福岡県工業技術センター 研究報告 No.26 (2016)
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遊離砥粒および電解現象を利用した複合研磨法による 難削材円筒部品内面研磨技術の検討
在川 功一
*1谷川 義博
*1安部 年史
*1
Development of Inner Surface Polishing Technology for Difficult-to-cut Materials Cylindrical Parts by Composite Polishing Method Using Free Abrasive Grains
and the Electrochemical Machining
Kouichi Zaikawa, Yoshihiro Tanigawa and Toshifumi Abe
金型材や精密部品の材料として用いられるステンレス鋼や医療部品や食品関連など,耐蝕性が必要な部材に用い られるチタンは切削加工が困難な“難削材”である。これらの難削材円筒部品の内面仕上げ加工方法は円筒研削盤 での研削加工やエッチング,化学研磨などが挙げられる。しかし,前者は砥石径やワークサイズに制限があること から,1 mm 以下となる微細な内径部の加工には適用が困難であり,後者は取り扱う薬液の有害性や加工精度の低 下が問題となっている。そこで本研究では遊離砥粒による「物理的研磨」と電解作用による「化学的研磨」を同時 に行い,難削材である円筒内面を平滑化する技術の開発を試み,円筒部品の内面を鏡面に仕上げる研磨技術の検討 を行った。
1 はじめに
スマートフォンやタブレット等のスマートデバイス の急速な普及に伴い,機器内の基板上に実装される受 動部 品 の小 型 化が 進 んで い る。 従 来, そ のサ イ ズは 0603(0.6×0.3×0.6 mm)が一般的であったが,近年 ではそれを下回る0402(0.4×0.2×0.4 mm)へ移行が 進んでおり,このようなチップを実装するためのステ ンレス製ノズルも併せて小径化が進んでいる1)。実装 工程では部品の吸着と実装の繰り返しによって,ノズ ル内部にゴミや不純物が付着することが問題となって おり,特に小型部品の実装用ノズルは内径が0.1~0.5 mmと非常に小さいため,内面を平滑化することは困難 である。
一方,医療や食品,航空機関連の部品として耐蝕性 が高い純チタンが注目されている。しかし,純チタン は熱伝導率が低く切削温度の上昇が大きいため,化学 的に活性であり,工具材との親和性が高く,鋸刃状の 切り屑生成しやすくなり,切削抵抗の変動による切り 刃のチッピングや欠損の発生など難削性を有する材料 である。したがって,こちらも内面の平滑化は困難で ある。
これらの課題から、本研究では難削材円筒部品の内
面を効率的かつ高精度に研磨可能な技術開発を目標と し、遊離砥粒と電解現象を複合した新しい内面研磨法 の開発に取り組んだ。
2 研究,実験方法 2-1 複合研磨の原理
本研究では遊離砥粒による「物理的研磨」と,電解 現象による「化学的研磨」が同時に進行する複合研磨 技術を開発した。図1に開発した複合研磨の流れを模 式図で示す。
*1 機械電子研究所
① ②
④ ③
図 1 複合研磨の流れ
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- 30 - 流れは以下の通りである。①“負”に帯電させた遊離 砥粒を含む電解液を円筒部品の内部に供給する。②遊 離砥粒が内面に衝突して物理的研磨が進行する。③物 理 的 研 磨 と 同 時 に “ 負 ” に 帯 電 さ せ た 遊 離 砥 粒 と
“正”に帯電させた円筒部品との間で電解現象が発生 する。④物理的研磨と化学的研磨が同時に進行し,円 筒部品内面を平滑化する。遊離砥粒の“負”への帯電 にはカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。こ の複合研磨技術をステンレス製小径ノズル,および純 チタン円筒部品内面に適用し,その効果を検証した。
2-2 ステンレス製小径部品の内面研磨
被削材として,ステンレス鋼SUS303およびSUS440C の2種類を準備し,前加工として直径0.3×1.5 mmの貫 通穴を微細放電加工機にて3か所加工した。また,遊 離砥粒には白色アルミナ(WA)砥粒の粒径1 μmおよび 16 μm,電解液にはエチレングリコール(Et-G)と塩化 ナトリウム(NaCl)の混合液,電解作用を促進させる補 助電極として銅(Cu)を用い,電解液をスラリーポンプ で循環させながら被削材内面に供給し,加工を行った。
表1に実験条件を示す。
表1 実験条件(ステンレス製小径部品)
被削材 SUS303,SUS440C (φ0.3×1.5 mm貫通穴) 砥粒粒径[μm] 1.0,16.0(WA)
電解液
Et-G+NaCl(5 wt%)および イオン交換水+CMC(5 g)
1:1混合液 電解液流量[L/min] 2.0
補助電極 Cu
電圧[V] 10,30,50 極間距離[mm] 3.0
2-3 純チタン製円筒部品の内面研磨
被削材として,内径が10 mmおよび20 mmの純チタン (Ti)を準備した。遊離砥粒にはステンレス鋼の場合と 同様WAに加え,より硬度の高いTiCを,電極として被 削材と同じTiをそれぞれ用いた。表2に実験条件を示 す。
表2 実験条件(純チタン円筒部品)
被削材
純Ti
(内径10×15 mm,20×15 mm 21.8×15 mm) 砥粒粒径[μm] 1.8(TiC),16.0(WA)
