精神発達遅滞児における出現頻度および空間配置情報の言己憶について
松村多美恵*・横川順子*・若松陽子*
(1995年10月13日受理)
Memory regarding the Frequency of Occurrence and Spatial Location
Information among Mental Retarded AdolescentsTamie MATsuMuRA, Jyunko YoKoKAwA, Youko WAKAMATsu (Received October 13,1995)
はじめに
我々は情報を記銘する際,適切な情報に選択的に注意し,それを音韻的,形態的,あるいは意味 的といった種々のレベルで処理し,リハーサルのような方略を用いるのが一般的である。このよう
な過程は注意や意識を必要とするため意識的処理と呼ばれている。精神遅滞児は注意資源(attentional resource)に限界があるため,こうした意識的処理に問題があるといわれている(松村1992,1995)。これに対し,ある事象がどの位置で出現したか,多く出現したか少なかったかといった空間配置情
報や出現頻度情報のような記憶過程については自動的処理と呼ばれており(Hasher・and・Zacks 1979,1984),注意や意識をほとんど必要としないため,遅滞児も遜色なく行えるといわれている。
本研究では,出現頻度情報と空間配置情報の記憶課題における遅滞児の成績を健常者と比較する
ことによって,自動的処理においては遅滞児と健常者に本当に差が認められないのかを検討する。自動的処理は知能のみでなく,年齢にも影響されないと指摘されている。出現頻度情報の記憶につ
いてHasher・and・Zacks(1979)は,幼稚園児,小学1年生,2年生,及び3年生に70枚のスライド(0〜4回現れる項目と初頭効果や親近効果を防ぐためのフィラー項目からなる色付きの絵)を見せた後,
自由再生課題と各項目についての出現頻度の判断(何回ぐらい出現したか)をさせた。その結果,自
由再生では加齢とともに再生される項目が多くなったのに対し,頻度判断においては年齢間に差が 認められなかった。このことは,子どもは加齢とともに,リハーサルや精緻化といった意識的処理
に関する方略を身につけていくのに対し,頻度に関する敏感さは変化しないことを示唆する。また,Ellis and Allison(1988)は,遅滞児と大学生を対象に150枚のスライドを呈示し,命名させた後,自
由再生課題と各項目についての出現頻度の判断をさせた。その結果,自由再生では大学生は遅滞児
*茨城大学教育学部障害児教育講座(〒310水戸市文京2丁目1−1)
194 茨城大学教育学部紀要(教育科学)45号(1996)
より有意に多くの項目を再生した。また頻度判断においてもわずかだが大学生は遅滞児より正確に
判断した。この結果は,Hasheτand Zacks(1979)の主張と異なる。このように,従来の研究では頻度判断についての結果が一致していない。そこで,本研究の実験1においては,この点について検討
する。その際,1項目つつ頻度を判断させる従来の方法は遅滞児にとって難しすぎたのではないかと考え,2項目を呈示し,どちらが多く出現したか選択させる強制弁別手続きを用いることにする。
空間配置情報の記憶に関して,Ellis, Katz, and Williams(1987)は第1実験で,3・4歳児,5・6歳
児,小学1年生,3年生,6年生を対象にバインダーに4枚の写真を貼付したものを10セット(合計 40枚)見せた後,自由再生課題と各項目がどこの位置にあったかの判断をさせた。その結果,自由 再生課題においては年齢差が認められた。位置記憶課題においては3・4歳児は課題の理解が困難で あったため成績が悪かったが,他の4群間には差が認められなかった。第2実験では,小学2年生,
6年生,大学生,高齢者,軽度遅滞児を対象に60枚の絵を見せ自由再生課題と位置記憶課題を行っ た。その結果,自由再生課題では年齢差・知能差があったが,位置記憶課題では年齢差・知能差は
認められなかった。Ellis, Woodley−Zanthos, and Du監aney(1989)は,もし本当に空間配置情報の記憶 に注意が必要でないなら,項目数を多くしても年齢差や知能差は認められないだろうと考え,第1実 験で,小学2年生,6年生,大学生,軽度遅滞児を対象にEllis, Katz, and Williams(1987)の実験より多い100枚の絵を見せた。その結果,やはり,位置記憶において年齢差も知能差も認められなか
