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密教文化 Vol. 1976 No. 114 003堀内 寛仁「百八名讃の註釈的研究 (三) PL112-L46」

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(1)

密 教 文 化

百 八 名讃 の註 釈 的研 究 (三)

内 寛

これ も、5)剣 印 の 梵 字 「smi」 を 除 き 問 題 は な い。8)9)11)は 「笑 」 と し て い る が、hasaと 区 別 す る た め、 こ れ は10)の 「金 剛 微 笑 」を 採 りた い。 チ ベ ッ ト 訳 の 「hdSum-pa」 もsmileで あ る。hasaの 方 は、hahahahaと い う笑 声 を 表 わ す 言 葉 も あ り、 漢 字 に も 呵 呵 大 笑 と い う語 も あ る の で、hasaは'声 を 出 し て 笑 う'、smitaは'に っ こ り笑 う'の で あ る と 区 別 理 解 した い。 Mkt. :vajra-sznita! stem:〃 和 訳:金 剛 微 笑 よ と す る。 第 四 名 1) のSkt. に っ い て は、 写 本 の 「mahadbhuta」 で は 「mahad+bhuta」 と な る の で、 「maha+adbhuta」=「maha'dbhuta」 に 改 め た。 2) 心 軌 の 「襲 」 は 呉 音 ナ ウ に し て 常 に はSkt. のna音 の 音 訳 字 に、 多 く用 い られ て い る が、 こ の 字 の 漢 音 は 「ダ ウ 」 で あ る よ うにd音 も あ る の で 決 し て, 誤 字 で は な い。 従 っ て 脚 注 に 依 れ ば 「(三)には 「襲 」 字 は な い 」 と い う事 で あ る が、 必 要 で あ る。 次 に、3) の 「納 」(ダ ブ、 ナ フ)、4)の 「郷 」(ダ、 ナ)も ま た 同 様 で あ る。 共 にdの 音 訳 字 と し て 用 い られ て い る の で あ る。 14) チ ベ ッ ト訳 の 「no-mtshar」 も'珍 し い''稀 な'の 意 で あ る。 な お、 第 四 名 を 示 す 「四 」 の 字 は 次 の 第 五 名 の 中 に 混 在 し て い る が、 こ こ に 移 す べ き で あ る。 Skt.: mahd'dbhuta!

(2)

stem: 〃

和 訳 は 大 希 有 よ と す る。

第5名 第6名

第 五 名

1) Skt.の 「priti」 は 愛 情 の'喜 び'、pramodyaは 金 剛 喜 の 第 五 名 にpramo-dya-raja (歓 喜 王) と し て 前 出 し た。 2) 心 軌 の 「丁 伊 反 」 は こ こ で は 「低 」 字 が テ イ で な く テ ィ で あ る こ と を 示 す 來 註 で あ る。 「反 」 の 意 味、 用 法 に つ い て は 第 五 偶、 金 剛 宝 第 六 名 の 項 で 説 明 し た。 次 に3) 二 巻 経 で は 「必 哩 二 合 底 四 」 と し、 「priti」 ま で が 第 四 名、 第 五 名 は pramodyaの 以 下 と な っ て い る。 即 ち 二 巻 経 の 数 字 に 依 れ ば、 第 四 名 は 「ma-百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(3)

密 教 文 化 ha'dbhuta-Priti」 で あ り、 第 五 名 は 「Pramodya-raja」 と い う事 に な る。 し 冷 し他 本 に はrajaの 語 が す べ て全 く な い し、pramodya-raja (歓 喜王) の 名 は 金 剛 喜 の 第 五 名 と し て 既 に 出 さ れ て い る の で、rajaは 誤 入(余 分 な もの の誤 入)と 考 え る。 し た が っ て 前 述 の よ うに 「四 」 の 文 字 は 第 四 名 の 最 後、 「移 」 の 次 に 移 す べ き で あ ろ う。 な お、2)3)4)の 音 訳 字 「鉢 曜 二 合 」 に は 三 者 共 「引 」 の 來 註 が な い が 「引 」 を 附 す べ き で あ ろ う。 な お4)の 「鉢 哩 三 合 」 の 三 合 は 二 合 の 誤 り と考 え る。 8)9)10)11)の 漢 語 は 種 々 に な っ て い る が、 一 応pritiを 「愛 喜 」 と し、 pramodyaは 前 同 様 「歓 喜 」 とす れ ば 愛 喜 の 歓 喜(愛 し喜 び 歓 喜 す る)と な る。 Skt. はpriti-pramody-a! stemは 〃

和 訳 は

愛 喜 の歓 喜 よ

とす る。

1) Skt. 写 本 はvajragrγa 2) 心 軌 はvajragrya但 し(乙)(丙)ではvajradya 3) 二 巻 経 は'vajradya 但 しイ本 4) 剣 印 は (欠) vajragrya

5) 同梵 字 (欠)

6) 梵 心 軌 vajradya

7) 請 来 真 言 集

(下 巻 十 六 大菩 薩 讃 で は)vajragrya

vajradya

8) 黄 紙 智 勝 vajradya

9) 不 空 訳

金 剛 勝

10) 金 剛 智 訳

(金 剛 愛)

11) 施 護 訳

金 剛 初

14) チ ベ ッ ト(ston'教、 教 師') 釈 疏 も ston 第 六 名 に つ い て は、 以 上 の よ う に 「vajra+agrya」 と 「vajra+adya」 の 二 つ の 形 が 考 え られ る。

(4)

先 に(二)金剛 王、 四 金 剛 喜 の と こ ろ で も、agrya, adyaい ず れ か、 の 問 題 が あ っ た が、 い ず れ も チ ベ ッ ト訳 の 「mchog」 の 訳 語 に よ っ て、agryaの 方 を 採 っ た。 こ こ は チ ベ ッ トは 「8の%'教、 教 師'」 と あ り、 そ れ はagrya, adyaの い ず れ に も 直 接 合 わ な い。 そ れ で も しstonの 「t」が、 文 字 の 近 似 性 か ら 「h」 の 誤 りで あ る と す れ ばsnomと な り、adyaの 訳 と い う事 も考 え られ る が、 し か し 釈 ・疏 共 にstonの 語 の あ る 所 をsmonの 誤 ま り と し てsnonに お き か え て 読 ん で み る と、3蜘 な ら通 ず る 文 意 が 通 じ な い か ら、 や は りsnonで な く て、 チ ベ ッ ト及 び 釈 ・疏 は 「ston」 と い う事 に な る。

そ こ でstonか ら考 え る と、Skt. はajna, vajr'ajna'金 剛 の 教 令、 指示'の 誤 写 か も 知 れ な い と考 え る 事 が 出 来 る。

結 局、agrya, adya, ajnaの 三 っ が 考 え られ る が、 い ず れ と も 決 着 出 来 な い の で、 と り敢 ず1)Skt. 写 本、2)心 軌、7)の 中 の 讃、及 び9)不 空 訳 の 「金 剛 勝 」

に 依 っ て、vajragryaと す る。 従 っ て

Skt. はvajragrya! (或 はvajr'adya, vajr'ajnaか も)

stemは 〃 〃 〃 和 訳 は

金剛 最上 よ

最王金 剛 よ

(或は 金 剛 初 、 金 剛 教 令 よ、 か も)

(追記)明 覚 本 は 「vajradya金 剛勝 也 大 教 王 注 云 金 剛 初 、 不 空 手 書 本 ニハ 下 字 云 grya唐 本 云 救 哩 耶 」 と あ り 、 不 空 本 はagryaで あ る 。

第7名

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(5)

-109-密 教 文 化 第 七 名 1) vajra-priteは、-prltiの 単 数、 呼 格。 8) 黄 紙 の 漢 語 「愛 無 染 」 の 「無 」 は 理 解 で き な い。 但 し 全 く の 意 訳 で 愛 す る も 執 着 せ ず'で 無 染 か も知 れ な い。 第 五 名 で 述 べ た よ う に 「愛 の 喜 」 と 訳 す こ と に す る。 依 っ て Skt.は vajra-prite! stemは vajra-priti 和 訳 は 金 剛 愛 喜 よ と す る。

略。

(九) 金 副 法 菩 薩 偶

第1名 第2名

(6)

第 一 名 vajraもdharmaも 周 知 の 語 な の で、 さ す が 音 訳 も 梵 字 も漢 訳 も 問 題 は な い。 唯、4)剣 印 の 「二 合 引 」 の 「引 」 の 字 だ け が 問 題 で あ る。 口調 上vjaraと し た と も考 え ら れ る が、 同 剣 印 の 梵 字 が 既 にvajraと あ る の で 「引 」 の 字 は 誤 入 誤 写 と考 え る。 Skt.: vajra-dharma! stem: 〃 和 訳: 金 剛 法 よ と す る。 第 二 名 1) のSkt・ 写 本、2)3)4)の 音 訳 字、5)6)7)8)の 梵 字、8)9)10)の 漢 訳 が、 す べ, てsu-sattvartha'妙 ・衆 生 利'に な っ て い る の に対 し、11)の 施 護 訳 に は 「真 実 理 」 と あ り、 チ ベ ッ ト訳 に は 「rab-tu (su-, 妙) de-nid (tattva 真 実)don (artha'義'又 ハ'利')」 と な っ て い る。 即

ちsu-sattvarthaか、su-tattvarthaか、 ど ち らが 正 し い の か、 と い う事 で あ る。

そ こ で 「疏 」 を み る に、

<妙 ・真 実 性 (de-kho-na nid dam-pa) が、rab-tu de-nid don ('甚 だ 真 実 な る義') で あ っ て、 一 切 が そ の 境 (=対 象) で あ る た め、 菩 提 心 そ の も の を 縁 ず る が た め な り>と あ り、 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(7)

「釈 」 に は

<rab-tu de nid don(甚 だ 真 実 な る義)と は 端 厳 な る の(mdses-pahi)真 実 性 (de-kho-na-nid)がde-nid don('真 実 な る義')で あ っ て、 「自 性 清 浄 の 義 」 を か く 云 う と す べ き で あ る 〉

