【はじめに】
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者)と略)は、知的 障害が重度(IQ35以下)、かつ運動障害が重度(歩けな い)が重複しかつ、出生前、出生時および出生後満18歳 までに生じた様々な要因を発生原因とする。主に中枢神 経障害を基礎として、病態的に多岐にわたる臓器の合併 症を有している。従って、摂食・嚥下障害だけでなく、知 的障害、呼吸障害、消化器および栄養障害、てんかん、側 彎等様々な合併症を様々な程度で呈しており1)、病態は個 人毎に異なる。更に加齢や退行性変化により二次的に障 害が進行する2)。食事は自分の選択というよりは医療従 事者や家族、介護者という他者にゆだねられ、また嚥下 障害などにより、経管栄養になるなど食物形態が限定さ れる特徴をもっている。また感染の反復、意欲の低下、嘔 吐、湿疹の悪化、などの症状が基礎疾患からくるものと 判断され、栄養との関連が見逃されやすい。QOL向上の ために、栄養に十分配慮することは、非常に重要である。 このような重症児(者)に対して、施設として総合的かつ 経時的に栄養評価と栄養管理を行うことは必須であり、 多職種の介入により、より正確な評価や対応が可能とな る。重症児(者)に対して、多職種による栄養評価を行う 場としての NSTを紹介し、次に実際の栄養管理につい て述べる。【びわこ学園医療福祉センター草津
における NSTの活動】
びわこ学園医療福祉センター草津(以下、当施設と略) は、105名の重症児(者)が長期に、11名が短期に入所・ 入院利用しており、「病院」の機能と、医療の支えを受け ながらの「生活」の機能を兼ね備えた医療型施設である。 当施設 NSTは、常勤医師4名、看護師5名、薬剤師1名、 管理栄養士1名および言語聴覚士2名の13名より成り、 入所者各々の栄養評価を目的として2005年に発足した。 NSTの主な活動内容は、(1)入所者の栄養評価、(2) 栄養情報のデータベース化、(3)栄養摂取経路の見直し、 (4)新しい知識・技術の紹介・啓発である。(1)入所者の栄養評価
重症児(者)は、その障害の違いによる個人差が大き いために、至適栄養メニューを決定するための標準的な 判断基準の設定は困難である。よって、栄養評価は定期 的に反復して行う必要があり、当施設では NSTにてこ *Management of nutrition in children or persons with severe motor and intellectual disabilities特集:NSTのための小児の栄養管理
重症心身障害児の栄養管理 *
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重症心身障害児(者)、必要摂取エネルギー、栄養不良
口分田政夫 Masao KUMODE, MD 永江彰子 Akiko NAGAE, MD◆びわこ学園医療福祉センター草津小児科 Biwako Gakuen Kusatsu Medical and Welfare Center
重症心身障害障害児(者)は、呼吸障害や消化管通過障害、筋緊張の変動といった病 態を合併することが多く、摂取エネルギーの決定には個別の評価が必要である。また、 多くは摂食機能障害を合併し、ペースト食や経管栄養といったように特別な栄養摂取 形態が必要となる。このため、長期に人工的栄養が投与されることも多く、蛋白質や微 量元素、電解質の欠乏や過剰が生じる可能性があり、評価と対策が必要である。
