施設研究ニュース No.308 2016.4.1
地盤調査の信頼性向上を考慮した杭の鉛直支持力評価
1.はじめに
【平成24年版 鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物】(以下,H24基礎標準)の改訂では,杭 の設計鉛直支持力算定方法について,異なる杭工法でも同一の信頼性を確保できるように載荷試験デー タベースに基づく信頼性設計法による見直しがなされました.また,載荷試験等を行って信頼性を高め た場合には設計鉛直支持力を引き上げられるという考え方も盛り込まれました.しかしながら,ボーリ ング間隔を密にするといった地盤調査の信頼性向上効果を実務上で簡便に反映させる方法は未提案でし た.本記事では,杭の設計鉛直支持力にこのような信頼性向上効果を反映させる方法を紹介します.
2.杭の設計鉛直支持力の基本的な考え方 H24基礎標準では,杭の設計鉛直支持力は,
ある一定の信頼性(目標信頼性指標a)で要 求性能に応じた基準変位を下回るために必要 な支持力として,基準支持力(特性値)に地 盤抵抗係数(部分安全係数)を乗じて求める こととしています.そして,この地盤抵抗係 数は図1に示すように,基準変位における支 持力発揮率の平均値と変動係数V,および目 標信頼性指標aから次式で算定されます.
fr
1aV
(1)ここで,平均値と変動係数Vは,杭工法別の載荷試験データベースの統計処理結果を用いることで,
異なる杭工法の間でも同等の信頼性が確保されています.この変動係数Vには,杭同士の品質の違いに よるばらつきの他にもボーリングを転用して設計することによる誤差の影響が含まれます.よって,概 念的にはボーリング間隔を密に実施するなどして地盤調査の信頼性を向上させた場合や,フーチング等 で一体化された群杭で杭同士のばらつきが相殺される効果が期待できる場合など,変動係数Vを小さく 評価できれば設計鉛直支持力を引き上げることができます.ただし,H24 基礎標準ではその具体的な算 定方法までは示されていませんでした.
3.信頼性向上効果の反映方法
地盤抵抗係数の算定においてこれらの信頼性向上効果を反映するため,本検討では変動係数Vを式(2) に示すように要因別に細分化することとしました.
V V12/nV22V32 (2)
ここでV1:杭の施工法に応じたばらつき,n:群杭として一体化される杭の本数(使用性以外ではn = 1 とする),V2:N値から地盤の強度特性を推定する変換誤差,V3:地盤の空間変動です.
V2およびV3は,本来は地盤固有の値となりますが,本検討ではV2は文献1)を参考としてV2=10%(N 値から内部摩擦角φへの変換誤差)とし,V は文献 2)を参考として地盤調査位置からの距離Δ に応 公益財団法人 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会
No.308 2016. 4. 1
図1 地盤抵抗係数の基本的な考え方
じた値として V3min=18%(ΔL≦5m の場合)~
V3max=45%(ΔL≧50mの場合)としました.そし て,杭工法別の施工品質(ばらつきの程度)に対 応する特有の値となる V1 は,載荷試験データベ ースでの統計値として得られる変動係数Vtestから 以下の式(3)で逆算しました.
V1 Vtest2V22V3min2 (3) なお,変動係数を細分化して再計算する際の統 計処理では,特に平均値が小さい範囲での評価 精度を高めるために,統計処理上で対数正規分布 を仮定して行いました(H24基礎標準では自然数 正規分布を仮定).
4.地盤抵抗係数の算定結果
群杭本数 n および地盤調査位置からの距離ΔL をパラメーターとした表1の4ケースについて3.
に示した方法により場所打ち杭の使用性・長期支 持性能の地盤抵抗係数を算出した結果を図2に 示します.また,比較のため,H24基礎標準・解 説図15.3.3.2-1の地盤抵抗係数も併記します.
まず,信頼性が最も低いCase-DでもH24基礎 標準(図中①)よりも大きな地盤抵抗係数となっ ているのは主に対数正規分布を仮定したことに よる推定精度向上効果です.Case-Dからnの増加
やΔLの減少により信頼性が向上するほど地盤抵抗係数が大きくなり,Case-A~CではH24基礎標準の 短期支持性能(図中②)を上回ることがわかります.実務上は本検討に示す方法で詳細に地盤抵抗係数 を算出するのはかなり煩雑となるため,便宜的には表2に示す条件(Case-B,Case-Cに相当)を満足す る場合には,長期支持性能の照査に用いる地盤抵抗係数を1ランクアップできる(=短期支持性能の値 を用いてよい)という扱いとすることができます.
