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北海道におけるイネ穂ばらみ期耐冷性の遺伝解析

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 齋 藤 浩 二

学 位 論 文 題 名

北海道におけるイネ穂ばらみ期耐冷性の遺伝解析 学位論文内容の要旨

水 稲 中 間母 本農8号 ( 中母 農8)は 北海241 ンドネシア原産の熱帯ジャポニカ品種Silewah

号を反復親とする戻し交雑育種によってイ から穂ぱらみ期耐冷性遺伝子を導入した耐 冷性 品種である.本研究ではDNAマーカーを用いることにより,中母農8の穂ばらみ期耐 冷性に関する量的形質遺伝子座(QTL)の遺伝解析を試みた,

  中 母農8の細胞質はSilewahに由来している,そこで,まず,細胞質遺伝因子と耐冷性     

との関連を調べるために,正逆交雑のFi個体にっいて穂ぱらみ期耐冷性を比較したが,交 雑問での耐冷性の差は小さかった.したがって,細胞質は穂ばらみ期耐冷性に関わってい ないと考えられた.

  っ ぎに,Silewahから中母農8へ導入された染色体領域を明らかにするために,制限酵 素断 片長多型(RFLP)マーカーを用いて中母農8のグラフィカルジェノタイプ分析を行つ た. その結果,第1,3,4および8染色体にSilewah由来ガ染色体領域を見出した.中母 農8と姉妹系統で耐冷性が中母農8にやや劣る北海PL4についてもRFLP分析を行ったとこ ろ, 北海PL4では第1および4染色 体の導入領域は中母農8と同 様にSilewah由来だった が, 第3および8染色体の導入領域は北海241号由来となっていた.このことから中母農 8の主要な耐冷性遺伝子座は第1または4染色体に座乗する可能性が高いと考えられた.

  耐冷性遺伝子が座乗する導入領域を明らかにするために,導入領域と耐冷性の関連を分 離集団を用いて調べた.1993年の冷害発生時に育種圃場で栽培されていたきらら397/中 母農8//きらら397のBCIF4個体43個体にっいて稔実率と導入領域のRFLP遺伝子型を調 査した.その結果,第3と第4染色体の導入領域は耐冷性と関連していることが示された.

第8染色体の導入領域は耐冷性とは関連していなかった.第1染色体にっいてはRFLPマー カー が中母農8ときらら397の間で多型を示さなかったために評価を行うことができなか った .さらに,きらら3977中母農8//きらら397のBC・Fs系統92系統にっいて耐冷性検 定とRFLP遺伝子型の調査を行った.耐冷性検定は中期冷水灌漑法によって行い,稔実率で 耐冷 性を評価した.第3と第4染色体のマーカーにっいては,中母農8型の系統の平均稔 実率 がきらら397型の系統の平均稔実率よりも有意に高かった.一方,第8染色体にっい ては 中母農8型の系統ときらら397型の系統の平均稔実率に差がなかった.これらの結果 か ら , 第3お よ び4染 色 体 の 導 入 領 域 が 耐 冷 性 と 関 連 し てい る こと がわ かっ た.

  導 入染色体領域と穂ばらみ期耐冷性の関連について北海241号と中母農8のFg系統でも 評価 を行った.503個のマイクロ サテライトマーカーにっいて北海241号と中母農8のパ ター ンを比較したところ,第1,3および4染色体上のマーカーで多型が検出された.第1 染色 体のマーカーにっいて中母農8型の系統の平均稔実率は北海241号型の系統の平均稔 実率よりも8. 5%高かった,第4染色体のマーカーにっいては中母農8型の系統が北海241 号型 の系統に比べて17.7%高かった.しかし,第3染色体のマーカーについては中母農8

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型と北海241号型の系統で平均稔実率に差がなかった.したがって,北海241号と中母農 8の 分 離 集 団 で は 第1染 色 体 と 第4染 色 体 の 導 入 領 域 が 耐冷 性 と 関連 し て いた ,   穂ばらみ期耐冷性に対する効果が最も大きかった第4染色体のQTLを詳細にマッピング するために,中母農8へきらら397を連続戻し交配して得た分離集団で耐冷性の区間マツ ピングを行った結果,対数尤度スコアは導入染色体領域の中央部から動原体側で比較的高 かった.この分離集団より耐冷性遺伝子座領域での組換え固定系統を育成した,これらの 組換え固定系統にっいて遺伝子型と穂ばらみ期耐冷性を比較した結果,導入染色体領域の 中央部と動原体側の2カ所に耐冷性のQTLが存在すると考えられた.そこで,中央部のQTL をCtbl,動原 体側のQTLをCtb2と 名付けた .CtblとCtb2の遺伝距離は最小で5.6cM, 最大で17.2cMだった.

