たがって, 経口投与可能な低分子 PI3Kγ 阻害剤は, 既存薬と作用機序が異なり, かつ他 剤では進行を抑制しにくい関節組織破壊の制御も可能とする画期的な新規関節リウマ チ治療薬になると期待される. 本論第一章では, ハイスループットスクリーニング (HTS) により得られたヒット化 合物 1 から, 新規 2-アミノ-5-オキサゾリルチアゾール誘導体 2 を創出した経緯, オキ サゾール環の 2 位置換基の最適化およびその構造活性相関について述べた. すなわち, まず, タンパク質構造データベース (PDB) に登録された PI3Kγ 阻害剤と PI3Kγ タンパ クの複合体 X 線共結晶構造情報を利用して, ヒット化合物 1 と PI3Kγ との結合を予測 し, ファーマコフォアを抽出した. その後, 活性への寄与が小さいと推察された分子中 央のチアゾール環を別のヘテロ芳香環に変換し, 新規性と PI3Kγ 阻害活性を併せもつ 化合物への展開を図った結果, オキサゾール環をもつ新規リード化合物 2 を見出した (PI3Kγ IC50 = 12 nM). しかし, 2 は細胞系では阻害作用を示さないことが判明した (Akt IC50 > 10,000 nM). 酵素系と細胞系での阻害活性の乖離は, カルボン酸部位の存在のた めに膜透過性が低いことに起因するものと考えられた. そこで, その改善を目指して 誘導体を合成し, 細胞系でも阻害活性を有する化合物 3 (PI3Kγ IC50 = 3 nM, Akt IC50 = 59 nM) を見出した. しかし, 化合物 3 は水への溶解度が低く, その改善が課題となっ た. そこで, オキサゾール環の 2 位に脂肪族側鎖を導入し, 芳香環数を減らして平面性 を緩和したところ, in vitro 薬理活性を維持し, 水への溶解性が改善された化合物 4 を得 ることに成功した (Figure 1). しかし, 4 の脱アセチル体 4’が変異原性をもつことが判 明し, その回避が新たな課題となった.
本論第二章では, 第一章で述べた変異原性を回避するためのドラッグデザイン, 2-ア ミノ-5-オキサジアゾリルチアゾール誘導体 5 が新規リード化合物として見出された経 緯, このリード化合物の 3 位置換基の最適化およびその構造活性相関について述べた. 上述の変異原性は, チアゾール 2 位のアミノ基が, 水酸化酵素である CYP によって代 謝を受けることに起因するものと推察された. そこで, アミノ基の酸化電位を低下さ せて CYP による酸化を妨げることを意図し, オキサゾール環を π-電子欠乏型のへテロ 芳香環であるオキサジアゾール環に変換した. その結果, 得られた化合物 5 は PI3Kγ に 対して良好な阻害活性を示し, かつ期待通り, 脱アセチル体 5’の Ames 試験結果は陰性 であった (Figure 2).
Figure 2. Drug design based on the mutagenic mechanism (chapter 2).
さらに, 前章の 2-アミノ-5-オキサゾリルチアゾール誘導体の構造活性相関情報を活 用し, 5 を新規リードとした各種誘導体を合成し, 酵素系でも細胞系でも活性に優れた 化合物 6, 7 および 8 を創出した (Figure 3). それらの代謝安定性, ラットの血漿中薬物 暴露量を調べ, in vitro プロファイルおよび薬物動態学的特性を勘案することにより, 8 を in vivo 薬効試験に供する化合物として選抜した. リウマチ関節炎モデルとして知ら れるマウスコラーゲン誘発関節炎モデルでの薬効試験の結果, この新規 PI3Kγ 阻害剤 8 (TASP0415914) が経口投与で用量依存的に炎症スコアを改善することが明らかとなっ た. 本論第三章では, 新規 2-スルファニルオキサゾール合成法の開発およびその基質一 般性について述べた. 化合物 11 は, オキサゾール環の 2 位に種々のヘテロ置換基をも つ各種誘導体を合成するにあたり不可欠な中間体であった. 新たに見出した合成法は, 既存の方法と比べて工程数が少なく, 収率も高い. また, 毒性の強い硫化水素を発生し ないため, より安全である. さらに基質一般性の検討から, 本反応は基質である β-ケト アジドの電子的な効果が収率に影響を与えるが, 脂肪族および芳香族の置換基をもつ 種々のβ-ケトアジドに広く適用可能であることを明らかとした (Figure 4).
Figure 4. Novel and convenient synthesis of 2-sulfanyloxazole 11 (chapter 3).
【研究結果の掲載誌】
1. Oka, Y.; Yabuuchi, T.; Fujii, Y.; Ohtake, H.; Wakahara, S.; Matsumoto, K.; Endo, M.; Tamura, Y.; Sekiguchi, Y. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2012, 22, 7534–7538.
2. Oka, Y.; Yabuuchi, T.; Oi, T; Kuroda, S.; Fujii, Y.; Ohtake, H.; Inoue, T.; Wakahara, S.; Kimura, K.; Fujita, K.; Endo, M.; Taguchi, K.; Sekiguchi, Y. Bioorg. Med. Chem. 2013, 21, 7578–7583.
論文審査の結果の要旨 岡裕輔氏の学位申請論文は,従来の抗リウマチ薬の有効性および安全性上の問題を解決する, 新たな治療薬となることが期待されている PI3Kγ選択的阻害物質の開発を目指した創薬研究に ついて述べたものである。 第 一 章 で は , high-throughput screening に よ り 得 た ヒ ッ ト 化 合 物 3-((2'-acetamido-4'-methyl-[4,5'-bithiazol]-2-yl)amino)benzoic acid から, リード化合物とな る N-(5-(2-(tert-butyl)oxazol-4-yl)-4-methylthiazol-2-yl)acetamide を見出すまでの経緯に つ い て 述 べ て い る 。 す な わ ち , 既 報 の PI3K γ 阻 害 物 質 の 中 に 上 記 ヒ ッ ト 化 合 物 と 同 様 の 2-amino-4-methylthiazol-2-yl 構造を含むものが複数存在することに着目し,その構造情報を 利用して,PI3Kγの ATP binding site への結合様式を予測している。そして,上記ヒット化合物
の三環性分子の中央部に位置する thiaozole 構造は活性発現への寄与が小さいものと推察して