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担保割れしたノンリコース・ローンに係る被担保資産の譲渡価格について

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(1)

1 はじめに

(1)問題の所在

(2)検討方法の概要

2 我が国におけるノンリコース・ローンの取扱い

(1)責任財産限定特約付融資

(2)類似する契約形態と債務免除益

(3)ノンリコース・ローンの金融工学的性格

(4)債務免除益に対する課税上の一般的な取扱方法

(5)ノンリコース・ローンの債務免除益課税面の課題 3 米国税制上のノンリコース・ローンの取扱い

(1)債務免除益に対する考え方

(2)Tufts事件判決における取扱い

(3)両説の根拠

(4)本件手数料のタックス・ベネフィット・ルール上の取扱い 4 我が国における譲渡価格面の検討

(1)債務免除益課税と譲渡所得課税の優劣

(2)譲渡所得の発生メカニズムと減価償却制度との関連性

(3)一般的な債務免除益の発生メカニズムとの相違

(4)Tufts事件判決の視点からの検討

(5)まとめ 5 おわりに

(参考資料)Tufts事件米国最高裁判決(抄)仮訳

1 はじめに

(1)問題の所在

 民法上の組合を組成した上で金融機関から金員をノンリコース・ローン により借り入れて航空機を購入し、航空会社に賃貸する事業(以下「本件 リース事業」という。)を営んでいた者達が、航空機を売却して当該事業

担保割れしたノンリコース・ローンに係る 被担保資産の譲渡価格について

関   本   大   樹

(2)

を終了する際に当該航空機の購入原資の一部である借入金の一部につい て受けた債務免除益(以下「本件債務免除益」という。)及び当該組合の 業務執行者に対して支払うべき手数料の免除益等(以下「本件手数料免 除益」といい、本件債務免除益と併せて「本件債務免除益等」という。 の所得区分が争われた事件(以下「本件」という。)においては、雑所得 ないし不動産所得であるとする国側と一時所得であるとする納税者側が対 立したが、第一審判決(東京地判平成27年5月21日、裁判所ホームペー ジ)、控訴審判決(東京高判平成28年2月17日、同)とも、一時所得に該 当する旨納税者側勝訴の判決がなされた。ただし、本件については、国側 が最高裁に上告受理申立て中であり(1)、本稿執筆時点(平成30年5月)

では未確定である。

 ところで、納税者側も国側もリース対象資産である航空機に係る各組合 員の譲渡所得計算上の譲渡価格については、当該航空機の実際の譲渡価 格とすることに異論はない模様であるが、そもそも本件事業が行われた 米国においては、米国内国歳入法(Internal Revenue Code)上の所得税

(Income Tax)の計算について、ノンリコース・ローンが、いわゆる担保 割れしている状況で当該融資契約の解消や被担保資産の譲渡が行われた場 合には、有名なTufts事件判決(2)に従い、被担保資産が融資残高で譲渡 されたものとみなされることになる。したがって、そのような場合には、

そもそも債務免除益の発生自体が認識されないこととなろう。

 一方、当該ノンリコース・ローンの次の債務引受人(つまり、被担保資 産の次の所有者)は、通常どおり、被担保資産を公正市場価格(時価)で 取得したものとみなされることになる。そのため、前の所有者の譲渡価格 と次の所有者の取得原価との間に乖離が発生するわけであるが、Tufts

(1)平成28年5月付東京国税局課税第一部国税訟務官室「調査に生かす判決情 報~判決(判決速報

No.1380【所得税】

)の紹介~」第59号、TAINSコード

「調査に生かす判決情報059」参照。

(2)Commissioner v. Tufts, 461 U.S. 300 (1983)(平成30年5月3日現在)

https://supreme.justia.com/cases/federal/us/461/300/case.html

参照。

(3)

件判決の法廷意見が是認するこのような取扱いについては、本来的な取扱 いとはいえない旨の見解が同判決の同意意見(concurring opinion: 理由 は異なるものの法廷意見の結論に同意する意見)として表明されている。

 本稿では、我が国においても、超低金利時代の到来や高齢化社会の進展 など、ノンリコース・ローンの利活用が今後更に進む環境にあるものと考 えられることから、ノンリコース・ローンに対する課税上の取扱いに係る 今後の検討に当たって参考となるであろう米国における議論などを紹介す るとともに、今後の我が国において、①これからも従来型の取扱いを継続 すべきなのか、それとも、②米国流の取扱いに修正していくべきなのか、

若干の検討を試みたい。

(2)検討方法の概要

 以下では、まず、我が国における従来型のノンリコース・ローン類似の 契約形態やノンリコース・ローンの法的な位置付けについて概説したあと で、ノンリコース・ローンに係る債務免除益課税の問題点について簡単に 触れることとしたい。その後、米国においてなぜ債務免除益課税の問題が 発生しないような課税上の取扱いが採用されたのかを探るために、Tufts 事件判決を中心としてその判決理由やそこで示された①法廷意見である債 務残高を譲渡価格であるとみなす考え方(以下、本稿では「譲渡価格予約 説」という。)と②同意意見である、融資取引の解消を被担保資産の時価 譲渡取引と債務免除取引の二つの取引が合体したものと解して、それぞれ に分割して取り扱うべきとする考え方(以下、本稿では「バイファケー ション説」という。)の背景などについて解説する。そして、以上の検討 結果を踏まえて、我が国において今後、従来型か米国流か、どちらの方向 で検討していくべきか探ってみることとしたい。

(4)

2 我が国におけるノンリコース・ローンの取扱い

(1)責任財産限定特約付融資

 我が国においては、人的保証を原則としてきたことから、従来型の一般 的な担保付融資では、いわゆる「担保割れ」の状態(3)になり、たとえ被 担保資産を処分しても完済できない場合でも、借入人には残債を返済する 義務がある。これに対し、返済義務を被担保資産による物的保証に限定す る特約が「責任財産限定特約」と呼ばれ、融資リスクは高まるものの、

