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環境情報論7 井手慎司 11/15/00

9.科学的知見のとぼしさ

科学的知見のとぼしさ 科学的知見のとぼしさ 科学的知見のとぼしさ

たとえば「奪われし未来」では「環境ホルモン」がそ の原因として疑われている多くの事例が紹介されてい る

1

.しかし,それらの事例のなかで「環境ホルモン」

との因果関係が科学的にきちんと証明されているもの は,ごくわずかしかない.科学者のなかには,科学的 に「『環境ホルモン』との因果関係が明らかとなって いる事例は,世界でまだ三例のみ

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である」と言い切 っている者もいる.

また,「奪われし未来」の中で著者たちも認めている ように,現在の「環境ホルモン」への異常とも思える 関心のたかさ(特に科学者の中での関心のたかさ)に ついては,その原因の一つに,従来までの医学や生理 学などがあまりにも「発ガン性」にのみに焦点をあて てきた,という自省からの「反動」という側面がある ことを否定できない.つまり,「発ガン性」という言 葉で説明がつかなかった従来からの多くの問題を, 「環 境ホルモン」というたった一つのマジカルワードです べて説明しようとしているのではないか,という危険 な香りがする.

「ホルモン」だ「ホルモン」だと騒いでいるが,それ らの物質は実は人間や生物の「内分泌系」にではなく,

「免疫系」や「神経系」に作用する化学物質なのかも しれない.環境ホルモンが生体に作用するメカニズム については,生体中の生化学物質による情報伝達系を なんらかの方法でかく乱する

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という以外,ほとんど 何もわかっていないのである.

前述したように,たとえば「環境ホルモン」の生体内 での残留性

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については,注意深く検討される必要が

1 「環境ホルモン」に関する研究には,大きく云って,二つ の流れがあったようである.一つ目は,DDTなど農薬の使 用が制限された後も一向に改善しない,五大湖周辺の鳥類の 繁殖状況に関する研究.もう一つは,急増する一部のガンや 不妊症などに関する医学研究から.その双方の流れが'91あ たりに合流して,「環境ホルモン」にたどり着いたようであ る...が,動物や昆虫,魚類の研究者の世界では少なくとも 1950年代くらいから,環境ホルモンの影響と考えられる生 殖異常や奇形が観察されている.つまり科学者にとっては「別 の新しい問題」なのではなく,人々に情報がきちんと伝わる ようになったのがやっとここ数年だという話である.

2 ①船の塗料の有機スズが原因で,日本沿岸各地で雌の巻き 貝イボニシに雄の生殖器ができる現象が確認されている,② 米国フロリダのアポプカ湖で,雄のワニの生殖器が退縮し生 息数が激減,③ロンドンで産業用の合成洗剤の分解物が原因 で,雄の川魚の雌化.

 99年8月には国立環境研究所が日本近海におけるアワビ メスのオス化を,愛媛大学が広島湾における天然カキの高濃 度のトリブチルスズ(有機スズ化合物の一種)汚染を発表し ている.

3 われわれ生命の身体が実際につくられるためには,設計図 (DNA)だけではなく,その設計図に忠実にタンパク質を合成 する工場のような器官の存在が不可欠である.「環境ホルモ ン」のかく乱作用とはすなわち,これらのタンパク質合成工 場へ誤った設計図を送り付けるようなもの,と理解すればよ いであろう.

4 ダイオキシン,DDT,PCBなどの高い残留性は,それら物

あるだろう.なにより,その影響が現れる(あるいは 現れない)「しきい値」としての濃度レベル(たとえ ば,一日どれだけの量なら摂取してもだいじょうぶ か)の確認が急がれる.もちろんここでの「影響」と は,もっとも鋭敏な対象(たとえば胎児)に対する影 響であり,また,生殖異常はもちろん行動異常までふ くめた包括的な事象でなければならない.

あるいは「環境ホルモン」にはもともと,発ガン性物 質のように,これ以下は絶対安全という境界が存在し ないのかもしれない.それならば各濃度レベルにおけ る危険度

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のようなものを明らかにする必要がある.

