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関一の住宅政策論 : 土地市場・土地所有権と「公 」

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関一の住宅政策論 : 土地市場・土地所有権と「公

著者 沼尻 晃伸

雑誌名 静岡大学経済研究

巻 4

号 4

ページ 113‑126

発行年 2000‑02‑29

出版者 静岡大学人文学部

URL http://doi.org/10.14945/00008544

(2)

研究 ノー ト

関 一 の 住 宅 政 策

―土地市場・ 土地所有権 と「公」

沼 尻 晃 伸

は じめに

 住宅問題 に対する認識の特徴

 政策論の特徴

(1)―

 「低廉 な」住宅の供給

 政策論の特徴 (2)― 「弊害少 き」住宅の供給

関の住宅政策 にみ られる「公」の役割 …一― 結 びに代 えて

は じめに

本稿 の課題 は、東京高商教授 の職 を中途で辞 して大阪市助役 に就 き、後に大阪市長 となった関 一の住宅政策論の特質 を、

関 自らが重視 した土地市場 と土地所有権 に対する政策の側面 に注 目し て明 らかにす ることである。

これ まで、関一 に関 しては、財政史、行政史、政治史など様々な観点か ら数多 くの研究が な さ れて きた1)。 この ような研究史の下で、改めて関の議論 を検討す る理由は、関が 同時代 にお いて 土地市場や土地所有権 に関心 をもち、 とりわけ住宅の需給関係 と都市政策 との関連 を考 えた都 市 官僚の一人だか らである。

土地法史研究の分野 においては、土地商品 と都市政策 との関連について以下の ような議論が提 起 されている。す なわち、土地が商品化 された近代以降において、都市の成長が土地商品の売買 を媒介 として実現 されることに注 目して、都市計画 には「程度の差 はあれ、いわば 市場原理 に 1)関 一の多面的な活動を包括的に捉えた近年の研究成果として挙げられるのが、芝村篤樹 『関一J松籟社、1989年及び同

『日本近代都市の成立J松籟社、1998年であろう。前者では、同書刊行時までの関一に関する研究史について もまとめ られて いる。このほか、1990年代の研究成果もフォローし、現在の関一研究の到達点を示 したものとして、宮本憲一『都市政策の思 想と現実』有斐閣、1999年、及び藤井秀登「都市交通と関一」(明治大学大学院)『商学研究論集』8号1998年2月がある。

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経済研究4巻 4号

基づ く自然成長的都市発展 に対す る一つのアンチテーゼ"たる性格 を本来的に内包 している」 と の指摘がなされているのである2)。 土地 とい う限定 された商品ではあれ、市場 に対す る統 制力 を 都市計画は有 していたのではないか とい う問題提起 として受け止めることがで きよう。 しか し、

近代 日本の都市公共団体の政策 と土地市場 との関係 ―一 前者 は後者 に対 して統制力 を有 したのか 否か―― については、今後、実証的に検討 される必要があろう。そ もそ も欧米 とは異 なる経緯 で 私的土地所有権が設定 された近代 日本 においては3)、 都市計画の対象 となる市街地や郊外 の農地 の土地利用 に関す る権利 自体が欧米 とは異 なる側面 を有する。このことは、住宅の需給関係 に も 影響 を与 えるであろ うし、都市計画の内容の違いに も結びつ くと考 えられ よう。

本稿 は、都市計画その ものを検討す るものではない し、都市政策 と土地市場 との関係 を個 別具 体的に検討する もので もない。土地市場や土地所有権 との関連で政策 を検討す る とい う問題関心 か ら近代 日本の都市政策の特質 を究明す る一つの手がか りとして、1910年代 〜1920年代 にお け る 関―の住宅政策論 を検討 したい4)。 関は住宅問題 をどの ような意味で捉 え、その点 を踏 まえて ど のような住宅政策を構想 したのか。戦前に都市政策論を提起 した都市行政に関する専門家のなか でも指折 りの論客に数えられる関の議論を検討することは、当該期 日本の都市公共団体の役割 が、土地市場や土地所有権 との関わ りでどのように考えられていたのかを理解するための一つの アプローチとなろう。

同時にこのようなアプローチは、都市公共団体が担 う「公」の意味・役割を歴史的に問い直す 作業の一環 として位置付けることもできよう。後述するように、関は住宅市場の存在を重視す る ものの、住宅問題の解決を市場に委ねることはなく、むしろ市場から離れた都市公共団体による 住宅政策の必要性を説いた。そうであれば関の政策理合に見出される「公」とは、市場を介 した 住宅の需給関係に対 してどのような意味を持つ ものなのか。関の政策を市場 との関連で注 目す る 研究 も近年現れているが5)、 管見の限 りこのような視点から関の政策理念を検討する研究はまだ

2)原田純孝「比較都市法研究の視点」原田純孝 。広渡清吾 。吉田克己・戒能通厚・渡辺俊一編『現代の都市法』東京大 学出版会、19934、 6〜 7頁

3)近代 日本の土地所有権 。土地利用権の特徴 については、川島武宜の地主小作関係 に関する議論 を念頭 においてい る。

すなわち、近代 においては所有権の法 と契約の法 とが分裂 し契約が債権関係 として成立す るにもかかわらず 、現実 の関 係 としてみれば、近代 日本の地主小作関係のなかには、「物的関係 と人的関係 とが不可分に結びついている」ものが存在 すること強調す る議論である(川島武宜『新版 所有権法の理論』岩波書店、1987年、第2章)。

4)関一の住宅政策に関する研究 としては、宮野雄一「関一 と住宅政策」『大阪の歴史』18号1986年 3月、門田耕作 「住 宅問題 と都市支配」『ヒス トリア』114号1987年3月 などを挙げることがで きよう。その他、都市政策史、住宅政策史研 究 のなかで関の議論に言及する文献は多数見 られるが、これらについては本論の関連箇所で取 り上げてい くことにしたい。

5)その一つ として、小玉徹『欧州住宅政策 と日本』 ミネルヴァ書房、1996年を挙げることがで きよう。同書では、1920 年代 における欧州サー ドアーム(非営利住宅供給組織)の日本への導入に注 目し、「市場 メカニズム」 を重視 した関の

