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重力波源の電磁波追跡観測―その意義

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天文月報 2018年2月 80

重力波源の電磁波追跡観測―その意義

吉 田 道 利

〈国立天文台 ハワイ観測所 650 North A’ohoku Pl., Hilo, Hawaii 96720, U.S.A.〉 e-mail: [email protected] 重力波源の電磁波追跡観測による対応天体の同定は,重力波源の位置を精確に知り,重力波放射 と天体現象の関連を明らかにするうえで非常に重要である.重力波イベント

GW170817

において は,ガンマ線から電波に至る多波長電磁波が検出されたことにより,連星中性子星合体とそれに伴 う天体現象について多くの新たな知見が得られた. およそ

100

年前,アインシュタインによってそ の存在が予言された重力波は,宇宙を見る新しい 目として期待され,一般相対性理論の検証の意味 からもその直接検出は物理学者,天文学者の夢で あった.

2015

年,米国の重力波望遠鏡

LIGO

に よってその夢が実現し,ここに重力波天文学の道 が拓かれた1).その後も

LIGO

はブラックホール 合体による重力波を次々に検出し,その一連の成 果に対し

LIGO

チームにノーベル賞が授賞された のは記憶に新しい. しかしながら,重力波の放出源についてより詳 細な知見を得るには,電磁波による追跡観測が必 須である.その最も大きな理由の一つは,現在の 重力波望遠鏡の位置決定精度が極めて悪いことに ある.

LIGO

とヨーロッパの

Virgo

,建設中の日 本の

KAGRA

がすべて稼働しても,その位置決定 精度は

5

10

平方度程度であるとされており,重 力波源の詳しい位置がわからない.重力波放射の 電磁波対応天体を同定できれば,重力波源の位置 を精確に知ることができる.また,そのスペクト ルから電磁波対応天体の放射機構やその距離を調 べることができる.さらには,重力波源の周囲の 環境に関する情報を得られる.このように,重力 波源からの電磁波放射が検出できれば,重力波放 射と天体現象との関係を明らかし,重力波源の起 源に迫ることが可能となる. 電磁波対応現象が検出されると最も期待されて いたのは,連星中性子星合体である.連星中性子 星合体は,長年にわたって,ショートガンマ線 バーストの放射源の有力候補とされてきた.合体 によって形成される相対論的ジェットから短時間 の強いガンマ線が放射されると考えられている. しかし,間接的な証拠はあっても,中性子星合体 そのものが同定されておらず,その起源は観測的 に実証されてこなかった.また,中性子星合体は, 金やプラチナなどの元素を合成するために必要な 速い中性子捕獲過程―

r

プロセスの現場としても有 力視されてきた.中性子星が合体するとき,星の 一部が高速で宇宙空間に放り出され,それが可視 赤外線を中心とした電磁波放射を行う.これをキ ロノバ(あるいはマクロノバ)と呼ぶ.さらに, この放出物質が星間ガスと相互作用を行うことで, 電波を放射することが予測される.電磁波放射の 特徴から,中性子星の状態方程式への制限を付け ることも期待されている.だが,これまでキロノ バ候補とされてきた現象は,数えるほどしかない うえにいずれもデータの質が十分ではなく,中性 子星合体との関連も明らかではなかった.連星中 性子星合体からの電磁波放射の検出は,ショート ガンマ線バーストやキロノバの謎の解明,さらに

ASTRO NEWS

ASTRO NEWS

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(2)

第111巻 第2号 81 は中性子星本体の物理解明のカギを握ると期待さ れてきたのである.

2017

8

17

日に

LIGO, Virgo

によって検出さ れた重力波イベント

GW170817

は,果たして連星 中性子星合体であった2).そして,驚くべきこと に,ガンマ線から電波に至る広い波長域で電磁波 放射が検出されたのである.その詳細は,本特集 の内海氏3),坂本氏4),田中氏5)らの記事に譲るが, 重力波と電磁波の協調観測によって,重力波源の 位置が精確に突き止められたことは言うに及ばず, 中性子星合体がショートガンマ線バーストの起源 であることの強い観測的証拠が得られ,

r

プロセ スの現場とされるキロノバ放射を捉えることに成 功した.じつに実りの多いイベントであったと言 えよう.

GW170817

の電磁波追跡観測を可能としたのは, 世界中に張り巡らされた電磁波追跡観測網である.

LIGO/Virgo

プロジェクトチーム(

LV

チーム)は,

2013

年に世界の天文観測施設,観測グループに,

LIGO, Virgo

の追跡観測を行う協定書(

Memoran-dum of Understanding; MoU

)を結ぶように呼び かけた.これに応えた観測グループの数はおよそ

70

に及び,それらのグループは

LV

チームからの 重力波アラートを受け取ることができるようにな り,

MoU

を結んだチーム間での情報交換の仕組 みも整備された.ただし,重力波アラートについ ては

LV

チームの許可なしには公開してはならな いとされ,その秘密順守を義務づけられた.こう してできた観測網は,その中のグループ同士は特 別に組織立てられてはいないが,メールベースの 情報交換を通じて互いに緩く結びついている,自 由度の高いものであった.日本からも,

J-GEM,

MAXI, CALET

のチームが

MoU

を結び,追跡観 測に参加した. 重力波源の電磁波追跡観測は,

GW170817

とい う希有なイベントの出現によって,大きな成功を 収めた.重力波観測と電磁波観測の連携によって 得られるサイエンスはたいへん豊かであり,われ われを未知の世界の探求にいざなってくれるであ ろう.

GW170817

は,その初めの一歩に過ぎな い.現在の重力波望遠鏡で検出が期待されている ものには,他に,重力崩壊型超新星からの重力波 がある.超新星からの重力波は,ブラックホール 合体や中性子星合体からのそれよりも弱く,信号 に規則性がないため検出は容易ではないと考えら れている.しかし,近傍,たとえば銀河系内で超 新星が起これば確実に検出できるであろうし,こ の場合は強いニュートリノ信号も期待される.そ うなれば,重力波,電磁波に加えてニュートリノ も合わせた連携観測が実現する.これこそまさに 「マルチメッセンジャー天文学」の一つの完成形 であろう.その日はもう目の前に迫っているのか もしれない.

1) Abbott B. P., et al., 2016, Phys. Rev. Lett. 116, 061102 2) Abbott B. P., et al., 2017, Phys. Rev. Lett. 119, 161101 3)内海洋輔,2018,天文月報111, 84

4)坂本貴紀,2018,天文月報111, 82 5)田中雅臣,2018,天文月報111, 86

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参照

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