と あ る の で、 疏 釈 共su-tattva-arthaと す る も の の 如 く で あ る。deva-nagari で は 「sa」 と 「ta」 は 一 点 が 見 え な く な る とtaと い う事 に な る が、 悉 曇 文 字 で はsaとtaと は 見 誤 ま られ る 程 の 近 似 性 は な い の で、taがsaの 誤 写 と は 一 寸 考 え に くい の で あ る が、 金 剛 法 菩 薩 の 異 名 と し て は 「衆 生 の利 」 と い う 事 よ り 「真 実 の 義 」 の 方 が マ ッ チ す る よ う に思 わ れ る の で、 施 護 訳 と釈 ・疏 に 依 っ て、 金 剛 法 の 第 二 名 はsu-tattvartha(一 伝、su-sattvartha)と す る。 Skt.: su-tattvartha! (一 伝、su-sattvartha) stem: 〃 〃 和 訳: 妙 ・真 実 義 よ(一 伝、 妙 ・衆 生 利 よ)と す る。 (追 記) 明 覚 本 もsattvarthaと し、tattvarthaに は ふれ て い な い。 第3名 第4名

(8)

第 三 名 4)5)の 剣 印 に は 「二 合 引 」 の 「引 」、「鄭 」 の 欠 脱 等 の 誤 りが あ る が、 第 三 名 がvajra-padma!金 剛 蓮 花 で あ る こ と に 問 題 は な い と考 え る。 Skt. :vajra-padma! stem:〃 ノ 和 訳:金 剛 蓮 よ' 第 四 名 1)Skt. 写 本 に はsu-sodhakaと あ っ た が、su-60dhakaに 改 め た。 こ の 写 本 で は 「sa」が し ば し ば 「sa」 と書 か れ て い る の で、8)9)10)11)の 漢 語 か ら見 て60dhakaに 改 め た の で あ る。 4)剣 印 の 音 訳 に 「輸 」 の 欠 字 が あ る こ と は、 一 本 に 依 っ て も 明 らか で あ る が、2)3)の60の 音 訳 字 「戎 」 「戌 」 の 中、2)の 「戎戌 」ジュ ウ 、 一 ユ つ は もの、 え びす)

は、 韻 鏡、 第 一転、 平 声、 東 韻 の字 で、 韻(一 母音)はungで

あ る か ら、 忌0の

音 訳 字 に は絶 対 に な らな い。 依 って 「

戌 」 の誤 ま り、誤 写、 誤 伝 と考 え る。

「60」の音 訳 字 と して は、3)二

巻 経 の 「

戌 」、或 は4)剣 印 のイ本 「

輸 」 が正

しい。 とい うの は 「

戌 」(諺 まもる)は 遇 韻、 「

輸 」(シ ュ、慣用 ユ)は

虞 韻 の

字 で、 前 者 は 去 声、 後 者 は平 声、 とい う相 違 は あ っ て も、共 に 韻鏡 第 十 二 転、

歯 音 第 四 の 清 音、 第 三 位(審 母)の 字 で あ る か ら、忌o,

曲 の音 訳 字 と して は絶

対 的 で あ る。 とい うの は音 訳 例 をみ る と梵 音6, §,

sの 区別 は音 訳 上 確 然 と区

別 せ られ、6は 審 母, sは 直音 た る一 位 四位 の字、 即 ち心 母, $は 二 位、 山 母

の字 で訳 され、 区別 され て い る事 は全 くお ど ろ く程 で、 音 訳 上、 一 の例 外 もな

い か らで あ る。

な お、 こ ゐ二 字 に よ く似 た別 字 に 「

戌 」 噛 用 ジュ ツ、 謝

いぬ)が あ るが、

これ は質 韻 で、 十 三 転 入 声 の字 で あ る。 字 は よ く似 て い るが、 音 価 は全 く別 で

あ る。 即 ち同 じ く歯 音 で あ るが噛 音 第 一の清 音 で、 梵 音citの

音 訳 に用 い られ

る字 で あ る。

以 上 の如 くで あ る か ら、2)の

「戎」 は誤 ま り、4)は お そ ら く最 初 は 「素輸

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(9)

引達 迦 」 と あ っ た の で あ ろ う。

次 に5)sudhakaは 勿 論Soが 抜 け て お り、6)の 舘, 7)のSeも 誤 り で、 7)の 讃, 8)のsoが 正 し い が、 「kah」 の 「h」 は、hが あ る と主 格 とな る の で、hは 不 要 で あ り、 「s・」 の 振 仮 名 は 「シ 」 が 消 え て 一「ユ 」 の み に な っ て い る が、 も ち ろ ん シ ユ(「 戌 」或 は 「輸 」 の字 音)で あ ろ う。 次 に8)9)10)11)の 漢 語 は、 す べ て'清 浄'の 意 に な っ て い る が、Skt. 原 語 は 使 役 法sodhayatiか ら来 た 言 葉 で あ る か ら、 チ ベ ッ トに 「rab-dgah-bγed」 と あ る よ うに、、'浄め る、 清 浄 に す る'の 意 で あ ら て、 単 な る'清 浄'で は な い。 但 し、 チ ベ ッ ト訳 に、rab(妙)dgah(善)byed(ヲ ナ ス)と あ り、 釈 ・疏 の キヨ

牒 文 も'dgah喜'と な っ て い る が、dgahは 誤 ま り で 「dag・浄 イ, 」 の 誤 りで あ る こ と は、 釈 ・疏 の 釈 文 か ら み て も 明 ら か で あ る。 以 上 に よ っ て Skt. 々まsu-Sodhaka! stemは 〃 和 訳 は. 'よ く浄 め る もの よ'と い う事 で 「妙 浄 者 よ 」 と す る。 第5名'. 第6名

(10)

第 五 名

1) Skt.:「lokesvara」 は、loka(世 間)+isvara (自在、 自在 者)で、'世 自在'、 '世 間 の 王'の 意 で あ る。 2)3)4)の 音 訳 字 に は 問 題 は な い。 5)6)7)8)の 梵 字 も、7)の 「po」 を 除 き、 問 題 は な い。 「po」 は 字 形 の 近 似 性 か ら み て 「lo」の 誤 写 に ま ち が い な い。 8)9)10)11)の 漢 語 の 中、8)9)の 「世 貴 」 の 「貴 」 は 貴 人、 王 の 意 で isvaraの 訳 で あ ろ う が、10)の 「観 世 自 在 」 と、11)の 「観 照 自 在 」 の 訳 は 解 せ な い。 そ の 中 「観 世 自在 」 は、 そ の 中 の 「世 自 在 」 の み を 見 れ ばlokesvaraの 訳 の よ う で あ る が、 お そ ら くは 観 世 音、 観 自在 の 二 語 を 合 せ た も の で あ ろ う。11) の 「観 照 自 在 」 と 同 様、lokesvaraをlokitesvaraと 誤 っ て 訳 し た も の と思 わ れ る。 と こ ろ で10)金 剛 智 訳 と11)施 護 訳 が な ぜlokitesvaraの 如 く訳 し た の か わ か ら な い が、10)11)を 除 き、 そ の 他 が す べ てlokesvaraに な っ て い る の で、 10)11)に 拘 わ ら ずlokesvaraが 正 しい と 決 定 す る。lokitesvaraで は5字 と な り、 第 六 名 と 共 に9字 と な っ て1句8字 の 詩 型 に も 合 し な い か ら で あ る。 Skt.: lokesvara! stem: 〃 和 訳 は 世 自 在 よ に決 定 す る。 (追 記)明 覚 本 も 「lokesvara」で あ る。 第 六 名 に っ い て は、5)6)7)8)の 梵 字 の 中 で はjraが 正 し く他 は 誤 り で あ る が、 長 を 短 と誤 写 す るの は 常 の こ とで、 そ の 他 は 問 題 は な い。aksa, spyanは 共 に '眼'の 意 で あ り、 チ ベ ッ ト訳 のspyanはmig(眼)の 敬 語 で あ る。 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(11)

密 教 文 化 Skt.: su-vajraksa! stem; 〃〃 和 訳 は 妙 金 剛 眼 よ と す る。

(追 記) 明 覚 本 も 「vajraksa」 で あ り分 解 して 「a ksa云 眼 也 」 と あ る。

第7名

第 七 名

第 六 名 のaksaに 対 し、 第 七 名 のrnetra」 も'眼'。aksaは、1. サ イ コ ロ、 2. 車 軸、 心 棒、3. 感 覚 器 官、 特 に 眼 と い う事 で、 台 風 の 目 と い う よ うな と き の 眼 の 意 味 に も 用 い ら れ る の に対 し、 「netra」 の 方 はVmi'導 ク'に、 道 具 を 表 わ すtraを 加 え て 出 来 た 言 葉 で あ り、'導 ク モ ノ'か ら'眼'と い う事 に も な る わ け で あ る。6)のtetra, 7)の 中、 讃 のnetreは も ち ろ ん 誤 り と考 え る。 次

(12)

訳 さ れ て い る。 Skt.: vajra-netral stem: 〃 和 訳 は 金 剛 眼 よ と す る。

(略)

(十) 金 剛 利 菩 薩 偶

第1名 第2名 第 一 名

1) Skt.: 「vajra-tiksPa」 の 「tlksPa」 は'鋭 利 ナ ル'の 意。arthaの 訳 の

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(13)

密 教 文 化

「利 」 即 ち利 益 の 「利 」 と混 同 すべ きで な い。

2) 心 軌 の 「底

丁伊

に っい て は前 述 した。 金 剛 笑 菩 薩 の 第 五 名 「丁伊 反 」

並 び に 金 剛 宝 菩 薩 の第 六 名 「

維 也 反 」 参 照。 ま た 「

乞 叉 二合學 三合」 は、 ま ず

「乞叉 」 の 二 字 は 「

二 合 」 でksa,、 「

乞 叉 」 の二 字 に 「

肇pa」 を加 え、ksnaは

k, s, na, の 三 字 で 三 合 とい う事 で、(先 の二 合 は勘 定 に入 れ ず) 都 合 三 字 三

合 で あ るか ら、「三 合 」と來 註 した のか も知 れ な い が、ksnaは3)二

巻 経 の よ う

に 「

乞 叉 肇三合」 で よ い筈 で あ る か ら、「

乞 叉 」の次 の 「

二 合 」 は不 要 で あ る と

考 え る。

な お、2)3)4)共

引 」 の語 が な い が、tikspaで あ るか ら 「底 」 の次 に 「引 」

の來 註 を附 した方 が よ い。 そ の他 は問題 は な い。

Skt.: vajra-tiksna! stem: 〃 和 訳 は 金 剛 利 よ と す る。 第 二 名 4)は 「野 引移 」 に な っ て い る が、 も ち ろ ん イ 本 の 「那 」 の 方 が よ い。 し た が っ て、 そ れ に 対 応 す る5)のttaも 誤 ま り と考 え る。 ま た7)の 中、 讃 の 「yana」 のnaも 誤 りで あ る。 10) の 「彷 那 」 は、yanaの 音 訳 で あ る。 Skt.: maha-yang! stem: 〃 和 訳 は 大 乗 よ で あ る。

