2018年度 博士学位論文
重量コンクリートの遮蔽性能に関する研究
井 川 秀 樹
首都大学東京 都市環境科学研究科
目 次
第1章 序論 ··· 1
1.1 研究の背景 ··· 2
1.2 既往の研究 ··· 4
1.2.1 重量コンクリートに関する既往の研究 ··· 4
1.2.2 放射線遮蔽性能に関する既往の研究 ··· 5
1.2.3 水分移動抵抗性に関する既往の研究 ··· 6
1.2.4 自己治癒性能に関する既往の研究 ··· 8
1.3 研究の目的 ··· 10
1.4 研究の概要 ··· 12
参考文献【第1章】 ··· 14
第2章 重量コンクリートの放射線遮蔽性能の検討 ··· 21
2.1 はじめに ··· 22
2.2 X 線照射装置による試験方法の検討 ··· 23
2.2.1 実験方法 ··· 23
(1)使用材料と調合 ··· 23
(2)試験体の概要 ··· 24
(3)X 線デジタル画像の撮影 ··· 25
(4)遮蔽率の評価方法 ··· 26
2.2.2 実験結果および考察 ··· 28
(1)硬化コンクリートの性質 ··· 28
(2)X 線撮影結果および L 値の分布 ··· 29
(3)遮蔽率の測定結果 ··· 31
(4)線減弱係数 ··· 34
(5)質量吸収係数 ··· 35
2.3 実物大試験体を用いた X 線透過デジタル画像による コンクリートの X 線遮蔽性能 ··· 37
2.3.1 実験方法 ··· 37
(1)使用材料および調合 ··· 37
(2)試験体の概要 ··· 38
(3)X 線デジタル画像の撮影 ··· 38
(4)2 層明度分析によるコンクリート遮蔽率の評価方法 ··· 39
2.3.2 実験結果および考察 ··· 42
(1)コンクリートの性質 ··· 42
(2)X 線撮影結果および L 値の分布 ··· 43
2.4 まとめ ··· 47
参考文献【第2章】 ··· 48
第3章 重量コンクリートの水分移動抵抗性の検討 ··· 49
3.1 はじめに ··· 50
3.2 水分移動抵抗性に関する試験方法 ··· 51
3.3 供試体を用いた性能検討に関する実験概要 ··· 53
3.3.1 実験方法 ··· 53
(1)使用材料および調合 ··· 53
(2)コンクリートの練混ぜと供試体の製造 ··· 55
(3)表面透水試験方法 ··· 56
(4)細孔径分布の測定 ··· 56
3.3.2 実験結果および考察 ··· 57
(1)フレッシュコンクリート ··· 57
(2)硬化コンクリートの試験結果 ··· 58
(3)表面透水試験結果 ··· 60
(4)重量コンクリートの細孔径分布の評価方法 ··· 63
(5)細孔径分布の測定結果 ··· 64
(6)細孔径分布の測定結果と表面透水性の関係 ··· 66
3.4 実物大試験体を用いた性能検討に関する実験概要 ··· 69
3.4.1 実験方法 ··· 69
(1)使用材料および調合 ··· 69
(2)試験体の製造方法 ··· 70
(3)表面透水試験方法 ··· 72
(4)コアの採取および諸物性試験 ··· 73
(5)細孔径分布の測定 ··· 73
3.4.2 実験結果および考察 ··· 73
(1)フレッシュコンクリート ··· 73
(2)表面透水試験結果 ··· 74
(3)コア供試体の諸物性 ··· 78
(4)細孔径分布の測定結果 ··· 83
3.5 まとめ ··· 86
参考文献【第3章】 ··· 89
第4章 重量コンクリートの自己治癒性能の検討 ··· 93
4.1 はじめに ··· 94
4.2 コンクリートの自己治癒性能に関する国内外の研究内容 ··· 95
4.2.1 自然治癒に関する研究内容 ··· 95
4.2.2 自律治癒に関する研究内容 ··· 99
4.2.3 自動修復・その他に関する研究内容 ··· 106
4.3 蒸気養生方法が自己治癒性能に与える影響について ··· 109
4.3.1 実験方法 ··· 109
(1)使用材料および調合 ··· 109
(2)練混ぜ方法および養生条件 ··· 110
(3)自己治癒試験用供試体製造方法 ··· 110
(4)ひび割れ透水試験方法(自己治癒性能の定量化) ··· 111
(5)マイクロスコープによる観察 ··· 112
4.3.2 実験結果および考察 ··· 112
(1)コンクリートの試験結果 ··· 112
(2)透水試験結果 ··· 114
(3)マイクロスコープによる観察結果 ··· 116
4.4 繊維の種類が自己治癒性能に与える影響 ··· 118
4.4.1 実験方法 ··· 118
(1)使用材料および調合 ··· 118
(2)練混ぜ方法および養生条件 ··· 118
(3)自己治癒試験用供試体製造方法 ··· 118
(4)ひび割れ透水試験方法(自己治癒性能の定量化) ··· 118
(5)マイクロスコープによる観察 ··· 118
4.4.2 実験結果および考察 ··· 119
