青年期の「幸福のとらえ方」に関する一研究 −幸福度及び充実感との関連を中心に− [ PDF
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(2) 「1.無関心」は,青年期では自分の生活や人生に対. 「家でゴロゴロしている時」 , 「めっちゃ寝ること」な. して「幸福かどうか」といった視点で内省する機会が. どが見られ,これらは幸福観というよりは,幸福を感じ. 少ないために,幸福について関心が低いということを. る状況を書いているのだと考えられる。「否定的とらえ. 示すものだと考えられる。 「2.潜在的とらえ方」は,日. 方」群は回答数自体も少なく, 幸福の内容を書いている. 常のささやかな出来事から感じることのできるものと. 場合も「今はない」などの回答が合わせて書かれていた. しての幸福をとらえていると考えられる。「3.積極的. のが特徴的であった。幸福観を持ちながらもそれが達. とらえ方」は,具体的に目標を設定し,それがかなえ. 成されていないことを意識することで,否定的な幸福. られた状態としての「幸福」がはっきりイメージされ. のとらえ方になっているのかもしれない。. ていると考えられる。 「4.他者関与」は,他者と作り上. 「潜在的とらえ方」群の特徴としては,まず幸福観. げたり共有できるものとして「幸福」をとらえている. の分類にばらつきが見られた。様々なことに対して幸. と考えられる。 「5.否定的とらえ方」は, 「幸福」を移. 福を感じられることで,「気付くとそこにある」として. ろいやすく,漠然としたものといった,どちらかとい. 幸福をとらえるようになったとも考えられる。また, 幸. えばネガティブなとらえ方で見ていることを示してい. 福観の分類のうちでは「心身のゆとり」が多くなったが,. ると考えられる。. 実際の記述からは「心が平穏であること」など,「無関. (2)幸福のとらえ方と幸福観の関連. 心」群の回答よりもはっきりと「幸福とはこういうも. 対象者ごとに各幸福のとらえ方因子の得点を求め,. の」という意識が伺える回答になっていると思われる。. 一つの因子のみ上位 25%に含まれる人の SCT への回答. 「世俗的成功」が少なくなったことも, 「幸せは遠くの目. を,その幸福のとらえ方の特徴を示しているものとし. 標ではなく,そこにあるもの」といった「潜在的とらえ. て分析対象とした。 各群の記述を 「A.幸福の内容」 , 「B.. 方」の特徴を裏付けるものになったと思われる。. 幸福のとらえ方・イメージ」,「C.わからない」,「D.. 「積極的とらえ方」群の特徴としては,幸福の内容を. その他」に分類し,その上でさらに「A.幸福の内容」に. 書いている人が最も高い割合となっており,幸福観の. ついて, 嶋(1997)の幸福観尺度を参考にしながら「充実. 分類にばらつきが見られた。群内では, 「心身のゆとり」,. 感・生きがい」, 「能力・自己肯定」 , 「良好な対人関係」,. 「充実感・生きがい」が多くなり,「能力・自己肯定」は少. 「世俗的成功」, 「心身のゆとり」 ,「その他」に分類し,. なくなった。実際の記述からも自分で努力してつかみ. 群間・群内でそれぞれの回答の割合を比較した(Table. とるものとして幸福をとらえる人にふさわしいと言え. 1)。. るようなものが見られたのが特徴的であった。また, こ の群では回答数が最も多く,同じ人が何種類もの幸福. Table 1 各幸福のとらえ方群の回答の分類 「 無関心」「潜在的」「積極的」「 他者関与」「否定的」 N=17 N=46 N=47 N=9 N=11 A.内容 12(36% ) 29(63% ) 36(77% ) 22(71% ) 15(54% ) 1.