博 士 ( 環 境 科 学 ) 槙 塚 忠 穂
学 位 論 文 題 名
都 市 騒 音 の 高 次 神 経 活 動 に 及 ぼ す 影響 の 総 合 評 価
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
Iはじめに
本研 究の目的は,(1)都市騒音実態調査からその特徴を明らかにすること,(2)実態調査によって 明 らか に され た知 見 をも とに,そ の特徴を備える都 市騒音を録音し,防 音室内で再現暴露 し,人 の高次 神経活動に及ぼす 影響の総合評価を 行うことである。
u都市騒音の実 態調査
都市 騒音の実態調査は ,都市の人口分布, 交通網および都市 建築物の歴史的ナ ょ発展過程を考慮 し ,札 幌 市で は同 心 円法 ,他 の道内中小 都市ではメッシュ 法を用いて行った 。同心円法による札 幌 市の 騒 音の 測定 点 は札 幌駅 (O km地点 )を中心地点とし ,中心地点から東 西南北を含む等分さ れた24方向の郊外に向か ってl km毎に8km地点までと した。
測定 の 結果 ,札 幌 市の 騒音 の特徴は, 市中心部から郊外 部ヘ向かって減衰 し,中心地点(O km 地 点 )で はLeq70. 4dB(A),lkm地 点 ではLeq66. 7dB(A) ,2km地点 で はLeq62. 8dB(A),
3 km地 点 で はLeq60.8dB(A) ,4km地点 で はLeq57. 5dB(A),5km以 遠で はLeq54. 0〜60.5 dB(A) であ っ た。 また , 同市 の騒 音 が交 通流 量 および家 屋形態とその密度 によって大きな影響 を 受け て いる こと が 明ら かと な った 。さ ら に、 札幌 市の都市騒音は3種類の 特徴ある騒音変動パ ターン として分類するこ とができた。すなわ ち,(1)市中心部における騒音で,拡散音場の様相を 呈 し, 交通流 量も多く,高騒音 ・高暗騒音レベル の騒音,(2)4 km以遠におけ る郊外部の騒音で,
自 由音 場の様 相を呈し,交通流 量も市中心部に比 べ少く,低騒音・低 暗騒音レベルの騒 音,(3)騒 音 レベ ル およ び交 通 流量 が前 二者の中間 的値をとり,騒音 の変動パターンが 交通流量に影響を受 け る間 欠 性の 様相 を 呈す る騒 音で,音響 学的にも拡散音場 と自由音場との中 間と考えられる騒音 で あ る 。 他 の 道 内 中 小 都 市 に お け る 騒 音 の 特 徴 は(2)お よ び (3)cこ 該 当 し た 。
m都 市 騒 音 の 人 体 影 響 に 関 す る 実 験 的研 究
l.実験方 法
都 市騒 音が 人 の高 次神 経 活動 に及ばす影響 を明らかにし,騒 音の総合評価を行う 目的で,実態 調 査で 明 らか にさ れ た3種 類の 特徴 あ る騒 音と し て,l km地 点,2km地 点,4km地 点 の騒 音を 採 用 し て騒 音の 暴 露実 験を 行 い, 電気生理学的 および神経内分泌 学的方法,聴カなら びに心理的不 快 感 を 指 標 と し て 総 合 評 価 を 行っ た 。測 定項 目 は脳 波, 聴 覚誘 発電 位 (AEP), 視 覚誘 発電 位 (VEP), 尿 中 お よ び 血 中 カ テ コ ― ル ア ミ ン(CA), ヘ マ ト ク リ ッ ト 値(Ht), 聴 カ お よ び 心 理 的 不快感である。
実 験 は 手 続 き の 都 合 上 , 実 験Aと 実験Bに分 け ,実 験Aで は脳 波 記録 は暴 露 前5分 間, 暴露 中 30分 間, 暴露 終 了後30分 問 行い ,CA測 定の ため の 採尿 およ び 採血 は暴 露 前,暴露 終了30分後お よ び 終 了90分 後 に 行 っ た 。 実 験Bで は 暴 露 前 , 暴 露 終 了 直 後 お よ び 終 了30分 後 にAEP,VEP の 記 録を 行い , 暴露 前, 暴 露終 了直後および 暴露終了60分後に 採尿および採血を行 った。披験者 に はl km,2kmおよ び4km地点 の3種 の 都市 騒音 を 防音 室内 に おい て安 静 閉眼 椅座 位 でス ピー カ よ り 収録 地点 と 同レ ベル で 再現 し,30分間 暴露 し た。 さらに,対照とし て暗騒音条件(25dB(A) 以 下 ) を 加 え た 。 聴 カ の 測 定 は騒 音 暴露 前と 暴 露終 了直 後 ,AEPとVEPを測 定す る 直前 に行 つ た 。3種 の 騒 音 暴 露 に よ る 被 験 者 の 心 理 的 不 快 感 の 調 査 は 暴 露 終 了 時 に 質 問 法 で 行 っ た 。 2.実験結 果