「非営利主義の住宅建築」に関する議論 を取 り上げている(同上書、第1章)。 本論では、同書 に学 びつつ 、関が市場 を 介 した需給関係 を重視 しつつ も、都市公共団体の政策 を必要 と考えた論拠 とその政策原理の特徴 について注 目してい く。

……114‑―

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少ないと思われる。そ もそも近代 日本の都市公共団体が担 う「公」の意味・役割を、土地市場や 土地所有権 との関係か ら明らかにしようとする研究自体が遅れている状況 といえよう6)。 関の住 宅政策構想 という限定されたテーマからではあるが、関の構想 に見 られる都市公共団体が担 う

「公」の特徴について も検討 していきたい7)。

 住宅問題に対する認識の特徴

最初に、関が住宅問題をどのように認識 していたのかを検討する。

関は、住宅問題が発生する背景一一都市計画が必要 となる背景一一 として、「産業革命の結果 大工業の発達 となり、都市の膨張 といふ現象が起って来た」ことを強調する3)。 資本主義化 に伴 う都市への人口流入、工場労働者の増加による住宅問題の発生などの諸問題を、都市公共団体の 政策 と結び付けようとした関の議論に関 しては、これまでも注 目されてきた点である9)。

しか し、関にとって資本主義化に伴 う都市人口の増加は、住宅問題が発生する一条件ではあっ ても、その点のみに問題の発生要因を求めることはなかった。この点は関の著書『住宅問題 と都 市計画』に詳 しい。同書のなかで、関は住宅問題に関する諸説を検討 している。その中で、住宅 問題を賃金問題に帰結 させる説については、「支払能力及支払意志の両者が十分であつて も、尚 住宅欠乏の現象は消滅せぬことがある」ことをもって批判する。関は、住宅問題の原因を「住宅 の需要供給調節の困難」に求めるのである。。

「住宅の需要供給調節の困難」に関する関の議論の特徴は、住宅の需要側 と供給側各々の事情 について具体的に論 じている点である。需要側については「地方より都会に移住するものの多 き 関係上、地方に於て住宅の過剰を生 じても、都会に於て其不足 を感ずる」点、「大都市 に於ける 需要の増減は最 も変動 し易 くして予測に最 も困難を感ずる」点を挙げる。供給側については、家 屋 という商品の特徴上在庫品が一掃できない点、住宅需要が増加する好況期は賃金 。材料・金利 共に上昇 し住宅の新築が容易ではない点、さらに好況期の土地投機は家屋の新築を手控えさせ る

6)大石嘉一郎、金澤史男「近代都市財政史研究の課題 と方法」(明治学院大学産業経済研 究所)『研 究所年報』11号 199411月 103〜 104頁で指摘 されているように、近代 日本の都市 自治史研究は都市 自治の政治的側面の研 究が 中心 と なって進展 して きた。その結果、政策に示 される「公」の特徴 (その原理)や「公」を実現 させるための手法の特徴 を、

政策の対象 との関連で明 らかにする作業については、必ず しも意識的に取 り組 まれてこなかったのではないか。

7)本稿 は関の住宅政策論 を当該期 日本の都市問題 との関連で評価する作業は行っていない。む しろその前提 と して、

関一の住宅政策論その ものに内在的に立 ち入 つて、そ こで構想 される政策原理―― 「公」の内容一― を明 らか にす る と ころに狙いがあることを、予めお断 りしてお きたい。

3)関一「都市計画に就て」『日本社会学院年報』第5年 (第 1。 2・ 3合)、 1918年2月 、131頁

9)たとえば、宮本憲一『都市経済論』筑摩書房、19804では、関一の都市政策を以下の様に評価 している。「関は東京 高商時代、工業政策論 を講 じていたとい うこともあって、現代社会問題の中心 を賃金労働者の生活状況 においている。

彼の偉大 なところは、社会政策 (福)とその地方 自治思想 を結合 させたことである」(190頁)

10)関一『住宅問題 と都市計画』弘文堂書房、19234、 22頁

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点 を挙げる。。関は、需要側 と供給側 を具体 的 に検討 しなが ら、住宅が一般 の商品 と異 なって

「需要供給調節の困難」な商品であることを論 じ、この点 に住宅問題の主 た る発生要 因 を求 めた のである。

住宅問題の発生要 因 として関が重視する もう一つの点は、住宅供給の前提 となる道路や鉄道、

電気、水道、ガスなどの都市生活 に必要な共同消費手段 に対す る都市公共団体の政策であつた。

市郊外 に空 き地があ って も、「田地であ り又道路、水道、電車 、瓦斯 、電燈等 の生活上 に必要 な る設備 を欠いて」いれば、直ちには「住宅の供給 に役立たない」②。「人為的制度」、す なわち都市 政策に不備があれば、宅地の供給が円滑 に進 まな くなる問題 を関は指摘 したのである。

住宅供給の前提 としての宅地開発や生活基盤の整備 を重視する関は、土地会社 による土地投機 の問題 に対 して も、単 に否定的に捉 えるのではな く、「土地投機のみに固有の弊害があるや否や」

との疑間 を投 げかける。「投機が行 はるるとして其地価 に及ぼす影響 は永久 的であ る とは断言 し 難い」。「都市膨張の大勢が何等かの原因に依 りて阻害せ られ、需要が供給 を超過する見込みが多 い為 に、地価暴騰 の傾向を生 じ、投機業者は此の大勢 を利用 して投機熱 を煽 るのであって、投機 が原因で地価が騰貴すると云ふのは因果関係の顛倒である」 と関は考えた。む しろ「投機業者 が 未開発地 を買取 り其売却 を急 ぐに当 りては幾分其の開発 を早 め る」 とい う側面 に関 は注 目し、

「土地投機 には功罪共 に存す る」 と結論づけた。投機業者が土地売却のため宅地 向けの開発 を早 めれば、土地の円滑 な供給の一助 となる可能性 を関は認めたのである動。

