監査役監査制度の改革について (上)
その他のタイトル An Auditor's System in Companiesact of Japan
著者 高柳 龍芳
雑誌名 關西大學商學論集
巻 20
号 2
ページ 165‑187
発行年 1975‑06‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021083
( 1 6 5 ) 8 7
〔研究ノート〕
監査役監査制度の改革について(上)
高
柳龍 芳
目 次
1
監査役監査制度の変遷2
監査役の職能3 監査役と監査機構 4 監査役業務の内容
l
監査役監査制度の変遷( 1 )
明治期商法における監査役商法によれば,株式会社には,意思決定機関,業務執行機関および監査機 関の三つの機関があって,各機関の活動を通じて,会社経営の合目的的かつ 合法的な運営がなされている。意思決定機関には株主総会,業務執行機関に は取締役,監査機関には監査役がそれぞれ当る。このうち,監査役の機関と しての地位が確立し,その権限が明確になったのは,明治32年商法であると いわれているが,その源泉を探れば, ド イ ツ 人 ヘ ル マ ン ・ ロ エ ス レ ル
( H e r ‑
mann R o e s l e r )
の「商法革案」にさかのぼる。8 8 ( 1 6 6 )
監査役監査制度の改革について(上) (高柳)さて,明治時代に入ると,わが国では,明治政府の殖産政策に基いて,特 別の会社を設立するための立法化や,官営事業の民間への払い下げによる株 式会社の設立などを通じて,産業の発展に力が注がれていた。このような産 業界の発達に伴なって,明治政府は,わが国にも商法典の編纂を必要とした ため,上記のヘル・マン・・ロエスエルに商法草案を編成させ,明治1
7
年,同氏 から「商法草案(第一)」が政府に進達された。この草案の中に監査役の規定(草案では,頭取
D i r e k t o r
と取締役a u f ‑ s i c h t s r a t
とがあって,頭取が現在の取締役,取締役が現在の監査役に当る)があったので,これがわが国の監査役制度の初まりと云えよう。この商法草 案によれば(浦野幸雄著「株式会社監査制度論」
75 80
頁)監査役の職務は「頭取及ヒ発起人ノ業務取扱及ヒ殊二会社ノ創起設立上二於テ法律二背戻シ クル所ナキヵ否又業務取扱ノ申合規則ノ条件及ヒ会社ノ決議二適合スルカ否 ヲ監視シ且総テ其取扱上ノ錯誤ヲ検プクスル事(第
2 3 1
条①)」,「決算帳,比較表及ヒ利息利益ノ配当案ヲ検査シテ之ヲ株主総会二報告スル事(同条
②)」,「取締役員ハ何時ニテモ会社業務ノ景況ヲ審査シ会社ノ商業帳簿及ヒ 其他ノ書類ヲ展閲シ会社会計ノ実況ヲ検査スルノ権利アル者トス(第
2 3 4
条)」と定めている。
このように,監査役の権限は当初よりかなり強力かつ広いもので,頭取
(取締役)が法律・申合規則(定款)に適合しない業務執行をしないよう に,草案は,監査役に対し,すでに,取締役の業務監督と会計検査の両方を 行なわしめているのである。現在の業務監査と会計監査に当るものであると いえよう。ただ,監査役の選出は株主からなされ
(3
名以上5
名,任期2
年),機関としては強制的に置かれるのではなく,任意機関である点,いま だ制度として確立されたとは云えないであろう。その後,明治2
3
年に旧商法が公布されるが,監査役の規定はその趣旨にお いて,ロエスレルの草案を踏襲している。ここで,興味ある問題としては,監査役が任意機閲から必置機関に改められ,その員数が 2名以上となっ
t
し、一 とである。この法律は,明治2 4
年1
月1
日に施行の予定であったが, ドイツ監査役監査制度の改革について(上) (高柳)
( 1 6 7 ) 8 9
法を基礎としたために,外国の模倣に堕し,わが国固有の慣習を顧慮してい ないとの批判があり,そのために,一部の施行(明治26年7
月1
日)を除 き,明治32
年6
月1 6
日にようやく新商法として修正を重ねた上施行されるこ ととなったのである。この間,日清戦争前後の経済社会の諸事情の変化等,会社事業に与える影 響のため,会社の合併,買収,さらに破産が相つぐとともに,監査役への期 待が裏切られ,はやくも監査役の有名無実化の声が世上にささやかれるよう になった(久保田音二郎「監査役監査制度」 3頁)。
そこで,明治32年
6
月1 6
日から施行されることになった新商法において,特に注目されるのは,「会社の機関」において,「監査役」の款が新たに設け られたことである。監査役に関する主なる改正点は,監査役員数の削減(‑
人以上)と,任期を
2
年から1
年に改めたこと,ならぴに,取締役または支 配人の兼任の禁止等である。これは,新たな規定であって,監査役は独立不 偏の立場にたって,取締役の執行した業務および管理している会社財産を公 平かつ誠実に監査することを旨とすべき趣旨から定められたものである。また,会計監査の対象を,計算書・貸借対照表・利益処分案とする列挙主 義を排して,監査対象から洩れる書類のないように,・概括的に,株主総会に 提出する書類としたことは,監査役の監査範囲を拡大したものと考えられよ
う。
新商法施行後,約
10
年を経て規定の不備と解釈上の疑点が明らかになると ともに,日露戦争以後における泡沫会社の濫設と,大会社の破綻等によっ て,新商法改正が企だてられた。明治44年の改正法である。当時,監査制度に関する批判がかなり行なわれている。すなわち,監査役 が有名無実となっていて,その職責を充分に果していないという観点から,
監査役を株主から選任することをやめるという意見である。業務監査,会計 監査ともに形骸化しているため,広く,世間一般から適材を選ぶ必要がある とする。他方,
1 9 0 0
