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被服領域の諸問題
被服2「編み物製品の洗たく」に関して
井 上 栄*
(昭和55年10月31日受理)
Some Problems with the Field of Clothing On the How to Wash Knitwear (in Clothing2)
Sakae INOUE
(Received,October31,1980)
はじめに
新指導要領が示され中学校は56年度から実施される。その内容については,精選された りたての連関がはかられたり評価すべき事柄も多いが,検討の必要を感じるものもある。
ここではその一つについて実験を行い,確かな資料のもとに指導することを目的とした。
すなわち旧指導要領では,「毛糸編み物の手による洗たく,ほし方および仕上げができる こと」と,毛,アクリルなどの毛糸編み物の手による洗たくであったのが,新では「編み 物製品の手による洗たく,機械による洗たく及び仕上げができること」になっている。
ところで,毛糸編み物製品の現状をみると,毛糸ではアクリル100%のものは,手芸用の 太い糸のみで衣料用にはない。既製の編み物製品でも,毛100%か混紡の製品が主で,アク リル100%の製品は大変少ない。女子学生135名を対象に,ニット製品に関する調査をした 中の購入の項で,約35%の者が,常に純毛か混紡製品を購入しており,アクリル100%の購 入者は0である。これは市場の現況と最近の高級品志向のあらわれであろう。
さて混紡の場合は,弱いほうの繊維を基準にして洗たくするので手洗いということにな る。そこで洗い方の適否を確かめるため,アクリル70%毛30%の試料について,洗たく,
脱水,乾燥方法および使用洗剤の組合わせについて実験を行い,クリーニングとの比較も 合わせ検討した。
実験方法
1.試料:アクリル70%,毛30%の白色中細毛糸を機械(ブラザー編機KH.871)で平
*長崎大学教育学部家庭科教室
あみにする。大きさはウェール約30cm,コース約25cmとし,収縮測定のための色糸を編み
込む。
2.試料調整(洗濯条件)
a.洗い方
α)手洗い:浴比(1:10)。洗剤液に2分間浸漬後,1分間押し洗いをする。(中間 で裏返す)すすぎ2回。
(ロ)機械洗い:全自動洗濯機(ナショナルNA−8100P)低水位,節約コース(洗い4 分,すすぎ排水3分,脱水2分,すすぎ2分,脱水2分30秒)。浴比1:22。
b.脱 水
貨〉濾紙:濾紙(NQ2)の間にはさんで手で静かにおさえて十分に水気をとる。
(ロ)脱水機:手洗い一脱水機の場合は,前記洗濯機で脱水30秒。機械洗いは前記の通
り。
c.乾 燥
α)平干し:80×80cmのステンレス金網(わくつき)の上に形をととのえてひろげる。
(ロ)つり干し:ロープにかけて時々ずらす。
の タンブラ:ナショナルELECTRIC DRYER NH−700Eで40分間。
いずれも日かげに干す。
d.使用洗剤及び使用法
(A)合成洗剤,中性。成分(界面活性剤28%,高級アルコール系直鎖アルキルベンゼ ン系,りん酸塩,硫酸塩)。水温30。C,2.59/¢。
(B)合成洗剤,弱アルカリ性。成分(界面活性剤51%,高級アルコール系)。0.67m群
尼室温。
表1 実験計画
記号 洗 剤 洗い方 脱水 乾 燥
1 2 3 4 5 1 2 2 4 5AA AA A BB BB B C A︵中性︶ 機械洗い 脱水機 つり干し
ンブラ
手洗い 脱水機
つり干し ンブラ 濾 紙 平干し
B
弱アルカリ性)
機械洗い 脱水機 つり干し ンブラ
手洗い 脱水機
つり干し ンブラ 濾 紙 平干し
ク リ ー ニ ン グ
223 被服領域の諸問題(井上)
3.実験計画 表1のとおりである。繰返し数3回。0,3,5,10回ごとに測定。
4.測定項目および方法
1.収縮:試料作製時につけた標を,ウェール方向コース方向それぞれを測定し収縮率 を次式で算出する。
¢一尼1
収縮率= ×100(%)
尼
ここに 尼:処理前の長さ 尼1:処理後の長さ
1二正味収縮(ニットシュリンケージゲージ法):ニット製品は一旦縮んでも(見かけの 収縮)着用によって引きのばされ,或程度回復する。そこで一定の伸長を与えた後の値を 測定して正味収縮率を知ることが必要である。但し試料が大量に必要であるので,1で得 た結果から2つの方法を選び実験を重ねた。繰返し数2回。