第3名

第4名

(14)

第 三 名 4)の 「二 合 引」 の 「引 」, 5)の 「ku」 は, 共 に 誤 り と考 え る。 8)9)11)に 「劒 」 「剣 」, 10)で は 「蔵 」 と 訳 さ れ て い る が、rkosa」 は 剣 鞘, 豆 の 來 (さ や) 等 を 指 す 言 葉 で、 直 接 に は 「剣 」 で は な い け れ ど も 剣 の 意 も あ り、 蔵 (容 器) の 意 も あ る。 但 し 本 経 で はvajra-kosa-vigrahaと 三 摩 耶 形 で あ り、 不 空 訳、 施 護 訳 は も ど よ り、 黄 紙 次 第 に も、 「剣 」 と 訳 し て い る の で、 訳 と し て は 「蔵 」 は 採 ら ず、 日本 訳 は 「金 剛 剣 」 と す る。 但 し チ ベ ッ ト訳 の 「ral-gri」 は'剣'で あ る。 Skt.: vajra-kola! stem: 〃 和 訳: 金 剛 剣 よ と す る。 第 四 名

1)「mahayudha」 は 「maha+ayudha」 で、ayudhaは'武 器, の 意。 漢 訳 の 「侯 」 は 武 器 の こ と。 し た が っ て、9)の(三)(乙)(丙)(丁)本に は 「侯 」 の 代 り に 「大 」 の 字 が あ る と の 事 で あ る が、 「侯 」 の 字 が な く、 単 に 「大 器 」 で は 具 合 が わ る い。 「大 」 は お そ ら く 「杖 」 の 誤 字 誤 伝 と 思 わ れ る。 チ ベ ッ ト訳 のmtshonも '武器'で あ る。 Skt: mahayudha! 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(15)

-99-密 教 文 化 stem: 〃 和 訳: 大 器 侯 よ と す る。

第5名

第6名

第 五 名 Skt. 「manju-sri」 は、 呼 格 で あ る か ら、 正 し く は-srihで な け れ ば な ら ぬ が、 こ れ も 「語 基 ・呼 格 ・同 形 」 の 一 例 と し て 容 認 す る。Edg. に も法 華 経 に 「maiju-sri呼 格 」 の 実 例 が あ る こ と を述 べ て い る。(Ed9. 10. 40参 照) Skt.: maiju-sri!(正 し く は-srih) stem: 〃〃 和 訳: 文 殊 師 利 (妙吉 祥) よ と す る。

(16)

第 六 名 1)Skt. 「gambhirya」 は、gambhira'深 キ'か ら来 た 言 葉 で あ る。 した が っ て 2)3)の 「撮 」 に は 「引 」 の 來 註 が 欲 し い し、4)の 「識 」 は 舌 た ら ず の 音 写 で あ る。 5)6)7)8)の 梵 字 に は 問 題 は な い。5)のrgambhi」 と6)7)の 「gam bhi」 と は、表 記 法 の 相 違 に す ぎ な い し、8)「gabhi」 は お そ ら く空 点(m)の っ け落 し と 思 わ れ る。 も ち ろ ん7)讃 の 「ga」 もgaのa点 の っ け忘 れ と 考 え る。 次 に8)の 漢 語 「深 精 進 」 はgambhiryaの 「bhlrya」 を、virya(精 進)と 誤 っ て 「深, 精 進 」 の っ も りか も 知 れ な い が、 「精 進 」 の 謡 は 不 要 と考 え る。 ま た9)の 「染)は、(追 記 明覚 本 も 「染 」 で あ るが)「 深 」の 誤 写 と考 え る。(三) (三) の 「深 」 を 採 る。 Skt.: vajra-gambhirya! stem: 〃 和 訳: 金 剛 深 よ とす る。

第7名

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(17)

第 七 名

1)Skt. 「buddhe」 は、buddhiの 呼 格。buddhiはbuddha (仏 陀)、bodhi (菩 提)等 と 同 様、 動 詞Vbudhか ら来 た 言 葉 で 「覚 」 或 は 「慧 」 と訳 さ れ て い る が、buddhaが 過 去 分 詞 で あ る の に対 す る女 性 名 詞 で あ る。matiを 「慧 」 と 訳 す る の に 区 別 し て 和 訳 は 「覚 」 と決 定 す る。 Skt.: vajra-buddhe! stem: vajra-buddhi 和 訳: 金 剛 覚 よ とす る。

(略)

(±) 金 剛 因 菩 薩 偶

第1名 第2名

(18)

第-名

1) Skt. 「vajra-hetu」 の 「hetu」 は 原 因 の'因'。hetuはu語 基 で あ る か ら、 そ の 呼 格 は、 正 し く は、hotoで な け れ ば な ら ぬ が、口 調 の 上 で、stemと 同 型 の hetuの 形 を、 用 い た も の と思 わ れ る。7)讃 の 梵 字, 8)黄 紙 の 梵 字 に は 正 し くhetoと 伝 承 さ れ て い る。 と こ ろ で2)3)4)で は、hetuの 「he」に 対 し 「係 」 の 字 が 用 い ら れ て い る が、 先 に 瞳 菩 薩 の と こ ろ でketu'瞳'の 「ke」に 対 し 「計 」 が 用 い ら れ て い た。 「係 」 と 「計 」 と は、 我 が 国 で は 共 に 「ケ イ 」 で あ っ て 何 等 の 区 別 は な い。 そ の 上、 ロー マ 字 のkとhも 字 形 が 似 て い る の で 「係 親hetu'因'」 と 「計 観ketu 瞳'」 と は 混 同 視 さ れ や す い が、 韻 鏡 に よれ ば 「係 は 第 十 三 転、 喉 音、 濁 音、 去 声 第 四 位 の 「莫 」 と全 く 同 音 で あ り、 一 方 「計 」 は 同 じ く第 十 三 転 ・去 声、 四 位 の 字 で あ る が、 牙 音 ・清 音 の 字 で あ っ て、 係 と計 と は 一 方 は 「喉 音 」, 一 方 は 「牙 音 」 の 字 と い う事 で、 は っ き り区 別 さ れ て い る。 した が っ て 我 が 国 で は 共 に ケ イ で あ る が 「係 はheの 音 訳 字 」 「計 はkeの 音 訳 字 」 で あ る と い う事 は、 は っ き り記 憶 し て お く必 要 が あ る。 そ の 他 は 問 題 は な い。 Skt.: vajra-hetu! (正 し く は-heto) stem: tiTajra-hetu 和 訳: 金 剛 因 よ と す る。 第 二 名 1) Skt. 「mapda」 は'心 髄' 精 髄' 実 質, の 義。 4)の 音 訳 字 「葬 」 (マ ウ) は、 韻 鏡 音 は 「マ ン」 で 問 題 は な い。 8)9)10)11)の 漢 訳 の 中、 「場 」 と訳 す る の は、bodhi-maPdaを 菩 提 道 場 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(19)

密 教 文 化 と訳 さ れ る の に 準 じ た も の で あ ろ う。11)施 護 訳 に は 「金 剛 場 」 と あ る が、 「金 剛 」 は 「大 」 の 誤 りで あ る と 考 え る。 14)チ ベ ッ トの 「snin-po」 は、心 髄、精 髄 の 意 で、 常 にmapdaの 訳 に 用 い ら れ て い る が、Skt.「mapda」Tib. 「snin-po」 に は 共 に 直 接 「道 場 」 の 意 は な い。 意 は な い け れ ど も、 「悟 りの 心 髄 の 場 」 と い う事 で 「道 揚 」 「場 」 と訳 され て い る わ け で あ る。 こ こ で 「nlapda」 はmapdalaの 意 で あ ろ う か。 和 訳 は 一 応 「大 場 よ 」 「大 マ ン ダ よ」 「大 心 髄 〔庭 〕よ 」 に す る。 Skt.: rnaha-manda! stem: 〃 和 訳: 大 マ ン ダ よ(或 は 大 心 髄 〔処 〕よ)と す る。 第3名 第4名

(20)

第 三 名 2)3)4)の 音 訳 字 の 「碗 ヤ」 「左 サ」 「作 豹 等 は、 す べ て 粛 音、 第 一 の 清 音 の 字 で あ る か ら、ca或 い はcakの 梵 音 を写 す こ と に 問 題 は な い。(金 剛 愛 第 七 名 「蒲 」 「左 」に つ い て。 参 照) 4)剣 印 の 「二 合 引 」 の 「引 」 は、 例 の よ う に 誤 り で あ る。 Skt.: vajra-cakra! stem: 〃 和 訳: 金 剛 輪 よ とす る。 第 四 名 第 四 名 は 問 題 は な い。 Skt.: maha-naya! stem: 〃 和 訳: 大 理 趣 よ で あ る。 第5名 第6名 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(21)

密 教 文 化 第 五 名 rの 次 の 字 は (5)6)7)8)の 梵 字 が 示 す よ うに)写 本 で は、 し ば し ば 重 ね てrtta の よ うに 書 か れ て い る が、 正 し き に 従 っ てrtaに 訂 正 し 左。snellgrove本 で は、 必 ず し も重 ね ず、 正 し くrta等 と書 か れ て い る。" 2) 心 軌 の 最 後 の 字 「蘇 」 は 解 せ な い。 誤 入 と考 え る。 3) の 「曜 」 は、 甲本 の 「鯨 」 を と る。 5)6)7)8)の 梵 字 の 中、7)のrtna、 同 ・讃 のsamは 共 に 明 ら か に 誤 り と 考 え る。 漢 訳 の 中、8)10)の 「妙 転 輪 」 の 「輪 」 と, 11)の 「如 教 」 は、 も ち ろ ん 補 語 で あ る。 Skt.: su-pravartana! stem: 〃 和 訳: 妙 能 転 〔者 〕よ(よ く転 ず る もの よ)と す る。 第 六 名