また,人間の活動によって環境に放出されているであ ろうホルモン様物質は,なにも騒がれているダイオキ シンやビスフェノールAなどばかりではない.われわ れが日頃なにげなく使用している医薬品のなかにも,

驚くほど多様で多量のホルモンがふくまれているのだ

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.あるいは家畜にさえ,発育を促進するとして,投 与されている.そういったホルモン様物質もまた,最 終的には自然界に放出され,何らかの悪影響を生態系 に及ぼしている可能性がある.ある野生生物の「環境 ホルモン」による生殖器異常が確認されたとして,で はその主要な原因物質は何なのか? PCB や DDT の ような化学物質ではなく,医療用ホルモンや家畜投与 のホルモンがその原因なのかもしれない.

(また,下水中に含まれる,人が排泄した本物の女性 ホルモンの量も無視できないとの説もある

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.祇園の 舞妓さんのオシッコなどは,むかしから旦那集にとっ ての回春剤だったそうだが...)

あるいは元々人間には,ホルモンが増えすぎるとそれ を減らしたり,減りすぎると増やしたりするフィード バックシステムが備わっている.つまり,環境ホルモ ンと呼ばれる物質を摂取しても,それらを十分,制御 だけるだけの機能を有しているのかもしれない(もち ろん,そうでないかもしれない).

要は,問題が複雑であり,研究の歴史が浅いことから,

科学的に,まだまだわかっていないところが多すぎる のだ.

勝手な予想を許していただくなら,今後,研究がすす

質の高い「脂溶性」で説明することができる.またこのこと が「生物濃縮」が起こる主因である.

5 影響が発現する時期によって毒性を分類した場合,その分 類と毒性物質の濃度レベルとの間には一般に以下のような関 係が成り立つ.濃度レベルが高い順から:急性毒性>亜急性 毒性>慢性毒性>径世代毒性(環境ホルモン)?

あるいは環境ホルモンの中には,「逆U字形の用量-反応関 係」といって,高用量と低用量で悪影響が見られず,かえっ てその中間の特定の用量で影響度合いが強くなる場合も報告 されている.

6 経口避妊薬であるピルなどがその代表.日本でも低用量ピ ルの販売が99年9月2日に始まった.

7 東京農工大研究グループは多摩川におけるコイのメス化の 原因が当初疑われていた合成洗剤の原料物質ではなく,し尿 に含まれる女性ホルモンであることを突き止めた.

(6/20/00)

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むにつれて,現在,漠然と「環境ホルモン」呼ばれて いる多くの物質が,生体への作用メカニズムの違いに よって, 別の名前で呼ばれるようになるかもしれない.

「環境ホルモン」という総称自体が,実態をあらわし ていないとして使われなくなる可能性も否定できない.

逆に,生体の情報伝達系をすべて包括的に説明できる ような理論があらわれ,「環境ホルモン」ばかりでは なく,他の疾病,化学物質過敏症(シックハウス症候 群)やアトピー症

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なども,ひと括りで説明できるよ うになる日がくるかもしれない.

いずれにしても,環境ホルモンを研究している科学者 の多くは, まだまだ科学的な解明が十分でないとして,

一般市民がパニックに陥ることを戒め,科学的知見が もっとでそろうまで,冷静な対応をとるようにという 慎重な姿勢をくずしていない.

しかし,だからといって本当に,科学的な解明がもっ と進むまで(白黒がはっきりとするまで),われわれ としては静観しているしかないのだろうか?

8 化学物質過敏症やアトピー症など,アレルギー反応を引き 起こすアレルゲン(抗原)に反応する状態になったことを「感 作された」といい,環境汚染物質などが,これを促進する効 果を「アジュバント(促進)作用」と呼ぶ.花粉症ではディ ーゼル車の排気ガス中の微粒子がアジュバント作用を持つこ とが確認されている.現在,日本人の35%がなんらかのア レルギー性疾患にかかっており,10人に1人が化学物質過 敏症であると指摘する科学者もいる.(「環境ホルモンの避け 方」天笠啓祐,コモンズ)

参照

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