旅行業の現状と課題
2015年10月19日
JTB総合研究所
高松 正人
平成27年度 日本観光振興協会 寄附講義「観光経営論」
1日本の旅行業の課題
• 旅行業自体の課題
– 他産業に比べて低い生産性、収益率 – 政治や経済に左右されやすい – 商材は他社商品:仕入れないと売れない – 手数料ビジネスモデルの限界性• 市場の変化による課題
– Intermediary(仲介業)としての相対的価値低下 – クレジットカード決済の増加によるキャッシュフローの低下 – サプライヤーからの手数料減少・廃止 – 異業種からの新たな競合の参入 – シェアリングモデルの急成長 – 国内人口の減少、国内市場の縮小 2観光は世界の成長産業
534 684 804 940 1,038 1,087 1,133 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 1995 2000 2005 2010 2015 2020 百 万 人 Tourism Vision 2020 1995-2014実績 世界の旅行者の推移は、政治や経済の変化にそれほど影響されていない 出典:UNWTO3 Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.観光は世界の成長産業
世界の旅行者は、2012年に10億人を超えた。 277 528 674 809 949 997 1,038 1,087 1,133 1,179 1,360 1,809 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000 百 万 人世界の国際旅行者数の推移と見通し
アジア・太平洋地域への期待
6.5 3.1 13.1 6.2 9.4 13.1 4.7 6.4 6.3 3.6 0.0 -9.6 4.6 3.9 7.0 4.5 4.9 1.2 4.6 4.8 6.9 3.1 4.9 -2.9 4.2 2.3 5.7 8.4 2.2 6.3 -15 -10 -5 0 5 10 15World Europe Asia/Pacific Americas Africa Middle East
%
地域別観光客数の前年比 2010 2011 2012 2013 2014
5
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旅行業とは
旅行業法による定義(旅行業法第二条)
「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サー ビスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供につい て、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう。 一~二 企画旅行の計画、手配、実施と販売 三~六 旅行の手配と代理契約、媒介、取次ぎ(手配旅行) 九 旅行に関する相談に応ずる行為 6旅行業とは(旅行業法にもとづく種別)
旅行業の種別 募集型 企画旅行契約 受注型 企画旅行契約 手配旅行契約 他者募集型 企画旅行契約 海外 国内 海外 国内 海外 国内 海外 国内 第1種旅行業 696社 ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ 第2種旅行業 2,777社 × ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ 第3種旅行業 5,625社 × △ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ 地域限定 旅行業 × △ × △ × △ ◎ ○ 旅行業者 代理業 募集型企画旅行を除いて、契約する旅行会社が行う業務の全てを 行うことができます。 7 (旅行業者数は2014年4月現在) Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.旅行業の種別
• 総合旅行業:JTB、KNT!、日本旅行、H.I.S.、西鉄旅行、JR九州 – あらゆる種類の旅行を取り扱う • ホールセーラー:ジャルパック、ANAセールス、JTBワールドバケーションズ – 募集型企画旅行(パッケージ)の企画・実施 – 販売は、他の旅行業者に委託 • リテーラー:PTS、KNTツーリスト、日旅サービス、JR北海道 – 旅行販売を主に行なう。 • ツアーオペレーター:ミキツーリスト、エイペックス、R&Cツアーズ – 海外旅行の現地手配(ホテル、交通、観光、ガイド、食事等)を旅行会社 に代わって行なう。 • インバウンド・オペレーター:JTBグローバル・マーケティング&トラベル – 訪日外国人旅行を専門に取り扱う • ディストリビューター:トラベルプラザ・インターナショナル – 航空券やホテルなどの旅行素材を旅行会社に卸売り旅行業の種別
• メディア販売:阪急交通社トラピクス、クラブ・ツーリズム – 新聞広告や会員誌による旅行販売、店舗はもたない • オンライン:楽天、リクルート「じゃらん」、一休.com、i.JTB – インターネットを通じた旅行販売、店舗はもたない • ビジネストラベル(BTM):JTBビジネス・トラベル・ソリューションズ、 日旅アメックス、アメリカン・エクスプレス – 企業の出張を総合的に取り扱う – 利用企業の社内や出張先のPCから交通や宿泊の予約が可能 • 福利厚生代行:ベネフィット・ワン、JTBベネフィット – 福利厚生代行契約をした企業や団体の従業員に割安で旅行を提供 9Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.
