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セシウム原子を用いた電磁波測定技術の開発

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Academic year: 2021

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国立研究開発法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センター

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NMIJ 研究トピックス No. 1 (2016/12/15)

セシウム原子を用いた電磁波測定技術の開発

原子が電磁波を受けると、原子内部の状態が変化を繰り返すラビ振動と呼ばれる現象が 生じます。ラビ振動の周波数(ラビ周波数)は、原子に照射した電磁波の強度に比例す るため、ラビ周波数を測ることで電磁波の強度が測定可能であると言えます。我々は、

ラビ周波数を利用した新しい電磁波の測定技術に関する研究開発を進めています。これ によって、高速、安定、高分解能、小型、ワイヤレスなどの特徴を持つ新たな測定シス テムが実現できると期待しています。

電磁波は、瞬時に広範囲へと伝搬するた め、古くから無線通信へと応用されてきま した。特に、大容量の情報を伝送すること が可能となる GHz 帯の周波数の電磁波は、

衛星放送、携帯電話、無線 LAN、レーダー などに用いられ、現代社会において必要不 可欠な基盤技術を支えています。

しかし、広範囲に伝搬するという電磁波 の特性は、長所である反面、不特定多数の 機器や生体に不要な影響を与えかねない という恐れもあります。従って、電磁波を 公共利用する場合、その強度を把握するこ とが必要です。

従来、電磁波の強度は、回路内において は電力計など、空間中においてはアンテナ などを用いて測定されてきました。これに 対して我々は、電磁波とセシウム原子の共 鳴を利用した新しい測定方法の研究開発 を進めています。

セシウム原子のエネルギー状態が、共鳴 する電磁波によって遷移を繰り返すラビ 振動という現象が、新たな電磁波測定の原 理として期待されています。ラビ振動の周 波数(ラビ周波数)は、セシウム原子に照 射した電磁波の強度に比例することが知 られているため、ラビ周波数を測定するこ とで電磁波の強度が得られます。特定のエ

ネルギー状態にあるセシウム原子をレー ザーで検出することで、ラビ周波数は測 定できます。

以上の測定の概要を図1にまとめまし た。本測定方式は気体のセシウム原子を 封入したガラスセルとレーザーという単 純な構成で実現できます。この方式は、

従来の熱型の電力計と比べて測定が速く、

さらに原子由来の普遍で安定な結果が得 られることから、電磁波強度測定におけ る新しい測定方法としての応用が期待さ れています。このための実証実験として、

まず我々は、導波管の中を伝送する 9.2 GHz の周波数を持つ電磁波を対象として 木下 基

きのした もと

[email protected] 産業技術総合研究所 計量標準総合センター 物理計測標準研究部門 高周波標準研究グループ 主任研究員

2005 年 3 月に東京大学修士課 程を修了し、同年 4 月に産業 技術総合研究所へ入所した。

入所後より、原子を用いた電 磁波強度測定に関する研究開 発に従事し、この成果によっ て、2014 年 9 月に東京大学よ り博士(理学)の学位を受け る。現在、この他にも、熱に よるマイクロ波・ミリ波電力 の高精度測定およびテラヘル ツ波に関する測定技術の研究 などに携わる。

図1 測定の概要

ラビ振動を検出

ラビ周波数を測定

電磁波強度を算出 ラビ振動

電磁波の強度に比例した周波数

(ラビ周波数)で振動する

電磁波

検出用レーザー

図2 導波管挿入用ガラスセル(左)とラビ周波数から測定した電磁波強度(右)

50

40

30

20

10

0

Power @Test por t [ mW ]

0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0

Power @Reference port [mW]

カロリーメータ

ラビ周波数

参照パワー [mW]

測定パワー[mW]

ガラスセル

導波管

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国立研究開発法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センター

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NMIJ 研究トピックス No. 1 (2016/12/15)

研究を開始しました。

導波管内の電磁波の強度を測定するために、気体のセシ ウム原子を封入したガラスセルを導波管に挿入しました。

このガラスセルの形状は、図2(左)に示すように、導波 管の内寸に合わせた形状に設計されています。導波管内に おいて、ガラスセルに封入されたセシウム原子に電磁波を 照射し、その挙動をレーザーで観測することで、ラビ周波 数が測定できます。得られたラビ周波数から、電磁波の伝 送電力は計算されます。さらに、このラビ周波数を基にし た結果と、我が国の特定標準器であるカロリーメータを基 準とした測定結果とを比較し、両者が不確かさの範囲内で 一致することも確認しました。これらの結果を図2(右)

に示します。これは、熱による測定と周波数による測定と いう、原理の異なる2つの方法により得られた結果が一致 した、という点で重要です。

次に、本方式を空間中の電磁波強度測定に拡張しました。

電磁波は、回路内だけではなく、無線通信のように空間中 で多く使用されていることから、空間中の強度分布の測定

も重要となります。

空間中の磁場強度測定の実証実験として、ホーンアンテ ナから放射された電磁波を対象としました。この様子を写 した写真を図3に示します。気体のセシウム原子を封入し たガラスセルをホーンアンテナの前方に設置し、ガラスセ ルを移動させながらそれぞれの位置においてラビ周波数を 測定することで、ホーンアンテナによる放射強度の空間分 布が得られました。また本結果は、有限要素法から得られ るホーンアンテナによる放射強度分布の計算結果ともよく 一致しています。これらの結果を図4に示します。

現在までに、原子を用いた新たな電磁波強度測定技術を 確立するために、導波管内の伝送電力測定、空間中の電磁 波強度センサとしての応用に関する実証実験を行ってきま した。アンテナを用いず、ガラスセルとレーザー検出を主 体とした本方式は、小型でワイヤレスな測定システムが実 現可能になることなどの利点があると期待されています。

小型であることは、電磁波の局所的な測定を可能にさせま す。本方式では、ガラスセルの寸法やレーザーのビーム径 に応じて、通常のアンテナ測定では困難であった電磁波の 波長よりも狭い範囲の強度分布を高精度に測定することが 可能となります。また、ワイヤレスであるため、ケーブル による電磁波の反射や物理的な束縛を受けないというメリ ットもあります。今後、本原理を用いた新たな電磁波測定 システムの開発や、測定可能な周波数範囲の拡張、測定精 度や位置分解能の向上などを目指します。

参考文献

[1] M. Kinoshita et al, IEEE Instrum. Meas.,

58(4), 1114-1119

(2009).

[2] M. Kinoshita et al, IEEE Instrum. Meas.,

60(7), 2696-2701

(2011).

[3] M. Kinoshita et al, IEEE Instrum. Meas.,

62(6), 1807-1813

(2013).

[4] 木下基, 分光研究, 64(2), 364-367 (2015).

図3 ラビ周波数による空間中の電磁強度分布の測定の様子を示した写真

検出用レーザー 電磁波源

検出用レーザー セシウムガス

ラビ振動する セシウム原子

図4 ラビ周波数から測定した電磁波強度分布

磁場強度

-200 -100 0 100 200

位置 [mm]

測定値 計算値

参照

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