5.おわりに
本記事では,地盤調査を密に実施する,あるいは群杭構造とするなどの対策により信頼性を向上させ た効果を考慮して設計鉛直支持力を大きく評価する方法について紹介しました.当面の実務上の取扱い としては,使用性の長期支持性能の設計鉛直支持力の照査が杭長の決定ケースとなっている場合におい ては,表2の条件を満足するように地盤調査等を追加して設計の合理化(長期支持性能に用いる地盤抵 抗係数の1ランクアップ)を図ることができます.なお,地盤抵抗係数をH24基礎標準・解説図15.3.3.2-1 に示される値ではなく,3.に示した方法により詳細に計算して設計を行う場合には,現時点では設計 プログラム等が未対応であることから事前に下記担当者までご相談いただきますようお願いいたします.
参考文献
1) 大竹雄,本城勇介:地盤構造物設計における変換誤差の定量化,土木学会論文集 C(地圏工学),Vol.70,No.2,pp.186-198,2014 2) 松井謙二,落合英俊:地盤の不確定性を考慮した摩擦杭基礎の支持力評価,土木学会論文集,No.445/Ⅲ-18,pp.83-92,1992.3
執筆者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 西岡英俊 担当者:構造物技術研究部 基礎・土構造研究室 佐名川太亮
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
(対数正規分布仮定)
長期支持性能の地盤抵抗係数
②短期支持性能
(自然数正規分布仮定)
H24基礎標準・解説図15.3.3.2-1
①長期支持性能
Case-B Case-C Case-D
地盤抵抗係数
先端支持力比
基礎標準・解説図15.3.3.2-1(長期支持性能)
基礎標準・解説図15.3.3.2-1(短期支持性能)
ケースA ケースB ケースC ケースD
Case-A 3.に示す方法で算出した
図2 場所打ち杭の地盤抵抗係数の算出結果 表2 使用性・長期支持性能の設計鉛直支持力の
信頼性向上が期待できる条件 条件
①
杭近傍(約 15m 以内)でボーリングが実施さ れている場合
条件
②
5 本以上の群杭構造(地中梁を有するラーメ ン高架橋を含む)でボーリング間隔が約 60m 以下の場合
※上記のいずれかの条件を満足した場合には,長期支持 性能の地盤抵抗係数を1ランクアップしてよい
表1 試算パラメーター
Case 群杭本数n 変動係数V3 ボーリング離れΔL
A 5 18% 5m以下
B 5 35% 34m
C 1 25% 17m
D 1 45% 50m以上
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経年PCまくらぎの耐荷力評価
1.はじめに
プレストレストコンクリート製のまくらぎ(以下,PCまくらぎという)は,1950年代ごろから導入が始 まり,輸送の高速化・快適化に欠かせない近代軌道の重要な構成要素となっています.PCまくらぎの寿
命は概ね30~50年程度と考えられており,膨大な本数のPCまくらぎが敷設されているため計画的な維
持管理が必要です.そこで,営業線に敷設されていた経年PCまくらぎに対して各種試験を行い,PCま くらぎの力学的な性能評価を行うとともに,耐荷力低下に対する各種パラメータの影響を把握するため に,数値解析による検討を実施しました.本稿ではそれらの結果について報告します1,2).
2.検討方法
図1にJIS-3号まくらぎの概要を,表1に材料諸元を示します.調査対象としたPCまくらぎは,異な
る線区から収集されたJIS-3号PCまくらぎ165本で,経年は1~50年程度です.試験内容は,JIS E1201
およびJIS E1202に基づくPCまくらぎの曲げ耐荷力試験,JIS A1108に基づくコンクリートコアの圧縮
強度試験,JIS A1149 に基づく静弾性係数試験およびPC 鋼材の残留プレストレス試験です.なお,PC 鋼材の残留プレストレス試験は,PCまくらぎ端面を研磨してすべてのPC鋼材の長さを測定した後,PC 鋼材をはつりだして収縮量を測定することで算出しました.
