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ヒジキの人工種苗を用いた養殖技術開発

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ヒジキの人工種苗を用いた養殖技術開発

平成 25 年度 (2013)

三重大学院 生物資源学研究科 博士前期課程 生物圏生命科学専攻

海洋生物科学講座

佐 藤 寛 之

(2)

目次

序論

1.ヒジキの人工種苗を用いた養殖の実証試験 1-1.

緒言

1-2.

材料と方法

1-3.

結果と考察

2.ヒジキ受精卵の光と温度による仮根生長実験 2-1.

緒言

2-2.

材料と方法

2-3.

結果と考察

3.ヒジキ幼体の高温耐性実験 3-1.

緒言

3-2.

材料と方法

3-3.

結果と考察

4.ヒジキ種苗の酸処理実験 4-1.

緒言

4-2.

材料と方法

4-3.

結果と考察

総合考察 要約 謝辞 参考文献

・・・・・・

2

・・・・・・

5

・・・・・・

5

・・・・・・

8

・・・・・・

12

・・・・・・

12

・・・・・・

13

・・・・・・

18

・・・・・・

18

・・・・・・

19

・・・・・・

23

・・・・・・

23

・・・・・・

24

・・・・・・

26

・・・・・・

28

・・・・・・

29

・・・・・・

30

(3)

序論

ヒジキSargassum fusiforme (Harvey) Setchell は根部越年生の多年生海藻である。本種は北 海道を除く日本各地に分布し,潮間帯下部の 岩上に生育する藻体長が1-2 mに達する大型 のホンダワラ科に属する褐藻であり,日本で は古くから食用として利用されている重要な 海藻である(Fig. 1)。ヒジ

キの生活史をFig. 2に示 した。ヒジキは雌雄異体 で,太平洋南中部では 5-6 月に成熟し生殖器床 を形成する。雌雄の生殖 器床はそれぞれ卵と精 子を放出し,受精した卵 は幼胚となり粘液物と ともに生殖器床上に暫く

留まる。やがて落下し,幼胚下部から形成される仮根で岩などの基質に着生して幼体と なり夏を越す。幼体は水温が下がる冬期に最も良く生長し成体となる。一方で,卵・精 子を放出後の成熟した藻体は付着器を残して流出する。残存した付着器からは夏期に新 芽が形成される。新芽は新たな藻体として生長し,冬期に成体となる。ヒジキはこのよ うに受精卵の発芽による有性生殖と,付着器から再生による無性的な栄養生殖によって 群落を維持している (新井・新井1983)。

現在,国内に流通しているヒジキは中国,韓国からの輸入で約90 %が賄われている(伊

Fig. 2 ヒジキ生活史(「藻類の生活史集成」参照)

有性生殖の生活史,← 栄養生殖の生活史

Fig. 1 ヒジキ天然群落 (三重県宿浦)

成体 幼体

幼体 新芽の再生

付着器

発芽体 仮根

受精卵 精子

卵 生殖起床

雌 初夏

夏 夏

秋~冬 秋~冬

Fig. 1 ヒジキの天然群落(三重県宿浦)

(4)

藤ら 2008)。中国や韓国から輸入されているヒジキはほぼ養殖されたものであり,その 代表的な養殖方法は “挟み込み法”である。“挟み込み法”は国内の一部でも行われてお り, その方法は天然群落から5-10 cmの幼体を付着器ごと採取し,それをロープに挟 み込んだのち,海に出して生長させ収穫するというものである(伊藤ら 2008,2009)。

しかし,この方法は天然の幼体を付着器ごと大量に採取するため,付着器からの新芽に よる再生産ができず天然群落の衰退や破壊に繋がる。また,幼体の挟み込みに多くの手 間を要するという問題もある。実際,韓国では天然藻体の減少によってヒジキ養殖の生 産量が落ちているといわれている。そのため,国内外の各地でヒジキの大量養殖・安定 供給のための技術開発が求められている。

近年,ヒジキの受精卵からの人工種苗を用いた養殖が注目されている(Pang et al. 2006,

2007,2008,Zou et al. 2005)。この養殖方法は,ヒジキの有性生殖の生活史を利用し,

受精卵を天然の成熟した藻体から大量に採取,それを人工的な基質に着けて陸上の施設 や海域で管理しながら生長させることで,大量の人工種苗を生産し養殖に用いようとす るものである。国内でも長崎県(伊藤 2010)や愛媛県(松原 2013)など各地で研究が行わ れている。本研究室でも3-4年前からこの人工種苗を用いた養殖方法について研究を行 ってきた。これまでの研究で,ヒジキ受精卵をクレモナに着け室内培養で体長約 5 cm の成体にすることに成功している。現在は実証試験を行い,実用レベルでの養殖に向け 研究を行っているが,未だ成功はしていない。同様に長崎県や愛媛県などでも実用レベ ルでの成功例の報告はない。いずれの報告でも人工種苗の大量生産,安定供給の技術面 での問題があると考えられるが,ヒジキ受精卵の初期生長や温度特性などといったヒジ キ人工種苗生産の基礎となる生物学的,生態学的研究は遅れており,この方面のデータ はほとんどない(馬場 2007,小黒 2009)。

ヒジキ養殖に関する本研究室でのこれまでの問題点として以下のことが挙げられた。

1)人工種苗の作成の過程でクレモナを基質とした人工種苗においてヒジキ受精卵が生

(5)

長して大きくなるにつれ,次々と基質上から脱落する。2)人工種苗を陸上水槽で培養す る場合,夏季の高水温時に種苗上のヒジキ幼体が多量に斃死する。そこで本研究では,

これらの問題点を解決するため,ヒジキの受精卵を基質に固着させる条件の解明,およ び夏季の温度管理の指標作成のための幼体の温度耐性についての生物学的,生態学的基 礎研究を行った。また,同時に室内実験の結果を基にした実証試験を行い,ヒジキの人 工種苗の大量生産,安定供給,延いては人工種苗を用いたヒジキ養殖技術の開発を行っ た。