れを行っている。 NSTでの評価項目として最も重要なものは体重の増 減である。具体的には、1年毎に10%以上の体重増減者 を割出し、それらの入所者の摂取カロリーが適している かどうかを種々のパラメーターを用いて検討する(図1)。 施設の現状として、体重減少を認める入所者は経口栄養 であり、体重増加を認める入所者は注入栄養である傾 向がある。経口摂取の場合は提供食の全量が確実に摂 取されていない場合があるので、摂取カロリーは喫食率 より換算する必要がある。体重減少をきたす要因は様々 であるが3)、摂食嚥下障害の進行に起因する体重減少を 見過ごさないために、当施設では定期的に摂食嚥下評 価表を用いて全経口摂取者の嚥下の状態を評価してい る。この評価は、注入栄養を併用すべき段階であるかど うかを見極める意味合いもあるが、それよりも、なるべく 長く経口摂取を続けてもらうことに重きを置いている。 入所者になるべく長く経口摂取を続けてもらうことが、 その入所者のQOLの向上や健康維持につながると考え る。多職種により摂食嚥下状態を評価することで、介助 方法がより適切となりその方法が共有されやすくなる。 安全な摂食方法は個人毎に異なり、一般的な方法では ないことも多い。4)そのような観点からも、情報の共有が 重要であり、多職種の集まるNSTでの重要な業務であ ると考えている。
(2)情報のデータベース化
医療安全確保のための情報の共有化を目的に、当施 設 NSTでは、データベースソフトMicrosoft Access により「NSTカルテ」を、薬剤師を中心に作成した。 「NSTカルテ」の作成により、入所者の栄養摂取状況の 把握および比較検討が容易になり、栄養療法に活用して いる。重症児(者)施設は入所歴が長いという特徴を持 つため、「NSTカルテ」の項目を長期的視点からの栄養 に関する情報をまとめて表示するように工夫した。身体 計測値(三分割測定法)をはじめ、栄養摂取ルート歴、栄 養剤の種類と量、食形態、特別食提供有無、摂食嚥下評 価表結果、定期処方薬、禁忌・副作用歴、経過など多岐 にわたる。注入剤の成分量は、製剤によって少しずつ異 なるため、当施設では多種類の注入剤を購入している。 各注入剤のカロリー量、NPC/N比、蛋白質量、脂肪量、 主なミネラル、ビタミン、水分量を入力して栄養一覧を作 成し、これにより注入剤の種類と量とを入力すると、各栄 養成分量が自動計算されるしくみを作成した。「NSTカ ルテ」は当施設データベースの共有サーバ内に保管し各 職場から閲覧可能である。【重症心身障害児の栄養管理の実際】
1)栄養評価については、まず主観的栄養総括
評価表を使う。表に重症児の特性をふまえて追
加した包括評価表を示した
(表1)。
表1 主観的包括的評価と重症心身障害児(者)での追加項目 主観的包括的評価(SGA) 一般的な項目 重症児(者)での追加評価項目 A 問診・病歴から得られる情報 3か月以上連続する体重減少 1 年齢、性別 10%を超える体重減少 2 身長、体重、体重変化 易感染性 3 食物摂取状況の変化 皮膚所見(褥瘡の遷延・湿疹) 4 消化器症状 口内炎 ヘルペスの反復 5 日常生活動作(ADL)の状態 触診での脂肪・筋肉の減少 6 疾患と栄養必要量との関係 持続する咳 B 身体所見から得られる情報 持続する下痢・便秘 1 皮下脂肪の損失状態 出血傾向 2 筋肉の損失状態 生理がなくなる 3 浮腫(くるぶし、仙骨部) 運動機能の低下 4 腹水の有無 いつもと違う症状(痛み・緊張) 5 毛髪の状態 図1 体重増減に対するアプローチ 10%以上の体重 A)摂取カロリーを計算(経口者は喫食率より換算) B)基礎代謝量調査(H-B公式 /呼気ガス分析装置を使用した測定11) 生体電気インピーダンス法12) 食事摂取基準7)) 増加 A>>B 摂取 カロリー の減少 A≦B 基礎代謝量 および摂取 カロリー の見直し 浮腫の 精査 減少 栄養状態の評価 ・易感染症の有無 ・栄養評価指数異常の有無 ・褥瘡の有無 不良 良好 浮腫 A≦B A>>B 摂食・嚥下障害の進行 ・食事時間の延長 ・誤嚥性肺炎頻度増加 無 有 A≦B 摂取 カロリー の増量 注入の併用 摂取カロリーの増量 食事形態の見直し 無 有 他の 合併症の 検索 経過 観察 A>>B2)投与カロリーの設定
