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教育実習における授業リフレクションの実践事例

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Academic year: 2021

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全文

(1)

――教育とか授業とかにおいては,「見える」

1)

と いうことは,ある意味では「すべてだ」といって もよいくらいである.(斎藤1969)

Ⅰ.はじめに

E. W.ア イ ス ナ ー が 提 唱 し た「 鑑 識 眼

(educational connoisseurship)」とは,子どもが 見せる複雑で偶然性を孕む活動の意味や価値を解 釈し,臨機応変に適切な指導を行う,教員にとっ て不可欠な力量である.とりわけ授業とは,さま ざまな形で表現される子ども自身を現在進行形で 意味づけ,働きかけ,学びを作り上げていく営み であり,勝見(2015)によれば,一つの授業は,

「鑑識眼」を通じた教師の見え方の総体であると もいえる.勝見は,近年,熟達教員が大量退職 し,若手教員が急激に増える過程で,専門職とし て児童を質的に捉える能力が十分に涵養・育成さ れないままキャリアを深める教員の増加は,教育 活動の質的低下につながると危惧する.

筆者は,本学の教員養成課程の担当者として,

ここ数年,おもに小学校での教育実習の巡回指導 にあたっている.しかし,どのような視点から何 を助言するかについては巡回担当の教員に委ねら れているため,試行錯誤を重ねながら独自に一定

の型を作ってきた.本稿においては,筆者のこの 授業実習における助言を事例として提示する.

授業実習における筆者の助言は,その場に生起 する子どもの事実から授業を見て,授業の改善に つながる示唆をもたらそうとする試みである.実 習生の授業を参観するとき,筆者は,指導案には 目を通さずに臨み,子どもと同じ状態で授業を体 験するようにしている.白紙の右上に机の並びを 写し,男女別に番号を振る.時間軸にそって,縦 に教師と子どもの言動を書き連ねていく.可能で あれば,子どもの記録には座席順,男女別の番号 を付しておく.授業の転換となる重要な言動等に はマークをつける.実習生の担当する,特に初回 の授業参観においては,授業後のふり返りで伝え るべき,すぐに改善を試みることができる指導技 術は何かと考え書き留めておくことも多い.こう してとった記録を基に,授業後には実習生とふり 返りを行う.さらに時間が許せば,助言を書面に して実習生にわたすこともある.

本稿では,公立小学校の第4学年で教育実習を 行った実習生Aの授業

2)

と,これに対して筆者 が書き留めてAに渡した助言

3)

「を示して考察を 加える.授業実習において観察されたAの授業 の変化と,Aに見えた子どもの事実との関係を言

教育実習における授業リフレクションの実践事例

-「見える力」の意識化に焦点を当てて-

A Case Study of Class Reflection in Teaching Practice:

Focusing on the Educational Connoisseurship 神谷純子

帝京科学大学 Sumiko KAMITANI Teikyo University of Science

要約: 本稿は,教育実習生に対する授業リフレクションの事例報告である.筆者が巡回指導の

ため教育実習校を訪問した際,二度にわたり参観した実習生による授業の様子,及びその後行っ

た授業リフレクションの実践を事例としてとりあげる.授業とは,さまざまな形で表現される子

どもの事実に基づいて現在進行形で学びを作り上げていく営みであり,教員が子どもの事実をど

う見るかが学びの質を決定する.筆者は,実習生がどの教科の授業を行おうとも,リフレクショ

ンにおいては実習生が授業中に児童の何を見ていたかに焦点を当てて検討を行う.本稿で示す実

習生の授業では,筆者が二度目に参観した実習後期の授業において,児童の学びを個々のレベル

で見て対応していたことがリフレクションを通じて明らかになった.

(2)

語化して明示することで,Aの実習における学び はさらに深まるであろう.ひいてはこの考察が,

実習生の授業において鑑識眼の涵養をもたらす一 助となればと思う.

Ⅱ.実習事前面談での指導

本学では,巡回指導を担当する実習生と実習前 に面談を行う.筆者は,この面談の際に,授業実 習についての筆者の基本的な考え方を実習生に伝 えている.以下は,面談時に実習生に渡すレジュ メの一部を加筆修正したものである.