(6)

1.ヒジキの人工種苗を用いた養殖の実証試験

1-1.緒言

現在の主流の養殖方法である挟み込み養殖法は天然群落の衰退,破壊につながるとさ れている。そのため,新しいヒジキ養殖方法の開発が求められた。ヒジキの人工種苗を 用いた養殖方法は天然への影響が少なく,種苗の大量安定供給が可能な養殖方法として 長崎県や愛媛県など各地で研究が行われている。しかし,実用レベルでの成功例の報告 はない。本研究室でも3-4年前からこの人工種苗を用いた養殖方法について研究を行っ てきた。これまでの研究で,研究室内でヒジキ受精卵をノリ養殖用のクレモナ糸に着け

体長約5 cmの成体にすることに成功しているが,実用レベルの養殖には未だ成功して

いない。そこで,本研究ではヒジキ人工種苗を用いた養殖方法について実証試験を行い 実用化に向けた問題点の洗い出しを行った。

1-2.材料と方法

ヒジキ受精卵の採集

ヒジキの成熟した母藻を 2011 年は 6 月28日,2012年は6月8日,2013年は 6月27日に採取した。採取は2011年と 2012 年は三重県度会郡南伊勢町の独立 行政法人増養殖研究所前の海岸で,2013 年は三重県鳥羽市坂手島の海岸で行っ た。採取量は 2011 年,2012 年は約 10 kg(wwt),2013年は約11 kg(wwt)であっ た。母藻は真水で十分に洗浄された後,

Fig.3 に示したように2011 年と 2012 年

Fig.3 母藻の投入

(2013年,三重県栽培漁業センター)

Fig.4 ネットによる受精卵の採取

(上:目合い約2 mm,下:目合い50 µm)

(7)

は 増 養 殖 研 究 所 敷 地 内 の 屋 外 水 槽 (1.2×2×1.2 m)に,2013年は三重県志摩市 浜島町の三重県栽培漁業センター内の 屋外水槽(1.5×2×0.8 m)に入れ,エアレー ションを行い卵の放出を促した。

水槽に母藻を投入して約 2 日で卵の 放出が確認され,3日後に受精卵の採取 作業を行った。放出後の受精卵は水槽の 底に沈み付着していた。しかし付着後 1-2日の受精卵は簡単に剥がれるため,

水槽の排水を利用して採取することが できた。採取ではまず母藻を取り除いた 後,排水を開始した。Fig.4 に示したよ うに排水口の出口では目合い約2 mmの ネットを用いて藻体の断片等の大きな ゴミを取り除いた後,目合い50 µmの動 物プランクトン用ネットを用いて受精 卵を採取した。しかし,50 µmの目合い では受精卵と共に細かい藻体の破片等 の夾雑物が混入していた。そこでデカン テーションを行い,早く容器の底に沈む ものを選択的に採取することでFig.5に 示したようにほぼ受精卵のみを選別す ることができた。受精卵はそのままヒジ

Fig.5 採取された受精卵

Fig.6 塩ビ枠に固定した基質テープ

Fig.8 受精卵散布後の種苗テープ

(黒枠内:顕微鏡写真) 1 mm

1 cm 300 µm

Fig.7水槽に沈めた基質テープ

(2013年,三重県栽培漁業センター)

(8)

キ人工種苗を用いた養殖の実証試験に用いるものと研究室に持ち帰って更に滅菌海水 を用いて洗浄して実験に用いるものに分けられた。

ヒジキ種苗の屋外培養

採取した受精卵を付着させる基質と して2011年は綿製のテープ(3.5 cm×1.5 m)を,2012年と2013年はアクリル製の テープ(3.5 cm×80 cm)を用いた。Fig.6に 示したように塩化ビニール製パイプで 水槽の大きさに合わせたサイズの枠を

作り,これにテープを固定した。塩ビ枠のサイズは2011年と2012年は1.5×1.0 mで,

これに26本のテープを固定した。2013年は80×80 cmの枠を2つ作り,これらにそれ ぞれ30本ずつ計60本のテープを固定した。Fig.7に示したようにテープを固定した塩 ビ枠を水槽の底に沈め,約30 cmの水深になるよう海水を入れた。その後,通水を止め,

Fig.8に示したように種苗テープ上のヒジキ受精卵の密度がおよそ7個cm-2になるよう

に培養ボトルのヒジキ受精卵を水槽に散布した。散布後はFig.9に示したように水槽に

太陽光を70 %遮光する寒冷紗を被せ,1日静置した。翌日から通水(20 L min-1)とエアレ

ーションを開始し,その後は1週間に1度経過を観察し,写真による形態観察,ヒジキ 種苗の生長測定や研究室での実験試料として種苗テープの一部を回収した。培養期間中 の水温は枠に取り付けたデータロガー(TidbiT v2 Temp logger,HOBO,USA)によって測 定された。

沖だし

2013年のヒジキ種苗については夏季の培養期間を終え,同年11月7日に沖だしをし た。沖だしは鳥羽市水産研究所の協力の下,鳥羽市菅島沖と坂手島沖の2カ所で行った。

菅島沖についてはFig.10に示したように塩ビ枠から種苗テープを外し,テープを直径約

Fig.7 水槽に沈めた基質テープ

(2013年,三重県栽培漁業センター)

Fig.9 寒冷紗を被せた水槽

(2013年,三重県栽培漁業センター)

(9)

2 cmのPPロープにロックタイを使って固 定した。その後,Fig.11に示したように種 苗を固定したPPロープを水産研究所がワ カメ種苗養殖などを行っている養殖筏の ロープに固定した。坂手島沖については

Fig.12 に示したように塩ビ枠ごとロープ

で船着き場の筏に固定した。沖だし後は,

2,3 週間に 1 度経過を観察し,写真によ る形態観察,ヒジキ種苗の生長測定や研究 室での実験試料として種苗テープの一部 を回収した。沖だし期間中の水温は枠とロ ープに取り付けたデータロガー(TidbiT v2 Temp logger,HOBO,USA)によって測定 された。

