学校 ︑ 家 庭 ︑ 社会 で 育 て る 学力
プロフィール
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ྵעƷݱɶܖఄưƸƨƘƞǜƷಅǛᙸƤƯNjǒƍLJƠƨŵ 共栄大学教育学部教授
吉川 成夫
巻 頭 論 文
(よしかわ しげお)
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ࠇ᪽ᛯ૨1 矛盾? なぜ成績がよいのか
日本人は控えめな性格だと言われます。自分の良さを主張したり、外に出したりすること が少ないようです。私の経験では、例えばアメリカ人はその逆で、自分の長所など積極的に アピールします。
米国のシカゴ大学にある数学教育研究センターで、私が学力の比較についてスピーチをして いたときのことです。「国際調査のアンケート結果を見ると、算数・数学が好きと答える生徒 の割合が日本は一番低いのです。数学に関心をもったり、将来の仕事で数学を生かしたいと 答える生徒も少ないのです。ところが・・・。」その後、次のように話すと、大勢の参加者が 大笑いをしていました。「日本の生徒は国際的な学力テストでは良い点をとるのです。」
これは確かに矛盾しています。しかし、日本の子供たちはアンケートに回答するときも控 えめな態度でいるため、好きなものでも、はっきり好きと言わないのかもしれません。日本 では、算数・数学が好きと答えるのは小学4年生で約7割(国際平均は8割)、中学2年生で は約4割(同7割)という結果であり、国別に見るともっとも低い割合となっています。そ れでも日本のテストの得点は、国際的に一番高いグループに入ることが多いのです。
スピーチ後の質疑応答で、主催者の教授から質問が出されました。「なぜ日本の生徒は国際 テストでの得点が高く、学力が高いのか。考えられる理由をあげてください。」私からの答えは、
「むずかしい質問ですが、いくつかの理由が考えられます。子供たちが熱心に学習に取り組ん でいること。教員の指導力が優れており熱意をもって教えていること。保護者や地域住民が 学校教育をよく応援してくれること。また、日本では教育課程の基準があって、学年ごとの 教育内容や授業時数が全国的に共通化されていることもあげられます。その点はアメリカと 異なります。」
2 「新しい学力観」
学力は、これまでの学習で身に付けた力であり、これからも学び続ける力のことであると 言えます。学力という言葉がさかんに使われたり、学力についての議論が活発になったのは 平成に入ってからです。
平成 3 年の春に、当時の文部省初等中等教育局長から指導要録改善の通知が出されました。
そこでは、児童生徒の学習の評価をしたり記録を付けたりするときに、知識や技能の面だけ でなく、自ら考える力や、学ぶ内容などの関心・意欲・態度の面もいっそう重視するという 考えが示されています。そうした学力についての見方や考え方を、後に「新しい学力観」と 呼ぶようになりました。それ以来、学力のとらえ方や、学力の評価の仕方についての議論が 高まりました。学校の教員はもちろん、社会的にも関心を集めるようになったのです。
子供たちの学習状況を評価するときに、記述式のペーパーテストは有効な方法のひとつで す。学習によって身に付けた知識や技能を評価するときによく使われます。その一方で、自 ら考える力や関心・意欲・態度についてはペーパーテストでは評価しにくいという声が多く 聞かれました。それ以来、子供の学習活動の全体をとらえ理解していくという認識が広がる ようになりました。教室での子供の様々な学習活動、発言の仕方や内容、ノートや制作物も 含め、よく見て理解し、評価していくということです。
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実は、子供が身に付けた知識や技能の面を評価するときも、ペーパーテストの結果だけで なく、普段の学習をよく観察する必要があります。その知識について、本当の意味がよく分 かり納得して身に付けているかどう
か、自信をもって活用できるかどうか などを見て評価するのです。自ら考え る力や関心・意欲・態度について評価 するときも、子供の学習活動をよく見 るのが基本です。それに加えて、子供 のノートやペーパーテストの記述の結 果を見て、考える力などを評価するこ とも大切です。