①試料:約100×50cmの大きさの平編をし二つ折りにして三辺をとじ合わせる。但し ウェール方向の二辺の途中4cmをとじ合わせないでおく。
②ニットシュリンケージテスターに付属の捺印プレートと印判を用いて,計測印とピン 位置指定印を捺印する。測定基準長は直径25.4cm上の12点で,直交する直径およびそれ ぞれ1.8cmはなれた8点を結んではかる。ピン位置は,35.6cm上の20個の点である。条件 に従って洗たく,脱水,乾燥をする。
③見かけ寸法の測定と回復操作後の寸法の測定:調湿した試料を平らな台の上におき,
先に印づけた基準測定長を測定し,見かけ収縮率を算出する。見かけ測定を行った試料 を,ニットシュリンケージゲージの据付ピンの最も小さくなった状態に,前もって印づ けた20の点をさし込んで,ハンドルを定速度でまわし円方向に同時に拡げる。ピンから はずし,はじめに印づけた対応する二点間の距離を測定して回復操作後の測定値とし正 味収縮率を算出する。
尼一尼2
正味収縮率二 ×100(%)
尼 ここに ¢:処理前の長さ 尼2:回復操作後の長さ l l〆面積収縮率1)一I
C
面積収縮率(S)=(1一一π)×100(%)
C
l l 面積収縮率一II(ニットシュリンケージゲージ法の場合)
面積収縮率(%)二{ウェール方向の収縮率(%)+コース方向の収縮率(%)}
_∫ ウェール方向の収縮率(%)×コース方向の収縮率(%) /
/ 100 ∫
但しウェール方向,コース方向の収縮率の合計が10%以内の場合には上式の補正項を省 略する。
2.表面(ケバ)2)
試料を450に折りたたみ,万能投影機(50×)で投影し,それを直接印画紙に焼きつけ(2
秒間)現像し,観察による写真判定を行う。
3.風合い(官能検査)
シェッフェの一対比較法(中屋変法)を用いる。被験者:女子学生9名。組み合わせは 次のとおりである。
a.同一洗剤(A)における手法の違い
b.同一手法(機械洗い一脱水機一つり干し)における洗剤の違い c.回 数 間
4.白 度
フォトボルト型光電光度計を用いて測定。
結果および考察 1.収 縮
方法間の差を,各回数,ウェール方向コース方向別に一元配置法で解析し有意差の検定と
表2 10回ウェールの検定 分散分析表
要 因 S φ V Fo
穀内曹 233.067.92 102 23,306,541 6.58**
全 変 動 310.98 32
母平均の差 d(0.05)=3.19 d(0.01)二4.33
A、 A2 A3 A4 A5 B1 B2 B3 B4 B5 C
C 0.37 2.70 3.13 0.03 *.60 1.22 *.77 *.57 0.63 *.07 B5 *.70 **.77 1.94 *.04 0.47 **.27 **.84 0.50 **.70 B4 1.00 2.07 2.76 0.66 *.23 0.57 3.14 *.20 B3 *.20 **.27 0.56 *.54 0.03 **.77 **.34 B2 *.14 1.07 **.90 *.80 **.37 2.57 B1 1.57 1.50 **.33 1.23 **.80
A5 *.23 **.30 0.53 *.57 A4 0.34 2.73 *.10 A3 *.76 **.83 A2 3.07
母平均の推定の精度2.25
225 被服領域の諸問題(井上)
信頼限界を求めた。全部の計算は省略するが,全体としては洗濯5回のウェール方向と10 回のウェール方向で,5%および1%水準で有意であったほかは有意差はなかった。10回 ウェールの母平均の差の検定を表2に示す。
図1(1〜2)に洗剤別,手法の相違による結果の一部を示す。(1回と10回。途中回数 の図示は省略)
結果として次のことがあげられる。(1)同一洗剤における手法のちがいでは,A B両洗剤と
10
収縮率% 5
0
一5
T
○
O
AI A2 図1−1
A3 A4 A5 C 同一洗剤(A)における手法のちがい
●ウエール Q コース
左1回右10回
10
5
収縮率%
0
一5 B1
IO﹄ ー●1⊥ IOI
●ー1!