1) Skt. 「valr6ttha」 は、vajra+utthaと 考 え る。utthaはutVstha・ 起 ち 上 る'か ら来 た 言 葉 で あ る。 2) 心 軌 の音 訳 字 か ら はvajrorthaと な る の で、(乙)(丙)の「但 」 字 を と る。 但 し 「但 」 を と っ て も 「二 合 引 」 で は。tthaと な る の で 「引 」 は と ら な い。 3)4)の 「但 他 」 「多 他 」 は、5)のtathaの 如 く誤 ま る こ と が あ る の で、 「二 合 」 の 來 註 が あ る方 が よ い。 と こ ろ でt(a)の 音 訳 字 「恒 」 並 び に 「多 」 と、tha の音 訳字 「他 」 と は、 我 が 国 で は 共 に 「タ 」 で あ っ て、 そ こ に 何 等 の 区 別 も な い が、 印 度 は も と よ り中 國 語 で も こ の 無 声、 有 声 の 区 別 は あ り、 韻 鏡 で は 「清 音 」 と 「次 清 音 」 と い う事 で そ の字 音 は 確 然 と 区 別 され て い る。 従 っ て 音 訳 上

も、Skt. の 無 気 ・含 気 の 両 音 を 区 別 し、 即 ちtaとtha, kaとkha, gaとgha, caとcha, …paとphaと を、 混 同 し て 音 写 し て い る よ うな 例 は な い。

(22)

5)と8)の 「ta・tha」 は 前 述 の よ うに、 二 合 で あ る の に 二 字 二 シ ラ ブ ル に 書 か れ た も の で、 勿 論 あ や ま り で あ る。

6)7)の 「cha」 は、tha(チ ベ ッ ト字 のthaに 似 たthaの 古字)が、 横 転 し て 書 か れ る とeha字 に 見 え る。 そ の 事 か ら の 誤 写 で あ る。 と 断 定 す る。 と い うの は 「tha」 字 が 横 転 し て 書 か れ て い る例 は、 ス ネ ル 本(悉 曇 文 字 で書 か れ た 写本) に は し ば し ば 現 わ れ、hcci本 は そ れ をchaと 誤 写 し た 例 が あ る か ら で あ る。 余 談 に な る が、 こ の 調 子 でdandotthaがTucci本 で は 誤 ま っ てdapdaehaと 書 か れ て い た の で、そ の 場 合 の チ ベ ッ ト訳 「bsgren」, 漢 訳 の 「起 」 に 対 応 せ ず、 そ の 語 意 を 得 る の に 困 り、 デ ー バ ナ ー ガ リ-字 体 の 上 か ら の み 誤 写 を 考 え て い た の で ま さ かchaがthaの 誤 写 な ど と は 夢 に も 思 わ ず、 永 い 間 四 苦 八 苦 し た が、 後 にsnellgrove'本 を入 手、 参 照 す る こ と が 出 来、 忽 ち、 「chaはthaの 誤 写 で あ る こ と 」 が 判 り、 わ け な く-解決 し た 経 験 が あ る。 〔初 会 金 剛 頂 経 の研 究、 (梵 本 校 訂本) (下) §1986註14)参 照 〕 ま た7)讃 の 「vajretsa」 は も ち ろ ん 誤 写 と 考 え る。 な お、 漢 訳 に お い て は、utthaは8)9)10)11)共、 す べ て 「起 」 と訳 さ れ、 問 題 は な い。 チ ベ ッ ト訳 は 「金 剛 よ り生 じ た も の 」の 意 で あ る。 Skt.: vajrottha! stem: 〃 和 訳: 金 剛 起 よ と す る。

第7名

帰 命

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(23)

密 教 文 化 第 七 名 こ れ は 第 二 名 のmaha-が こ こ でvajra-に 変 っ た だ け で、 音 訳 ・梵 字 ・漢 訳 ・チ ベ ッ ト訳 も す べ て 問 題 は な い。 Skt.: vajra-manda! stem: 〃 和 訳: 金 剛 マ ン ダ (金 剛 の 心 髄) よ と す る。

略。

金 剛 語 菩 薩 偶

第1名 第2名

(24)

第 一 名 1) Skt.「bhasa」 は'言 吾る こ と' し た が っ て、8)の 漢 語 に 「喜 悦 」 と あ る の は 「悦 」 は お そ ら く 「説 」 の ま ち が い と し て 「喜 」 は 理 解 で き な い。 2) の 「婆 」 の 爽 註 「去 」 は、 四 声 の 去 声 の こ と で あ る。 Skt.: vajra-bhasa! stem: 〃 和 訳: 金 剛 語 よ 第 二 名 1) Skt. 写 本 に は、su-vidyagraと あ っ た の で、 ロ ー マ 字 本 で は そ の ま まsu (妙)-vidya(明 呪)+agra(最 上)と-解 し た が、2)3)4)の 音 訳 字 及 び 梵 字 か ら はagryaの 方 が よ さ そ う で あ る。agra, agryaは 語 義 に は 変 り は な い。 即 ち2)心 軌 の 本 文 に は 「藥 曜 」 と あ っ て、agraの よ うで あ る が、(乙)(丙)本に は

「也 」 が あ る の で、 三 合 の 來 註 は な い が 「藥 曜 也grya」 と な り、3)4)に は 共 に 三 合 と あ り、5)6)7)8)の 梵 字 に もgrya-と 成 っ て い るの で、 先 に ロー マ 字 本 で はgraと 出 し た が、 い ま はgryaに 改 め る。(追 記 明覚 本 もagryaで あ る。)

但 し8)の 漢 語 「妙 眼 印 」 は 解 せ な い。'「妙 」 はsu一 の 訳 と し て、 「眼 」 は 明 の 誤 写 ・誤 伝 か。 「印 」 は 補 語 と 考 え る。 9) 不 空 訳 に 「最 上 」 の 訳 が 欠 け て い る の は、 文 字 の 制 限 の た め で、 止 む を 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(25)

密 教 文 化 得 な い。 次 に14)チ ベ ッ ト訳 に、 「ran(自)rig(明)mchog(最 上)」 と あ る が、ranは 誤 り で、 ぺ 版 並 び に 釈 に は 「rab」 と あ る の を 採 る。 Skt.: su-vidyagrya! stem: 〃〃 和 訳: 最 上 妙 明 よ (最上 の 妙 な る明 よ) とす る。

第3名

第4名

Skt.「japa」 は'諦 え る'の 義。 真 言 は単 に 口 に諦 え るだ け で な く、そ の義 を

念 じて諦 えね ば な らぬ とい う事 で 「

念 諦 」 とい う言 葉 が 出来 た。 「

持 諦 」 も同

様 で、 持 諦 の 「持 」 は<記

憶 して、 そ らで諦 え る〉 義 で あ る。 した が り て、

japaそ の もの は、 言葉 に し ては 「諦 」 の み で あ る が、 念 諦、 持 諦 等 と訳 され

(26)

る の で あ る。

な お5)6)7)8)の 梵 字 は、 す べ てjapaと あ る が、4)剣 印 の 「惹 」 の 來 註 に 「引 」 が あ る よ う に、japaとjapaは、 い ず れ も 同 義 で 用 い られ る。 そ し て そ の 語 根 はVjapで あ る か ら、japaの 方 が よ さ そ うだ が、 偶 句 と し て は 口 調 上 japaが 用 い られ て い る の だ ろ う と 考 え、 一 応japa, japaの 中 で は、japaの 方

を と る。 チ ベ ッ ト訳 の 「zlos-pa」 も'諦 え る'の 義 で あ る。 Skt.: vajra-japa! stem 〃 和 訳: 金 剛 諦 よ と す る。 第 四 名 音 訳 字 の 「那 」 「捺 」 は 共 に 「漢 音 ダ、 呉 音 ナ 」 で、 問 題 は な い。 9)不 空 訳, 11)施 護 訳 に 「-da」('与え る) が 訳 され て い な い の は、 例 の 字 数 制 限 の た め で 止 む を得 な い。Skt.「-da」 は 元 来Vda'ア タ エル'で あ る が、daは 複 合 詞 後 分 の 形 で あ る。 Skt.: su-siddhi-da stem: 〃 和 訳 ・ 妙 ・悉 地 施 者 よ (よ く悉 地 を 与 え る もの よ) と す る。 第5名 第6名 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(27)

第 五 名

1) Skt.「avaca」 に つ い て。Skt.に は、vac(f.), vaca(f.)と い う言 葉 は あ っ て も、vacaと い う言 葉 は な い か ら、 「avaca」 は 「a+vaca」 でa-vaca (mf

(a)n)と い う言 葉 が 作 ら れ た も の と考 え る。 ロー マ 字 本 §107で は、avacaは 菩 薩 名 と し て 用 い られ て い る。 い ま は、 そ の 男 性 ・単 数 呼 格 で あ る と 考 え る。 次 に2)3)4)の 音 訳 字 「遮 」 「者 」 「左 」 に つ い て は、 「我 が 国 で は シ ヤ、 サ の 漢 字 で 」 「梵 音 のcaが 音 訳 さ れ て い る 」 事 は、 既 に 述 べ た。(愛 菩 薩 第 七 名 参 照) 12) 秘 密 事 相 の 研 究 で は 「avaca」 は 次 名 のrvajra」 と合 し、 「無 言 金 剛 よ 」 と訳 され て い る が、 二 巻 経 に は 「阿 騨 者 」 の 次 に 「四 」 の 爽 註 が あ る か ら第 五 名 は 「avaca!」 の み と 考 え る。 な お、 チ ベ ッ ト訳 の 註 釈 は 一 対 一 で、 釈 は 「無 言 金 剛 」 と し、 疏 は 「無 言 」 の み で 第 五 名 と し、vajraはsiddhy-agryaと 共 に 第 六 名 と し て い る。 従 っ て 事 相 研 究 は お そ ら く釈 に 依 っ た も の で あ ろ うが、 先 に も い う通 り、avacaは 菩 薩 名 で あ る こ と、9)不 空 訳 に 「無 言 金 剛 成 」 と あ る の を 「無 言 金 剛 」 ま で を一 名 と し 「成 」 の 一 字 の み を 一 名 と す る の は 少 し均 衡 を 失 す る よ う に 思 わ れ る 事、 及 び3)二 巻 経 に は 判 っ き り と 「無 言 」 の 次 に 「四 」 の 來 註 が あ る こ と。 以 上 の 三 理 由 に 依 っ て 第 五 名 は 「無 言 」 の み に 決 定 す る。 Skt.は avaca!の み stemは 〃 和 訳 は 無 言 よ に 決 定 す る。

