悩んで決断した自分を信じる
〜6年3組『何が残ったのかな』の実践より〜
<子どもの表れ>
全校集会の「つどい」に向けて、生の声と演技で 内容を伝えることを目標に掲げた子どもたち。ポ スターや衣装などの力を借りるのではなく、直接、
自分の力で伝えられてこそ、充実感や達成感が得 られるのではないかと考えた。
物語『ガラスの小びん』で、『わたし』が結果的 に小びんの中身が萬められなくても、蕎めようと する気持ちも中身になっていくのではないかと、
語った。目に見える結果だけではなく、不安を乗 り越えていこうとする思いなど、目に見えないも のも自分への喜びや励みとして残ると考えた。
.‥・=……日日 <とらえ> …=…‥・日日■;
:自分の精一杯の力で挑んでいくことが、喜びや自分:
:への手応えになると感じ始めている。 :
!‥…‥日日…・…‥Hn‥二…‥=………!
【廉い】
自分の精一杯で取り組んだ先に、自分への手応えが 得られると信じて挑戦する子どもであり続けてほし い。それが、自分の充実感につながると考える。
<素材の魅力・価値>
須 藤 健
○伝記であること
・事実(実話)であるがゆえに、田中正造の言動に驚 きや感動をいだく。
・田中正造の一生涯を辿ることで、人の生き方に目を
謂諾票讐葦賢詐孟鐙葺準範
残したものは、すげがさ一つ、ずだぶくろ一個であ る』などから、逆境に立ち向かう正造の葛藤や信念 を貫こうとする強さを感じ、そこまでして鉱毒事件 の解決に挑み続けるのはなぜかを考えたくなる。
浩㌫浣禁誤
ぬ。それができなければ、正造は山や川とともにほ ろびる』と語る正造。自分の廣いが実現した姿を見 ることなく生涯を閉じた正造は、果たしてどんな思 いで死んでいったのかと、気になってしまう。
【教材の本業
苦しむ農民を救うために、死の直前まで足尾銅山の鉱 毒問題の解決に立ち向かい続けた田中正造の心情
【教材名】何が残ったのかな
(「田中正造」来栖良夫 教育出版 6年下)
−14−
追究のあらまし 【全体の追究】
① <r帥正雪」を読もう>
⑳③④ <息ったことや考えたことを雷き込み、出し合おう>
鉱山事業に対して 政府は、人の命よ
り公益をとった 農民が実際に苦し んでいることを、
知らなかったんだ 山県有朋の立場に 立てば、そう答弁
軸か見な目し_
農民に対して 子どもが13人も死 んだのは悲しい 農民は、国会で発 音できないから、
正造が頼りだった んだよ
数万の農民が見送 ったのは、正造へ
して
r割れるようなす」
を出したのは、必 死だからだ
死を覚悟して直訴 状を出すなんて普 通ならできない
なぜ、正造は命を かけてまで、解決
t L l■ ■ ■ − _−._ ■
: しよう
上た吸か‥;して、正造は患うようにいかない鉱毒事件を解決しよう
l■ t _
碓山車てる鴬薦盲 業への不濃や憤り;たす 何度育ってもわか
らない政府に頼る ことをやめたんだ 直訴状を出して失 敗した時は、力尽 きそうになり、死 ぬに死にきれない 気持ちだったので
農民の代表として 農民との約束を果 たすことが自分の 責任だと感じた 死んでいく時、蠣 う 気つい 持てう
な と いうか とどの ぞ︑う
だとま んちし
鰊決できるのは自 分しかいないとい う使命感があった 政府に負け続けた 正造は、絶対に自 分がやり遂げるん だと決意していた
いくら頑張っても 思うようにいかな
どこかに辞めの気 持ちもあった
やり残したことが あったから、まだ 死にたくなかった
最後の最後まで鉱 毒事件のことを考 え統けていた.最 後の言葉は、簡よ 膿しま目し
やれるだけのこと:・鉱毒¶査会がつく をやった自分をほ: られたのは解決へ めたかった : の一歩。政府に伝
き芝蒜崇浣日夏譜た嬉しさは
これ以上のことは:・命をかけてやって できないと感じる:きたことは人々に までやり切ったか:伝わっているから、
ら、悔しさはあっ;後は他の人がやっ 工も鹿t )‥‥∴日工
上足った‥喜山や川を元に回復するこ とができれば、正造は死なぬ。それができ なければ、正造は山や川とともにほろぴる。私を気づかう前に、人の 住める土地を取りもどしてく れ。Jという青葉には、正造のどんな気
t■ t
た自分への患い
もう自分が死ぬことはわかって いた。生きている間には解決で きないという焦りがあった 20年以上も一人で戦ってきたか
ら、もう限界だった。これ以上、
礪彊らなくてもいいとほっとし た気持ちもあった