右にあげた算数の問題は、平成5年 度に文部省が行った「教育課程実施状 況調査」において、新しい学力観の立 場から出題されたものです。問題を解 決する方法が2つ示されていて、あな たはどちらがよいと思うか、そのわけ は何かと、子供に問うているのです。
こうした考える力を見るペーパーテス ト問題は、平成 19 年度から実施され ている「全国学力・学習状況調査」で も様々に工夫され出題されています。
3 読解・数学・理科のリテラシー
国際機関である OECD(経済協力開発機構)が行う学力調査に PISA(ピザ)というものが あります。義務教育を修了した生徒(日本では高校1年生)を対象にした調査で、それまで の学習で身に付けた内容をどれだけ活用できるかを評価しようとするものです。3種類の分 野(読解リテラシー、数学リテラシー、理科リテラシー)から問題が出題されています。リ テラシー(literacy)とは読み書き能力のことですが、「ある内容を使いこなしたり、活用した りする能力」という意味もあります。
PISA 調査は 2000 年から始まり、3年ごとに実施されています。1回目の調査で日本の高 校生の得点は、参加した加盟国の中で、数学は1位、理科は2位、読解は8位という成績でした。
特に数学と理科の成績は素晴らしいものでしたが、日本の新聞やテレビではあまり報道をし ませんでした。
それに続く2回目(2003 年)と3回目(2006 年)の調査では、日本は特に数学と読解の 分野で、次第に順位が下がってきました。日本のマスコミは、子供たちの「学力低下」の傾 向を示すものとして記事にするようになりました。その一方で北欧のフィンランドは、リテ ラシーの成績が高い国として注目を集めるようになりました。
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ࠇ᪽ᛯ૨その頃にフィンランドでは、「高い成績の背景にある理由」をテーマに国際的な研究集会が 開かれました。私は文科省からの派遣で出張し、研究会議や学校訪問などに参加しました。フィ ンランドでは教員の学歴が修士課程以上と高いことや、図書室など学校の教育環境が整備さ れていることも、高学力の理由とされています。現地では、ドイツの雑誌編集者に出会って 話しをしました。彼が言うには、ドイツでは「PISA ショック」という言葉ができたほど、成 績の低迷が明らかだ(OECD でもっとも低いレベル)。日本でも数学の点数が低下しているよ うだが、どう思うか。私は、あまり深刻に心配はしていない、この先は回復していくだろう と答えました。後日送られてきた雑誌を見ると、「Herr Yoshikawa は、かつての日本人の成績 は世界一であったことを思い出し、落胆した様子でヨーロッパに到着した」などと面白く書 かれていました。ドイツでは、各州の教育省が独自の教育課程基準を作成するため、全国的 な共通性がないことや、授業時数が十分でないことも、学力が伸びない理由だと言われてい ます。国の教育制度が影響を与えていることも考えられます。
4 学校、家庭、社会で育てる学力
学力向上のためには、子供の学習と教員の指導がうまく結びついて良い成果をあげる必要 があります。それは学校の重要な役割です。子供はまた、家庭や社会での生活を通して、様々 な知識・技能を身に付けたり、考える力を高めたりすることができます。家庭と社会も、子 供の生きる力や学力を向上させる役割をはたしています。
家庭と社会が学校教育を支援することで、学校の教育活動がよりよい成果をあげることも 期待できます。子供が学校で学ぶことの価値を認め、子供と教員の活動を応援することが良 い影響を与えます。
最近の PISA 調査(2012 年実施)の結果からは、日本の成績はこれまでより向上しています。
OECD 加盟国での順位も、読解力が1位、理科も1位、数学が2位となっています。平成の 時代に入ってから、知識・技能、自ら考える力、関心・意欲・態度という観点から見て、バ ランスよく指導し評価していこうとする教育の考えや実践が定着し、成果をあげるようになっ たと考えられます。
2000 年(平成 12 年)以降に、PISA 調査の結果から一時的に学力低下の傾向が見られまし た。当時の学習指導要領のもとで、指導内容と授業時数が減少したことも影響を与えたと考 えられます。さらに、「学力低下」という言葉を用いて学校や教員を批判する社会的風潮があり、
教員が自信を失ったことも影響した可能性があります。
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