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高次脳機能障害をめぐる医療現場の戸惑い

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Academic year: 2021

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高次脳機能障害をめぐる医療現場の戸惑い

社会福祉法人 聖徳会 岩田記念診療所,

大阪市立大学医学部脳神経外科非常勤講師・安井敏裕

【背景】

現在、高次脳機能障害者の数は男性を中心に約 30 万人と推定 されている。しかし、 「見えない障害」のため、その多くが医療 と福祉の谷間に落ちていると言われている。一方、主治医にな ることが多い脳外科医の多くには、その煩雑なイメージゆえに 高次脳機能障害の診断を忌避する傾向が見られる。私自身の 35 年間の脳外科医生活においても高次脳機能障害者にかかわる機 会はほとんど無かったが、2009 年に高次脳機能障害の患者会の 手伝いをするようになり、その頻度がふえた。今回は 2009 年か らの 3 年間の高次脳機能障害患者の診療において気づいた問題 点を報告する。

【方法】

対象は 2009~2012 に患者会から紹介された慢性期頭部外傷 患者 6 名である。6 名の主訴は「高次脳機能障害の診断書作成 依頼」であった。

【結果】

6 例全例が男性で、2006 年の厚生労働省事業-「高次脳機能 障害支援モデル事業」による診断基準(参考)に基づくと、6 名とも高次脳機能障害と診断できた。私の診療所は大阪府にあ るが、患者の住所地は大阪府 2 名、兵庫県 3 名、長崎県 1 名と、

2/3 が他県であった。受傷後 1 年以内の患者は 1 名のみで、他 の患者は受傷後 3 年 5 ヵ月~12 年 (平均 7 年) を経過していた。

遠方にもかかわらず当診療所を紹介された理由は受傷後 1 年以 内の 1 例は現在の脳外科主治医に高次脳機能障害の認識がない ためであり、残りの 5 名は元の主治医は転勤などで見つからず、

後任の脳外科医も診断書作成依頼を受けてくれない。しかも、

県内の他の病院の脳外科を数箇所回ったがすべて、 “専門外”と 断られた為であった。現在も主治医がいる受傷 1 年以内の 1 例 は通院中の病院の MSW と連絡を取り、かなり苦労したが MSW に よる院内調整の結果、その病院で診断書の作成ができた。残り 5 例中 1 例では、元主治医が勤務していた病院のリハビリテー ション部門から入手した患者データが高次脳機能障害の診断書 作成上完璧なものであったため、その病院の MSW に連絡を取り、

その病院の医師に作成してもらった。残り 4 名は私自身が作成 した。なお、6 例とも「ここの診療所に来て、初めてゆっくり 話を聞いてもらえて嬉しい」という感想を述べられておられた。

【考察】

高次脳機能障害という用語が示す内容について、私を含む多 くの脳外科医は、 「失語・失行・失認が中心症状で、これに記憶 障害を加えたもの」という共通認識を持っている。そして、こ

れらの症候の診断は難しく、言語聴覚士や臨床心理士の協力が 必須である。しかし、多くの一般病院には言語聴覚士や臨床心 理士がいない。そのため、一般病院の脳外科医は高次脳機能障 害の診断書作成を避ける傾向にある。前述した高次脳機能障害 を「学問的」高次脳機能障害と称するなら、現在、マスコミ・

法曹界・保険会社・患者およびその家族の言う高次脳機能障害 は別の概念をさしており、 「行政的」高次脳機能障害と言える。

内容的には、従来われわれが前頭葉障害ないしは認知障害

(cognitive dysfunction)と言っていた「記憶障害・注意障害・

遂行機能障害・社会的行動障害」のことをさしている。この診 断基準は 2006 年の厚生労働省事業-「高次脳機能障害支援モデ ル事業」によって作成された。この診断基準はわれわれ脳外科 医にとっては、ある意味で驚くべき内容であって、 「学問的」高 次脳機能障害の中心症状たる「失語・失行・失認」はいったい 何処へ行ってしまったのかと言う気がする。しかし、このこと は見方を変えれば、何かと診断の困難な「失語・失行・失認」

にこだわらず、主として患者の訴えで診断が可能となったとも 言える。このことに気づいた脳外科医が増えてくれば、高次脳 機能障害の診断書作成の拒否も減る可能性がある。世の中に流 布している「行政的」高次脳機能障害の概念が脳外科医の間に 周知されていないことは日本脳神経外科学会でも遅まきながら 問題になりつつあり、本年秋の総会において「外傷性高次脳機 能障害の診断と問題点」というシンポジウムが組まれることに なった。また、医師と MSW の院内での連携がうまく行っていな い現状や、MSW の力量不足によってもたらされた混乱もあった ため、高次脳機能障害に対する多職種チームアプローチの重要 性を痛感する。

(参考)

「高次脳機能障害支援モデル事業」による診断基準(2006 年)

I.主要症状

①脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確 認されている。

②現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶 障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

Ⅱ.検査所見

MRI、CT、脳波などにより脳の器質的病変の存在が確認されているか、あ るいは診断書により確認できる。

Ⅲ.除外項目

①身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-②)

を欠く者は除外する。

②受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。

③先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因と する者は除外する

Ⅳ.診断

①Ⅰ~Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。

②急性期症状を脱した後において行う。

③神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

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