都市公共団体の政策や土地投機の功罪に関す る関の議論 には、住宅問題 に関する関の認識の特 徴が顕著 に見て とれる。す なわち、住宅 とい う商品は需要 と供給の調節が困難 な商品であ り、 と

りわけ供給面 を阻害す る諸要因の存在が、住宅問題の発生 に結 びつ くと考えていた点である。

以上の関の議論が、同時代の 日本の都市問題の現実 に照 らして見た とき的を射た議論であつた か否かについては、ここでは論 じることはで きない。住宅問題 に対す る関の認識は、資本主義経 済の下での都市への人口集中 。それに伴 う住宅問題の発生 とい う点 を認めつつ も、それのみに と

どまる ものではなかった。む しろ住宅問題が発生す る要因 として、商品 としての「住宅の需要供 給調節の困難」や、円滑 な宅地供給 を阻む都市公共団体の政策の不備 に注 目していた点 に、関の 住宅問題 に対す る認識の特徴 を見い出す ことがで きよう。

11)同上書、23〜 25頁 12)同上書、87頁

10土地投機 については、同上書、88〜92頁

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 政策論の特徴 (1)一―「低廉 な」住宅の供給

以上の住宅問題 に対す る認識 を前提 として、関が構想 した住宅政策の内容 とは どの ような もの であつたか。関は、「既 に発生 した住居の弊害 を除去する」住居法や住居 監督 制度 の必要性 を論 じる と同時に、「尚一歩 を進めて、一般 に住居の改善向上 を図 り且つ将来 に対 し弊害 の発生す る ことを予防せねばな らぬ」 としている0。 都市公共団体の政策 として今後導入 す る必要が あ る と 関が説いたのは、後者 一一 すなわち将来的に住宅問題が生 じぬ ようにするための政策であつた。

そのために必要な政策 として関は、「弊害少 き家屋」 を十分 に供給することと、「 この種 の家屋 を なるべ く低廉 に供給す る」 ことを強調 してい る。。商 品 と しての 「住 宅 の需要供給調節 の困難 さ」 に住宅問題の発生要因を求めた関は、住宅の供給側 に対する政策 を重視 したのである。

関は、住宅の需要側 を直接対象 とした政策 も構想 している。た とえば、関は密集住居が衛 生上 弊害があることを市民 に自覚 させ る ように、住宅教育の必要性 を指摘 している。都市公共団体 が 行 う住宅監督の「 目的物 とは家屋 とい う人格 な き物ではな く、居住者 なる人であること忘れて は ならぬ」 と関は述べ る。。

しか し、関は都心部 に工場労働者が集中す る傾向に対 して、「大都市 の娯 楽機 関、活動写真 と か劇場等の存在する所謂『夜の町』が都市人口集中の一大原因たることは、其望 ましきことか望 ま しか らざることかは暫 く措 き、現代都市の実相である」 ことを是認 し、「享楽気分 を変 じて質 実剛健 の風 を養 うことの必要は論 を侯 たないが、之は住宅政策のみの矯正 し得 る所でない。現今 の住宅政策は斯の如 く住居欲望の欠乏 して居 る市民の存在 を前提 として之に順応すべ き方法 を講 ずる外 ないのである」 と述べた0。 す なわち、関は需要側の工場労働者が都 心 部へ の居住 を嗜好 することを認識 し、問題 と考 えつつ も、労働者の居住地 に関す る嗜好 をただちに変えることは、

住宅政策の範囲 をこえる ものであ り、それゆえ「住居欲望 の欠乏 して居 る市民 の存在 を前提 と し」た政策 を構想 したのである。これ らの議論か ら、関は自らが理想的 と考 える住宅 (あるい は 住宅環境)の実現 を第一の政策課題 とは必ず しもしていない こと、む しろ住宅市場の実態 との関 連か ら政策 を構想 していることが理解で きよう。

それでは、「弊害少 き家屋」 を「 なるべ く低廉 に供給す る」 とい う 目的 を もつ関の住 宅政策 の 具体的内容 は どの ような ものか。最初 に、住宅 を「なるべ く低廉 に」供給す る とい う目的 を達成 するために、関が重視 した政策 を検討 してお こう。

14)同上書、 頁。

15)同上書、50頁 16)同上書、48頁 17)同上書、101〜 102頁

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第一 に、宅地供給の絶対量 を増やす政策 としての交通政策 を挙 げることがで きる。「宅 地 を増 加すべ き手段 を説明すれば、其最 も重要 なる ものは交通機関の発達」Dと 、関 自 ら述べ てい る よ

うに、宅地供給の手段 としての交通政策 に関は多大 な期待 を寄せていた。「我 国の都市 の交通機 関の著 しく貧弱であることに驚 く外 はない。世界 に百万人以上の人口を有す る文明国の都市で全 く高速度の交通機 関を有 って居 らない ものは大阪市位 に過 ぎない」 と関はい う。 とりわけ関が重 視 したのは、「高速度電気鉄道則 ちラピッ ド、 トランシッ トと称す るもの」 であ った。市電 とは 異 なる専用軌道 を複線で走 る電車が普及す ることで、新 たに都市郊外 に宅地が供給 されることを 関は主張 した。「我が国に於ては最早高架 と地下の得失論 を闘は して時 日を遷延すべ き時代 で は ないのであって、なるべ く迅速 に開通 し得べ き高速度交通機関を設けて、宅地の供給 を増加 し、