重症心身障害栄養所要量の考え方 我々は、以前全国の重症児(者)施設に、経管栄養の 使用実態についてアンケート調査を行った5)。そのときの 100症例の経管栄養のデータから体重と総摂取カロリー の関係について図2に示した。体重が10kgをこえると 摂取カロリーに個人差が出現し、20kg程度の体重に対 しては、500〜1500kcalという摂取カロリーの幅があっ た。またこの図は同じ1000kcalのカロリーを摂取してい ても、その結果としての体重に12〜 44kgという体重の 個人差が生じてしまうことを示している。摂取カロリーは 体重からだけで決めることが困難であることを示してい る。次いで図3に年齢と年齢別体重当たり総摂取量 (kcal/kg)を示した。これは一部の例外を除き、各年齢 とも日本人の年齢別体重当たり基礎代謝量と年齢別体 重当たりエネルギー所要量の幅にほぼ相当した6)。 さらにびわこ学園の病棟利用者で、ほぼ毎月の体重が 維持できている人の栄養摂取量は、標準的な年齢別体 重あたりの基礎代謝量と比較すると、0.3倍から3倍の幅 があった(図4)。臨床上必要とされる栄養摂取量が、標 準的な年齢別体重当たりの基礎代謝量を BMRとする と0.3BMRから3BMRの幅にあることになる。これは同 じ寝たきりの状態にあるからといって、個別の評価なし に標準的な臨床栄養学を適応することは危険であること を示している。その要因は、重症心身障害の体構成成分 の違いからきていると考え、体脂肪量の検討を行った。 1)重症児(者)の脂肪の蓄積状態の評価と栄養学的な 意味6) インピーダンス計を用いた体脂肪率の測定では 、体脂 肪率は 、 BMI〔(体重(kg)/[身長(m)]2)×100〕と皮 下脂肪厚の両者に有意な相関関係があり、特に皮下脂 肪厚と強く相関していた(図4)。重症児(者)を麻痺のタ イプ別でみると、アテトーゼ型は非アテトーゼ型に比べ て有意に体脂肪率が低値を示した 。同程度の BMIにお いても 、すなわち体格が同程度でも 、アテトーゼ型は非 アテトーゼ型に比へて、体脂肪率は低値をとった(図5)。 このことは皮下脂肪厚でも同様の傾向を示した 。 重症児(者)の必要エネルギー量に関しては種々の報 告がある。しかし、個々の症例で状況が違い、栄養評価 が重要である。過剰なエネルギーは、脂肪として蓄積する ことから、脂肪の蓄積状態で栄養の過不足の判定を試み た。方法としては上腕三頭筋部皮下脂肪厚とインピーダ ンス法を用いたが、両者はよく相関していた。同程度の体 格でも、アテトーゼ群は非アテトーゼ群(痙性四肢、両麻 痺)と比較して有意に体脂肪率が低く、エネルギー消費 図2 体重と総摂取カロリー 図3 年齢別体重当たり総摂取量 図4 栄養摂取量と年齢別基礎代謝量の比の分布 横軸はびわこ学園医療福祉センター草津長期利用者一人一人のナン バーを示す。縦軸は第一びわこ学園利用者の摂取総カロリーを体重 当たりに換算したものを分子に第 6 次栄養改定に記載してある、利 用者の一人一人の年齢に相当する年齢別体重当たりの基礎代謝量を 分母にとってその比をとっている。量が多いことを反映していると考えられた。また同じ寝 たきりの四肢麻痺の重症児(者)でも、体構成成分や必 要エネルギー量が大きく異なってくることを示していると 思われた。我々の臨床経験から、標準的な基礎代謝量 BMR(表2)の何倍(R)くらいの摂取量が適切な栄養摂 取量となっていたか、臨床タイプ別に表3に示した6)。必 要な栄養所要量は、みかけの体格より除脂肪体重と関連 があると考えられ、筋緊張の変動するアテトーゼの要素 が混合しているタイプでは、栄養所要量は高く、動きの少 ない痙直性の優位のタイプは栄養所要量は低い傾向に ある。