ワークショップにおける KJ 法の意義に関する研究
〜図解の⽣成過程に着⽬して〜
キーワード:ワークショップ、KJ 法、図解、論理的関係性 教育システム専攻 所属 堤 愛絵 1.章構成 第1章 はじめに 1-1 背景と⽬的 1-2 研究の位置付け 1-3 研究の構成 第2章 ワークショップにおける KJ 法の位置付け 2-1 KJ 法の発展 2-1-1 質的研究法としての発展 2-1-2 野外科学と発想法 2-1-3 協働的学びとしての移動⼤学 2-1-4 問題解決学 2-1-5 本節のまとめ−KJ 法の発展 2-2 ワークショップにおいて KJ 法が⽤いられる背景 2-2-1 KJ 法のワークショップの⽅法論の重なり 2-3 ワークショップにおける KJ 法の各⼯程 2-3-1 ラベルづくり 2-3-2 グループ編成 2-3-3 図解化(A 型)と⽂章化(B 型) 2-4 本研究における論理的関係性の位置づけ 第3章 A ⼤学⼯学部「空間デザイン演習Ⅱ」における 観察調査 3-1 調査の概要 3-2 調査結果 第4章 分析と考察 4-1 各図解の考察 4-2 関係性の不表出に関する考察 4-2-1 要因1:論理的表現⽅法の不⾜ 4-2-2 要因2:「○○系」というカテゴリー的発想 4-2-3 要因3:表層的類似性によるラベル集め 4-2-4 要因4:表札の過度な簡略化 4-2-5 本節のまとめ 4-3 考察のまとめ 第5章 結論 5-1 WS における KJ 法の課題と意義 5-2 本研究の課題と展望 2.梗概 1)背景と⽬的 煩雑化する社会において、我々が抱えている問題は、 より多様かつ複雑となり、問題の所在すらも明らかにす ることが困難になっている。このような現状に取り組む ためにも、問題提起や問題構造把握のための⼿法創出が ⽬指され、これらの実現のためにも⼈々には主体性と創 造性の発揮が求められている。 1967 年、地理学者・⽂化⼈類学者である川喜⽥⼆郎に より発表された KJ 法は、「情報整理と発想の⽅法」であ る。これまで質的研究法として発展してきたものの、視 野を広げると、現在ではワークショップ(以下、WS)や企 業研修、会議、また問題の構造を把握するとともに論理 的思考を深める⼀⼿法として⼤学教育などでも⽤いられ、 デザイン思考1との親和性も注⽬されている。 KJ 法の⽅法論の背景には、川喜⽥が「発想法」の体系 化を通して⽬指した「問題解決学」がある。これらを貫 く志として川喜⽥は多様な⼈々の主体性と創造性の発揮 を重要視していた2。こうした中で、KJ 法はまさに「発 想法」と「協働的な学び」の中⼼的⼿法として位置付け られ、「移動⼤学」では野外科学の⼿法と KJ 法を活⽤し、 抽象的なものから具体的なものまで、多岐にわたるテー マのもと集団による問題解決と協働的な学びの実践が試 みられた3。 以上のことから、KJ 法や移動⼤学の⽅法論の活⽤が試 みられることは現代社会における問題提起や問題構造把 握のための⼿法創出といった要求に⽰唆を与え得ると考 えた。 先述したように KJ 法は今や分野や対象を問わず広く普 及している。KJ 法が有する「現実の課題や実際のデータ 1 デザインにおける「着想」→「アイデア化」→「実現」の プロセスが課題解決のプロセスに応⽤されうるという視点か ら、課題解決の⼀つのアプローチとして呼称され、⼤学などで は「デザイン思考教育」としての活⽤が試みられている。 2 川喜⽥⼆郎『発想法』中公新書、1967 3 前掲書 2に即した課題解決を指向している」「複数⼈で⽤いること ができる」といった特質は、様々な主体との協働を前提 とした地域社会での活⽤においても後押しし、地域社会 が抱える問題の解決を⽬標とした地域づくりの場におけ る WS(以下、地域づくり WS)等で、頻繁に活⽤され ている。 しかしそれらの WS では、「KJ 法」という名称で⾏われ ているものの、カードを⽤いた分類法と化している現状 も⾒受けられる。KJ 法が分類法と誤解される原因として は、「グループ編成」や「図解 A 型」を⽤いる際の「空 間配置」の誤⽤が想定される。 