r正造は死なぬJrほろぴる」は、
農民との約束を果たせなかった
詣∵∵」」.L∴
○受け継がれる
r死なぬJ rほろぴる」は、正 造の思い、魂みたいなもの。
肉体は死んでも、魂は一緒だ ということを伝えたかった 自分が死んだ後どうなるかが 心配だったから、農民に頼む ぞというより、託そうとした
自分がもう死んでしまうこと がわかっていたから、わざと
⊥‥鼻見紛二よ えに青2たみた..喜
<rすげがさ一つ、すだぶくろ一個J Lか残していかなかった正造は、
本当は鯵めな気持ちだったんじゃないの?>
○構足感あっ
自分で決めたことを景後まで頑 張ってきたことは、自分でもこ れでよかったと思っているので はないか
一人で立ち向かってきたことは ものすごく辛かったが、自分が やりたいことをやってこれたこ
とには満足しているはす 最後の最後まで農民の期待に応
自分が死んでも、農民に頑張 ってほしかった。鯵めという
より、農民を励ます気持ちだ った
全てを捧げたのに霹決できな かったことは本当に糠しかっ たが、靡決の可能性はつくれ たから、傷めではなかった 正造は、どうしたら農民たち
: えられ なか った 自分への戒 めの 喜 が 自分た ちで静 めず に、 進 んで 喜
: ・・・気鮎 ガ鮎 等 息 … … =… 一一一 : … … ほ 朋 は 声 捏 たみた … _ l :
●解決はできなかったが、命 をかけてまでやろ うとした勇気 がすごい
・最後は、今の 自分 に誇 りをもって死ね ると患 っていたのではないか
・自分が こうい う人生だったら幸せではない。 でも、正造は一生懸命 や った こ♪が童嘲りり戚l二でい るのか もしれない
【Kさんの追究】
(9
・最終的には、死ぬ前になっても鉱毒事件のことは片付いていなか ったから、すごい死ぬ前にすごい苦しくて、頚の中には、自分が 死んでも鉱毒事件はすっと終わらないかもしれないから。だけど、
そこで死んじやって、死ぬ前に、r景後の手段Jって書いてあっ たから、なんかrもはや、私に残された道は一つであるJって育 ってたから、だから、直訴状を出したんだけど、それでもだめだ ったから、最終的には死んでしまう所まで、一番最後の時には、
何か必要だって死ぬ数秒朋とか患っていたかもしれないけど、本 当に十秒ぐらい前は、これでよかったんじゃないかって思ってい
じゃないかなっ 1
も うそれ が最後ってい うか、最後 の手段だか ら、 自分の中で は解決 しないん じゃないかなってい う気持 ちもあったと患 う。
も し、 自分が死刑 になった ら、そ うい う気持 ちが無視 され ち や うってい う気持 ちもあった と息 うけど、最終手段だったか ら、数パーセ ン トだけど、それ で鉱毒事件 が終わ る可能性 も あるか ら、それを借 じてやったんだと思 う。
*妓女は、l最終手段』として暮訴状を出した正造の思いを、捨て 身や一途な思いとしてではなく、暮訴状を出すことで起こり得る 鼻の可能性に悩み抜いた末の苦渋の決断だったと替えた.Kさん の言う「傭じてやった」の「傭じて」は、正道が「解決を傭じた」
よりも、むしろ、自分の命をかけることの責任を自問自答した上 で決断した「自分を傭じようとした」正造の心憎を鼻つめている のだと私は患った.
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も う自分 が もた ない 、死 ん で しま うと薄 々気づ い てい るのに 、 鉱 毒 事件 が 靡 決 で き ない ま ま でい た か ら、 も う時 間 はな い け
ど、 山や 川 を元通 りにす る ま では 自分 は死 ね な い と 自分 で 自 分 を励 まそ うと した し、農 民 達 も励 ま した か った と息 う。最 後 ま で なん とか した か っ た け ど、 ど うしよ うもな くてす ご く 書 しか っ た と息 う。
*「自分を血まそうとした」「最鶴まで」という曹義を使い、自ら の事で鉱竃間鴨の解決を集だそうとする正造の心憎を罵ったKさ ん.「どうしようもなくて苦しかった」には、自らの事で挑めな い正造のもどかしさが込められているのだろう.そんな中で、な ぜ、正道は最鶴の最鶴に「これでよかっだんじゃないか」と思え だとKさんは替えるのか.正道の心憎を九つめ、そう思えた理由
を鼻出してほしいと患った.
