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日本機械学会環境工学部門 NEE 研究会第 7 回講演討論会 2004 年 6 月 11 日 建築分野における風関連の数値解析 ( 株 ) 大林組技術研究所片岡浩人 概 要 建築分野における風関連の数値解析として 市街地内の風環境予測 ならびに風力発電量予測のために実施する局所風況予測を紹介する 風

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建築分野における風関連の数値解析

(株)大林組 技術研究所  片岡浩人 概   要 建築分野における風関連の数値解析として、市街地内の風環境予測、ならびに風力発電量予測のために実施 する局所風況予測を紹介する。 風環境予測では、計画建物の建設に伴う周辺市街地内の風環境の変化を予測する事が目的となる。そこで、G ISデータから計画地周辺の数値計算用三次元街区モデルの作成し、計算結果と最寄りの気象観測データから風環 境評価結果(ランク値)を求める事ができる、一連の機能を備えた風環境シミュレータ「Zephyrus(ゼフィルス)」 を開発した。ここでは解析方法の概要と、実在市街地を対象としたベンチマークテストの結果を紹介する。 一方の局所風況予測では、新エネルギー・産業技術開発気候(NEDO)のプロジェクトとして開発した局所風況 予測システムLAWEPS(Local Area Wind Energy Prediction System)について述べる。LAWEPSでは、水平スケー ル500km程度の1次領域から同1km程度の5次領域までの5段階の領域を1方向のネスティングにより接続し、GPV データ(20km格子の数値予報出力値)を起点として、風力発電サイト近傍の風況を予測する。特に、従来の線型モ デルでは予測困難な急峻な地形周りでの予測精度の向上に主眼をおいている。国内複数の地点で年平均風速の 実測と比較したところ、誤差10%以内というプロジェクト当初の目標を達成した。

また、非定常な乱流現象を扱うLES(Large Eddy Simulation)計算の事例として、境界層乱流中での角柱周辺気 流の予測例も併せて紹介する。    1. 風環境予測 1.1 背景 1.1.1 ビル風  2003年10月28日大阪高裁において、近隣に建設された 高層マンションによって強風が生じ、転居を強いられた として訴えた住民側の損害賠償請求を認める判決が下さ れた1)。本判決は建物建設に伴う強風、いわゆる「ビル風」 による被害を認めた初の判決である。  「ビル風」は1960年代の超高層建物の出現によって一 般に認知されるようになった。しかし必ずしも超高層建 物の周囲に限られる現象ではなく、周辺建物の平均高さ をある程度以上越える高さの建物であれば、その周辺で は「ビル風」が発生し得る。ただし「ビル風」には、例 えば平均風速○m/s以上といった数値的な定義はなく、あ くまでも建物に起因する、周辺街区内よりも相対的に強 い不快な風を指すだけである。 1.1.2 風環境評価尺度  強風によって発生する障害は、風速の変動や最大瞬間 風速による事が多い。そこで強風の発生頻度、すなわち ある風速に対してそれを越える風速が出現する超過確率 (もしくはそれ以下の風速の累積頻度)によって風環境を 評価することが妥当とされている。また対象によって歩 行者などの人体に対する影響を評価する日常的風環境評 価と、建物への物理的影響を評価する強風災害的評価と に別けることができる。  日常的風環境評価のための代表的なものとして、村上 式と呼ばれる風環境評価尺度2)がある。同尺度では、瞬間 風速と歩行者の不快感の関係を調査し、表–1に示すよう 日最大瞬間風速の出現頻度毎に分類している。  一方の強風災害的評価については、具体的な尺度が存 在しない。今後、この観点から提案が待たれる。 1.1.3 建物周辺気流の予測方法  風環境予測には、風洞実験、机上検討、流体計算の三 通りの方法が用いられてきた。このうち最も予測精度が 高いとされているのが風洞実験である。しかし一般に縮 尺模型の製作や実験自体にコストや手間がかかり、ある 程度以上の規模の物件でないとなかなか実施されない。 机上検討は、既往の風洞実験結果から該当する案件に最 も建物形状が似た例を探し出し予測を行う方法で、コス トはかからないものの予測の精度は実験に比べると劣る。 流体計算による予測は、風洞実験と机上検討の中間に位 置する手法で、特に近年のパーソナルコンピュータ(PC) の高性能化によって風洞時実験と比肩しうる精度の計算 表-1 風速出現頻度に基づく風環境評価尺度 (村上らの評価基準にランク4を追加) ランク 強風による影響 の程度 対応する空間 用途の例 日最大瞬間風速と許容 される超過頻度 10[m/s] 15[m/s] 20[m/s] 1 最も影響を受け やすい場所 住宅地の商店街、野 外のレストラン 10% (37日) 0.9% (3日) 0.08% (0.3日) 2 影響を受けやす い場所 住宅街、公園 22% (80日) 3.6% (13日) 0.6% (2日) 3 比較的影響を受 けにくい場所 事務所街 35% (128日) 7% (26日) 1.5% (5日) 4 – – ランク3以上の頻度 ここで示す風速値は地上1.5m高さで定義 例えばランク1の用途では、日最大瞬間風速が10m/sを越える日が年間37日以下であれ ば許容される。

