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交通混雑の影響と対策について
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU12607 齋藤 裕之
1.はじめに
社会資本の老朽化により、安全対策が道路政策上の大 きな課題となっている。一方で道路利用者にとっては日 常の道路利用における問題は、主に混雑が考えられる。
混雑の外部性は、限られた空間の中で 1 台の道路利用者 の速度低下が他の車に及ぶことであり、時間費用を増加 させる。その主な原因は道路の容量の不足であり、バイ パスをはじめとする容量の拡大策が進められてきた。し かし新規の道路整備や拡幅は、財政制約や土地の確保等 における権利調整の難しさなどが大きな課題である。
すでにカーナビやスマートフォンなどによる位置情 報、混雑情報に加え、今後は GPS をはじめとする情報技 術の革新によって、より精緻な交通情報の把握が可能に なる。このようなデータは、いわば、道路利用者の需要 を調整し、費用を把握する方法でもある。またそうした 情報は、効率的な政策実施にも寄与すると考えられる。
そのため既往研究を踏まえて調査や研究の蓄積が必要 となる。
本稿では、道路混雑による影響について実証的に分析 し、道路の効率的な利用のために、その対策と課題につ いて考察することを目的とする。
2.交通を取り巻く現状と課題 2-1 社会的な背景
交通は、都市間や都市内の移動手段として発展し、社 会や経済の発展に寄与してきたが、社会の変化に伴う課 題は多い。
第1に、人口減少と高齢化社会である。日本の総人口 は 2005 年に減少に転じ、国立社会保障・人口問題研究 所(2012)によると 2048 年には 1 億人を割ることが予想 されている。また年少人口や生産年齢人口が減少、老齢 人口が増加していく。将来的に経済規模の縮小や、交通 施設を含む社会基盤に対して大きな変化を与えること が想定される。
第2に、社会資本が老朽化し、更新期を迎えている。
今後集中的なインフラ更新期を迎え、国や地方公共団 体に大きな財政需要を発生させる。
第3に、財政状況が悪化している。社会資本の更新や 投資は増大する需要に対して減少する予算で賄わなけ ればならない状況が生じている。政策実施においてさま ざまな課題を達成するためには、多くのトレードオフに 留意する必要がある。
2-2 道路混雑の現状と対策
「全国道路・街路交通情勢調査(道路交通センサス)」
における平成 22 年の結果では、全国的な平均交通量は、
前回調査の平成 17 年度から 2.6%減少している。一方 で平日の混雑時旅行速度は、35.1km/h で、平成 9 年度 からほぼ横ばいで推移している。なお首都圏や大阪、愛 知においては多くの混雑が発生している。混雑対策は、
主に交通容量の拡大策としてバイパス整備、交差点整備 が行われている。また市街地においても都市計画道路な どの整備が進められている。なお需要面での対策実施は 限られる。
3.理論分析
山田(2001)、佐々木・文(2000)を参考に交通混雑に 関する経済学での理論を整理した。
3-1 混雑
道路利用の便益とは何か。交通需要は、本源的活動に 伴う派生需要で、それ自体が目的ではなく、他の社会経 済活動の目的を達成するための手段とされている。交通 費が十分に低ければ、便益の大小にかかわらず交通流動 が生じるが、費用が大きければ交通量は減少する。
混雑は、ある容量(キャパシティ)を持つ施設あるい は限られた空間混雑はある容量を持つ施設あるいは限 られた空間で、その施設から本来提供されるサービス水 準が低下する現象である。道路では、混雑が生じると走 行速度が低下して所要時間が増し、他の利用者へ負の外 部性が生じる。
3-2 混雑費用
ある道路を利用する台数が増加すると、速度が低下し 区間を通過する時間が増加する。
交通量 1 台増加した時の社会的限界費用
=1 台当たり限界費用増分×交通量+1 台当たりの費用
2
=混雑費用+私的限界費用
ここで右辺の第 1 項は、交通量が 1 台増加したことに よって、同時に走行している他の道路利用者の私的費用 の増加分で交通の増加による外部不経済であり、「混雑 費用」である。
図 1 混雑費用
3-3 混雑対策
道路利用に対する需要は、私的便益が私的費用を上回 る限り道路が利用される。各個人が自由に意思決定する 場合、外部効果を考慮しないために交通量は過大になり、
社会全体からみると非効率になる。この場合には社会的 限界費用は、混雑の外部費用に相当する分だけ私的費用 を上回る。