金利を高く設定できることや投資家による出資が促進されることにより LTV(4)がより低下することなどにより貸し手側にも利点が存在すること から、一般に不動産収入など一定の安定的な収益の見込める融資案件にお いて同特約が付帯され得るものと考えられる。

(2)類似する契約形態と債務免除益

 我が国でも被担保財産による物的保証に返済責任を限定する手段とし て、代物弁済によることが可能であり(5)、仮に担保割れしていたとして も、代物弁済により債務が完済されたものとされる(民法482条《代物弁 済》。そして、弁済時に被担保財産の価額(時価)が債権額を下回ってい た場合には、原則として当該価額を譲渡対価として譲渡所得課税の対象と

(3)担保割れ:ここでは、被担保資産の時価が低下して債務残高(残債)より も少なくなる状態をいう。

(4)LTV(Loan to Value):SPCを使って不動産を証券化する際に、簡単に 証券化商品の優劣を見分けるための指標の一つ。物件の価値に対する借入金 に代表される負債の割合を表す数値で、通常は負債額を物件価格で割って算 出する。例えば1000万円の価値のある不動産のうち、800万円が借入金の場 合、

LTV

は800÷1000=80%となる。「Weblio辞書」(平成30年5月3日現在)

https://www.weblio.jp/content/Loan+to+Value

参照。

(5)なお、代物弁済による物上担保の方法としては、代物弁済予約契約が利用 される。ただし、代物弁済予約を行う上で、一般的には、債権の保全度を上 げる目的で併用して抵当権を資産に設定することや特約として過不足分の清 算規定が契約に盛り込まれることが行われるようである。「厳選 債権回収弁 護士ナビ」(平成30年5月3日現在)https://saiken-pro.com/columns/68/

参照。

(5)

なり、また、債権額との差額については、債務免除益が発生するものとみ なされて贈与税や所得税の課税対象となるとするのが通説である(6)。し かし、代物弁済における譲渡収入の発生自体が争われた事件で、時価との 関係については特に言及せずに、代物弁済された「資産の所有者には、

代物弁済により消滅又は減少した債務の額と同額の譲渡収入が生じたも のというべきである」と判示した裁判例(東京地判平成3年2月27日、

TAINSコード Z182-6664)もある。なお、同判示内容は、控

訴審(東京高判平成3年7月25日、同Z186-6753)及び上告審

(最判平成4年6月25日、同Z189-6927)のいずれでも支持され ている。

(3)ノンリコース・ローンの金融工学的性格

 その法律的な性格については、ともかく、一般的にノンリコース・ロー ンによって生成されるキャッシュ・フローについては、金融工学的な見地 から他のどのような取引と等しいとみなせるかという点に関して、次の二 つの考え方がある(7)

①一般的な融資において担保割れした際に融資残高で貸し手に対して被担 保資産を売り付ける権利を借り手が有する取引(以下「プット・オプ ション付融資」という。

②一般的な譲渡取引において売り手が譲渡資産の価値が融資残高よりも上 昇した際に当該資産を(当初譲渡価格によって)買い手から買い戻す権 利を有する取引(以下「コール・オプション付譲渡」という。  なお、米国においては、譲渡所得の課税適状時期との整合性などの観点か らノンリコース・ローンについては、上記①のプット・オプション付融資と しての捉え方が判例ないし通説的見解の考え方とされているようである(8)

(6)東京弁護士会編著『新訂第七版 法律家のための税法[民法編](平成26 年・第一法規)98~99頁参照。

(7)Marvin A. Chirelstein, et al.

“Federal Income Taxation ― A Law Student’ s Guide to the Leading Cases and Concepts ― Thirteenth Edition”

(2015・Foundation Press)p.369参照。

(8)前掲注7、同書、pp.367-371参照。

(6)

(4)債務免除益に対する課税上の一般的な取扱方法

 ところで、上記(2)に述べた債務免除益については、いろいろな取引 の中で発生し得ることから所得税法上のいずれの所得区分に分類されるべ きか、個々の事案の債務免除益の発生形態に応じて個別に検討する必要が ある。例えば、建物の賃貸人が、その建物の賃貸借契約を合意解除した際 に賃借人から預託されていた保証金の返還義務を免除されたことによる債 務免除益は、不動産所得に当たると解すべき場合が多いとされる一方、土 地の賃貸借契約の合意解除に際して、賃借人から土地所有者に無償で同土 地上の建物を移転したことによる利益は、たとえ業務上の無償供与であっ ても、不動産所得ではなく一時所得に該当することとなる(9)

 したがって、本件においても、本件債務免除益等は一時所得に該当する という有力な見解がある(10)ものの、国側は、雑所得ないし不動産所得に 該当するものと主張して、争われることとなったわけである(11)

(5)ノンリコース・ローンの債務免除益課税面の課題

 上記(2)で述べたようにノンリコース・ローンの物的担保面の性格 は、代物弁済予約に近いものと考えられることから、それとの類似性を重 視すれば、ノンリコース・ローンにおいて担保割れした場合において上記

(1)の責任財産限定特約が有効となるときには、代物弁済において債務 免除益が発生するのと同様に考えることが素直であろう。

(9)金子宏『租税法〔第22版〕(2017年・弘文堂)226頁参照。

(10)前掲注9、同書284頁参照。

(11)なお、国側は、本件とは別件の東京高判平成27年3月19日では、不動産所 得該当性を判断するに当たっては、典型的な不動産所得(使用収益期間に対 応して定期的かつ継続的に支払われる賃料)に限られず、当該所得発生に係 る諸事情を考慮の上、当該所得が不動産の貸付けにより発生したと評価でき るかどうかを検討すべきであるとの原審判決(東京地判平成26年9月30日)

