プリント配線の電気的導通検査技術の開発
渦電流探傷法を応用した配線検査技術の開発
古賀 文隆
*1Development of New Inspection Technique for Printed Wires
Development of Wire Inspection Technique Using Eddy Current Testing Method Fumitaka Koga
プリント配線基板の導通検査を非接触で行える新たな方法として,金属の表面,表層部の検査に適した渦電流探 傷法の応用が考えられる。その中で直交コイル方式の渦電流探傷プローブの高性能化のために,有限要素法による 磁界数値解析を利用して磁心形状の最適化設計を行い,プローブを試作・評価した。その結果,幅 0.2 mm の配線に ついて配線の方向(縦,横,斜め,曲部)に関わらず断線の検出ができ,また幅 0.1 mm の直線状配線について断線 検出が可能であることが確認できた。
1 はじめに
現在の電子機器のほとんど全てにはプリント配線基 板が使われており,この不良は機器そのものの不良に 直結している。そのため,プリント配線基板自体の検 査が重要視されているが,近年,電子機器の高機能化,
小形化に伴い,プリント配線基板の配線パターンは細 密化,複雑化しているため検査が困難になってきてい る。現在プリント配線基板の検査は,外観検査やX線に よる検査,接触による電気的導通検査の方法が用いら れている。しかし,外観検査では不透明な膜に覆われ た部分の検査ができないという問題があり,X線による 検査では装置が大がかりで取扱いに注意を要するとい う問題がある。また,接触による電気的導通検査では,
コンタクト用のピンを接触させるためのパッドが必要,
絶縁膜に覆われた部分の検査ができない,配線を傷つ け二次不良を招くおそれがある,断線箇所の特定がで きない等の問題がある。そこで,これらに代わり非接 触で検査が行え,断線箇所の特定も可能な新たな方法 に対する要求が高まっており,非接触での金属の表面,
表層部の検査が可能な渦電流探傷法の応用が検討され ている
1-3)。
そこで本稿では,高空間分解能化に有利であると考 えられる励磁コイルと検出コイルを立体的に直交させ た構造を持つ渦電流探傷用プローブ
4)について,高性 能化のために付加する磁心の形状の最適化設計を有限
要素法による磁界数値解析を利用して行い,その結果 に基づいてプローブを試作し,評価を行った。その結 果,幅 0.2 mmの配線について配線の方向(縦,横,斜 め,曲部)に関わらず断線の検出ができ,また幅 0.1 mm の直線状配線について断線検出が可能であることが確 認できた。
2 動作原理
図−1 に直交コイルによるプローブを示す。2個の 矩形コイルを立体的に 90゜回転させて重ねたもので あり,一方を励磁コイル,他方を検出コイルとして使 用し,2個のコイルの直交点近傍で欠陥検出を行う。
実際には,プローブの高性能化のために,コイルは例 えば図−1 に示したような形状の磁心に埋め込んで使 用する
3,5)。このプローブは,動作原理としては直交8 の字コイルを用いた渦流探傷用検出素子
6,7)と同じで あるが,コイルが立体的に巻かれた構造であるため,
平面コイルである8の字コイルと比較して高性能化の ためのコイルの多数巻き及び小形化が容易である。ま
図−1 直交コイルによるプローブ
*1 機械電子研究所
た,8の字コイルに見られるコイル外周部の影響がな く,アレイ化
3,6,7)する場合に検出コイルを高密度に配 置することができる利点がある。図−2に欠陥検出原 理を示す。ここでは検査対象を非磁性導体とし,欠陥 として非磁性導体に穴があいている場合を考える。励 磁コイルに交流電流を流すことによって生じる磁束は,
非磁性導体に欠陥がなければ図−2(b)の矢印のよう になり,検出コイルに鎖交する磁束の成分はないので 検出コイルに誘導電圧は生じない。非磁性導体に図−
2(c)のような位置に穴があった場合は,渦電流の作用 によって磁束が穴の部分に集中しようとする。そのた め検出コイルに鎖交する磁束の成分が生じ,それによ って検出コイルに誘導電圧が発生し,欠陥の検出が可 能となる。