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●国会義員も辞めて、自分の住む家や財産も捨てて、最終手段で直 訴状まで出して自分の命までもかけても鉱毒事件が終わらせられ なくて、周りの人はそんな正造さんに陰口を育ったり、膿めみた いに息っている人はいたと息うけど、正造さん自身は、人や動物 や自然の幸せを守るっていうか、取り戻すことを最後まで突き通 してきたか ら、 自分のことを靡めだとは思 っていない と思 う。 l
正造 さんは、最後の最後 まで 自分に何 ができるのかってす っ と考えていた と患 う。最後の青葉 も、 どうすれ ば 自分がた と え死んで も鉱竃事件が靡決 され るかってす ごく悩 んで考えに 考えていたはすだ し、 もう体は勤かないか ら、青葉で必死に 伝えて信 じるしかなかったと息 う。
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r く√乙わがでさ虐げれば丘遷ぼ山や〝とき にぼろぴあノ と言ったのぼ、き創り以′下山線材に噺於でききと膚℃きれ虎 い身分がいたか ら、′ g わ ヂそうぎゥたん どやせいかな タ>
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正造 さんは、青葉の最後に、r私を気づか う恥 こJ って育って るけ ど、それ は、農 民たちが 自分が死 んだ後に、自分たちの 力 で解決 してほしかったか らで、 自 ̄ 分 にすがった り、頼 った ままでは、一生解決できずに終わって しま うか ら、それ が rほ ろぴ るJ とい う意味で、だか ら、借 じてわ ざと突 き放す よ う に育 って、自分の心を最後の最後 に伝 えようとしたんだ と思 う一
*「傭じてわざと突き放すように言って、自分の心を最後の最後に 伝えようとした」と青ったKさん.正道は、義民の自立を促すた めの伝え方をすることで、「自分の心」を伝えたかっだと替えた.
教師の剛わりにより、もう一度、自分の傭書を貫いてきた正造を ふり逼ることで自らを問い、悩んで下した決断を傭じて歩んでい きたい自分をKさん州じ圧のだと私は替える.
−15−
1.Kさんへの願い
(1)不安や苦しみは、自分ができる限りのことをすれば、自分への満足感や充実感に変えられる Kさんの日記には、物事の大小に関係なく、 とにかく一生懸命に 前向きに 諦めないで と いう言葉が頻繁に出てくる。他の誰かに向けてではなく、常に自分に向けてそうした言葉を発すること で、自分を奮い立たせようとするKさん。小学校最後のつどいを控えた日記には、「一生懸命やれば、
終わった後に心が晴れ晴れして、笑顔になれるはずだから」と書かれていた。練習の合間も自分の台詞 を声に出しながら繰り返し練習するKさんは、やれるだけのことをやった先に味わえる達成感や充実感 を励みにしているのだ。
物語『ガラスの小びん』で、主人公の『わたし』が小びんに詰めるものは、「いい思い出だ」という 友達の発言に対し、「一番の思い出だと思う」と付け加えた。そして、「ただ、楽しかった思い出じゃな くて、すごく悩んだり、苦しかったり、それでも諦めずに頑張れたものが一番の思い出。そう思えた時、
詰めると思う」と語っていく。Kさんは、大きな悩みや苦しみから逃げずに立ち向かい続けた自分を強 く感じられてこそ思い出だと考えている。不安や苦しみは、自分ができる限りのことをすることで、自 分への満足感や充実感に変えられると信じているからなのだと私は思った。
(2)信じたくなる自分を強く感じてほしい