特に人工呼吸をしている刺激への反応の少ない児 は、栄養所要量は低い。栄養摂取量に関してはこれまで さまざまな方法が提唱されているが確立された方法はな い。我々は麻痺のタイプや筋緊張の変動の状態、呼吸状 態などの臨床所見を参考に、年齢別体重当たり基礎代謝 量の1〜 2倍程度の範囲に当面の総エネルギー量を設定 し、その後の栄養評価を反復して行って、エネルギー摂 取量を調節していく方法が実際的であると考えている6)。 重症心身障害のタイプによる栄養の課題 また体脂肪の検討からアテトーゼ群と非アテトーゼ群 での栄養の課題が異なってくることが推論された。その 内容を表3に示した。重症児(者)の栄養管理は、標準的 な臨床栄養学を、小児神経学的な評価をもとおして、個 別に適応していくことが、適切な栄養摂取量決定につな がると考える。 2)必要エネルギー設定の実際 標準的には、小児の場合、エネルギー必要量 E=基礎 代謝量(BMR)×R(活動係数×侵襲係数)+α(エネル ギー蓄積量)として表現される。エネルギー蓄積量αとは、 成長期にある小児の、組織増加分に必要なエネルギー 量である。小児の基礎代謝量は、日本人の食事摂取基準 (2010年版)に採用された小児の基礎代謝基準値を使 用する(表2)7)。体重に関しては、①現行の体重を使用す る。②やせすぎや太りすぎの場合は、目標体重を使用す る、の二つのパターンがあり、状況により使い分ける。一 般には、BMI((体重 kg÷(身長m))2 ×100)の標準値は 22といわれているが、重症心身障害の場合15〜 18程度 が標準であること(アテトーゼ型のときは16くらい、痙直 型のときには18程度)にも留意して、理想体重を設定す る。BMI値は、年齢によっても変化することに留意する。 係数Rは、重症心身障害の場合、重症心身障害の特性 を配慮した基礎代謝の係数×活動係数×侵襲係数を意 味する。重症心身障害の状態像に応じて大きく変わる。 参考となる、ベッドサイドでの経験指標を表4に示した。 Q=BMR× R+エネルギー蓄積量αで投与カロリー を決定し、実際に投与してみて、体重の増減など、栄養指 標の経過を追い、必要に応じて投与カロリーの修正を行 う必要がある。例えば年齢12歳で体重25kgの重症児 (者)(男)は、表3の基礎代謝基準値を使用すると、標準 的な基礎代謝量BMRは、25×31=775kcal。動きの少 ない痙直型では、表2を参考に例えば R=1に設定し、栄 養投与量は、775+20kcal程度。筋緊張の変動が激し いタイプは、表2を参考に例えば R=2に設定し、1500+ 図5 重症児(者)の体脂肪量の評価(障害の類型別) A:BMI〔(体重(kg)/[身長 (m)]2)×100〕と体脂肪率 r=0.722(p<0.05) と相関関係を認めた。体脂肪率は、同程度のBMIすなわち同程度の 体格では、アテトーゼ型が非アテトーゼ型に比し、低値を示した。 B:皮下脂肪厚と体脂肪率 :両者にはr=0.869(p<0.01)と強い相関 を示した。アテトーゼ型は体脂肪率、皮下脂肪厚ともに低値を示した。 BMI 8 10 0 10 体 脂 肪 率 (A)BMIと体脂肪率 障害の型別 20 30 40 12 14 16 18 20 22 □アテトーゼ ▲非アテトーゼ r=0.722 p<0.05 体脂肪率(%) 8 10 0 10 皮 下 脂 肪 厚( m m ) (B)体脂肪率と皮下脂肪厚 障害の型別 20 30 40 20 30 □アテトーゼ ▲非アテトーゼ r=0.869 p<0.01