った。しかし,第2実験では,ダウン症児の位置記憶課題の成績は大学生より劣ることが示された。また,前川・佐藤(1992)は従来の4マトリックスによる項目呈示に加えて9マトリックスによる項目
呈示を行ったが,両条件において遅滞児と健常者の成績に差は認められなかった。しかし,個々人
の成績を見ると,遅滞児の中には非常に成績の悪いものがいた。さらにKatz and Ellis(1991)の実験 においては中度遅滞者の空間配置情報の記憶は健常者より劣っていた。Hasher and Zacks(1979)によ ると空間配置情報の記憶は自動処理されるため知能差がないとされているが,Ellis, Woodley−Zan−thos, and Dulaney(1989)の第2実験,前川・佐藤(1992),およびKatz・and・Ells(1991)の結果から,中 度や重度の遅滞児は空間配置情報の記憶も悪いのではないかと考えられる。そこで,本実験Hでは,
遅滞児を軽度遅滞児と中度遅滞児に分けて空間配置情報の記憶を健常者と比較検討する。
実 験 1
1 目的
遅滞児における出現頻度情報の記憶について強制弁別手続きを用いて検討する。
2方法
1)被験者
被験者は大学生24名,および1養護学校とT養護学校の高等部に在籍する遅滞児23名である。各
群の被験者の構成は表1に示す。表1被験者の構成
人数
CA平均irange)
MA平均
irange)
IQ平均
irange)
健常者 24 22:0i20:11−23:06)
遅滞児 23 16:11
i15:06−18:04)
8:07 i6:00−12:04)
55.73 i40−81)
F1 出現頻度弁別用項目 F2
5枚 36檎 5枚
図1 学習期における刺激項目呈示順序の概略
表2 各出現頻度毎の刺激項目
頻度 単 語 絵
5 りんご 蝶
4 あり あさがお ぶどう はぶらし
3 くるま めがね たんぽぽ らっば らいおん ちゅうりっぷ
2 はな ふね たいこ とけい てぶくろ 手電車帽子 ひまわり たんばりん
1 かさ いちご うさぎ とんぽ 口 ばす きりん ながぐっ
0 あし すず ぞう ばけっ ばった ばなな
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2)材料
記銘刺激は単語リストと絵リストの2種類で,両リストとも被験者が命名することが可能と思わ れる見慣れた事物46枚から構成されている。なお,単語リストと絵リストの項目は重複していな い。各リストともに,46枚のうちの36枚は頻度に関する弁別用項目であり,9カテゴリーから2項 目つつ18項目の刺激が,1回から5回の頻度で出現する。これらの出現頻度は無作為に決められ,
呈示順序も5枚のブロック内に同一項目が現れないという条件を除いては無作為に配置された。残
りの10枚は初頭効果や親近効果を打ち消すたあの項目(フィラー)であり,リストの最初(F1)と最後(F2)に5枚つつ配置され,各項目の出現頻度は1回とされた。各リストの呈示順序は全被験 者に対して同一である。頻度弁別用項目とフィラーの呈示順序の概略を図1に,具体的な刺激項目 を表2に示す。表2において出現頻度0の項目は学習期には出現せず,再生期の強制弁別課題のみ
に用いられる項目である。絵リストは黒の線画,単語リストはひらがな書きとした。これらの刺激は学習用はスライドで呈示され,強制弁別用はカード(縦9.9cm×横13,8cmの白ボール紙)で呈 示された。なお,プレテスト用に10個のおはじきと縦9.9cm×横13.8cmの白ボール紙に書かれた
ひらがなのカード4枚(「はと」が3枚,「せんべい」が1枚)が用意された。
3)手続き
実験は個別に行われ,プレテストと学習期と再生期の3期で実施された。再生期においては,全
被験者に対し,項目の自由再生課題,続いて出現頻度についての強制弁別課題が行われた。(1)プレテスト(遅滞児のみに実施)
①10までの数の概念の有無:10個のおはじきを数える課題と,10個のおはじきの中から5個
とらせる課題を与えた。②「2つのうち多く出てきたのはどちらか」という教示の理解の有無:「これから見せるカード に書かれていることばを声に出して読んで覚えてください。」と教示し,プレテスト用の単語 カードを「はと」「せんべい」「はと」「はと」の順に呈示した。その後,「はと」と「せんべ い」のカードを呈示し,「2つのうちたくさん出てきたのはどちらですか」という教示を与え た。