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が可能となってきた。しかし市販の流体解析コードを用 いた予測は、使いこなすのに専門知識を必要とし、また 建物の三次元モデル化や計算格子の生成に手間を要する ので、必ずしも短期間で実施で出来るわけではない。  そこで計画建物や周辺建物のモデリングから数値流体 計算、風環境の評価まで、PC上で一貫して作業できる風 環境シミュレータ「Zephyrus(ゼフィルス)」の開発を行っ た。同ソフトでは、一般の設計者でも予測が可能なよう に計算条件の設定を自動化し、市販の電子地図を用いて 計画建物や周辺建物のモデル化を簡易化し、さらに直交 等間隔格子の採用で格子生成作業を単純化した。  ここではまず「Zephyrus」で用いられている数値解析 手法を説明する。次に実在の街区を対象とした予測結果 を風洞実験結果と比較し、予測精度の検証を行った事例 を紹介する。 1.2 基礎式  対象となる流れ場を、非圧縮性の定常流れ場と仮定し、 以下に示すレイノルズ平均された擬似圧縮性法による基 礎式3)を採用する。 ¶ p ¶ t +b ¶ ui ¶ xi = 0 ¶ ui ¶ t + ¶ uj ui ¶ xj = -¶ ¶ xi p +23k æ è ö ø +¶ xj 2ntSi j

(

)

- Fi ¶ k ¶ t+ ¶ uj k ¶ xj = ¶ ¶ xj nt sk ¶ k ¶ xj æ è ç ö ø ÷ + Pk- e + Fk ¶ e ¶ t+ ¶ uj e ¶ xj = ¶ ¶ xj nt se ¶ e ¶ xj æ è ç ö ø ÷ + ek

(

C1ePk-C2ee

)