「グループ編成」では理屈的思考を脱し、既存の概念 ではなく、雑多で多様なデータから新たな概念をつかみ 出すことであることが重要とされており、「発想法」の理 論そのものが詰まっている段階である。 また「図解 A 型」に包含される「空間配置」は、それ ぞれのアイデアやデータ間に内在する論理的関係性を⾒ 出す構造把握の役割を担っており、その後の「図解」は、 空間配置で⾒いだされた関係性を視覚的に表出する役割 を担っている。これらの⼿法や理論が⼗分に活⽤されて いない KJ 法を WS で⾏うことは、本来存在するはずで あった WS における KJ 法の意義を喪失する危険性を持 っている。 よって本研究では、対象を WS における KJ 法と設定し、 KJ 法の結果として⽣じる図解に表出した論理的関係性 を読み取り、図解の⽣成過程と併せて分析することで、 参加者がどのようなやりとりを通じて構造把握、つまり 論理的関係性を⾒出すに⾄っているのか、あるいは論理 的関係性が捨象されているのかを確認する。その作業を 通して、改めて KJ 法の意義を明らかにし、ひいては今 後の WS 実践に寄与する知⾒を⾒出すことを⽬的とする。 2)研究⽅法 本研究では、A ⼤学にて⾏われた「WS や KJ 法の初学 者である1年⽣が参加する講義「空間デザイン演習Ⅱ」 で⾏われる WS における KJ 法を調査対象とし、①最終 的に⽣成された図解が⽰す関係性の分析、②観察調査で 得た図解の⽣成過程をエピソード記述的に分析・考察す るという2段階の⼿法を取った。 3)各章のまとめ 第2章第1節では、「KJ 法の発展」として KJ 法を取り 巻く川喜⽥の仕事を整理することを通じて、KJ 法がもつ 協働的な学びの側⾯を整理した。 川喜⽥は地理学者・⽂化⼈類学者として研究⽅法を模 索する中で KJ 法を考案し、その後は「移動⼤学」4にて 「課題の追求こそ、⼈間にとって価値のあることである」 という考えのもと、KJ 法を包含する問題解決のプロセス、 および、それらを通した学びの営みを試みた。社会に開 かれ、⼩集団で問題解決に取り組む図式は現代の WS な どで⾒られる協働的学びの像とも重なっている。 ⼀⽅で、KJ 法の普及を⽀えたと考えられる産業界での 活⽤について⽶⼭(2014)は、産業界からの短期かつ効率 的な研修の要請に応えるために、フィールドワークに代 表される KJ 法の野外科学的側⾯が弱められ、参加者の 発⾔が KJ 法の素材となっていた経緯を指摘している。 同様のことは多くの WS でも指摘でき、KJ 法がこれほど までに普及する中で抜け落ちた「協働的学び」として意 義を明らかにすることも本研究の関⼼の⼀つである。 第2節では、1節で整理した KJ 法の教育学的側⾯か ら WS との理論的親和性を指摘した上で、作業⼿法とし て KJ 法を位置付けた際に、次のような側⾯から WS で の活⽤が⾏われていることを整理した。 ⑴協働を促すことができる KJ 法は各⼯程において、他の参加者と協⼒して⾏う作 業が多く、空間配置や図解の段階においては WS で求め られる⾝体性も確保される。 ⑵参加を促すことができる KJ 法は「ラベルづくり」「ラベル集め」「表札作り」な ど、各⼯程に名称があり、⼯程が分かれていることで局 所的に作業に集中することができ、参加の図式が⽣みや すいと考えられる。 ⑶図解の完成による達成感が得られる WS で主に⽤いられるのは KJ 法の中でも「KJ 法 A 型」 と「KJ 法 AB 型」であり 、最終的には図解や「ポスタ ー」と呼ばれる形で成果物が残る。⼝頭発表を通じて多 数の参加者と成果を視覚的に共有できるという点から、 これらの⼿法が WS のニーズと合致したと考えられ、同 時に、⽬に⾒える形で成果物が⽣まれることによって参 加者も達成感を得やすい⾯がある。 KJ 法は以上のような実利的な特質から WS でも積極的 に活⽤されるが、その⼀⽅で WS では多様な⼈々が集ま ることから、KJ 法を⼗分に理解し⽤いることよりも、 WS の⽬的の達成が重視されたり、⼿法としての実利⾯ 4 1969 年以降、⽇本各地で開催された問題解決を通した協働 的学びの場。個⼈、⼩集団(おおよそ 6 名)、システム・レベル の 3 段階で集団編成を⾏い、⼩集団ごとにテーマを設定し問題 解決に取り組んだ。