そんなKさんを、『田中正造』に出会わせたい。足尾銅山の鉱毒問題に一生涯をかけて挑んだにもか かわらず、鉱毒問題の解決を目にすることなく死んでいった田中正造。Kさんは、正造が思うようにい かない現実に幾度も直面しながらも、鉱毒問題の解決に挑み続けたからこそ、解決できなかった正造に は無念の思いがあると感じる。しかし、その一方で、最後まで諦めずに挑み続けた正造の信念を感じる からこそ、死んでいく正造の心の内には、そんな自分をどこか認め、許せる思いもあったはずだと考え る。 実現できなかったから ではなく、 実現はできなかったが という正造の心情を読みに表すこ とが、自分ができる限りのことをすれば、自分の満足感や充実感に変えられると信じる自分を問い、そ う信じたくなる自分を強く感じることになると私は考えた。そうした自分を少しでも感じることが、目 に見える形や結果だけではなく、自分にとっての納得を求めて歩み続けることになると考えたからだ。
2.正造の決断について考えていくKさん
(1)直訴状を出したことは、「大きなこと」
『田中正造』を読んだ最初の感想に、「田中正造さんが農民 や、被害者の気持ちを政府に伝えようとして、命まで賭けた ことは、とても簡単なことじゃないし、普通はできないよう な大きなことだ」と書いたKさん。死刑になることを覚悟の 上で出した直訴状に対し、「大きなこと」とKさんが表した
のはなぜか。私は、命を投げ出す覚悟や死をも厭わない勇気
だけでは言い表せない正造の心情をKさんが感じていたと考えている。
第5時、話し合いに入るとKさんは、「最終的には、死ぬ前になっても鉱毒事件のことは片付いてい なかったから、すごい死ぬ前に苦しくて、自分が死んでも鉱毒事件はずっと終わらないかもしれないか
ら。『最後の手段』『もはや私に残された道は一つである』って、直訴状を出したんだけど、それでもだ めだったから、何か必要だって死ぬ数秒前とか思っていたかもしれないけど、一番最後の時には、本当
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に10秒くらい前は、これでよかったんじゃないかって思ったんじゃないかなって思う」と語っていく0 正造は実現できなかったことへのもどかしさや、この先ずっと解決されないことへの不安を強くいだき ながらも、最後の最後には「これでよかったんじゃないか」と自分を肯定できる感情が生まれたのでは ないかと考えたKさん。そう考えるのは、思うようにいかない現実に何度も直面しながらも、決して諦 めずに死の直前まで鉱毒問題の解決に挑み続けた正造を強く感じるからだ。その一方で、 なぜ、正造
はこれでよかったと思えたのか という根拠については、まだはっきりとは語っていない。根拠を明ら かにするためにも、具体的な正造の言動を手がかりにすることで、正造の心情にさらに迫ってはしいと 私は思った。
(2)悩んだ末のr最後の手段』
Kさんは、死んでいった正造には悔いがあったのか、悔いはなかったのかに話題が及んでも、直訴状 を出す正造の思いについて語っていく。正造が若い時に『無実の罪で三年ほどとらえられていた』事実 をもとに、「もう牢屋なんて入りたくないと思ったと思う」というKさんの発言に対し、Mさんが、「天 皇には、この直訴状をどうしても見てもらいたいという思いだけで、もし、牢屋に入れられても悔いは なかったはずだから、Kさんの言っていることはおかしいでしょ」と疑問を投げかけた。
それに対し、「今まで何年もかけてやってきたのだから、たった一回の直訴状で簡単に解決されると は思っていなかったはず」「もし、牢屋に捕まったら、その間にどんどん鉱毒事件が発達して、農民が もっと悲惨な状態になってしまうかもしれないと思っていた」「その間でも少しでも最後の最後まで訴 え続けて鉱毒事件を解決したい気持ちが強かった」などと語った後、次のように発言する。
もうそれ が最 後 って い うか 、最 後 の手 段 だか ら、 自分 の 中 で は解 決 しない ん じゃな いか な って い う気 持 ち もあ った と思 う。 も し、 自分 が 死刑 に な った ら、 そ うい う気持 ちが無 視 され ち ゃ う って い う気 持 ち もあ った と思 うけ ど、 最 終手 段 だ った か ら、数 パ ー セ ン トだ け ど、 それ で鉱 毒 事件 が終 わ る可 能 性
もあ るか ら、 そ れ を信 じてや ったん だ と思 う。