+ Fe xi= x, y, z ui= u, u, w Si j=1 2 ¶ ui ¶ xj +¶ uj ¶ xi æ è ç ö ø ÷ Pk= nt ¶ u i ¶ xj +¶ uj ¶ xi æ è ç ö ø ÷ ¶ u¶ xi j Fi= Cfa ui uj 2 Fk= ui Fi Fe=ekCpeFk nt= sm k2 e sm = 0.09 sk= 1.0 se=1.3 C1e=1.44 C2e= 1.92 a =1.5 Cf = 0.5 Cpe = 2.0 (1) ここで、 はレイノルズ平均された値、b は擬似圧縮性 係数。(1)式の定常解が得られると、連続の式中の圧力の 時間微分項が消滅し、非圧縮性が保たれる。Fi、 FkFeはそれぞれ樹木の影響をモデル化した項4)で、各項中 の Cf は葉の抵抗係数、a は葉面積密度(樹冠単位体積当た りの葉の片側面積の和)、Cpeは樹木による乱流エネルギ ー消散に関するモデル定数。 1.3 離散化手法  (1)式を有限体積法を用いて離散化する。各物理保存量 はコントロールボリューム(CV)の中心で定義した。CV界 面の流束は三次精度の風上差分により求める。  建物形状を正確に再現するには、建物表面に沿って構 造もしくは非構造格子を生成する必要がある。しかし、 短期間でこのような格子分割を行うことは、現状では不 可能である。そこで計算格子は直交格子とし、水平方向 に等間隔、垂直方向に不等間隔格子を用いることとする。 この場合、格子形状と建物形状が一致しないため、体積 積分の際にFAVOR法5)に従う。 1.4 重合格子  直交等間隔格子の場合、例えば計画建物の近傍をより 高精度に予測しようとすると、計算領域全体の格子解像 度が上がってしまう。そこで、複数の直交格子を重ね合 わせ、計算領域全体と計画建物近傍で異なる格子解像度 のもとで計算が出来るよう重合格子法6)を採用した。  格子間では図-1に示すような双方向のネスティングを 行う。すなわち詳細領域(内側の格子)の外周部では、最寄 りの全体領域(外側の格子)の格子点の値から線型補間に より与える。一方外側の格子では、重なり合った部分の 格子点の値を内側の格子点の値から線型補間より求める。 以上の操作を各繰り返し計算毎に行う。 1.5 境界条件  風上境界では、建築物荷重指針7)に従って式(2)に示す流 入気流分布を与える。ここでU(z) は高さ z [m]における絶 対値風速[m/s]、U(zG) は境界層厚さ zGにおける風速。べ き指数a と地表面粗度区分の関係を表-2に示す。建物表 面ならびに地表面では、滑面での対数則を用いる。

U(z)= U(zG)´ min(z, z

{

G)/ zG

}

a

k= 0.1U(z

[

G)´ min(z, z

{

G) / zG

}

- 0.05

]

2 e = sm1/ 2k ¶U ¶ z (2) 1.6 計算制度の検証 1.6.1 計算例 1 対象街区 図-2に計算領域として、地図データより作成 された三次元モデルと、比較対象となる風洞実験模型を 示す。対象地域は河川に沿った工場地帯で、低層建物主 図-1 重合格子 表-2 流入境界条件のパラメータ 粗度区分 I II III IV V zG[m] 250 350 450 550 650 a 0.10 015 0.20 0.27 0.35

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体の街区が隣接している。計算領域全体(1st Grid)の大き さは880m×880m、詳細領域(2nd Grid)の大きさは400m× 275m。地図データにない計画建物は、配置計画図をCRT 上で地図データと重ね合わせ、外形をマウスクリックに より入力した。 格子分割 詳細領域を5m、全体領域を10mの水平格子解 像度で離散化した。高さ方向の領域は150mとし、不等間 隔に30個の格子に分割(最小格子幅1m)分割した。 計算結果 計算は粗 度区分III、16風向で 行った。領域内に設 けた75点の評価点× 1 6 風向の 風速比( 最 寄りの気象観測所の 風速に対する風速の 比)の、同領域を対象 とした風洞実験結果 (模型縮尺1/400)との 相関を図-3に示す。  図より、高風速側 では計算結果が実験 値より15〜20%程度大きく評価する傾向がみられ、一方 低風速側ではばらつきが大きくなり、実験値を下回るポ イントも多くなる。風洞で用いた気流分布ならびに建物 模型の形状が、計算とは完全には一致していないことが、 予測誤差の原因として考えられる。 1.6.2 計算例 2 解析対象と格子分割 そこで、建物形状並びに流入気流 分布を、風洞実験に用いた街区模型のCADデータならび に風洞内気流測定結果にあわせた計算を行った例8)を示 す。同計算は、建築学会「流体数値計算による風環境評 価ガイドライン作成WG」のベンチマークテストの一環と して行われたもので、1/250の風洞実験と共に、市販の汎 用コードを用いた非構造格子による計算結果との比較も 行った。対象となる街区のモデルを図-4に、計算格子を 図-5に示す。格子解像度はZephyrusの場合、全体が水平解 像度5m、計画地周辺 が2m、両格子の合計 は約51万。一方の非 構 造 格 子 の 場 合 に は、建物表面を0.6m の プ リ ズ ム 要 素 で 分割し、総要素数は 約80万。 計 算 結 果   現 地 の 主風向である風向NNEの時の風速比の相関を図-6に示す。 計画建物の風下に位置する後流域ではばらつきが大きく、 かつ全般に計算結果の方が実験よりも低い風速比を示す 傾向にある。一方それ以外の場所では、実験結果との対 応は良い。後流域での差は、実験で用いたサーミスタ風 速計がスカラー風速の平均値を測定するのに対して、計 算では平均速度ベクトル場から風速を求めている事に一 因がある。一方、Zephyrusと非構造格子を用いた結果に は大きな差はなく、十分な格子解像度であれば直行等間 隔格子を用いた計算結果でも遜色のない事が示された。  気象官署における観測値をもとに村上式のランク評価 を求めたのが図-7である。風洞実験と数値計算の双方に 基づく評価結果は全般的に良い対応を示している。  以上の実在市街地を対象とした2例から、低風速域での 計算モデル 風洞実験模型(scale:1/400) 図`-2 解析対象となる街区モデル 図-3 実験結果との風速比の相関 評価点75点×16風向 図-5 格子分割図 (左:Zephyrus、右:非構造格子) 図-6 風速比の相関 風向NNE、評価点80点 (左:Zephyrus、右:非構造格子) 図-7 村上式によるランク評価結果 (左:風洞実験結果、右:Zephyrus) 図-4 解析用のCADモデル