交通混雑への対策として、混雑料金が最善の策とされ ている。私的限界費用を社会的限界費用に一致するよう 引き上げるために道路利用者に対して課す費用で、最適 交通量のときの混雑費用(τ=Ps-Pb)に見合う額が「混 雑料金」である。
図 2 混雑料金
4.実証分析
埼玉県を事例とした交通データを用いて、混雑による 速度変化に影響する特性や要因を把握するため、OLS 推 定により実証分析を行った。
4-1 分析モデル
分析は3段階に分けて行った。まず分析①において交 通量1台追加あたりの速度変化に関して、地域特性と道
路構造(車線数)による特性を OLS 分析によって明らかに する。次に分析②において速度低下の大きい地域におけ る速度変化の要因を分析する。分析には「全国道路・街 路交通情勢調査(道路交通センサス)」平成 22 年度のう ち、首都圏の中でも混雑が多発している埼玉県の交通デ ータを用いた。調査対象区間は、高速自動車国道、一般 国道、主要地方道、一般県道など延長 3554.3km、2851 区間となっている。
4-2分析①(地域特性と道路構造)推定モデル 道路混雑による交通量 1 台追加あたりの速度変化を確 認し、地域特性と道路構造の要因を分析するために、以 下の(1)式にて OLS 分析により推計を行う。
Yi=α+∑βiXi+εi ・・・(1)
ここでαは定数項、βiはパラメータ、εiは誤差項を 表す。Yiは被説明変数で、混雑時の速度(km/h)を混雑 時の上り下りの平均旅行速度を用いた。Xiは説明変数で、
ピーク1時間のあたりの交通量(台/h)は車種別、車線 別、地域別の交差項である。地域別については、道路交 通センサスで分類された沿道の状況によって人口集中 地区かつ商業地域、人口集中地区(商業地域を除く)、 その他市街部、平地部の4つに分類している。その他説 明変数については、信号交差点密度(箇所/km)、大型車 混入率(%)、指定最高速度(km/h)、可能交通容量(台/h)
(=換算昼間 1 時間交通量上下合計/混雑度)、停車帯幅 (m)、5.5m以上改良済み延長(%)、道路種別ダミーは、
高速自動車国道、都市高速道路、一般国道、一般県道、
指定市道で主要地方道との比較を表す。
4-3分析①(地域特性と道路構造)結果と考察 表 1 推定結果
3 表 2 地域別
推計結果を車種別、車線別、地域別に比率を用いて表 2 にまとめる。
ここで、地域別による係数の違いについて有意な数値 を見ると、人口密度の大きい地域の方がより大きい傾向 がみられる。特に人口集中地区かつ商業地域が大きい傾 向が見られる。
表 3 道路構造(車線数別)
次に、表 3 で分析①の結果を道路構造(車線数)の違 いについて各係数の変化を観察した。交通量 1 台追加あ たりの速度低下は、2 車線の方が大きい傾向がみられた。
以上より人口集中地区(商業地域)の2車線道路がより 対策の効果が高いと考察する。
4-4 分析②(個別要因)推計モデル
人口集中地区(商業地域)で混雑の個別要因の影響を 観察するために分析②を行った。基本式は分析①と同様 であるが、道路構造の要因などの説明変数を加え、推計 を行った。なおデータは、人口集中地区(商業地域等)
の一般道路に限定した。
Yi=α+∑βiXi+εi ・・・(2)
ここでαは定数項、βi はパラメータ、εi は誤差項 を表す。Yi は被説明変数で、混雑時の速度(km/h)を混 雑時の上り下りの平均旅行速度を用いた。Xi は説明変数 で、以下の変数を用いた。ピーク1時間のあたりの交通 量(台/時)は車種別、車線別の交差項とした。
その他の説明変数は、大型車混入率(%)、バス路線延 長率(%) 、信号交差点密度(箇所/km) 、信号のない交差 点密度(箇所/km) 、指定最高速度(km/h) 、車道幅員(m)、
両側歩道設置率(%)、両側自転車歩行者道設置率(%) 、 停車帯等幅員、5.5m以上改良済み延長(%) 、右折車線 ありダミーとした。
4-5 分析②(個別要因)結果と考察 表 4 推定結果
分析②の結果は表 4 のとおりで統計的に有意となった 主な影響について考察する。車道幅員は、1m増加によ り、0.978km/h 速度が上昇、バス路線延長率は区間内で 1%増加により、0.023km/h 速度減少、信号交差点密度、
信号が1箇所増加により、0.594km/h 速度が減少という 結果が得られた。
4-6 分析③(混雑による時間損失の推定)
分析①のパラメータを用いて、交通量 1 台追加あたり の限界費用(時間損失)を推定する。道路交通の時間価値 に関する研究会(2012)の所得接近法の考え方を参考に 簡易的に推定した。
厚生労働省「平成 22 年賃金構造基本統計調査(全国) 結果」で一般労働者の 1 か月の平均賃金は、男女計 296.2 千円、日本の就業者一人当たり平均年間総実労働時間は 1,733 時間(OECD Database(2010))。よって全国平均の 1 人当たりの平均時間賃金は 2,051 円/時間、34.18 円/