――どの教科でも,わたしが授業参観で見るの は,あなたの授業で「子どもたちが学んでいるか どうか」です.授業が終わったときに,「今日の めあて」をクラスの子どものどのくらいが達成で きたかが勝負.ひとりひとりの子どもの学びをよ く見てください.次の授業をつくるときには,そ の達成度を踏まえて,授業のめあてを設定しま しょう.

①(略)

②観察実習は,視点を持って臨みましょう.

③自分が授業をするときには…,

Ⅲ.実習生Aの授業と授業後のふり返り

Aは本学学校教育学科3年次に在籍していた年 度の10月末より4週間,公立小学校4学年の学 級にて教育実習を行った.筆者は,実習期間に2 回,Aの実習校を訪問し,実習生の授業を参観し たのち1時間程度のふり返りを行い,そのコメン トを書面にまとめてAにメールで送った.

1.1回目の参観(小学4年,算数)

a.本時の指導案(抜粋)

単元名:「広さを調べよう」

本時の目標:広さの比べ方を考えよう 展開:

b.本時の授業に対するコメント

――児童の「授業に参加しよう」とする意欲が溢 れる授業でした.前向きなエネルギーをどうコン トロールして授業を作り上げていけるか,大きな 可能性のある集団だと感じました.後半2週間,

教師としてのAさんの成長が楽しみです.

授業後のふり返りでは散漫なコメントになりま

・ 他の授業の参観時は,「自分が担任として指 導・授業をするんだ」という意識で臨みましょ う.学ぶ視点が増え,日誌の記述も密度が違っ てきます.

・ 以下の点をつかむこと.1時間の授業でどの くらいの量を扱うのか,どのような活動を組 み合わせるのか,各々の活動にどのくらい時 間がかかるか.←子どもの発達段階や学習到 達度によって異なります.実習に行かないと 見えない部分です.

・ 実習中は,少なくとも,学級の平均的な子が ついてこられる授業をめざしましょう.

・ できる子数人で授業を進めない.「正解」をた ずねると,できる子だけが答える授業になり ます.それを避けるために,以下が重要です.

・ 子どもが「どこでつまずくか」「わからなくな るか」を想定し,その「ひっかかり」を越え る方法,すなわち,解き方・考え方を共有す るスモールステップを組みましょう.

・ 解き方・考え方を共有するために,たとえば,

子どもの発話を復唱する,ことばを補って言 い換える,要約する,つぶやきを拡声して学 級全体に伝えるなどの方法を活用すること.

これらを他の子どもにさせてもよい.

・ 普段,担任の先生が授業で活用している活動形 態(班やペアなど)があれば,活用しましょう.

時間 ○学習活動・予想される児童の反応 導入

5分 ○日付・単元名・めあてを書く.

p.137の図をノートに貼る.

めあて

㋐~㋓の4つのじん地のくらべ方を考えよう.

問題 把握 10分

○㋐~㋓でどれが一番広いかをノートに書く.

○なぜそう思ったのかを書く.

○なぜ比べられないかを考える.

C:マスの大きさが違うから.

  形が違うから.

自力 解決 10分

T:どうすれば比べられるかな?

C:マスの大きさが同じなら.

○ノートに貼った図に線を引かせたり書きこむ.

 自分のノートに考えを書かせる.

発表 比較 10分

○比べ方の考え方を発表する.

C:1マスを正方形に区切った.

○児童全体に同じか尋ねる.

T:ほかの意見はあるかな?

C:1マスを1cmの正方形として数えた.

○ 切ったり・重ねたりすることには限界があるこ とを伝える.

 例をあげる まとめ

10分 ○面積・cm2の意味を知る.

まとめ

たてと横に広がる広さを面積という.

面積は一辺が1cmの正方形が何こ分あるかで 表せる.

また,面積を表す単位は1cm2という.

T: ㋐~㋓の図を一辺1cmの正方形に分けたら それぞれの面積は何cm2になるかな.

(3)

したが,どれかひとつ,確実に実行してみてくだ さい.それで授業が変わるという手ごたえがあれ ば,実習において貴重な学びとなると思います.