年の英国会社法の公隠会計士にならって,公認の会計専 門家を設けて会社の計算書類を監査させるべきであるとの意見も生じて来9 0 ( 1 6 8 )
監査役監査制度の改革について(上) (高柳) た。このような改正機運の中で修正を加えられて公布されたのが明治
4 4
年改正 法であった。この改正法は全般的には大巾な改正であったが,監査役制度に 関しての改正は殆んどみるものがなかった。みるべきものは,監査役の任期 を1
年から2
年に延長したことと,監査役による任務傲怠に関する損害賠償 を取締役との連帯債務としたこと位である。このように,学界や実務界においては,かなり論議されたにも拘らず,監 査役制度に関する改正にはみるべきものがなく,その後においても,監査役 監査は依然として実効なく,たえず,批判的論議は続くのである。
( 2 )
昭和期商法における監査役その後,わが国の経済事情は,第一次世界大戦を契機に,飛躍的発展をと げ,経済の構造的変革を生じたことから,昭和
1 3
年の商法改正となった。この改正法では,株式会社の領域において英米法等諸外国での立法の成果 を取り入れたのではあるが,監査役監査制度に関しては,監査役の資格につ いて株主であることを要しなくなったこと以外,会社の監査役に対する訴に 関する規定の整備等にすぎず,根本的な監査制度の改良はみられなかった。
このようにして,監査役の規定に関しては,いくつかの問題が提起されて 改正はなされてきたが,一般的にいって,わが国の監査役は,財界の知名 士,社会的名声ある者,全く監査役の職責と関係なく,専ら人事上の都合で なる者等,無機能化した有名無実の会社機関であるとの伝統的な宿命が,創 立期から大正,昭和の年代にかけてなお,除かれてはいない。
ところが,昭和
2 0
年の終戦を契機とする昭和2 5
年の商法改正において,監査役制度に重大な変革がなされた。明治政府の商法がドイツ法の影響を受 けて制度化されたのに代り,昭和
2 5
年の商法改正は,アメリカ法を大幅に導 入した結果,取締役会の規定ができ,業務腔査に関していえば,代表取締役 の業務執行についての監督をこの取締役会が行なうという形で実施されるこ ととなり,監査役は,会計監在のみを担当すればよいこととなったのであ る。監査役監査制度の改革について(上) (高柳)
( 1 6 9 ) 9 1
すでに,明治末期において,監査役監査の無機能化に対する批判として,会計監査に関しては職業会計人に担当さすべき必要性を強調する論議もなさ れており,昭和25年改正に際しても,監査役制度の廃止論が論ぜられたが,
新法における株主地位がさほど強力でないとの理由から,会計監査を職務と する監査役の存置がなお認められたのである。
他方,商法監査役制度の改正とは別に,外部からの職業監査人の必要性が 早くから叫ばれており,大正 3年には, 「会計士法案」の国会提案があり,
紆余曲折を経て,昭和
2
年に「計理士法」の公布となった。これがわが国に おいて初めての職業会計人の誕生なのであるが,その後の計理士の活躍は,必ずしも,監査とは深い関係を結ぶことなく発展してきたといえよう。
終戦後,昭和24年
7
月の「企業会計原則」の制定,昭和25年3
月の証券取 引法の一部改正によって,新たに,財務諸表監査実施の法的根拠が与えられ るとともに,昭和2 6
年7
月から,株式上場会社およぴ有価証券5 , 0 0 0
万円以 上公寡し,または1 , 0 0 0
万円以上売出した会社(いずれも資本金1
億円以上 に限り,かつ金融機関を除く)に対して法定監査が実施されたのである。こ のため,商法上の監査役による会計監査が,証証取引法上の公認会計士によ る会計監査と並存することとなり,その後に種々の問題を残すこととなった のである。( 3 )
現行商法における監査役制度制定の背景さて,昭和25年の改正は,監査役から業務監査の権限を奪い,専ら会計監 査のみをその任務としたのであるが,株式会社における全般的な監査制度へ の検討を行なった上での,監査役監査の有り方に関する抜本的改革ではなか ったために,伝統的に有名無実といわれた監査役監査を一層無力なものとし てしまったといえよう。
とくに,第一の欠陥と云えるものは,監査役の独立性に対する確保が不充 分だった点である。たしかに,監査役の選任及び解任権は株主総会に与えら れてはいたのであるが,投機株主の増大傾向は,株主をして取締役の会社経 営に無関心たらしめ,実質的には株式総会の権能が,取締役会によって牛耳
9 2 ( 1 7 0 )
監査役監査制度の改革について(上) (高柳)られる結果となり,取締役の業務執行を監査すべき監査役の選任及び解任さ えも取締役社長の思うままになり,監査役の監査機能の低下と無力化に一層 の力をかすこととなった。
つぎに,第二の欠陥としては,監査役から業務監督権を奪ったことであ る。一般的には,業務監督権を奪われた場合,会計監査の実効を期しがたい との説があり,必ずしも当を得た論議とは云い難いにしても,会計監査の専 門家ではない監査役に対し,会計監査の権限のみを与えたのでは,名目的な 監査となることは火をみるよりも明らかである。
さらに,このことは,同時に検討を進めていた,会隠会計士による証券取 引法上の財務諸表監査との調整を将来に持ち越したことになり,その結果は 監査役監査を中途半端なところへ追いやり,一層の無力化を促進したことに なったのである。証券取引法上の監査は,その後,活発な進展をみせ,昭和
3 2
年1
月1