①と②の両方が可能な被験者にのみ以下の実験が実施された。
被験者の半数は絵リストの学習期,再生期の後,単語リストの学習期,再生期の順に実施し,
残りの半数は逆に単語リスト,絵リストの順に実施した。
(2)学習期
絵リストの場合はその絵を命名し,単語リストの場合は読んで覚えるように教示した。1枚の
スライドの呈示時間は3秒,呈示と呈示のインターバルは1秒である。プロジェクターに電動シ
ャッターを取り付け,自動的に投影されるようにした。スクリーンの大きさは,縦54.7cm×横 79.Ocmである。(3)再生期
①項目の自由再生課題
学習期の終了直後に「今,見てきた絵(ことば)のなかで,どんなものがあったか自由に発表
してください。順番はどんな順番でもかまいません。」という教示が与えられ,3分間の自由再
生が行われた。② 頻度の強制弁別課題
2枚のカードのうち,スライドに多く出現した方を選択させた。その際呈示される2つの項目
については,学習期に呈示された項目と学習期に呈示されなかった項目(出現頻度0)の中から出現頻度の差が1,2,3となる対が各々3組,計9組用いられた。
3 結果 1)プレテスト
10までの数の概念の理解は遅滞児の全被験者が可能であった。「2つのうち多く出てきたのはど ちらか」という教示の理解については,29名中23名が可能であり,教示が理解できなかった6名
については以下の実験より除外された。2)項目の自由再生
自由再生課題における単語と絵に対する健常者群と遅滞児群の平均再生数と標準偏差を示したの が表3である。これについて2(被験者)×2(刺激)の分散分析を行った結果,被験者と刺激の
主効果が有意であり(F(1,45)・130.17,p<.01;F(1,45)=4.08, p<.05),交互作用も傾向が認 められた(F(1,45)・3.11,p<.1)。下位検定の結果,単語においても絵においても健常者群が遅 滞児群よりも有意に再生数が多かった(t・4.24,df・41.80, p〈.01;t・8,13, df=45, p<,Ol)。また,健常者群においては絵が単語よりも再生数が多かった(t=3.65,df・46, p<.01)が,遅滞児群にお いては単語と絵の再生数に差は認められなかった。
出現頻度別の平均再生率を示したのが表4である。これについて2(被験者)×2(刺激)×7(頻 度)の分散分析を行った結果,すべての要因において主効果が認められ,それぞれの交互作用も認
められた(被験者:F(1,45)=1321.75,p<.01;刺激:F(1,585)・9.35, p<.Ol;頻度:F(6,585)=22.22,p<.01;被験者×刺激:F(1,585)=7. 24, p<.Ol;被験者×頻度:F(6,585)=2。01, pく.1;
刺激×頻度:F(6,585)・3.97,p<.01)。
単語における頻度間の比較の結果,健常者群においてはF1の項目はF2,頻度2,3,4,5の項
目よりも成績が悪く(t=2.29,df=46, p〈.05;t・1,48, df=46, p<.1;t=2.76, df=46, p<.01;t・4.
35,df;46, p<.01;t・3.35, df・36.95, p〈,01), F2の項目は頻度4,5の項目よりも成績が悪かっ た(t=2.43,df=46, p<.01;t=1.77, df=36.15, p<.05)。また,頻度1の項目はフィラー(Fl, F2)
や他の頻度の項目より有意に悪く,(t・3.40,df・46,.ρ<.01;t・5.95, df=46, p<,Ol;t=5.06, df=46,
.ρ<.Ol;t・6.24, df・46, p<.Ol;t・7.11, df=38.74, p<.01;t・5.80, df・33.47, p<.01),頻度2の 項目は頻度3,4,5の項目よりも悪く(t・1.37,df=46, p<.1;t=3.11, df・46, p<.01;t=2.33, df
=36.34,p<.01),頻度3の項目は頻度4,5の項目よりも成績が悪かった(tニ1.82, df=46, p〈,05;
tニ1.30,df・38.35, p〈.1)。遅滞児群においてはF1の項目はF2,頻度3,4,5の項目よりも成績
力x 悪く (t=2.57,df=44, p〈.01;t=3.34, df=44,、ρ<.Ol;t=3.03, df;36.43, p<。01;t=2.35, df=28.