を引用した上で、「所得税法26条1項の『貸付け(中略)による所得』の『よ る』は、因果関係を表す用語であり、『貸付けによる所得』は、文言上、貸 付けの対価に限定されないし、貸付けの相手方から得られるものに限定され ることもない」と判示して、不動産所得の範囲について、本件の東京高判平 成28年5月17日とは異なる判断をしており、そのため解釈の統一を図る必要 があることを本件の上告受理申立て理由としている模様である。前掲注1、

同資料参照。

(7)

 一方、上記(3)のとおり、ノンリコース・ローンのキャッシュ・フ ローの金融工学的な等価性、つまり、金融取引としての経済的実質やその 課税上の公平な取扱いの視点を重視すれば、担保割れした状況でのノンリ コース・ローンの解消においては、債務免除益の発生を認識するよりも、

むしろプット・オプションの行使による譲渡所得の発生を認識すべきこと となろう。

 そこで、上記の取扱いのうち、いずれの取扱いが将来的にみても妥当で あるか検討するため、まず、原則的に融資についてはノンリコースである とみなされる州が数多くある米国(12)におけるノンリコース・ローンの課 税上の取扱いについて以下簡単に紹介することとしたい。

3 米国税制上のノンリコース・ローンの取扱い

(1)債務免除益に対する考え方

 債務免除益に対する米国税制上の主要な考え方については、次の二つ が挙げられる。すなわち、①純資産(net worth)アプローチと②借入金

loan proceeds)アプローチである(13)

 上記①の純資産アプローチは、我が国におけると同様に仮に債務免除等 の取引によって純資産の増加が認められれば、原則として所得と認識すべ きであるとする考え方であり、債務免除発生年度の純資産増加のみに着目 する考え方である(14)

(12)2017年現在で米国50州のうち12州が融資について原則的にノンリコー スとされる「ノンリコース州(non-recourse states)」であるとされてい る。詳細については、Financial Samurai,

‘Twelve Non-Recourse States Lets You Walk Away From Your Mortgage’

(平成30年5月4日現在)

https://www.financialsamurai.com/non-recourse-states-walk-away- from-mortgage/

参照。

(13)債務免除益に対する米国税制上の主要な考え方については、髙橋祐介「損 害賠償なんか踏み倒せ!―債務の消滅をめぐる課税関係に関する一考察」立 命館法学、2013年6号、240頁以下に詳しい。

(14)前掲注13、同資料、244~245頁参照。

(8)

 一方、上記②の借入金アプローチは、借入金の借り入れ時に、その借入 金が収入金額に算入されないのは、それが最終的に課税後の所得により返 済されることを前提にしているからであり、この前提が崩れ、借入金の返 済が行われない場合には、返済が行われなくなったことが明らかになった 時点で、いわば過去の取引を現年分で修正する形で借入金を収入金額に算 入すべきであるとする考え方である(15)

 米国においては、一般に上記②の借入金アプローチが妥当であるとされ るが、その理由としては、例えば、贈与義務や保証債務などの免除につい て課税対象とすべきではない理由を、そもそも債務発生時に贈与義務者等 の債務者が経済的利益を受けていないことから合理的に説明できるととも に、他方でTufts事件のような担保割れしたノンリコース・ローンの解 消時においては、借り入れした際に借入金収入が非課税とされた以上、そ れが返済不要となった場合には、所得を認識すべきとする理由についても 合理的に説明できる点が挙げられている(16)。そこで、以下では、Tufts 事件判決において、上記の理由付けが具体的にどのように行われたのか簡 単に触れておきたい。

(2)Tufts事件判決における取扱い

 上記1の(1)で触れたように、Tufts事件判決の法廷意見では、債務 残高と被担保資産の取得原価(basis: 簿価)との差額がキャピタル・ゲイ ン(譲渡所得)とされた(譲渡価格予約説)が、O’Connor判事による同 意意見では、本来的には債務残高と被担保資産の時価との差額である債務 免除益(通常所得)と簿価と時価との差額である損失(譲渡損失)とが認 識されるべきとされた(バイファケーション説)

 上記の二つの説を図示すれば、図1のとおりである(17)

(15)前掲注13、同資料、245~246頁参照。

(16)前掲注13、同資料、249~250頁参照。

(17)Joseph Bankman, et al.

“Federal Income Taxation Seventeenth

Edition”

(2017・Wolters Kluwer)p.350の図表に若干の補足的な記載を付 加して引用した。

(9)

 図1によれば、法廷意見(譲渡価格予約説、以下、単に「法廷意見」と いう。)は、1.85百万ドルの債務残高(Debt)から減価償却調整後の取得 原価である1.45百万ドルを控除した譲渡所得(Gain0.40百万ドルが発生 したと認定するものであり、そのため、被担保資産の時価に相当する公 正市場価値(FMV: Fair Market Value)には特にこだわらないこととな る。したがって、法廷意見は、実質的には、債務者が債務残高で債権者に 被担保資産を売り付ける権利(プット・オプション)を行使したものとみ なしたものと考えることができよう。

 一方、同意意見(バイファケーション説、以下、単に「同意意見」と いう。)は、1.85百万ドルの債務残高から公正市場価値である1.40百万ド ルを控除した金額、すなわち、0.45百万ドルの債務免除益(COD Income:

Cancellation of Debt Income)と共に、減価償却調整後の取得原価1.45 百万ドルと公正市場価値1.40百万ドルとの差額である0.5百万ドルの譲渡 損失を併せて認定するものである。つまり、同意意見は、ノンリコース・

ローンの解消取引を①被担保資産の公正市場価値による譲渡と②当該譲渡 収入によって返済できなかった債務の債権者による免除の二つの取引に分

割する(bifurcate)ことができると考えるわけである。

 つまるところ、法廷意見は、ノンリコース条件が借入れ当初より約束さ 図1 両説における所得認識方法の違い

(10)

れているということを重要視する考え方であり、他方、同意意見は、むし ろリコースである融資の取扱いとの整合性を重視すべきであるとする考え 方といえるのではなかろうか。

 なお、読者の参考となるように、Tufts事件判決の仮訳を(参考資料)