旅行業の収益性
区分 説明 日本旅行業協会会員第1種旅行業業態別分類分析数値 総合旅行 インターネット 系 ビジネス旅行 ホールセラー 楽天トラベル (2012年) 営業収入率(%) (売上総利益÷売上高)営業収入÷取扱高 10.8 9.9 9.7 9.0 営業利益率(%) (営業利益÷売上総利益)営業利益÷営業収入 3.0 8.3 15.0 22.7 46.7 取扱高営業利益率 (%) 営業利益÷取扱高 (営業利益÷売上高) 0.32 0.82 1.46 2.04 経常利益率(%) (経常利益÷売上総利益)経常利益÷営業収入 4.0 9.3 15.6 23.1 一人取扱高(千円) (一人当り売上高) 96,426 160,157 126,126 274,632 一人収入(千円) (一人当り売上総利益) 10,452 15,812 12,258 24,727 37,500 一人営業利益(千円) 313 1,320 1,841 5,612 17,500 一人経常利益(千円) 416 1,466 1,909 5,721 人件費比率(%) 人件費÷営業収入 49.6 29.1 50.9 29.0 一人人件費(千円) 5,186 4,608 6,236 7,171 一人営業経費(千円) 10,140 14,492 10,417 19,115 日本旅行業協会(JATA)「旅行業経営分析(2013年)」10他産業の収益性
11
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総務省統計局「平成24年経済センサス」より抜粋 総合旅 行 業 イン タ ー ネ ッ ト 系 ホー ル セ ー ラ ー 旅行業
従来の旅行業は流通業
旅行業
旅行者
個人/
法人・団体
レジャー/
業務・公用
手配旅行
企画旅行
宿泊施設 交通機関 観光施設 体験プログラム 飲食サービス イベント施設 保険・外貨観光サービス提供者
(サプライアー)
仕入・予約従来の旅行業は金融(決済)サービス業
旅行業
旅行者
個人/
法人・団体
レジャー/
業務・公用
宿泊施設 交通機関 観光施設 体験プログラム 飲食サービス イベント施設 保険・外貨観光サービス提供者
(サプライアー)
旅行代金 決済金 クーポン チケット 13Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.
従来の旅行業は情報サービス業
旅行業
旅行者
個人/
法人・団体
レジャー/
業務・公用
宿泊施設 交通機関 観光施設 体験プログラム 飲食サービス イベント施設 保険・外貨観光地・観光施設
情報提供 情報収集 14インターネットは、旅行業の提供価値を低下させた
• 流通業
– オンラインで世界中の航空もホテルも24時間365日予約可能。 – 交通機関や宿泊施設の「代理販売機能」は、オンライン直接販売 にとって代わられる。 – 販売手数料の切り下げ、廃止。• 決済サービス
– オンライン予約+オンライン・カード決済• 情報サービス
– インターネット上に、旅行・観光情報はあふれている。 – 旅行会社の情報優位性は消滅。 – お客様の方が、自分の行きたい旅行先の情報を事前に調べて 旅行会社にやってくる。 15Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.
じゃらん
netのビジネスモデル
旅行者と宿泊施設の両者が顧客
リクルートの旅行・観光分野の「リボン図」
楽天のビジネスモデル
10,109 万人 60.0%がクロス購買 四半期に1回以上 購入した人1,556万人 17Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.
旅行業の提供価値
• 旅行業の顧客(お客さま)は誰か?
• 旅行業は顧客に何を売っているのか?
