い課題だ ったが,事例 の援助 にあた って必須 の ことであ った と思われ る.

精神科医がその専門性をいか し,非医療施設 と連携す るためには,個人的関わ りに とどま らず,地域 との治療的ネ ッ トワーク作 りを今 後 さらにすすめ,積極的に社会的資源 の活用 をはか ることが重要 と考 え られ るが,そのた めには,立場を越 えた柔軟性 と具体性が必要 であると考 えられた.

Ⅴ. ま と め

家庭 内暴力を主 な問題 とす る 3 事例の治療 過程 を報告 し,子 どもの病理 とともに,被害 者 としての親の側の病理 を検討 した. また, 処遇 ・治療 において医療機関 と関連諸施設 と の連携 をめ ぐる問題点を指摘 し,地域 との リ エ ゾン精神医学の在 り方 について考察を加 え た .

文 献

1 )江幡玲子,他 :対談 ・家庭 内暴力ーその症状 ・背 景 ・治療‑.月刊生徒指導 ,8:6 ‑ 1 9 ,1 9 7 8.

2 ) 本城秀次,他 :児童思春期 の家庭 内暴力 につ い て.児精医誌 ,2 3:1 1 0 ‑ 1 2 3 ,1 9 8 2 .

3 )

瓜生

武,他 :学校内暴力 ・家庭 内暴力. 2 8 ‑ 6 3 , 有斐閣,東京 ,1 9 8 0 .

4) HABBI N,H. T. e tal .:Bat t e r e dpa r e nt s . Am. I.

Ps yc hi a t

,1 3 6:1 2 8 8 ‑ 1 2 9 1 ,1 9 7 9 . 5)宮崎隆吉,他

:

「 家庭内暴力」家族会の試み.精

神科治療学 ,4:7 0 9 ‑ 7 1 9 ,1 9 8 9 .

(8)

平 成

3

2

弘前医学 4 2

4

6)三原龍介,他 :登校拒否 と家庭 内暴力の関わ り.

臨尿精神医学 ,1 2:9 1 5 ‑ 9 2 2 ,1 9 8 3 .

7 ) 中田 修,他 :犯罪精神医学 . 3 2 2 ‑ 3 3 5 ,金剛出版, 東京 ,1 9 7 2 .

8) ELLENBERGER ,H.:Re l a t i onsps yc hol o gi que s e nt r el ec r i mi ne le tl avi c t i me .Re v.t n t . Cr i m.Pol .Te c h. , 8:1 0 3 ‑ 1 1 5 ,1 9 5 4 .

家庭 内暴力の病理 と治療 4 3 1

9)小西美行,他 :三重県 における児童青年精神医 療.児精医誌 ,2 9:2 3 ト2 4 4 ,1 9 8 8 . 1 0 ) 小倉 清 :親 に乱暴す る子 どもたち.臨尿精神医

学 論 文 集

. 2 1 4 ‑ 2 3 3

,土居 健 郎教 授 還 暦 記 念 論 文

集刊行会,東京 ,1 9 8 0 .

l l ) 本間博彰,他 :子供の ヒステ リーと リエ ゾン精神

医学.臨尿精神医学 ,1 8:4 9 5 ‑ 5 0 1 ,1 9 8 1 .

参照

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