気温分布図作成における空間補間方法の検討
鍋島 美奈子,古崎 靖朗,中尾 正喜,西岡 真稔
A discussion on method of spatial interpolation for air temperature mapping
NABESHIMA Minako, KOZAKI Yasuaki, NAKAO Masaki and NISHIOKA Masatoshi
Abstract: This paper discusses methods of spatial interpolation for air temperature mapping with both data from meteorological observing stations and data from a moving measurement system. It is concluded that block kriging is better adapted to the mapping from the aspects of RMSE (root-mean-square of error) and variance of estimated value.
Keywords: 逆距離補間(inverse distance weighted),通常クリギング(ordinary kriging),ブ ロッククリギング(block kriging)
1. はじめに
都市域の熱環境改善は都市再生において重要な 課題の1つとなっている.ヒートアイランド対策を効 果的かつ計画的に実施するにあたり,継続的,定量 的なモニタリングと観測データの分析が重要である.
本報では,大阪府域の固定観測データと自動車によ る移動観測データを用いて,大阪平野の夜間の気温 分布図を月別に作成し,気温分布の季節変化を把握 することを目的とする.固定観測データと移動観測 データを用いた気温分布図が作成された例は少なく,
両データを活用するための手法を整理し,空間補間 方法について検討する.
2. 固定観測
図1 大阪府内の固定観測点と移動観測ルート
鍋島:〒558-8585 大阪市住吉区杉本3−3−138 大阪市立大学大学院工学研究科 都市系専攻 Email: [email protected]
図1に示す大阪府内の固定観測点を分析対象とす る.観測点は気象庁アメダスや自治体の大気汚染常 時監視局,大学が管理している観測点など約80点あ
るが,欠測期間がある観測点や臨時的な観測点が存 在するため,各月25〜60点で有効なデータが得られ ている.
3. 移動観測 3.1 移動観測概要
自動車にGPSと熱電対,全天日射計,赤外放射計,
放射温度計を積載し,4 秒間隔で位置情報と観測デ ータを記録した.本報では熱電対で観測された気温 データのみを分析対象とする.観測方法の詳細は古 崎(2006)を参照されたい.
観測範囲は南北約35km,東西約20kmの範囲で,
移動観測は2005年9月〜2006年8月の期間に,月2
〜4回,計40回行った.図1に示す観測ルートは主 に大阪府内の高速道路を利用している.時速80km/h 程度で走行し,記録間隔は4秒なので,約80〜90m 間隔に1回の観測を行っていることになる.観測点 の標高はおおよそ15〜70mだが,気温の標高補正は おこなっていない.
3.2 時刻補正
観測に要する時間は3時間程度であり,夜間に行 うため,時間の経過とともに気温が低下する.空間 的な気温分布を把握するためには,ある時刻に補正 しなければならない.本報では,移動観測開始時刻 の午前2時に時刻補正する.補正には(1)式を用い る.
∑ ∑
=
−
=
− −
∆ +
=
nk ki n
k
ki t t k t
i t
i
l l
1 2 1
2 , ,
,0 0
ˆ θ θ
θ
(1)ˆ :
,t
θi
] [ :
] [ :
] [ :
] [
0 ,
,
0 0
°
∆ −
との距離 と固定観測点 移動観測点
℃ との気温変化量 と
での時刻 固定観測点
℃ 時の観測値 での
移動観測点
、
℃ 補正後の気温
k i
l
t t k
t i
ki t t k
t i
θ
θ
4. 空間補間法
て気温分布図を作成するために
推定点との距離の逆
4.1 空間補間概要 観測データを用い
は,空間補間を行うことにより非観測点の気温を推 定する必要がある.推定時刻は移動観測開始時刻と 同じ午前2時とする.補間方法としては,逆距離補 間法,通常クリギング,ブロッククリギングについ て検討する.なお,気温分布図は月毎に作成するた
め,観測日毎に観測データを平均値で基準化し,月 別に観測データを扱う.補間範囲は南北約40km,東 西約 20km で基準地域メッシュ(1km×1km)を800 メッシュ含む範囲である.