(1)コンクリートの試験結果 ··· 119
(2)透水試験結果 ··· 119
(3)マイクロスコープによる観察結果 ··· 122
(4)ハーゲン・ポアズイユ式による透水性の考察 ··· 124
4.5 繊維の種類と混入量が自己治癒性能に与える影響 ··· 127
4.5.1 実験方法 ··· 127
(1)使用材料および調合 ··· 127
(2)練混ぜ方法および養生条件 ··· 127
(3)自己治癒試験用供試体の製造方法 ··· 128
(4)ひび割れ透水試験方法 ··· 129
(5)マイクロスコープによる観察 ··· 129
4.5.2 実験結果および考察 ··· 129
(1)コンクリートの試験結果 ··· 129
(2)透水試験結果 ··· 130
(3)マイクロスコープによる観察結果 ··· 132
4.6 自己治癒におけるひび割れ内部の性状に関する検討 ··· 133
4.6.1 実験方法 ··· 133
(1)使用材料および調合 ··· 133
(2)練混ぜ方法および養生条件 ··· 133
(3)自己治癒試験用供試体製造方法 ··· 133
(4)ひび割れ透水試験方法 ··· 133
(5)マイクロスコープによる観察 ··· 134
(6)スキャナ画像および走査電子顕微鏡による観察 ··· 134
4.6.2 実験結果および考察 ··· 135
(1)コンクリートの試験結果 ··· 135
(2)透水試験結果 ··· 137
(3)マイクロスコープによる観察結果 ··· 139
(4)スキャナ画像および走査電子顕微鏡による観察結果 ··· 139
4.7 まとめ ··· 145
参考文献【第4章】 ··· 147
第5章 重量コンクリート製実物大試験体の耐荷性能の検討 ··· 151
5.1 はじめに ··· 152
5.2 耐荷性能に関する実験概要 ··· 153
5.2.1 実験方法 ··· 153
(1)使用材料および調合 ··· 153
(2)ボックスカルバートの製造方法 ··· 153
(3)外圧試験方法 ··· 153
5.2.2 実験結果および考察 ··· 155
(1)フレッシュコンクリート ··· 155
(2)コア供試体の諸物性 ··· 155
(3)外圧試験結果 ··· 156
5.3 まとめ ··· 162
参考文献【第5章】 ··· 162
第6章 結論 ··· 163
6.1 各章のまとめ ··· 164
6.2 今後の課題と展望 ··· 168
謝辞 ··· 169
- 1 -
第1章
序 論
- 2 - 1.1 研究の背景
放射線遮蔽コンクリートは, 日本建築学会JASS 5 22節「遮蔽用コンクリート」
1-1)に,
主として生体防護のために,ガンマ線(以下γ線)や中性子線などの放射線を遮蔽する目 的で用いられる鉄筋コンクリート造として規定されている。放射線遮蔽の方法は,
(1) 必要な部材断面寸法の確保による方法
(2) 鉄板などを用いて必要な部材断面寸法を補う方法
(3) 重量コンクリートによる方法
のいずれか,またはその組み合わせとされている。γ線の遮蔽性能は,遮蔽体の密度と厚 さの積にほぼ比例するため,特に部材厚さの制約を受ける建築構造物では重量コンクリー トが採用される。そのため本研究では,放射線を遮蔽するコンクリートとして,高密度の 骨材を用いた重量コンクリートとして進めることとする。
このように,重量コンクリートは建築構造物に多く用いられているが, 2011年3月に発生 した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故以降,特に東日本方面での使用が増 えている。その用途としては,事故により発生した放射性物質を格納するための容器
1-2)も その一つである。
放射能は原子力発電所施設付近だけではなく,地下水や雨水,広範囲に亘り土壌などを 汚染し,その影響は近隣の地域に留まらず,関東にまで及んでいる。そのため,それら汚 染水や汚染除去作業などで発生した土砂あるいは建造物の瓦礫などを長期に渡り封じ込め 処理として保管し,放射線を遮蔽する施設の設置が急務となっている。これらの処理には,
低レベル放射性廃棄物処分のための浅地中トレンチ処分,ピット処分,余裕深度処分,高 レベル放射性廃棄物処分のための地層処分などがあり,遮蔽性能を有するコンクリートの 適用が検討されている
1-3)。特に,最終処分までの間は放射性物質を一時保管する必要があ
図 1-1 放射線遮蔽容器の実施例
1-2)- 3 -
り,そのための放射線遮蔽容器の検討もなされている
1-4) 1-5)。なお,一般的に格納容器とは 原子炉格納容器を指すが,本論文においては,一時保管のための放射線遮蔽容器について も格納容器と称する。
このように,現時点では放射線遮蔽容器に用いられる重量コンクリートの開発が特に必 要であると考えられる。格納容器に求められる遮蔽性能には,放射線遮蔽性能,物質漏洩 防止性能,耐荷性能の3つが挙げられる。ここで,放射性遮蔽性能は主にγ線に対するもの であるが,レントゲン等で使用されるX線とは同じ電磁波の一種であり,波長領域もほぼ同 一である。そのため本研究では,γ線の代わりに遮蔽性能試験はX線にて行うものとする。