として本稿の末尾に掲載した。おって、当該判決文の翻訳については、主 要な部分に絞り込むため、脚注17の同書、pp.343-349に掲載の部分につい てのみ翻訳の対象としたが、原判決文の脚注番号については同書では引用 に際して数値が変更されているため補完記入を行っている。

(3)両説の根拠  イ 譲渡価格予約説

 法廷意見では、「納税者が非課税で受け取り、取得原価に含めた債務か らの収入を[所得として]認識しなければならない」とされ、これは、一 種の「タックス・ベネフィット・ルール」であると理解されている(18) このタックス・ベネフィット・ルールは、過去に所得税額計算上行われた 所得の控除項目が後の年分で返還された場合の取扱いを規定したものであ るが、米国内国歳入法111条《タックス・ベネフィット項目の返還》(a)

項において、「以前の課税年分において控除された金額のうち、当年分に おいて返還されたものに係る所得は、その金額が本章[《普通所得税及び 付加税》]の規定により課税される税額を減少させなかった範囲で、総所 得に算入されない」と規定されている(19)。この規定は、やや分かりにく いものの、当初の控除適用が実際に税額減少を生じさせていない場合に限 り、返還項目の非課税を認めることを明らかにしたものとされる(20)

(18)前掲注17、同書、p.351参照。

(19)米国内国歳入法上のタックス・ベネフィット・ルールについては、髙橋祐 介「タックス・ベネフィット・ルールと遡及的調整」租税研究、2013年9月 号134頁以下に詳しい。

(20)前掲注19、同資料、140頁参照。例えば、その年分については、その控除 項目が仮になかったとしても損失となっていた場合など、タックス・ベネ フィットを生み出せなかったときには、その控除項目が後の年分において、

たとえ取り戻されたとしても当該年分の総所得に算入されないことになる。

同139頁参照。

(11)

 したがって、課税済みの手持ち資金により取得した場合と同様にノン リコース・ローンからの借入れを被担保資産の簿価に算入して控除項目 である減価償却の対象として税額を減少させた以上、被担保資産の譲渡 収入を算定する上では手持ち資金により取得した場合と同様に当該借入 残高を譲渡収入に含めるべきであると解されるわけである(21)。なお、こ のような収益認識における種々の理論的な対応関係は、一般に「対称性

symmetry」と呼ばれている(22)

 ただし、上記のような譲渡収入の取扱いが被担保資産の次の所有者の取 得原価となることを正当化するかについては、Tufts事件判決の法廷意見 では明記されてはいない。ただし、Tufts事件判決を受けて、「ノンリコー ス負債の担保となっている資産の公正市場価値については、当該負債の金 額を下回らないものとする」旨の内国歳入法の定義規定(同法7701条(b)

項)が整備されている(23)。そして、これを素直に読めば、当該資産の公 正市場価値が当該負債の金額を下回った場合には、そのように上方修正さ れた公正市場価値、すなわち、当該負債の金額が次の所有者の取得原価と されるものと解される。しかし、判例ないし通説的見解は、次の所有者の 取得原価は、必ずしも当該負債の金額とされるものではなく、状況に応じ て譲渡時点における本来の公正市場価値によるべきとされる(24)。なお、

その理由としては、仮に当該負債の金額をそのまま取得原価とした場合に は、減価償却資産のいわゆるオーバーバリューによる租税回避行為を正当

(21)前掲注17、同書、p.350参照。

(22)前掲注21、同頁、前掲注7、同書、p.371など参照。

(23)Erik M. Jensen

‘The Unanswered Question in Tufts: What Was the Purchaser’ s Basis?’ , Virginia Tax Review, Vol. 10, p.455

(1991)

, p.497

(平 成30年5月11日現在)https://ssrn.com/abstract=1396838参照。

(24)なお、前掲注7、同書では、担保割れの場合には、次の所有者の取得原価 は、一律的に譲渡時の公正市場価値とすべきとしている。pp.374-375参照。

一方、前掲注23、同論文は、負債残高と当該被担保資産の公正市場価値との 乖離等の状況から、次の所有者の取得原価の課税上の取扱いについて、①当 該負債残高となる場合、②本来の公正市場価値となる場合、③取得原価自体 が無視される場合の三つに分類できるとしている。pp.483-507及び

p.534参

照。

(12)

化することになってしまうことが指摘されている(25)  ロ バイファケーション説

 米国内国歳入法上も、人的責任が追及されるリコース・ローンの場合 には、バイファケーション説が採用される(26)。なお、このバイファケー ション説は、上記2の(2)で述べたように被担保資産の時価を基準とし て譲渡所得を認識する代物弁済に係る我が国の税制上の取扱いとほぼ同様 な取扱いといえよう。

 そして、バイファケーション説の根拠としては、納税者が借り入れた金 額を完全に返済していない以上、当然に債務免除益を認識すべきであると いう考え方であると解されている(27)

 また、バイファケーション説が法廷意見として採用されなかった背景と しては、債務免除益が通常所得として取り扱われてしまう点や一定の場合 には当該債務免除益が非課税とされ得る点が指摘されている(28)

(4)本件手数料のタックス・ベネフィット・ルール上の取扱い

 つぎに、本件手数料免除益についてもタックス・ベネフィット・ルール 上の取扱いについて検討しておくこととしたい。

 すなわち、本件について米国内国歳入法の適用がもしあるとすれば、本 件債務免除益等のうち当該組合の業務執行者に対して支払うべき手数料の 免除益については、仮に当該手数料を所得の控除対象としており、過去に タックス・ベネフィットが発生していたと認められるときには、原則とし て、総所得に算入されることになる。一方、そもそも本件リース事業の経 営状態の悪化に伴い業務執行者に対する手数料の支払が停止されていたこ とを踏まえると、上記控除によって過去にタックス・ベネフィットが発生