  Ctbl座の精密マッピングを行うために1,255個体の分離集団よりCtbl座の両側に位置 するマーカー問での組換え個体の選抜と系統化を行った,このうち27系統にっいて耐冷性 検定および遺伝子型の調査を行った結果,Ctbl座はRFLPマーカーXNpb264近傍にあると考 えられた. XNpb264周辺の塩基配列情報を基にsimple sequence length polymorphism (SSLP) マーカーを作成した.これらのマーカーによる組換え固定系統の遺伝子型分析の結果,

XNpb264の動原体側近傍のマーカーBAC1とSCAB11の間に関して遺伝子型が分離している系 統を見出した.そこで,この領域に関する2つの準同質遺伝子系統を育成し,耐冷性を比 較した結果,CtblはBAC1とSCAB11の間に座乗すると考えられた.Ctbl領域を狭めるため に,さらに753個体の分離集団にっいて組換え個体の選抜を行い,BAC1とSCAB11の問で 組換えを起こしている組換え固定系統計10系統にっいてSSLPマーカー遺伝子型の分析を 行った.これらの組換え固定系統について耐冷性検定を行った結果,CtblはSSLPマーカ ーBAC1とBAC22の間に座乗すると考えられた.BAC1とBAC22の物理距離は約56 kbだった.

  56 kbのCtbl領 域には7個の オープン リーディングフレーム(ORF)があり,そのうち の2個はシグナル伝達経路に関係するタンパク質リン酸化酵素をコードしていた.他の2 っはF−boxを持っていた.F―boxはユビキチンープロテアソーム経路に関係している.も う1っのORFはBAGドメインとユビキチンドメインを持ち,Hsc/Hspシヤペロンとユビキ チンープロテアソームを結合させる機能を持っと考えられる.残りの2っについては機能 は不明だった.

  葯長はその中に含まれる花粉の量と相関することから,穂ばらみ期耐冷性に影響を与え る要素のーっと考えられている.そこで,中母農8の耐冷性遺伝子座と葯長の関係を調ぺ た.中母農8の葯長は2. 85 mmで,北海241号の葯よりも0.72 mm長かった.葯長と耐冷 性との関係を調べるために,両品種のF,系統にっいて葯長を調査したところ,第4染色体 の導入領域は葯長と有意に関連していた.そこで,第4染色体長腕に座乗する耐冷性のQTL と葯長の関係を調べるために,区間マッピングに用いた組換え固定系統の葯長を測定した.

CtblまたはCtb2を持つ系統の葯は両耐冷性遺伝子を持たない系統の葯よりも長かったこ と か ら , Ctbヱ と Ctb2は 共 に 葯 長 と 関 係 し て い る 可 能 性 が 示 さ れ た .   以上の研究により,中母農8の穂ばらみ期耐冷性遺伝子座は第1,3および4染色体に座 乗することが明らかになった.第4染色体長腕には2っの連鎖する耐冷性遺伝子座が存在 していた.両耐冷性遺伝子は葯長と関連する可能性が示され,また,一方の耐冷性遺伝子 にっいては7個の候補遺伝子が同定された.今後は,これらの結果を利用した耐冷性育種 の進展が期待される,

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学位論文審査の要旨 主査    教授    佐 野芳雄 副査    教授   喜多村啓介 副査    教授    内 藤    哲

学 位 論 文 題 名

北海道におけるイネ穂ばらみ期耐冷性の遺伝解析

本論 文 は 、 93 べ ージ か らた る 和文 で、別に 5 編の参考 論文が添え られてい る。

   ゲノム 解析法の 飛躍的発 展により 、ゲノム 情報を利 用した効率 的育種法 の開 発は世 界的に育 種の最重 要課題の ーっとな っている 。本研究は 、従来の 育種選 抜に分 子マーカ ーを利用 して改良 進めるこ とを目的 として行わ れた。育 種上の 重要形 質の多く は量的形 質であり 、分子マ ーカーの 利用によっ て、複数 の遺伝 子によ る個々の 遺伝的効 果の検出 、正確な 位置およ びそれら遺 伝子の環 境反応 や相互作 用の解析 を通して、選抜効率を高めることが期待される。本実験では、

寒冷地 イネ栽培 に重要な 耐冷性を 高めるた めに分子 マーカーを 利用した 。得ら れた結果 は以下の ように要 約される 。

1 )耐冷性を 示す水稲 中間母本農 8 号(中母農8 )は、熱帯ジャポニカ品種Silewah から 穂ば らみ期耐 冷性遺伝 子を導入 した耐冷 性品種であ る。正逆 交雑個体 につ いて穂ばら み期耐冷 性を比較したところ、正逆交雑問で有意な差は認められず、