86,p<.05),頻度1の項目はF2や頻度3,4,5の項目より有意に悪かった(t・2.91, df=44, p〈.
Ol;t・3. 68, df=44, p<.01;t・3.34, df・36.24, pく.01;t・2.56, df・46, p<.01)。また頻度2の項目 はF2や頻度3,4,5の項目よりも成績が悪かった(t=2.91, df=44, p〈.1;t=2.35, df=44, pく.05;
t=2.18, df」44,、p〈.05;t=1.78, dfニ31.14, p〈.05)。
198 茨城大学教育学部紀要(教育科学)45号(1996)
表3 自由再生課題における平均再生数 表5 自由再生課題において最初に再生された項目
単語 絵
健常者 12.21(3.03) 15,29(2.70)
遅滞児 7.83(3.84) 8.04(3.26)
()内は標準偏差
表4 自由再生課題における各頻度の平均再生率
健常 者 遅滞 児
単語 絵 単語 絵
F1 40.00 36.67 20.87 17.39
F2 56.67 50.00 39.13 26.09
頻度1
16.67 60.42 18.48 28.26頻度2
50.83 68.33 26.96 37.39頻度3 61.17 83.46 44.96 53.70
頻度4
77.08 87.50 45.65 34.78頻度5
75.00 87.50 47.83 52.17健常 者 遅滞 児
単語 絵 単語 絵
F1 37.50 29.17 0 27.27
F2 20.83 20.83 28.57 18.18
頻度1
0 0 9.52 4.55頻度2
4.17 4.17 28.57 9.09頻度3
8.33 8.33 4.76 18.18頻度4
16.67 16.67 9.52 9.09頻度5
12.50 20.83 19.06 13.64(単位%)
表6 強制弁別課題における平均正答数
単語 絵
健常者 8.25(0.79) 8.54(0.59)
遅滞児 6.09(0.90) 6,30(1.89)
()内は標準偏差
絵における頻度間の比較の結果,健常者群においてはF1の項目はF2,頻度1,2,3,4,5の項
目よりも成績が悪く(t・2.00df・46, pく.05;t・3.40, df・46, p〈.Ol;t=4.84, df・46, p<.01;t・7.
02,df=46, p〈.01;tニ7.27, df=46, p<.Ol;t・5.83, dfニ46, pく.01), F2の項目は頻度1,2,3,4,
5の項目よりも成績が悪かった(t・1.52,df・46, p<.1;t・3.33, df・46, p<.01;t=5.92, df=46, p<.
Ol;t・6.22, df・46, p<.01;t・4.71, df・36.86, p<.Ol)。また,頻度1の項目は頻度2,3,4,5の 項目より悪く,(t=1.35,df・46, p〈.1;t・3.83, df・46, pく.01;t=4.25, df=46, p<.01;tニ3.29, df・
39.55,p〈.01),頻度2の項目は頻度3,4,5の項目よりも悪かった(t=2.75, dfニ46, p〈.01;t=3.
25,df=46, p〈.Ol;t=2.44, df=35.74, p〈.Ol)。遅滞児群においてはF1の項目はF2,頻度1,2,3,
4,5の項目よりも成績が悪く(tニ1.48,df・44, p<.1;t=1.70, df・38.94p<.05;tニ3.50, df=44, p〈.
Ol;tニ4.66, df・33.30, p<.Ol;t・1.90, dfニ30.71, p〈.05;t・3.09, df・27.03, p<.01), F2の項目は 頻度2,3,5の項目よりも成績が悪く(t=1.77,df=44,、ρ<.05;t=3.33, dfニ38.40, p<.01;t=2,25,
df・29. 96, p<.05),頻度1の項目は頻度2,3,5の項目より悪かった(t=1.33, df=44, p<.1;t・2.