20kcal程度と推定される。栄養評価を繰り返しながら、 Rは1から2の間で調整する(経管栄養使用時)。こうして いったん体重から、必要カロリーを算定し、とりあえず栄 養療法を開始する。その後は栄養評価により、Rの係数 をその都度変更していくことが必要である。我々は、栄 養所要量を実測して、その傾向が適切であることを確認 した。 3)小児への栄養剤投与 重症心身障害の小児への栄養剤投与の考え方は以下 の通りでよいと思われる。 ① 0-2歳では、母乳、ミルク(フォローアップミルク含む) あるいはエレンタールⓇPを組み合わせて使用する。た だしフォローアップミルクは、離乳食を摂取しているの を前提のため、不完全な栄養であり、カルニチン、銅、 表2 基礎代謝基準値と成長に伴う組織増加分エネルギー(エネルギー蓄積量) 文献7より引用 男性 女性
年齢 (kcal/kg体重/日)基礎代謝基準値 エネルギ—蓄積量(kcal/日) (kcal/日)基礎代謝量 (kcal/kg体重/日)基礎代謝基準値 エネルギ—蓄積量(kcal/日) (kcal/日)基礎代謝量
0-5(月) − 120 92.8×体重−152 − 120 92.8×体重−152 6-8(月) − 15 − 15 9-11(月) − 15 − 15 1-2(歳) 61.0 20 710 59.7 15 660 3-5(歳) 54.8 10 890 52.2 10 850 6-7(歳) 44.3 15 960 41.9 20 920 8-9(歳) 40.8 25 1,120 38.3 25 1,040 10-11(歳) 37.4 35 1,330 34.8 30 1,200 12-14(歳) 31.0 20 1,490 29.6 25 1,360 15-17(歳) 27.0 10 1,580 25.3 10 1,280 表3 栄養の障害別特徴と類型(体脂肪量の検討からの推論) 麻痺のタイプ アテトーゼ主体型 痙直主体型 筋肉量 非アテトーゼ型に比較して多い 萎縮して少ない傾向 エネルギーの消費量 不随意運動や筋肉内の消費のために多い 運動量が少なく筋肉内の消費も少ないため少ない エネルギーの予備 脂肪として蓄積されるエネルギーが少なく、栄養不良の場合ストレス時に急変する可能性がある 通常は脂肪として蓄積できると考えられる 動脈硬化などの成人病 脂肪が蓄積する血管性の成人病は発生しにくいであろう 体脂肪率の高い症例では、加齢とともに動脈硬化による成人病の発生もあり得る 微量元素 投与エネルギー量が多くなる傾向のため通常は不足しにくい 投与エネルギーが少なくて体重が維持できるためが不足しがちである 蛋白 投与エネルギー量が多くなる傾向のため通常は不足しにくい。筋肉にも、貯蔵される。 低蛋白になりやすい。筋肉内にも予備が少なく、免疫として動員される蛋白が不足し易感染性を合併しやすい 栄養の課題 投与エネルギー量を消費エネルギーが多いことを考慮し多めに設定し十分な脂肪や蛋白を補給する 総エネルギー投与量は少なめに設定し脂肪の過剰蓄積を防ぐ一方で、蛋白や微量元素は十分に補給しておく。 表4 栄養所要量と臨床的特徴1 (R=体重あたりの必要栄養摂取量/年齢別体重当たりの標準基礎代謝量) A:高エネルギー消費群(R≧2) B: 低エネルギー消費群(R≦1) C:中間群(1<R<2) 多くがこの範囲に入る 臨 床 的 特 徴 ・筋緊張の変動が激しい 不随意運動あり ・筋緊張の変動がない 動き少ない (1<R<1.5)まで ・皮下脂肪が薄く筋肉量が多い ・皮下脂肪が厚く、筋肉量が少ない ・経管栄養のケース ・刺激に対する反応性高い ・痙直型脳性麻痺 (経口摂取よりエネルギー効率がよいと考えられる) ・アテトーゼ混合型脳性麻痺 ・移動しない ・B 群の特徴のいくつかを持っている ・移動能力がある ・刺激に対する反応少ない (1.5<R<2) ・努力性の呼吸 咳き込み多い ・気管切開 人工呼吸器の装着 ・経口摂取 ・呼吸に努力を要しない。 ・A 群の特徴のいくつかをもっている
