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社会学理論から社会科学の哲学を考える

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Academic year: 2021

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社会学理論から社会科学の哲学を考える

徳安  彰(Akira Tokuyasu)

法政大学

  この報告の目的は、社会学者の立場から、社会学の歴史の中で論じられてきた哲学 的問題をふり返りながら、社会科学の哲学について考察することである。社会学の中 では、哲学的な議論がしばしば「方法論」という名のもとに行われてきた。その内容 は、社会学者自身による「社会学の哲学」といってもよいものであるが、科学哲学の 領域における社会科学の哲学との接点はあまりなかったように思われる。

  社会科学の一分野としての社会学にとって、哲学との関係はその草創期から密接で あった。社会学という学問の命名者であるA.コントは、同時に実証主義哲学の提唱者 でもあった。社会学の確立期においても、フランスではE.デュルケムはコントの伝統 をひきついで実証主義的な『社会学的方法の規準』を著し、ドイツではM.ヴェーバー が理念主義的な立場から理解社会学を提唱した。その後、社会学理論の統合を企てた アメリカのT.パーソンズは、実証主義と理念主義の2大潮流を統合するかたちで、主 意主義的行為論を構築した。

  このあたりまでの歴史は、社会現象を対象とする社会学が、自然現象を対象とする 自然科学と同じ方法論(あるいは認識論)をとることによって科学性を担保するのか、

それとも独自の方法論(あるいは認識論)をとることによって独自の学問領域を確立 するのか、という学問観の対立でもあった。またそれが、ドイツの自然科学/精神科 学という対立概念の伝統をうけついでいる限りにおいて、社会学を自然科学よりは人 文学に近い学問とみなすものでもあった。

  その後、実証主義の伝統は、哲学的な議論よりも経験主義的な研究実践に拡がり、

フィールドワーク型の調査や統計的調査にもとづく現実分析の厖大な蓄積を生み出し ていく。その一方で、経験的研究は、方法についての哲学的反省がしばしば欠如し、

素朴実証主義と揶揄されることもある。しかし、経験主義を標榜する社会学者から見 れば、理論や方法論に拘泥する社会学者の方が、社会的現実を離れた空理空論をもて あそぶ知的遊戯でしかないとしばしばみなされる。

  他方、理念主義の伝統では、ヴェーバーの「行為者の主観的に思念された意味の理 解」をめぐって、解釈学、現象学、言語行為論、記号論、そして近年の構築主義にい たるまで、さまざまな哲学思想と接点をもちながら議論が展開されてきた。実証主義 の伝統を軽視するわけではないが、この「意味」へのこだわりが、社会学における方 法論、社会学の哲学をめぐる議論の歴史の中心にあったと考えることができよう。『社

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会学の新しい方法規準』という、デュルケムにならったタイトルのA.ギデンズの著作 における、新しい方法論を模索する悪戦苦闘ぶりが、それを象徴している。

  もう一つ、社会学の哲学といってもいい流れとして、「社会学の社会学」と呼ばれる 分野がある。名称としては、科学社会学の一領域のようにも感じられるが、社会学の 歴史の中では、マルクス主義のイデオロギー批判やフランクフルト学派の批判社会学、

そしてマンハイムの知識社会学の伝統を継承しながら、1960 年代に従来の「体制派」

社会学に対する強烈でラディカルな批判を展開するかたちで始まった。方法論や認識 論というよりは、社会学的知識の社会的基盤や社会的影響の批判的検討を行うものだ った。

  以来、社会学は、自己の社会的なスタンスの反省をつねに迫られるようになった。

単純な客観的認識の可能性ではなく、社会の中で社会的存在として(つまりみずから が社会の一部として)社会を対象として研究するという自己言及的な研究のあり方に ついて、どのようなスタンスをとるべきか、あるいは実際にとっているかが問題とな る。

  このような reflexive(反省的、反照的、再帰的)で自己言及的な問題設定の最新版 の一つが、アメリカの M.ブラヴォイが提唱した「公共社会学」である。同じ「公共」

という修飾語がついていても、たとえば公共経済学が公共部門の経済活動を扱うノー マルな経済学の一分野であるのに対して、公共社会学は、社会学の公共性を問い、社 会学は公衆に有効な知識を提供する学問であるべきだという規範的な主張をする。こ のような主張は、公共社会学を自称するか否かにかかわらず、たとえば3.11以後の被 災地復興や原発問題にかかわる社会学的研究において、厳しく研究者のスタンスを問 い、場合によっては規範的帰結を導き出すように要求する。

  この議論も、ふり返ってみれば、ヴェーバーが社会科学と社会政策を区別して価値 自由の問題を論じた時代から、社会学についてまわった問題の延長線上にあると見る ことができよう。この問題は、社会科学の哲学というよりは社会哲学的なものという べきかもしれないが、いずれにしても哲学的な考察を必要とするものにちがいない。

  社会学者の側からすれば、以上のような社会学の歴史と現状の概観について、社会 科学の哲学は何を問題とし、何を語ろうとするのか、そして社会学とどのような相互 作用が可能か、という点をぜひ知りたい。

参照

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