のみ着⽬されたりする危険性もある。 このような問題意識のもと、第3節では WS で⽤いら れる KJ 法の代表的な形式「狭義の KJ 法」(図1)の各⼯ 程について、川喜⽥が提唱した本来の KJ 法との差異に ⾔及しながら整理し、図解の分析にあたっての視座を明 らかにした。 第3節で指摘した WS における KJ 法での差異のひと つとして「⽂章化(B 型)」が「⼝頭発表」に代替される ことがある。 図解化(A 型)は、空間配置を通して⾃分が⾒いだした 関係性を問う⾏程でもあり、類推の結果たどり着いた関 係性を⽮印や線、模様を⽤いて視覚化していくことで初 めて全体の構造の視覚化がなされる。 ⽂章化(B 型)は、このようにして明らかになった関係 性の論理性を検証する⼯程として位置付けられており、 WS では図解化(A 型)の後に⽂章化(B 型)の代わりに⼝頭 発表が⽤いられることがある。⽂章化において少しでも すんなりと説明できない部分が⽣じた場合、つまり A 型 の図解に改善すべき点があるということである。 しかし WS で⽤いられる「⼝頭発表」はあくまで、論 理的関係性の検証ではなく対外への理解を⽬的としたも のであるため、⽂章化まで⾄ることが少ない WS におい て論理的関係性の担保が困難となるのではないか。以上 のように、第3節では WS における KJ 法の形式および 川喜⽥が提唱した⼿法との差異から、また続く第4節で は国語科教育における「論理的思考」と「論理的表現⼒」 に関する指摘から、KJ 法の図解に表出した「論理的関係 性」に着⽬することで、KJ 法の⼿法が論理的思考の担保 された「協働的な学び」に寄与しているかどうか、考察 できるのではないかと考え、WS における KJ 法の観察調 査を⾏った。 第3章では、A ⼤学「空間デザイン演習Ⅱ」を対象と して⾏った調査の概要と、調査結果として提⽰した。 本演習はブレストや KJ 法の技術を体験しながら、グ ループワークを学び、実際に課題の発⾒、プロジェクト の⽴案を⾏うことを⽬標としている。選定した 3 班を対 象に観察調査を⾏い、最終的に WS 中に⽣成された 3 班 ×3枚=計9枚の図解、また図解に含まれる項⽬の⼀覧 を結果として提⽰した。(例:図2) 第4章では、第1節にて各班の図解に表出した関係性 と、⼝頭発表の内容を照らし合わせて検証した(右図:考 察例参照)。結果、すべての図解に論理的関係性が表出し ているとは⾔えなかった。また本節では論理的関係性の 根拠として、⼝頭発表の内容との妥当性、つまり図解と 図1「狭義の KJ 法:1ラウンド」 図2「L 班第 1 回授業における図解」 図解に関する説明の構造的⼀致を確認したが、各班の発 表は図解に⽰された「カテゴリー名」を順番に説明する ものであり、アイデア同⼠の関連性や対象とした問題の 構造までの⾔及はなされなかった。加えて、「⼝頭発表」 の際の他班からのコメントは、提案内容に対する感想が ほとんどで、アイデアや図解に対しての批判的な議論や 問いがなされなかった。結果的に、「対話」が活性しなか ったことは、論理的関係性が再構築される機会の損失、 すなわち WS における「協働的な学び」の意義が活かさ れなかったと⾔える。 〈考察例〉L 班の図解では、「⼤学周辺」「⼤学内」に まとめられたアイデアをアピールする⽅法として中 央に「PR」が配置されており(図参照)、発表時は「⼤ 学周辺」「⼤学内」のアイデアを実現し「PR」すると いう説明がなされた。よって 3 項⽬間をつなぐ⽮印 が⽰すものは、⽮印の帰着点が⼿段、出発点が⼿段 の対象物と考えられる。