図2にFEMによる数値解析モデルを示します.PCまくらぎのコンクリートやPC鋼材をはじめとす る各種パラメータの影響を検討するために,構造解析ソフトウェア LS-DYNA(Version R7.1.1)を用いて FEMによる数値解析モデルを構築しました.解析に用いた実際の材料諸元は表1のカッコ書きの値とし ました.これらの値は,コア圧縮試験や静弾性係数試験に基づき,後述する曲げ試験結果と整合するよ うに定めたもので,設計値とは異なります.コンクンクリート及び PC 鋼より線の材料非線形性につい ては,鉄道構造物等設計標準・同解説 コン
クリート構造3)に基づいて定めました.
3.検討結果
図3に曲げ試験結果を示します.同図よ り,累積通過トン数(以下,通トンという) の増加とともに,ひび割れ発生荷重および 曲げ破壊荷重が右肩下がりに低下する傾向 が認められました.プレテンション式とポ ストテンション式を比べると,ポストテン ション式の方が耐荷力低下の度合いが大き いことがわかります.また,凍害が発生し ていたPC まくらぎについては,コンクリ ートの材料的な劣化により,少ない通トン でもJIS の規格値を下回りました.これは コンクリートと鋼材の付着機構などの違い によるものと推察されます.
図4および図5にコア圧縮試験および静 弾性係数試験結果をそれぞれ示します.同 図より,コア供試体の圧縮強度はコンクリ ートの設計基準強度 49.1N/mm2を上回り,
240
(a) 寸法 2000
A A
B B
C Φ2.9mm3本鋼より線 C
スターラップ
130 240
197
160
240 183
174
240 A-A断面 B-B断面 C-C断面
176
(b) プレテンション式
130 240
197
160
240 183
174
240 176
A-A断面 B-B断面 C-C断面 A
A
B
B C
Φ10mmPC鋼棒
定着板 C
(c) ポストテンション式 図 1 JIS-3 号 PC まくらぎの概要
表 1 材料諸元
設計基準強度f’ck(N/mm2) 49.1 (60.0) プレストレス導入時強度(N/mm2) 39.2
静弾性係数Ec(kN/mm2) 33.0 (43.0) 終局ひずみμ 3500 曲げ圧縮強度f’cde(N/mm2) 19.6(= 0.4f’ck) 節点数9240
要素数7284
載荷点
支点 支点
擬似支点
また静弾性係数についても 設計標準の値 33kN/mm2と 概ね同等以上でした.
図6にプレテンション式 3 号 PC まくらぎの残留プ レストレス試験の結果を示 します.図より,残留プレ ストレスは 60%~150%の 範囲でばらつくことがわか りました.
図7にPC まくらぎの曲 げ試験での荷重変位曲線に ついて,試験結果と解析結 果の比較を示します.対象 PCまくらぎは,経年1年の
3号プレテンション式PCまくらぎです.図より,解析結果 は試験結果と概ね一致することがわかります.
本解析モデルを用いて,PC鋼材およびコンクリートの各 種諸元が耐荷力低下に及ぼす影響について検討を行いまし た.その結果を図8 に示します.解析(有効鋼材0本)とは 腐食などにより最外縁鉄筋がすべて有効に機能しなくなっ た状態,解析(コン強度33)とはコンクリート強度および静 弾性係数が設計相当の値である状態を想定しました.解析
(有効鋼材0本)は経年PCまくらぎの実態に比べると極端な
例ではありますが,腐食等に起因する有効PC 鋼材量の減 少やコンクリート強度および静弾性係数の減少等により,
PC まくらぎの耐荷力が経年とともに低下することがわか りました.
4.まとめ
経年PC まくらぎの実態調査により,通トンと各種力学 的性能の関係を明らかにするとともに,数値解析により,
各種パラメータが耐荷力に与える影響を評価しました.今 後は,走行列車による疲労や衝撃の影響について検討して いく予定です.
参考文献
1) 箕浦慎太郎,渡辺勉,鈴木大輔,上半文昭:営業線 PC まくらぎの摩耗性状とその耐荷力への影響に関す る検討,コンクリート工学年次論文集,Vol.37, No.2, pp.1345-1350, 2015
2) 箕浦慎太郎,渡辺勉,曽我部正道,清水裕介:経年 PC まくらぎの耐荷力低下に関する検討,土木学会全 国大会第 70 回年次学術講演会,V-167,2015
3) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説(コンクリート構造物),丸善出版,2004.