1)得 ら れた 実験 成 績を3種の 騒音 条 件間 ,暴 露 前中 後間 お よび 個人 差 間の 三元 配 置に よる 分 散 分析を行い検討した結果,(1)すべての測定指標に著しい個人差が認められた。(2)ほとんどの測 定 指標で騒音条件間 および暴露前中後間 と個人差との間に 有意な交互作用が 認められた。ただし,
脳 波 では 個人 差 と騒 音条 件 およ び暴 露 前中 後と の 間に 有意の交互作用が 認められたのに対 し,A EP,VEPお よ びCAで は 個 人 差 と 騒 音 条 件 間 で 強 い 交 互 作 用 が 認 め ら れ た 。 ま た , 尿 中 工 ピ ネ フ リ ン(E)お よ び 尿 中 ノ ル ェ ピ ネ フ リ ン(NE)で は 個 人 差 間 と 騒 音 条 件 間 で 有 意 の 交 互 作 用 が 認 め ら れ た の に 対 し , 血 中CAで はNEに の み 有 意 の 交 互 作 用 が 認 め ら れ た 。 2)騒音 条件 間 ,暴 露前 中 後間 およ び これ らの 交 互作 用に 有 意差 の認 め られたも のにっいて多 重 比較を行い検討し た結果,(1)脳波では暴露 中のaパヮ ー値とロ%値が有 意に減少し,ロパヮー 値 と ロ % 値 お よ び6% 値 が 有 意 に 増 加 し た 。(2)AEPではN,潜時 が暴 露 後有 意に 短 縮し ,N,振 幅 が 有 意 に 減 少 し た 。N,潜 時 の短 縮 は騒 音暴 露 終了30分 後 にも 認め ら れた 。ま た ,N,ーP2振 幅 は 暴露 前に 比 較し て暴 露 後有 意に 短 縮し た。 (3) VEPで はP3潜 時以 降 の非特殊 系の潜時が暴 露 終了直後有意に延 長し,暴露終了30分 後では終了直後に 比較して有意の短縮が認められた。(4) 尿 中CAで はEが 暴 露 中 , 暴 露 後 に 有 意 に 増 加 し ,NE7E比 は 有 意 の 減 少 を 示 した 。(5)血 中
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NEで は暴露中,暴露後に増加が 認められた。また,血中Eお よびNEの分泌はlkm地点条件で 抑制され,血中Eは2 km地点条件でも同様の傾向が認められた。すなわち,lkmおよび2km地点 のある程度高いレベルの騒音暴露では,CA分泌からみて副腎機能が抑制される臨界レベルであ ることが示唆された。(6)聴カでは左耳聴カが1 kmおよび2km地点条件で暴露後約2dBHL上昇 した。また,騒音暴露により尿量の増加とHt値の上昇が認められた。(7)3種類の騒音暴露によ り心理的不快感は認められなかった。
IV結 論
1.札幌市の都市騒音は高騒音・高暗騒音レベル,低騒音・低暗騒音レベルおよび交通流量に 影響を受ける間欠性騒音の3種類の特徴的パターンに分類される。
2.3種の都市騒音を人に暴露し高次神経活動に及ぼす影響の総合評価を行うと,心理的不快 感が認められない中等度音圧レベルの都市騒音でも,高次神経活動に及ぼす影響が脳波および誘 発脳波の成績から明らかとなり,その影響は暴露終了後まで及んだ。一方,尿中および血中カテ コールアミンの分泌も同様であった。
3.著しい個人差が騒音暴露の影響でみられ,個人差と騒音の種類および暴露条件との間に有 意の交互作用が認められた。
以上のことから,心理的不快感が認められない中等度の都市騒音レベルでも人の高次神経活動 に影響を及ばすことが明らかとなった。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査 副 査 副 査 副 査
教 授 斎 教 授 小 教 授 保 教 授 金 教 授 ゛ 道 教 授 黒 講 師 神
藤 和 雄 島 豊 原喜志夫 安 公 造 幸 哲 也 柳 俊 雄 山 昭 男
本研 究 は, 大中 小 都市 の騒 音 の特徴を明 らかにし,その特徴 を備えた実際の都 市騒音を防音室 内で 人に暴露し,高次神 経活動に及ぼす影 響の総合評価を行 った。
都市 騒 音の 実態 調 査は ,都 市 の人口分析 ,交通網および建築 物の発展過程を考 慮し,札幌市で は同 心円法,他の道内中 小都市ではメッシュ法により損l亅定し,その結果,札幌市の騒音の特徴は,