地代引下の方法 を講ずべ きである」D。 関は一刻 も早 く高速度交 通機 関 を設 けて、宅地 の供給増 加 を図る必要性 を論 じたのである。

もっ とも、関は単純 に大都市 における高速度交通機関の発達 を求めていたのではない。都 市計 画 との関連での交通政策の実施 を関は強調 した。「交通はいかなる場合 に も目的で はない、手段 である。都市交通 は市民の営利 、生計、休養等の生活 を充足すべ き手段 である。故 に都市 交通機 関は市民 の各種の生活 に順応 して建設せ らるべ きである」。関の住宅政策 の課題 は、住 宅 を「 な るべ く低廉 に供給す る」だけでな く「弊害少 き家屋 を十分 に」供給す ることにあつた。それ ゆえ 関は、都市計画 に基づ く交通政策 を提起 したのである。「弊害少 き」住宅供給 に関す る具体 的政 策 については、次項で述べ ることとす るが、以下 の引用か ら、都市計画 と交通政策 とは不可分 の もの とす る関の考 えをうかがい しることがで きよう。「都市交通機関は先ず其都 市 を構 成 す る各 部分 の機能 を定めて、此の機能 を尽 し得べ き手段 として、其配置 な り、輸送能力 を予想 して計 画 を立てなければならない。徒 に高速鉄道 を延長 し、路面電車 を敷設 して、其 哩数 の長 きこ とを 誇 つて も交通機 関が夫れ 自身に運輸 を創造す る力があ り又交通機関が畢党一の手段であることを 忘れては市民の利便福祉 を増進す ることは出来ないのである。簡単 に申せば都市交通機関は都市 計画の一部である。 しか も其重要 なる部分であるか ら、都市交通機 関の問題 だけを引離 して考究 すべ きものでない」り。

第二に、関が強調することは、市場 を介 した住宅の需給関係に対する公的政策の手法について であつた。関は、著書『住宅問題 と都市計画』のなかで、「都市の宅地政策」 と「建築補助政策」

10同上書、131頁

19)以上の交通政策については、同上書、135〜 137頁

20関一『都市計画の理論 と実際』三省堂、1936年407〜408頁

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の見 出 しを付 けて、宅地 と建築物 にわけてこの問題 について論 じている。ここでは「都市の宅地 政策」 について関の議論 をまとめてみ よう。

関は、「都市の宅地政策」 とは、交通政策 な どによる「間接 なる宅地増加 の手段 よ リー歩 を進 めて、都市が市の内外 に亘 り、土地 を所有又 は管理 し、永久に地価 の騰貴 を抑制 し、完全 なる住 宅 を低廉 に供給せ しめん とする政策」"のことと定義 している。関は「都市 の宅地政策」 の具体 例 として、 ドイッ都市の土地市有政策 について取 り上 げた。 ドイツ都市の土地市有政策について は、当該期の都市政策論 。住宅政策論 に関す る多 くの書物で紹介 されていたが 劾、関 は同政策 を 日本で実施す ることに反対 している。関は土地の市有 を進めれば投機が廃絶で きるとの考えにつ いて、「間違 った議論であって此場合 にも問題は所有権の所在ではない」 と指摘する。「国又 は市 が広大 なる面積の土地 を所有 し、未利用の侭之 を放置すれば宅地の供給は減少 し、他の土地 に独 占価格 を も生ぜ じむる恐れがある」 ことを関は指摘 した。「東京市内に何等 の計画 も立 て居 らな い官有地、殊 に広漠たる陸軍用地が草原 となって横 はって居 る為 に宅地の増加 を妨げ られて居 る ことは天下公知の事実である」 と述べていることか らわかるように、関は当該期 日本の都市 にお ける公有地は、実際には十分 に利用 されていない と認識 していた。それ ゆえ、「市有 の 目的は単 純 に土地 を所有す ることでな くて、之 を利用せ しむる と同時に弊害の発生 を防 ぐことでな くて は ならない」 ことを、力説 した劾。都市公共団体が土地 を所有 して も、それを有効 に利用せず その まま放置すれば、かえって周辺地域 の土地供給 を阻害 しかねない ことを関は指摘 したのである。

日本の都市 における宅地供給の実態か ら見て、土地市有政策の導入 に批判 を加 えた点に、関の議 論の特徴があると言 えよう。

関は、「特別の場合、例へ ば、住宅組合、公吏、教員等の住宅建 築 を除 けば市有地 の貸渡 に依 りて土地の利用 を促進 し住宅の供給 を増進す ることは困難である」 と考えた。「そ こで都 市 の土 地政策 としては将来の人口の分布状況 を予想 し之に応 じたる必要の地域 に宅地 を造成 して、普通 の方法、則 ち、競争入札又は公入札 を以て希望者 に売却することが住宅政策の 目的を達すべ き捷 径である」 と述べたの。す なわち、都市公共団体が土地 を所有す ることによって都市 の土地利用 を阻害す ることがない よう、入札 による売却 を提案 したのである。

もっ ともこの点 について、関は「競争入札等 に依 る時は一般の地価 を昂騰せ しむる誘 因 をな

21)前掲『住宅問題 と都市計画』、140頁

22)同上書が出版 された前後に限ってみても、 ドイツ都市の土地市有政策を取 り上げた文献は、池田宏『改訂都市経営論』

都市研究会、1922年、渡辺鐵蔵『都市計画及び住宅政策』修文館、1923年、田川大吉郎『都市政策汎論』白揚社 、1925年 など多数存在する。

23)以上の点は、前掲『住宅問題 と都市計画』、144〜 145頁 24)同上書、150〜 151頁

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す虞れがない とは云へ ない」 と政策の負の側面 も指摘する。 しか し関が強調す る こ とは、「地価 騰貴の真の原因は供給 の不足であつて、売買の方法が競争入札 で も随意契約で も、長期 間に就 て 考へれば、地価 を左右す ることは出来 ない。故 に、市が民 間の大地主 と同様の営利主義 に陥 って 市有地の値上 りのみ を望んで売 り拍へ をなすが如 きは、地価騰貴 を促すべ き最有害 なる政策であ るが、都市が宅地の造成 に勉 めて、造成後速 に競争入札で売却す る方針 を採 る場合 には、地価 は 決 して不 当に騰貴す る ものではない」 と主張するのであるり。