分と推計し1台当たりの平均乗車人数を 1.29 人/トリッ プを踏まえ、自家用乗用車 1 台当たりの交通の時間価値
4 を推定した。
1 台当たりの交通の時間価値
=1 台当たり単位時間当たり乗車者の機会費用
=1 人当たり時間価値×平均乗車人数
=44.10(円/分)
分析①から推定されたパラメータを用いて、地域別に 推定した結果は表 5 に示す。
表 5 沿道状況毎の速度低下による時間損失
5.おわりに
第 3 章では、混雑対策の基本的な考え方を整理した。
道路利用者の需要は常に変化するため、外部性を解決す るためのコストと得られる便益と比較し、それらが均衡 するレベルまで繰り返し減らしていくことが求められ る。第 4 章では,交通混雑を示す指標として、埼玉県の 速度や交通量のデータを用い、速度変化の影響要因を明 らかにした。
分析①の結果から、道路交通の全体的な傾向として、
人口集中地区(商業地域)において交通量 1 台追加当た りの速度低下が大きく、また 2 車線道路の方が多車線道 路より速度低下が大きいことが推定された。また分析② の結果では、人口集中地区(商業地域)で速度に影響を 与える要因として車線の幅員等が有意であった。なお分 析③で時間損失費用を推定した結果は、分析①の結果を 補足するものとなった。
以上の結果から、人口集中地区(商業地域)では、そ れ以外の地域に比べて混雑対策が有効であることが確 認された。こうした地域は、都市計画道路などの整備が 一定程度完了し、交通量も多く、都市の集積がある。未 だ混雑が発生している状況を踏まえると追加的な対策 によって、混雑による外部性(混雑費用)を解消し、社 会的効率を高める必要がある。道路整備など供給面での 対策は、密集地の整備が一度完了した場合などは、土地 確保や権利調整の面から取引費用が高く整備は容易で はない。そのため需要面での手法をあわせた混雑対策を 行うことが、社会的な効率を高める上で必要である。
具体的な対策としては多くあるが、以下に 2 つ考察す る。一つは情報の共有である。道路利用者が GPS やナビ ゲーションによる混雑情報を得ることで、情報の非対称
性の解消し、合理的な行動をすることで最適な交通の選 択につながる。これらは既往研究等でも示されているが、
より多くの活用が必要である 。
もう一つは、経済学では多くの文献等で最善の策とさ れる混雑料金の課金(ロードプライシング)である。
移動時間が正確になるほか、料金収入によって自動車の みならず歩行者、自転車、公共交通の利便性を改善する 資金とインセンティブがあることから、諸外国で実施さ れている。主な状況変化としては、GPS などの発達によ る技術的な課金コストの減少、ドイツをはじめとした EU 諸国における距離課金の実施、ノルウェーでの財源確保 による廃止事例などが挙げられる。我が国においては、
社会的な対応が進んでいない状況である。なお既往研究 や文献等で検討は多くされており、課題も多く挙げられ ている、その状況を巻末でまとめた。
今後の課題である。人口減少が進み、財政の制約,社 会資本の老朽化対策の必要性などこうした社会状況の 中で、混雑対策が実施できる箇所は限られる。そのため 将来を見据えて、効果の高い地域や対策を選択していか なければならない。
本稿では道路交通センサスデータに沿ってクロスセ クションで分析し、まずは混雑の影響をマクロ的に把握 した。また静学的モデルを用いて道路密度の均一化など の仮定した上で検討した。一部に交通工学の知見などを 加えることで山田(2001)が述べているように、より現実 に相応したモデルの構築が可能になると考える。さらに 交通調査区間の分割や GPS などによってさまざまな情報 を得ることで、パネルデータによる時間の変化に対する 分析や、DID 分析による道路施策を反映した政策効果分 析など様々な分析が可能になり、より詳細な評価や選択 につながるものと考える。またこうした交通に関する精 緻なデータを収集し、逐次的に対策を講じていくことが 社会的な効率を高めるために必要である。
【参考資料】
・国土交通省道路局ウェブページ『平成 22 年度全国道 路・街路交通情勢調査(道路交通センサス)』
・国立社会保障・人口問題研究所(2012)『日本の将来推 計人口(平成 24 年 1 月推計)』
・佐々木公明、文世一(2000)『都市経済学の基礎』有 斐閣アルマ
・山崎福寿、浅田義久(2003)『都市再生の経済分析』東 洋経済新報社
・山田浩之(2001)『交通混雑の経済分析 ロードプライ シング研究』日本交通政策研究会研究双書