3 磁心形状の解析
図−1に示した磁心の形状を基本として,有限要素 法による磁界数値解析を用いて磁心の最適な形状の導 出を行った。この磁心の基本形状は,高空間分解能化 と,検査時間短縮のための広領域走査を両立できるよ うに選択したものである。図−3に解析を行ったモデ
ルを示す。ここでは,磁心先端部の形状及び角度の違 いによる磁束密度分布の相対的な関係を見ることを目 的としたので,検出コイルを含む面と平行な面での2 次元解析を行った。抵抗率 1×10
-8Ω
m,厚さ 0.03 mm の導体板(銅板)に 0.05 mmのギャップを設けて比透 磁率 2300 の強磁性(フェライト)磁心を配置し,励磁 コイルには 500 kHz,起磁力 1 ATとなる電流を流した。
まず,プローブの高感度化のために磁心先端部によ り多くの磁束を集中させる形状を選定するため,図−
4に示すような先端部が尖鋭な type1 と先端部に面取 りを施した type2 の,形状が異なる2種類の磁心につ いて角度
αを 25゜から 90゜まで変化させて解析を行 った。
導体板表面における磁束密度分布の一例を,type2 の
α=35゜の場合について図−5に示す。また,図−6 に導体板表面における磁束密度の最大値(x=0 での磁 束密度値)B(x=0)と磁束密度分布の半値幅(FWHM)の 角度
αに対する依存性を示す。図−5,図−6の磁束 密度は,
α=90゜のときの最大値 B(x=0)を基準として正 規化している。ここで,
α=90゜のときは type1 と type2
図−2 直交コイル形プローブによる 欠陥検出原理
励磁コイル 検出コイル (c) 欠陥がある場合 励磁コイル 検出コイル
(b) 欠陥がある場合 (a) 欠陥検出面
図−3 磁界数値解析用のプローブのモデル
図−4 解析モデルのプローブ先端拡大図
単位:mmtype 2
type 1
はまったく同じ形状となる。最大値 B(x=0)に関しては,
type1 については角度
αが大きいほど大きな値となっ たが,type2 については角度
αによらずほぼ一定の値 となっていた。磁束の広がり具合を示す半値幅に関し ては,いずれの条件についてもほとんど差は見られな かった。したがって,磁心先端の狭領域により多くの 磁束を集中させるには,type 1 について角度
αを大 きくするか,type 2 を採用すればよいことがわかる。
次に,本プローブは導体の傷によって生じる磁束の ゆがみを検出するものであるから,導体に傷があると きの磁束分布のゆがみ(変化)を調べた。図−7に示 す導体板に傷(欠損箇所)を設けた2種類のモデル case 1,case 2 に関して,type1,type2 それぞれと の組み合わせについて角度
αを変化させて解析を行っ た。
傷がないときの磁束密度を基準とした磁束密度の変 化の一例を type2 の
α=35゜の場合について図−8に示 す。この図に関しても,磁束密度は導体板に傷がない 図−5 type 2,
α=35゜における銅板表面の磁
束密度分布
図−6 磁束密度の最大値 B(x=0)と半値幅 の角度
α依存性
(1) type 1
(2) type 2
図−7 銅板に傷を付加した解析モデル
case 2 case 1図−8 type 2,
α=35゜における,銅板に付加 した傷の影響による磁束密度の変化
(1) case 1
単位:mm
(2) case 2
場合における
α=90゜のときの最大値 B(x=0)を基準と して正規化した値で示している。プローブが高感度で あるためには,導体の傷がプローブの先端部に近い図
−7 case1 のような場合は磁束密度の変化が大きく なければならない。一方空間分解能を考慮すると,図
−7 case2 のようにプローブ先端から離れたところ にある傷によって生じる磁束密度分布の変化は小さい 方が望ましい。そこで,case1,case2 のそれぞれの磁 束密度変化のピーク値 Vp
1,Vp
2(図−8参照)の比
(Vp
2/Vp
1)をとって角度