1-3.結果と考察

2011年6月28日に採取したヒジキ受精 卵は母藻約10 kg(wwt)から約100万個得ら れた。この種苗を用いて三重県度会郡南伊 勢町の独立行政法人増養殖研究所の屋外 水槽で培養を行った。種苗は培養4週目の

7 月 25 日の経過観察時には種苗テープが分解され,簡単に引き千切れるため観察すら 困難になった。そのため,これ以上の試験は不可能と判断し中断した。

2011 年度の実証試験の失敗の主要因は基質の選定であった。綿製の基質は化学繊維

Fig.12 筏に固定されたヒジキ種苗

(坂手島沖)

Fig.10 ロックタイで固定された種苗テープ

(鳥羽市水産研究所)

Fig.11養殖ロープに固定されたヒジキ種苗

(菅島沖)

(10)

とは異なり最終的に分解されるため環境に負荷を与えない材料として選定した。しかし,

綿製の基質は予想を上回る早さで分解されてしまったため失敗したと考えられた。

2012年6月8日に採取したヒジキ受精卵は母藻約10 kg(wwt)から約130万個得られた。

この種苗を用いて 2011 年と同じ独立行政法人増養殖研究所の屋外水槽で培養を行った。

基質をアクリル繊維製のテープにすることで 2011 年度のようにテープは分解されなか った。また用いたアクリル繊維製のテープの繊維の太さと編み方が発芽体の仮根を良く 絡め,種苗の初期脱落はほとんど見られなかった。しかし,種苗は10月5 日の培養8 週目の経過観察時には種苗テープ上のヒジキが大量に斃死して流失していた。残ったヒ ジキも黒く変色しており,その後も回復することなく斃死していったため,これ以上の 試験は不可能と判断し中断した。

2012 年度の実証試験の失敗の主要因には高水温,高光強度,貧酸素などが考えられ た。2012 年度の実証試験はデータロガーで水温測定していなかったため実際には不明 であるが,種苗テープ上のヒジキが大量に斃死した8月の培養8週目と7週目の間に通 水が止まっていた期間があった。そのため,その期間に水槽内の水温が上昇し,種苗テ ープ上のヒジキは温度上昇に耐えられず斃死したと考えられた。

2013 年度の実証試験は前年の実証 試験を受け,ろ過海水の夏季の水温が 28℃までであり,十分な流量が使える 三重県栽培漁業センターに場所を移す こととなった。2013年6月27日に採 取 し た ヒ ジ キ 受 精 卵 は 母 藻 約 11

kg(wwt)から約150万個得られた。この

種苗を三重県志摩市浜島町の三重県栽 培漁業センターの屋外水槽で培養した。

0 10 20

7 8 9 10 11 12 1

葉状部の平均長(mm)

時間(月) 2013

Fig.13 2013年度実証試験期間中の

ヒジキ種苗の葉状部の生長

2014

(11)

種苗は7月2日から11月6日までの約4ヶ月間陸上水槽で培養され,11月7日に沖だ しされた。Fig.13 に2013 年度実証試験期間中のヒジキ種苗の葉状部の生長を示した。

種苗テープ上には培養初期から付着ケイ藻が見られ,テープは茶色に変色していった。

そのため,ホースで淡水をかけ,洗い流すことで付着ケイ藻の除去を行った。7月に撒 いた受精卵は培養 1 週間で種苗テープに付いた汚れを落とすために淡水をかけても脱 落しない程度に強固に付着していた。ヒジキ種苗は 7 月まで緩やかに生長し,7 月 31 日で葉状部の平均長は2.7 mmになった。培養5週目の8月7日にはボウアオノリUlva

intestinalis Linnaeusやケイ藻類といった付着藻類が大量に発生しており,水槽掃除やテ

ープの淡水洗浄などで除去を試みたが,全てを取り除くことはできなかった。8月以降 はほとんど生長が見られず,沖だし開始日の11月7日で葉状部の平均長は3.1 mmであ った。沖だしは三重県鳥羽市坂手島沖と菅島沖の 2 カ所で行った。11 月の沖だし以降 は急速に生長し12月25日には18.6±1.3 mmになり,付着器の形成も確認された。現在 も藻類学研究室によって実証試験は継続されている。

2013 年度の実証試験は沖だしを行うことができ,このままいけば大きさや密度に難 はあるものの収穫までできると考えられた。このことから本実証試験はヒジキの人工種 苗を用いた養殖を今後実用レベルで行うに当たっての一連の流れを開発できたと考え られた。しかし,Fig.13に示したように沖だしまでの水槽培養期間のヒジキの生長は最 初の一ヶ月を除いてほとんど見られなかった。生長が停滞した原因としてまず水温が考 えられたが,水槽培養期間中の水温は8月5日の28.4℃が最高温度であり,高水温の影 響は考えられなかった。また経過観察の日を除いて急激な温度変化は見られず水温は安 定していた。次に付着藻類の影響が考えられた。付着藻類は培養初期から見られ淡水に よってある程度は洗浄できていたが,培養5週目の8月7日の経過観察時,水槽を覆う ほど付着藻類は大量発生し,その後は有効な防除方法もなく種苗テープ上,水槽壁面上 に生育し続けた。この付着藻類の大量発生前後で種苗テープ上のヒジキの密度が減少し

(12)

ていたことから,ヒジキ幼体の生長に対して悪影響があったと考えられた。その他にも 水の動き,流れ,光強度,塩分濃度,栄養塩濃度が要因として考えられたが主要因を特 定することはできなかった。

(13)

2.ヒジキ受精卵の光と温度による仮根生長実験

2-1.緒言

これまで本研究室で行われてきた室内実験における人工種苗の基質にはノリ養殖に 用いられるクレモナ糸を使っていた。しかし,この基質で培養した種苗は培養初期から 脱落がし易く,その後の生長したヒジキ幼体でも基質上から脱落した。ヒジキ幼体が生 長し,直径1-2 mmの主根から形成される付着器を作り始めると落下は止まった。この 発芽初期の脱落の主要因を考えるにあたり,受精卵からの発芽等の初期生長,特に仮根 の発達に注目した。そこで,本研究では光強度別と温度別でヒジキ受精卵の仮根生長の 測定を行った。

