もち大麦の摂取がBMI,腹囲周囲径,排便状況に及ぼ す影響
著者名(日) 内松 大輔, 中川 裕子
雑誌名 山梨学院短期大学研究紀要
巻 32
ページ 147‑151
発行年 2012
URL http://id.nii.ac.jp/1188/00000116/
1.緒言
日本人の食物繊維摂取量は20歳以上で1日当り 平均14.9g であり1),食物繊維の摂取不足が生活 習慣病の発症に関連することが危惧されている。
厚生労働省では,18歳以上の男女の1日の食事摂 取基準をそれぞれ19g 及び17g 以上と定めてい る2)。食物繊維の生体へ及ぼす影響として血糖値 の低下作用3),血清コレス テ ロ ー ル 値 の 低 下 作 用4),便通改善効果5)などが報告されている。大麦 は穀類の中でも食物繊維が多く含まれ,特に水溶 性食物繊維(β-グルカン)が米や小麦に比較し多 く含有している。2006年,米食品医薬品局(FDA)
は,大麦由来の水溶性食物繊維(β-グルカン)を 一定以上含む食品に対して,心疾患のリスクが低 減される旨の強調表示(ヘルスクレーム)を表示 することを認可している6)。また,これまでの研 究事例より,大麦の摂取により,総コレステロー ルや,LDL コレステロールが減少することが多
く報告されており7)〜11),大麦食はヒトの血清脂質 レベルのコントロールに有用であることが考察さ れている。また,近年の研究事例では,高β-グ ルカン含有大麦を用いた摂取試験により,BMI,
内臓脂肪面積及び腹囲周囲径の減少が報告されて いる12)。今回,我々は食物繊維含量の高い,もち 大麦を供試することとした。被験者は,女子学生 及び一般女性を対象とし,もち大麦の摂取による BMI 値,腹囲周囲径,排便状況に及ぼす影響を 調査した。
2.実験方法
1)被験者の選定及び調査時期
2011年11月に,Y短期大学の女子学生及び,一 般女性を対象に調査の主旨及び内容を説明し,調 査の同意が得られた9名を調査対象とした。2011 年11月下旬から12月中旬までの間に調査を実施し た。調査協力を求める際に,対象者には,調査の 内容ならびに個人情報の保護について,また,調
もち大麦の摂取が BMI,腹囲周囲径,
排便状況に及ぼす影響
Effect of the waxy Barley on BMI (body mass index), waist circumference, defecation habit
内 松 大 輔*1,中 川 裕 子 Daisuke UCHIMATSU, Yuko NAKAGAWA
概 要
もち大麦の摂取が BMI,腹囲周囲径,排便状況に及ぼす影響について検討した。精白米に もち大麦を50%配合して炊飯したものを女子学生6名及び一般女性3名に1日当たり2食(食 物繊維量で7.2g)摂取させ,BMI,腹囲周囲径,排便状況に及ぼす影響について検討した。
試験方法は,摂食期間の3日前から体重,腹囲周囲径,排便状況に関するアンケートを毎日記 入させ,被験食は2週間摂取させた。もち大麦の食物繊維の含有量は13.1%,もち大麦を50%
配合した炊飯品の食物繊維含有量は,2.4%であった。その結果,BMI,腹囲周囲径,排便状 況について,摂食期間前と比較し統計的有意な差異(p>0.05)は認められなかった。
短 報
*1 株式会社はくばく研究開発センター,山梨県南巨摩郡
富士川町青柳町3492
査開始後であっても,任意で調査を取りやめるこ とができることを充分に説明し,同意を得た上で 実施した。
2)試験日程及び食事管理
調査は全17日間(前観察期間3日間+摂食期間 2週間)行い,前観察期間の3日間は被験食を摂 取せずに記録日誌の記述のみを行った。摂食1週 目及び2週目は1日の中で被験食を食べて記録日 誌の記述を行った。被験食は,精白米にもち大麦 を50%配合して炊飯したものを主食として,1日 に2食以上,摂取してもらった。なお,摂取時間 や食べ方については,自由とした。試験期間中は,
食物繊維を強化した食品の摂取(サプリメント・
特定保健用食品など)を避けることとした。
3)被験食
試験に使用したもち大麦は,搗精機により原料 に対して75%の歩留に精白したものを使用した。
精白したもち大麦の栄養成分は,表1に示す。も ち種の大麦は,うるち種と比較し,食物繊維が多 く含まれる特徴を有する。被験食は,精白したも ち大麦を被験者が各自炊飯器で,白米に50%配合 して炊飯したものとした。被験食の栄養成分は,