(1)授業構成

・ 本時の「めあて」に具体性をもたせてくださ い.授業が終わるとき「今日は何を学んだ の?」と聞かれて,児童が口々にこの「めあ て」を答えてくれるように授業を組み立てて いきます.

・ どの教科でも,中心となる発問はことばのひ とつまで練って固めておくこと.というより も,基本的な発問は教師用マニュアルなどに 出ているはずです.それを,担当する子ども たちとの授業を思い浮かべて,自分用になじ ませておくこと.

・ 指導案は,発問(作業指示)と活動・反応を セットで作成するとよい.〇印の部分に発問

(作業指示)を入れてみてはどうでしょうか.

(ただし,指導教諭の指導にしたがってくだ さい.)

今日の授業では,「自力解決」での発問がメイ ンの発問になります.

〇 うまく重ならないじん地は,どうすれば広さ を比べられるだろう?

←ここがポイント.どんなことばを使うか,よ く考えておく.

・ 指導案を作ったら,〇印の発問(作業)をた どり,授業を頭の中でシミュレーションしま しょう.最後,児童は今日の「めあて」にた どりつきますか?

(2)授業のめりはりをつける

・ 先生や他の児童の話・発表を聞くときや,

ノートなどひとりで作業をするときには,口 を閉じる(口を閉じるまで待つ)ことを徹底 するとよい.

・ 全体の前で,個別のつぶやきや質問に応じな い.教師が,個別のつぶやきに応じて様々な 発言をすると,授業の道筋が児童に見えなく なる.

・ 授業の流れから,個別のつぶやきや質問に対 する教師の答えを全員に聞かせる必要がある ときには,いったん全員に口を閉じさせて聞

かせる.全員に聞かせる必要がないときは,

机間巡視の際などに,そばに寄っていき個別 に対応する.

(3)(特に作業の)指示を明確に出す

・ 作業を始める前に,何を,どうするか,終 わったらどうすればいいかを端的に伝える

(大学の授業でやりました).

・ 指示を理解したか確認して(質問があればこ の段階で解決しておく),作業をスタートさ せる.

・ いったんスタートしたら,全体で作業を止め て指示を変えたり増やしたりしない.

・ 作業に集中できる時間は,5分から長くて 10分程度.作業の難易度と量を児童と時間 に合わせてコントロールする.

・ 作業中の机間巡視は,①個別のフォローが必 要な児童,②次の展開に発表してほしい児童 にピンポイントで声をかける.赤ペンを持っ て机間巡視し,花丸をつけながらノートの内 容をチェック→発表してほしい児童に目星を つけ,「これ,このあと発表してくれる?」

と声をかけておく.

・ めやすにしてある児童が作業を終える頃,

「そろそろ進むよ」と切り上げる.「まだの人 は,つぎのときはがんばろう.今は,一緒に 進もうね」等,フォローを入れる.

(4)発表

・ 「発表のときには,口を閉じて聞く」を徹底 する.

・ 児童の説明を教師がわかりやすく復唱する.

(「同じ」と答えた他の児童にもう一度説明さ せてもよい.)

・ 「同じ人?」→挙手するだけでも,授業への参 加度があがる.「少し違う,つけたしできる 人?」「違う人?」

・ 発表された内容は,何らかの形で黒板に残 す.←ここから,まとめにつながる共通点を 児童のことばで出させる(教師より友達の説 明のほうがことばの「レベル」が近いため,

特に遅れがちな児童には理解しやすい).今

回の授業であれば,「ます・ブロック」「くぎ

る」等は,まず児童のことばで出させて,ま

とめの際に「これが面積をくらべるときの単

位」と定義に結び付ける.

(4)

2.2回目の参観(小学4年,国語)

4)

a.本時の指導案(抜粋)

単元名:「くらしの中の和と洋」

本時の目標:「中」の文章を接続語に着目し,

3つのまとまりに分ける.

展開:

b.本時の授業に対するコメント

――授業は,演劇のようなものです.教師(監 督)が,指導案(脚本)に基づき,児童(役者)

をどう演じさせてひとつの劇を作り上げるか.脚 本が同じでも,監督と役者の組み合わせによっ て,演じられる劇は二度と同じにはなりません.