(28)

第 六 名

1) Skt・ 写 本 はrvajra (金 剛) -siddhy (悉地) -agra (最 上)」で あ る が、2)3)4) の 音 訳 字 か ら はsiddhiで な く、vidyaの 如 く で あ る。

ま た5)6)の 梵 字 か ら も、(vi, ei, は悉 曇 で は 間違 い や す い 字 形 で あ るか ら一見vid頂 の 如 くで あ るが)5)剣 印 がvidyaで あ る は 当 然 と し て、6)7)に は 「dhya」 と あ っ てdyaで は な い。 而 し て 本 経 の 漢 訳 で あ る9)10)11)の 漢 語 が す べ て

「悉 地siddhi」 と な っ て居 り、 チ ベ ッ ト訳 も 「grub-pa」 と あ っ て、siddhiの 方 で あ り、 註 釈 も疏・ 釈 共 に 「grub-pa」 と あ る の で、 本 経 に従 っ て 「siddhi」 が 正 し い も の と す る。 な お、Skt. 写 本, 2)心 軌, 4)剣 印, 5)同 梵 字 は、 「gra」 と あ る が、3)二 巻 経, 6)(梵)心 軌, 7)請 来 真 言 集, 8)黄 紙, 特 に 黄 紙 の 梵 字 は、5)がvid頭 をvidya, 6)-7)がcidhya等 と言 葉 に な ら な い 梵 字 が 書 か れ て い る の に 反 し、 そ れ な り に 完 全 な 梵 字 が 書 か れ て い る の で、 ま た チ ベ ッ ト 「mchog」 とSkt. 「agrya」 の 対 応 は、 従 前 に も、 何 度 も、 訳 例 が あ っ た の で、agra, agryaは、 い ず れ も意 味 の 上 で さ し て 変 りは な い け れ ど も、 一 応agryaを 正 し い も の と し て、agryaを 採 る こ と に す る。 〔従 っ て ロ ー マ 字 本 のgraは、gryaに 訂 正 す る。〕 従 っ てSkt. は1)8)のvajra-siddhy-agrya!を 採 り、 訳 は 「金 剛 悉 地 最 上 」 と す る。 な お、9)の 「金 剛 成 」 は 金 剛 成 就 の 略 で あ り、10)の 金 剛 上 悉 地 め 「上 」 はagryaの 訳 と考 え る。 以 上 に よ っ て Skt.: vajra-siddhy-agrya! steln: 〃 和 訳: 金 剛 悉 地 最 上 よ (或 ハ 最 上 金 剛 悉 地 よ) に 決 定 す る。 (追 記) 明 覚 本 は 「vajraddhyagrya」(si欠、aはaの 誤 り) と な って い る。

第7名

帰 命

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(29)

密 教 文 化 第 七 名 1) Skt. 写 本 は 「vajra-vaca」 で あ る の に 対 し、2)乃 至8)の 音 訳 字、 梵 字 は す べ て 「一bhasa」 と あ り、8)乃 至11)の 漢 語 は、vaca, bhasaの い ず れ の 訳 と も 考 え ら れ る。 ま たvaca, bhasaは 共 に チ ベ ッ ト訳 で は 同(の 「gsun-ba」 で 訳 さ れ て い る か ら、 こ こ でvacaか、bhasaか、 を定 め る事 は 出 来 な い。 要 す る に、 漢 訳 と チ ベ ッ ト訳 か ら は い ず れ と も言 え な い と し て も、1)Skt.及 び7) の讃 を 除 き 他 は 悉 くbhasaで あ る。 従 っ て 数 の 上 か ら言 え ば、vacaを 誤 り と断 定 せ ね ば な ら な い 状 況 で あ る が、 「vajra-bhasa」 は 既 に 第 一 名 と し て 出 さ れ て い る の に、 そ れ が 更 び 第 七 名 と し て 出 され る と い う の も不 自然 で あ り、 灌 頂 名 が108名 に 現 わ れ な い の も 不 自然 で あ る か ら、 第 七 名 はvajra-vacaを 正 しい も の と認 定 し、 且 つ 灌 頂 名 の と こ ろ (§111) で は (不) 金 剛 語、(金)金 剛 語 言、(施) 金 剛 語、 菩 薩 と訳 さ れ て い る が、 そ れ で は 第 一 名 の 「vajra-bhasa」 の 「金 剛 語 」 の 訳 と 重 複 す る の で、 目本 訳 はbhasa「 語 」、vaca「 言 」 と い う事 で 「金 剛 言 よ 」 と す る こ と に す る。 Skt.; vajra-vaca!〔-bhasaと す る本 あ り〕 stem: 〃 和 訳: 金 剛 言 よ とす る。

(30)

(追 記) 請 来 真 言 集 の 中、 金 剛 界 次 第 の と ころ で はbhasaで あ るが、 下巻 の 十六 大 菩 薩 讃 で はvajravacaと な って い る。 帰 命 句 (略)

金 剛 業 菩 薩 偶

第1名 第2名

2) 心 軌、 本 文 の 「

磨 」 に対 し、脚 注 に よれ ば(三)(乙)(丙)本

に は 「

摩 」 とあ る 由。

不 空 訳、 金 剛 智 訳、 施 護 訳 もkarmaに

対 し ては、 普 通 「

掲 磨 」 の二 字 が 用 い

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(31)

密 教 文 化 ら れ て い る が、

摩 は平声、犬韻

の相 違 は あ っ て も、 三 字二,

共 韻鏡 第 十 八 転、 唇 音、 清 濁音、

歴 は上声、果韻

第 一 位 の字 で あ って、漢音 「

バ 」呉 音 「マ 」 が示 す よ うに、

磨は去声、過韻

梵 音 の 幅, ba, maを

音 写 す る の に用 い られ るべ き字 で あ

り、事 実 そ の よ うに用 い られ て い る。 従 っ てkarmaの

場 合、 不 空 訳、 金 剛 智

訳、 施 護 訳 の 三 訳 に於 て 普 通 「

掲 磨 」 の二 字 が用 い られ て い る か ら、そ れ に従

っ て掲 磨 の 「

磨 」 は、 我 々 も 普 通 「

磨 」 と書 い て い る が、 そ れ は そ れ だ け の

事 で、 必 ず 「

磨 」 で な け れ ば な らぬ とい う理 由は 何 に もな い。 訳例 に従 って 掲

磨 と書 くだ け の事 で あ っ て、 少 くと も摩 や 麿 を誤 りとい う事 は 出来 な い訳 で あ

る。

波 羅 蜜 の場 合、 普 通、 訳 例 に従 っ て 「

蜜 」 を用 い るけれ ど も、音 訳 字 と して

は 「

密 」 と 「

蜜 」 と の場 合 も同 様 で あ る。共 に第 十 七 転、 入 声、 質 韻 の字 で、

密 は三 位, 蜜 は四 位, の相 違 が あ るの み で、共 にmiの

音 訳 に用 ぴ られ て お り、

秘 密 」 の 「

密 」 は 字 義 の上 か ら必 ず 「

密 」 で な けれ ば な らぬ けれ ど も、音 訳

字 とし て用 い られ る場 合 は密 と蜜 とに 区別 は な い。

要 す る に、音 訳 字 と し て用 い られ て い る揚 合 は、 磨, 摩, 歴, の三 字、 蜜,

密, の二 字 に は、 字 音 の上 か ら何 等 の 区別 が な い事 を述 べ た の で あ る。

Skt.;

vajra-karma!

stem:

和 訳:

金 剛 業 よ

第 二 名

Skt.: は、 「su(妙)-vajra(金 剛)-ajia(教 令)」で あ る。ajnaは 元 来ajna(f.)と い う女 性 名 詞 で あ る が、 複 合 詞 と な っ て 「a語 基 」 とな っ た も の で あ る。 い ま は そ の 男 性、 単 数、 呼 格 で あ る こ と は 言 う ま で も な い。 2)3)4)の 音 訳 字 の 中、 枳 は 「シ 」 「キ 」 で あ る が、 「枳 嬢 二 合 」、「枳 惹 二 合 」 が 「」加 」 の音 訳 字 で あ る こ と は、 他 に い く ら も訳 例 が あ り、 問 題 は な い。 Skt.: su-vajr'a-jna! stem: 〃 和 訳 は 妙 ・金 剛 教 令 よ とす る。

(32)

第3名

第4名

第 三 名 karmaもvajraも 常 用 の 語 で、 周 知 の た め か 音 訳、 梵 字、 漢 訳 に 問 題 は な い。 唯10)金 剛 智 に 欠 け て い る の み で あ る。 な お 「karma-vajra」 と は 十 字 金 剛 杵 (三 股 杵 を十 字 に組 み 合 せ た もの) の こ と で あ る。 Skt.: karma-vajra! stem: 〃 和 訳: 掲 磨 金 剛 よ (十 字 金 剛 杵 の こ と) 第 四 名

1) Skt. は、 元 来 はrsu(妙)-sarva(一 切)+Vgam(行 く)」で あ る が、Vgam

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(33)

密 教 文 化 は 複 合 詞 後 分 の 場 合 「-ga」 と な る の で 改 め た。 2)3)の 「藥 曜 二 合 」 「識 曜 二 合 」 は、 こ の ま ま で はgraと な り、su-sarva-graで あ る が、su-sarvagraと な り、4)も イ 本 で は 同 様 に な る が、 本 文 の ま ま 「な ら ば 「 su-sarva-ga」 と な っ て、6)7)8)・ の 梵 字、9)10)11)の 漢 訳 に 合 す る。 従 っ て2)3)は 「羅 」 を 「囎 」 の 前 に 移 し、 「二 合 」 を 「薦 」 の 次 に 移 せ ば、2)よ り14)ま で は、 す べ て 一 致 す る こ と に な る。 Skt.: su-sarva-ga! stem: 〃 和 訳 は 妙 遍 行 よ とす る。 (追 記) 但 し明覚 本 も 「gra業 金剛 遍 行 」 で あ る。 第5名 第6名

(34)