充実感・ 生きがい 2(6% ) 6(13% ) 10(21% ) 3(10% ) 1(4% ) 2.能力・ 自己肯定 1(3% ) 6(13% ) 3(6% ) 1(3% ) 0(0% ) 3.良好な対人関係 1(3% ) 5(11% ) 5(11% ) 11(35% ) 5(18% ) 4.世俗的成功 1(3% ) 1(2% ) 6(13% ) 2(6% ) 0(0% ) 5.心身のゆとり 7(21% ) 9(20% ) 11(23% ) 2(6% ) 9(32% ) 6.その他 0(0% ) 2(4% ) 1(2% ) 3(10% ) 0(0% ) B.とらえ方・イメージ 14(42% ) 12(26% ) 9(19% ) 7(23% ) 8(29% ) C.わからない 3(9% ) 2(4% ) 1(2% ) 1(3% ) 1(4% ) D.その他 4(12% ) 3(7% ) 1(2% ) 1(3% ) 4(14% ) 回答数 33 46 47 31 28. 「無関心」群,「否定的とらえ方」群の特徴としては, 幸福の内容を書いている人の割合が他の群に比べて低. 観を持っているために幸福観の分類がばらついたと思 われる。このことも「幸せを感じられるように努力して いる」という姿勢と合ったものと言えるだろう。 「他者関与」群の特徴は,幸福の内容を書いている人 が多く,幸福観の分類では,他群と比較しても,群内で も「良好な対人関係」が多かった。対人関係がよいこと を幸福とするなら,その幸福を感じるためには確かに 他者の存在が必要であり,「一人では幸せになれない」 ととらえるものと言える。「心身のゆとり」は他群に比 べて少なくなったが,これは特に「心身のゆとり」が少 なくなったというよりは,「良好な対人関係」に回答が 偏ったことからくるものと考えられる。. く,幸福観の分類では,「心身のゆとり」のみが多くな 【Ⅲ.研究 2】. るという結果となった。これは「無関心」群でははっき りした幸福観を持っていないために,直接幸福の内容. 方法. を書くよりも,漠然としたイメージなどを書きやすか. ・対象者 福岡県内の国立大学生 140 名(男性 89 名,. ったのではないかと思われる。また, 実際の記述からは. 女性 51 名)。 同県内の短期大学生 48 名 (女性 48 名) 。 計 188 名(男性 89 名,女性 99 名) 。年齢範囲 18∼.
(3) 25 歳,平均年齢 19.6 歳,標準偏差 1.15 であった。. であると思われる。つまり「幸福であること」につい. ・調査時期 2002 年 11 月下旬から 12 月上旬. て具体的なイメージを持ち,それを積極的に求める事. ・質問紙の構成. でより幸せを感じることができると考えられるのでは. ① 研究1で作成した幸福のとらえ方質問紙. ないだろうか。逆に,幸せについてイメージが湧かな. ② 幸福に関する項目. かったり,幸福観を持っていない人にとっては,幸せ. 「自分は幸せだととても思う(幸福程度)」,「現在. になるのは難しいと感じられることが示されたと言え. の自分は幸せだ思うことがよくある(幸福頻度) 」,. るだろう。幸福を感じられない人でも,その人が「否定. 「日々の中で幸せを感じることがよくある(日常幸. 的とらえ方」で幸福をとらえているという事は, その人. 福度)」,「幸せになるのは難しいと思うことがよくあ. なりの幸福観を持っているものの,それを手に入れる. る(幸福難度) 」. ことが難しく,そのために否定的なとらえ方になると. ③充実感尺度(大野,1980). 考えられる。それに対し,「無関心」というとらえ方を. 