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解析精度に課題を残すものの、本来の目的である強風域 の予測は達成している。 1.7 まとめと今後の課題  2000年6月にZephyrusを社内で運用開始してから、これ までに約60件(2004年5月末時点)の予測を実施し、事実上、 実用化の域に達している。一方、建築学会「流体数値計 算による風環境評価ガイドライン作成WG」において、計 算領域の大きさや格子解像度、境界条件の設定方法など、 最低限クリアーすべき条件の明示を試みている。今後は このガイドラインを活用することで、Zephyrus開発の本 来の目標にあったように、専門家だけでなく設計者の手 による風環境の予測へと道を開きたい。  2. 風力発電量予測 2.1 背景  2002年に批准された京都議定書に基づいて、1990年を 基準として2008年から2012年の間に、温室効果ガスの発 生量を6%削減することが目標となった。これにあわせて 2003年に新エネルギー特別措置法が施行され、再生可能 エネルギーの導入促進が図られることとなった。この中 でも風力発電は2010年時点での導入目標を300万kWに設 定した(2003年9月の時点で総設備容量45万kW)。  上記の目標を達成するためには、風況、風車設置のた めの立地条件、連系可能な既存電力系統までの距離等の 項目を考慮の上、適地の選定を行わなくてはならない。 特に風況は風力発電事業の採算制を大きく左右する。  従来、風況予測には現地の風観測データと、線型解析 解に基づくモデルであるWASP9)やAVENU10)が、取り扱い の簡便さもあり、広く用いられてきた。しかしながら我 が国の地理的な条件を考えると、欧米などに比べて地形 の起伏が激しいため対象地域によっては予測精度が不十 分となる可能性が指摘されてきた11)。また1997年に新エ ネルギー・産業技術開発気候(NEDO)が「風力発電新技術 開発可能性調査」12)において風力発電事業者に対して行 ったアンケート結果でも、上記の線型モデルによる予測 が実際とあわない、あるいは我が国の実情にあわせた風 況予測モデルの必要性を指摘する声が高かった。  以上の経緯をふまえて、NEDOの研究プロジェクトの 一環として、我が国のような複雑 地形上においても精度良く風況を 予測できる新たな局所風況予測モ デルLAWEPS(Local Area Wind E nergy Prediction System)を構築す ることとなった。最終的な目標は 「勾配5%以上の地形条件を含む すべての地域に適用可能」でかつ、 「年 平 均 風速 の 予 測 誤差1 0 %以 内」とした。この目標達成のため には、数値流体力学(CFD)に基づく モデルの開発を行うとともに、モデルの作成および検証 のためのデータ取得を目的として風洞実験と野外観測を 実施した。 2.2 LAWEPSの概要 2.2.1 モデルの構成  風況に影響を及ぼすさまざまな現象を適切に考慮する ためには、その現象スケールに見合ったモデルを用いる 必要がある。そこで表-3に示す5段階のモデルを接続して 一方向のネスティングを行い、計算結果を次の領域の境 界条件として受け渡す。大規模地形やメソスケール規模 の気象現象を対象としたモデル(気象モデル、1〜3次領域、 z*座標系)と、小規模地形や植生の影響を考慮したモデル (工学モデル、4〜5次領域、一般曲線座標系)という、方程 式系や座標系の異なる領域を接続することに、本計算手 法の特徴がある。  あるいは見方を変えれば、気象モデルで従来の現地風 観測に相当する情報を取り出し、工学モデルで風力発電 サイト予定地の風況を予測する事に相当する。また工学 モデルでNavier-Stokes方程式を解くことにより、従来の 線型理論に基づいた手法では予測誤差の伴う複雑地形ま わりの気流を予測することとなる。 2.2.2 気象モデル(1次〜3次領域)  気象モデルには日本気象協会の局地気象モデル(ANE MOS)に改良を加えたものを利用している。同モデルでは 運動量の輸送方程式の他に温位、水分混合比の輸送方程 式も解き、鉛直方向の運動方程式には静水圧近似を用い ている。乱流に対しては、Mellor-Yamadaのレベル2.513) を改良した中西のclosure model14)を用いた。また1次領域 ではGPVデータを初期値とし、3時間毎に同データを境界 表-3 接続する領域の詳細 領 域 水平 規模 格子 間隔 モデルおよび対象となる主 な現象 1次 500km 5km 2次 100km 1km 3次 50km 500m <気象モデル> 高低気圧・海陸風・大規模 地形等の影響 4次 10km 100m 5次 1km 10m <工学モデル>小規模地形・ 植生・地表面状態等の影響 図-8 気象モデルによる予測結果 (2001年8月15日12:00、地上10m)