2-2.材料と方法

光強度別による仮根生長実験

2011年に採取したヒジキ受精卵を試料とした。85 mm径のプラスチックシャーレに スライドグラスを2枚並べ,そこに受精卵をおよそ10個cm-2の密度になるように滴下

し,20℃の培養庫で1日静置した。受精卵のスライドガラスへの付着確認した後,付着

直後の受精卵は付着力が弱いため勢いをつけないように慎重に 1/5 PESI 培地をシャー レに注いだ。その後,シャーレに寒冷紗を重ねて被せて光強度を5,10,25,50,100 µmol

photons m-2 s-1に調整したものと,箱に入れ光を遮断して暗黒条件にしたものの6実験区

を設定して培養を開始した。光強度の測定には光量子センサー(LI-193SA,LI-COR,

USA)を用いた。実験は14日間行われた。その他の培養条件は光周期 12L:12D,温度

20℃,培地 1/5 PESI で,培地交換は 2 日毎にクリーンベンチの中で行った。測定は 2

日毎に実体顕微鏡で幼胚を撮影し,幼胚の仮根の付け根から先端までの長さを,対物ミ クロメーターと画像解析ソフト(LIA for Win32)を用いて測定した。Fig.14に培養14 日目のヒジキ発芽体を示した。発芽体はその生長とともに仮根も大きく伸長していた。

(14)

基本的には 1 個体につき長いものから 2-4 本の仮根を選んで測定し,それを各 光強度区で7-10個体程度について行い,

仮根の平均長を求めた。その後,得られ たデータについてt検定( p < 0.05)を行っ た。

温度別による仮根生長実験

2012年に採取したヒジキ受精卵を試料とした。50 ccのプラスチック製培養容器にヒ ジキ受精卵を全体で20-30個体程度の密度になるように滴下し,20℃の培養庫で一日静 置した。受精卵の培養容器への付着を確認した後,付着直後の受精卵は付着力が弱いた め勢いをつけないように慎重に1/5 PESI培地を培養容器に注いだ。その後,培養容器を 6連式培養庫(森田ら2003 a ,b)に入れ,温度10,15,20,25,30,35℃の条件で培養を 開始した。実験は12日間行われた。その他の培養条件は,光周期12L:12D,光強度100 µmol photons m-2 s-1,培地は1/5 PESIで,培地交換は2日毎にクリーンベンチの中で行 った。測定は光強度別の実験と同様の方法で行った。

2-3.結果と考察

光強度別による仮根生長実験

Fig.15に実験に用いたヒジキ受精卵の実験開始時(Fig.15 a)と各光強度で14 日間培養

した後(Fig.15 b-g)の外観を示した。実験開始時の受精卵は仮根がわずかに見られる程度 であった(Fig.15 a)。0 µmol photons m-2 s-1 (Fig.15 b)や5 µmol photons m-2 s-1 (Fig.15 c)は14 日目においても体長,仮根長ともにわずかに生長が見られる程度であった。10 µmol photons m-2 s-1 (Fig.15 d) や25 µmol photons m-2 s-1 (Fig.15 e)は14日目において弱光下に比 べ体長,仮根長ともに生長がみられた。50 µmol photons m-2 s-1(Fig.15 f) と 100 µmol

1 mm

Fig.14 培養14日目のヒジキ発芽体

仮根

(15)

photons m-2 s-1(Fig.15 g)は14日目にお いて体長,仮根長ともに大きな生長が 見られ仮根数も多い大きい個体が目 立った。

Fig.16にヒジキ受精卵の光強度別培

養 14 日間の仮根生長を示した。実験 開始時の受精卵の仮根は0.1 mm程度 であった。0 µmol photons m-2 s-1 ,5 µmol photons m-2 s-1,10 µmol photons m-2 s-1ではほとんど仮根生長は見られ ず,いずれも14日目で0.15-0.2 mm程 度であり,有意な差はなかった。25 µmol photons m-2 s-1ではやや仮根の生 長が見られ日数経過に伴って徐々に 生長し,14日目で0.4 mm程度になっ た。50 µmol photons m-2 s-1と100 µmol photons m-2 s-1はよく生長し,14日目で 1.2 mm程度になった。0,5,10 µmol photons m-2 s-1と25 µmol photons m-2 s-1 と50,100 µmol photons m-2 s-1の間に は有意な差がみられた(p <0.05)。

温度別による仮根生長実験

Fig.20に実験に用いたヒジキ受精卵

の実験前(Fig.17 a)と各温度の実験終

a

e

f

g b

d

c

0.5 mm

0 0.5 1

0 2 4 6 8 10 12 14

日数 (days)

Fig.16 0-100 µmol photons m-2 s-1の光強度別 培養14日間のヒジキ受精卵の仮根生長

:0

:10

:50

:5

:25

:100 単位:µmol photons m-2 s-1

仮根の長さ(mm)

Fig.15 実験開始時と0-100 µmol photons m-2 s-1の 光強度別培養14日目のヒジキ受精卵

a. 実験開始時 c. 5

e. 25 g. 100

b. 0 (暗黒条件) d. 10

f. 50

単位:µmol photons m-2 s-1 スケールバーは何れも0.5 mm

(16)

了時(Fig.17 b-g)の外観を示した。実験に 用いた試料は全体的に夾雑物が多く,

光強度別の実験に比べ生長が悪かった。

実験開始時の受精卵の仮根はわずかに 仮根が見られる程度であった(Fig.17 a)。

10℃(Fig.17 b)と15℃(Fig.17 c)の体長に は生長が見られたものの,仮根長はわ ずかに生長が見られた程度であり,基 質への付着が非常に弱く流失する個体 が多く見られた。20℃(Fig.17 d),25℃