本時案は特段良くできているわけではありません が,今日実演された授業は,実習生としての実直 さが感じられるフレッシュな仕上がりでした.よ くがんばりました.

ハイライトは,S児でした.ノートをとるのは 苦手なようで,教科書を目で追うこともせず,

ずっと宙を見つめていたS児が,まとめの段階に なって手をあげて答え,ずっと授業についてきて いたことがわかりました.また,手をあげたS児 を見逃さず,絶妙のタイミングで指名できたこと もよかった.授業におけるこのような瞬間は,な かなか出会うことができないものです.

このことも含め,今回の授業では,Aさんが子 どもたちと築いてきた関係が授業に透けて見えま した.範読のあとの児童の拍手,Aさんの説明や 指示に対する児童のうなずき,まとめの囲みが歪 んでしまったとき「曲がってるよー」と言ってく れた子,それに対して「いいじゃん,そんなの!」

とつぶやいた子もひとりではありませんでした.

監督としての授業づくりの腕は,ライブでしか 磨けないものです.今回の授業において,まとめ に向かって様々なタイミングにアドリブで対応す ることができたのは,ひとつには,本時のねらい が明確であったことが大きかったと思います.

授業の山場のひとつは,二つ目のまとまりにつ いて,女児⑤が「次に」の語に着目した発言をし たとき,「いい発見だね,次のまとまりの始めに 着目したんだね」とピン押ししたことです.もう ひとつは,三つ目のまとまりの区切りを見つける ために,教科書60ページを開かせて「見覚えの ある言葉がないかな?」と問いかけたことです.

このときには,気づいた児童から「あっ!」とい う声があがりました.このふたつの(指導案には ない)アドリブのピン押しがあったから,「どん な手がかり・ヒントでまとまりをつくるか」とい うまとめの段階に至ったときに,多くの児童は,

自分のことばでまとめを書き始めました.

こうしたプロセスは,大学で指導案を作成し模 擬授業をしていたのでは体験できません.実習で 児童を前にライブで授業をやって初めて学ぶこと ができます.この点において,Aさんは実習を通 じて貴重な体験をされたと思います.ぜひ自分の 言葉で,今回実習で学んだことを意識化しておい てください.

以下,授業づくりの技として,今後の課題と思 われる点を挙げておきます.

(1)板書計画・ノート指導

ノートに書いた「学習(思考)の跡」を消させ ないこと.板書・児童のノートは,後で見直した ときに授業の流れを思い起こすことができるよ う,また,自分のことばで書いた自分の考えは残

時間 ○学習活動 導入

5分 ○前時の振り返り

○本時の確認

・めあてを書く.

「中」の文章を3つのまとまりに分けよう.

展開

35分 ○③~⑬段落の範読をする.

○「中」を3つのまとまりに分ける.

・どのようにして分けたのか理由を書く.

C1: ④の最初に「まず」があり,新しいことを 説明しようとしているので,③が1つ目の まとまりです.

C2: ⑪の最初に「次に」という言葉が出てきて いるから.その前までが二つ目のまとまり です.

C3: 「次に」が⑪の最初にあるから,⑪からが3 つ目のまとまりです.

C4: ④や⑪にある「考えてみましょう.」も話題 を変えているかも.

○3つに分けたまとまりの小見出しを考える.

C5: 1つ目は③です.小見出しは「和室と洋室 のちがい」です.

   2つ目は④~⑩です.小見出しは,「和室と 洋室のすごし方」です.

   3つ目は⑪~⑬です.小見出しは「和室と洋 室の使い方」です.

○ 分けた理由,どんな言葉に注目したかを発表す る.

まとめ

5分 まとめ

・ 「まず」「次に」「考えてみましょう.」など に注目するとまとまりに分けられる.

・ 小見出しを付けると何が書いてあるかよく 分かる.

○次時への見通し

(5)

しておけるように「何が板書・ノートに残るか」

を常に念頭に置いておく.

特に今回のように,ノートに作業させ,その後 同じ流れで授業を進めると,児童は最初の作業を 消してその上に板書を写していきます.特に,誤 答は消して直したくなるものなので,正解・誤答 が出る場合は,何をどのようにノートに書かせる かもよく吟味する必要があります.