• 旅行業は、どのような価値を顧客に提供しているのか?
どのように社会に貢献しているか?
18ドラッカー:「経営者にとってもっとも重要な5つの質問」
1. 貴社のミッションは何ですか?
2. 貴社のお客様は誰ですか
3. お客様にとっての価値、満たしたいものは何ですか?
4. 貴社の事業の成果は何ですか?
5. ミッションを果たし、成果を挙げるため、貴社ではどのような
計画をしていますか?
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「経営者にとってもっとも重要な
5つの質問」
ミッション
「
ミッション」とは?
企業の社会的使命
企業の存在理由(レゾン・デートル)
企業の目的
企業理念、経営理念、経営ビジョン
=企業がこうありたい、こうなることをめざす姿
とは必ずしも同じではない。
ミッションの事例
• 人々の心を豊かで活力あるものにするために― ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから 【スターバックスコーヒー】 • 私たちは、最高のエンターテインメントを提供することによって、世界中の あらゆる年齢の人々にハピネスを創造します 【ディズニー】 • 人々がインターネット上で買いたいと思うであろうあらゆるものを見つけ ることのできる「場」を作ること。 【アマゾン】 • お店に来られるお客様ひとりひとりがほほ笑んでくださるように、最高の 質、サービス、清潔感、そして価値を提供すること。 【マクドナルド】 • 世界中の情報を、誰でもアクセスできて、使いやすいものにすること。 【Google】 21Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.
ミッション・経営理念の事例
• 我々は、すべての人々の幸福に貢献するために愛の心をもって、つねに最 高水準の医療を提供し続けることを使命とする。 【亀田総合病院】 • お客様が、「ワクワク・ドキドキ」する便利さ、安さ、楽しさを実感できること。 【ドンキホーテ】 • 欧米並みの住まいの豊かさを、世界の人々に提供する。 【ニトリ】 • ビジネスは「人に喜んでもらうため」にある。 • ビジネスの目的は社会貢献である。お客様、従業員、取引先、株主、家族、 関わるすべての「人のために」、感謝と愛をもって考え、行動することが私た ちの原点である。 • 【サイゼリア】 • “鮮度や美味しさ”、“選べる楽しさ”、“安さ”をご提供すると同時に、お客さま の毎日の食事の問題を解決する“ミールソリューション”を実現します。 *お客さまの毎日の食事の献立の提案や料理のアドバイスなど、お客さまの「食」に関する 問題や悩みを解決させていただくお手伝い。 【ヤオコー】 22旅行会社のミッション、経営理念
JTB 地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現 に貢献する。 「交流文化事業」 :お客様の感動と喜びのために、JTBならではの 商品・サービス・報および仕組みを提供し、地球を 舞台にあらゆる 交流を創造すること。 H.I.S ツーリズムを通じて、世界の人々の見識を高め、国籍、人種、 文化、宗教などを越え、世界平和・相互理解の促進に貢献する。TUI Putting a smile on people' s faces
Expedia To Revolutionize Travel Through the Power of Technology Kuoni Aims to be a trusted partner for people all over the world –
in direct customer contact for holidays, and as a business
partner for providers and resellers of destination services. 23
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じゃらん
netのミッション
「人と地域の出会いに満ちた笑顔があふれる世の中で
ありたい
―More Chance, More Smile♪―」
このミッションは、旅行業界における出会いの総量を増や
すことで可能になる。
① 旅行に関する情報収集から旅行、その後のフィード
バックまで含んだトータルサポートによって、旅行者
のアクションの総量を増やす。
② 宿泊施設のサービスの向上。
③ 地域の良さを引き出す提案および
PRによって、感動
体験の提供を支援。
世界の旅行業
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世界的な観光市場の変化
• 世界のだれとでも、いつでもつながっている環境
• モバイル端末とソーシャルネットワーク(SNS)の急激な
普及
• 現実となった「スマートトラベル」
https://www.youtube.com/watch?v=hRyv0aLgsxw&list=PL0A50CA4A96F6771D&index=13 https://www.youtube.com/watch?v=4KGNjAS7VkQ&list=PL0A50CA4A96F6771D&index=15• デジタル化が進むがゆえに、旅先での「本物の経験」が
今まで以上に大きな意味を持つ(
WTTC Frantzel会長)
• 「本物の経験」を観光地域の人々と共に創りだし、地域の
社会や経済に貢献することが、これからの旅行会社の重
要な役割。
26旅行会社のグローバル化
1. なぜグローバル化? – 成熟し、成長の限界に来ている国内旅行市場 – 世界、特にアジア・太平洋地域における観光の成長は確実 – グローバル化しなければ、成長は期待できない!? 2. 「グローバル事業」の三側面 1. 世界のデスティネーションで、主に日本のお客様を受け入れる(海外旅行、DMC) 2. 世界の市場からのお客様を、主に日本で受け入れる(訪日外国人旅行、インバウンド) 3. 世界の市場から、世界のデスティネーションに相互にお客様を送り、受け入れる ③ ① ② ① ① ② ② ② ③ ③ ③ 27Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.