(25)前掲注7、同書、p.374参照。

(26)前掲注17、同書、p.351参照。

(27)前掲注26、同頁参照。

(28)前掲注26、同頁参照。米国内国歳入法108条《債務免除による所得》にお いて破産法に基づく債務免除等に係る非課税規定が定められている。いずれ にしても、譲渡所得ないし譲渡損失とされる場合よりも税務上の取扱いが 区々になりやすいということであろう。

(13)

していたとは認められない可能性があるが、そのときには、本件手数料免 除益を総所得に算入する必要はないものと考えられる。

4 我が国における譲渡価格面の検討

(1)債務免除益課税と譲渡所得課税との優劣

 上記3で述べたように、ノンリコース・ローンの解消に伴って返済を要 しなくなった金額(以下「返済不要額」という。)が債務免除益とされた 場合と譲渡所得とされた場合で課税上の取扱いが大きく異なることが米国 においては課税面での大きな問題となり得るわけであるが、以下では、既 存税制上の適法性の議論は取り敢えず置いて、我が国において果たしてい ずれの考え方が公平な課税といえるのか検討してみたい。

 第1の観点としては、譲渡所得と債務免除益の発生メカニズムが異なる 点が挙げられよう。

(2)譲渡所得の発生メカニズムと減価償却制度との関連性

 譲渡所得は、基本的には当該資産のキャピタル・ゲインを所得と認識す るものであり、その課税上の取扱いは、減価償却費が無視できる土地等の 非減価償却資産の場合には、まさしく時価の時系列的な変動を累積的かつ 確定的に捉えるもので、譲渡時における時価と実際の取引金額との較差が 甚だしい場合を除き、基本的にはシンプルである。しかし、業務用の減価 償却資産については、使用されていた期間中の減価償却費の累積額が譲渡 所得計算上の取得費に含まれることになる(29)

 したがって、間接原価として見越し計上された減価償却費累計額が当該

(29)所得税法38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》2項1号参照。

なお、米国内国歳入法上も同様の規定が置かれているが、ただし、事業用不 動産については、我が国と同様に実質的にキャピタル・ゲインとされるもの の、事業用動産については、減価償却費の累計額に対応する部分について は、キャピタル・ゲインではなく、通常所得とされる。これは、この部分に ついては、減価償却費の見越し計上額が結果的に過大であったと考えられる ためである。前掲注17、同書、p.448参照。

(14)

減価償却資産の譲渡によって実現される時価相当額に見合うものであれ ば、譲渡所得が発生しないものの、当該減価償却費累計額が過大であれ ば、簿価が当該時価相当額よりも低くなって譲渡所得が発生し、逆に過少 であれば簿価が当該時価相当額よりも高くなって譲渡損失が発生すること になる。

 このように、ノンリコース・ローンに係る被担保資産が減価償却資産の 場合には、当該資産の簿価と時価相当額との差額については、現行法制 上、一律的に譲渡損益として認識されることから、簿価と時価相当額との 較差が著しい場合には、実質的に事業性所得と譲渡所得との間で所得区分 の付け替えが行えることになる。そのようなことから、米国では1970年代 にノンリコース・ローンを用いて過大な減価償却費を計上するタックス・

シェルターが課税上問題となり(30)、Estate of Franklin事件訴訟(31) 経て法規制が行われている(32)

(3)一般的な債務免除益の発生メカニズムとの相違

 一般に、債務免除益は、確定した債務について何らかの事由で債権者の 意思に基づき債務者が返済する必要がなくなった場合に発生するものと考 えられる。そして、その所得区分については、上記2の(4)で述べたと おり当該事由の業務関連性の強弱等に基づいて認定すべきとする考え方も ある。

 しかし、いずれにしても、債権者は一方的に債務免除が可能であるもの

(30)前掲注17、同書、p.500参照。

(31)Estate of Franklin v. Commissioner, 544 F.2d 1045 (9th Cir. 1976)( 平 成30年5月6日現在)https://openjurist.org/544/f2d/1045/estate-franklin-

v-commissioner-of-internal-revenue

参照。

(32)タックス・シェルターによる減価償却制度等の濫用を規制するため、米国 では、個人納税者が課税所得の算定上控除できる損失の額は、当該納税者が その投資活動において実際に負担するリスク総額が限度とされる、いわゆる

「アット・リスク・ルール(at-risk rule)」が内国歳入法465条《危険負担分 に限定される控除》として成文化されている。前掲注17、同書、pp.502-503 参照。また、税制調査会答申「わが国税制の現状と課題―21世紀に向けた 国民の参加と選択」(平成12年7月14日)119頁(平成30年5月6日現在)

http://www.cao.go.jp/zeicho/tosin/pdf/zeichof08.pdf#page=5参照

(15)

の(民法519条)、その意思決定においては、種々の経済合理的判断が伴う ものと考えられる。ところが、ノンリコース・ローンの場合、責任財産限 定特約があるため、少なくとも債務免除自体については、債権者による当 該経済合理的判断やそれに基づく意思決定を要しない。なぜなら、当該特 約により債務免除が当初より条件付で約束され、融資契約にビルトインさ れている以上、債務免除自体は、融資解消の検討の前提条件であり、か つ、融資解消の当然の帰結であるためである。

 したがって、仮に法人からの一般的な債務免除益を一時所得とする理由 が「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない」点 にあるとすれば、当該債務免除の片務性ないし任意性を基礎としているも のと考えられるところ、上記の性質からノンリコース・ローンに係る債務 免除の片務性ないし任意性については疑問なしとしない。