執筆者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 箕浦慎太郎 担当者:鉄道力学研究部 構造力学研究室 渡辺勉
0 50 100 150 200 250 300
0 5 10 15 20 25
載荷荷重(kN)
通トン(億トン)
凍害
ひび割れ有 JIS曲げ 破壊荷重
JIS曲げ 保証荷重
◆曲げ破壊荷重
◇ひび割れ発生(再開)荷重
0 50 100 150 200 250 300
0 5 10 15 20 25
載荷荷重(kN)
通トン(億トン)
後埋め部欠 落鋼棒露出 定着板露出
ひび割れ有 JIS曲げ 破壊荷重 JIS曲げ 保証荷重
◆曲げ破壊荷重
◇ひび割れ発生(再開)荷重
(a) プレテンション式 (b) ポストテンション式
図 3 JIS-3 号 PC まくらぎの曲げ試験結果
0 20 40 60 80 100 120
0 5 10 15 20 25
圧縮強度(N/mm2)
通トン(億トン)
設計基準強度49.1N/mm2
0 10 20 30 40 50 60 70
0 5 10 15 20 25
静弾性係数(kN/mm2)
通トン(億トン)
静弾性係数 33kN/mm2
図 4 コア圧縮試験結果 図 5 静弾性係数試験結果
0 20 40 60 80 100 120 140 160
0 5 10 15 20 25
残留プレ/有効プレ(%)
通トン(億トン)
図 6 残留プレストレス試験結果(3PR)
0 50 100 150 200
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
荷重(kN)
変位(mm)
解析結果(基本ケース) 試験結果
JIS曲げ破壊荷重
図 7 PC まくらぎの荷重変位曲線(正曲げ)
0 50 100 150 200
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
荷重(kN)
変位(mm)
基本ケース 解析(有効鋼材0本) 解析(コン強度33) 試験結果 JIS曲げ破壊荷重
図 8 PC 鋼材・コンクリートの影響
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レール締結装置のアンカーボルトの 腐食に対する安全性の評価
1.はじめに
近年,直結8形レール締結装置のアンカーボルト(図1)に ついて,断面減少を伴う腐食の発生が報告されています.腐食 によってボルトに破断や軸力低下が生じた場合,軌間拡大につ ながることが懸念されます.そこで,アンカーボルトの腐食性 状を調査するとともに,腐食したアンカーボルトの安全性を検 証しました.
2.アンカーボルトの腐食性状の調査
アンカーボルトの腐食が確認された営業線において,締結装 置の外観観察を行いました.その結果,レールやタイプレート,
板ばねなどの締結部材に顕著な腐食は認められませんでした.
一方で,敷設から約9年が経過したボルトでは,図2に示すよ うに円筒部から不完全ねじ部にかけて顕著な腐食が確認されま した.また,ボルトを抜き取った後の埋込栓内部には泥状の堆 積物や滞留水が確認され,ボルトの腐食箇所は堆積物や滞留水 が接触する箇所と一致することがわかりました.なお,埋込栓 内部のねじ部に腐食は見られませんでした.
次に,ボルトの腐食量を把握するため,営業線内から経年ボ ルトを回収し,断面積の測定を行いました.結果として,円筒
部の断面積は,腐食前の標準断面積314mm2に対して最大で21%減少しており,不完全ねじ部の断面積 は,おねじの有効径から計算した断面積265mm2に対して最大で18%減少していることを確認しました.
3.引張強度に関する検討
引張強度に関する安全性を検証するため,回収した経年ボルト16本と新品ボルト4本について引張試 験を行いました(図3).引張試験で得られた破断荷重を図4に示します.破断荷重は,経年ボルトで
267~279kN,新品ボルトで281~290kNでした.ここで,製造時の当該ボルトの保証強度は265kNとな
ります.また,当該ボルトの締結時の発生軸力は 70~90kN 程度です.経年ボルトは,いずれも上記の 保証強度を上回り,発生軸力に対して十分な強度を有しています.このため,現状の腐食量に対しては,
引張強度上の問題はないことを確認しました.