1●﹁→IIー
10〜1●ー アQ上
→I fOIIIーーlllI←
B2 図1−2
B3 B4 B5 C 同一洗剤(B)における手法のちがい
●ウエール
○コース
左1回右10回
も手洗い一脱水機一つり干し,手洗い一濾紙一平干し,クリーニングく手洗い一脱水機一タ ンブラ,機械洗い一脱水機一タンブラ,機械洗い一脱水機一つり干しの群に別れ,タンブ ラの衝激が収縮に大きく影響していること,又機械洗いも好ましくないことがみられる。
又脱水には機械を用いても差支えないこともわかる。(2)洗剤による大差はみられない。
(3)洗濯によって収縮が進行するものが多い。(4)ウェール方向よりコース方向の収縮が 大きい。
続いて面積収縮率(1)を表3に示す。
表3 面積収縮率(1)
厚 さ(mm) 面積収縮率(%)
記号 洗たく回委
法 0回 1回 !0回 1回 !0回
A1 機一脱一つり干し 1.68 1.73 1.92 3 13
A2 機一脱一タンブラ 1.67 1.79 2.01 7 17
A3 手一脱一つり干し 1.72 1.75 1.80 2 4
A4 手一脱一タンブラ 1.66 1.71 1.86 3 1!
A5 手一濾紙一平干し 1.71 1.73 1.76 1 3
B1 機一脱一つり干し 1.64 1.70 1.88 4 13
B2 機一脱一タンブラ 1.63 1.73 !.98 6 18
B3 手一脱一つり干し 1.66 1.67 1.70 1 2
B4 手一脱一タンブラ 1.67 1.68 1.86 1 10
B5 手一濾紙一平干し 1.69 1.67 1.70 1 1 C クリーニング 1.71 1.64 1.68 一4 一2
両洗剤とも,機械洗い一脱水機一タンブラ>機械洗い一脱水機一つり干し>手洗い一脱 水機一タンブラ>手洗い一脱水機一つり干し〉手洗い一濾紙一平干し>クリーニング(伸 び)の順に収縮が大きく,方法の相違による差異が明らかに見られた。また収縮率も両洗 剤間で殆んど一致している。ついで,ニットシュリンケージゲージ法の結果を図2(1〜2)
に示す。
表3の結果から,同一洗剤(A)において@ 機械洗い一脱水機一つり干し(13%収縮)
と⑤ 手洗い一濾紙一平干し(3%収縮)の方法を選んだが,@は10回での正味収縮率が ウェールL8%,コース4.8%,面積収縮率6.6%と大きく,⑤はウェールー3.6%,コース 0,面積では一3.6%と伸びを示した。これは,試料の量と方法及び,面積算出法が異なる ので数値は異なるが,③⑤の差の大きいことは同様である。またコースの収縮がウェール より大きいことも同様である。ニットシュリンケージゲージ法は,潜在回復性をもつニッ ト製品について実際に近い条件で回復させるもので理想的ではあるが,試料が多量に必要 であるので始めから実験計画をそのまま移すわけにはいかない。ここに抽出された結果で 同じような傾向が得られたので推論すれば,先に手洗いで濾紙一平干しと,脱水機一つり 干しの差が僅少な結果が得られているので,収縮に関しては,洗濯は手洗いにし,乾燥は 脱水機を使用,従って干し方はつり干しで良いことになり,大いに時間労力の節約となり
被服領域の諸問題(井上〉 227・
7 6
︻U 4 9U収縮率
(%)2
1 0
全 巴
■口会
■亀 口
●
△▲
8
見かけ 正味
Q ● ウエール
一1
一2
一3
一4
ムロ
日
▲ コース
■ 面積
●○ ○
○
1 図2−1
3 5 10(洗濯回数)
ニットシュワンケージゲージ法収縮率
(機械洗い一脱水機一つり干し)