(Fig.17 e),30℃(Fig.17 f)は体長,仮根長 ともに大きな生長がみられ,仮根数も 多い大きい個体が目立った。35℃(Fig.17 g)は体長,仮根長ともにほとんど生長せ ず,8日目までにほぼ全ての個体が斃死 した。明らかに斃死していても流失し ていない個体についてはその仮根の長 さを測定した。

Fig.18 にヒジキ受精卵の温度別培養

12 日間の仮根生長を示した。実験開始 時の受精卵の仮根の長さは 0.1-0.2 mm の間であった。10℃と 15℃では仮根は わずかに生長したが,培地交換の度に 個体が流失し,8日目にはほぼ全ての個

a b c

d e

f g

a. 実験開始時 c. 10 ℃ e. 15 ℃ g. 20 ℃

b. 25 ℃ d. 30 ℃

f. 35 ℃(8 日目) スケールバーは何れも0.5 mm

Fig.17 実験開始時と10-35℃の温度別 培養12日目のヒジキ受精卵

0.1 0.3 0.5

0 2 4 6 8 10 12

仮根の長さ(mm)

日数(days)

Fig.18 10-35℃の温度別培養12日間の ヒジキ受精卵の仮根生長

:10℃

:20℃

:30℃

:15℃

:25℃

:35℃

(17)

体が流失した。20℃,25℃,30℃で仮根はよく生長し0.45 mm程度になった。35℃は8 日目までにほぼ全ての個体が斃死したものの,培地交換時に流失しなかったものについ ては仮根を測定し,仮根はほとんど生長していなかった。仮根生長が良かった 20℃,

25℃,30℃を比較しても有意な差は見られなかったが,10℃,15℃,35℃と比較すると

有意に長くなった(p <0.05)。

考察

これまで本研究室で行われてきた室内実験における人工種苗の基質からの脱落の主 要因を考えるにあたり,受精卵からの発芽等の初期生長,特に仮根の発達に注目した。

そのため,光強度別と温度別でヒジキ受精卵の仮根生長の測定を行い,光強度は 50,

100 µmol photons m-2 s-1,温度は20-30℃で仮根の生長がよいということがわかった。こ の結果はホンダワラ類 8 種の初期生長に及ぼす温度と光量を研究した過去の研究(馬場

2007)におけるヒジキ発芽体の培養20日間の最大仮根長は25℃,30℃の100,180 µmol

photons m-2 s-1で高い値を示したという結果とほぼ一致した。さらに,ヒジキ幼胚および

幼体の生長におよぼす水温の影響についての研究(小黒 2009)における100 µmol photons m-2 s-1は20℃,25℃がよく生長し, 0 µmol photons m-2 s-1はいずれの温度でも生長は全 く見られなかったという結果ともほぼ一致した。ヒジキ受精卵の仮根伸長と基質への固 着力との関係は測定していなかったため断言はできないが,固着力は光強度では0-100

µmol photons m-2 s-1の間で差はなく,温度では10℃,15℃の受精卵が測定の度に流失が

みられたことから弱いように感じた。しかし,ヒジキ受精卵の光や温度によるスライド グラスへの固着率を調べた研究(森田ら 未発表)には固着率には光条件,水温の影響は 認められなかったという結果があり,10℃,15℃の固着力が弱かったのは単に実験に用 いた受精卵の状態が悪かっただけという可能性も考えられた。

上記の研究結果をもとに行った実証試験では光強度を50-100 µmol photons m-2 s-1,温

度を20-30℃の間で管理し,仮根と同程度の太さで製作されたアクリル繊維を基質とし

(18)

て使用することで,培養約1週間で淡水をかけても基質から脱落しない程度に受精卵を 付着させることができた。ヒジキ幼体の仮根の生長促進および適した基質の選定は仮根 の基質への固着力を高め,脱落を防止することができると考えられた。

(19)

3.ヒジキ幼体の高温耐性実験

3-1.緒言

第一節で述べたが,2012 年度の実証試験の失敗の主要因には高水温,高光強度,

貧酸素などが考えられた。2012 年度の実証試験はデータロガーで水温測定していなか ったため実際には不明であるが,種苗テープ上のヒジキが大量に斃死した8月の培養8 週目と7週目の間に通水が止まっていた期間があった。そのため,その期間に水槽内の 水温が上昇し,種苗テープ上のヒジキは温度上昇に耐えられず斃死したと考えられた。

そこで本研究ではヒジキ幼体の高温耐性について実験を行い,水槽培養期間中の水温管 理指標を明らかにしようとした。

3-2.材料と方法

2012 年の水槽培養 7 週目に回収したヒジキ種苗テープ上の幼体を試料とした。研究 室で幼体を基質から外し,滅菌海水と真水,絵筆等を用いて表面に付いていた付着物を 除去した。その後,2 L培養容器で通気しながら約2週間予備培養を行い,体長1-2 cm に生長した幼体 30 個体を実験に用いた。予備培養時の培養条件は光強度 100 µmol photons m-2 s-1,温度20℃,光周期12L:12Dで滅菌海水を用い,2日毎に水替えを行った。

予備培養後,幼体を3個体ずつ500 mL培養容器に移し,六連式培養庫で30,32,34,

36,38,40℃の6段階の温度条件で30日間培養した。培養条件は光強度100 µmol photons

m-2 s-1,光周期12L:12Dで滅菌海水を用い,2日毎に水替えと測定を行った。この実験

後, 31℃と33℃でも同様の実験を行った。

測定は2日毎にデジタルカメラ(Lumix DMC-G2,Panasonic)で幼体を撮影し,葉状部 の長さの測定と枯死判定を行った。長さの測定には画像解析ソフト(LIA for Win32)を 用いた。枯死の判定については画像による色と光合成測定によって行った。実験に用い た幼体は全て個体識別され,基本的に同一の初期葉の生長を連続して測定した。

(20)

さらに,天然のヒジキの体温を知るた め夏季の干出時における天然環境下で ヒジキの体温測定を行った。測定は2013 年8月7日に三重県志摩市浜島町の矢取 島で行われた。Fig.20に測定時の様子を 示した。ヒジキの体温,岩の温度,気温,

