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演奏しやすいステージ音場に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)演奏しやすいステージ音場に関する研究 酒井 伸明. 1. はじめに 聴衆によい音楽を提供するためには,演奏者が気持 ちよく演奏できるステージ音場を創り出す必要がある。 ステージ音響に関しては,Gade 1) による評価指標 ST の提案があるが,これは反射音の時間情報のみに着 目しており,方向情報は考慮されていない。一方,客 席音場の空間印象 (LEV) は反射音の方向情報に関係す ることが示されている。 この様な背景から,本研究室ではステージ音場にお いても反射音の方向情報が “演奏しやすさ” に関係する のではないかと考え,反射音方向分布の異なる模擬音 場を用いた “演奏しやすさ” の評価実験を行い,ST が 等しくても反射音方向分布が異なると演奏しやすさに 違いが認められること 2)3)4)5) ,特に後方からの反射音 エネルギが大きい音場を演奏しやすいと評価する傾向 が強いことを示してきた 6)7) 。 しかしながら,これらは主として下方に指向性を持 つクラリネットで得られた結果であり,指向性の異な る楽器の場合には演奏しやすいステージの反射音方向 分布も異なるかもしれない。 そこで本研究では,演奏する楽器の指向性が演奏し やすい反射音方向分布に与える影響について検討する ことを目的として,クラリネットと異なる指向性を持 つ楽器として主に後方への指向性を持つホルンに着目 し,ホルン奏者を対象とした音場評価実験を行った。更 に,これまでの知見を踏まえ,実際のステージ上で演 奏者の演奏しやすい音場の反射音方向分布を実現可能 であるかについて幾何音響シミュレーションを用いて 検討を行った。 2. ステージ音場の演奏しやすさ評価実験 2.1 実験方法 実験は,実ホールのステージ上で測定した方向別 (6 方向) のインパルス応答を用いて模擬音場を構成し,ホ ルン奏者に演奏しやすさの評価を行ってもらった。こ れは,被験者の演奏音を単一指向性マイクロホンで収 音し,これにステージ音場を模したインパルス応答を リアルタイムに畳込み,無響室内の左右上下前後の 6 方向のスピーカから反射音として発生させ,被験者に 楽器を演奏しながら “演奏しやすさ” について評価して. 図-1 実験システム. 44-1. 図-2 実験 I の音場群 もらうというものである。実験システムを図-1 に示す。 実験は 2 種類あり,各実験とも反射音方向分布が異 なる 5 つの音場について評価してもらった。これらは, 実ホールのステージ上で測定した 6 方向のインパルス 応答の振幅を変化させることによって方向別の反射音 の強さを変えたものである。 被験者は 20 年以上の演奏経験を有するプロのホルン 奏者 8 名である。評価に用いる楽曲は,なめらかな旋 律を持つ「グリーンスリーブス」を指定した。実験は, 各実験の 5 音場を対にした全 10 対をランダムに 2 回提 示し,一対比較法により評価させた。被験者に求めた 評価は, 「響きの量の良悪」「響きの長さの良悪」「響き の質の良悪」「響きのバランスの良悪」「ステージの広 さ」 「客室の大きさ」と「客室への音の到達感」の全 7 項目である。 2.2 実験 I はじめに,実験 I として,クラリネット奏者による 実験で用いた音場と同じ 5 音場について実験した。 用いた音場 (a,b,c,d,e) の方向別反射音分布を 図-2 に示す。クラリネットは下を向いており,ステー ジ上では床の反射音が大きいので,これら 5 音場は下 方からの反射音エネルギを大きく設定し,その上で,a は左右と前後の反射音エネルギをほぼ等しく,b は左 の反射音エネルギを大きく,c は前の反射音エネルギを 大きく,d は左と前の反射音エネルギを大きく,e は後 の反射音エネルギを大きく設定している。 評価方法は,各項目ごとに対象音場が比較音場に対 し “良い” と評価された場合を 1 点とし,実験回数 (実 験 I では 160 個 (=被験者 8 名 ×10 対 ×2 回)) で合計 し,さらに全 7 項目について総合し,それを 100 点満 点に換算した “総合得点 (Score)” を算出した。 結果を図-3 に示す。5 音場には評価の差がほとんど 現われなかった。これは,ホルンは主に後方に指向性 を有しているため,ホルン奏者は普段は後方からの反 射音が強い音場で演奏しているが,実験 I で用いた音場 はすべて下方が主な指向性となっているためにホルン.