93,df・44, p〈.Ol;t=2. OL df・32.21, p〈.05)。また頻度2の項目は頻度3の項目よりも成績が悪く
(t・1.99,df・37.44, p<.Ol),頻度4の項目は頻度3,5の項目よりも成績が悪かった(t・1.79, df・
44,p〈.01;t=1.31, df−44,、ρ〈,1)。
最初に再生される項目がFl, F2,頻度1,2,3,4,5のどの項目からのものかを単語と絵につい て健常者群と遅滞児群毎に示したものが,表5である。健常者群の単語においては,F1とF2を合わ
せて60%近くであり,そのほかについては頻度が高いほど最初に再生される割合が高くなっている。X2検定の結果, F1の項目の再生が他に比べて有意に高く(X2=3,25, p〈.01),頻度1の項目の再生 は有意に低かった(X2・2.00, p<.05)。遅滞児群の単語においては, F2と頻度2の項目再生は他に 比べて多い傾向がみられ(X2・1.87, p<.1;X2ニ1.87, p<.1), Flの項目の再生は低い傾向がみら れた(X2・1. 87, p<.1)。健常者群の絵においては, F1の項目の再生が他に比べて有意に高く(x 2・2,08,p<.05),頻度1の項目の再生は有意に低かった(X2・2,00, p〈.05)。遅滞児群の絵におい ては,F1の項目の再生は他に比べて多い傾向がみられ(X2・1.87, p〈.1),頻度1の項目の再生は 低い傾向がみられた(X2=1.74, p<.1)。
3)頻度の強制弁別
強制弁別課題における単語と絵に対する健常者群と遅滞児群の平均正答数と標準偏差を示したの が表6である。これについて2(被験者)×2(刺激)の分散分析を行った結果,被験者の主効果
が有意であった(F(1,45)=167.11,p<.01)。下位検定の結果,単語においても絵においても健常 者群が遅滞児群よりも有意に正答数が多かった(t=8.75,df・45, p<.Ol;t・5.32, df=26.07, p<.Ol)。強制弁別課題において単語と絵の絶対差別の平均正答数と標準偏差を示したのが表7である。絶
対差1に含まれる組み合せは0−1,1−2,2−3,絶対差2に含まれる組み合せは0−2,1−3,2−4,絶対差3に含まれる組み合せは0−3,1−4,2−5であり,満点は各3点となる。単語に
おいても絵においても絶対差1,2,3の問題ともに健常者群が遅滞児群よりも有意によい成績であ
った(単語:t=4.68,df・45, p<.01;tニ8.63, df・33.02, p<.01;t・2.97, df・28.24, p〈.01,絵:t
=3.29,df・38.29, p〈.01;t=3.33, df=25.30, p<.01;tニ4. 80, df=22, pく.01)。さらに,単語では,
両群において絶対差1の問題は絶対差2,3の問題よりも成績が悪かった(健常者群:t=4.21,df=
27,54,p<.01;t=3.76, df=31.46, p<.01,遅滞児群:t=4.33, df=35.39, p<.Ol;t・4,65, df・44
p〈.01)。また,遅滞児群においては絶対差2の問題は絶対差3の問題よりも成績が悪い傾向が認
められた(t=1.52,dfニ33.55, p<.1)。絵では,健常者群において絶対差1の問題は絶対差2,3の 問題よりも成績が悪かった(t・2.97,df・28.54, p〈.01;t=3.47, df・33, p〈.01)。また,遅滞児群 においては絶対差2の問題は絶対差1,3の問題よりも成績が悪かった(t・2.39,df・44, p〈.05;200 茨城大学教育学部紀要(教育科学)45号(1996)
t=1.9L df=38.29, p<.01)。
さらに強制弁別課題において単語と絵の組別の平均正答数と標準偏差を示したのが表8である。
0組(2つの項目のうちより低い頻度の項目の頻度が0回の組)に含まれる組み合せはO−LO−
2,0−3,1組(2つの項目のうち,より低い頻度の項目の頻度が1回の組)に含まれる組み合せ
は1−2,1−3,1−4,2組(2つの項目のうちより低い頻度の項目の頻度が2回の組)に含ま表7 強制弁別課題における絶対差別の平均正答数
健常者 遅滞児
単語 絵 単語 絵
絶対差1 2.38(0.65) 2.58(0,58) 1,48(0.67) 1.87(0.85)
絶対差2
2.96(0.20) 2.96(0.20) 2.17(0.39) 2.43(0.71)絶対差3
2.92(0.28) 3.00(0.00) 2.43(0.73) 2.00(0.98)()内は標準偏差
表8 強制弁別課題における組別の平均正答数
健常者 遅滞児
単語 絵 単語 絵
0組 2.92(0.28) 2.96(0.20) 2.87(0.34) 2.09(0.78)
1組
2.63(0.49) 2.75(0.44) 2.09(0.58) 2.13(0。74)2組 2.71(0.55) 2.83(0.31) 1.13(0.68) 2.09(0.93)
()内は標準偏差
れる組み合せは2−3,2−4,2−−5であり,満点は各3点となる。単語においては1組と2組絵 においては0組,1組,2組すべてにおいて,健常者群が遅滞児群よりも有意によい成績であった(単
語:tニ3.37,df=45, p<.01;t=8.65, df・45, p<.Ol,絵:t・5.11, df・24.79, p<.Ol;t=3.41, df・35.