各質問紙について,5 段階評定で回答を求めた。. している人は,幸福像がないために幸福を感じないだ けで,そのことでネガティブな心理状況が引き起こさ. 分析1 幸福のとらえ方と幸福度との関連 結果と考察 性差を検討した結果,「幸福程度」と「幸福頻度」 ,. れることもないと思われる。このように, 幸福のとらえ 方によっては「幸福でないこと」の意味も異なってくる のではないだろうか。. 「日常幸福度」の3項目を合計した「現在幸福度」 ( t(186)=-4.10,p<.001 ), 及 び 「 幸 福 難 度 」 (t(186)=1.84,p<.10)ともに差が見られたため, 男女別 に分析を行うこととした。 4分位法により現在幸福度 High 群(H群), Low 群 (L 群)の2群を設定し,分散分析により幸福のとらえ方 5因子のそれぞれについて得点の比較を行ったところ,. 分析2 充実感と幸福度,幸福のとらえ方との関連 以下の仮説を設定し,充実感と幸福度,及び幸福の とらえ方との関連を調べる。 仮説1 現在幸福度が高い人は,充実感も高くなるだ ろう。 仮説2 充実感が高くても現在幸福度は低い人では,. 男性では「否定的とらえ方」 (F(1,45)=6.97,p<.05)で. 現在幸福度も充実感も高い人に比べて,幸福を「無. L群がH群よりも得点が高くなることが示され,女性. 関心」というとらえ方でとらえる傾向が強くなるだ. では 「無関心」 (F(1,63)=14.31,p<.001) , 「否定的とら. ろう。. え方」 (F(1,63)=11.75,p<.01)で L 群が H 群よりも得. 仮説3 充実感が低くても, 現在幸福度が高い人では,. 点 が 高 く な り ,「 積 極 的 と ら え 方 」. 現在幸福度も充実感も低い人に比べて,幸福を「積. (F(1,63)=12.56,p<.01) はH群がL群よりも得点が高. 極的とらえ方」でとらえる傾向は強くなるだろう。. くなることが示された。 4分位法により幸福難度H群,L群の2群を設定し, 分散分析により幸福のとらえ方5因子のそれぞれにつ. 結果と考察 (1) 仮説1の検討. いて得点の比較を行ったところ,男性では「否定的と. 充実感得点と,現在幸福度(「幸福程度」 ,「幸福頻. らえ方」 (F(1,65)=8.11,p<.01) でH群がL群よりも得. 度」 , 「日常幸福度」を合計したもの)との間に有意な. 点が高くなることが示され,女性では「無関心」. 中程度の正の相関(r=.62,p<.01)が見られ, 現在幸福度. ( F(1,67)=4.50,p<.05 ) , 「 否 定 的 と ら え 方 」. の高い人は充実感も高くなるという仮説は支持された。. (F(1,67)=8.71,p<.01)ともにH群がL群よりも得点が. 特に本研究では個人の幸福度を「幸せ」という言葉. 高くなることが示された。. を用いて尋ね,より主観的な感覚に近い幸福度を測定. 以上の結果より,男女ともに幸福を感じられない,. してきた。その幸福度の得点と充実感に正の相関が見. 感じるのが難しいと思うほど,幸福を遠いものととら. られたということは,青年期において充実感を得られ. えやすいということが示されたと言え,妥当な結果と. ることと,幸福を感じることが,かなり近い心理状況. なったと思われる。女性では「無関心」, 「積極的とらえ. にあるということが示唆されたと言えるだろう。. 方」 にも差が見られたが,これは幸福度の違いにより幸. (2)仮説2の検討. 福のとらえ方に差が生じたと考えるよりは,幸福のと. 充実感得点が平均点以上のものを充実感 H 群,平均. らえ方の差が幸福度に影響を及ぼしたと見る方が適当. 点以下のものを充実感 L 群とした。また,充実感 H 群.