第 五 名 Skt.「amogha」 は'空 し くな い'の 意。 チ ベ ッ ト訳 は 普 通don-yod'有 意 義 な' で あ る が、nes-pa'決 定 の'と も訳 され る。5)6)7)8)の (梵字 「jra」 の 短 は い つ も の 事。7)讃 の 「jra」 が 正 しい。 Skt.: vajramogha stem: 〃 和 訳: 金 剛 不 空 よ (追 記) 明覚 本 には 「jra字 引点 云 不 也 」 とあ る。 第 六 名 Skt. は 「maha+audarya」。audaryaはudara'広 大 な る'か ら来 た 言 葉 で あ る。 従 っ て7)讃 を 除 き、5)6)7)8)の 梵 字 は も ち ろ ん、12)のmahodarya も誤 り で あ る。mahoで はmaha+udaryaと な る が、udaryaと い う言 葉 は な い か ら で あ る。 秘 密 事 相 の 著 者 も 思 い 違 い す る 位 で あ る か ら、Skt. 文 法 の 知 識、 理 解 の な か っ た 伝 承 の 梵 字 に 誤 り が あ っ て も、 そ れ は 当 然 で あ る が、 そ れ で も御 請 来 真 言 集 は、 特 に讃 の 方 は 全 く正 し くmahaudaryaと 書 か れ、 正

しい 形 が 伝 承 され て い る。

な お、 悉 曇 で は、 「hau」 か ら 字 上 の 一 点 が お ち る と、rho」, 「ho」 か らe点 が お ち う と 「ha」 で あ る か ら、hauがha, hoと 誤 写、 伝 承 さ れ て い る理 由 が わ か る。 漢 語 の 中、8)の 「対 面 」 は お そ ら く前 名 のmoghaを 音 の 上 か ら 戎mukhaと 混 同 し、 そ の 語 意 「対 面 」 を こ こ に 附 記 した も の で は な か ろ う か。 Skt.: mahaudarya! stem: 〃 和 訳: 大 寛 廣 よ (極 め て 広 大 な る も の よ)

(追 記) 明 覚 本 は 「mahoda「 引 」rya大 寛 広 也udaryaヲ 云 広 也 」 と して い る。

第7名

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(35)

第 七 名 「visva」 は 「一 切 」 の 意 で あ る が、'す べ て に 巧 な'と い う事 で 「巧 」 「巧 業 」 と訳 さ れ て い る の で あ る。 チ ベ ッ ト訳 の 「kun」 は 蘇'全て の'の 意。 出 生 段 で は thams-cad (sarvaの 訳) の 語 を 以 て訳 さ れ て い る。 「金 剛 巧 業 」 乃 至 (直訳 して) 「金 剛 一一切 よ 」 と す る。 Skt.: vajra-visva! stem.: 〃 和 訳: 金 剛 巧 業 よ (或 ハ金 剛 一 切 よ) と す る。

(略)

(36)

(十

四) 金 剛 護 菩 薩 偶

第1名 第2名

第 一 名

1) こ れ も、vajra+raksa (f.護)→vajra-raksa(m.)で、 一 語 の 揚 合 はraksa

と い う言 葉 は な い。 そ の 他 に っ い て は 問 題 は な い。 チ ベ ッ ト訳 「87伽 」 は 現 在 形、 ぺ 版 の 「bsrun」 は 末 来 形 の み。 Skt.: vajra-raksa! stem.: 〃 和 訳: 金 剛 護 よ 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(37)

密 教 文 化

1)Skt. 「一dhairya」 はdhira'勇 ジ キ、 堅 実 ナ'か ら来 た 言 葉:で あ る が、 2)以 下 の 音 訳、 梵 字 か ら は、 そ の 原 語 はvairyaの 如 く で あ る。

vira (m.)

→virya (n.)→valrya (n.)

→valra (mfn) vira (m.) は 「勇 し き 人 」。virya (n.)

は 「勇 し き 人 の 行 為 」、普 通 「精 進 」。vairya (n.) はviryaの 更 に 強 ま っ た 形。 一 方vaira (mfn) はviraの 名 詞 に 対 し、 形 容 詞 で あ る。 従 っ て、8)の 「勇 猛 」、9)の 「大 勇 」、10)の 摩嗣 無 畏 」、11)の 「大 精 進 」 か ら は、(特 に11)か らは)そ のSkt. は 「vairya」 の 如 くで あ る。 し か し、 ま たdhairyaも8)9)10)の 如 く訳 せ る し、 特 に チ ベ ッ ト訳 に 「brtam-P」 と あ る の で、Skt. 写 本 の 「dhairya」 も捨 て る こ と は 出 来 な い。 dhira=brtan-pa vira=dpaji-ba の対 応 の件 は、 ロー マ字 本 §1473註9)参 照 の こ と。

そ こ で 註 釈 を み る に、 釈 に は 「brtam-pa che'大 勇'」と あ り、 そ の 限 りdhirya の 方 で あ る が<brtan-pa cheと は三 種 の清 浄 の業 の 精進 の理 趣 によ りて で あ る>と 精 進(virya)と い う語 が あ る の で、brtan-paと あ っ て も、Skt. はvairyaか も 知 れ ぬ と い う疑 問 が 残 る が、 疏 に は<brtan-pa cheと は不 動 の 義 に よ って で あ る>と あ る の で、 ま ずdhiryaの 方 で あ っ た と思 わ れ る。 と 言 っ て 音 訳 の 全 部、 梵 字 の 全 部 がvairyaで あ る 以 上、vairyaも 捨 て る こ と は 出 来 な い。 い ず れ が 正 し く、 何 れ が 誤 り か、 は 決 せ ら れ な い 状 況 で あ る。 し か し、 い ず れ か 一 っ を是 非 と ら ね ば な らぬ と す れ ば、 私 は 一 応dhairyaの 方 を 採 る。 と い う の は、 ま ず 第 一 に、vairyaと い う言 葉 は、(梵 和 を 除 い て 他 の 辞 書 に、(Edg. に も) 現 わ れ な い 事 が 一 っ。 次 に は、2)乃 至8)の 全 て がvairyaで 数 の 上 で はvairyaの 方 が 一 応 多 い わ け で あ る が、 音 訳 と い っ て も梵 字 と い っ て も要 す る に2)乃 至8)は 漢 訳 の 範 囲 で あ る か ら、Skt. チ ベ ッ ト, 漢 訳 の 三 で 考 え る な ら ば、Skt. と チ ベ ッ トの dhairyaは 二、vairyaは 一で、 二 対 一 で あ り、 ま た、virya (精 進) の 方 は、 第 六 名、 第 七 名 に も現 わ れ る が、dhairyaの 方 は こ こ で 捨 て る と、 一 っ も な く な る か ら で あ る。 以 上 に よ っ てVairyaは 単 な る 誤 写 で な く、 漢 訳 の 原 本 に 於 て既 にvairyaと

(38)

な っ て い た (誤 写誤 伝 され て いた) と考 え る よ り 外 な い が、 悉 曇 で も デ ー ヴ ァ ナ ー ガ リ ー 文 字 で も、vaとdhaは 互 に 誤 写 さ れ 易 い の で あ る か ら、 お そ ら く、 多 分、Skt. 写 本 の 段 階 で、dhairyaがvairyaと 誤 写 され た も の と 考 え、 こ こ はmaha-dhairyaが 正 し い も の と す る こ と に す る。 Skt.: maha-dhairya (一 伝、-vairya) stem: 〃 〃 和 訳 は 大 勇 (あ る も の) よ と す る。

第3名

第4名

第 三 名 1) Skt.写 本 に 「-dharma」 と あ り、6)(梵)心 軌 に もdharmaと あ る が、 第 二 名 の と こ ろ で 述 べ た よ う に(vaとdhaの 字 形 に は近 似 性 が あ る の で)dharmaは 誤 写 と 考 え る。 而 し てvarmaは 元 来、 言 葉 と し て はvarman (n.) '覆 い もの''鎧'で あ り1 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(39)

varmanで も 呼 格 はVarmaで あ る か ら、 そ のStemはVajra-varmanと 考 え

る こ と、は 出 来 る け れ ど も、 こ こ は (m. ) が 必 要 で あ, る か ら、vajra-varman (n. ) →vajra-varma (m.) の 単 数、 呼 格 と 考 え る。 そ の 他 は 問 題 は な い。 Skt.: vajra-varma! stem: vajra-varma (m. ) 和 訳: 金 剛 甲 冑 よ-と す る。 第 四 名 「drdha」 は'堅 固 ナ ル'の 意。 そ の 他 は 問 題 が な い。 Skt.: maha-drdha! stem: 〃〃 和 訳: 大 堅 固 よ 第5名 第6名 -74

(40)

第 五 名 Skt. 「duryodhan」 は'敵 し が た い'の 意。 こ れ ま た 問 題 は な さ そ う で あ る。 Skt.: duryodhana! stem: 〃 和 訳: 難 敵 よ 第 六 名 Skt. 「virya」 は 第 二 名 の と こ ろ で 述 べ た よ う に 「精 進 」 で あ り、 チ ベ ッ トで は 常 に 「brtson-hgrus'努 め苦 しむ'の 語 を 以 て 訳 さ れ て い る。 2)の 「佑 哩 二 合 耶 三合 」 の 「二 合 」 は、 後 の 「三 合 」 の 中 に含 ま れ て い る か ら不 要 で あ る と思 わ れ る。 Skt.: su-viryagrya! stem: 〃 和 訳: 妙 ・最 上 精 進 よ'

第7名

百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(41)

第 七 名 2) 心 軌 後 半 の 重 複 はvajra-viryaだ け で よ い の に、 そ のviryaか ら誤 ま っ て 第 六 名 のviryaに 戻 り、 そ の 結 果agrya-vajra-viryaと っ づ け た 誤 り と思 わ れ る。 そ の 他 に 問 題 は な い。 Skt.: vajra-virya! stem: 〃 和 訳: 金 剛 精 進 よ とす る。 帰 命 丁句 8) の 「勤 我 礼 又 ハ 精 進 」 の 「勤 」 と 「精 進 」 は 第7名 のviryaの 註 で あ る。

(十

五) 金 剛 牙 菩 薩 偏

第1名

第2名

(42)