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条件として更新させながら解析を行っている。図-8に気 象モデルによる潮岬周辺の風況の予測結果を示す。 2.2.3 工学モデル(4次〜5次領域)

 図-9は山越え気流の予測で考慮すべき種々の流れ場を 示したものである。剥離や再付着を伴う乱流場の精緻な 予測には、現状ではLES(Large Eddy Simulation)の利用が 望ましい。しかし実用の観点からは、レイノルズ平均に 基づくモデル(RANSモデル)の使用は避けられない。そこ で長野・服部によって提案された線型型の改良k-εモデ ル15)を採用した。式(3)にその要点を示す。 nt=Cmktm tm = 12 1 tm +Cs ts æ è ç ö ø ÷ ì í î ü ý þ -1 tm =k e ts=S2 +W S= SijSij Sij= 1 2 ¶ ui ¶ xj + ¶ uj ¶ xi æ è ç ö ø ÷ W = WijWij Wij= 1 2 ¶ ui ¶ xj -¶ uj ¶ xi æ è ç ö ø ÷ Cs= 0.4 (3) ここでtmは乱流の時間スケールを表している。長野・服 部はtmに通常のk-εモデルで使用される時間スケール

t

m

= k /e

と平均流の速度勾配によって決まる時間スケ ールtsとの調和平均から得られる、混合時間スケールを 乱れの時間スケールとした。なお(3)式は、元々低レイノ ルズ型のモデルとして提案されたものを、壁面近傍でLo g Law型のwall functionを用いた場合にも利用できるよ うに拡張したものである。LAWEPSでは地形や利用状況 に応じて両者の使い分けが可能である。 2.2.4 樹木キャノピーモデル  樹木の有無は地表面の気流に大きな影響を及ぼす。そ こで、樹木キャノピーモデルを工学モデルに組み込んだ。  モデル式はZephyrusの基礎式(1)に示した Fi、 Fk、 Feと 同じである。ただし、森林のような群落の樹木を扱うの で、以下に示すような値を用いることとした。 a= HLAI canopy Cfi= 0.2 CPe =1.5 -2.0 (4)

