クロスモーダル刺激のインタラクションが身体行動に与える影響 The effects on interaction of cross-modal stimulus on human behavior
1W120097-2 太田文也 指導教員 河合隆史 教授
OHTA Fumiya Prof. KAWAI Takashi
概要: 近年、VR/AR技術を活用したコンテンツやハードウェアがエンターテイメント業界をはじめとし、数多く登場し ている。そのため、新しいメディアコンテンツが急速に普及し、それと同時に仮想物体の操作の場面や環境が増えること が予想される。しかし、仮想物体は実体が存在しないので、手応えが感じられず操作が難しい。そのため、近年、クロス モーダルな感覚情報提示手法が注目されている。そこで本研究では、クロスモーダル刺激のインタラクションに着目し、
それが人間の身体行動に与える影響を、筋電図を用いて実験的検討を行った。検討の結果、クロスモーダル刺激のインタ ラクションが、行動時の筋出力の低下と行動時間の延長、そして主観的な錯覚の強度の上昇を生起させた。これらによっ て、行動の質的な変化が生起されたことがわかり、何かに触って操作する行動に近づいている可能性がある。
Keywords: cross-modal, illusion, tactile, see-through HMD, interface
1. はじめに
クロスモーダルとは、ある感覚の情報から他の感覚の情 報を補完して認知、解釈するクロスモダリティ(感覚間相 互作用)という人間の感覚がもつ特性を利用した感覚情報 提示の概念である[1]。つまり、クロスモーダルな感覚情報 提示を行うことで、1つの感覚器に対する刺激から他の感 覚器に対して錯覚を起こし感覚を誘発することできる。ク ロスモーダルな感覚提示手法の一つに微触感錯覚がある [2]。微触感錯覚とは、視覚刺激のみで微かな触覚を誘発さ せる現象で、シースルー型ヘッドマウントディスプレイ (以下、HMD)を用いて、仮想物体を手の平に乗るように提 示し、誘発することができる。本研究では、微触感錯覚を 誘発する仮想物体にインタラクションを付与することで、
人間の身体行動に与える影響を筋電図計測によって明ら かにした。
2. 方法
2.1. 実験タスク及び条件
本実験のタスクに、HMD によって眼前に提示された、
CGで作られた白い球(以下、CG球)を左右に10回動かす という動作を行わせた。実験協力者には図1のような映像 が見えている。
実験条件には、手のモデル表示と接触によるインタラク ションを要因とする、4 条件;条件1 を統制条件として、
条件2(手のモデル表示なし)、条件3(手のモデル表示あ り)、条件4(インタラクションなし)を用意した。
表1 提示条件
条件 手のモデル インタラクション 映像
条件1 なし なし なし
条件2 なし あり あり
条件3 あり あり あり
条件4 なし なし あり
図1 HMDによって提示される映像
2.2. 実験環境
映像の呈示に Epson 社製の光学シースルー型 HMD
「MOVERIO BT-200」を使用し、手の一計測装置として
Leap Motion社製の赤外線カメラ型ジェスチャ認識デバイ
ス「Leap Motion」を使用した。測定器には、日本光電社 製の筋電図検査装置Neuropack µを用いた。実験協力者は、
立体視を有した20代の男女14人を対象とした。
2.3. 評価手法
実験の評価については、主観評価と客観評価の両方を行 った。主観評価は1条件毎に7件法を用いたアンケートと 口頭でのインタビュー、客観評価は筋電図データを用いた 解析による評価を行った。7件法では、「現実感」「操作感」
「錯覚の強度」「体・力への意識」に関する質問をした。
筋電図計測では総指伸筋と橈側手根屈筋の 2 部位を計測 し、得られたデータから、1回の動きのRMS(Root Mean
Square)を、録画した実験の映像から1回の動作にかけた
操作時間を求めた。
実験の流れは、タスク開始前に、タスクの練習を行い、
基本となる統制条件のみ筋電を計測した。そのあとランダ ムな順番で他の3条件のタスクを行い、各条件のタスク終 了後にアンケートを行った。
3. 結果
7 件法では、「操作感」「錯覚の強度」「体・力への意識」
を意図した質問で有意差が認められ、インタラクションな し条件では評価が低くなることがわかった(図2)。RMSで は、総指伸筋において統制条件とその他の条件の間に有意 差が、手のモデル表示あり条件とインタラクションなし条 件の間に有意傾向が認められた(図 3)。操作時間では、接 触によるインタラクションがある手のモデル表示あり条 件と手のモデル表示なし条件の間以外の条件間で有意差 が認められた。また、アンケートの平均評点とRMSの相 関を調べたところ、手のモデル表示あり条件時に、錯覚の 強度に関する質問と総指伸筋のRMSに-0.543、体・力へ の意識に関する質問と橈側手根屈筋のRMSに-0.510、ま た、インタラションなし条件時に体・力への意識に関する 質問と橈側手根屈筋のRMSに-0.517の負の相関が見られ た。
4. 考察
主観評価より、接触によるインタラクションをつけるこ
とで、自分の手で操作しているという操作感、微触感錯覚 の強度を高める可能性が示唆された。次に、RMS を比較 した結果より、クロスモーダル刺激を提示することで、筋 活動量を低下させる可能性が示唆された。これは、仮想物 体という操作対象、接触によるインタラクションがあるこ とで無駄な動きが減ったのではないかと考えられる。また、
主観評価と客観評価に負の相関が見られたことから、錯覚 と身体行動(筋活動量)に関係性があると考えられ、さらに、
筋電計測は被験者の錯覚の評価に役立つ可能性が示唆さ れた。操作時間を比較した結果から、インタラクションの 有無によって操作時間が変化したことがわかり、これは、
操作つまり行動自体が変化したと考えられ、クロスモーダ ル刺激のインタラクションが身体行動に影響を与える可 能性を示唆した。
5. まとめ
本研究によって、クロスモーダル刺激のインタラクショ ンが筋活動量を低下させ、身体行動に影響する可能性があ ることがわかった。また、筋電計測が被験者の錯覚の評価 に役立つ可能性も示唆された。本研究で、無駄な動きの減 少、それに伴って疲れを軽減させる可能性、そしてAR環 境における触覚インタフェースとしての応用性を示唆す ることができため、今後は、実用的なシステム、インタフ ェースを用いた高度な実験を行って調査する必要がある と考えられる。
参考文献
[1]. URCF クロスモーダル設計調査分科会について,
“http://crossmodal-design.tumblr.com/about”
[2]. 盛川 浩志, 飯野 瞳, 金 相賢, 河合 隆史: シ ースルー型HMDを用いた微触感錯覚の呈示と評価, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌, Vol.18, No.2, 2013.
(† p < .1, ** p < .01)
図2 7件法を用いたアンケート 図3 RMSの平均値