(4)Tufts事件判決の視点からの検討

 上記3の(3)で述べたようにTufts事件判決では、①譲渡価格予約 説と②バイファケーション説の二つの考え方が説示されたが、上記①の考 え方が法廷意見として採用された。これを筆者なりに解釈すれば次のとお りである。すなわち、法廷意見は、上記(2)の譲渡所得の発生メカニズ ムやノンリコース・ローンの上記2の(3)で述べたような金融工学的な 性格をも踏まえ、そもそも人的責任の追及が融資契約当初より放棄されて いる以上、同意意見が上記②に基づき主張するような債務免除益を認定す るための融資残高は、そもそも責任を追及することのできない、いわば名 目的なものと考えるべきであり、そして、そうであるとすれば、むしろ金 融工学的に等価な取引(プット・オプション付融資)との平等取扱いを重 視すべきであると判示したものと考えられるのではなかろうか。

(5)まとめ

 一般論として、個々の構成要素の税務上の取扱いの妥当性は、必ずしも 取引全体としての課税上の取扱いの妥当性を保証するものとはいえないこ とから、特に本件のように節税スキームとして複雑かつ意図的に構成され

(16)

た事案においては、租税公平主義の観点から、その課税上の取扱いについ ては、取引全体としての妥当性が十分に吟味される必要があろう。

 ただし、現行法制上ノンリコース・ローンに係る返済不要額を米国税制 のように譲渡所得としてではなく、やはり債務免除益として捉えざるを得 ないかもしれない。しかしその場合には、一方で、ノンリコース・ローン を幾つかの等価な金融取引、例えば、融資契約とオプション取引が複合さ れた取引(以下、「等価複合取引」という。)として構成するようなこと も、金融工学の進歩に伴い、今後十分に実現可能であるとも思われる。し たがって、ノンリコース・ローンとそのような等価複合取引との課税上の 取扱いを、どのようにバランスしていくのかが今後の課題となろう。

 また、少なくとも、上記(2)で述べたように、ノンリコース・ローン の被担保資産がオーバーバリューされて取引された場合や担保割れした状 態で被担保資産と共にノンリコース・ローンが引き継がれた場合などの課 税上の取扱いについては、米国における取扱い等(33)を参考にしながら我 が国においても租税法律主義及び租税公平主義の観点から今後明確化して おく必要があろう。

5 おわりに

 本稿では、金融工学的な視座を交え、本件と米国におけるTufts事件 との比較を通じて、本件のような事件についてどのような課税上の取扱い が租税公平主義の観点から望ましいのか検討を試みた。大変粗削りな検討 であるので、今後更に検討を深める必要があるものと考えているが、本件 について同様な問題意識を共有されている読者の何らかの参考になれば幸 いである。

 最後になるが、本稿は、ノンリコース・ローンの課税上の取扱いに関す る久留米大学大学院比較文化研究科院生の中川智裕さんとの活発かつ有益

(33)例えば、前掲注24参照。

(17)

な意見交換が大きな着想の基礎になっていることを付記して、その真摯な 協力に感謝の意を表しておきたい。

(18)

(参考資料)Tufts事件米国最高裁判決(抄)仮訳

 Blackmun判事が本法廷意見を言い渡した。

 35年以上前、CraneIRS長官事件最高裁判決、331 U.S. 1 (1983) 照、において本法廷は、ノンリコース融資に係る被抵当資産(ただし、当 該融資の残高は、当該資産の価値未満であった。)を譲渡した納税者は、

当該譲渡によって所得として実現した金額の計算に当該融資の未返済残高 を含めなければならないと判示した。本件では、ノンリコース融資の未返 済残高が譲渡された資産の公正市場価値を超える場合にも同様なルールが 適用されるのかが問われている。

 1970年8月1日、建設業者である被上告人Clark Pelt及び彼が単独で 保有する被上告人Clark社は、通常組合(general partnership)を設立 した。当該組合の目的は、ダラス近郊のテキサス州Duncanville120 で構成される団地を建設することであった。PeltClark社も当該組合 に出資を行わなかった。6日後、Farm & Home貯蓄組合(F&H)と抵 当融資契約を締結した。当該契約においてF&Hは、当該団地について 1,850,000ドルの融資を約束した。その見返りとして、当該組合は、F&H 宛に約束手形及び信託証書を発行した。当該組合は、当該融資をノンリ コース条件で取得した、つまり、当該組合も、その組合員も当該融資の返 済について何ら人的責任を引き受けなかった。Peltは、のちに4名の友 人及び親族、すなわち、被上告人であるTuftsStegerStephensそし

Austinに無限責任組合員となることを認めた。

 1971年に団地の建設は完了した。1971年中に各組合員は、当該組合に 少額の出資を行ったが、1972年には、Peltのみが出資を行った。当該組 合の出資金額は、合計で44,212ドルである。各課税年分において、全ての 組合員は、その出資割合に応じて経常損失及び減価償却費を所得税の控除

(19)

項目として申告した。1971年及び1972年において各組合員が控除額とし た金額は、合計で439,972ドルであった。これらの出資金額及び控除額に 伴い、当該組合の調整後基準額(adjusted basis)は、1,455,740ドル[=

1,851,500ドル+44,212ドル-439,972ドル]となった。

 1971年及び1972年にDuncanville地域において主要な雇用主が相当な人 数の従業員をレイオフした。その結果、当該組合の家賃収入が期待された 金額よりも少なかったため、当該組合は、当該融資について期限の到来し た支払を行うことができなかった。1972年8月28日、各組合員は、それぞ れの組合持分を無関係の第三者であるFred Baylesに譲渡した。その対価 として、Baylesは、各組合員に対して250ドルを限度として譲渡費用を負 担することに合意し、さらに、当該ノンリコース融資を引き受けることと なった。

 引渡当日の当該資産の公正市場価値は、1,400,000ドルを超えることは なかった。各組合員は、その連邦所得税申告書において当該譲渡について 申告を行い、[総額で]55,740ドルの組合損失を被った(34)旨申告した。内 国歳入庁(IRS)長官は、調査を行い、当該譲渡により約400,000ドルの 組合譲渡所得(a partnership capital gain)があったものと認定した(35) その考え方は、当該組合がノンリコース債務[残高]の全額を[譲渡所得 として]実現したというものである。