(2) 図-3 各音場の総合得点 (実験 I). 図-5 各音場の総合得点 (実験 II). 奏者には普段とかなり異なる音場となってしまい,音 場間の差異を判断できなかったものではないかと推測 される。 2.3 実験 II そこで,実験 II として,実験音場を,ホルンの指向 性を配慮して後方からの反射音エネルギを大きくした ものに改め,実験を行った。 後方に主な指向性を有するホルンの特徴を反映させ るために,実験 I で用いた音場の後方と下方の反射音 エネルギの割合を入れ替え,後方から反射音の割合を 大きくした音場 (f,g,h,i,j) を作成した。これらの 方向別反射音分布を図-4 に示す。 被験者 8 名の実験結果をみたところ 3 名の被験者の 回答が不安定であった。理由は不明である。そこで,評 価の安定している被験者 5 名の回答を実験結果として 用いることにした。 実験 I と同様に “総合得点” を算出した (図-5)。図よ り,音場 j の評価が特に高くなっていることがわかる。 j は,左右の反射音エネルギは均等で下方からの反射 音のエネルギが大きい音場である。評価の低い音場は, 音場 h と音場 i である。h は,前方からの反射音エネル ギが大きく,左右の反射音エネルギは均等な音場であ る。被験者から “高音,強音で吹いた際の響きの量が 大きすぎる”,“残響がかなり気になる” などのコメン トが挙げられた。ホルンの場合,演奏者には前方から の反射音はあまり到来しないと考えられ,演奏者は音 場 h に違和感を感じたと推測される。 以上より,ホルンの指向性を考慮した音場で実験を 行った場合,演奏者は下方からの反射音エネルギが大 きい音場を高く評価し,また他の方向に比べ,一方向 から極端に大きな反射音エネルギを有する音場を低く 評価する結果となった。 2.3.1 クラリネット奏者による結果との比較. 図-4 実験 II の音場群. 44-2. 下方に主な指向性を有するクラリネットの場合,演奏 者は後方からの反射音エネルギが大きい音場や左右の 反射音エネルギのバランスが崩れた音場を高く評価し ていたのに対し,後方に主な指向性を有するホルンを 対象とした本実験では,演奏者は下方からの反射音が 大きい音場を高く評価しているという結果である。す なわち,演奏者は演奏する楽器の主な指向性の方向と は異なる方向からの反射音を演奏しやすさの判断に用 いている可能性が示唆される。 2.4 まとめ 以上のことから,演奏者が演奏する楽器の指向性が 異なると,演奏しやすい音場の反射音方向分布が異な ることが分かった。これは,演奏楽器の指向性が変化 することで演奏者に到来する反射音の方向分布も変化 することが原因として考えられる。また,ホルン奏者 は下方からの反射音の割合が大きい音場を好み,今回 の実験結果とクラリネット奏者の実験結果から,演奏 者は演奏する楽器の主な指向性の方向とは異なる方向 からの反射音を演奏しやすさの判断に用いていること が推測される。. 3. 演奏しやすいステージ形状の検討 前章では演奏者の演奏しやすい音場の反射音方向分 布について検討を行った。実際にこの様な音場を持つ ステージを実現するにはステージの形状や部材の吸音 率について検討が必要である。今回は過去の実験結果 を基に,クラリネット奏者が演奏しやすいと評価した 反射音方向分布を,演奏機会の多いステージ中央で実 現するステージ形状について幾何音響シミュレーショ ンを用いて検討した。前章から演奏しやすい音場には 楽器の指向性が影響することが示唆されたため,シミュ レーションでは音源に楽器の指向性を設定した。 3.1 クラリネット奏者の演奏しやすいステージ形状の 検討 心理実験の結果から,クラリネット奏者は “後方から の反射音エネルギの割合が大きい音場” を演奏しやす いとしている (以降,このような音場を「クラリネット 用音場」と呼ぶ)。しかし,側壁がフラットなステージ では,側壁で反射した音は客席方向へ伝搬し,ステー ジ上の演奏位置において後方から十分な反射音エネル ギを得ることは困難であると考えられる。 そこで,側壁に 3 角柱の拡散体を垂直に配置してス テージ上で反射音エネルギを拡散させることによって, 後方からの反射音エネルギを確保できるのではないか と考えた。拡散体を設けることによって,“後方からの 反射音エネルギの割合が大きい音場” にどの程度近づ けられるかを幾何音響シミュレーションによって検討 した。.