日にはじまる事業年度から正規の監査として完全実施されるに及 んで,会計に関する監査にあっては,その基礎を着実にきづきあげてきたと 云えよう。他方,これにくらべ,もともと素人である監査役による会計監査 は,ついにその実を上げることができず,名実ともに必要性を失ない無意味 な存在物となったのである。また,監査役から奪った代表取締役の業務執行に対する監督権は取締役会 に移転したのであるが,この締取役会は,通常,•平取締役によって構成され ており,日常の業務においては,代表取締役の業務執行下に置かれる関係 上,現実の問題として,代表取締役の監督機関としての役割を果しえず,過 去における監査役の業務監査が無機能化していたことと同様の結果を来した のである。
さらに,今回の商法改正が行なわれた契機となったのは,昭和
3 8
年から同40
年にかけての経済不況の影響をうけて,中堅企業の破綻事件や不祥事が発 生したことによってである。ここで再び監査役監査のあり方につき批判がた かまり,公認会計士による監査制度との調整をはかるべく検討が開始された のである。監査役監査制度の改革について(上) (高柳) (
1 7 1 ) 9 3
昭和38
年の不況における多数の中小企業の倒産を皮切りに,昭和39
年から 同40年春にかけて,日本特殊製鋼,サンウェープ, 日本繊維工業および山陽 特殊製鋼等の重要企業が倒産した。とくに,山陽特殊製鋼(資本金7 3
億8
千 万円)の場合,七年十四期に至る粉飾決算が行なわれ, 倒産直前の決算期(昭和3
9
年9
月期)でさえ利益を計上して,年1
割の利益配当を実施してい る。同社はその次の期に会社更生手続開始に入るのであるが,その時にはす でに粉飾の材料も尽き,同社の累積赤字1 5 0
億円を超え,負債総額500
億円(うち
400
億円を棚上げ)に達していた。このような,大型企業の粉飾決算の結果が,社会全般(系列小会社,債権 者,株主その他消費者に至るまで)に及ぽす悪影響は計りしれないものがあ る。このような企業の粉飾に基づく倒産を契機として,株式会社における監 査制度の充実,拡張を企図するところの商法改正案の審議が昭和
4 1
年から開 始されたのである。昭和42年
5
月には,法制審議会の商法部会が「監査制度に関する問題点」を公表している。それによれば,監査制度の改正はA案とB案とに別れてお り
, A案は,取締役会が業務監査を行ない,監査役が会計監査を行なうとい う前商法の立前を維持しつつも,それぞれの監査機能を強化するという案で あり,
B
案は,監査役が会計監査ばかりではなく,業務監査をも行なうこと として,その監査機能を強化する案であった。なお,公認会計士の監査を受ける会社にあっては,この
A, B
案を含め て,次の四つの型が考えられよう(矢沢惇・鴻常夫「会社法の展開と課題」98
頁以下)。第一案は, 監査役についてはその資格を厳格にし, 公認会計士 に限定するというイギリス型である。第二案は,監査役を廃止して公認会計士一本とし,その責任や権限を規制 するというアメリカ型である。
第三案は,会計監査については公駆会計士に委せて,監査役は業務監査の みを行なう型である。
第四案は,公認会計士の会計監査の結果を監査役が受けて,それに監査役
9 4 ( 1 7 2 )
監査役監査制度の改革について(上) (高柳)が自分の意見を加えて総会に報告する型で,いわばドイツ型である。会計監 査は公認会計士と監査役の両方が行ない,業務監査は監査役が行なうとする
ものである。
さて,その後,昭和
4 3 年 1
月3 1
日に,このA
案とB
案のうち,B
案について審議を進め,この方針で商法改正をすることに決定した。
他方,法務省民事局参事官室では,この
B
案に基づいて審議を進め,昭和43
年9
月3
日に, 「株式会社監査制度改正に関する民事局参事官試案」と理 由書を公表している。この試案がククキ台となって,経済団休,学会その他 各界から具体的な問題についての意見を求め,その後,昭和44年 7
月1 6
日 に,法制審議会の商法部会は「株式会社監査制度改正要綱案」を決定したo ・
この要綱は
①監査役制度の改正
R大会社に公認会計士による会計監査制度を導入すること
⑧中間配当を可能にすること を骨子としている。
その後,この要網案に対して,これに関連する会社機関の改正,商法総則 の改正,計算規定の改正等々の付随する諸問題についての検討を重ねた結 果,数度に亘る要綱を公表しながら,法務省民事局は最終法律案として,
「商法の一部を改正する法律案」およぴ「株式会社の監査役等に関する商法 の特例に関する法律等」(特例法案), 「商法の一部を改正する法律等の施行 に伴なう関係法律の整理等に関する法律案」を作成し,昭和
48 年 3
月1 6
日に 閣議決定,同月20日国会に提出,昭和49年 2
月22
日一部修正の上,参議院に て可決,3
月1 9
日衆議院においても可決成立し,4
月22
日に公布されたので ある。この改正商法において,監査制度の改正にみられる大きな特長は,株式会 社の資本金の大きさによって監査の形態を変えたことである。 「特例法」に
よると,会社はつぎの三種類に区別される。
(a)資本金 5 億円以上の株式会社(大会社)一—•監査役は,'会計監査と業務
監査役監査制度の改革について(上) (高柳) ( 1 7 3 ) 9 5 監査とを職務とし,その他に,会計監査のみを職務とする会計監査人が設け
られる(特例法第
2章の適用をうける)。
( b ) 資本金 1億円超 5億円未満の株式会社(中会社) _ 監 査 役 は , 会 計 監 査と業務監査とを職務とし,会計監査人は設けられない(商法の規定のみ適 用 ) 。
( c ) 資本金 1 億円以下の株式会社(小会社)ー一揺 i 査役は,会計監査のみを 職務とし,会計監壺人は設けられない(特例法第
3章の適用をうける)。
2
監査役の職能( 1 ) 監査役の職務権限
業務の監査 昭和 25 年商法によれば,監査役の職務は会計監査に限定され ており,その職務遂行上とくに必要ある場合にのみ,会社の業務や財産を調 査することができた。業務監査については,専ら取締役会がこれに当ってい たのである。