ここで LAI は葉面積指数(Leaf Area Index)で、単位地上専

有面積当たりの全葉面 積を表す値で、植物の 種類に応じて4〜8の値 をとる。LAI を樹木の高 さ Hcanopyで割ることで、 単位体積当たりの葉面 積密度 a が求められる。 LAI と Hcanopyは現地調 査に基づく設定が望ま しい。ただし便宜上、 両者を土地利用区分毎 に定義し、また季節変 化にも対応した。  工学モデルの検証のため、図-10に示す潮岬の2箇所の ポイントでの野外観測データとの比較を行った。風速の 鉛直分布の比較を図-11に示す。いずれの場所でも観測デ ータの対応は良い。 2.2.5 年平均風速の算出方法  従来のWASPなどのモデルでは、観測データをもとに 流入気流をいくつかのパターンで代表させ、パターン毎 の予測値に各パターンの年間出現頻度をかけることで、 年平均風速を求めている。しかし年間の流入条件を複数 のパターンに分類することは必ずしも容易ではない。一 方、時系列的に現象を追跡し時間平均値として年平均風 速を求めることができれば、パターン分類の問題は生じ ない。しかし1年間の風況を365日×24時間の非定常解析 で再現することは、特に工学モデルの実行の上で現実的 ではない。1年間を等間隔にサンプリングした日数ならび に時間で代表させることが必要となる。  そこで全国の気象官署の観測データから、任意に設定 した日数または時間間隔で間引いたデータで年平均風速 を求め、全データを用いた場合との比較を行った。その 結果、日数については6日毎に、1日を12時、18時、24時、 翌朝6時の4時刻で代表させることで、妥当な誤差範囲に 抑えられることが解った。従って年間の風況を、60日×4 時刻の240ケースで代表させる。 2.3 予測結果の検証  以上の手法を用いて求めた年平均風速の値を、観測値 図-9 山越え気流で考慮すべき流れ場の要素 図-11 工学モデルの検証結果 (2000年12月15日15:00) 図-10 潮岬周辺の4次領域 (図中の長方形は5次領域)

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ならびに既存の線型モデルによる予測値と共に表-4に示 す。いずれの地点も周辺に5%以上の傾斜地が存在する場 所である。また線型モデルによる予測では、最寄りの気 象官署またはアメダスの観測データを用いた。いずれの 地点でもLAEPSによる予測値は年平均風速で10%以内の 誤差に納まり、プロジェクト当初の目標を達成した。一 方の線型モデルでは、予測精度の良い地点がある一方で、 崖上にある潮岬のSite Aのようには30%以上の予測誤差 が生じ、総じて予測精度にばらつきがある。 2.4 まとめ  広領域の気象現象を対象とした気象モデルと、地形ま わりの小スケールの現象を対象とした工学モデルを接続 することで、風力発電適地選定のために必要な風況予測 手法の開発を行い、予測精度10%以内という当初の目標 が達成された。また風力発電量は、LAWEPSの出力から 風況曲線を求めることで予測可能である。ただし、風車 の安全性や耐久性に影響を与える気流の乱れ、あるいは 風車の後流の影響など、本プロジェクトの対象外ではあ るが、風力発電適地選定に重要な要素が今後の検討課題 として残った。  なお本プロジェクトの成果品であるLAWEPSの工学モ デルならびに気象モデルのデータは、日本気象協会より 実費で配布されている。詳しくは

http://www2.infoc.ned

o.go.jp/nedo/top.html

を参照のこと。  3. 境界層乱流のLESによる予測 3.1 はじめに  1章で述べたように風環境評価の指標となる風速は日 最大瞬間風速である。しかし現在は、風洞実験や数値計 算で得られた平均風速にガストファクター(突風率)をか けて、最大瞬間風速を求めている。また2章の最後で述べ たように、風車の安全性や耐久性の評価には気流の乱れ が重要となる。同様に建築構造物に加わる風荷重は、壁 面や屋根面に作用する平均風圧だけでは決められず、ピ ーク風圧や変動のスペクトル形状を考慮する必要がある。 このような、風速変動に伴う現象把握には、RANS系のモ デルは適さず、LESで予測を行うことになる。 3.2 境界層乱流の生成  風洞実験では、風洞の床面にラフネスブロック等を設 置して、粗面上に発達する境界層乱流を生成している。 数値計算で同様のプロセスを経て境界層乱流を生成する ことは現実的ではない。  筆者らはLundらの乱流境界層の生成法16)を簡略化し、 予め指定された平均速度分布のもとで、計算領域の風上 境界で変動流入を与える方法を提案した17)。以下にその 概要を示す。  まず計算領域の風上側に変動流入風生成の為の領域 (ドライバ部)を設ける。このドライバ部では風方向(x方 向)ならびに風直角方向(y方向)に周期境界条件を課し、鉛 直方向(z方向)には床面をno-slip、天井面をfree-slipとして チャンネル流れを解く。ただし、出口の風速の瞬時値 u をそのまま流入に戻さずに、平均成分 u と変動成分 ¢ u に分離し、予め決められた平均速度分布に加えた上で、 流入条件とする.。式で表すと(5)式となる。