旅行会社のグローバル化
3. 世界のグローバル旅行会社 – TUI ドイツ⇒欧州⇒世界 航空・ホテルを持つ垂直統合モデル – Thomas Cook 世界で最初の旅行会社(英国)⇒欧州⇒世界 – Kuoni スイス⇒欧州⇒世界 – American Express 米国⇒世界(ビジネス旅行+カード) – Carlson Wagon-lit 米国⇒世界(ビジネス旅行に集中) – Expedia Microsoft(米国)⇒世界最大のオンライン旅行会社 – Priceline 米国⇒世界 逆オークションモデルで成長、M&A(Booking.com, agoda, Kayak等)でExpedia追走
4. グローバル化の方法
– M&A ⇒ マルチブランドでの展開(TUI, Kuoni, Thomas Cook) – M&A、資本提携 ⇒ 自社ブランドでの展開(AMEX, HIS) – 単独(自社)展開中心(Expedia)
旅行業の「進化」
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訪日外国人数の推移
(1990年~2015年8月)
324 353 358 341 347 335 384 422 411 444 476 477 524 521 614 673 733 835 835 679 861 622 836 1,036 1,341 1,288 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 Source: JNTO 30訪日外国人数の推移(1990年~2015年予想)
324 353 358 341 347 335 384 422 411 444 476 477 524 521 614 673 733 835 835 679 861 622 836 1,036 1,341 1,900 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 Source: JNTO Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.31
訪日外国人数の推移(~
2020年)
324 353 358 341 347 335 384 422 411 444 476 477 524 521 614 673 733 835 835 679 861 622 836 1,036 1,341 1,900 2,100 2,300 2,400 2,500 2,600 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000主要市場からの訪日客数月別推移(
2011~2015.8)
0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 2011 2012 2013 2014 2015 韓国 中国 台湾 香港 尖閣問題発生 東日本大震災 Source: JNTO 33 竹島紛争発生Copyright © 2015 Japan Tourism Marketing All rights reserved.
日本の旅行会社の取り扱いは限定的
34 出典:観光庁「訪日外国人消費動向調査」 「主要旅行業者の旅行取扱状況速報」 (数値は2014年1~12月) どこによるものか? 訪日外国人旅行消費額(2014年) 2兆278億円 うち、宿泊料金・交通費・娯楽サービス費 (旅行消費額全体の約43.2%) 約8,645億円 日本の旅行会社 取扱額 (外国人旅行) 1,125億円 宿泊料金 交通費 サービス費娯楽・ 旅行先消費 (飲食費) (買物代) この範囲の取扱いのうち、87%が 日本の旅行会社以外によるもの• インバウンド専業会社
• 外国旅行会社の日本法人
• 直接手配
• オンライン
日本の旅行会社の取り扱いは限定的
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