亜鉛など微量元素やタンパク質の欠乏をきたすことに 留意する ②2-4歳では、ミルク+半消化態栄養剤を使用する。4 歳以上では、通常の経管栄養剤のみでも可と思われる が、最近発売されている小児用の栄養剤を使用すると さらによい。 小児では、NPC/Nが200前後の方が、腎に負担をか けず、蛋白が体組織の合成に使われやすい。最近ネスレ がこのことに配慮した小児用栄養剤リソースⓇ・ジュニア、 アイソカルⓇジュニアを開発した。2歳以上の小児では、 使用が推奨される。また、小児にはアレルギー対策も重 要であるが、アレルギー様ミルクは微量元素が欠乏しや すい。テゾンⓇあるいはビタジクスなどで、微量元素を補 充する必要になることがある。 4)栄養障害とその対応 経管栄養の場合には栄養剤の選択により、たんぱく 質、脂質、電解質、ビタミン、食物繊維、微量金属などが 不足する恐れがあり、欠乏症状について知っておく必要 がある。 表5に、重症心身障害病棟で経腸栄養剤使用中に合 併した問題点を、表6に重症児(者)で報告されている微 量元素等の栄養成分の欠乏、過剰の症状のまとめを記 した。日本では、食品の経管栄養剤の多くが、銅や亜鉛 の含有量を調整してきたが、医薬品の中には、まだ不十 分な含有量のものが多い。また食品やアレルギー用ミル ク、特殊ミルクなどの中に、ヨードやカルニチン、セレンな どの微量元素の欠乏したままで、発売されているものも 多い。 微量金属の欠乏症状としては、亜鉛欠乏による皮膚 炎、下痢、味覚障害、免疫能低下、銅欠乏による貧血、好 中球減少、セレン欠乏による心筋症、爪床部白色変化な どが知られている8)9)。またヨード欠乏による甲状腺機能 低下症、カルニチン欠乏による、意識障害や低血糖を伴 う全身状態の急激な悪化に留意する必要がある。これ らの栄養状態の評価は、投与量変更後3ヶ月ごとに行う ことが望ましい。栄養を変更した影響は、特に免疫機能 の変化はすぐには出現せず、経験上3ヶ月後に影響を及 ぼすことが多いからである。こうした評価を重ねて、臨床 的に望ましい栄養投与量と本人の体重を決めていく。最 近では、栄養素の過剰症も報告されている。 また、その対応としては、表7のように病態を評価して 表5 重症心身障害児(者)に経管栄養剤を長期投与中に 経験した合併症 (n=75施設) 重複回答あり 症状 施設数 症状 施設数 下痢 39 易感染性 6 貧血 32 ビタミン K 欠乏 5 消化管出血 22 皮膚粘膜の弱化 5 呼吸器感染 21 食物アレルギー 4 微量元素欠乏 19 出血傾向 4 体重増加不良 15 発疹 3 電解質異常 14 カルニチン欠乏 2 易骨折性 11 アンモニアの上昇 2 肝機能障害 9 肥満 2 低蛋白血症 8 便秘 2 好中球減少 6 大腸菌感染症 1 表6 重症心身障害児・者で認められた、微量元素等の栄養成分による問題点 (人名)は報告者を示す。(文献8,9) 主として欠乏によるもの 主として過剰によるもの • 肢端性皮膚炎(亜鉛、銅) • 毛髪脱毛(亜鉛) • 好中球の減少、 毛髪の縮れ毛 赤色化(銅) • アンモニアの上昇 非ケトン性低血糖 全身状態不良 意識障害(カルニチン) • 心機能・心不全(セレン) • 湿疹(ビオチン) • 甲状腺機能低下(ヨード) • ビタミン B6欠乏による痙攣重積 -オクノス(徳光) • 食物繊維欠乏による clostridium difficile腸炎 -エンシュアリキッド(徳光) • 大豆アレルギー治療中の(銅、亜鉛欠乏による)湿疹 • アレルギーミルク使用中のセレン欠乏による心不全 • セレン欠乏による爪床部分の白色化 • Clの少ない栄養剤による、低クロル性代謝性アルカローシス(横地) • SIDHや摂取量不足による低ナトリウム血症 • ビタミン K 欠乏による出血傾向(口分田) • ω3脂肪酸欠乏による凝固異常、免疫異常(山崎、口分田) • PEGからの栄養剤固形化で銅欠乏(木内、口分田自験例) • 亜鉛の過剰による銅の欠乏 好中球減少 易感染症 例1 亜鉛製剤プロマック(ポラプレジンク)連続投与中の銅欠乏による 白血球減少(口分田) 例2 亜鉛栄養剤過剰補給による、銅欠乏 例2 銅の過剰による亜鉛欠乏 :6次栄養改訂対応栄養剤による銅過剰が 亜鉛欠乏をもたらす。