4.1.1 逆距離補間法(IDW)
逆距離補間法とは,観測点と
数に比例した重み付け平均により空間補間を行う方 法である.
∑
∑
=−
=
= − n
i p i
ˆ n
θ
i
i l
l p
i
1 0 , 1
0 ,0θ (2)
このとき, は推定点の気温, は推定点x0と観 離
ˆ
0θ l
i,0測点xiとの距 ,
θ
iは観測点xiの 温,nは観測点 数を表わし,∑ li− 1
を満たす.ここで,乗数pは
未知数なので, 11月の固定観測54点のデー
タを用いて乗数pに関して検討した.固定観測点43
点の午前2時の気温から,残りの11点の午前2時の
気温を推定し,推定値と観測値とのRMSE(平方根
平均二乗誤差)を算出する.RMSEと乗数pとの関
係を図2に示す.p=2付近でRMSEが最小値となっ
たため,p=2として分析を進める.
気
= n
i p
2005年
1 0
,
=
0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 1.3
0 2 4 6 8 10
RMSE[℃]
乗数p
図2 乗数pの最適値
4.1.2 通常クリ ギング
測の 総
i
i
iZ x
x Z
1 0
(3)
通常クリギング(OK)は,(4)式を満たす本質的定 ギングとブロッククリ
クリギングは地球統計学的手法による空間予 称であり,(3)式のように推定点x0における推定 値をn個の観測点xiにおける観測値Z(xi)の重み付き 平均として求める方法である.
( )
n( )
ˆ
∑
ω=
=
常性をもつ確率場に対する最良線形不偏予測である.
( ) ( )
[ ]
( ) ( )
[
xi Z xj]
02 ( )Z
E − =
(4)
,j i j
i Z x r l
x Z
Var − =
ここで,li,jはxiとxjの2点間距離を表し,距離の関
⎜⎜
⎜⎜
⎜
⎝ 1
) ˆ(
) ˆ(
0 1 1
1 ) ˆ( )
ˆ( ,0
0 , 1 1
, 1
, nn n n
n rl
l r l
r l
r
M M
L L
M M O M
λ ω ω
(5)
ここで,λ はラグランジュ乗数,r(li,j)の推定量はセ
ロスバリデーショ ン
数r(li,j)はセミバリオグラム(または半分散)と呼 ばれる.本報では,セミバリオグラムに対して等方 性を仮定し,ガウス型モデルで近似している.セミ バリオグラムモデルのパラメタは重み付き最小二乗 法により推定する.(3)式の重みωiは,平均二乗予 測誤差を最小にする条件のもとでラグランジュ法に より(5)式で求める.
⎞
⎛rˆ(l1,1) L rˆ(l1,n) 1
⎟⎟
⎟⎟
⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎜⎜
⎜
⎝
⎛
=
⎟⎟
⎟⎟
⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎜⎜
⎜
⎝
⎛
⎟⎟
⎟⎟
⎟
⎠
ミバリオグラムモデル式により算出される値である.
4.1.3 IDWとOKの交差検証 図3にIDWとOKの交差検証(ク
)によって得られたRMSEを月毎に示す.RMSEは 2月を除いてIDWよりOKの方が小さくなることがわ かった.
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
05/09 05/10 05/11 05/12 06/01 06/02 06/03 06/04 06/05 06/06 06/07 06/08
RMSE[℃]
IDW OK
図3 空間補間法の月別RMSEによる比較 4.1.4
通常クリギングに 基
ブロッククリギング ブロッククリギング(BK)とは,
づいて,ある領域の平均値を推定する手法である.
図4にOKとBKの推定分散分布図を示す.BKはOK に比べて推定分散が小さく,均一になっている.BKの 方が気温分布図を作成するという目的に合致した方法 と言える.