現行商法においては,監査役は業務監査と会計監査の両方の権限を与えら れており,とくに「監査役ハ取締役ノ職務ノ執行ヲ監査ス」(第 2 7 4 条 1 項 )
という規定に基づいて,監査役には,取締役の職務執行の全般にわたる監査 権限のあることを明確にしている。
ところで,業務監査は,適法性監査と妥当性監壺の二つにわけられるが,
多数説にしたがえば,監査役の業務監査は適法性の監査を原則としており,
妥当性の監査には,取締役会が当るものと考えられている。しかし, 第 275 条の「監査役ニョル株主総会ヘノ意見報告義務」の規定の中には,著しく不 当な事項についての報告義務も明記されていることから,監査役には妥当性 監査の権限があると考えるべきであろう。
子会社の監査 産業の発展は,企業の結合をうながし,近時,結合企業の
進展はめざましい。この事実に直面すれば,企業全体の実体を確実に把握す
るためには,親会社の監査を行なうだけでは十分でなく,あわせて子会社の
9 6 ( 1 7 4 )
藍査役監査制度の改革について(上) (高柳) 監査をも行なう必要がある。証券取引法監査においては,すでに関係会社の監査として慣習化されては きたが,子会社といえども,法人格をそなえる一個の企業体であることか ら,親会社監査人の監査権が子会社にまで及ぶかどうかについては異論が生 じていた。このような異論を一掃する必要から,商法上において,子会社に 対する親会社監査役の監査権限附与が規定されたのである。このことによっ て,親会社取締役により行なわれる親子会社間の支配・指揮・管理力の行使 の結果生ずる複雑で不適切な業務,とくに,架空取引や内部取引からくる利 益操作の可能性を調査することができるようになる。
この親子会社関係は,その持株関係(資本参加関係)によって規定され る。すなわち,① 甲会社と乙会社が,過半数の参加,被参加の関係にある 場合,甲が親会社,乙が子会社となる。さらに,R ①により認識された甲 会社および乙会社が,または乙会社が,他の会社丙に過半数参加している場 合,丙は甲の子会社とみなされる。この場合の子会社は,株式会社か有限会 社でなければならない。
なお,従来からの証券取引法監査における支配従属会社は, 日本公認会計 士協会,大蔵省および経団連の三者による「申し合わせ事項」 (昭和
4 1
年9
月)によって,形式基準によらず,実質基準によって規定されている。これ によると,監査対象となる「実質的支配従属会社」の範囲は,被監査会社と の間に次の関係を有する場合とされている。すなわち,,( 1 )
発行済株式総数の 過半数の株式を実質的に所有する関係( 2 )
取締役総数の過半数を派遣し,継続 的な取引を有する襲係,(3
)発行済株式総数の100
分の10
を超える株式を実質 的に所有し,かつ売掛金,貸付金等の経済的供与額が,常時相手会社の負債 および資本の額の2
分の1
をこえている関係,(4)前号に準ずる関係で,実質 的に支配従属開係があると認めるに足る重要な関係がある場合,ただし,第 一号から第三号までに該当する事実があっても,被監査会社との間に実質的 支配従属関係がないことが明らかなものは除外される。このように,証券取引法監査では,親子会社間に実質的関係があることを
監査役監査制度の改革について(上) (高柳)
( 1 7 5 ) 9 7
前提としているのに比べ,商法においては,株式(出資口数)の過半数所有という形式的基準のみを唯一の基準として設定する。したがって,商法にお いては,親会社の監査役および会計監査人は,株式の過半数所有の子会社に 対してだけ調査権を行使しうるにすぎず,実質的な支配,従属関係について の顧慮をする必要がないのである。このことは,商法上の形式的基準に該当 しなくても,実質的には支配関係にあり,監査を必要とする場合であって も,その子会社を調査することができなくなることを意味する。事実上,大 きな粉飾は子会社を利用して行なわれるのが常識となっているに拘らず,形 式的基準のみに基づく判定基準では,極めて不充分な法規制といえるであろ
う。
つぎに,親会社監査役がその職務を行使するには,まづ,子会社に対し営 業の報告を求めることをその前提においた。子会社が,この要求に対して直 ちに報告をしない場合とか,その報告があっても,内容に関して疑わしい場 合にはじめて,子会社の業務およぴ財産の状況を監査することができるので ある。
企業経営の健全な発展は,親子会社が一休となって協力しあってこそ可能 である。そのためにも,親会社の監査役は取締役の業務執行に関し,その監 査権を子会社にまで十分及ぽせるのが理想であるにも拘らず,この点,親会 社の監査役による監査権はかなり制限をうけることになろう。さらに, 「子 会社ハ正当ノ理由アルトキハ第
1
項ノ規定ニョル報告マタハ前項ノ規定ニョ ル調査ヲ拒ムコトヲ得」(第27 4 条 1 3
第4
項)との規定により,親会社の監査 役の監査権は無条件には与えられていない。そのために,親会社監査役によ る子会社の監査をば,親会社取締役が阻止しようと思えば,子会社の取締役 にその旨を指示して,報告の提出または調査を拒否する措置をとらしめるこ ともある(大住達雄著「新しい監査制度の解説」7 3
頁),との批判も生じて いる。株主総会に対する意見報告と取締役会への出席 従来,監査役の監査権限 が会計監査に限定されていたことから,取締役が総会に提出する書類に関し
9 8 ( 1 7 6 )
監査役監査制度の改革について(上) (高柳)ては,会計に関する事項のみの調査結果の意見報告であったが,硯行商法で は,監査権限の拡大に伴ない,取締役が総会に提出するすべての議案と書類 を調査して,法令定款に遮反する事項または著しく不当な事項があると認め られる場合には,総会にその事実を報告することとなる。.