水温をデータロガー (LI-1000,LI-COR,

USA)に T 型熱電対を取り付けて測定し

た。ヒジキの体温は干出したヒジキ群落 の上部と下部から一個体を選び,Fig.21 に示したように直径0.2 mmの熱電対の 先端をそれぞれの初期葉の裏側に刺し 込み瞬間接着剤で固定して測定した。岩 の温度は太陽光に直接当たらない隙間 に熱電対の先を同様に固定して測定し

た。気温とLI-1000本体は直射日光に当たらないようにパラソルで日陰を作り,さらに 下からの反射熱を拾わないように簀の子の上に設置して測定した(Fig.20 参照)。水温は ヒジキ幼体の生育場所近くに熱電対を固定して測定した。光強度はセンサー(LI-190SA,

LI-COR,USA)を用い,測定中陰にならないような岩の上に水平に固定して測定した。

測定期間は上部のヒジキの干出開始から再び海水がかかるまでの約3時間測定した。

3-3.結果と考察

Fig.22に実験に用いた発芽から約2ヶ月後の体長2-3 cmのヒジキ幼体と30-40℃の温

度別培養終了時の幼体の外観を示した。30℃(Fig.22 a)では幼体は30日間生存し,良い

Fig.20 天然環境のヒジキの体温測定

(三重県浜島町矢取島)

Fig.21 熱電対(矢印)によるヒジキ体温測定

熱電対の先端がヒジキ幼体内に入っている。

(21)

生長をみせた。31℃(Fig.22 b)と 32℃

(Fig.22 c)では幼体は 30日間生存した ものの,生長はほとんど見られず,初 期葉の一部が透明,変色しているもの も多く見られた。33℃-40℃(Fig.22 d-h) ではいずれの温度条件の幼体も培養 期間中に途中で枯死した。枯死までの 時間は33℃(Fig.22 d)では 8 日,34℃

(Fig.22 e)では6日,36℃(Fig.22 f)では 2 日,38℃(Fig.22 g)では 1 日,40℃

(Fig.22 h)では2時間であった。

ヒジキ幼体の 30-40℃の温度別培養の 初期葉の生長をFig.23に示した。30℃

は 30 日間でプラスの生長を見せ,培

養開始時は0.6 cm程度であった葉一枚の平均長は終了時には0.9 cmになった。31℃と

32℃はほとんど生長していなかった。33℃,34℃,36℃は初期葉が枯死して流失してい

るもの,丸まっているものがほとんどで生長はマイナスとなった。例えば 33℃は培養

Fig.22 30-40℃の温度別培養前後のヒジキ幼体

a. 30℃

c. 32℃

e. 34℃

g. 38℃

b. 31℃

d. 33℃

f. 36℃

h. 40℃

上:培養前,下:培養終了時

黒枠内は同一個体,スケールバーは何れも1 cm

0.4 0.6 0.8 1

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30

葉の平均長(cm)

Fig.23ヒジキ幼体の30-40℃の温度別培養の初期葉の生長

日数(days)

:30℃ :31℃ :32℃ :33℃ :34℃ :36℃

a b c d

e f g h

1 cm

(22)

開始時0.9 cm程度であったが,終了時には0.5 cm程度になっていた。38℃,40℃は枯 死が早過ぎたため,グラフ上には示されていない。これらの実験からヒジキ幼体の生存 の限界温度は32℃,生長を考えるなら30℃が限界であると判断した。

Fig.24に天然環境下での干出時のヒジキの体温および気温,水温,岩の温度,光強度

の変化を示した。測定日の最干潮時刻は12時5分であり,潮位は19.1 cmであった。

天気は晴れで,雲は少なかったが,波があった。10 時半の測定開始時点ですでに天然 群落の上部に生育するヒジキ(以下上部)は干出していた。天然群落の下部に生育するヒ ジキ(以下下部)は干出していなかったが,間もなく干出した。測定開始時のヒジキの体 温は上部で31.1℃,下部で29.7℃,岩の温度は35.3℃,気温は30.4℃,水温は28.9℃,

光強度は1152 µmol photons m-2 s-1であった。最干潮時刻の12時5分のヒジキの体温は

上部で34.5℃,下部で31℃,岩の温度39.3℃,気温30.9℃,水温29℃,光強度1932 µmol

photons m-2 s-1であった。12時45分には岩の温度が最高温度の42.8℃になり,この時の ヒジキの体温は上部で34.4℃,下部で34.9℃,気温31.8℃,水温29℃,光強度1850 µmol photons m-2 s-1であった。その後,ヒジキ体温は上部で13時30分に38.6℃,下部で13

0 500 1000 1500 2000 2500

27 31 35 39 43 47

10:30 11:00 11:30 12:00 12:30 13:00 13:30

温度(℃)

Fig.24 天然環境下での干出時のヒジキの体温,岩の温度,気温,水温変化 時間

:岩の温度 :光強度 :ヒジキ(上部)の体温

:気温 :水温 ―:ヒジキ(下部)の体温 矢印:最干潮時刻

光強度(µmol photons m -2 s -1)

(23)

時27分に 38.2℃の最高温度を記録した。13時30 分以降は潮位の上昇につれて波しぶ きがかかり始め,ヒジキの体温,岩の温度は下がり,最終的には 32℃前後で再び水中 に戻った。水温は安定して29℃前後であったが,12時49分以降のデータは測定できな かった。

第一節で述べたが,2012 年度の実証試験の失敗の主要因の一つにヒジキ幼体への高 水温の影響が考えられた。そのため,ヒジキ幼体の高温耐性について実験を行い,ヒジ

キ幼体は32℃が生存の限界温度であり,33℃で8 日,34℃で 6日,36℃で2 日,38℃

で1日,40℃で2時間で枯死するということが明らかになった。さらに天然環境下で干 出時のヒジキの体温変化を測定すると,天然のヒジキの体温は周辺の岩の温度が 43℃

