論文内容要旨
Association Between Public Assistance and Frequent Emergency Department Visits in Urban Areas of Japan: A Case-Control Study
(日本の都市部における公的扶助と救急外来への頻回受診との関連性:症例対照研究)
THE SHOWA UNIVERSITY JOURNAL OF MEDICHINE SCIENCES 2020年掲載予定
社会医学系 衛生学公衆衛生学 池田 圭一郎
救急外来(Emergency Department: ED)の患者数は年々増加傾向にあり、救急への頻回受 診は ED の混雑を招き、他患者の不利益になる可能性がある。諸外国における研究では ED 頻回受診者に社会的脆弱性がある事が報告されているが、本邦ではED頻回受診者について の検討は非常に少なく、一部の疾患との関連に限られる。本研究では、患者の年齢や基礎 疾患を考慮しながら、医療保険(特に公的扶助)とED頻回受診の関連性について検討した。
2014年4月1日からの1年間に、昭和大学病院(当院)EDを受診した20歳以上の患者
6,182名を対象とし、性別、年齢、公的扶助の有無、また先行研究で頻回受診との関連を示
唆されている、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性閉塞性肺疾患、癌、排尿障害、気管支 喘息、および慢性腎臓病に関する情報を、病院録や診療録から作成された患者データベー スを基に収集した。先行研究に基づき、調査期間中にEDを計4回以上受診した患者を頻回 受診者と定義し、対照として頻回受診者の後に同日EDを受診した計4回未満の受診者を抽 出した。データの欠損がある被験者を除外した計340人について解析を行った。
期間内に受診した患者数は6,182人、総受診件数は7,304件であり、頻回受診者は69人
(1.1%)、受診件数は 336 件(4.6%)であった。頻回受診者と非頻回受診者の入院割合に有意
差はなかったが、公的扶助受給者(n=264)の受診に限ると頻回受診者の入院割合は非頻回受 診者と比べて有意に低かった(p=0.0356)。標本抽出による背景分析では、頻回受診者群は 対照群と比較し有意に高齢で(median;73 vs 59,P<.001)、公的扶助の受給率が高かった (18.8% vs. 5.2%,P<.001)。公的扶助受給と頻回受診との関連性についてロジスティック回 帰分析を行ったところ、性別や年齢、潜在的交絡因子調整後も有意な関連性が認められ (OR:5.33,95% CI:1.11-25.51)、重要度の高い6つの共変数で解析した結果も同様であった。
以上の結果から、当院EDでは高齢で入院治療を必要としない、すなわち軽症の公的扶助 受給者の頻回受診が有意に多いことが明らかになった。公的機関の調査では、本邦の公的 扶助受給者の多くが単身高齢者である事が報告されており、頻回受診に至る公的扶助受給 者は、身体問題だけでなく、心理的・社会的問題(頼ることの出来る同居人がいない不安、
自身で健康管理を行うことが困難、介護・福祉などの生活支援の調整が不十分)を抱えて いることが推測された。結果として、彼らは些細な身体的状況の変化に対応できず、医療、
特に救急医療への依存が強くなっている可能性が考えられた。救急医は、頻回受診者のか かりつけ医や福祉担当者と情報を共有し、定期受診の間隔調整や看護・介護サポートの強 化などを通じて患者の医学的・社会的脆弱性に対処する必要があると考えられた。