(3) 表-2 拡散体の寸法比. 表-1 構成部材の吸音率. 図-6 ステージの基準モデル. 3.1.1 解析条件 音場シミュレーションには音線法,虚像法のハイブ リッド手法を用いたソフトウェア (CATT-Acousitics) を用い,放射音線本数 100,000 本,音線の追跡打ち切 り時間 (分析時間)400 ms,空気減衰の影響は無いもの とした。 3.1.2 解析モデル 収容人数 700 人程度の中規模ホールのステージを想 定し,幅 18 m,奥行き 9 m,高さ 9 m の直方体ステー ジを基準モデルとした (図-6)。ステージの床,壁,天 井の吸音率を表-1 に示す。このモデルに拡散体を配置 する。拡散体の断面形状は,2 等辺三角形 (A パターン) と断面の 3 角形の頂点が中心から客席方向へずれてい るもの (B パターン) の 2 種類とした (図-7)。これらの パターンについて,拡散体の幅を w としたとき,3 角 形の底辺から頂点の高さ h を,0.1w ,0.2w,0.3w とし た 3 種類の 3 角柱を側壁に配置した (拡散体 a,b,c)。 ステージ片側に配置する拡散体の数 N は,3,4,6 個 の 3 ケースとした (左右側壁の N は統一)。N を変え たときの拡散体の寸法 w ,h を表-2 に示す。 断面形状 2 パターン,拡散体の山の高さ 3 種類,側 壁の配置数 3 ケースの全 18 モデルについて検討を行っ た。解析モデルの表記は STxyz とした。ここで,x は 断面形状のパターン (A,B),y は側壁に配置する拡散 体の数 (3,4,6),z は拡散体のタイプ (a,b,c) を表 している。全モデルともにステージの容積は基準モデ ルと同じ 1,458 m3 とした。なお,今回はステージ形状 が反射音方向分布に与える影響を見ることが主題であ るので,開口面の吸音率を 1.0(完全吸音) とした。 3.1.3 音源と受音点 受音点は,ステージのセンターライン上とその左右 0.5 m のライン上に,客席側先端部より 2 m,4 m,6 m の 3 列の合計 9 点とした (図-8)。受音点の高さはすべ て 1.1 m とした。. 図-8 受音点の位置 (平面図) クラリネットの指向性を考慮するために音源に指向 性を設定することにし,文献 8) に示されている指向性 を基にモデル化した。すなわち,音源の周波数範囲を 125~4k Hz(1/1 Oct.) とし,中心周波数 1k,2k,4k Hz について図-9,図-10 に示す指向性を,これ以外の周波 数帯域は無指向性とした。図-10 は,X-Y-Z 軸 (図-9) を基に回転した X’-Y’-Z’ 軸における放射音の相対レベ ル [dB] を表している。なお,音源のパワーレベルは各 周波数ともに 90 dB とした。クラリネットは,高音域 は主に管尻から放射され,低音域は管軸の指孔からも 放射されるという点を考慮して,音源位置についても, 受音点を基準に図-11 のように設定した。 3.1.4 結果 シミュレーションによって得られた 125 から 4k Hz のインパルス応答から 0-200 ms までに受音点に到来す る反射音を 6 方向 (上・下・前・後・左・右) に分解し,方 向別反射音エネルギの全体の反射音エネルギに対する 割合を反射音方向分布として算出した。しかしながら, 音源の指向性を下方に設定したことによって下方から の反射音だけが著しく大きく (50 %を超える値) なった ため,他方向の反射音分布が見づらくなった。そこで, 下方を除いた 5 方向について反射音方向分布を算出し. 図-9 X-Y-Z 軸. . 図-10 クラリネットの指向性モデル. 図-7 拡散体の断面パターン. 44-3.