近くまで上昇しても,38℃程度までしか上昇しないということ,夏のもっとも暑い時期 でも体温が32℃以上になる時間は1 日3 時間程度であることが明らかになった。これ らの結果は潮間帯に生育する海藻の高温耐性を調べ,その中でヒジキの短期的な温度限

界を 40℃とする過去の研究結果(前川ら 1995)と一致する。このことからヒジキ種苗の

夏季の水槽の温度管理指標として限界が32℃以下,種苗生長を考えるなら30℃以下の 水温を維持する必要があると考えられた。

(24)

4.ヒジキ種苗の酸処理実験

4-1.緒言

第一節で述べたが, 2013年度の実証試験で水槽培養期間のヒジキの生長は最初の 一ヶ月を除いてほとんど見られなかった。生長が停滞した原因としてまず水温が考えら れたが,水槽培養期間中の水温は8月5日の28.4℃が最高温度であり,高水温の影響は 考えられなかった。また経過観察の日を除いて急激な温度変化は見られず水温は安定し ていた。次に付着藻類の影響が考えられた。付着藻類は培養初期から見られ淡水によっ てある程度は洗浄できていたが,培養5週目の8月7日の経過観察時,水槽を覆うほど 付着藻類は大量発生し,その後は有効な防除方法もなく種苗テープ上,水槽壁面上に生 育し続けた。この付着藻類の大量発生前後で種苗テープ上のヒジキの密度が減少してい たことから,ヒジキ幼体の生長に対して悪影響があったと考えられた。そこで,本研究 では付着藻類の付いたヒジキ種苗に対してノリの酸処理方法(高山ら 1983)を参考にし て酸処理を行い,付着藻類の有効な除去方法を明らかにしようとした。

4-2.材料と方法

2013年の水槽培養14週目に回収したヒジキ人工種苗テープを試料とした。研究室で 軽く濾過海水で洗った後,テープを約5 cm間隔で切断した。付着藻類とヒジキがしっ かりと確認できるテープ片を10枚選び,それぞれ2枚ずつpHを 1.5,2.0,2.5,3.0に 調整した溶液に5 分間浸漬し,酸処理した。pHの調整は本来はクエン酸などの有機酸 を用いるが,今回はpH 1.5を調整するため1 N HClを用いて行った。その後,コントロ ールと併せて500 mLの培養容器で 2 週間通気培養した。培養条件は光強度100 µmol photons m-2 s-1,温度25℃,光周期12L:12Dで滅菌海水を用い,2日毎に水替えと測定 を行った。測定は 2 日毎にデジタルカメラ(Lumix,Panasonic)で幼体を撮影し,幼体の 初期葉の長さと画像によって幼体へのダメージと付着藻類の除去具合を確認した。

(25)

4-3.結果と考察

Fig.25 に培養開始から約 3 ヶ月半

後のヒジキ種苗テープと pH 1.5-3.0 で5 分間の酸処理後の外観を示した。

pH 1.5 (Fig.25 a)で酸処理をした種苗 テープ上では処理直後から付着藻類 に脱色が見られ,その後,種苗テー プ上からほとんど流失した。残った ものも褐色に変色しており枯死して いるように見えた。しかし,ヒジキ も黒く変色しており萎縮しているよ うに見えた。この変色と萎縮は正常 な培地に戻して 14 日後でも回復し なかった。pH2.0 (Fig.25 b)で酸処理 をした種苗テープ上では付着藻類が 脱色あるいは流失していたが,ヒジ キに変化は見られなかった。しかし,

脱色した付着藻類のテープの付け根 部分は脱色していなかった。14日後 では付着藻類は根元を残してほとん どが流失していた。ヒジキには特に

変化はなかったが生長もしていないように見られた。pH2.5 (Fig.25c)とpH3.0 (Fig.25 d) で酸処理をした種苗テープは付着藻類もヒジキも特に変化は見られなかった。14 日後 ではヒジキも付着藻類も生長し,繁茂していた。

Fig.25 酸処理前後のヒジキ種苗の外観の変化

(左:酸処理前,右:酸処理後14日目)

b. pH 2.0 d. pH 3.0 a. pH 1.5

c. pH 2.5

e. コントロール

スケールバーは何れも5 mm 矢印はヒジキを示す

5 mm a

b

c

d

e

(26)

Fig.26に各pHで酸処理後14日間の種 苗テープ上の幼体の初期葉の生長を示

した。pH 1.5で酸処理をしたヒジキ幼体

は処理前と比べ 0.2 cm 程度減少してお り,黒く変色していた。pH 2.0,pH 2.5,

pH 3.0 で酸処理をしたヒジキ幼体は時

間経過とともに生長が見られ,平均して

14日間で0.4 cm程度生長していた。

以上のことからヒジキの酸処理では pH 2.0 がヒジキが生育可能で,アオノリが枯死 する最も効果的な濃度のようにみえたが,酸処理後 14日目でもアオノリは根元の部分 が残っており,再生する可能性が考えられた。さらにヒジキも酸処理後14 日間でわず かな生長をみせたものの,小さな個体は葉先が黒く変色して,ダメージを受けているも のが多く見られた。このことから,ノリ養殖における酸処理方法はヒジキ養殖における 付着藻類の防除方法としては不適切な可能性を示した。

0.1 0.2 0.3

0 1 3 7 14

日数(days)

葉の平均長(cm)

Fig.26 酸処理後のヒジキ幼体の

葉状部の生長

:pH 1.5 : pH 2.0 :pH 2.5

:pH 3.0 :コントロール

(27)

総合考察

ヒジキの人工種苗を用いた養殖は現在,長崎県では付着器からの再生を利用した人工 種苗を用いた養殖法が研究され,それによれば天然の幼体を挟み込んだ時と同等の収量 を得られたとされている(伊藤 2010)。愛媛県では真珠養殖筏を利用したヒジキ養殖の 大規模化,事業化に向けた試験が行われている(松原2013)。また,その他の各地でも人 工種苗を用いた養殖法について研究が行われているが,事業化レベルでの成功事例の報 告は見られない。この原因には種苗の初期脱落や高水温の影響といった種苗の大量生産 と安定供給に技術面で問題があると考えられる。そこで本研究では2011年度から2013 年度までの3年間の実証試験を通し,その中で発生した問題を解決するヒジキ種苗の生 物学的,生態学的基礎研究を行うことでヒジキ人工種苗を用いた養殖技術開発を目指し た。