r最終手段』としての直訴状を、自分の命を捧げてまでも鉱毒問題の解決を果たそうとする正造の一 途な思いとしてとらえているMさんにとっては、Kさんの発言が、正造の躊拷いを感じさせるものであ り、違和感を覚えたのだろう。しかし、Kさんが感じている正造の躊躇いや不安は、命をかけることだ けではなく、命をかけてまでも、それが鉱毒問題の解決に結びっかなかった場合の苦しさだ。言わば、
命をかけることに対する様々な葛藤だ。「『最終手段』だから」には、正造にとって先が不透明なまま に踏み出さざるを得ない苦しさが込められているのだろう。命までかけて訴えなければ、鉱毒問題の進 展は望めない。しかし、もし、訴えが届かないまま命だけを落としたり、牢屋に長い間入ることになっ たりしては、進展どころか、逆行することにさえなりかねない。鉱毒問題に立ち向かう意気込みだけで なく、先のことまで想定した場合に、直訴状は果たしてどれだけ農民を救う手段となり得るのかを自問 自答した正造。Kさんは、そんな正造の心の内にわき起った様々な葛藤を強く感じたからこそ、『最後 の手段』にこだわり、直訴状に踏み切ったことを「大きなこと」だったと感じたのだろう。
(3)正造は自分で自分を励まそうとしたんだ
『山や川を元に回復することができれば、正造は死なぬ。それができなければ、正造は山や川ととも にほろびる。私を気づかう前に、人の住める土地を取りもどしてくれ。』という言葉には、正造のどん
ー17−
な気持ちが込められていたのだろうか』について話し合う中で、Kさんは次のように語っていく。
もう自分 が もたない、死んで しまうと薄 々気づいているのに、鉱毒事件が解決で きないままでいたか ら、 もう時間 はない けど、山や川を元通 りにす るまで は自分 は死ねない と自分で 自分 を励 まそ うとし た し、農民達 も励 ま したか ったと思 う。最後 までなんとか したか った けど、 どう しよ うもな くてす ご
く苦 しか った と思 う。
「正造は、農民との約束を果たせなかった自分を戒めている」「自分が死んだ後、どうなるかが心配だっ たから、農民に託そうとした」など、多くの子が、解決できなかったことへの悔しさや後悔、農民たち が意志を受け継いでくれることに期待する正造の思いを語る中で、Kさんは、「最後までなんとかした かったけど、どうしようもなくて苦しかった」と、間近に迫った死を予感しながらも、自分を信じ、自
らの手で鉱毒事件の解決を果たそうとする正造の思いを語った。 とにかく一生懸命に 前向きに 諦めないで と、他の誰かに向けてではなく、常に自分に向けてそうした言葉を発することで、自分 を奮い立たせようとするKさん自身の見方を正造に重ねているように私には思えた。
しかし、いくら自分を励ましても、自らの手で農民たちとともに行動できない現実。Kさんの言う
「すごく苦しかった」には、そんな自分への焦り、もどかしさ、憤りを強く感じている正造の葛藤が込 められている。その一方で、正造の心の内には、最後の最後に「これでよかったんじゃないか」という 感情が生まれたと考えていたKさん。願いが実現できなかった苦しさを強く感じながらも、どうして最 後に「これでよかった」と正造は思えたのか。直訴状を出した時の正造の心情を見出していったKさん だからこそ、鉱毒問題に立ち向かい続けていく正造の葛藤に迫る中で、自分の見方に目を向け、最後の 言葉に込めた正造の思いを読みに表すことを私は願っていた。
(4)正造は「自分の心」を最後の最後に伝えようとしたんだ
Kさん:正造さんは、最後の最後まで自分に何ができるのかってずっと考えていたと思う。最後の言 葉も、どうすれば自分がたとえ死んでも鉱毒事件が解決されるかってすごく悩んで考えに考 えていたはずだし、もう体は動かないから、言葉で必死に伝えて信じるしかなかったと思う。
『それができなければ、正造は山や川とともにほろびる。』と言ったのは、自分が死んでも 絶対に解決できると信じきれない自分がいたから、思わずそう言ったんじゃないかな?