この ような関の主張 は、投機 目的による土地の購入りや資本主義経済が不可避 とする景気 変動 の動向を踏 まえた議論 とは言 えない。そ もそ も「長期 間に就て考へれば、地価 を左右す るこ とは 出来 ない」 とはいつて も、5〜 10年の レベルで地価が高騰 し続 ければ、現実 には都市公共 団体 の 理事者 としてそれ を放置す ることは出来ないであろうり。 しか しここで注 目したい点 は、 関の主 張は、土地市場を円滑に機能させる政策 という意味では一貫 しているという点である。関のい う 都市の土地政策とは、土地の公有策で も、土地供給は民間レベルに委ね自らは干渉 しないとい う ものでもなかった。移動することので きない特殊な商品である土地が、円滑に供給 されるような 政策を講 じること一― ここに都市公共団体による「公」的政策の意義 を関は求めたのである。

(土地政策について)問題は『市有か民有か』ではなくして『市有 と民有の執れが宅地造成 を促 進 し得るか』であ り、住宅建築に就ても『非営利主義か営利主義か』と云ふ主義の問題でな く此 の二つの「執れが完全なる住宅を十分に供給 し得るか』と云ふことが真正の問題である」(カ コ内は引用者)か という言葉は、関の政策スタンスをよく示 したものと言えよう。

 政策論の特徴 (2)一―「弊害少き」住宅の供給

関の住 宅政策 を理解 す る うえで欠 かせ ない もう一 つ の点 は、交通政策 との関連 で既 に言 及 した 都 市 計 画 に基 づ く土 地利用 の規 制 制 度 (用途地域 制 な ど)や、土 地 区画整理 制 度 ・土 地収 用 制 度 な ど都 市 的土 地利用 を進 め るための基 盤整備制度 な ど、「弊 害少 き家屋 」 を供 給 す る制 度 の整 備 を重視 した点 であ る。

25)同上書、151頁

26)関は日露戦争後の地価高騰の基本的要因を「宅地供給の限界」に求めて居るが(同上書、152頁)、 日露戦争後 の土地 価格騰貴 については「株式市場 におけるキャピタル・ゲインの期待が失われた ときに、投資 ファン ドが土地購入に向かっ たことを推定」する議論 (橋本寿朗「戦前 日本における地価変動 と不動産業」『不動産業に関する史的研究I』 日本住宅 総合セ ンター、1994年8頁)と の関連 を念頭 に置 く必要があろう。

2つ 例 えば、筆者が調べた名古屋市の事例でいえば、第一次世界大戦後の名古屋市近郊の地価 は、区画整理施行地 につ い ては1920年代 において一貫 して上昇傾向を示 してお り、用途地域制における工業地域の高地価 を商工会議所が 問題 と し て取 り上げるまでに至った。ちなみに名古屋市で、都市的土地利用が進 まない地域での地価ド熟 落するのは、昭和恐慌 期であった (沼尻晃伸「戦前期 日本の土地区画整理事業 と都市計画」『土地制度史学』14号1995年 10月)。

23)前掲『住宅問題 と都市計画』、187頁

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関は「今 日の如 く都市が乱雑 な発達 を したのは如何 なる原因に依 るか といふ と余 りに所有者 の 権利 を尊重 し過 ぎて、勝手放題 に家 を立て させ」た結果である と考 えたか。「都市計画は公の施設 である街路、公園、公館の施設のみでな く、私人が如何 に私有地 を使用するか をも統制せむ とす るのであ り、場合 に依 り此方が寧ろ重要である」 と関は述べ る0。 そ こで「是 は工場 の地域 であ る、是 は住宅の地域 である」 と「使用の 目的 を制限する」 用途地域制 の施行 やm、「此 の処 は八 間幅の道路、此処 は六間幅の道路 を推へ るといふ予定線 を推へ ま して、其予定線 はた とひ後 で地 主が変 って人に売 って も矢張此計画線 は何等の変動 をみ ざること」 とする土地区画整理制度の必 要性 を主張 しため。所有権 を規制 し、土地の利用 に規制 をかけることによって、「弊害少 き家屋」

の供給 に努め ようとしたのである。

用途地域制や土地区画整理制度は、1919年に公布 された都市計画法・市街地建築物法 に基づ き 日本 において も実施 されたが、法制定後 も関は現行制度 の問題点や運用方法 について論 じてい る。なかで も、「都市計画の最大問題」 と考えた用途地域制については、現行制度 には永久空地 制度が存在 しない ことを問題 として取 り上 げた。「我 々の住居 し得べ き都 市 を建設す る第一の条 件 は如何 に して緑色地帯 を保留 し得 る乎」であるはずなのに、現行の法制度では「之に関す る規 定は全 く欠けて居 る」 ことを関は指摘 したのである鋤。

地域制の運用手法 についての関の議論 に特徴 的なことは、規制の対象である土地があ くまで も 商品であることを前提 としている点である。例 えば、関は建物の高度及び空地の制限について、

「此制限は既成都市の実情 と共地価 の関係 をも考慮せ なければならない」 と述べている。「地価 の 高 き中心部 に新 なる厳重 なる制限を設 くることは考へ物であるが、其他の部分 には相当に制限す べ きである。而 して通常地価 は中央部か らの距離 に従 って低 くなる傾向を有 して居るか ら、之 に 応 じて高 さや空地の制限を設けて、過去の弊害 を再現せ ざらしむることを要する」 と論 じてい る のであるの。土地市有政策 を採 らず 、市場 を介 した土地供給 を促 す政策 を主張す る関 において は、「弊害少 き家屋」の供給 を政策的にすすめる場合 において も、土地利用権 に対す る規制が商 品 としての土地の供給 を妨 げる側面 に留意すべ きことを主張 した もの といえよう。

土地区画整理制度 も、「弊害少 き家屋」の供給のために関が必要 と考 えた制度であった。関は

「大都市の周囲部及接続町村に於て将来発生すべ き弊害を未然に予防し都市生活の向上 を計 らん

2の 前掲「都市計画に就て」、140頁

3の 関一『都市計画の理論 と実際』、三省堂、1936年114頁 31)前掲「都市計画に就て」、141頁

3の 同上論文、142頁

)前掲『都市計画の理論 と実際』、149〜 150頁

)同上書、118頁

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には是等 の地域 に建 築 の起 らざるに先 ちて、一定 の計 画 の下 に道路系統 、公 園遊 園地等 の空 地 を 予 定 し、建 築 に対 す る制 限 を設 くる」必要性 を述べ て い る。その際 に関が必要 と考 え た制 度 の一 つは、「市内若 くは市外の未開発地に関 し街路並に空地を予定 し、此地域 に於 ける建築 に就 いて禁 止制限をなすの権限を地方長官又は市町村長に与ふる」 ことであつた。 しか し「此制限は都市拡張 に関する一の予備行為 に過 ぎない」 と関は主張する。そ こで関は よ り積極 的 に街 区を整備す る制 度 として、「地域内の地主を強制 して、区画整理 を実行せ しむべ き制度の必要」 を説 くのである。