表2に示す。被験食の食物繊維含量は,1食(150 g)当たり3.6g である。
4)調査項目
試験内容は既報5),13)の方法を参考に以下の通り に一部変更して調査した。調査内容は体重,身 長,腹囲周囲径,排便日数,食事摂取の有無,被 験食の摂食時間及び摂取量,腹部などの体調の変 化をアンケート形式で記述した。なお,腹囲周囲 径は3日おきの計測とし,その他の項目は毎日記 入した。排便日数は1週間あたりの合計日数で解 析した。体調などの変化については,各項目で自 覚症状が認められた場合に記録用紙に丸をつける 形で被験者に記録してもらった。記録項目は排便 後の爽快感,便の軟化,お腹が鳴る,腹部の膨満 感,放屁の増加,ゲップの増加,腹痛,食欲不振,
吐き気,生理中の自覚症状がある場合に記録を 行った。また,上記の調査項目とは別途に,被験 食の食味の好悪についてアンケート調査を実施し
た。
5)統計解析方法
試験結果は,平均値±標準偏差を算出した。統 計解析には,statcel 2を用いた。測定値の差異に ついては,Tukey-Kramer 法により多重比較検定 を行い,有意水準を5%以下とした。
表1 もち大麦の栄養成分(100g 当たり)
もち大麦(精白品)
エネルギー(kcal) 365 たんぱく質(g) 10.1
脂質(g) 1.7
炭水化物(g) 77.4 食物繊維(g) 13.1 ナトリウム(mg) 14
表2 白米食と被験食の栄養成分
(1食:150g 当たり)
白米食 被験食(もち大麦 50%,精白米50%)
エネルギー(kcal) 252 208 たんぱく質(g) 3.8 4.5 脂質(g) 0.5 0.8 炭水化物(g) 55.7 45.6 食物繊維(g) 0.5 3.6
ナトリウム(mg) 2 5
写真 もち大麦 もち大麦の摂取が BMI,腹囲周囲径,排便状況に及ぼす影響 148
見た目 香り 味 食感 総合評価
0% 20% 40% 60% 80% 100%
とても好き まあ好き
どちらとも言えない あまり好きではない 好きではない 3.結果
1)BMI,体重及び腹囲周囲径
BMI,体重及び腹囲周囲径について表3に示し た。平均値で僅かに低下傾向が認められたが,前 観察期間,摂食1週目,摂食2週目の間に,統計 的な有意差は認められなかった。尚,摂食2週目 において,BMI,体重については被験者9名中6 名が減少し,腹囲周囲径については7名が減少し た。
2)排便日数
排便日数について表3に示した。平均値で僅か に増加傾向が認められたが,前観察期間,摂食1
週目,摂食2週目の間に,統計的な有意差は認め られなかった。前観察期間に便通が無かった被験 者(1名)について,摂取期間に便通が毎日認め られる現象が確認された。
3)体調などの変化
体調などの変化については,1週当たりの丸の 数として,表3に示した。被験者によく確認され る症状としては,腹部の膨満感が挙げられ,統計 的な有意性は認められないが,摂食1週目に増加 し,摂食2週目は低下傾向が確認された。すっき りした,放屁の増加についても,腹部の膨満感と 同様な傾向が確認された。そのほか,便が柔らか くなった,お腹がよく鳴るについては,摂食期間
表3 もち大麦の摂取による被験者の BMI,腹囲周囲径,排便状況への影響
単位 事前1週間1) 摂食1週目 摂食2週目 P 体重 kg 54.07±5.48 54.02±5.61 53.74±5.36 NS BMI kg/m2 22.06±2.36 22.04±2.33 21.92±2.21 NS 腹囲周囲径 cm 80.99±5.00 80.50±5.04 79.98±5.16 NS 排便日数 日/週 5.71±2.36 5.78±1.30 6.00±1.32 NS すっきりした ○の数/週 0.51±1.01 0.22±0.67 1.22±1.79 NS 便が柔らかくなった ○の数/週 1.03±2.36 1.22±1.99 1.78±2.49 NS お腹がよく鳴る ○の数/週 0.78±2.33 1.56±2.46 1.78±2.77 NS 腹部に膨満感 ○の数/週 1.56±3.09 4.22±2.95 3.33±3.00 NS 放屁の増加 ○の数/週 0.00±0.00 2.22±2.99 1.00±1.58 NS 1)事前期間3日間を1週間平均に換算