放射線遮蔽性能の中で,X線に対する材料の遮蔽率は,例えばX線源を用いて対象材料のX 線の透過量を線量計により測定する方法がある
1-6)。 しかし,X線源として放射性物質を用 いる場合は危険が伴い現場での適用は特に難しい。また,線量計による鉄筋コンクリート の遮蔽率の測定では,コンクリート部,鉄筋部,欠陥部など,遮蔽率の分布を正確に評価 することが難しい。さらに遮蔽率を算定するためには,線源の放射線量と材料の透過後の 放射線量を評価する必要があるが,それらは同時に測定できないため,通常は,線源の放 射線量を照射時間等から推定するためバラツキが大きくなる。そこで遮蔽率が既知の校正 板などを同時に写し込みそれとの比較で評価を行うことが有効であるが,大型の鉄筋コン クリート部材の評価では校正板の写し込みが困難である。一方,コンクリートはマトリッ クスと骨材からなり,それぞれの構成要素の遮蔽に対する特性が異なると考えられる。
従って,コンクリートの遮蔽性の特徴を把握するためには,X 線の照射とともにその厚さ による透過率の分布を評価する必要があるが,それに関する研究は見られない。例えば,
照射後のX 線画像をデジタル処理することで,透過したX 線の分布を分析することなどが 考えられる。
次に,物質漏洩防止性能を確保するためには,コンクリートの遮水性能が重要になる。
コンクリートの遮水性能は,耐久性の中で,中性化や塩害,凍害などの劣化現象の影響を 受ける水分移動抵抗性と大きくかかわり,コンクリート表層部の透水性で表すことができ る
1-7)。そこで本研究における物質漏洩防止性能については,水分移動抵抗性にて検証する。
また,放射線遮蔽容器として放射線の遮蔽性能と同時に重要なことは,汚染廃棄物の外部
への漏えいを長期間にわたり皆無にすることである。しかしながら,コンクリートにはひ
び割れが発生する危険性が有り,特に一時保管容器の場合,埋設せず地上に設置している
ケースが多く,湿度や温度など気象要因による体積変化などによってその危険性はさらに
高まる。ひび割れから容器内への水の侵入を回避するため,容器内部には防水塗装などが
施されているが,長期間のひび割れからの侵入水によって塗膜が劣化し,損壊する危険性
も考えられる。コンクリートに発生したひび割れには通常,エポキシ樹脂などを注入する
などの対策がとられるが,放射線の遮蔽を考慮すると,メンテナンスフリーであることが
望ましい。そこで,コンクリートの自己治癒性能によるひび割れの自己修復機能に着眼し
た研究
例えば1-8)などが重要である。
- 4 -
耐荷性能については,自己治癒性能は構造的なひび割れ幅の 0.2mm 以上では機能しにく いとされているため,そのひび割れが発生しないような構造とする必要がある。また,例 えば現状の放射線遮蔽容器は運搬が容易に行えるように薄くて小型なタイプが主流である が,限られた敷地内で大量の廃棄物を長期間に亘って安全に保管するためには,多層に積 み重ねて使用しても問題がないように,構造的耐力や水分移動抵抗性を兼ね備えた容器の 必要がある。さらに,放射能汚染環境下を想定すると,建造物の急速施工が必要で,その ためにはプレキャスト化は有用な手段となり,それらの躯体を PC 鋼棒などによる連結で一 体化して大型化し,継手部と内層に防水処理を施すことで,大型放射線遮蔽容器にできる というメリットがある。このようなプレキャストコンクリートでは,通常の部材厚で遮蔽 性能を高めるために,より密度の高い骨材が用いられるので,製造時の材料分離が大きく なるなどの問題があり,材料分離抵抗性を付与することも必要になる。
1.2 既往の研究
1.2.1 重量コンクリートに関する既往の研究
重量コンクリートの建設は,γ線の照射室や原子炉などの強い放射線を取り扱う施設が 急激に増加する1950年代から増えており,多くの研究がおこなわれてきた
1-9) ~ 1-11)など。基本 的には高密度の鉱石(重晶石,赤鉄鉱,磁鉄鉱など)を骨材としてコンクリートの密度を 高めたものが多い
1-12) 1-13)など。当初は国内産の鉄鉱石が用いられたが, 1980年代になると国 内産の鉄鉱石の枯渇と価格高騰のため,輸入骨材による研究が行われるようになった
1-14)1-15)など
。1990年代からは,産業副産物の有効利用を主眼とし,また,安定供給も加味する
上で,電気炉酸化スラグの利用などの研究が進められた。岩永らは,産業副産物の電気炉 酸化スラグを消波ブロックに利用する研究を行った
1-16)。肥後らは,電炉メーカーから出さ れる鉄鋼副産物などの非鉄鉱石系材料に着眼し,粒形や粒度,表面形状などが様々である 副産物を効果的に組み合わせた酸化鉄粉を用いた重量コンクリートについて研究している
1-17)