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変わりゆく社会のなかの結婚 (巻頭エッセイ)

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Academic year: 2022

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1 アジ研ワールド・トレンド No.226(2014. 8)

アジ研ワールド・トレンド 2014 8

結婚とは何か?  とても身近な事柄なのに︑

この問いに答えるのは意外と難しい︒例えば︑

同居する一対の男女の性的結合を公的に認証

し︑再生産や社会の仕組みの基礎的な単位のひ

とつとすること︑あたりではどうか︒しかしいまや︑男女のペアや性的結合を前提としない結婚も珍しくないし︑公的な﹁認証﹂も︑認証する主体は宗教から国家まで多様で︑事実婚にも

一定の権利が認められるようになってきた︒もともと各社会の伝統的な結婚のあり方は多種多様である︒ただ定義の難しさがあるとしても︑結婚は多くの人々にとって︑もっとも親密な関

係を社会や国家のなかに位置づけることを︑国家や社会の側からは︑程度の差はあれ統治や社会生活の単位を確定することを意味する︒つま

り結婚は︑ワタクシの領域と公的な領域の双方の変化が交錯し︑その両者が互いに原因であり結果でもあるというダイナミックな結節点である︒

本特集で取り上げる社会の多くは︑現在︑急激な変化のただなかにある︒欧米社会では二〇〇年近くかかった近代から現代への変化を︑ほんの数十年の間に経験しつつある社会も少なく

ない︒人口転換︑産業構造や政治システムの変化︑教育の普及︑そして近年の情報革命とグローバル化︒ジェンダーや個と社会の関係に関する

考え方も揺れている︒その速さは︑古いものと新しいものを共存させ︑階層やエスニシティ︑ そして個人レベルでの大きな亀裂やねじれを招いている︒現在の非欧米社会で起きている家族や結婚をめぐる多くの現象を︑西欧社会をもとに組み立てられてきた家族変化の枠組︑すなわち伝統家族が男女の役割分担やロマンティック・ラブを前提とする再生産に特化した近代家族へ︑そして福祉の充実と女性の自立をともなう現代家族へと変容するという論理で説明することは難しい︒﹁結婚事情﹂のひとつひとつを

深く掘り下げ︑錯綜する現象を全体として理解するための新しい理論的な取り組みが求められている︒

前世紀の半ばに生まれた私の世代の女性の多くは︑二〇歳台半ばまでに結婚するのが自明視されるという︑日本の歴史のなかでもっとも標

準化された結婚を経験した

︒それは非対称の

ジェンダー配置を前提にした経済成長を基部から支えるものでもあった︒今振り返ると︑その歴史的な特殊性がよくわかる︒おそらく日本を含め多くの社会において結婚が﹁自明﹂とされ

る時期は二度とは来ない

︒しかし同時に結婚

が﹁自明﹂だったからこそ︑親密な関係の持続性を少しだけは保証したという面もあっただろ

う︒もし結婚が︑当事者が互いを認め︑変わりゆく社会のなかに﹁ちょっとだけ安定している親密な単位﹂を作る一助になるのであれば︑もう一度その意義を考え直してもよいのかもしれ

ない︒

エ ッ セ イ

押 川 文 子

変わりゆく社会のなかの結婚

おしかわ ふみこ/京都大学地域研究統合情報センター教授 1950年生まれ。J.ネルー大学修士(歴史学)。

アジア経済研究所、国立民族学博物館地域研究企画交流センターを経て、現職。

主な関心分野は、ジェンダーや教育を通じてみた南アジアの社会変動。編著書 に『インドの社会経済発展とカースト』「インド都市中間層における『主婦と 家事』」(落合恵美子編『アジア女性の親密性の労働』所収)など。

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