本研究ではヒジキ人工種苗を用いた養殖の種苗の大量生産,安定供給という問題に対 し,受精卵の仮根生長に適した環境条件,種苗培養時の温度管理指標,種苗作成に有効 な基質をある程度明らかにすることができた。受精卵の仮根生長に適した環境条件,種 苗作成に有効な基質は人工種苗を用いた養殖における種苗作成時の初期脱落の防止に つながり,種苗培養時の温度管理指標は種苗の夏季水槽培養の安定化につながると考え られた。これらの成果は人工種苗を用いた養殖における種苗の安定,大量供給技術開発 につながると考えられる。

これまでの研究成果から2013 年度の実証試験は沖だしを行うことができ,このまま いけば大きさや密度に難はあるものの収穫までできると考えられた。このことから本実 証試験はヒジキの人工種苗を用いた養殖を今後実用レベルで行うに当たっての一連の 流れを開発できたと考えられた。しかし水槽培養中の種苗がほとんど生長していないこ とについてはその原因の特定をすることはできなかった。しかし,沖出し後の種苗は急 速に生長をみせた。また,鳥羽市水産研究所の報告(岩尾 2013)で同じ時期,同じ場所

(28)

で母藻を採集したにも関わらず,鳥羽市の種苗は12月の時点で密度は低いものの藻体

長が10 cm以上に生長していた。この種苗は培養一ヶ月,体長5 mm程度になった時点

で沖だしをしていた。さらに,三重県水産研究所の報告(井上 2013)によると水産研究 所が受精卵を採集した際,側溝に落ちた受精卵が側溝で発芽生長し,水槽培養していた ヒジキ種苗よりも大きく生長し藻体長5 cm程度になっていた。これにより水槽培養期 間中のヒジキ種苗の生長不良の原因が水の動き,流れであるという可能性が強く考えら れた。これ以外にも,光強度,塩分濃度,栄養塩濃度が考えられ,今後の研究室で行わ れる研究ではこれらの要因について研究を行い,来年度以降の実証試験では夏季水槽培 養におけるより効果的な水温,水流の管理を行い,水槽培養期間中のヒジキ種苗の密度 を維持したまま生長を促すことで,種苗の大量生産および安定供給技術が確立できると 考えられる。

(29)

要約

褐藻ヒジキSargassum fusiforme (Harvey) Setchellは日本で古くから食用とされる重要 な海藻である。現在各地で人工種苗を用いたヒジキ養殖方法の研究開発が盛んに行われ ているが,実用的な養殖方法は未だ確立されていない。この原因として種苗の大量生産,

安定供給の技術面での問題があると考えられる。しかし,ヒジキ受精卵の初期生長や温 度特性などといった種苗生産の基礎となる生物学的,生態学的研究は遅れており,デー タはほとんどない。そこで本研究では2011-2013年度の3年間の実証試験を通じて発生 した問題について,ヒジキ受精卵を基質に固着させるため受精卵の仮根生長条件の解明,

夏季の温度管理の指標のため幼体の温度耐性の解明という生物学的,生態学的基礎研究 を行うことで種苗の大量生産,安定供給技術の確立を目指した。

結果,ヒジキ受精卵の仮根生長条件は光強度50,100 µmol photons m-2 s-1,温度20-30℃

がよいということがわかった。幼体の温度耐性は 32℃が生存の限界温度であり,33℃

は8日,34℃は6日,36℃は2日,38℃は1日,40℃は2時間で枯死するということが わかった。しかし,32℃は 30℃と比べほとんど生長しておらず,ヒジキ幼体の生長を 考えるなら水温 30℃以下で温度管理する必要があると考えられた。本研究によりヒジ キ人工種苗を用いた養殖の種苗の大量生産,安定供給という問題に対し,受精卵の仮根 生長に適した環境条件,種苗培養時の温度管理指標,種苗作成に有効な基質をある程度 明らかにすることができた。これらの結果をもとにして2013年度の実証試験では夏季 の水槽培養期間を経て,沖だしをすることができた。この実証試験で新たに夏季の種苗 生長が停滞していたという問題が見つかったが,これには水の動き,流れが原因である 可能性が考えられた。

来年度以降研究室で行われる実証試験では水槽培養におけるより効果的な水温,水流 の管理を行うことで水槽培養期間中のヒジキ種苗の密度を維持したまま生長を促し,種 苗の大量生産および安定供給技術を確立できると考えられた。

(30)

謝辞

実験を行うにあたり多くの協力をして頂いた公益財団法人三重県水産振興事業団三 重県栽培漁業センター(浜島),独立行政法人増養殖研究所,三重県水産研究所,鳥羽市 水産研究所,三重大学藻類学研究室諸氏に深く感謝致します。また,本研究を行うにあ たり数々のご指導とご教示を賜った三重大学の前川行幸教授,倉島彰助教に深く感謝致 します。

(31)

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ここでは 2016 年(平成 28 年)3

大正13年 3月20日 大正 4年 3月20日 大正 4年 5月18日 大正10年10月10日 大正10年12月 7日 大正13年 1月 8日 大正13年 6月27日 大正13年 1月 8日 大正14年 7月17日 大正15年

第1回 平成27年6月11日 第2回 平成28年4月26日 第3回 平成28年6月24日 第4回 平成28年8月29日

2011年(平成23年)4月 三遊亭 円丈に入門 2012年(平成24年)4月 前座となる 前座名「わん丈」.

本部事業として第 6 回「市民健康のつどい」を平成 26 年 12 月 13

本協定の有効期間は,平成 年 月 日から平成 年 月