つぎに,従来においては,監査役の取締役会への出席に関しての明文がな かったために,取締役会への出席が可能であるかどうかについて必ずしも明 確な見解がなかったのである。しかし,此の度の商法改正によって,監査役 に業務監査権を附与したことに伴ない,取締役会に出席して意見を述べるべ き義務と権利が与えられることとなった。このことによって,取締役会にお いて遣法な決議が行なわれる場合,監査役は,事前にこれを防止することが できることとなったのである。
取締役の達法行為の差止 現行商法によれば, 「取締役が会社ノ目的ノ範 囲内二在ラザル行為其ノ他法令又ハ定款二遮反スル行為ヲ為シ之二因リ会社 二著シキ損害ヲ生ズル虞アル場合二於テハ監査役ハ取締役二対シ其ノ行為ヲ 止ムベキコトヲ請求スルコトヲ得」(第275条第
1
項)として,監査役に対し て,取締役の進法行為の差止請求権を隠めた。通常,監査とは,あることが発生した後にこれを検査して意見を述べるこ とをいうのであり,遮法性監査の場合にも,遮法な事が行なわれた後にこれ を摘発する監査であるという意味では,監査は事後監査が一般的である。し かし,現在の監査役の任務を考慮するならば,このような検視的な事後監査 だけでは,全般の利害関係者に被害を生じないよう予防すべき会社機関とし ての役割を十分に果しえなし・ヽこととなる。この意味から,監査役としては,
ある遮法行為が発生しないうちに,事前に予防策を講じ,発生した場合であ っても,その被害の拡大しないような予防措置をとる必要がある。以上のこ とから監査役に予防的監査が要請されることとなったのである。
取締役からの報告義務 この規定によれば「取締役ハ会社二著シキ損害ヲ 及ポス虞アル事実ヲ発見シタルトキハ直二監査役二之ヲ報告スルコトヲ要
ス」(第274条1
2 )
とあり,これは監査役の権限を直接に規定したものではな監査役監査制度の改革について(上) (高柳)
( 1 7 7 ) 99
いが,監査役の業務監査を容易にする目的から取締役への義務づけとして設 置されたものである。このような報告を取締役よりうければ,監査役は当該 事項をただちに調査し,その結果を場合によっては監査報告書に記載することになるであろう。
( 2 )
監査役の地位監査役の資格 商法によれば,監査役が取締役を兼任することを禁止して いる。これは,監査役が取締役を兼ねると自己監賽となり,監査の効果を挙 げえないことからきている。監査役は取締役の職務の執行を監査するのであ るから,身分的にも臓能的にも執行部門より独立していることが何よりも必 要なのである。このために,親会社監査役が子会社の藍査を行なうこともで きるとする規定が新たにできたことから,子会社の取締役を兼ねることも禁 止した。これも,子会社の取締役を兼ねることによって自己監査となること を防いだためである。
さらに,監査役は,支店・営業所などに関し管理権をもつ支配人や,その 他の使用人を兼ねることも禁止されているが,これもまた,この様な使用人 の行為を監査役が監査することを考えると,一種の自己監査査となるおそれ があるからである。この意味で,監査役はこれら被監査企業との関係におい て,局外的第三者の立場におかれることとなる。
ところで,商法改正の「提案理由」の中に,この法律案の要点の第ーは
「大規模の株式会社にあっては,株主をはじめ,従業員,取引先,下請業者 等の利害関係人の保護のため」, 経理の適正を期して,公認会計士の監査を 受けるものとして会計監査の充実をはかっている。したがって,特例法に基 づく会計監査人の独立性に関しては,商法上とくに厳格な規定は置かれてい なくとも,実践においては,おそらく,証券取引法上の身分規定の適用を受 けることとなるであろう。
商法上,業務監査と会計監査の両面に亘って権限を有する監査役の場合,
証券取引法上の独立性の規定である,役員・使用人・公務員•株主・債権債 務ならびに経済的利益供与関係にみられる厳格な禁止条項の適用はみられな
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監査役監査制度の改革について(上) (高柳)い。商法上も,大規模の株式会社が多種多様の利害関係者集団の保護をねら って監査制度の充実をはかりながら,監査役については,これを不駕独立性 の立場を持さねばならぬ公認会計士に比ぺて厳格な独立性の規定を欠くとの 謗りをまぬがれないであろう。この点,監査役の地位は,外部利害関係者を 保護する立場にはなく,株主の利益代表としてのみ監査を行なうにすぎぬと の誤解を生ずるであろう。
監査役の選任と解任 監査役の身分的独立性を強化するもう一つの方向と して,選任・解任の問題がある。監査役の選任は総会の普通決議,解任は特 別決議によって行なわれ,さらに,監査役の選任,解任については,まづ,
取締役会において監査役は意見を述べることができる。この意見申述にも拘 らず,選任,解任議案が株主総会に提出された場合には,監査役はさらに,
株主総会において意見を述べることができるのである。このように,監査役 の意見を無視しては監査役の解任,再選阻止をすることができないというこ とで,監査役の地位の保障をはかっている。
以上のように,監査役の身分的独立性を与えることによって,監査が行な われ易い体制とはなったが,わが国では,監査役侯補の選定を取締役会とく に代表取締役が行なうと•いう人事上の慣例があるため,総会が正常な機能を 果していないような場合には,監査役の身分的独立性が,必ずしも十分保障 されているとはいいがたい場合も多々あるであろう。
監査役の能力的資格 上記のように,監査役に関する身分的独立性の規定 は存在するが,監査能力に関する規定は何ら存在しない。監査役に関して は,学識経験や専門的能力の涵養を必要としないので,公認会計士監査のよ うに資格試験を経,種々の研修を踏まえ,そのもとでの経済的独立性や精神 的独立性をもちうるような体制とはなっていないのである。わが国における 監査役の伝統が有名無実であったことを考えるならば,監査能力の養成は今 後一層重大な課題とならざるをえないであろう。まして,監査制度充実の名 において立法化された以上,監査役に期待されるところは大であるといわざ るをえない。かつて,監査役にして優秀な人材があったとしても,その殆ん