(4) の. 内. で. 現. 在. 幸. 福. 度. に有意な差は見られなかった。女性では「無関心」. 得点が平均点以上のものを H-H 群,平均点以下のもの. (F(1,48)=7.29,p<.05)は L-H 群の方が L-L 群よりも. を H-L 群とした(Figure 1) 。各群の人数内訳を Table. 得 点 が 低 く な り , 「 積 極 的 と ら え 方 」. 2 に示す。. (F(1,48)=17.72,p<.001)は L-H 群の方が得点が高く なることが示された。 充実感高. これらのことから,女性では仮説3は支持された。 男性では支持されなかった。. H-L 群. H-H 群. 幸福度低. 充実感は低いのに幸福度が高い女性は,幸福を積極 幸福度高. L-L 群. L-H 群. 的にとらえている傾向が強いため,現在の状況が充実 感の感じられるような満足のいくものでなかったとし ても,自分の幸福観にしたがって幸福を求めていこう. 充実感低 Figure 1 充実感,幸福度による群分け. Table 2 充実感得点,現在幸福度得点による群分けの人数内訳 男性 女性 幸福度L群 幸福度H群 幸福度L群 幸福度H群 充実感H群 18名(20.2%) 26名(29.2%) 15名(15.2%) 34名(34.3%) 充実感L群 36名(40.4%) 9名(10.1%) 42名(42.4%) 8名(8%). としていると考えられる。そのために, 充実感が低い時 にも幸福を感じることができるのではないだろうか。 【Ⅳ.総合考察】 本研究により,大学生が「無関心」 , 「潜在的とらえ 方」 , 「積極的とらえ方」 , 「他者関与」 , 「否定的とらえ 方」といった幸福のとらえ方をしていることが示され た。これらの幸福のとらえ方と幸福観,及び幸福度と. H-H 群と H-L 群の2群について,分散分析により幸福. にそれぞれ関連が見られた。個人がどのような幸福観. のとらえ方5因子の得点の比較を行ったところ,男性. を持つかということによって,幸福のとらえ方も異な. では「無関心」 (F(1,43)=5.35,p<.05),「否定的とら. ってくると考えられる。また幸福のとらえ方が異なる. え方」(F(1,43)=8.13,p<.01)ともに H-L 群の方が H-H. ことによって幸福と感じる度合いが変わってくるし,. 群よりも得点が高くなることが示されたが,女性では. 幸福を感じられないことについての意味合いも変わっ. 幸福のとらえ方に有意な差は見られなかった。. てくるということは,個人の幸福について考えていく. これらのことから,男性では仮説2は支持された。 女性では仮説は支持されなかった。. ときに,幸福のとらえ方というものも考慮に入れるこ とで,より深い理解が可能になると言えるだろう。. 充実感が高く,幸福度が低い男性では,幸福を「無. また,充実感と幸福度,及び幸福のとらえ方との. 関心」なとらえ方でとらえていて,充実感のようなポ. 関連について,多くの人では幸福度と充実感が連動す. ジティブな感情を強く感じていても,「幸せ」というも. ることが示され,青年期における充実感と幸福感が近. のに関心が薄いために「幸せ」とは言わないだけであり,. いものであることが示唆された。しかし,充実感が高. 主観的にはよい状態にあると考えられる。その一方で,. くても幸福度が低くなったり, 逆に充実感が低くても,. 充実感が高くて幸福度は低い男性は,幸福を「不安定. 幸福度が高くなるといった場合もあるということも示. なもの」 , 「続かないもの」として否定的にとらえる傾. された。このような「ずれ」を考える時に,幸福のと. 向が強くなることも示された。こういった人たちは,充. らえ方という概念が役に立つのではないかと考えられ. 実感を感じていたとしても自分の描く幸福は得られて. る。また,幸福のとらえ方によっては,現在の生活状. おらず, そのために幸福を感じにくく,幸福のとらえ方. 況によらず自分を幸福であると意味づけられたり,. も否定的なものになったと考えられる。このような人. 日々に幸福を感じられるという可能性も示された。. たちは幸福ではない現状を意識していると思われ,充 実感を感じられていたとしても,かならずしも精神的 によい状況にあるとは言えないかも知れない。 (3) 仮説3の検討. 以上のことから,幸福のとらえ方を考慮に入れてい くことの重要性が示されたと言えるだろう。 今後の課題としては,まずは本研究で作成された幸 福のとらえ方尺度の精度を上げることがあるだろう。. 上記の群分けにより設定された L-H 群と L-L 群の2. また, 幸福のとらえ方と幸福観, 及び幸福度について,. 群について,分散分析により幸福のとらえ方5因子の. それぞれがどのように影響しているのかについて今後. 得点の比較を行ったところ,男性では幸福のとらえ方. さらなる研究が必要と思われる。.
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