市 中心 部 から 郊外 部 ヘ向 かっ て 滅衰 し, 中 心地 点(0 km地 点) で はLeq70. 4dB(A),lkm地点 で はLeq66. 7dB(A) ,2km地 点 で はLeq62. 8dB(A) ,3km地 点 で はLeq60.8dB(A) ,4km 地 点で はLeq57. 5dB(A) ,5km以遠ではLeq54. 0〜60. 5dB(A)であった。さら に,札幌市の騒 音は 次の3種類 の特徴あるパ夕一 ンに分類できた。す なわち,(1)市中心部にお ける騒音で,拡散 音 場の 様 相を呈 し,交通流量も多く ,高騒音・高暗騒 音レベルの騒音,(2)4 km以 遠における郊外 部 の騒 音 で, 自由 音 場の 様相 を 呈し,交通 流量も市中心部に比 べ少なく,低騒音 ・低暗騒音レベ ルの 騒音,(3)騒音レベルおよ び交通流量が前二者 の中間的値をとり,騒音の変動パターンが交通 流 量に 影 響を 受け る 間欠 性の 様 相を呈する 騒音で,音響学的に も拡散音場と自由 音場との中間と 考 えら れ る騒 音で あ る。 他の 道 内中小都市 における騒音の特徴 は(2) および(3)に該当した。
次に 都 市騒 音が 人 の高 次神 経 活動に及ぼ す影響を明らかにし ,騒音の総合評価 を行う目的で,
l km地 点 ,2km地 点 ,4km地 点 で の3種 類 の 特 徴 あ る 騒音 を 用い て騒 音 の暴 露実 験 を行 った 。 得ら れ た実 験成 績 を3種 の騒 音条 件 間, 暴露 前 中後 間および 個人差間の三元配 置による分散分 析 を行 い 検討 した 結 果, すべ て の測定指標 に著しい個人差とほ とんどの測定指標 で騒音条件間お よ び暴 露 前中 後問 と 個人 差と の 間に有意な 交互作用が認められ た。ただし,脳波 では個人差と騒 音 条件 お よび 暴露 前 中後 間に 有 意の交互作 用が認められたのに 対し,聴覚(AEP),視覚(VEP) お よび カ テコ ール ア ミン では 個 人差と騒音 条件間で強い交互作 用が認められた。 また,尿中工ピ
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ネ フ リ ン(E)お よ び 尿 中 ノ ル ェ ピ ネ フ リ ン(NE)で は 個 人 差間 と 騒 音 条 件間 で 有 意 の 交 互作 用 が 認 め ら れ た の に 対 し , 血 中CAで はNEに の み 有 意 の 交 互 作 用 が 認 め ら れ た 。 騒 音条件 間,暴 露前中 後間お よび これら の交互 作用に 有意 差の認 められ たものにっいて多重比 較を 行い検 討し た結果 ,(1)脳 波では暴露中のdパヮ一値とば%値が有意に減少し,ロパワー値と ロ % 値 およ び6% 値 が有 意 に 増 加 した 。(2) AEPで はN,潜 時 が 暴露 後 有 意に 短縮し ,N,振 幅が 有 意 に 減少 し た 。N,潜 時 の 短 縮 は騒 音 暴 露 終 了30分 後 に も認 め ら れ た 。また ,NI―P2振幅は 暴 露 前 に比 較 し て 暴 露後 有 意 に 短 縮し た 。(3) VEPではP3潜時 以降の 非特殊 系の 潜時が 暴露終 了直 後有意 に延 長し, 暴露終 了30分 後では 終了直 後に比 較して有意の短縮が認められた。(4)尿中 CAで はEが 暴 露 中 , 暴 露 後 に 有 意 に増 加 し ,NE7E比 は 有 意の 減 少 を 示 した 。 (5) 血中NEで は 暴 露 中 , 暴 露 後 に 増 加 が認 め ら れ た 。ま た , 血 中Eお よ びNEの分 泌 は1km地 点 条 件 で 抑制 さ れ , 血中Eは2 km地 点 条 件で も 同 様 の 傾向 が 認 めら れた。 すな わち,lkmお よび2km地点 のあ る 程 度 高い レ ベ ル の 騒音 暴 露で は,CA分 泌か らみて 副腎機 能が抑 制され る臨 界レベ ルであ るこ と が 示唆さ れた 。(6)聴 カでは 左耳聴 カがl kmおよび2km地 点条件 で暴 露後約2dBHL上 昇し た。
ま た , 騒音 暴 露 に よ り尿 量 の増 加とHt値 の上 昇が認 められ た。(7)3種類の 騒音暴 露に よる心 理 的不 快感は 認め られな かった 。
以 上から ,心理 的不快 感が認 めら れない 中等度 のレベ ルの 都市騒 音でも 防音室内では人の高次 神経 活動に 影響 を及ぼ すこと が明ら かと なった 。
本 研究で 得られ た知見 は都市 の騒 音環境 基準を 設定す る場 合に極 めて有 用であり,申請者は博 士( 環境科 学) の学位 を受け るのに ふさ わしい ものと 判断し た。