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どは監査能力においてそうであったというよりは,むしろ,経営能力におい て取締役を指導し,助力を与えた意味で優秀な人材が存在していたと云える のであるから,真に監査能力に関して優秀な人材を監査役に選ぶためには,今後,かなりの時間をかさねばならないであろう。日本監査役協会や,その 他研究団体による今後の活動が期待される故んである。
3
監壺役と監査機構商法によれば,藍査役は「取締役ノ職務ノ執行ヲ監査」(第
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条第1
項) することを瞭務としている。取締役の職務には,業務執行の決定のみならず,法令,定款,株主総会や 取締役会で定められたすべての職務を含んでいる。通常は,取締役会におい て会社の業務方針が決定されると,これは,取締役会で選任された業務担当 取締役(社長,専務,常務など)が,多くの使用人を指揮して実施する。
さらに,業務執行とはいえないが,社長などの業務担当取締役は,株主総 会の決定に基く定款変更,営業譲渡,合併,解散,新株発行などの実行行為 をも行なう。
このように,取締役の職務は広範囲に亘るが,これらの職務のうち,会計 に関するものと,会計に閲しないものとに分けることができる。監査役は,
このような取締役のすべての職務を監査するのであり,取締役の会計に関す る職務の監査が会計監査と呼ばれ,会計に関しない職務の監症が業務監査と 呼ばれている。
このような監査役の広範な監査業務を実施するに当っては,まづ,監査役 の監査機構について検肘を加える必要がある。
( 1 )
監査体制について従来,監査役は他の会社の役員を兼任したり,別の職業に従事していた り,時には,名目のみの監査役にすぎない場合が多かった。これは,従来,
その職務が会計の監査のみ(大会社にあっては,会計監査は公認会計士のみ
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監査役監査制度の改革について(上) (高柳)にまかせられていた)であったり,実際には,監査を実施せずに済ませるよ うな風潮が強かった故である。
しかし,改正商法においては,会計監査のみならず,業務監査も監査役の 職務となるに及び,その果すべき責任は重要となり,仕事の範囲も広くなっ たために,非常勤では十分にその職責を果すことができなくなる。ただ単 に,取締役会や常務会への出席のみではなく,常日頃から,取締役の業務執 行ぶりに対しても十善の注意を払わねばならない。また,監査役の人数にし ても,大会社にあっては,一人や二人という小人数では監査業務に支障をき たすことが考えられる。非常勤監査役がいる場合であっても,常に,常勤の 監査役を置き,それらが相互に提けいしあって監査を実施するのがのぞまし いのである。
常勤の場合であっても監査役が日常の業務監査を行なうに当っては,種々 の調査活動を行なうとともに,それら調査資料の分析等に関し,これをたえ ず補佐するところの補助者を必要とするであろうC,監査役のための事務局の 設置は最も望ましく緊急を要するものと思われるが,内部監査機関がすでに 存置されている会社にあっては,これらとの調整を早急にはかることが今後 の課題となろう。
さらに,会社内部における補助者としての事務局の設置以外にも,会計監 究のために,会計的知識をもつ公認会計士や税理士を,また,業務監査のた めに,法律の知識をもつ弁護士等を補助者として助言を受けることのできる
ような体制を作る必要も生じてくる。
( 2 )
内部監査機関の利用監査役が,新たに,業務監査を実施するに当っては,上記のような補佐機 関が確立されることが必要であるが,硯況からいえば,補助者の充実は,経 費の負担,技術習得者の確保難などから,万全を期しがたい。そこで,直ち に考えられるのは企業に現存している内部監査機関の利用である。
従来より,会社には,内部監査課,監査部などの名称の下に,会計または 業務が社長の命令通りに合法的に,あるいは効率的に運用されているかどう
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かを,会社の使用人によって監査される機関が存在している。当初,内部監 査は,会計士監査の受入れ準備のために出発したといえるが,経営管理の必 要からその内容を充実させて,会計の監査のみならず業務の監査をも実施するようになってきた。
この内部監査機関は,社長の直接指揮下に属し,会社の被用者によって行 なわれる監査であることから,独立性の観点からみれば,社長から独立し,
社長の職務執行そのものを監査することを目的とした,監査役監査とは相入 れることのない異質な性質をもつものである。
理論的にみて,独立性保持の観点からは,社長の指揮下に属する内部監査 機関とは別個に,監査役直属の監査事務局をば,監査能力を十分に備えた人 員による強力な監査機構に作りあげることがのぞましいが,しかし,これ は,監査を受ける部門にとっては,二重の監査を受けることとなりわづらわ
しいし,.費用の圧迫という点からも現実的ではなくなる。
さらにまた,内部監査機関をば直接監査役の指揮下におくべしという考え 方もあるが,この方法は,内部監査が社長の業務執行を補佐することによっ て財産を保全し,業務能率を保進するという目的を果しえなくなることか ら,現実的には不可能と考えざるをえない。