同時に関は、「地価騰貴 より生ず る地主の不労所得 に依 り暴利 を貪 るを防止 し、土地騰 貴 の弊 害 を予防」す るために も、土地区画整理 制度が必要 で あ る と説 い た助。 この点 は前節 で述べ た

「低廉 な」家屋の供給 とい う政策課題 に関連す るものであ り、その意味 において も関が土 地 区画 整理 に大 きな関心 を寄せていた ことがわかる。

土地区画整理の必要性 を説 く際の関の主張で注 目すべ きことは、関は ドイツ都市の土地区画整 理制度 に関す る文献 を参照 しなが ら、同制度 についての紹介 を行 つている点である。関はフラ ン

クフル トにおける土地区画整理 を紹介す る一方で、 日本の場合 には農業上の利用 を増進す る 目的 とす る耕地整理法が存在するのみで、大阪市 において も新たに市域 に編入 した地域 は「従来の野 道た りし屈 曲せ る袋小路の尚存置せ らるる ものが少 くない」 と、「弊害少 き家屋」 の供給 に現行 の制度では不備があることを述べているり。

土地騰貴の弊害 を予防す るために土地区画整理制度が必要 と論 じる際に も、関はその理 由を ド イツ都市の事情 を伝 える文献 に依拠 している。関が著書『住宅問題 と都市計画』におぃて ドイツ の土地区画整理制度 を紹介する際 に参照 した文献 は初、後 に東京市政調査会 において発行 した

『 ドイツ都市 に於ける土地区画整理』の基礎文献 となっているり。「 ドイツ都 市 に於 ける土 地 区画 整理』において、 ドイツ都市が土地区画整理 を実施す るに至 った理 由は以下の ように叙述 され て いる。土地区画整理 は土地所有者間の任意協定 によつて行 うことが理想的 だが 、「一 の画 地 の整 理は必然的に他の画地の整理 を伴 はねばならぬ。故 に一所有者の反対 は以て全部の画地の整理 を 妨 ぐるに十分である」。それゆえ「例 えば建築会社又は土地会社等 は未整理街廓 の内の画 地 を唯 一つ獲得すれば必要 な期間その土地の開発 を妨 げることも出来 る」。反対者 の土地 を買収す る方 法 もあるが、「かかる場合 には隣接地所有者の弱点に付込んで醜悪 なる投機 が盛 ん に.行はれ るで )以上の土地区画整理制度 に関する関の議論は、前掲『住宅問題 と都市計画』、350、 357頁

36)同上書、358頁

37)R.Baumelster, JoClassen,JoStibben, E)ie Umlegung stadtischer Grundstticke und die Zonenenteignung, Berlin 1897.

)『ドイツ都市 に於ける土地区画整理』東京市政調査会、1924年。同書の「序」では、注37文献 を「基礎 としこれに最 近 の材料 をも加 えて必要なる訂正増補 を施 した」とある。

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あ らう」0。 この ような事態 を防止するために、フランクフル トを始め とする ドイツ諸都市 におい て、都市公共団体が強制権 を有 した土地区画整理制度が法律 として定め られたのである。

ドイツ都市の土地市有政策に代表 される「都市の宅地政策」 を日本の都市公共団体が実施す る ことには否定的であった関 も、土地区画整理事業の 日本における実施については肯定的に捉 えて いた。この ことは、関の住宅政策の関心が一貫 して都市計画に基づ く円滑な宅地の供給 にあ り、

その 目的 を同時代の 日本の都市 において達成するために欧米の どの ような制度 を導入すべ きか考 え、取捨選択 していたことの現れ とみることもで きよう。

しか し、 日露戦後の大都市近郊 においては、耕地整理法 に則 つて耕地整理組合 を設立する もの の、実際には都市的土地利用の促進 ―一 道路の拡幅など一一 を図ることを目的 とする市街地向け 耕地整理事業 (=事実上の土地区画整理事業)が実施 されていた。。前述 した大 阪郊外 に関す る 叙述か らみて、市街地向け耕地整理事業 について関は認識 していた ように思われるが、具体 的な 検討 はなされていない。都市計画法制定以前の大阪における耕地整理組合 による事業は、道路 の 幅員が狭 く住宅地 として不適切であった ことが指摘 されているが①、関 自らは地主 に よる市街地 向け耕地整理事業 について正面か ら論 じていないのである。

同時に重要 なことは、これ らの市街地向け耕地整理事業は、地主の資産価値 の増進 とい う意味 合いを含 んで実施 されていた点である。一例 を挙 げれば、1916年に設立認可 された東京府 の入新 井村新井宿耕地整理組合では、最大三間幅の道路 を計画 した。二間幅の道路 を設計 した理 由は、

同組合が「工事施行 による利益」の一つ として「土地価格の騰貴」 を挙 げた点か ら読み取れ る。

「道路の配置宜 しくな り車馬の出入便利 となる結果、宅地 として居住者増加 し土地価格 の高騰 を 来すべ し。(中)今土地価格 の上昇 を平均一坪 に付 き金一円 とす るときは、実 に本 区内全部 に 於て金五万七千三百二十六円の利益 な りとす」②(句読点は引用者)。 農業上 の利用 を増進 す る こ とが 目的である耕地整理組合 において も、既 に土地価格の上昇=地主の資産価値 の増加 を目的 と した事業が実施 されていたのである。