15,p〈.01;t=3.51, df・28.65, p〈.01)。さらに,単語では,両群において0組の問題は1組と2組 の問題よりも成績がよかった(健常者群:t・2.51,df・36.55, p<.01;t=1.65, df・34.33, p<.1,遅 滞児群:t=5.45,df・35.2, p〈.01;t=10,76, df・32.20, p<.01)。また,遅滞児群においては1組の 問題は2組の問題よりも成績がよかった(t=5.Ol, df・45, p<.01)。絵では,健常者群において0組 の問題は1組と2組の問題よりも成績がよかった(t・2.10,df=32.37, p<.Ol;tニ1.42, df・35.22, p
<.1)。遅滞児群においてはどの組同志を比較しても有意な差は認められなかった。
4考察
Hasher and Zacks(1979)によれば,各項目の名称を記銘する際には意識的処理がなされ,各項目の
出現頻度については,自動的処理がなされると考えられる。そして,意識的処理については健常者 の方が遅滞児よりもすぐれているため,項目の自由再生成績においては両群に差が認められると仮 定される。一方,自動的処理は知能に関係しないと考えられるため,頻度の強制弁別の成績におい
ては両群に差が認められないと仮定される。本実験の結果,自由再生課題においては遅滞児より健常者の方が成績がよく,Hasher・and・Zacks
(1979)の仮説と一致した。また,健常者では絵が単語に比べて多く再生されたが,遅滞児では絵と
単語の成績の差は認められなかった。一般に絵はイメージと言語の両方で符号化(二重符号化)さ
れるため再生成績がよいとされている(Paivio 1971)。 Ellis and Allison(1988)の健常者と遅滞児お よび本研究の健常者では単語より絵の方が成績がよく,二重符号化説に一致した結果となっている。しかし,本研究の遅滞児においては単語と絵の成績に差が認められなかった。これは遅滞児におい
て絵の再生成績が伸びなかったためではないかと思われるが,その理由は明確ではない。出現頻度と再生率の関係をみると,両群とも刺激の種類にかかわらず頻度が高くなるにつれて再 生率も高くなっている。これは,刺激が呈示される毎に被験者がそれを記銘しようとした結果であ
ると思われる。同一頻度であるF1, F2,頻度1の項目の再生率を比較すると,健常者の単語においては,F1とF2の項目の再生率が頻度1の項目の再生率よりよい。これは,初頭効果と親近効果によ
るものと考えられる。しかし,遅滞児の単語においては親近効果しか認められなかった。健常者に は初頭効果が認められるのに対して,遅滞児には認められないという結果は,従来の研究結果と一
致する(松村1995,Turnurre and Bray 1985)。このことについては,健常者はリハーサルを積極的に行うのに対し,遅滞児はリハーサルをあまり行わないため,初頭効果が認められないと解釈され
る。しかし,絵においては両被験者群ともに,初頭効果も親近効果も認められなかった。頻度の強制弁別課題については,Hasher・and・Zacks(1979)の仮説とは異なり,遅滞児より健常者の
方が成績がよかった。また,健常者では絵においても単語においても,遅滞児では単語において項
目間の出現頻度の差が大きくなるにつれて成績がよくなった。しかし,遅滞児の絵においては2つの項目間の出現頻度の差とその弁別成績の間には関係が認められなかった。この点に関しては,上述 の絵刺激条件における従来の結果と異なるいくつかの点(遅滞児における絵の項目の自由再生成績 が伸びなかった,絵の自由再生成績において健常者で初頭効果も親近効果も認められず,遅滞児で も親近効果が認められなかった)を考え併せると,今後,絵刺激条件について,刺激や手続きを再
検討した上で,再度実験を行う必要があると思われる。実 験 ll
1 目的
遅滞児における空間配置情報の記憶について軽度遅滞児と中度遅滞児に分けて検討する。
2 方法
202 茨城大学教育学部紀要(教育科学)45号(1996)
1)被験者
被験者は大学生15名,および1養護学校とT養護学校の高等部に在籍する軽度遅滞児8名,中度 遅滞児7名である。各群の被験者の構成は表9に示す。
表9 被験者の構成
人数 CA平均
irange)