そこで,現実的な解決としては,現存の内部監査機関は,その目的通りに 運用されると共に,それは,監査役監査にも利用されるという考え方であ る。内部監査の目的とする,不正の防止や摘発,あるいは業務能率の促進を めざして実施される内部監査人の態度は,監査役の行なう監査態度と何ら矛 盾を来すべきものはないのであるから,内部監査機関の実施した監査の結果 は,監査役監査の資料としても十分の役立ちを果しうる筈である。したがっ て,監査役監査と内部監査との協同監査は十分に成り立ちうるものである。
ただ,この協同監査という場合には,監査役は,直接,内部監査機関に対 し指揮命令できるのではなく,自己の監査の資料としては,取締役を通ずる ことによって,内部監査機関から求めることができるのである。
また,内部監査機関から,監査役が資料を求めうるとはいっても,この機
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監査役監査制度の改革について(上) (高柳)関は,取締役の指揮下にあるので,取締役の業務執行そのものを監査の対象 としなければならない監査役の監査の範囲からみれば限界があることを十分 聡識しなければならない。
さらに,内部監査機関による監査の結果や情報を利用するといっても,そ のまま利用するのではなく,これらの資料に誤りがあれば,その責任は監査 役にかかってくるのであるから,あくまでも自己の責任において利用すべき
である。
( 3 )
会計監査人と監査役との関係商法によると,大会社にあっては,監査役監査のほかに,公認会計士また は監査法人から派遭された会計監査人による監査をうけることとなる。
大会社では,株主,債権者,取引先,従業員その他の利害関係者が多く,
経理内容も複雑であるため,会社をめぐる経理不正や粉飾決算を防止するた めには,独立した専門家による計算書類の監査を受けるのがのぞましい。
そのために,大会社においては,監査役による会計監査と会計監査人によ るそれとが重複して行なわれることとなるので,実質的に統一するための制 度的措置が考慮されねばならない。法的にみれば,監査役は,会計監査人と は別個の立場から会計監査を行なわなければならないが,監査役は必ずしも 会計に関する専門家であるとは限らず,また会計監査人の監査とは無関係に 重複して監査を行なうのは能率的でもない。そのために,特例法は,監査役 が,会計監査人の監査の結果を利用することによって自らの監査となすこと を駆めている。
したがって,大会社の会計監査は,実質的には会計監査人が担当し,監査 役は業務監査を主たる職務とし,それに必要な限度に限って補足的に会計監 査をすることとなろう。そのためには,監査役は,平素から会計監査人と調 査状況について話しあい,誤解を生じないよう心がける必要がある。また,
営業年度の初めには,会計監査人から監査計画の概要について説明をうけ,
監査役の会計に関する監査計画についても説明をなし,その調整をはかるべ きである。
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このように,監査役は,つねに会計監査人と緊密な連係を保ち,会計監査 人の監査を活用するとともに,自らも必要ありと認めた場合には,独自に監 査を実施するなど気を配って,監査の成果を達成するように努力することで ある。4
監査役業務の内容( 1 )
監査計画の樹立監査役は,会計監査であれば,業務監査であれ,毎朝,ひと通りの監査を 実施するのが建前である。このような広範にわたる監査業務を合理的,かつ 効果的に実施するためには,堅実な監査計画を樹立して,予定通りの監査を 行なう必要がある。
そのためには,全般にわたる監査計画を,監査対象の重要性,相対的危険 性に応じて,適時に,かつ秩序整然と実施できるように樹立しなければなら ない。また,複数の監査役となる場合には,実施の分担が可能であるよう に,合議または協議すること、により,監査計画を決定する。複数の監査役が 常勤している場合には,一方の監査役が本社を担当し,他方の監査役が工場 または支店を担当するといったように,役割分担に基づいた計画を樹て,こ れを持ちよって総合的な立場から検討しあうことが大切である。また,常勤 と非常勤の監査役がある場合には,非常勤監査役の出社日を考慮に入れた上 で,監査計画を樹立しなければならない。
さらに,内部監査機関については内部監査計画が樹立されている筈である から,これとの十分な連絡を保って,重複監査とならないよう,あるいは,
内部監査機関では,手の届かない分野を考慮して効率的な監査を実施するよ う留意しなければならない。
また,会計監査人による監査計画がある場合には,これとも十分に連係す ることにより,無駄な監査業務が生じないよう,留意した計画を樹てる必要 がある。
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(2)
業 務 監 査 の 性 格
監査役の業務監査は,取締役の行なう職務執行について,法令定款への進 反や,著しい不当行為がなかったかどうかを対象としている。個々の法令に は遮反しないような場合であっても,その行為が著しく不当であると判断さ れるときには,調査の対象となりうるのであるから,監査役は商法を十分に 研究しておくとともに,定款所定の目的についても,これをしっかりと理解 し,取締役の行為が目的範囲内の行為であるかどうかを監視している必要が ある。
取締役に遣法または不当な行為が認められた場合には,監査役は,取締役 会または株主総会において意見を述べることができる。さらにすすんで,そ れ以上に,助言または勧告ができるかどうかについては明文上明らかではな いが,商法第 2 7 5 条ノ 2 に取締役に対する行為差止請求権を隠めている関係 から,その前提として当然ゆるされるものと考えられる。
したがって,監査役が,取締役の業務に適法性を欠く事実または適法性を 欠くおそれのある事実を発見したときには,その事実を指摘すると同時に,
これを改めるよう取締役に勧告をする必要がある。