その後第7次の改訂で銅の摂取基準変更がされ 1000kcalあたり1.8mg(6次)から0.8mg(7次)になり出現頻度は 減少した。(口分田、藤田) • マンガン過剰 : パーキンソニズム .中心静脈栄養での微量元素添加による。 大脳基底核にマンガンが沈着して出現。 ・卵アレルギー、大豆アレルギーによる下痢、湿疹
の適切な栄養剤の選択や、表8に示す多様な食品の投 与が考えられる。最近、我々は、重症心身障害でみられ る低たんぱく血症に関しては、たんぱくを投与しても、改 善しないことが多いことに気が付いた。そのような例に 対しては①反復する感染のコントロール② BCAA(分枝 鎖アミノ酸)豊富な栄養剤の投与③カルニチンの投与③ NPC/N比を上げる。④ MCT(中鎖脂肪酸)添加の栄 養剤あるいはパウダーでの MCT投与が、臨床経験上、 有効である可能性がある。 5)水分と電解質 重症児(者)・者の水分、電解質は、摂取カロリー、嘔 吐や唾液の排出などの消化管液喪失量、薬剤の影響、腎 機能、中枢神経障害による内分泌学的異常状態に大きく 影響される。表9に、水分、電解質の異常の病態を示し 表7 重症心身障害の病態別栄養 ①遷延・反復化する呼吸器感染 :中心静脈栄養にて、十分なカロリーを補給すると、重症化する感染や呼吸機能障害等の改善がはやいが、短期間にとど め免疫強化の経管栄養剤を開始する。 ②栄養不良による反復する感染や外科手術後の免疫力の回復、褥瘡等 :アルギニン、RNA、グルタミン、n-3系脂肪酸の強化、MCT(中鎖脂肪酸)を強化し て免疫力を高めた栄養剤(イムンアルファ、インパクト、ぺプタメン)、ポリフェノール配合のアノム、免疫増強のγリノレン酸(オキシーパ)、ホエイペプチド 配合(明治 MEIN)のの使用。アルギニンや亜鉛を特に強化し、免疫力を高めたアルジネード、HMB(β -ヒドロキシン -β -メチル酪酸)配合のアバンドは 褥瘡や創傷治癒に特にに有用。また腸管免疫の強化を狙ったものとして、GOF(グルタミン、オリゴ糖、食物繊維)がある。n-3系脂肪酸と Lカルニチン の強化をしてあるサンエット-SA。BCAA、アルギニン、グルタミン添加のペムノンなどの補助食品の使用など。 ③ダンピング症候群、糖代謝異常(糖尿病など):脂肪炭水化物調整栄養剤である商品名グルセルナ SR が、血糖の変動を抑える。また糖にパラチノースを 配合した、明治インスローや、タピオカデキストリンを配合したタピオンアルファなどがある。アルギニン、パラチノース、タピオカデキストリンなどがすべ て配合されたグルコパルなども有用。糖代謝に有効な成分イソロイシンが配合されたディムベストの使用など。 ④肝機能障害 :分枝鎖アミノ酸を強化しフィッシャー比を高めた栄養剤が有効といわれている(分枝鎖アミノ酸と亜鉛を強化してあるへパスⅡなどを使 用)。肝不全用成分栄養剤としては、へパンEDがある。 ⑤腎機能障害 :腎不全の時期により異なるが、蛋白負荷を減少し、BCAAなどを補給する。レナウェルや明治リーナレンシリーズがある。カルニチンの投 与も肝臓でのタンパク合成に有用である ⑤呼吸障害 :脂質エネルギーを主とした栄養剤であるプルモケ-Ex、が二酸化炭素の発生を抑え、人工呼吸器装着時間を短縮させるといわれている。また コエンザイムQ10を配合したライフロン -QL等の栄養剤が、呼吸筋の活動性を高めるといわれている。 ⑥食物アレルギー :重症心身障害に原因不明の湿疹、下痢などに食物アレルギーが関与していることがある。大豆アレルギーがある場合は、アレルギー用 ミルクや L-8を使用することができる。またミルクアレルギーの場合にも、(アミノ酸分解ミルク)を使用する。