電解液 Et-G+NaCl(5wt%)
電極 Ti
電圧[V] 7,12 極間距離[mm] 1.0,
3 結果と考察
3-1 ステンレス製小径部品の内面研磨結果
図2に材料別の研磨結果を示す。電解電圧は10 Vで ある。研磨前の表面粗さRaは6.880 μmと比較的大き い値であったが,研磨開始10分でRaの値が急激に低下 した。最終的には研磨60分後,SUS303がRa:0.319 μm,SUS440CがRa:0.283 μmとなり,材料による影響は小 さいことが確認された。
一方で表面粗さの間隔を示すRSmであるが、このパ ラメータは表面の滑らかさを示しており,この値が大 きいほどより滑らかな表面となる。研磨前は
RSm:21.844 μmであったが,研磨時間60 minでは SUS303がRSm:27.830 μmと増加し,SUS440Cが RSm:10.775 μmと減少する結果となった。これはオー ステナイト系ステンレスであるSUS303は電解溶出が容 易であり,電解研磨特有の凹凸が小さく滑らかな表面 が形成されたためと考えられる。
図3は研磨前後のSUS440C断面を比較したSEM画像で ある。加工前は比較的大きな放電痕が観察されたが,
加工後は一部を除いてそれが除去されている。除去さ れず残存しているものは遊離砥粒と電解液が流入する 入口付近の放電痕であり,この部分は流速が遅く,遊 離砥粒による衝突の効果が小さいために残存したもの と考えられる。
さらに,大きな放電痕が除去された部分を拡大して 観察した結果を図4に示す。この図より微小な放電痕 は除去されずに残存していることが確認できた。した がって,ステンレス鋼においては遊離砥粒による物理 的研磨が主であり,電解作用による化学的研磨の効果 は非常に小さいことが確認できた。
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- 31 - a)Ra
b)RSm
図2 研磨時間と表面粗さの関係
a)研磨前 b)研磨後 図3 研磨前後の表面
図4 小さな放電痕の残存
3-2 純チタン製円筒部品の内面研磨結果 3-2-1 複合研磨の効果
図5に30分間のTiCおよびWA砥粒を混合した複合研磨 を行った場合,ならびに砥粒を混合せず,電解研磨の みを行った場合の表面粗さ測定結果を示す。TiCおよ びWA砥粒は0.5gないし1.0gを混合した。両者ともに表 面粗さRaの値が減少し,粗さ曲線間隔RSmの値は増加 していたが,複合研磨より電解研磨のみを行った場合 の方が良好な結果が得られた。これは,チタンの電解 研磨において被削材表面に過度の酸化防止する役割を 担う,淡黄色の粘液膜が電解液中に混合した遊離砥粒 の衝突によって崩され,加工表面の電流密度が均一で はなくなり,電解研磨のみと比較して表面粗さの低減 が小さかったと考えられる。この結果から,電解研磨 のみでの表面粗さ低減を試みた。
a)Ra
b)RSm
図5 複合研磨前後の表面粗さ
3-2-2 電解研磨における前加工面の影響
図6は引き抜き加工された素材の内径21.8 mmの純チ タン材に対して,電解研磨を行った結果である。電極
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- 32 - には直径20 mmの純チタンを用いた。研磨前の表面粗 さRa:0.331 μmに対し,研磨後は表面粗さが0.3 μm まで低下したが,全体的に曇った表面となった。さら なる表面粗さの低減と光沢面を得るため,前加工面の 影響を調査した。表3に前加工の条件を示す。
図7は表3の条件で各々の前加工を行った純チタン材 に対して,電解研磨を行った結果である。エンドミル 加工を行った被削材は表面粗さが低下し,図8に示す ように文字が反射して映り込むほどの鏡面が得られた のに対し,遊離砥粒およびエメリーペーパーによる研 磨は一部の研磨面に曇りが発生した。この曇り発生に ついては,前加工時の砥粒の食い込みが発生している ことに起因するものと考えられ,曇りの発生を回避す るには酸洗浄などの砥粒除去工程が必要と考えられる。
図6 引き抜き加工された純チタン素材の電解研磨
(左:研磨前,右:研磨後)
表3 前加工条件
切削1
φ8 mmフラットエンドミル加工 Z方向5 mmP,半径方向切込み0.25 mm×3回
(最終被削材直径23.3 mm)
切削2
φ8 mmフラットエンドミル加工 Z方向0.5 mmP,半径方向切込み0.25 mm×3
回
(最終被削材直径23.3 mm)
研磨1
切削1の条件で加工後,
TiC遊離砥粒(粒径1.8 μm)を 流量1.0 L/min流して30分間研磨
(最終被削材直径23.3 mm)
研磨2
切削1の条件で加工後,
#400, 800, 1000のエメリーペーパーで研磨
(最終被削材直径23.3 mm)
a)Ra
b)RSm
図7 研磨前後の表面粗さ
図8 切削2の条件で前加工した被削材の電解研磨
(左:前加工のみ,右:電解研磨後)
4 まとめ
1)ステンレス小径部品の複合研磨では,大きい放電痕 のみが取り除かれ表面粗さが低減したものの,小さい 放電痕が残存し,光沢面は得られなかった。光沢面を 得るには電解効果の増大が必要と考えられる。
2)純チタン円筒部品の複合研磨では,純チタンの電解 研磨時に発生する粘液膜に砥粒が衝突し,膜を崩すこ とから,表面粗さの低減が困難であった。電解加工の みで光沢面は得られるが,研磨前の表面状態で研磨結 果が大きく変化することが確認された。
5 参考文献
1) 北 田 智 史 , 関 善 仁 : フ ジ ク ラ 技 報 , 118 号 , pp.
25-30(2010)