博 士 ( 医 学 ) 沼 澤 理 絵
学位論文題名
a2 受容体によるラッ卜海馬セ口トニン放出調節機構
ー 1n vivoマ イ ク ロ ダ イ ア リ シ ス 法 に よ る 検 討 ― 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
I.研究目的
中枢神経系においてセロトニン(5‑hydroxytrゆtarnjne:5‐HDは神経 伝達物質として生理学的機能を担うのみならず、心身症や神経症の 発生過程において重要な役割を果たしていることが示唆されており、
その放出調節機構に対する関心が高まっている。Q2アドレナリン受 容体を介した5‐HT放出調節機構の存在については脳スライスを用い た血dむ.0の実験で多くの報告があるものの、血W旧でQ2アドレナリ ン受容体作動薬を用いて5−HI倣出調節機構を検討した報告ほほとん どない。
本研究 の目 的は、 血Wv〇マイ クロ ダイア リシ ス(微 小透析)法 を 用いて 中枢 神経系 におけるa2アドレナリン受容体を介した5‐HT 放出調節機構を薬理学的に解明することである。第一に透析液中の 5‐HTが神経由来であるか否かをテトロドトキシン(TTX)、フルオ キセチンを用いて検索した。次にQ2アドレナリン受容体作動薬であ るUK14,304のカリウム(K十)刺激による脱分極性5−HT遊離に与え る影響について検討した。最後に、Q2アドレナリン受容体を介した 5‐HT放出調節機構と百日咳毒素感受性G蛋白との関連性を検討した。
II.対象と方法
Wistar系 雄性 ラ ッ ト (8‐12週 令 、280‑350g)を 使用し た。 ケタ ミ ン100mg/kgの 腹 腔 内 投 与 で 麻 酔 し た の ち 、8mmの ガ イ ド カ ニ ュー ラ を 脳 定 位 固 定装 置 を 用 い て 海 馬 に 埋 め 込んだ 。手 術よ り2日後 、先 端 3mmの ダ イ ア リシ ス 用 プ ロ ー ブ を ガ イ ドカ ニュ ーラ を介し て挿 入し 、 実 験 を 行っ た(probetip: rostal‐caudal‐5.8mm, lateral−4.8 mm, ventral ‑7.0 mm from bregma and dura surface)。プローブは持続的に Ringe繊 流 速2ル1/ 分 で180分 間 灌 流 し た 後 、20分 間 隔 で 透 析 液 を 採 取 し た 。 回 収 さ れ た 透 析 液 は 直 ち にm)LC一ECDに 注 入 し 、5,HT とその主代謝産物である5‐hydrox妬ndole‐3‐aceticaddく5‐HLり`)を定 量した。
実験1
透 析 液 中 の5‐HTが 神 経 由 来 で あ る こ と を 確 認 す る た め にNaチ ャ ネ ル 阻 害 藁 で あ るnXと 選 択 的5−HT再 取 り 込 み 阻 害 薬 で あ る フル オ キ セ チン を 透 析 液 採 取 開 始 よ り60分 後 に 灌 流 液 中 に 加 え た 。 次に 、 5‐HTの 放 出 を 促 進 す る た め にKClを60n1Mお よ び120mMで 各 々2回 灌 流 液 中に 加 え 、 そ の 効 果 を 検 討 した 。K十 刺 激 後 の 透 析 液 中 の5.HT が 神 経由 来 で あ る こ と を 確 認 す るた め 、2回 目 のK十 刺 激 は カ ルシ ウ ム イ オ ン の 存 在 下 と 非 存 在 下 の 両 条 件 の も と で 行 っ た 。 実験2
Q2受容 体 作 動 薬 で あ るUK14,304の5ーHI倣 出 に 与 え る 影 響 につ い て 検 討 し た 。UK14,304は2回 目 のK十 刺 激 の 際 にRinger溶 液 とと も に 灌 流 し た 。1回 目 と2回 目 のK十 刺 激 後 の5‐HT上 昇 比 (SイS1) で UK14,304の 効 果 を 評 価 し た 。Q2ア ド レ ナ リ ン 受 容 体 拮 抗 薬 のイ ダ ゾ キ サン (5mg/kg) は2回 目K十 刺激 の20分 前 に 腹 腔 内 投 与 し た。 カ テコラミン作動性神経を破壊するため,数例に
6‐hydroxydopamine(6ー0HDA) を あ ら か じ め 脳 室 内 投 与 し た 。
実験3