よって第2節では第1節の考察結果から、図解の⽣成 過程の検討を通して、論理的関係性が表出されなかった 要因を考察し、要点として以下の4点を明らかにした。 1. 論理的表現⽅法の不⾜ 2. 「〇〇系」というカテゴリー的発想 3. 表層的類似性によるラベル集め 4. 表札の過度な簡略化 しかし、同時にこれらの要因を乗り越え得る⽅法とし て、他者との対話が有⽤であることも明らかになった。 他者との意⾒の共有や付箋の意味を問うやりとり、ファ シリテーターからの問いかけといった対話がなされた際 に、その内容や理由を反問的に推察することで、⾃らの 意⾒の意味づけや再解釈がなされ、新たな関係性の表出 に⾄る場⾯もみられた。こうした営みはまさに KJ 法が ⽬指していた「協働的学び」の⼀端と⾔えるだろう。 また、要点1に関連して、「⼝頭発表」のポスターと しての⾒栄えを考慮したことが、⾊を素材とした論理的 関係性の契機となった事例が⾒られ、WS における KJ 法 の新たな視座を⾒出すことができた。 4)本研究の成果と課題 本研究では図解に⽰された関係性がもつ論理性の評価、 および WS における KJ 法の観察調査を通じて、WS にお ける KJ 法がもつ意義を検討する中で、以下のような課 題と意義が明らかになった。 (1)WS における KJ 法の課題 WS では実際に調査やデータを得る⼯程を踏むことが 難しく、オリジナルデータではなく参加者の意⾒を素材 とすることがある。そのような場合について調査では、 ブレストにおいてファシリテーターが参加者の意⾒を促 す際に、提⽰した具体例やキーワードなどが枠組みとな ってしまい、⼗分に意⾒の発散がなされないという例が ⾒られた。またそのようにして出された意⾒を素材とす るグループ編成では、柔軟なラベル集めや上位概念とし ての表札づくり、意⾒の構造把握が⼗分に展開されず、 最終的な図解はカテゴリーの⼀覧という形で表わされて いた。このようにブレストおよび KJ 法が⾏われた場合、 論理的思考を⽤いる機会が阻害され、WS における KJ 法 の意義が損なわれる危険性があるということが課題とし て明らかになった。 (2)WS における KJ 法の意義 WS における KJ 法の特徴である「⼝頭発表」、つまり 「図解を⽤いて発表する」という展開は、図解を⾒やす くしようという⼯夫に繋がっており、それによって⾊を ⽤いた情報の整理が⾏われている例が⾒られた。この傾 向が強まることで、図解に装飾性を求めてしまう危険性 も指摘できるが、相⼿に伝える⼯夫として参加者に論理 的表現を共有することで、論理的思考を誘発しうること が⽰された。2 章で指摘したように、KJ 法の典型におい ては「⼝頭発表」は「⽂章化 B 型」の代替として論理性 の検証が期待されるものではあったが、「⼝頭発表」を契 機に⾒出された図解から論理的関係性が構築され得たこ とは、WS における可能性と⾔えるだろう。 また本研究における課題として、本研究は⼤学の演習 内容として⾏われた WS を調査の対象としており、教員 による評価のまなざしが WS での振る舞いに影響を与え ていないとは⾔えず、それを踏まえることができなかっ た点は課題である。また、地域づくり WS の場には多様 な⽴場の⼈々が参加するため、意⾒の発散は本研究で明 らかにしたよりも多岐にわたる可能性があり、KJ 法の活 ⽤の前提とする知識の差異も顕著となる。本研究で得ら れた視座を⼿がかりにしながら、さらに多様な WS の現 場の事例を分析していく必要があるだろう。 5)主要参考⽂献 l ⻘⽊秀雄(2017)「質的研究のための KJ 法の科学性に 関する研究Ⅰ―結論構造の信憑性を中⼼に―」『明 星⼤学明星教育センター研究紀要』(7)、pp.15-36 l ⻘⽊秀雄(2018)「質的研究のための KJ 法の科学性に 関する研究Ⅲ―『志』と現象学の本質直観を中⼼に ―」『明星⼤学明星教育センター研究紀要』(8)、 pp.1-17 l ⾦久槇⼀(2012)「論理的説明⼒を育成するための授 業構想」『⻄九州⼤学⼦ども学部紀要』(3)、pp.51-66 l 川喜⽥⼆郎『発想法』中公新書、1967 l 川喜⽥⼆郎『続・発想法』中公新書、1970 l 川喜⽥⼆郎『ひろばの創造』中公新書、1977 l 川喜⽥⼆郎『KJ 法―混沌をして語らしめる』中央公 論社、1986 l 川喜⽥⼆郎『KJ 法と未来学』中央公論社、1996 l ⽊下勇『ワークショップ−住⺠主体のまちづくりへ の⽅法論』学芸出版社、2007 l 中野⺠夫『ワークショップ―新しい学びと創造の場 ―』岩波新書、2001