uinlt(y, z,t)= uinlt(z)+ f(q )´{urecy( y,z,t)- u recy( y,z)}

uinlt(y, z,t)= f(q) ´urecy(y, z,t)

winlt(y, z,t)= f(q) ´{wrecy(y, z,t)- w recy(y, z)}

f(q) =12 1- tanhé (1- 2b)q +ba(q -b) ë ê ù û ú tanh a ì í î ü ý þ q = z /h (5) Lundらの本来の手法ではドライバ入り口(添字inlt)と出口 (添字recy)間での境界層厚さ q の発達を考慮して、鉛直方 向のリスケーリングを行っている。ここでは通常の風洞 実験気流の場合、その変化は無視し得るものとみなし、 その代わり減衰関数 f(q) を用いて、必要以上上空に境界 層が発達するのを防いでいる。 3.3 角柱まわりの気流分布  ここでは富永らの4:1:4 (見付幅B:奥行きD:高さH, D=5cm, UH=5.13m/s)の角柱周りの風洞実験結果18)を対 象としたLESの結果19)を紹介する。図-12に計算に用いた 格子分割図を示す。x/H=-11~-3をドライバ部として用い た。解析は非定常擬似圧縮性の基礎式を三次元一般曲線 座標上に変換し、有限体積法により行う。乱れのSGS成分 表-4 予測結果の検証 地上30mの年平均風速の比較 潮岬 地点 Site A Site B 沖縄県 伊是名島 岩手県 住田町 鹿児島県 根占町 地形の特徴 半島南端の7 0m崖上 半島東側の 山中 離島内陸の 平地 北上山中の 複雑地形 大隅半島の 急峻地形 実測 [m/s] 5.31 4.29 6.09 6.07 6.7 LAWEPS 5.51 (+3.77) 4.17 (-2.80) 6.16 (+1.15) 6.51 (-2.83) 6.37 (+4.71) WASP 3.66 (-31.10) 4.35 (+1.40) 5.36 (-11.20) 8.71 (+30.00) 6.05 (-0.33) 計算値 [m/s] (予測誤差[%]) AVENU 4.40 (-17.10) 4.60 (+6.70)

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に対するモデルを用いる代わりに三次精度の風上差分 (数値粘性はUTOPIAスキームの半分)でその代用とする。  生成された流入気流分布を図-13に、角柱周辺気流分布 を図-14にそれぞれ示す。流入気流では、上空の乱れの分 布に課題を残すが、角柱高さ以下( z / H <1)の範囲では、 ほぼ実験条件を再現している。また角柱周辺の平均気流 分布も同様に良く再現されている。  ここでz / H=0.0625の水平断面内に着目し、表面付近で の風環境がどういう状態であるか考察する、まず、通常 の風環境予測を対象とした風洞実験で用いられるサーミ スタ風速計の測定値として得られるスカラー風速の平均 値と、RANS系のモデルを用いた解析で得られる時間平均 風速ベクトルの分布を比較する。定義より、角柱風下の 低風速領域で両者の差がでる。そこで変動風速から求め た乱れエネルギーk で修正を行ったのがc)で、d)に示すよ うに両者の相関は改善される。また最大瞬間風速となる 時の風速ベクトルf)を平均ベクトル分布d)と比べると、角 柱風上側に風上方向への逆流に伴う変動が原因となる突 風が吹くことが解る。  次に図-16に示した水平断面内のガストファクターの 分布と、平均スカラー風速との相関を図-17に示す。図中 の曲線は、高森ら20)が風洞実験から求めた両者の相関を 表す近似曲線式である。実験では市街地模型を対象とし 図-12 角柱まわりの計算格子 (総格子点数 502,127). 図-13 流入気流条件. 図-14 平均速度分布 (上:鉛直中心断面 下:水平面). a) スカラー風速の平均値 b)平均風速ベクトルの絶対値 c) (|< u >|2+2k)0.5/UH d) 修正後の相関 e) 平均速度ベクトル分布 f) 最大瞬間風速ベクトル 図-15  z / H =0.0625水平断面内平均風速 z/H=0.0625 z/H=0.125 図-16 水平断面内のガストファクター分布 図-17 ガストファクターと平均風速の相関