ある種のG蛋白を修飾する百日咳毒素(pertussis toxin: PTX)を投与 した後、UK14,304の5‐HT放出に及iます影響について検討した。PTX はpush‑pullカニューラを用いて流速7ル1/分で70分間海馬に局所投与 した 。それぞれの 実験が終了した後、ラットの脳を摘出してプロー ブの位置を確認した。
III.結果 実験1
TTX (10ルM)の60分 間 灌 流 に よ り5‑HTレ ベ ルは 減 少し 、TTX投 与の中止後徐々に回復した。了方フルオキセチン(10ルM)灌流により 5‑HTレ ベル は 有意 に 上昇 した 。K十(60および120mM)刺激 によって 5‑HTレ ベル は 濃度 依 存性 に上 昇 した 。5‑HIAAレベ ル はK十刺 激 に より 変化しなかっ た。一方、灌流液中のカルシウムをマグネシウム で置 き換えた場合 、K十刺激による 脱分極性5‑HT放出上 昇は抑制さ れた。
実験2
UK14,304(0.1‑10ルM)を灌流液中 に加えたとこ ろ、K十刺激性 5‑HT放出は 濃度依存性に 減少した。灌流 液中のUK14,304 (10ルM) の添 加は5‑HTレベルを37%まで減少させたが、これはイダゾキサン の 腹 腔内 投与 に より87% ま で回復し た。6‑OHDAを脳室内投与 した ラッ トにおいても 、UK14,304 (10ルM)はK十刺激性5‐HT放出を抑 制した。
実験3
実 験2で得 られ たUK14,304によるK十 刺激性5‐HT放出の 抑制 は 、 PTXを 前 投 与 し た 群 に お い て 認 め ら れ な か っ た 。
IV. 考察
本研究における一連の実験は、in vivo マイクロダイアリシス法で 測定された無麻酔無拘束ラット海馬の5‑HT が神経由来であり、脱分 極性 5‑HT 放出には5 ‐ HT 作動性神経終末に存在するa2 アドレナリン 受容体による放出調節機構が存在することを示唆するものである。
Na チャネル阻害薬である rrx は、マイクロダイアリシス法におい て透析液中の神経伝達物質が神経由来であるかを確認するために用 いられてきた。本研究において自発的5‑HT 放出はrrx 灌流により著 明に滅少した。また、選択的5‑HT 再取り込み阻害薬であるフルオキ セチンは、透析液中の5‑HI 濃度を増加させた。これらの結果は透析 液中の5‑HT は神経由来であることを示唆する。
LJK14 ,304 はK+ 刺激性5‑HT 放出を有意にかつ濃度依存性に抑制し、
こ の 作 用は イ ダ ゾ キサ ンの腹 腔内投 与に よって 拮抗さ れた。
UK14 ,304 による5‑HT 放出抑制作用は、6 ーOHDA によルカテコラミン 作動性神経を破壊した場合にも観察された。これらの所見は5‑HT 作 動性神経終末に存在するa2 アドレナリン受容体がK+ 刺激性5 ーHT 放 出 の 調 節 を 担 っ て い る こ と を 示 唆 す る も の で あ る 。 一方、 PTX は受容体からセカンドメッセンジャーシステムを介す る一連の反応におけるG 蛋白の関わりを検出するのに有効であるこ とが知られている。本研究において、UK14 ,304 によって引き起こさ れ た 5‑HT 放 出 抑 制 は PTX を 予 め 投 与 する こ と で 阻 止さ れ た。
以上の結果より、in vivo においてラット海馬5 −HT 放出調節機構に
は 5‑HT 作動性神経終末に存在する a2 受容体が関与しており、さら
にその情報伝達機溝にはG 蛋白が連関している可能性が示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
a2 受 容体に よるラッ ト海馬 セ口トニ ン放出 調節機構
‑1n vivo マイ クロダ イアリシ ス法による検討―
中枢神 経系にお いてはセ 口トニン (5―hydroxytryptamine:5−HT) は重要な役 割 を 果 た し て お り 、 そ の 放 出 調 節 機 構 に 対 す る 関 心 が 高 ま っ て い る 。a2ア ド レ ナ リ ン受 容 体を 介 し た5―HT放出 調 節 機構 の 存 在に つ いて は 脳 スラ イ スを 用 い たin vivoの 実 験 で 多 く の 報 告 が あ る が 、in vitroでa2ア ド レ ナ リ ン 受 容 体 作 動 藁 を 用 い て5 HT放 出 調 節 機 構 を 検 討 し た 報 告 は ほ と ん ど な い 。 本 研 究 は 、in vivoマ イ ク 口 タ イ ア リ シ ス ( 微 小 透 析 ) 法 を 用 い て 、 中枢 神 経 系 に お け るa2ア ド レ ナ リ ン 受 容 体 を 介 し た5ーHT放 出 調 節 機 構 を 、 薬理 学 的に解 明する目 的で行っ た。