  米 国 租 税 裁 判 所 は、MillarIRS長 官 事 件 判 決、577 F.2d 212, 215

C.A.3)参照、裁量上訴否決、 439 U.S. 10461978)参照、に基づき、IRS 長官によって]認定された過少申告額を非再審査判決(an unreviewed decision)により支持した。70 T.C. 7561978)参照。[ところが、]第5

(34)(判決文脚注1)当該損失は、調整後基準額1,455,740ドルと当該公正市 場価値1,400,000ドルの差額である。組合員個々の申告書において、組合員 は、この損失について、それぞれの持分に係る控除額を計上しなかった。し かし、租税裁判所に対する訴状において当該損失を主張した。

(35)( 判 決 文 脚 注 2)IRS長 官 は、Baylesに よ っ て 引 き 受 け ら れ た 債 務 額

1,851,500ドルから調整後基準額1,455,740ドルを控除して当該譲渡による組

合の利得を認定した。(以下略)

(20)

巡回区控訴審裁判所は、当該判決を覆した。651 F.2d 10581981)参照。

当該控訴裁判所は、明示的にMillar事件判決による分析に同意せず、上

記のCraneIRS長官事件[の射程]をその事実に限定しつつ、Crane

事件判決の理論的な基礎に疑問を呈した。我々は、当該対立を解消するた め[IRS長官の]裁量上訴請求を認めた。(以下略)

 1954年内国歳入法752条(d)項は、組合持分の譲渡又は交換において 被る(incurred)債務については、「組合に関係しない資産の譲渡又は交 換に関連した債務と同じように取り扱われるべきである」ことを明確に規 定している。[そして、]1001条は、資産の処分に関する損益の認定方法を 規定している。[まず、1001条(a)項において、資産の譲渡又はその他 の処分に係る損益は、当該処分に係る「実現された金額」と当該資産の調 整後原価(adjusted basis)との差額であると定義されている。[つぎに、

1001条(b)項は、「実現された金額」を定義している。[すなわち、「資

産の譲渡又はその他の処分によって実現された金額は、受け取った全ての 金銭の合計額に受け取った(金銭以外の)資産の公正市場価値を加えたも のとする。[と規定している。本件の]争点は、ノンリコースである抵当 融資の融資残高が被担保資産の公正市場価値を超える場合における当該資 産の処分に係る後者の規定の適用方法である。

 A

 上記のCraneIRS長官事件判決において、本法廷は、上記の問題の

解決に向けて、最初で、かつ、解決を方向付ける(controlling)ための 対応を行った。(中略)

 同法廷は、譲受人が抵当融資を引き受けることによって、Craneは、

人的な負債の免除によってもたらされる利益に等しい経済的利益を享受し

(21)

たものと判示した。[そして、]同事件では、当該資産の価値が抵当融資残 高を上回っていたため、当該抵当融資を人的な債務として取り扱うことに よって、それ[当該資産の価値]がCraneの経済的利益に含まれること になった、[つまり、]そのように取り扱うことによってのみ、彼女が2,500 ドルの付加金(boot)によって表される彼女の持分の増加を譲渡によっ て実現することができるとされたわけである。このようにして、譲受人の 債務の引受けは、あたかも付加金に加えて、丁度当該抵当融資残高を満た す金銭を与えられたとした場合であるかのように、彼女にとっての課税対 象となる経済的利益とされることになったわけである。

  [ただし、]脚注において、同法廷は、本件に関連して、[次のように]

検討している:

明らかに、仮に当該資産の価値が融資残高よりも少ない場合には、人的責任のあ る担保提供者でない限り、当該融資残高に等しい利益を実現することにはならな い。その結果、担保提供者が当該資産を諦めるか、あるいは、当該抵当融資と共 に付加金なしで譲渡した場合には、異なった問題が発生するかもしれない。[た だし、]本件は、それには該当しない。

同判決、14頁、脚注番号37参照。

 B

 本件は、当該未解決問題を提示している。我々はCrane事件判決を変 更することには消極的であり、したがって、ノンリコースであり抵当融資 の未返済残高が譲渡された当該資産の価値を超過する場合であっても、同 様のルールが適用されるものと裁定する。Crane事件判決は、結局のとこ ろ経済的利益に係るその限定的な考え方に満足しているわけではなく、む しろ、我々は、Crane事件判決を、本件のような事情においてもノンリ コースである抵当融資を真の融資として取り扱うというIRS長官の判断

(22)

を承認したものと解する。当該承認は、処分の際にノンリコース債務の残 高が取得原価と実現された金額の両方の計算に含まれるべきとするCrane 事件判決の判示事項の根拠となっている。したがって、当該融資残高が当 該資産の公正市場価格を超過していることとは無関係となる。

 納税者が融資金額を受け取れば、いつの日か将来において当該融資を返 済する義務を負うことになる。この[発生する]義務のため、融資金は納税 者の所得とみなされることはない。[また、]彼が当該返済義務を果たした場 合にも、当該融資の返済は、同様に彼の租税債務にはなんら影響はない。

 この返済義務は、その他にも納税者へ影響を与えるが、それは、当該納 税者が融資金について当該融資を担保するために用いられる資産の購入代 金に充てた場合である。[発生する]返済義務のため、当該納税者は、融 資金額を当該資産の原価を計算する際に含めることができ、当該融資金 は、1012条に基づき、当該納税者に係る当該資産の取得費用を構成する。

ノンリコースである抵当融資について、異なった取扱いを行うことが可能 であったかもしれないものの(36)IRS長官は、リコースである抵当融資 に対する取扱いと同じ取扱いと調和させることを選択したものである。当