5 4 3 2収
1縮 0率 1
(%)
2
一3
一4
茄
会
△
見かけ 正味 O ●ウエール
△
口
▲コース
■面 積
び
●○
8圏 ④ 一
●口■
○
1 3 5 10(洗濯回数)
図2−2 ニットシュリンケージゲージ法収縮率
(手洗い一濾紙一平干し)
又乾燥の場所もとらないで良い。
2.表面(ケバ) 図3(1〜3)にその一例を示す。写真判定のため数値的な差はっ けられないが概略次のようである。両洗剤共,機械洗いは手洗いよりケバが目だつ。手洗
図3−1 機械洗い一脱水機一つり干し(10回)
図3−2 手洗い一脱水機一つり干し(10回)
図3−3 クリーニング(10回)
洗濯回数(回)
白
度
(%)
80
75
70
知
○● ▽ △▲
○
● △
▲
▽
○
●
△
▲
▽
○●△▲
▽
013510
ABC(クリーニング)(洗剤)
図5 白度〔同一手法(手洗い一脱水機一つり干し)一洗剤(A,B,C)間〕
これはクリーニング浴中で再汚染されたものではないかと思われる。
ま と め
新指導要領に示された「毛糸編み物製品の洗たく」に関して,現在多くみられるアクリ ル70%毛30%混紡製品の取扱いを知るため,洗たく,脱水,乾燥方法及び洗剤二種の組合 わせで実施し,クリーニングとも比較し検討した。
1.機械洗いは手洗いより,収縮,ケバ,風合が劣る。
2.手洗いでは濾紙一平干しと,脱水機一つり干しが総合してよい結果を示し,タンブラ 乾燥は劣る。
3.クリーニングとの比較では,白度でクリーニングが劣るが他は優る。
4.洗剤A(中性),B(弱アルカリ性)の差は余りみられない。
上記の結果から,①混紡でも,機械洗いは適当でない,②手洗いにした後は脱水機に かけ,つり干しでよい。③クリーニングは白度低下が問題である。④洗剤は混紡率に よっては弱アルカリでもよい,ということが言える。
ここで,指導要領に示された洗濯教材の,小中の連関をみてみると,小学5年:洗たく に必要な洗剤及び用具の使い方を理解させ,下着などの簡単な洗たくができるようにする。
(手洗い)6年:簡単な上着などの布地や汚れに応じた洗い方を理解させ,その洗たくが できるようにする。(手洗いを主とし,電気洗たく機による洗たくの基本的なことがわか る。被2(中2)二日常着の洗たくについて,ア.編み物製品の手による洗たく,機械によ る洗たく及び仕上げばできること(繊維のちがいによって手による洗たく機械による洗た
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くの適否を考えさせる。電気洗たく機の安全な取扱いができる)と,段階的に連関を持ち,
一応妥当のようにみえるが,被2の機械による洗たくについて,編み物製品の実態と合わ ないことがでてくる。
ここに,上記の資料を提示してその適否を判断させる必要がある。従って洗濯機のとり 扱いは,小6でわかるからできるまで引上げるか,他の素材で行うかになるであろう。
また,取扱い表示の指導も示されているが,この表示は用心した表示も多いので,教師 はその適否を検討することが必要であろう。
最後に,衣生活の指導において,生活資材特に衣材料は,高級品志向とも相まって急速 に変化多様化する現状にある。それに対処し,また適正な批判ができる能力と意欲を養な うことが肝要である。
終りに本実験に協力された村上由美子,八木真弓嬢に感謝致します。
引 用 文 献 1)山田裕子,酒井豊子=繊消誌,18,42(1977)
2)井上 栄:長大教育自然科学研究報告,27,229(1976)