MA平均
irange)
IQ平均(range)
健常者 15 22:0 i18:10−23:08)
軽度 x滞児
8 17:00 i15:07−18:00)
9:06 i7:1Hl:11)
56.00 i50−67)
中度
x滞児
7 17:01 i15:08−18:03)
7:04 i6:09−8:04)
43.29 i40−48)
2)材料
被験者が命名することが可能と思われる見慣れた事物の15カテゴリーから4項目つつ,計60項 目のカラー絵カードが記銘刺激として用いられた。A4版のバインダーを開いた状態で左右のペー ジを2分割した2×2マトリックス内に絵カードがランダムに1枚つつ添付された。位置の記憶を テストする(再配置課題)ためにバインダーの最後の2ページは空白で2×2マトリックスの枠の みが描かれていた。再配置課題に使用される刺激として記銘刺激に使用された絵カードから20枚
が選択された。それらは記銘時に左上,左下,右上,右下にあった絵カードから5枚つつ選ばれた。また,再配置課題用の20枚のうち正答数が7枚以下の被験者に対して,課題が理解されているか
どうかを確認するために別に8枚の絵カードが用意された。3)手続き
実験は,個室で実験者と被験者が机をはさんで対座して行われた。実験は学習期と再生期の2期
で実施された。再生期においては,全被験者に対し,項目の自由再生課題,続いて再配置課題が行 われた。(1)学習期
「ここに絵カードが貼ってあります。順番に指で指しながら1枚つつ名前を言って最後のページ まで見ていってください。自分のペースで進めて行けばいいのです。ただし,前に戻って2度見る ことはいけません。」という教示が与えられた。被験者が絵カードの名称を言語化することができ
ない場合には実験者が名前を教え,被験者に復唱させてから次の絵カードに進んだ。またこれか
ら行われる実験が位置の記憶に関するものであることは告げられなかった。(2)再生期
①項目の自由再生課題
学習期の終了直後に「今,見てきた絵のなかで,どんなものがあったか自由に発表してくだ
さい。順番はどんな順番でもかまいません。」という教示が与えられ,3分間,自由再生が行われた。
② 再配置課題
再配置課題用のページが開かれ,「2番目の質問をします。これから見せる絵カードはさっき
見た絵です。4つの位置のどこにあったか思い出して置いてください。」という教示が与えられ た。実験者は学習期に呈示された絵カードから任意に選択された20枚の絵カードを1枚つつ被 験者に手渡した。20枚の手渡す順序はランダムであるが,同じ位置にあった絵カードが2枚以 上連続して手渡されることはなかった。テストされる絵カードおよびテスト順序は全被験者に おいて同一のものであり,被験者が命名できなかった絵カードはテストには含まれていなかっ
た。被験者が手渡された絵カードを配置したら,実験者はそれをチェックし,取り除いた後で,次の絵カードを手渡した。なお,正答率がチャンスレベルを越えなかった(20枚のうち7枚以 下の正答)被験者に対しては課題を理解しているのか否かを確認するために別に用意した8枚の 絵カードを用いて再度学習させ,再配置をさせた。その結果,8枚中6枚以上正しく配置できな
かった被験者については,結果の分析より除外した。3結果
1)項目の自由再生
各群の自由再生課題における再生数の平均と標準偏差を示したのが,表10である。また各系列 位置(初頭:1〜6ページ,中間:7〜24ページ,親近:25〜30ページ)毎の平均再生率と標準偏 差を示したのが表11である。健常者群は軽度遅滞児群や中度遅滞児群より有意に再生数が多かっ
表10 自由再生課題における平均再生数
健常者 軽度遅滞児 中度遅滞児
22.20(5.40) 13.75(5.47) 12.00(5.18)
()内は標準偏差 表11 自由再生課題における各系列位置の平均再生率
健常者 軽度遅滞児 中度遅滞児
初頭 41.40(13.94) 17.25(12.67) 16.42(10.91)
中間 32.53(8.79) 20.50(11.39) 15.85(7.75)
親近 44.20(16,30) 33.00(9.39) 34.14(20,03)
()内は標準偏差
た(t・3.40,df・21,.ρ<.Ol;t・3.98, df・20, p〈.01)。両遅滞児群の間には有意な差は認められな かった。