(左:通常クリギング,右:ブロッククリギング)
図4 推定分散分布図(2005年11月)
4.2 移動観測データの空間補間への適用 4.2.1 基準化
表1に各観測日の固定観測データと移動観測デー タ各々の平均気温と標準偏差を示す.平均気温は移 動観測データの方が 0.5〜1.1℃程度高くなっている ことが確認できる.これは移動観測と固定観測とで は観測点周辺の状況が異なるためだと考えられる.
この平均気温の差を考慮して,固定観測データと移 動観測データを各々の平均値で基準化する.
表1 固定点観測と移動観測の平均気温,標準偏差
平均気温[℃] 標準偏差[℃] 平均気温[℃] 標準偏差[℃]
11月9日 10.5 1.8 11.6 1.5
11月15日 13.4 1.0 14.2 0.7
11月25日 9.5 1.9 10.4 1.5
移動観測 固定点観測
11月27日 10.0 1.5 10.5 1.0
4.2.2 観測点の空間密度
移動観測データは1回の移動観測によりおよそ 2000点のデータが得られる.一方,固定観測点デー タは50点程度しかないので,あらかじめメッシュ平 均値を算出し,空間密度を均一にする.
4.2.3 移動観測データの有益性
移動観測データを用いた空間補間が,固定観測の みで行った空間補間と比較して,どの程度精度向上 に寄与するかを検証する.交差検証には2005年11 月の移動観測日4日間のデータを使用し,固定観測
点のみを対象にRMSEを算出する.検討ケースとし
てCase1は固定観測データ約50個のみでの空間補間,
Case2は固定観測データ約50個と移動観測データ約
400個を用いた空間補間とする.
交差検証の結果を表2に示す.IDWでは,Case2 はCase1より,11月9日,25日でそれぞれ0.05℃,
0.12℃改善している.一方で,11月15日,27日は
それぞれ0.02℃,0.10℃大きくなっている.
通常クリギングでは,いずれの日もCase2はCase1
よりも 0.05〜0.20℃程度補間精度は良くなっている
ことが確認できる.
以上の検証結果を踏まえて月別の気温分布図作成 手順を図5に示す.
表2 Case別RMSE[℃]
Case1(IDW) Case2(IDW) Case1(kriging) Case2(kriging)
11月9日 1.31 1.26 1.41 1.32
11月15日 0.82 0.84 0.97 0.80
11月25日 1.27 1.15 1.31 1.11
11月27日 0.92 1.02 1.13 1.08
RMSE[℃]
4.3 気温分布図の作成
図6に2005年11月,2006年8月のブロッククリ ギングにより作成した基準化気温分布図を示し,以 下に特徴を記す.
2005年 11 月は大阪市から堺市沿岸部にかけて気
温は1℃程度高い.堺市の沿岸部で+2.0℃以上とな
る地域がある.沿岸部はヒートアイランドによるも のではなく,夏から冬にかけての季節の変わり目は,
海の熱容量が陸地よりも大きいことが影響し,気温 が高くなっていると考えられる.
2006年8月は,大阪市の市街地から堺市の沿岸部 にかけて+0.5〜1.0℃の値をとっている.東大阪市付 近では沿岸部より気温は低くなる傾向がある.また,
吹田市から高槻市にかけて,周辺よりも0.5℃程度気 温が高くなる傾向がみられる.
5 まとめ
固定観測データと移動観測データを用いて気温分 布図を作成するための空間補間方法について比較・
検討をおこない,ブロッククリギングによる補間が 適していることがわかった.
【謝辞】本研究は文部科学省科学研究費補助金若手
研究 B「都市のリアルタイム気温分布図作成に供す
る定点・移動観測データの時空間補間の研究」の援 助を受けた.記して感謝します.
【参考文献】1)古崎靖朗,鍋島美奈子,中尾正喜,
西岡真稔(2006)GPS付き気温測定システムを用い た自動車によるヒートアイランド現象の観測 その 2 2005年8月から12月の移動観測結果,日本建築 学会近畿支部
図5 月別気温分布図作成手順
(左:2005年11月,右:2006年8月)
図6 基準化気温分布図
[℃]