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ているが、同近似式と本計算結果の対応は良い。  4. まとめ  建築分野における風関係の数値解析として、環境予測 と風況予測の例を紹介した。乱流にRANSモデルを用いた 解析は、最近のPCの高性能化に伴って、計算時間の面で は実用化の域に達している。また、汎用ソフトによる解 析では、解析条件の設定や現象のモデル化にそれなりの 知識や経験を要するが、ZephyrusやLAWEPSのように、 目的となる現象に特化することで、これらをある程度簡 略化できる。  一方、建築構造物の風荷重予測にはLESによる予測が 必要となる。本稿では触れなかったが、現在建築学会で 作成中の「建築物の耐風設計のための流体計算ガイドブ ック」(主査田村哲郎東京工業大学教授)では、同目的のた めのLES解析例を紹介する予定である。ただし、解析時 間を考えると未だ実用化段階とは言えない。風洞実験に 置き変わるためには、ハード、ソフト両面で飛躍的なの 進歩が要求される。  5. 謝 辞 「Zephyrus(ゼフィルス)」の開発には、(株)石川義高氏 (株式会社CSK)の多大な協力を得た。また風洞実験結果 との比較には、持田灯助教授(東北大)を主査とする建築学 会「流体数値計算による風環境評価ガイドライン作成 WG」における成果を利用させていただいた。また局所風 況予測システムLAWEPSに関する部分は、村上周三教授(慶 應大学)を研究代表とするプロジェクト研究メンバーの 研究成果を筆者の責任でまとめたものである。末筆なが ら、関係各位に謝意を表する。  参考文献 1) あべの総合法律事務所:堺市風害事件(ビル風被害) 大 阪 高 裁 判 決( 全 文 ), http://www.abenolaw.jp/10-1-1=fugaijiken-osakakousai151028.htm 2) 村上・岩佐・森川:市街地低層部における風の性状 と風環境評価に関する研究(III)居住者の日誌による 風環境調査と評価尺度に関する研究、 日本建築学会 論文報告集, No.325, pp.74〜84, (1983.3)

3) Chorin, A. J. : A Numerical method for solving incompressible viscous flow problems, J. Comp. Physics、 Vol. 2, pp. 12~26, (1967)

4) 加藤, 持田, 吉野, 村上:Canopyモデルを組み込んだ k-εモデルによる単独樹木周辺の風速分布の予測、 日本建築学会大会学術講演梗概集 D-1, pp. 929~930, (2001.9)

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9) Sandström, S. : WASP-a comparison between model simulations and measurements, Wind Energy Report WE 94:2, Dept. of Meteorology, Uppsala University, (1994) 10) Lissaman, P. B. S., Foster, D. R., Rumbaugh, J. H. and

Boulder, C.:Technical description of AVENU, Proc. Annual Meeting of ASES, pp.19-22, (1989)

11) 千代田デームス・アンド.・ムーア(株):「大型風力 発電システムの開発 局所風況予測手法に関する調 査」, 平成10年度NEDO委託業務成果報告書, (1999) 12) NEDO 新エネルギー技術開発部:第1回「離島用風 力発電システム等技術開発」(事後評価)分科会資料, www.nedo.go.jp/iinkai/kenkyuu/bunkakai/15h/1/1/4-3.pdf, (2003)

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参照

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