書かせたものは,机間巡視の際,または授業後 に集めて花丸をつけたりスタンプを押したりする だけでもよいので,フィードバックを残しましょ う.また,児童の「自分のことば」をこまめに読 んでおくと,発達段階に応じた児童のことば(生 活用語)がつかめるようになります.

(2)参加率を上げる・「横に広げる」

どうしたら多くの児童が授業に「参加」できる かを考えましょう.

「書く作業(個人)」と「全体で共有」との間 に,隣やグループ(小集団)での共有をおりまぜ るとよい.たとえば,今回の授業では,「では,

二つ目のまとまりをどこで分けたか,どうしてそ こで分けたか,自分の考えを,おとなりさんと交 換してみましょう」,このプロセスがあれば,次 の↓ステップで手をあげやすくなる.また,この 間に机間巡視し,くぎりが違う答えがあれば確認 しておくとよい.

全体で:

・ 「④⑤で区切った人?(誤答)」→挙手などさ せ,誤答している児童をひとりにしない.特 に,「正解」を答えさせるときは,個別に挙 手させないほうがいいと思います.(自信が ないと手をあげなくなるため.同じ児童しか 挙手しなくなる.)

・ 誤答でも,「違います」と否定して終わらせ ない.違っていても「なぜそう考えたか」を 大事にし,考えを聞く.正答が出せた児童に 説明させる.

小集団での共有では,児童は「生活用語(自分 のことば)」で説明するため,教師が説明するよ りわかりやすいことが多い.普通学級に遅れがち な児童がいる場合は,教師が個別にわかるまで教 えるよりクラス授業で互いに「学び合い」をさせ るほうが理解しやすいし,教える児童も自分の思 考をより明確にすることができる.これがクラス

授業のメリットです.

Ⅳ.考察

本項では,Aの授業に起こった変化と,Aに見 えていた子どもの事実との関連づけを試みる.

(1)初回の授業参観(算数)

初回に参観した授業は,子どものエネルギーが 散逸し,終始誰かの声が聞こえるざわついた雰囲 気の中で行われた.筆者はその様子を以下のよう に記した.

児童の「授業に参加しよう」とする意欲が溢れ る授業でした.前向きなエネルギーをどうコント ロールして授業を作り上げていけるか,大きな可 能性のある集団だと感じました.

一見活気のあるように見えるAと子どものや りとりも,その内容はAの発問に対する答えや 気づきから,反論,疑問,さらには作業に関する 個別の質問とまとまりがなく,また,Aはその多 くに同じ比重で反応し,めあてとなる学びを生み 出す上で重要な子どもの発話が学級全体に共有さ れ,吟味されることはなかった.授業実習が開始 して間もない頃であり,手順の見落としも多く,

Aは指導案をなぞるので精一杯な様子だった.重 要な発問や指示も,一人ひとりと視線を合わせる ことなく学級全体に漠然と発するため,子どもに 届かずそののちの混乱とざわつきを生んでいた.

一般に,このように散逸した授業のふり返りに おいて,筆者が実習生に「どの程度の子どもが本 時のめあてを達成したか」と問うと,多くの場 合,「半分くらい」「8割程度」のような曖昧に答 えることしかできない.このときに,「どの子ど もがめあてを達成し,どの子どもがどこでつまづ いてしまったか」を具体的に答えられるように,

子どもをよく見て授業をするようにうながすと,

授業が大幅に改善されることもまれではない.

(2)2回目の授業参観(国語)

参観2回目の授業でも子どもたちは変わらず活

発に声を発していたが,その個々の発話の中にも

学級全体との関わりが感じられ,ともに授業に参

加しているという一体感が醸成されていた.

(6)

今回の授業では,Aさんが子どもたちと築いて きた関係が授業に透けて見えました.範読のあと の児童の拍手,Aさんの説明や指示に対する児童 のうなずき,まとめの囲みが歪んでしまったとき

「曲がってるよー」と言ってくれた子,それに対 して「いいじゃん,そんなの!」とつぶやいた子 もひとりではありませんでした.

また,子どもと呼応しながら,子どもの学びや 気づきを的確に拾い上げて学級全体の学びへと拡 張していく授業の進め方は,粗削りながら目を見 張るものがあった.