実 験 動 物と し てWistar系 雄性 ラ ッ トを 使 用し た 。海 馬に挿入 し.たダイ アリ シ ス 用 プ 口 ー ブ を 持 続 的 にRinger溶 液で 灌 流 し、20分間 隔 で透 析 液 を採 取 し た 。回 収 し た透 析 液は 直 ち にHPLC−ECDに注 入 し 、5−HTとその主 代謝産物で あ る5−hydroxyindoleacetic acid(5―HIAA)を定量 した。実 験1では、 透析液中 の5−HTが 神経 由 来で あ る こと を 確認 す る ため に 、Naチ ャネ ル 阻 害薬 で ある テ ト 口ド キ シ ン(TTX)と 選 択 的5一HT再取 り 込 み阻 害 薬である フルオキセ チンを 灌 流 液 中 に 加 え た 。 次 に 、5−HTの 放出 を 促 進す る ため にKC1の60 m¥lお よび 120 mNIを 各 々2回灌 流 液 中に 加 え 、そ れ ぞれ の 効 果を 検 討し た 。K゛ 刺激 後 の 透 析 液 中 の5ーHTが 神 経 由 来 で あ る こ と を 確 認 す る た め 、2回 目 のK゛ 刺激 は カ ル シ ウ ム イ オ ン の 存 在 下 お よ び 非 存 在 下 の 両 条 件 の も と で 行 った 。 実験2 で は 、a2受 容 体 作 動 薬 で あ るUK14,304の5−HT放出 に 与え る 影 響に つ い て検 討 し た 。UK14,304は2回 目 のK゛ 刺 激 の 際 にRinger溶 液 と と も に 灌 流 した 。 azア ド レ ナ リ ン 受 容 体 拮 抗 薬 の イ ダ ゾ キ サ ン は2回 目K゛ 刺 激 の20分 前 に 腹 腔 内投 与 し た。 カ テコ ラ ミ ン作 動 性神 経 を 破壊 す るた め、数例に6−hydroxy− dopamine(6−OHDA) を あら か じ め脳 室 内投 与 し た。 実 験3では 、 あ る種 のG蛋 白 を修 飾 す る百 日 咳毒 素 (pertussis toxin:PTX) を投与 した後、UK14,304の 5ーHT放出 に及ぼす 影響につ いて検討 した。
そ の 結 果 、 実 験1で はTTXの 灌 流 に よ り5−HTレ ベ ル は 減 少 し 、 投 与中 止 後
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修一 哉 研秀 物間 藤 劔本 齋 授授 授 敦教 教 査査 査 主副 副
徐々に回復した。一方、フルオキセチン灌流により5−HTレベルは有意に上昇 した。K゛(60および120 mM)刺激によって5ーHTレベルは濃度依存性に上昇し た。5−HIAAレベルはK゛刺激に,より変化しなかった。一方、灌流液中のカルシ ウムをマグネシウムで置き換えた場合には、K゛刺激による脱分極性5ーHT放出 の増加は抑制された。したがって、透析液中の5−HTは神経由来であることが 確認された。実験2で、UK14,304を灌流液中に加えると、K゛刺激性5―HT放出 は濃度依存性に減少し、イダゾキサンの腹腔内投与によって回復した。6一OH DAを脳室内投与したラッ卜においても、UK14,304はK゛刺激性5―HTの放出を抑 制した。実験3においては、実験2で得られたUK14,304によるK゛刺激性5―HT 放 出 の 抑 制 は 、PTXを 前 投 与 し た 群 に お い て は 認 め ら れ な か っ た 。 以 上の 結果 より、in vivoにお いて ラッ ト海馬5ーHT放出調節機構には、
5‐HT作 動性 神経終末に存在するa2受容体が関与しており、さらにその情報 伝 達 機 構 に は G蛋 白 が 連 関 し て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 本 研究 は、1n vivoにおい て5−HT放出 調節 に及ぼす神経終末a2アドレナ リン受容体の役割を詳細に検討し、異なる伝達物質間にcross talkが存在す ることを明らかにした点で有意義な研究と考えられ、学位、博士(医学)授 与に値するものと判定する。