平均値±標準偏差(n=9)で表示 P : p>0.05
NS : Not significant
図1 摂食初日の食味評価
見た目 香り 味 食感
総合評価
0% 20% 40% 60% 80% 100%
とても好き まあ好き
どちらとも言えない あまり好きではない 好きではない
を通して僅かに増加傾向が確認された。
4)食味アンケート調査
摂食1日目と摂食2週目終了後についての,食 味アンケート調査を図1及び図2に示した。総合 評価については,摂食1日目と摂食2週目終了後 を比較すると,「とても好き」と「まあ好き」の 好ましいとする評価が増加する傾向が確認され た。一方,食感については,摂食1日目と摂食2 週目終了後を比較する と,「あ ま り 好 き で は な い」と「好きではない」の好ましくないとする評 価が増加する傾向が確認された。
4.考察
もち大麦の摂取により BMI,体重及び腹囲周 囲径に有意な差を認めることはできなかった。既 報より,もち大麦を50%配合した米飯を1日に2 食,12週間摂取することで,内臓脂肪面積,BMI 及び腹囲周囲径が有意に減少することが報告7)さ れている。この報告では,皮下脂肪面積よりも内 臓脂肪面積が減少したことから,大麦の食物繊維 はメタボリックシンドロームに有効であることが 考察されている。大麦には水溶性食物繊維(β-グ ルカン)が豊富に含まれ,低 GI(glycemic index)
と呼ばれる食後血糖値の急激な上昇を抑制する作 用が報告されている。この作用は,大麦に含まれ る水溶性食物繊維の粘性により食品成分の消化吸 収を遅延させることによるものと示唆されてい
る。食後血糖値の急激な上昇を抑制することは,
血糖値が緩やかに推移するため満腹感を維持する だけでなく,血糖を下げるために放出されるイン スリンの量を抑えることにも繋がる。インスリン は,脂肪合成を高め,脂肪分解を抑制する作用を 有するため,インスリンの放出量が少ないこと は,組織での脂肪蓄積を抑制する効果が期待でき る。他の食物繊維素材として難消化デキストリン の 摂 取 事 例 で は,1日 に 食 物 繊 維 を9 g 摂 取 し,12週間の摂取により内臓脂肪面積及び腹囲周 囲径が減少することが報告14)されている。今回,
もち大麦の摂取により体重及び BMI は,被験者 9名中6名,腹囲周囲径は7名減少する傾向が確 認されたが,有意な差を得るまでには至らなかっ た。これは,2週間の摂食期間では既報と比較し て期間が短く,内臓脂肪への蓄積抑制効果の発現 が困難であったためと考察される。有効性の検証 には,更に長期による摂取試験が必要である。排 便日数については,平均値ではやや増加傾向に あったが,有意な差を認めることはできなかっ た。一部被験者(1名)において,前観察期間に 便通が認められなかった事例に関しては,排便日 数が増加する傾向が確認された。今回の被験者 は,排便日数が平均値で5.71日/週と排便状況に 関しては良好であるため,食物繊維の摂取量が増 加しても影響は少なかったものと考察される。食 味アンケートについては,摂食1日目と摂食2週 目終了後を比較すると,総合評価において好まし 図2 摂食最終日の食味評価
もち大麦の摂取が BMI,腹囲周囲径,排便状況に及ぼす影響 150
いとする評価が増加し,被験食の食味を好む傾向 が確認された。一方で,食感については,「噛み 応えがある」といった評価があり,白米食より,
より咀嚼する必要があることが示唆される。好ま しい評価として「プチプチしている」「モチモチ している」といった評価があり,全般的には,も ち大麦の食感が受け入れられているものと考察さ れ る。平 成21年 国 民 健 康・栄 養 調 査1)に よ る20 代,30代女性の1日当たりの食物繊維摂取量は平 均11.8g 及び11.4g であった。本試 験 食 の 食 物 繊維量は1食当たり3.6g であるため,2食摂取 することで7.2g 摂取と推察され,厚生労働省の 推奨する目標摂取量17g 以上が摂取できる。大 麦食品は,主食として毎日の食事に取り入れるこ とができるため,食物繊維源としては有用な食材 と言える。日本人の食物繊維摂取量の不足するな か,大麦の有用性について認識が深まることを期 待する。
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