αに対してプロットしたも のが図−9である。Vp
2/Vp
1は小さい方が良く,type2 において角度
αを小さくすれば良いことがわかる。
以上のことから,先端部にわずかな面取りを施した type 2 の角度
αの小さな磁心を採用すれば,磁心先 端部に磁束を有効に集中させることができ,かつ空間 分解能の高いプローブが実現できると考えられる。
4 実験
4−1 実験システム
前章の結果を基に磁心の機械的強度も考慮して,図
− 1 0 に 示 す よ う な 形 状 の type2 ,
α=35 ゜ の 磁 心 を Mn-Znフェライトにより作製し,溝部に励磁コイルを 10 ターン,検出コイルを 80 ターン巻いてプローブを 作製した。図−11に実験システム,図−12に検出 回路構成を示す。実験は,XYステージを用いて試料を 移動させることによりプローブを相対的に試料上で2 次元走査し,検出コイルに誘導される電圧をロックイ ンアンプで検出し,出力電圧をグレースケールで表し 画像として表示するという方法で行った
6-9)。
4−2 実験結果
厚さ 30
µm の銅箔に直径 0.5 mm の穴をあけた試料 をプローブで走査して得られたイメージングパターン を図−13に示す。励磁周波数は予備実験で良好な SN 比を示した 800 kHz とし,励磁電流は 100 mA,リフト オフ(試料とプローブとの距離)は 50
µm とした。走 査領域は 6 mm×6 mm である。ロックインアンプの同期 位相は,出力電圧の変化が最も大きく現れるように設 定した。図−13からわかるように,本プローブは点 状傷に対して直交 2 方向に正負の出力を生じる空間微 分特性を有している。
配線の断線検出性能を評価するために,図−14に 示した 0.4 mm ピッチ(配線幅 0.2 mm,配線間隔 0.2 mm)
図−9 case 1 と case 2 における磁束密度 変化の比(Vp
2/Vp
1)の角度
α依存性
図−11 実験システム
図−12 検出回路構成
図−10 作製したプローブの磁心の形状
単位:mmの QFP ピッチ変換基板を試料として,白線で囲まれた 20 mm×20 mm の領域を対象に,励磁周波数 800 kHz,
励磁電流 100 mA,リフトオフ 50
µm という条件で走査 を行った。この白線の領域内には6箇所にカッターナ イフにより断線部を設けている。得られたイメージン グパターンを図−15に示す。この図では,配線の端 部や斜めの配線パターンの影響が大きく出ており,断 線部のパターンを認識することは難しい。そこで,断 線箇所のない正常な基板から得られた参照用イメージ ングパターンである図−16との差をとったものが図
−17である。配線の端部や斜めの配線パターンの影 響を良好にキャンセルできていることがわかる。図−
17中の6箇所の円で囲まれた部分に断線部があり,a,
b は縦方向配線の断線部,c,d は斜め方向配線の断線 部,e は横方向配線の断線部,f は横方向から斜め方向 に屈曲する点にある断線部であるが,配線の方向に関 わらず全ての断線箇所を明瞭に検出することができた。
更に,図−18に示した 0.25 mm ピッチ(配線幅約 0.1 mm,配線間隔約 0.15 mm)の直線状配線を試料と して,4 mm×5 mm の領域を対象に,励磁周波数 800 kHz,
励磁電流 100 mA,リフトオフ 30
µm という条件で走査 図−13 穴を空けた銅箔に対するイメー
ジングパターン
図−14 配線幅 0.2 mm の QFP ピッチ変換 基板
図−16 断線のない QFP ピッチ変換基板 から得られた参照用イメージングパターン 図−15 断線部を付加した QFP ピッチ変 換基板から得られたイメージングパターン
図−17 参照用パターンとの差をとるこ
とにより得られたイメージングパターン
を行った。得られたイメージングパターンを図−19 に示す。走査領域内には配線1本のみにカッターナイ フにより断線部を設けているが,図−19にはその断 線部に断線パターンが生じており,0.1 mm 幅配線の断 線の検出が可能であることが確認できた。
5 まとめ