第 一 名 漢 訳 に 「尽 」 と は 轍 尽(食 らい つ くす)の 略。 夜 叉 が 人 血、 精 気 を吸 い と り食 ら う こ とか ら の 訳 で、 語 義 か ら の 訳 で は な い。 チ ベ ッ ト訳 の 「gnod(害 を)sbyin (あ た え る)」 も 同 様 で あ る。 Skt.: vajra-yaksa! stem: 〃 和 訳: 金 剛 夜 叉 よ 第 二 名 1) Skt. mahopayaはmaha+upayaで あ り、 「upaya」 は'方 便'の 意。 8) の 「大 宝 便 」 の 「宝 」 は 「方 」 の あ や ま り か。 「畏 」 は 解 せ な い。 そ の 他 は 問 題 は な い。 Skt.: mahopaya! stem: 〃 和 訳: 大 方 便 よ 第3名 第4名 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(43)

密 教 文 化 第 三 名 1) 「damstra」 は、'牙, の 意。 2) の 「郵 」 は 我 が 国 で は 「トドウウ」 で あ る が、 韻 鏡 で は 第 四 十 二 転、 舌 音、 濁 音、 去 声 戎第 一 位, 3)の 「能 」 は 同 転、 清 濁 音、 平 上 二 声、 第 一 位 の 字 で、 母 音 は ∂ngで あ る か ら、damの 音 写 に 用 い ら れ て 何 の 不 思 議 も な い。 但 し、2)心 軌 の 「二 合 」 は 次 の 「三 合 」 に含 ま れ て い る の で(重 複 す るの で) 不 要 で あ り、3)二 巻 経, 4)剣 印 の 「二 合 」 は、 「三 合 」 の 誤 り と 考 え る。7) 讃 のvajraの 重 複 は 誤 り とす る。 8) 黄 紙 の 漢 語 「耳 」 は 解 せ な い、 ま さ か 「歯 」 の誤 り と は 思 わ れ な い か ら で あ る。 Skt.: vajra-damstrai stem: 〃 和 訳: 金 剛 牙 よ 第 四 名 Skt. の 「bhaya」, チ ベ ッ トの 「hjigs-pa」 は'恐 れ''恐 怖'で、 そ の 他 に 問 題 は な い。 Skt.: maha-bhaya! 和 訳: 大 怖 よ

(44)

第5名 第6名

第 五 名

1) Skt. 「mara(悪 魔)-pramardin(催 伏 す る)」 は、in語 基 の 「男 性 ・呼 格 」 は stemと 同 型 な の で、 ロ ー マ 字 本 で は-pramardinと あ げ た が、 い ま 考 え る と、 そ れ で は5長 と な る の で、metreの 上 か ら はnを 省 い て、pramardiと す る 方 が よ い か も知 れ な い。12)秘 密 事 相 もそ う し て 居 り、 音 訳 ・梵 字 か ら も、nは な い よ うな の で、 写 本 の 「din」 を 改 め て 「di」 と 訂 正 す る。 2) の 「末 」は 漢 音 は 「バ ツ 」 で あ る が、 呉 音 マ ツ。 ま た、「爾 」 も 呉 音 は 「二 」 で あ る が、 漢 音 は ヂ (=di)、 そ の 他 に は 問 題 は な い。 Skt.: mara-pramardi! stem: mara-pramardin 和 訳 は 擢 魔 よ 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(45)

密 教 文 化 第 六 名 1) 写 本 のvajragraは、vajra十agra。 2) 心 軌 の音 訳 も そ の よ う で あ り、10)の 「金 剛 上 」, 11)の 勝 金 剛 」 か ら も vajragraの よ うで あ る が、3)4)に は 「噌 」 と あ り、5), 6), 7)讃, 及 び8)は 「jro」, 7)のjreもjroの 一 点 の 落 ち た 誤 写 と思 わ れ る か ら、 そ れ な ら ば 「vajra +ugra」:「vajr6gra」 の よ うで あ る。9)「 金 剛 峻 」 の 「峻 」 はugra'烈 シ イ' '残酷 ナ'の 訳 と思 わ れ る。 而 し て チ ベ ッ ト もmi-bzad-pa'抵 抗 シガ タキ'と な

て い る の でugraと 考 え、 「Vajragra」 を 「vajrogra」'に 改 め る。 牙 菩 薩 の 偶 で あ る か ら、agraよ りugraの 方 が 適 当 と考 え る。 日本 訳 は 「金 剛 峻 よ 」 とす る。 峻 は 元 来、 山 の き び し く高 い 事 で あ る が、 峻 厳、 峻 烈 等、 一 般 に'き び し い' 意 に 用 い られ て い る か ら で あ る。 Skt.: vajrogra! stem: 〃

和 訳:

金 剛 峻 よ

第7名

帰 命

(46)

第 七 名 Skt. 「capda」, チ ベ ッ ト 「drag-po」 は 共 に'あ ら あ ら し い こ と'。 音 訳 字 の 「(戦, 賛, 讃 」 は、セ ン、サ ン の 相 違 (韻鏡 で は第 三 位 と第一 位 の 相 違) は あ る が、 二+三 転、 歯 音、 第 一 の 清 音 の 宇 で あ る か ら、 梵 音caの 音 訳 字 と し て 問 題 は な い。 Skt.: vajra-canda! stem: 〃 和 訳: 金 剛 暴 怒 よ と す る。

(略)

金 剛 拳 菩 薩 偶

第1名 第2名 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(47)

密 教 文 化 第 一 名 1) Skt. 「-sandhi」 は'合 一、 合 体 合 同'の 意。 正 し く は、 呼 格 は、sandhe で あ る が、 出 生 段 の 心 真 言 (§132) もsandhiに な っ て い る の で、 ロ ー マ 字 本 で は 写 本 のsandhiめ ま ま に し た が、7)の 讃, 及 び8)にsandheの 形 も伝 承 さ れ て い る の で、 こ こ は 正 し き に 従 っ てsandheに 訂 正 す る。 2) の 「散 地 」 の 「地 」 は、 第 六 転、 舌 音、 濁 音、 去 声 (至 韻) で、dhiの 音 写 字。3)の 「第 」 は 同 じ く舌 音、 濁 音 で あ る が 第 十 三 転 (霧 韻) の 字 で、dhe の 音 写 字。 5) の 梵 字 「nti」 は 誤 り と 考 え る。 10) 金 剛 智 訳 の 「密 令 」 の 「令 」 は 誤 りで、(丙)(丁)本の 「合 」 を と る。 Skt.: vajra-sandhe! stem: vajra-sandhi 和 訳: 金 剛 合 よ と す る。 (追 記) 明覚 本 は 「合 」 で あ る。 第 二 名 こ こ で1)のSkt. 「su-samnidhya」 の 意 味 は よ く判 ら な い が、 「samnidhya」 はsamnidhi (原意 は'共 に お く'の 意) か ら来 た 言 葉 で あ る か ら、 辞 書 に は'そ ば に 在 る こ と''出 席'等 の 語 意 を 出 し て い る がsamnidhiの 「共 に お く」 と い う 原 意 か ら は 「現 わ す こ と 」 「集 め る こ と」 か。10)金 剛 智 訳 の 「善 現 験 」 は 「よ く し る し を現 お す こ と 」 の 意 で あ り、 そ の 現 わ す 能 力 とい う こ と で、8)9)で は、 「威 厳 」 と訳 さ れ、11)で は 「大 威 力 」 と訳 さ れ て い る の で は な か ろ うか。 13)秘 密 事 相 の 研 究 に 「善 現 験 す る も の よ 」 と 訳 さ れ て い る が、11)の 金 剛

(48)

智 訳 に よ っ た も の で あ り、 現 験 と い う 言 葉 は1お そ ら く'現 わ れ る'或 は'現 わ れ た し る し'の 義 に 解 し て の 訳 で あ る と 考 え る。 但 し チ ベ ッ ト訳 の 「rab-tu(よ く)編md(集 ま るvi. )」 は 集 ま る 義、 ナ ル タ ン版 の 「rab-sdud-nid」 は 「よ く集 め る こ と 」。釈 も 「rab-sdud-nid」 で あ り、 疏 は 「rab-tu bsdus-pa」('よ く集 め た')で あ る。 な お、8)の 漢 語 「喜 現 験 」 は、10)と 同 様 「善 現 験 」 で、 「喜 」 は、(suの 訳) 「善 」 の 誤 りで あ ろ う。-と こ ろ で、4)剣 印 に は 「蘇 婆 引尼 鞍 」 と あ る。 「鞍 」 は 亭 と夜 の 二 字 を 合 し た 音 訳 上 の 新 造 字 で、 「亭 夜 二 合 」 と す べ き を、 「鞍 」の 一 字 で 表 わ し た も の で あ る。 イ 本 に 「地 也 」 と あ る 通 り、Skt. 「dhya」 の 音 を 写 し た も の で あ る が、 「婆 」 は 娑 の 誤 写 誤 伝 で あ る こ と は 他 と比 較 し て(特 に2)の 「娑 」 か らみ て)明 か で あ ろ う。 然 る に5)剣 印 の 梵 字 が、 「婆 」 に 対 応 す る 「bha」 と な っ て い る 事 は、 音 訳 の 漢 字 が 主 で、 併 記 の 梵 字 は む し ろ そ れ に 従 っ た の で な い か、 と疑 わ せ る。 而 し て も し そ うだ と す れ ば、5)6)7)8)の 梵 字 「ne」 も、2)の 「寧 」, 3)の 「頸 」 等 か ら、 誤 ま っ て 「ne」 と さ れ た も の と考 え られ る。

こ の よ うに 考 え る と、5)6)7)8)の 梵 字 はbha, sa, sa等 に な っ て い て も、 或 はneに な っ て い て も、 そ れ は 誤 字 ・誤 伝 で あ っ て、samnidhyaが 正 し

い と 考 え て 差 支 え な い こ と が わ か る。

と こ ろ で 寧、 頸 は 共 に 「ネ イ 」 で あ る が、 訳 例 か ら は し ば し ばniに 用 い ら れ て お り、 特 に4)剣 印 に は 「尼 」 と あ る の で、Skt・ の 原 語 がsu-samnidhya

で あ る こ と に 間 違 い な い。 し た が っ て12)事 相 研 究 のsu-sannedhyaもsu-sannidhyaの 誤 り と 考 え る。 な お、7)讃 の 「tne」 はnneの 誤 り で あ り、nne