(4) 図-11 クラリネットの音源位置モデル 直した。また,受音点 9 点の反射音方向分布は狭い範 囲に収まっていたため,以下では 9 点の平均値につい て考察した。 結果の例として,拡散体の断面が 2 等辺 3 角形である A パターンの反射音方向分布,拡散体を設置していない ときの結果 (“ Basic ”)「 ,クラリネット用音場 (“ Exp. ”)」 を表-3 に示す。これらのモデルは,後方,次いで上方 からの反射音が大きく,左右の差が小さいことが特徴 である。これは受音点に対して真正面に音を放出する クラリネットの指向特性が反映した結果と思われる。そ れ以外には,拡散形状の変化と反射音方向分布の関連 を見いだすことはできなかった。 そこで,全 18 モデルの中で最も「クラリネット用音 場」に近いと思われる STB4c,STB3b を抜き出してみ た。これらの方向別反射音分布を「クラリネット用音 場」と比較して図-12 に示す。図より,両モデルとも上 方からの反射音エネルギにはやや差が見られる (5.7~ 5.8 ポイント) が,後方からの割合はほとんど一致して おり (1.2~2.3 ポイント),またその他の方向のバラン スも概ね一致している。 以上のように,シミュレーションの結果から拡散形 状の変化と反射音方向分布の対応を見出すことはでき なかったが,側壁形状を変化させることでステージ中 央付近に「クラリネット用音場」を実現させることが 可能であるといえる。 3.1.5 まとめ 以上より,左,右,前方,後方などの水平方向につい ては,ステージ側壁に拡散体を設けることで,ステー ジ中央においてクラリネット奏者の演奏しやすい反射 音方向分布に近づけることができた。しかしながら下 方からの反射音など,床面からの影響が大きい方向か らの反射音エネルギはステージ形状の変化のみによっ て操作することは困難であるといえ,この様な方向か らの反射音については形状の変化に加え,新たな設計 手法が必要だといえる。 表-3 解析モデルの方向別反射音分布 (1). 図-12 解析モデルの反射音方向分布 (2). 4. むすび 本研究では,演奏楽器の指向性が演奏しやすい反射 音方向分布に与える影響について検討するためホルン 奏者を対象とした評価実験を行い,更にクラリネット 奏者の演奏しやすいとする反射音方向分布をステージ 上で実現できるかを幾何音響シミュレーションを用い て検討した。 評価実験では,演奏楽器の指向性が異なると演奏し やすい反射音方向分布は異なることが示唆された。更 に,主に後方に指向性を持つホルンの演奏者は下方か らの反射音が強い音場を好むという結果が得られ,こ の結果と下方に指向性を持つクラリネットの演奏者は 後方からの反射音が強い音場を好むという過去の実験 結果から,演奏者は演奏する楽器が有する指向性とは 異なる方向からの反射音を演奏しやすさの判断に用い ている可能性が示された。 シミュレーションではステージ側壁に拡散体を設置 することで,クラリネット奏者の演奏しやすい反射音 方向分布に近づけることができた。ただし,下方から の反射音といった,演奏位置から壁面が近い方向から の反射音の大きさはステージ形状に依らない新たな方 法によって設計する必要があるといえる。 今後は評価実験などから演奏楽器の指向性と演奏者 の演奏しやすい反射音方向分布の関係について明らか にするとともに,目標とする反射音方向分布を実現で きる新たなステージ設計法の提案を試みたい。 参考文献 1) A. C. Gade: Investigation of musicians’room acoustics conditions in concert halls. Part II: Field experiments and synthesis of results, ACUSTICA, 69, 249-262, 1989. 2) 飯塚亜希子, 藤本一寿: 演奏しやすさからみたステージ音場に 関する基礎的検討: 日本建築学会大会学術講演梗概集, 157-158, 2005. 3) 林光一郎, 飯塚亜希子, 古屋浩, 藤本一寿: 中規模ホールステー ジにおける反射音方向特性の実測 その 1 測定概要と ST に関す る考察: 日本建築学会大会学術講演梗概集, 19-20, 2006. 4) 飯塚亜希子, 林光一郎, 古屋浩, 藤本一寿: 中規模ホールステー ジにおける反射音方向特性の実測 その 2 反射音方向特性に関す る考察: 日本建築学会大会学術講演梗概集, 21-22, 2006. 5) 林光一郎, 飯塚亜希子, 藤本一寿: 演奏者による反射音方向分布 の異なるステージ音場の評価実験: 日本建築学会大会学術講演梗 概集, 299-300, 2007. 6) 上田麻理, 小寺優貴,藤本一寿: 演奏しやすいステージ音場に 関する基礎的検討: 日本建築学会大会学術講演梗概集, 307-308, 2008. 7) 酒井伸明, 上田麻理, 古屋浩, 藤本一寿: 演奏しやすいステージ 音場に関する考察-プロ奏者による評価-: 日本建築学会九州支 部研究報告 49-2, 69-72, 2009. 8) 安藤由典: 楽器の音響学,音楽之友社,1996.. 44-4.

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