この際、銅や亜鉛、セレンの微量元素の 欠乏に留意する。 ⑦難治性の下痢 :蛋白ペプチドのペプチーノやエンテミールも選択肢のひとつである。卵黄レシチンを配合し、浸透圧を調整した、ジャネフ K-LECなども 有用である。また、ビフィズス菌を増加させる、ビフィズス菌末 BB536、乳清分解物ビー・ジー・エス・パウダー、麹菌が配合された味噌汁なども有用 である。腸管免疫を高める、グアガムなどの食物繊維、GFO や乾燥人参末の、キャロラクトなどが有効である。難治性には食物アレルギーの可能性も 考慮。 脂肪を末梢静脈から補給しながら、エレンタールの投与やアミノ酸分解ミルクの投与も考慮。この時は微量元素欠乏に留意。 ⑧アンモニアの上昇、低血糖、代謝性アシドーシス :カルニチン欠乏を疑い、カルニチン配合の栄養剤の投与 サンエット-SA、アイソカルジュニア ⑨低たんぱく血症 :BCAA(分枝鎖アミノ酸)豊富な栄養剤の投与、カルニチンの投与、NPC/N 比を上げる、MCT(中鎖脂肪酸)添加の栄養剤あるいはパ ウダーでの MCT投与 表8 多様な食品の投与例 果汁 野菜・果汁ジュース(ビタミン C、ケイ素の補給) 豆乳(タンパク) にがり(マグネシウム) お茶(カテキン) ココア(銅 亜鉛) 昆布茶(ヨード) シソジュース(αリノレン酸) 酢 味噌汁 だし汁 スープ(多様な栄養素) 鍋をした後の残り汁(多様な栄養素) 昆布、ごま、豆、めかぶ、麩、だしじゃこ(微量元素) (ミキサーにかけ、とろみをつける) ヨーグルト(チューブがつまらないように十分注意して) PEGより、(寒天)ペースト食の注入(多様な栄養素) 表9 重症心身障害児・者に認められる水・電解質の異常 1)異常喪失 水だけでなく電解質も喪失 多くは低ナトリウム血症 唾液(流涎) 吸引 発汗 胃液 (胃からの吸引液の大量破棄) 胃拡張・イレウス(消化管内への喪失) 下痢 嘔吐 2)腎尿細管再吸収障害 低張尿(尿比重低下) 3)内分泌学的異常、中枢神経異常 SIDH(水制限) 尿崩症 中枢性塩消失(Naと水分の補給) 行動障害 多量飲水…低ナトリウム血症(…けいれん) 4)薬剤の影響 カルバマゼピン…低ナトリウム血症 ダイアモックス ゾニサミド…腎尿細管アシドーシス 5)経管栄養剤の影響 クロル含有量が低い栄養剤の長期投与による、低クロル性、 低カリウム性代謝性アルカローシス
参考文献 1) 倉田清子.高齢期を迎える重症心身障害児の諸問題. 脳と発達 30 : 121-125, 2007. 2) 永江彰子, 石塚千恵.ビデオ嚥下造影検査. 小児内科 40 : 1665-1668, 2008. 3) 藤田泰之.重症心身障害児. 小児内科 41 : 1337-1341, 2009. 4) 藤田泰之.重症心身障害児の栄養管理. 小児内科 33 : 1134-1138, 2001. 5) 口分田政夫ほか.重症心身障害児(者)に対する経腸栄養剤長期投与の問題点-アンケートによる経腸栄養剤の使用実態. 重症心身障害研究会誌19(2):53-57, 1994. 6) 口分田政夫.重症心身障害児(者)へのQOL向上への栄養管理.JJPEN.25(2):49-56, 2003. 7) 厚生労働省.日本人の食事摂取基準 2010年度版. 8) 口分田政夫.障害児の栄養・水分・電解質. 北住映二ほか編 : 子どもの摂食・嚥下障害, 永井書店, 大阪, pp189-198, 2007. 9) 口分田政夫.重症心身障害児の栄養管理.児玉浩子ほか編 小児臨床栄養学、診断と治療社、pp320-330, 2011. た8)。体液の喪失で、低 Naが出現することも多く、水分 だけでなく、OS‐1やソリタ水(主にソリタT2顆粒を使用) を補給に使用する。また、SIDH(水制限)や中枢性塩類 喪失症(Naと水分の補給)の可能性もあり、病態を鑑別 して対応する必要がある。