さらにまた,監査役が,会社に将来大きな損害,または重大な事故などを 招くおそれがある事実を発見したときには,その事実を指摘して,これを改 めるよう取締役に助言すべきである。
以上のごとく,監査役は,取締役職務執行の適法性の監査とともに,妥当 性の監査に関してもこれを実施し,取締役に対し,助言および勧告を行なう べきであるが,さらにすすんで,監査役は,監査業務実施の過程で,会社業 務の適正な運営の合理化等について意見をもつに至った場合にも,会社の発 展に資するために,取締役に対し意見を具申することが望ましいのである。
( 3 ) 取締役会・常務会等に対する権限 '
監査役は,取締役会への出席権が認められているので,この場所において
は,必要に応じて意見を述ぺるとともに,議事の要領およびその結果が膜事
録に正確に記録されているかどうかを確めなければならない。
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また,一般には,会社での取締役会は形骸化してきているのか最近の傾向で あり,その結果,主要な意思決定は.,殆んど常務会で行なわれるのが普通と なっている。この常務会は商法上の機関とはなっていないために,ここへの 監査役の出席権限があるかどうかについては必ずしも明確になっているとは いいがたい。しかし,重要な最高意思決定が実質的に行なわれているこの常 務会に出席できず,ここでの審膜事頃について監役査が承知していないので は,監査役は自らの義務を果すことができなくなる。そこで,監査役は,経営方針決定の経過および業務執行の情況を知るため に,常務会その他重要な会議にも出席できるよう,取締役と協議する必要が ある。また,監在役が,常務会に出席しない場合であっても,監査役は,常 務会の審議事項についての報告をうけ,または,議事録およびその他資料等 の閲覧ができるよう取締役に要請する必要がある。
( 4 )
支店・工場等の監査藍査役は,本店のみならず,支店・工場・事業所等をできる限り多く調査 し,会社業務全般の実情を把握するとともに,業務が適正に行なわれている かどうかを確かめる。そして,その結果,勧告または助言すべき必要のある 場合には,取締役に対してこれを行なうのである。
( 5 )
株主総会取締役社長は,業務執行を担当するのであるが,さらに,取締役の中には,
定款変更・合併・営業譲渡•取締役と監査役の報覗の決定•取締役の競業取 引の承認•利益配当・計算書類の承認・解散等についてはさらに株主総会の 承認を必要とするごとき,特別の業務も含まれている。
そこで,監査役は,株主総会に提出されるこれらの議案および関係書類に ついては,招集通知を発送する前に閲覧をなし,逮法または,著しく妥当を 欠く事項が含まれていないかどうかを調査しておく必嬰がある。
( 6 )
経営・組織・人事制度等の監査監査役は,取締役の経営方針・計画または執行につき,法令定款遮反のお それ,または,著しく妥当を欠くおそれがあると認められるときには,取締
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監査役監査制度の改革について(上) (高柳) 役に対して勧告または助言を行なわねばならない。また,重要な組織および人事制度について,著しく妥当を欠く事実を発見 したときには,取締役に意見を述べるのが望ましいのである。会社に組織変 更や社内規定の変更がなされた場合には,監査役は,その内容の報告を受け
られるよう取締役に求むるべきである。
(7) 決裁書類の調査
監査役は,業務執行に関する主要な文書を適時,閲覧することが必要であ る。とくに,社長の決裁する書類には,外部取引としては,営業取引•財務 取引・設備取引•投資取引などのうち重要な取引事項が含まれており,会社 内部に対するものでも,専務・常務および各支店長等への重要な指示命令事 項を含んでいる。したがって,監査役は,取締役社長に対し,これら会社の 重要な業務の運営に関するすべての決裁書類の提出と閲覧を求めるべきであ
る。
さらに,社長を補佐するところの専務や,それぞれ担当業務を定められて これを分担しているところの常務の中には,代表取締役として対外的業務執 行を担当するものもあるので,監査役は,これらの重役に対しても決裁書類 の閲覧を求めて,その適法性と妥当性の監査を実施する。
また,監査役は,取締役の業務を補佐するところの,部課長や支店長の決 裁書類,契約書,取引文書を閲覧して,それら業務の適法であるかどうかに ついても監査しな゜ければならない。
( 8 )
財 産 取 引 の 監 査監査役は,会社財産の管理および取得・処分について調査し,もし,法令 定款または,社内規定に反する事実等を発見した場合には,取締役に対して
これを是正するよう勧告すべきである。
また,取引に関しては,たとえば,①重要または異常な取引の締結,②重 要な取引の条件変更,⑧取引の履行状況,④異常な手形の振出,裏書およぴ 第三者のための人的保証・物的保証その他の債務負担行為等の取引につい て,法令定款への遮反・社内規定への遮反等の事実を発見した場合には,た
監査役監査制度の改革について(上) (高柳) だちに是正するよう取締役に対して勧告すぺきである。
( 9 )
子会社等の監査( 1 8 7 ) 109.
新商法によって,親会社の監査役はその職務を行なうため必要あるときは 子会社の監査を行なうことができるようになった。子会社を利用することに よって,粉飾取引を行ない,みせかけの利益を計上することが過去において しばしば行なわれていたことから,子会社との取引については,とくに監査 役は留意する必要がある。
まづ,監査役は,子会社の取締役に対して定期的に営業経過の概要を報告 してもらうよう求める必要がある。
また,商法上の子会社といえない場合であっても,親会社の監査のため必 要な範囲で,親会社との取引関係・役員の兼任状況等によって,子会社に準 じていると認められる会社についても,その会社の取締役に対して,定期的 に営業の経過の概要を報告してもらうよう求めるのが望ましい。