前述 した ように、関は「地価騰貴 よ り生ず る地主の不労所得 に依 り暴利 を貪 るを防止」す るた めに、土地区画整理制度が必要である と説いた。 しか し日本の場合、土地区画整理制度が法制化 される以前か ら、耕地整理法 を利用 して地主が組合 を結成 し、農地 を宅地に転用することに よる

")同上書、3〜 5頁

4)市街地向け耕地整理組合の概観 。各都市 ごとの事業面積 などは、小栗忠七『土地区画整理の歴史と法制』巌松堂書店、

1935年12〜24頁

41)長谷り│1淳一「戦前期の都市計画」前掲『不動産業に関する史的研究I』139頁

42)「第二区設計書 入新井村新井宿耕地整理組合第二区」『大正五年 地理 雑件 第一種 東京府冊 ノー』(東京都公 文書館所蔵)。

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地価騰貴 を目的 とした市街地造成 を進めていたのである。 ドイツ都市 における土地区画整理が土 地騰貴 を抑制する意味で都市公共団体 によって公法的手法 を用いて実施 されたのに対 して、 日本 の場合 は地主が民間 レベルで組合 を作 り地価騰貴 を目的 とした市街地向け耕地整理事業 (=事 上の土地区画整理事業)を進めていた と評価で きよう。関の議論 とのかかわ りでいえば、 日本 の 市街地向け耕地整理事業 (あるいはその後の民間施行土地区画整理事業)は、宅地の円滑 な供給 とい う意味では関の主張 に添 うものあって も、地主の不労所得の取得 を前提 とした事業である と い う意味では、関の主張 に反する もののはずであつた。 しか し関は、日本の土地区画整理事業 が 有するこの ような「二面性」については論 じていないのである0。

同時代 において、大阪以外の大都市近郊において も広 くみ られた市街地向け耕地整理事業の実 態 を、関が どこまで認識で きたのか とい う点は存在す るに して もの、「弊害少 き」住宅供給 に必要 な土地区画整理制度 に関す る関の議論 は、第一次世界大戦期か ら大都市近郊で既 に見 られた地主 による宅地開発の実態 を踏 まえて立論 された ものではなかつた といえよう。

関の住宅政策 にみ られる「公」の役割―二 結びに代 えて

最後 に、住宅問題 に対 して都市公共団体が果たす役割 を、関が どのように考 えていたのか をま とめてお きたい。

第一 に、住宅問題の発生要因を商品 としての「住宅の需要供給調節の困難」 さに求めた関が 、 住宅問題 に対 して都市公共団体 による政策が必要であ ると考 えた理 由は、宅地や建物 の供給の 円 滑化 を図ることにあつた とい う点である。 もっ とも関にとつて宅地や建物 の供給 主体 が 、「公」

であるか「民」であるかは大 きな問題ではなかった。都市公共団体が住宅 を供給することの困難 さを主張する関は、一方では高速度交通機関を設置 し都市の生活基盤 を整備す ることに よつて民 間 レベ ルでの住宅供給 を促進 し、他方では都市公共団体 は土地 を無計画 に所有す るをやめ、む し ろ競争入札 な どにより売却 して住宅供給の促進 を図ることを提案 した。関は ドイツ都市の土地市

)前述 したように、関は土地会社の「二面性」―― 投機 目的による土地取得の側面 と売却のために土地の開発 を促進す (=円滑な宅地供給 に寄与)する側面 一一 は指摘 している。 しか し当該期 日本の地主による土地区画整理 については、

この ような二面性 を関は論 じていない。

)関一研究会編『関一 日記」東京大学出版会、1986年によれば、1926年 5月 6日 (同書、599頁)の記事 に「午後 中央公 会堂 にて都市協会主催区画整理講演会名古屋市笹原氏 を聘 して講演」 とある。土地区画整理の専門家で名古屋市 の笹 原 といえば、愛知郡長の職を辞 し、民間レベルで名古屋で一早 く市街地向け耕地整理事業を興 し、その後 も民 間施行土地 区画整理組合の理事者 になった笹原辰太郎の ことであろう。翌年、関は名古屋市 を訪れるが、その際の記事 を見 る と、

「九時四十分特急 にて名古屋 に向け出発一時過着 支那忠本店に投宿 柴田知事訪問 高商 にて高松 、国松 両氏 に面会 校内参観 人事山方面区画整理 を見る」とある(1927年4月21日、同書、649頁)。 人事山方面の土地区画整理は丘陵地 帯の宅地向け開発 を先駆的に行った事業 として、有名なものであった。その意味で、1920年代半ば以降は、関が大阪以外 の民間施行土地区画整理事業 (及び市街地向け耕地整理事業)の認識を深める機会をもっていたことは、事実であろう。

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有政策の ように、都市公共団体が宅地市場 に直接介入す ることを日本 において奨励 しなかった。

軍部の用地が大都市 に散在する問題 を認識 していた関は、 日本 においては住宅供給量 を増加 させ る条件 となる交通機関な どの生活基盤整備 を実施す ることこそが、都市公共団体の役割 と考 えた のである。このような関の議論か ら、「需要供給調節の困難」な住宅 とい う商品に対 して、宅地 市場 を直接公的に統制 しないまで も、生活基盤を整備することなどを通 じて間接的に市場 を介 し た住宅供給量の増加を促す という意味での「公」的政策を読み取ることができよう。

第二に、関は住宅が建てられる都市空間そのものの内容一一 すなわち都市計画に基づ く住宅政 策を提起 した点である。「弊害少 き」住宅の供給 という意味で都市公共団体 による政策が可能な 領域 として、都市計画に基づいた土地利用の規制=用途地域制や、土地区画整理制度などの法制 化や運用の適正化を、関は求めたのである。これらの政策は、私的土地所有権 (あるいは土地利 用権)に対 して都市公共団体が公的に統制を図る政策 ということができよう。しか もそれは、単 純な土地所有権や利用権に対する規制ではなかった。宅地という商品に対する規制であることを 踏まえた関は、都市中心部での建物規制に配慮を加えることを主張 した。住宅供給の円滑化 を図 ることと「弊害少 き」住宅の供給 を図ることとの調整についても、関は注 目していたことに留意 する必要があろう。