耐冷性は核 支配の形 質と考え られた。 っぎに、 Silewah から導入された染色体領 域を 制限 酵素断片 長多型 (RFLP) マ ーカーを 用いて調 査した。そ の結果、 中母農 8 で は 第 1 、 3 、 4 お よ び 8 染 色 体 に 、 姉 妹 系 統 で ある 北 海 PL4 で は 第 1 およ び 4 染色体に Silewah か らの導入 領域を検 出した。

2 ) 1993 年 の 冷 害発 生 時に 、 き らら 397 と 中母農 8 の BCIF4 個体 43 個 体につい て

稔実 率 と RFLP 遺 伝 子 型を 調 査し た 結 果、 第 3 と第 4 染色 体の導入 領域が耐 冷性

と関連する ことが示 された。 さらに、 BCiFs 系統92 系統にっいても同様の調査を

行ったとこ ろ、第 3 と 第4 染色体 のマーカ ーにおい て、耐冷 性に有意な差が検出

された。一 方、第 8 染 色体にっ いては有意な差が認められなかったことから、第

3 お よ び 4 染 色 体 の 導 入 領 域 が 耐 冷 性 と 関 連 し て い る こ と が わ か っ た 。

3 )多 数 の 分子 マー カーを用 いて、北海 241 号と中母 農8 を比較 したとこ ろ、第

1 、 3 および 4 染 色体上の マーカー で多型が 検出され た。第 1 染 色体のマーカーに

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っいて中母農 8 型の系統の平均稔実率は北海241 号型の系統の平均稔実率よりも 8 .5 %高かった。第4 染色体のマーカーについては中母農8 型の系統が北海241 号 型の系統に比べて17. 7% 高かった。第3 染色体のマーカーについては差が認めら れなかったので、北海241 号と中母農 8 の分離集団では第1 と第4 染色体の導入 領域が耐冷性と関連するものと考えられた。

4 )耐冷性効果の大きかった第 4 染色体のQTL を区間マッピング法で解析した。

その結果、対数尤度スコアは導入染色体領域の中央部から動原体側で高かった。

この候補領域での組換え固定系統を選抜し、遺伝子型と穂ばらみ期耐冷性を比 較した。その結果、導入染色体領域の2 カ所に耐冷性の量的遺伝子座(QTL) が 検出され、Ctbl およぴCtb2 と命名した。両座は5 .6 ー17,2 cM で連鎖していた。

5 )1 ,255 個体を用いてCtbl 座の精密マッピングを行った。組換え個体の選抜と 系統化を行い、27 系統にっいて耐冷性検定およぴ遺伝子型を調査した。Ctbl 座 はXNpb264 近傍に位置するので、周辺の塩基配列情報を基に新たに分子マーカー を作成した。XNpb264 近傍マーカー BAC1 とSCAB11 問の組換え個体から、組換え 型に関する 同型接合体を選抜して耐冷性を比較したところ、 Ctbl は BAC1 と SCAB11 の間に座乗すると考えられた。さらに、753 個体の分離個体から組換え固 定系統計 10 系統を選抜し耐冷性検定を行った結果、Ctbl まBAC1 とBAC22 の間に 座乗すると結論された。BAC1 と BAC22 の物理距離は約56 kb であり、この領域に は 、 7 個 の オ ー プ ン リ ー デ ィ ン グ フ レ ー ム (ORF) が 認 め ら れ た 。 6 )葯長は花粉の量と相関し、穂ばらみ期耐冷性に影響を与える形質のーっであ る。中母農8 の葯長は2 . 85 nun で、北海241 号の葯よりも0 .72 mm 長かった。F7 系統にっいて葯長を調査したところ、第4 染色体の導入領域は葯長と有意に関連 していた。そこで、区間マッピングに用いた組換え固定系統の葯長を調査した。

Ctbl またはCtb2 を持つ系統の葯は両耐冷性遺伝子を持たない系統の葯よりも長 か っ た こ と か ら 、 Ctbl と Ctb2 は 共 に 葯 長 を 支 配 す る と 考 え ら れ た 。

   以上のように、本研究で得られた穂ばらみ期耐冷性遺伝子の解析は、複雑な 量的育種形質を明らかにした、他に事例のない研究として高く評価される。本 実験結果は、自然界に存在する適応形質の理解に多大の貢献をなし、育種的利 用に道を開くものとして期待される。よって審査員一同は、齋藤浩二が博士

( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

参照

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