系列位置効果については,健常児群においては初頭位置と中間位置,親近位置と中間位置のそれ
ぞれで有意な差が認められ(t・2.01,df・28, p〈.05;t=2.36, df=28, p<.05),初頭効果も親近効 果も認められた。軽度遅滞児群および中度遅滞児群では,初頭位置と中間位置で有意な差がなく,204 茨城大学教育学部紀要(教育科学)45号(1996)
初頭効果はなかったが,親近位置の方が中間位置より有意に再生数が多く(t=2.24,df=14,、ρ<.05;
t・2.08,df・12, p〈.05),親近効果が認められた。
2)再配置課題
各群の再配置課題における正答数の平均と標準偏差を示したのが,表12である。また各群の再 配置課題における系列位置(初頭:1〜6ページ,中間:7〜24ページ,親近:25〜30ページ)毎 の平均正答率と標準偏差を示したのが表13である。正答数において3群間の差は認められなかっ
た。
表12 再配置課題における平均正答数
健常者 軽度遅滞児 中度遅滞児
14.90(2,39) 13.60(3.87) 1a 60(3.54)
()内は標準偏差 表13 再配置課題における各系列位置の平均正答率
健常者 軽度遅滞児 中度遅滞児
初頭 79.66(20.62) 91.50(14,72) 85.57(24.46)
中間 71.86(13.40) 65.75(21.01) 66.00(20.16)
親近 77.60(29,14) 53,87(33.09) 56,85(34.35)
()内は標準偏差
系列位置効果については,健常児群においては初頭効果も親近効果も認められなかった。軽度遅 滞児群および中度遅滞児群では,初頭位置の成績が中間位置や親近位置の成績よりよく(軽度遅滞
児:t=2。66,df=14, p〈.01;t=2.75, dfニ14, p<.05,中度遅滞児:t=1.51, df=12, p<.1;t=1.67,
df=12, p<.1),初頭効果が認められた。
4考察
自由再生課題において,健常者は軽度遅滞児や中度遅滞児より成績がよかった。遅滞児の自由再
生成績が健常者に劣ることは多くの先行研究でも指摘されている(Ellis, Katz, and・Williams 1987,Ellis, Woodley−Zanthos, and Dulaney l 989)。また実験1の単語における結果と同様,健常者では初 頭効果も親近効果も認められたのに対し,遅滞児では親近効果しか認められなかった。すなわち,意 識的処理であるリハーサルが影響する自由再生においては遅滞児と健常者間に差異が認められ,Hash−
er・and・Zacks(1979)の仮説が実証された。。
また,自動的に処理されるとされる空間配置情報の再生については3群間に差異が認められず,こ の点についてもHasher and Zacks(1979)の仮説が実証された。健常者の再配置成績においては初頭効
果も親近効果も認められないことから,空間配置情報の記憶については意識的処理を行っていない
ことが示唆される。しかし,軽度遅滞児と中度遅滞児においては,初頭効果が認められた。この点
については再検討が必要である。また,本研究結果から,空間配置情報の記憶は遅滞の障害の程度には影響されないことが示され
た。
ま と め
Hasher・and・Zacks(1979)によれば,意識的処理がなされる自由再生課題の成績は健常者の方が遅滞
児よりもすぐれているが,自動的処理がなされると考えられる各項目の出現頻度や空間配置の記憶 においては両群に差が認められないと仮定される。本研究では自由再生課題と同時に実験1におい て出現頻度情報,実験llにおいて空間配置情報の記憶課題を課し,健常者と遅滞児の成績を比較し た。その結果,実験1においても実験nにおいても自由再生課題の成績は遅滞児より健常者の方が
成績がよく,Hasher・and・Zacks(1979)の仮説と一致した。しかし,出現頻度情報の記憶成績において は健常者の方が遅滞児よりもよく,空間配置情報の記憶成績においては両群に差が認められず,Hash−er and Zacks(1979)の仮説と一致しなかった。
引 用 文 献
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