Kさん:正造さんは、言葉の最後に、『私を気づかう前に』って言ってるけど、それは、農民たちが自 分が死んだ後に、自分たちの力で解決してほしかったからで、自分にすがったり、頼ったまま では、一生解決できずに終わってしまうから、それが『ほろびる』という意味で、だから、信
じてわざと突き放すように言って、自分の心を最後の最後に伝えようとしたんだと思う。
最終時、Kさんは、引き続き、最後の言葉に込めた正造の心情を考えていった。「考えに考えて」「言 葉で必死に伝えて」と語るKさんは、正造の最後の言葉を、農民たちに託したメッセージに加え、奮い 立たせる手段として考えようとした。その一方で、Kさんは、「信じた」ではなく、「信じるしかなかっ
た」と語った。諦めではなく、どこまでも農民たちの手による解決を信じ、祈り続けることだけが自分 にできることだと正造が考え、自分に言い聞かせているとKさんは感じたから、「信じるしかなかった」
と語ったのだろう。そう感じた私は、鉱毒問題がこの先解決されない不安や焦りをいだきながらも、最 後までできる限りのことをしようとした正造の心情をはっきり読みに表してほしいと願い、敢えて、
ー18−
『それができなければ、正造は山や川とともにはろびる。』と言ったのは、自分が死んでも絶対に解決で きると信じきれない自分がいたから、思わずそう言ったんじゃないかな?」と否定的な読みで関わった。
「そこの所は……」と言いかけ、しばらく考え込んだ後、「後からでもいいですか?」ともう一度じっく り考えようとするKさんの姿があった。
授業の最後、Kさんが前記のように語っていく。その中で、「信じてわざと突き放すように言って、
自分の心を最後の最後に伝えようとしたんだと思う」と語ったKさん。「信じてわざと突き放すように」
「最後の最後に伝えようとした」という言葉には、農民とともに鉱毒問題を解決したいが、自分の死を 予感し、どうしても農民に託さざるを得ない正造の葛藤が表れている。たとえ自分が死んでも鉱毒問題 が解決されることを切に願い、どうすれば、農民が自分たちの力で鉱毒問題の解決に向けて歩んでいけ
るのかを正造が考え抜いた上での伝え方をしたとKさんは言いたかったのだと私は思う。Kさんの使う
「信じて」には、自分の身を案じている農民を敢えて冷たく突き放すような言い方をしなければ、鉱毒 問題の解決は望めないという正造の苦渋の決断が込められているのだろう。その一方で、Kさんは正造 が最後に農民に伝えようとしたことを、「自分の心」と言い表した。当初私は、この言葉を農民の意識 変革や自立といった農民への願いと同義に考えていた。しかし、これまで、鉱毒問題の解決がいかに困 難であるかを誰よりも強く感じている正造の心情に寄り添いながら、「最後まで」「信じて」という言葉 を何度も使い、正造の強い信念に自分の見方を重ねてきたKさん。そんなKさんは、「解決できると信 じきれない自分がいたのではないか?」という教師の関わりにより、もう一度、死の直前まで自分の信 念を貫き通してきた正造の生き方をじっくりとふり返ることで、自分ができる限りのことをすれば、自 分の満足感や充実感に変えられると信じる自分を問うたのだと私は思う。Kさんの言う「自分の心」と は、「自分で自分を信じること」だと私は考えている。正造の信念と自分の見方を重ねることで自分を 問うたからこそ、「自分の心」(自分で自分を信じること)を正造が最後の最後に農民に伝えたかったと Kさんは考えたのだろう。この読みが、「これでよかったんじゃないか」と正造自身が自分に対して思 えた根拠をKさんが見出した姿だと私は考えている。
3.Kさんにとっての価値ある学び
本追究を終え、改めて、Kさんにとっての「できる限りのこ とをする」とはどういうことなのかを考えたい。追究当初、私 は、Kさんにとっての 一生懸命 や 諦めないで を、悩み や苦しみに立ち向かうための心の持ち方や前向きさといった印 象でとらえていた。しかし、Kさんは、鉱毒問題に立ち向かう 正造のひたむきさだけでなく、果たして鉱毒問題は解決できる
のか、どうすれば鉱毒問題の解決に少しでもつながるのかと自問自答する正造の心の内を見っめていっ た。そして、そこまで悩み、下した自分の決断を信じようとした正造をKさんは強く感じていった。ま た、そこまで悩み抜いた上で下した決断だからこそ、そう決断した自分を信じることもできる正造を感 じていった。国会議員の辞職、天皇への直訴状、農民への最後の言葉など、正造は、大きな葛藤を幾度 も経ながら、どこまでも自らの信念を貫いていった。本追究を通して、正造の生き方に正造の強い信念 を感じながら、 悩んで決断した自分を信じる 自分を強く感じていったところにKさんの学びがある
と考える。これから先、不安や苦しみに直面しても、葛藤の中で自ら決断を下しながら歩んでいくこと で、自分なりの納得を積み重ねていくKさんであり続けてはしいと私は願っている。
一19−