以上、関の住宅政策をまとめれば、「住宅の需要供給調節の困難」に住宅問題の主たる発生要因 を求めた関は、交通政策などに基づ く市場を介 した住宅供給の円滑化 と、都市計画に基づ く住宅 環境の整備 という二つの意味で、住宅問題に対 して都市公共団体が「公」 としての役割を果たす必 要性を説いたのである。従来、関一の都市政策については、労働力保全や階級対立の緩和、「市民 としての最低限度の要求」の実現、さらにはそれらの政策 と地方 自治 との結合などの意味か ら評 価がなされることが多かったがり、住宅は「需要供給調節の困難」な商品であるとの考えを前提 と

して、市場を介 した住宅供給を徹底 させるためにこそ都市公共団体の「公」的政策一一 それも都市 計画に基づ く政策―― が必要であると論 じた関の住宅政策構想の特徴に注 目する必要がある0。

このような関の議論は、日本の都市公共団体への土地市有政策の導入を否定的に見るように、

45)前掲『関一』、228頁、前掲「関一 と住宅政策」、113〜 114頁、前掲『都市経済論』、190頁

)こ のような関の「公」の考え方を、土地市有政策を進めた ドイッ都市の住宅政策の理念にみられる「公」の内容 との 関連で比較史的に検討することは、当該期の ドイツ都市研究を本格的に進めていない以上今後の課題 とせ ざるを得ない。

しか し、両者の違いに関する見通 しを一点だけ述べれば、関の政策理念は、市場 を介 した住宅の供給手法 自体 に信頼 を お き交通政策などによって土地市場の外側から間接的に土地供給の円滑化 を図ろうとしたのに対 し、土地市有政策 を進 める ドイツ都市の場合宅地市場に自らが直接介入 し、市有化 した土地を公共施設や小住宅建設に利用することに よって 土地投機 を防止 しようとする一― すなわち市場 を介 した住宅の供給の弊害面 (=土地投機の問題など)を重視 し、土地 市有化 により宅地市場の性格 を都市公共団体 自らが変えようとしたところにあろう。むろん以上の点は、政策理念上の 相違点 に関するものであ り、政策の実態は別個に検討する必要があろう。

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第一次 世 界大戦期 〜戦 間期 の 日本 の都 市 の実態 に即 して提 起 されてい る点 に も注 目され る必要が あ る。 もっ とも土地 区画整理 制度 な ど、土地所 有権 に対 す る統 制 を加 える こ とに よって都市 基 盤 整備 を図ろうとす る制度 に関す る関の議論 は、 ドイッ都市の制度 を移植する側面が強 く、日露戦 後か ら大都市近郊で開始 されていた 日本の土地区画整理事業 (市街地向け耕地整理事業)の実態 に立脚 した政策ではなかった。それ故関は、地主が土地騰貴 によって不労所得 を得る問題 につい ては論 じなが らも、当該期の市街地向け耕地整理事業が既 にその ような性格 を有 していた点につ いては言及 しなかったのである。それはなぜであろうか?

この点 に関する十分 な解答 は本稿 においてな し得 ないが、最後 に指摘 してお きたいのは、当該 期 日本の土地所有権 に関す る関の認識である。関は宅地の需給関係 については、陸軍の軍用地が 有効利用 されていない問題 など具体的に述べ、それに即 した政策 を提起 した。 しか し、私的土地 所有権 (土地利用権)に対す る統制 についていえば、土地所有権 その もののに対する関の説 明 は 乏 しい。欧米同様 に日本の都市 において も「所有者の権利 を尊重 し過 ぎて、勝手放題 に家 を建 て させ」た ことを問題 として述べ るに とどまっている。すなわち、関は私的土地所有権 についての 欧米 と日本 との差異 をあま り意識せず に、都市計画 による統制 を構想 したのである。ここには、

近代 日本の土地所有権 ・利用権の内容 を、それ らの実態 に即 して理解 しようとい う姿勢はみ られ ない。前述 した 日本 における市街地向け耕地整理事業 につ いて関 自身が理解 を深 め ようと しな かったのは、この ような土地所有権・利用権 に対する関の認識 に規定 されていたのではないか0。

住宅政策 を考 える場合、土地市場 と土地所有権 の双方 を理解 す る必要性 を関 は示 した。 しか し、関の議論 はその前者 については事実 に即 して議論 されていた ものの、後者 に関 しての理解 は 弱か ったのではないか。 とはいえ、関の住宅政策論 は、土地市場・土地所有権 に対 して 日本 の都 市公共団体が担 った「公」の内容 を歴史的に探 るうえで、欠かす ことので きない議論 を提起 して いるのである。

〔付記 〕本稿 は、1999年度 日本学術振興会科学研究費補助金 (奨励研究A)による研究成 果 の一 部である。

47)同時代における日本の土地所有権 。利用権に関する研究状況に関の認識が規定されていた側面にも留意する必要があろう が、同時に、関が土地所有権・利用権についての認識を実態に即 して深めようとしなかった理由の一つとして、日本の土地区 画整理事業 (市街地向け耕地整理事業)が基本的には民間レベルの事業として進展 したことが挙げられよう。すなわち、農地 を転用 しての地主による土地区画整理事業は、小作人の反発を生むケースも存在 したが、第一次世界大戦以後の大都市郊外 に おける開発方式として広 く普及していつたのである(この点は、名古屋の事例ではあるが、前掲「戦前期 日本の土地区画整理 事業 と都市計画」を参照されたい)。 民間レベルでの事業が普及 したこともあって、当該期において、都市公共団体 自らが都 市郊外の土地区画整理事業を実施するケースは少なく、その結果、都市政策の担当者が土地所有権・利用権の特質についての 理解を深化させる機会そのものが乏 しかったと考えられよう。とすれば、土地区画整理制度はどのような意味で日本において

「公」的な意味をもっていたのかが改めて問われることとなろう。注46で指摘 した、間接的に土地供給の円滑化 を図ろうとし た関の住宅政策の理念との関連も問題になろうが、これらの点の究明は本稿の課題を超えており、今後の課題 としたい。

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