図4 引張試験結果
260 270 280 290 300
①-1 ①-2 ①-3 ①-4 ②-1 ②-2 ②-3 ②-4 ③-1 ③-2 ③-3 ③-4 ④-1 ④-2 ④-3 ④-4 ⑤-1 ⑤-2 ⑤-3 ⑤-5
回収場所
①
回収場所
②
回収場所
③
回収場所
④
新品
破断荷重(kN)
アンカーボルト(回収品と新品)
製造時の保証強度:265kN 以上 締結時の発生軸力:70~90kN
図3 引張試験の状況
(a) 引張試験機 (b) ボルトの設置状況
アンカー ボルト
(a) 締結装置全体
図1 直結 8 形レール締結装置の アンカーボルト
(b) アンカーボルト
円筒部 不完全ねじ部
ねじ部
図2 敷設から約 9 年後のボルトの 外観(さびを除去した状態)
4.疲労強度に関する検討
疲労破壊に関する安全性を検証するため,経年ボルトを用いて当該 締結装置を組み立て,設計荷重を100万回繰り返し載荷する疲労試験 を行いました(図5).結果として,載荷中のレールは安定した挙動を 示し,疲労試験後のボルトにき裂などの変状は認められませんでした.
また,腐食したボルトの発生応力と腐食による強度低下を想定した疲 労限度を比較したところ,発生応力は疲労破壊に対して十分な余裕が あることがわかりました.以上の結果より,現状の腐食量に対しては,
疲労破壊の観点から安全上の問題はないことを確認しました.
5.アンカーボルトの交換と腐食対策
現状よりも腐食が進行した場合,更なる強度低下が予想されるため,
計画的なボルトの交換が望まれます.ボルトの交換は,残存強度に対 して一定の安全率を確保した上で実施するのが望ましいと考えます.
図6は,断面積の減少率毎に,作用軸力に対する残存強度の比を安全 率として試算した結果を示しています.試算方法の詳細は文献 1)に記 載しています.一例として,引張強度について常に2.0 以上の安全率 を確保する場合,ボルトの交換目安となる断面積の減少率は 30%程度となります.この場合,疲労強度についても同等以上 の安全率を確保できます.
ボルトを交換する際には,費用対効果を考慮した上で,腐食 対策を施したボルトに置き換えることが望ましいと考えます.
鉄道総研では,当該ボルトの腐食対策として,熱収縮チューブと金属フレーク積層形表面処理(エポキ シ樹脂塗装併用)を組み合わせた方法を提案しています 2).熱収縮チューブは,加熱によって収縮する
厚さ0.4mmのプラスチックチューブであり,図7に示すようにボルトの腐食範囲を被覆することで,ボ
ルトの緊解時に生じる防錆被膜の物理的損傷を防護することを目的としています.本チューブの有効性 は,営業線に試験敷設を行い確認しています.また,表面処理は,現行の防食処理の代替法として選定 したものであり,室内試験においては現行品以上の防食性を有する可能性があることを確認しています.
ただし,室内試験は実際のボルトが晒される環境を十分に模擬したものではないため,現地での試験敷 設等を行う必要があります.現在,提案した上記の対策法を組み合わせたボルトを営業線へ試験敷設し,
長期間にわたる有効性を調査しています.引き続き調査を行い,結果を随時報告する予定です.
参考文献
1) 玉川新悟,永井明則,弟子丸将,片岡宏夫:腐食したレール締結装置のアンカーボルトの安全性の検証,土木学会第 70 回年次学術講演会,2015 年 9 月.
2) 坂本達朗,鈴木実:レール締結装置のアンカーボルトの腐食対策法の開発,新線路,第 69 巻,第 9 号,2015 年 9 月.
執筆者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 玉川新悟 担当者:軌道技術研究部 軌道構造研究室 片岡宏夫 材料技術研究部 防振材料研究室 鈴木実
発行者:布川 修 【(公財) 鉄道総合技術研究所 施設研究ニュース編集委員会 委員長】
編集者:浦川 文寛 【(公財) 鉄道総合技術研究所 鉄道力学研究部 軌道力学】
編集委員会からのお知らせ:2014 年度より施設研究ニュースの pdf データを鉄道総研HPに掲載いた します。詳しくは,鉄道総研HPのトップページから【研究開発】⇒【研究ニュース】⇒【施設研究ニュース】
(http://www.rtri.or.jp/rd/rd_news.html)にアクセスしてください。
図7 熱収縮チューブによる被覆 アンカーボルト
図5 疲労試験の状況 設計A荷重 設計B荷重
0 2 4 6 8 10
0 10 20 30 40 50
安全率
断面積の減少率(%) 引張強度 疲労強度
図6 断面積の減少率と 安全率の試算結果