授業の山場のひとつは,二つ目のまとまりにつ いて,女児⑤が「次に」の語に着目した発言をし たとき,「いい発見だね,次のまとまりの始めに 着目したんだね」とピン押ししたことです.もう ひとつは,三つ目のまとまりの区切りを見つける ために,教科書60ページを開かせて「見覚えの ある言葉がないかな?」と問いかけたことです.

このときには,気づいた児童から「あっ!」とい う声があがりました.このふたつの(指導案には ない)アドリブのピン押しがあったから,「どん な手がかり・ヒントでまとまりをつくるか」とい うまとめの段階に至ったときに,多くの児童は,

自分のことばでまとめを書き始めました.

さらに,筆者がこの授業のハイライトとして着 目したのが,まとめの段階でのS児の指名であっ た.

ノートをとるのは苦手なようで,教科書を目で 追うこともせず,ずっと宙を見つめていたS児が,

まとめの段階になって手をあげて答え,ずっと授 業についてきていたことがわかりました.

授業終了後のふり返りにおいて,このタイミン グでS児を指名した理由を筆者がたずねると,A は「S児が手をあげるのを待っていた」と答えた のである.参観初回の授業からの変化に,Aの

「見える力」の伸長がかかわっていたことを示す エピソードのひとつと言えるだろう.

Ⅴ.まとめと今後の課題

「よい授業」を参観していると,学級集団での 授業の中にも一人ひとりの子どもの個性・特性が

垣間見える.授業者が一人ひとりの子どもの個 性・特性を見極めてかかわりを変えているからで ある.授業づくりにおいては,子どもの学びを読 みとる教師のこの鑑識眼が重要な鍵となる.そし て,鑑識眼は,実際に目の前に子どもがいて授業 できるときにこそ鍛えることができる.教員養成 課程においては,大学での講義や模擬授業を通じ て習得しうる知識技術と,現場での実習を通じて しか鍛えることのできない力量とがあると考えら れる.この点にも留意し,鑑識眼,すなわち子ど もの事実を見る力とは何か,また養成課程のどの 段階でどのように育成されるものであるものかを 明らかにしていくことを今後の課題としたい.

1)鹿毛(2011)は,教師の「見える力」をE.

W.ア イ ス ナ ー の「 鑑 識 眼(educational connoisseurship)」に重ねつつも,子どもと いう生きた存在を授業というダイナミックな 学びの場の中で捉える教師の目は,アイス ナーが示したソムリエの鑑識眼とは異質であ ると指摘している.尚,「見る」と「見える」

の区別については,藤岡(1999)を参照され たい.

2)本稿では,実習生Aの了解のもと,Aが授業 実習中に作成した指導案を明らかなタイプミ スや誤記を除き改変せずに記載した.

3)本稿に記載のある文章は,筆者が記述した助 言に若干の加筆修正を加えたものである.実 習生の指導案と併せ,関係者・児童のプライ バシーに配慮して,学校や児童が特定される おそれがある情報の公開は避け,関係者・児 童の氏名は伏せてある.

4)2回目の参観は1回目の1週間後であった.

参考文献

秋田喜代美・佐藤学(編)(2010).『新しい時代 の教職入門』.有斐閣.

Eisner, E. W.(1985). The Art of Educational Evaluation:A Personal View. Falmer Press Ltd.

藤岡完治(1999).「見ることと見えること:カリ

キュラム創造に向けて」.『教育メディア研

究・情報教育実践ガイドⅢ:見ることと見え

ること』(pp.129-141).藤沢市教育文化セン

ター.

(7)

鹿毛雅治(2011).『子どもの姿に学ぶ教師:「学 ぶ意欲」と「教育的瞬間」』.教育出版.

勝見健史(2015).「小学校若手教員の自覚的成長 を促す授業研究の方法:ポートフォリオの特 質を生かした試み」.『研究紀要』第47巻.

兵庫教育大学.

斎藤喜博(1969).『教育学のすすめ』.筑摩書房.

佐藤学(1997).『教師というアポリア:反省的実 践へ』.筑摩書房.

佐藤学(2006).『学校の挑戦:学びの共同体を創

る』.小学館.

参照

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