はnni, ddhyaはdhyaの 誤 り と 考 え る。 以 上 に よ っ て Skt.: su-samnidhya! stem: 〃 和 訳 は 妙 現 験 よ と決 定 す る。 (よ く験 を 現 わ す こ とよ) 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(49)

密 教 文 化

第3名

第4名

第 三 名 1) Skt. 「bandha」 は'縛 る こ と'。 次 に2)3)4)の 「満 」 は マ ン は 呉 音 で、 漢 音 は バ ン で あ る。 唇 音 の 清 濁 音 の 字 が、 そ の 頭 音(子 音)がb, v, m, で あ る こ と は、 先 に の べ た。 5) 請 来 真 言 集 の 「tva」 が、ndhaの 間 違 い で あ る こ と は、 悉 曇 で も、 デ ー ヴ ァ ナ ー ガ リー で も 「tとn」, 「vaとdha」 の 字 形 が よ く似 て い る か ら字 形 上 か ら も考 え られ る し、 他 か ら み て も 明 ら か で あ る。 11) に は 「金 剛 拳 」 と あ る が 「拳 」 で はmustiの 訳 と混 ず る か ら 「金 剛 縛 」 の 方 が よ い。 チ ベ ッ ト訳 も'結 ぶ こ と、 縛 る こ と'で あ る。 Skt.: vajra-bandha! stem: 〃 和 訳: 金 剛 縛 よ と す る。

(50)

-64-第 四 名 1) Skt. 「Pramocaka」(vmuc) は'よ く解 く も の'の 意。 2)3)4)の 「研 」 「左 」 等、 歯 音 第 一 の 清 音 の 諸 字 が 梵 音caの 音 訳 字 で あ る こ と は、 先 に、 金 剛 愛 菩 薩 の 第 七 名 の 項 で 述 べ た 通 りで あ る。 な お、4)の 鉢 嬉 は 鉢 囁嗣の 誤 植 と 考 え る。 5)6)7)8)の 梵 字 は、7)讃 の 「kah」 を除 き、他 は 珍 し く、 す べ て 正 し い。 8) の 漢 語 の 中、「能 縛 」が 前 名 (第三 名) か ら の 誤 入 で あ る こ と は 明 ら か で あ る が、 「願 」 は 解 せ な い。 チ ベ ッ ト訳 の 「9mZ」 は'解 く (vt. )'で な く'解 け る (vi. )' で あ り、「byed」 を っ け て 使 役 法 で 「解 く」 「解 放 す る 」 の 意 と な る の で あ る。 Skt.: pramocaka! stem: 〃 和 訳: 解 放 者 よ (よ く解 放 す る もの よ) 第5名 第6名 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(51)

第 五 ・第 六 名

1) Skt・ 「musty」 は、musti(拳)が、 次 の 第 六 名 の 「agra」 の 「a」 と連 声 し てiがyに 転 じ た も の で あ る。 正 し く は、 こ こ は 呼 格 で あ る か らmusteで あ る が、stemと 同 型 のmustiの 形 を と り、 そ れ がmustyと な っ て い る の で あ る。 次 に2)3)4)の 「耶 」 「野 」 「耶 」は、第 五 名 のmustiが 戎第 六 名 のagraと 合 し て 「mustyagra」 と な っ た、 そ のyaの 音 を 写 し た も の で あ る。 従 っ て、13) 秘 密 事 相 の研 究 に 「mustya」 とす る の は 誤 りで あ り、ま た 従 っ て 「耶 」「野 」「耶 」 は 「第 五 名 と 第 六 名 と に ま た が る 音 訳 字 」 で あ る が、4)二 巻 経 で は 一 名 毎 に 第 何 名 か の 数 字 を 附 し て 来 た の で、 「野 」 字 を 「y」 と 「a」に 二 分 す る こ と も 出 来 な い の で、 や む を得 ず 「野 」 の 次 に 「五 」 の 数 字 を 附 し た の で あ る。 漢 字 と し て は、 そ れ は 致 し方 が な い と し て、 「野 二 合 」 の 「二 合 」 は、mustyagra-, 即 ち styaの 三 合 で あ る か ら、 「二 合 」 は 三 合 の 誤 ま り で あ ろ う。 ま た6)7)8)の 梵 字 はgryaと な っ て い る が、agryaが 複 合 詞 の 前 分 に 来 る 例 は な い よ う で あ る か ら、5)及 び7)讃 のagraの 方 を と り、 戎第 六 名 はagra-samaya! とす る。 な お、 第 六 名 の11)の 「勝 三 昧 」 の 「三 昧 」 は、 施 護 訳 に お い て はsamadhi ('三摩嗣地'), samaya('三 昧')と 訳 し 分 け られ て い る の で、「三 昧 」 と あ っ て も、 そ れ は 三 摩 地 の 事 で な く、samaya(三 昧 耶、 本 誓)の 事 で あ る。 以 上 に よ っ て、 第 五 名 はSkt.: vajra-musty! stem: vajra-musti 和 訳 は 金 剛 拳 よ と し、 第 六 名 はSkt.: agra-samaya! stem: 〃

和 訳 は

勝 三摩 耶 よ (勝 本 誓 よ)

とす る。

第7名

(52)

第 七 名 1) Skt. 「-muste」 は、mustiの 呼 格、 こ こ は 正 し い 形 で 現 わ れ て い る。 2) の 「鯨 孝」, 8)の 「stai」 に つ い て は 前 に の べ た。 第 四 偶 喜 菩 薩 の 第 三 名 の 項 参 照。 5) のmustaは、mustaと い う よ う なa語 基 の 語 は な い か ら、 明 ら か に誤 り で あ る。 そ の 他 は 問 題 は な い。 よ っ て Skt.: vajra-muste! stem: vajha-musti 和 訳 は 金 剛 拳 よ とす る。 (追 記) 明 覚本 も 「mustai」 とな って い る。 蘇 の 音 訳字 に ま ど わ され た もの で あろ う。 以 上 の 諸 本 対 照 に よ っ て、108名 のSkt. 原 語、 及 び そ の 和 訳 が 一 応 確 定 し た の で、 百 八 名 勧 請 の 梵 文 を 和 訳 す る と、 次 の 通 りで あ る。 〔ロー マ字 本 §196〕 そ の と き 一 切 如 来 た ち は 再 び 集 会 し て、 〔一 つ に は 〕 金 剛 界 大 マ ン ダ ラ の 加 持 の た め、 〔一 つ に は 〕 す べ て の 衆 生 界 を の こ らず、 あ ま す こ と な く完 全 に 救 い く あ ら ゆ る利 益 安 楽 を 〔衆 生 が 〕 得 る よ う、 乃 至、 一 切 如 百 八 名 讃 の 註 釈 的 研 究 日

(53)

密 教 文 化

来 の 平 等 性 智 ・神 通 ・正等 正覚 の最 上 悉 地 〔が成 就 す る〕 た め に、 世 尊 ・一圭

如来 主 ・自の金 剛 薩 垂 ・

無始 無 終 の 〔

存 在 で あ る〕 大 ・持 金 剛 者 〔

即 ち大 日如来〕

を、 この108名 に よ っ て勧 請 した。

§1971)

(1)金

剛 薩 唾 よ(2)大

薩 垣 よ(3)金

剛 よ(4)一

切 如 来 よ

(5)普

賢 よ'(6)金

剛 初 よ(7)金

剛 手 よ

帰 命 が あ れ か し汝 の た め に (我れ御身 に帰命 し奉 る)

2) (1)金

剛 王 よ(2)妙

最 上 仏 よ(3)金

剛 鉤 よ(4)如

来 よ

(5)不

空 王 よ(6)金

剛 最 上 よ(7)金

剛 召 よ

帰 命 が あ れ か し汝 の た め に (我れ御身 に帰命 し奉 る)

3) (1)金

剛 愛 よ(2)大

安 楽 よ(3)金

剛 箭 よ(4)能

伏 者 よ

(5)魔

欲 よ(5)大

金 剛 よ(7)金

剛 弓 よ

帰 命 が あ れ か し汝 の た め に (我れ御身 に帰命 し奉 る)

4) (1)金

剛 善 哉 よ(2)妙

最 上 薩 垣 よ(3)金

剛 満 足 よ(4)大

悦 よ

(5)歓

喜 王 よ(6)金

剛 最 上 よ(7)金

剛 喜 躍 よ

(釈 ほ一名 と一す る)

帰 命 が あ れ か し汝 のた め に (我れ御身 に帰命 し奉 る)

§1985) (1)金 剛 宝 よ(2)妙

金 剛 利 よ(3)金

剛 虚 空 よ(4)大

宝 珠 よ

(5)虚

空蔵 よ(6)金

剛 豊 よ(7)金

剛 蔵 よ

(釈 は 一 名 と す る)

帰 命 が あ れ か し汝 の た め に (我れ御身に帰命 し奉 る)

6) (1)金

剛威 光 よ(2)大

光 焔 よ(3)金

剛 目 よ(4)勝

者 光 よ

(5)金

剛 光線 よ(5)大

威 光 よ(7)金

剛 光 よ

帰 命 が あ れ か し汝 の た め に (我れ御身 に帰命 し奉 る)

7) (1)金

剛 瞳 よ(2)妙

衆 生 利 よ(3)金

剛 幡 よ(4)妙

能喜 者 よ

(5)宝

橦 よ(6)大

金 剛 よ(7)金

剛 杖 (或ハ金剛刹) よ

帰 命 が あれ か し汝 のた め に (我れ御身 に帰命 し奉 る)

8) (1)金

剛 笑 よ(2)大

笑 よ(3)金

剛徴 笑 よ(4)大

希 有 よ

(5)愛

喜 歓 喜 よ(6)金

剛 最上 よ(6)金

剛 愛喜 よ

帰 命 が あれ か し汝 の た め に (我れ御身に帰命 し奉 る)

§1999) (1)金 剛 法 よ(2)妙

真 実義 よ(3)金

剛 蓮 よ(4)妙

浄 者 よ

(5)世

自在 よ(6)妙

金 剛 眼 よ(7)金

剛 眼 よ

帰 命 が あ れ か しの 汝 た め に (我れ御身に帰命 し奉 る)

表 わ す 言 葉 も あ り、 漢 字 に も 呵 呵 大 笑 と い う語 も あ る の で、hasaは'声 を 出 し て 笑 う'、smitaは'に っ こ り笑 う'の で あ る と 区 別 理 解 した い。 Mkt

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