法廷は、Crane事件判決において当該選択を承認したが、被上告人はそれ

(36)(判決文脚注5)IRS長官は、

Crane

側の主張に暗に含まれているように、

ノンリコースである抵当融資を真の負債として取り扱わず、その代わりに、

担保提供者と担保権者による共同投資の一形態として取り扱うこともでき たかもしれない。このアプローチでは、ノンリコース負債は、不確定債務

(contingent liability)と理解される、すなわち、担保提供者の負債に対す る支払は、当該資産に係る当該担保提供者の持分を増やすと共に、担保権者 の持分を減少させるものとみなされる。(中略)[この場合、]当該資産に係 る納税者の投資には、ノンリコース負債が含まれないため、納税者は、取得 原価に当該負債を含めることが許されないことになる。(中略)

   上記のようなアプローチが制定法(statutory structure)と整合的かど うかについて見解を述べないし、また、仮にそうであり、Crane事件判決が 先例としてなかったとしても、そのようなアプローチが

Crane

事件判決の 分析よりも優れるかどうかについても意見を述べない。ただし、取得原価に 関する問題に係る

Crane

事件判決の結論は、資産がノンリコースである抵 当融資からの資金によって購入された場合には、当該購入者が当該資産の唯 一の所有者であると想定している点についてのみ指摘しておきたい。(後略)

(23)

に対して異議を唱えていない。[いずれにしても、]当該選択及びその結果 としての納税者の利益は、当該抵当融資が完済されるという仮定をその基 礎に置いている。

 被担保資産が譲渡又はその他の処分をされ、併せて譲受人が当該抵当融 資を引き受けた場合には、付随する担保提供者の返済義務の消滅は、[所 得として]実現された金額の計算において認識されることになる。(中略)

リコースである債務とノンリコースである債務の間に取得原価を計算する 上で相違は認識されないことから(37)、Crane事件判決は、IRS長官が当 該被担保資産の処分において実現される金額を認定する場合に当該債務が ノンリコースであるという性格を無視しなければならないことを示唆して いる。したがって、同長官は、譲受人によって引き受けられたノンリコー スである当該抵当融資の残高を実現された金額に含めなければならない。

この取扱いの理由は、当該抵当融資金額を当初取得原価に含めることにつ いて、[飽くまでも]当該担保提供者が返済すべき債務を負担したという ことが前提とされていることである。さらに、この取扱いは、同じ前提に より、担保提供者がノンリコース融資からの収入を当初非課税で受け取っ た事実ともバランスさせるものである。[つまり、]当該抵当融資残高が[所 得として]実現されるとみなされない限り、当該担保提供者は、当該融資 が提供された時点で実質的に非課税の所得を受け取ったことになり、ま た、取得原価を不当に増加させて[過大な減価償却費を計上して]しまう

(37)(判決文脚注7)Crane事件における

IRS

長官の選択は、納税者に対し て減価償却資産についてリスクなしに控除できることを許したことによっ て「ほとんどのタックス・シェルターにとっての基盤となった。」Bittker,

‘Tax Shelters、Nonrecourse Debt, and the Crane Case’ , 33 Tax L. Rev.

277, 283

(1978)

参照。最近になって、議会は、納税者が投資に係るリスク

を被っている金額を超えて減価償却による控除を行うことを禁じることに よって、この租税回避手段を抑制するための活動をしてきている。(中略)

468条(a)項参照。

(中略)この議会の動きは、ノンリコース負債とリコー

ス負債について異なった取扱いが行われる日が来ることの前兆といえるかも しれないが、[これまで]議会も

IRS

長官もノンリコース債務を取得原価と 実現された金額の両方に含めるという

Crane

事件判決のルールを変更しよ うとしてきてはいない。

(24)

ことになる(38)1001条(b)項に対するこのようなIRS長官の解釈は、

不合理であるということはできない。

 C

 実際、IRS長官は、このルールを当該資産の公正市場価値がノンリコー ス債務残高よりも低下した場合にも適用してきた。財務省規則1.1001-2条

b)項、内国歳入庁ルーリング(Rev. Rul.76-1111976-1 公報集(Cum.

Bull.)214参照。本件においても、当該ルールが基づく法理は、等しく適 用されることから、(中略)Crane事件判決を踏まえ、我々にとって、こ のような取扱いについて疑問を呈する理由はない(39)

 被上告人は、抵当融資金を受け取ったが、それは2012年までに返済すべ き債務が付随していた。当該抵当融資と借入人が人的責任のある抵当融資 の違いは、担保権者の法的救済が被担保資産について抵当流れ処分にする

(foreclosing)ことに限られる点のみである。この違いは、債務自体の性

(38)(判決文脚注8)Crane事件判決のルールは、タックス・ベネフィット・

ルールと一定の類似性があるわけであるが、(中略)我々が採用する分析と は異なっている。我々の分析は、控除が行われないような状況においてさえ 適用される。それは、返済されるべき債務やその後の消滅に注目するもので あって、控除することやその取り戻しに注目するものではない。

(39)(判決文脚注11)本件に係る法廷助言者として

Wayne G. Barnett

教授は、

[本件の]取引の債務の部分と資産の部分は、個々に説明されるべきである と主張している。彼の見解によれば、

1.4百万ドルでの当該資産の譲渡と、 1.4

百万ドルでの1.85百万ドルの債務免除が行われたものとされる。前者は、

5万ドルの譲渡損失を発生させ、そして、後者は、450,000ドルの通常所得 を実現させたとされる。[ただし、]通常所得に対する課税は、108条に基づ き被上告人の組合持分の取得原価を減少させることによって繰り延べること が可能かもしれないとされる。[108条に基づく課税の繰延べは、本判決時点 では、広範囲に適用可能であった。現在では、破産状態の債務者や農家に対 してのみ認められ、救済方法も本法廷が参照している既に廃止された規定で 適用されるものとは若干異なっている。(引用先編集者注)

   確かに、これは分析としては正当化できるかもしれないものの、IRS長官 によって採用されてきたものではない。さらに、内国歳入法が

IRS

長官に それを採用することを要求していることを示唆するような事情も一切ない。

[ただし、]Barnett教授のアプローチにおいても、リコース負債についても ノンリコース負債についても、等しく取り扱うことになろうことを指摘して おく。(後略)

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